広告:オトコの娘コミックアンソロジー- ~強制編~ (ミリオンコミックス75)
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■夏の日の想い出・RPL補間計画(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-05-18
 
マリの「心の時計」は彼女が「あと○年経ったら復帰する」と言う言葉の中の「○年」という数字で計ることができた。
 
その数字は最初、私たちが2009年2月に「再出発」した時は1000年だったが、3月中旬には500年まで縮み夏フェス後は200年になった。一時的にいったん10万年になったこともあったものの秋に沖縄に行ってからは平均して100年くらいに縮んだ。そして鬼怒川温泉の夜の後は10年くらいと言い出し、震災の後は5年くらいと言い、その後毎月のようにやった路上ゲリラライブでどんどんパワー回復していき、大学2年生の12月、ローズクォーツのマキの結婚式披露宴での歌唱をきっかけに、普通に人前で歌えるようになって、大学3年生の4月にとうとうライブステージに復帰を果たす。
 
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私と町添さんは、マリの気力が回復するように色々な形で「リハビリ」を仕掛けていったが、そのひとつにマリ本人が言い出した「仮面ユニットでの活動」、ロリータ・スプラウトというのがあった。(町添さんがタイまで行き、政子のお父さんの許可を取って実現した。但し政子の勉強に絶対に支障が出ない範囲という活動時間制限の条件付きである)
 
「歌いたいけどまだローズ+リリーとして歌えないから、バレないようにCDを出したい」と言う政子のために、声を変形するソフトを使い、私たちが歌っているとは気付かれないような声にして歌うというもので、2009年8月1日の千葉のロックフェスで「幕間演奏」として生で歌ったのち、10月14日に1枚目のアルバム『High Life』、翌年4月23日に2枚目のアルバム『Blue Tattoo』を発売。全く宣伝しなかったものの、1枚目のアルバムは4万枚。2枚目のアルバムは8万枚を売る「隠れたヒット」となった。
 
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ロリータ・スプラウトの売上は2つのアルバムで合計約4億円に達し、★★レコードさんにも充分な利益を提供することができた。お陰で、ローズ+リリーの公式音源である『雪の恋人たち/坂道』(10.28)を無料公開したのも、こちらとして少しだけ気が楽になった。
 

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6月に出たベストアルバムが、ローズ+リリーの最後の作品になるのだろうかと思っていたファンも多かったので、10月というタイミングで『雪の恋人たち/坂道』の音源が投入されたのはひじょう大きな反響があった。しかしベストアルバムにしても、今回の音源にしても録音されたのは2008年である。
 
ファンは「今のローズ+リリー」を希求していた。
 
実はロリータ・スプラウトでそれは公開しているのだが、そのことは諸事情で明かすことができない。
 

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11月15日には、ローズ+リリーがBH音楽賞を頂いてしまった。私たちはお揃いのミニスカの衣装で授賞式に出席し、短いコメントを出した。スポーツ紙や芸能系のニュースサイトには、私たちの写真がかなり大きく掲載された。
 
そしてそれを目にした沖縄に住む、難病と闘っている高校生のファン・麻美さんが「この人たちに会えないかな」などと言い、その友人の陽奈さんが私たちにお手紙を書いてくれたことから、私たちは彼女を励ましに、沖縄に飛んだ。
 
私たちは病院で麻美さんを励ました後、沖縄のFM局にも出演して、私たちが沖縄に来た理由を説明するのと共にサービスと称して『涙の影』を私のピアノ伴奏で1分30秒だけ歌った。
 
7月に『あの街角で』を12秒間だけ流したのに続く、私たちの生の声であった。
 
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放送は沖縄ローカルだったのだが、録音されて即youtubeに転載され、全国のファンがこれを聴くことができた。その視聴回数はあっという間に100万回を越え、私たちは反響の凄さに驚きを隠せなかった。そしてこの沖縄行きをきっかけに政子のやる気はぐっと上昇していくのである。
 

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その沖縄に行った時、政子は『サーターアンダギー』という沖縄方言で沖縄音階で歌う歌を作った。沖縄方言については、現地で知り合った放送局のパーソナリティさんに指導してもらって書いたのであったが、その人と会った後、まだ飛行機の時間まで充分な時間があったので、私と政子は秋月さんと一緒に、放送局を出て少し散策した。
 
少し歩いた所にコンサートホールがあった。そこに『XANFUS HEARTFUL TOUR 2009』
という看板が出ていた。
 
「あれ、XANFUSのライブがあるんだ?」
「ね、ね、せっかくだしちょっと寄って陣中見舞いしていかない?」
「いいかな?」
「開演時間までまだ4時間あるもん。たぶん今リハしてるところでは?」
「あ、じゃ差し入れにおやつ買って行こうよ」
「何買ってくの?」
「サーターアンダギー!」
 
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ちょうど近くに売っている店があったので、そこで(大量に)買ってから会場の裏手に行く。入口の所で秋月さんが警備の人に伝言を頼むと、XANFUS担当の南さんが出てきて、私たちを迎え入れてくれた。
 
XANFUSは本当にリハーサルをしている最中だった。私たちは邪魔にならないように会場の隅の方で聴き始めたが、すぐに光帆と音羽が気付き、こちらに手を振ったので、こちらも手を振り返した。
 
政子はXANFUSの激しいダンスと歌を食い入るように見つめていた。
 
「よくあんなに踊りながら歌えるよね」
と政子は感心したように言う。
 
「私たちは簡単な手振り身振り程度だもんね。XANFUSもテレビとかではマウスシンクにしてるけど、ライブではちゃんと歌うんだよね。ほんとによくやる」
と私もあらためて感心して言った。光帆と音羽は激しいダンスをしながら歌っても、ほとんど音も拍も外していない。
 
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「やっぱ腹筋鍛えてるのかな?」
「ああ、腹筋は必要だと思うよ」
「私、毎日腹筋しようかなあ」
「うん、頑張ろう」
「冬も腹筋しなよ」
「そうだね。頑張ろうかな」
 
やがてリハーサルが終了する。私たちは拍手しながらステージに寄った。するとふたりが寄ってきて、いつもの友情の儀式でハグしあう。
 
「ケイちゃん、マリちゃん、どうしたの?」
「うん。ちょっと用事があって沖縄に来て、放送局に寄って散歩してたら、ここの看板見たから」
「へー、偶然だったんだ?」
「これ陣中見舞い」
 
と言って政子がサーターアンダギーの巨大な袋を出すと
 
「こんなに入らないよう!」
などと言われた。
 

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楽屋に入って、休憩するふたりとしばし歓談した。
 
「でもふたりとも凄く気持ち良さそうに歌ってたなあ」
と政子が言うと光帆が
 
「うん。ステージで歌うのは物凄く気持ちいいよね」
と言う。
「マリちゃんも歌ってみたくなったでしょ?」
と音羽。
 
「うん。少しね」
「まだ開演まで少し時間あるし、ここで歌ってみない?観客はいないけど」
「え?いいの?」
 
政子がやる気になっているので促して私たちは一緒にステージに出て行った。
 
「キーボード借りるね〜」
「うん」
 
それで私が『甘い蜜』の前奏を弾き出すと政子はちょっと嬉しそうな顔をしてやがて私と一緒に歌い出した。
 
「Sweet Sweet Sweet Sweet, Sweet Honey」
「Deep Deep Deep Deep, Deep Juice」
 
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と、もう頭に焼き付くほど歌ったサビが条件反射のように私たちの喉から出てくる。
 
政子は本当に気持ち良さそうに歌っていた。
 
曲が終わるとXANFUSのふたりに、秋月さんと南さん、そしていつの間にか楽屋から出てきていた、バックバンド・パープルキャッツの mike さんと kiji さんが拍手をしてくれた。
 
「私たちも伴奏してあげるから、もっと歌いなよ」
と言って mike さんと kiji さんがステージに登り、ギターとベースを持つ。
 
私は『遙かな夢』をオートリズム付きでキーボードで弾き出す。ギターとベースの音が加わる。
 
私たちが歌い出す。光帆たちが静かに聴いている。
 
私たちはそのまま『涙の影』『ふたりの愛ランド』『その時』と歌った。そして最後に私は XANFUSのヒット曲『Automatic Dolls』を弾き始めた。すると光帆と音羽が嬉しそうな顔をしてステージに駆け上がってくる。そして私たちと一緒に歌い始める。
 
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光帆が政子に肩を組もうよという感じのポーズをして、キーボードを弾いている私を除いて、光帆・マリ・音羽の三人で肩を組んだ状態で歌い続ける。マリもXANFUSの曲は自宅のカラオケでたっぷり歌っているので歌詞がしっかり頭に入っている。南さんと秋月さんが客席で手拍子をしてくれる。
 
そして終曲とともに拍手に変わる。ギターとベースを弾いていた mikeさんとkijiさんも拍手をしてくれる。私たち4人は再びハグしあって友情を再確認した。
 

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「マリちゃん、かなり歌えるじゃん」
「すごっく上手くなってる」
「えへへ」
「今日のコンサートのゲストとして登場しない?」
「ごめーん。まだ大勢の観客の前では歌う自信がない」
「これだけ歌えたら、充分自信を持って歌えると思う」
「飛行機の時間もあるし」
「そんなの遅らせちゃえばいいじゃん。今夜泊まってもいいし」
「えー?」
 
秋月さんは笑顔で頷いている。
 
「でもちょっと恥ずかしい」
「何なら覆面でもする?」
「覆面かあ・・・」
 
政子が何だか歌ってもいいかなという雰囲気になってきていたので、私も光帆・音羽にしても、かなりおだてた。秋月さんが★★レコードの那覇支店に電話し、プロレスラーが使うような覆面をふたつ調達して持って来てもらった。
 
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「えへへ、何だか面白そう」
 
完璧に政子はやる気を出した。飛行機は今日の最終便に変更する。
 
「ケイもさ、覆面したら女子制服で学校に出て行けない?」と政子。
「生徒指導に覆面の方を叱られるよ!」
 

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その日のライブは本来の幕間ゲストには★★レコードの売出中の中学生アイドル歌手が出演した。彼女のコーナーが終わった後で、光帆が
 
「本日は特別にもう一組ゲストがあります。謎の女子高生ふたり組です」
と言って紹介する。
 
私は政子を促して出て行った。ふたりとも覆面をしているので戸惑うような感じの拍手。
 
「それでは何を歌ってくれるのかな?」
「マドンナ・メドレーで」と私が当時非公開であったメゾソプラノボイスで答える。
 
「ではよろしく〜」
と言って光帆が下がる。
 
★★レコードの本社資料部から急遽転送してもらったMIDI音源を流す。
 
『Papa Don't Preach』を歌い出す。私は誰も知らないはずのメゾソプラノボイスで歌うが、マリはいつもの声である。最初戸惑いがちに手拍子が打たれていたのが、私たちの歌がとても調子いいので、観客も次第に乗ってきた。
 
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私たちはそのまま『Material Girl』『La isla bonita』と歌って行ったがその内会場内のあちこちで隣同士でささやき合うような姿が見られるようになる。そしてとうとう「マリちゃーん!」という声が掛かる。すると政子はその声のした方向に手を振った。
 
観客の手拍子が盛り上がっていく。そんな中、私たちは『Like a Virgin』を歌う。私はこの歌は公開済みのソプラノボイスに切り替えた。
 
「ライク・ア・ローズ、ライク・ア・リリー」なんて掛け声が掛かり、「マリちゃーん」「ケイちゃーん」という声も聞こえてくる中、私たちは演奏を終了した。
 
歓声と拍手の中、光帆と音羽が出てきて
「謎の女子高生ふたり組でした〜!」
と言い、私たちは聴衆に向かってお辞儀をして下がろうとしたが
 
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「謎の女子高生アンコール!」
などという声が掛かる。
 
私たちは顔を見合わせた。光帆が「行っちゃえ、行っちゃえ」と言う。
 
それで私は「ではキーボードをお借りします」と言って、キーボードの所に行った。政子が私の左側に立つ。
 
私はキーボードに三線の音に近い三味線の音が登録されているのを見て、その音を呼び出した。そしてその音で三味線を弾くかのように伴奏して、私たちがついさっき作ったばかりの曲『サーターアンダギー』を一緒に歌った。
 
沖縄音階に沖縄方言で私たちが歌うので「わあ」という雰囲気の反応が広がる。
 
やがて静かに手拍子が打たれていく。
 
そして終曲。大きな拍手をもらった。私たちは「にふぇーでーびる(ありがとう)!」
と言って下がった。
 
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この歌唱に関しては、このライブを見た人たちはあくまで
「謎の女子高生ふたり組が面白かった」
「謎のふたり組、うまかったね〜」
 
としかブログなどには書かず、誰も「ローズ+リリー」とか「マリ」「ケイ」
の名前は出さなかった。沖縄ライブを見た人たちの間で、ここは敢えて名前を出さずに実際に見た人たちだけで楽しもうという雰囲気があった。
 
そのためこの歌唱は、新聞などにも書かれなかったが、私は政子のお母さんに電話して、やや偶発的な事態で観客の前で歌うに至ったことを説明した。お母さんは「そのくらいOK、OK」と言ってくれた。
 
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夏の日の想い出・RPL補間計画(5)

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