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■夏の日の想い出・変セイの時(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-04-12
 
小学4年生の秋。私はお祭りの集合場所に遅刻して行き「君そこの集会所ですぐ着替えて」と言われて行ってみたら、そこにあったのは女子のお祭り衣装だった。女の子と間違えられたんだ! と思ったものの、遅刻してきておいて着替えにまた手間取っていてはと思い、私はそのまま女子の衣装を着てお祭りに参加した。
 
すると女子たちは「あ、似合ってる」などと言い、男子たちも「別にどっちの衣装でも構わん」などと言ってくれて、私はクラスメイトたちにそのまま受け入れてもらえた。
 
そして女子の衣装を着た私に、女子たちは積極的に話しかけてくれた。私は小3の12月末に東京に引っ越してきて以来、全然友だちができず、男子とも女子とも会話ができずに孤独な学校生活を送っていたのが、これをきっかけにして女子たちと話ができるようになった。
 
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そのお祭りの翌日は「体育の日」でお休みではあったが、お祭りの総括のための子供会が開かれたので集会が行われる学校に出て行った。
 
子供会の会長(6年生)が遅れてきていたので、その間みんなおしゃべりをしている。私の近くでは奈緒たちが遊園地に行く相談をしていたので、つい興味を持ってそちらを見てしまったら、
 
「冬ちゃんも遊園地行く?」
と言われた。それで
「うん。ボクも行きたい。一緒に行っていい?」
と言うと
 
「うん。冬ちゃんならいいよ」
と有咲が言う。
「どうせならスカート穿いて出ておいでよ。多分持ってるよね?」
などと奈緒。
「えー!?どうしようかなぁ」
と私は答えてしまってから、この反応は「スカートを持ってる」という返事に等しいことに気がついてしまった。
 
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子供会が終わった後、各自いったん家に帰ってお昼を食べてから13時半に遊園地の入口で集合することになる。
 
私は家で母・姉と一緒にお昼を食べると
「友だちに誘われたから、遊園地に行ってくる」
と告げた。
 
すると母は
「へー。珍しい。東京に来てから友だちと遊ぶってのが無くなったみたいで心配してたけど、誘ってくれる友だちができたんだ!」
と喜んでくれて、お小遣いに、遊園地の入園料(小学生300円)を含めて100円玉10枚と「余ったら返して」といって千円札3枚を渡してくれた。
 
私は自分の部屋で女の子下着を身につけ、トップには中性的なパーカー、ボトムには膝丈のスカートを穿いた上で、そのスカートの上にズボンを穿いて、財布とハンカチ・ティッシュにボールペンとメモ帳を入れたポシェットをリュックに入れ
「行ってきまーす」
と言って出かけた。そして自宅から少し離れた所の物陰でズボンを脱いでリュックに入れてしまった。
 
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バスに乗って遊園地前で降りる。
 
奈緒が既に来ていた。
「おぉ!スカート姿の冬ちゃん、可愛い!」
と言われる。
 
「えへへ。スカートでの外出は初めて」
「へー。でもやっぱり持ってたんだ?」
「うん。こっそり部屋の中で穿いてただけ」
「ふーん。じゃ、これからはどんどん穿いて外に出てきなよ。学校にも穿いておいでよ」
「えー?それはちょっと恥ずかしいかなあ」
「でもそれでバスに乗ってここまで来たんでしょ?」
「うん」
「不特定多数の人に見られる方がずっと恥ずかしい気がするよ。それが平気なんだから、学校では平気だよ」
「そ、そうかな?」
 
やがて他の子も到着するが、みんなから
「可愛い!」
「似合ってる!」
と言われた。
 
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「もう冬ちゃん、男の子辞めて女の子になっちゃいなよ」
「そうそう」
「学校にもこれで出てくればいいよね」
「変性届か何か出せばいいんじゃない?」
「あ、じゃ名前も変えなくちゃ」
「名前は冬子でいいんじゃない?」
「私が代筆してあげようか?」
「え−!?」
 
「こんな感じでどう?
《変性届 4年3組唐本冬彦 
私は性別と氏名を変更しましたので下記届け出ます。 
旧性別・男 新性別・女 
旧氏名・唐本冬彦 新氏名・唐本冬子》 
はい。これあげるから、明日先生に出しなよ」
 
「えっと・・・」
「冬ちゃんって、こういうの真に受けそう」
「うん。でも出してもいい気がするよ」
「どうしよう?」
 
「ほら。ほんとに悩んでる!」
 
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その日はそのスカート姿で遊園地の中でたっぷり遊んだ。
 
いきなり遊園地内にあるジェットコースター3つに連続して乗るが、それまで私はジェットコースターは苦手だったのが、この日はそんなに怖くない気がした。
「これ、結構楽しいかも」
「うんうん、楽しいよね」
などと言い合う。
 
その後、バイキングではさすがに平衡感覚がおかしくなって1分くらい立てなかったものの、ティーカップは割と平気で、どんどん手で回転させて、一緒に乗っていた有咲の方が「ストップ!もう回さないで!」と叫ぶほどであった。
 
ゴーカートは奈緒とふたりで乗ったが、私の運転を見て奈緒は
「ふーん。女の子にしては運転がうまい」
と言ってくれた。そういう言われ方をすると嬉しくて心がとろける感じだった。
 
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どうかした子なら
「へー、冬ちゃん、運転うまいね。さすが男の子だね」
などと言われて、傷つくところだ。
 
動きの大きな乗り物をだいたい制覇したところでジュースを飲みながらいったん休憩する。
 
「でも実際冬ちゃんと色々おしゃべりしてると、私、冬ちゃんの性別が分からなくなっちゃったよ」
とひとりの子に言われる。
 
「冬ちゃんって、一応男の子だよね?」と別の子に訊かれて私は
「よく分かんない」
と言ってしまった。
 
「自分でも分からないのか」
「道理で私たちが分からない訳だ」
「いや、以前から冬ちゃんって、実は女の子なのではという噂はあった」
「そんな噂あったの!?」
「そうそう。冬ちゃんって男なのかな?女なのかな?って言ってたよね」
 
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すると有咲が
「冬ちゃんの性別か。私が占ってあげようか」
と言ってリュックの中から何やらカードを取り出した。
 
「トランプ占い?」
「ううん。これはタロット」
「わあ、凄い!有咲、タロットできるの?」
「ピアノ教室の先輩の中学生のお姉さんから習った」
「へー」
 
私は「ああ、ピアノ教室か・・・いいなあ」と思ってその話を聞いていた。
 
小学校1-2年の時は、学校の音楽準備室で毎日ピアノを弾いていて、深山先生から指導も受けていた。3年生になってからは深山先生は転任してしまったものの、自主的な練習は続けていた。しかしこちらの学校に転校してきてからは、学校に自由に弾けるピアノがなく、私はちょっとピアノに飢えていた。
 
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有咲はそのタロットを何度も何度も手の中でシャフルしていた。
 
「冬ちゃん、誕生日はいつ?」
「あ、えっと10月8日」
「え? じゃ、冬ちゃん今日が誕生日?」
「うん」
「おお、それはおめでとう!!」
 
と言って、みんなから祝ってもらった。
「ありがとう」
と私は本当に嬉しい思いでみんなに感謝した。
 
「1と0と8を足して9だから、9枚目を開くね」
と言って有咲はタロットの上から9番目のカードを開いた。
 
「High Priestess」
と書かれていた。
 
「なあに?そのカード」
 
「これは女教皇というカードだよ。ローマ教皇って基本的には男しかなれないんだけどさ。昔ヨハンナという女の人がいて、男装して神父をしている内に出世して、教皇にまでなっちゃったんだって」
と有咲が説明する。
 
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「へー」
 
「要するに男装女子ってこと?」
「そうそう。冬ちゃんは男の子の格好をしていても中身は女の子ってことだね」
 
えー!?というので、こんな占断は自分でびっくりした。
 
「宝塚の男役みたいなもの?」
「ああ、そんな感じそんな感じ」
 
「中身が女の子ってことは、おちんちんは無いのかな?」
「おっぱいあったりして?」
 
「あれ、冬ちゃん、水泳の授業の時は男子の水着だった?」
「あ!冬ちゃん、水泳の授業は全部見学してた」
「あ、あはは・・・」
 
「それってさ、実は女の子だから、男子の水着にはなれなくて、見学で押し通したってことでは?」
「おっぱいあったら男子の水着にはなれないよね」
「うちの学校の男子水着っておちんちんの形がくっきり出るけど、冬ちゃんならそこに何もなくて、女の子と同じ形だから、それも恥ずかしいとか」
 
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「えー? そんなことは無いと思うけど」
 
「じゃ、冬ちゃんは男の子なの?」
「うーんと。。。。自分の意識としては女の子のつもりなんだ、本当は。でも、戸籍上は男ということになってるんだよね。だから小学1年の時の担任の先生から君は男の子なんだから、と散々言われて、それでちょっと男の子の振りしている感じかな」
「ああ・・・」
「そうか。男の振りをしていただけか」
 
「じゃ、やっぱり本当は女の子でいいんだよね?」
「普段ももっと私たちとおしゃべりしようよ」
「これからは女子で集まる時は冬ちゃんも誘っちゃおう」
「それは嬉しいかも」
と私は正直な気持ちを言う。
 
「よしよし。じゃ、今日みたいに集まる時は誘うから、冬ちゃんスカート穿いてきてね」
「えー? だってみんなあまりスカート穿いてないじゃん」
「うん。でも冬ちゃんはスカート穿くように」
「うんうん。それが参加の条件ね」
「あはは、どうしよう」
 
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「学校にもスカート穿いてくるといいよね」
「そうそう。さっきもそれ話してたの」
「冬ちゃんは明日変性届を出すから」
「変性って男の子から女の子に性別を変えるってこと?」
「そうそう」
「今日はお誕生日でいいタイミングだから、10歳になったのを機に男の子から女の子に変性しちゃうといいね」
「賛成!賛成!」
 
私は本当にさっき渡された「変性届」を提出して学校にもスカートで出て行きたい気分だった。
 

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休憩の後は、みんなで園内を一周する汽車に乗ったり、ミラーハウスに入ったり、ボールプールで遊んだりした。ボールプールが結構楽しくて、時を忘れる感覚だった。
 
何度かボールの海の中でひっくり返ったり、あるいはわざとひっくり返されたりしたが、パンツが見えてしまうので
「あ、冬ちゃん、女の子パンツだ」
などとも言われる。
 
「ふだんもパンツは女の子用?」
「ううん、今日だけ」
「学校にもそれ穿いておいでよ」
「うーん。どうしようかなあ」
 
そしてその日を境に、私は女の子たちとほとんど垣根の無い感じで話ができるようになったし、特に奈緒や有咲とは「ちゃん」を付けずに呼び捨てで「奈緒」
「有咲」「冬」と呼び合う間柄になることができた。奈緒・有咲とは6年生までずっと同じクラスであった。
 
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また有咲も奈緒も自宅にアップライトピアノを持っていたので、私はしばしばこのふたりの家でピアノを弾かせてもらい、その時期の私にとって貴重なピアノレッスンの時間にもさせてもらっていた。
 

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5年生になって夏も近づいてくる感じのあった頃のこと。
 
私は朝起きた時、何だか喉の調子がおかしい気がした。声がかすれるのである。おかしいなあ。昨夜はちゃんとうがいをしてから寝たのに。風邪じゃないよね。などと思いながら、学校に行く。
 
「あれ、冬ちゃんちょっと喉の調子悪い?」
「うん。何だか朝から変なんだよね〜」
 
などといったことを女子の友人たちと話していた。
 
昼休みにトイレ(一応自制的に男子トイレ)の個室で用を達していた時、個室の外で同級生の男子2人の会話が聞こえた。
 
「へー、お前の兄ちゃん、やっと声変わりが来たの?」
「そうそう。中学2年で声変わりってかなり遅いよな」
「うちのクラスでも**とか**とかはもう声変わり始まった感じだし」
「だいたい小学5年から6年くらいで来る奴が多いよな」
 
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その会話を聞いた時、私は衝撃を覚えた。
 
自分のこの喉の調子がおかしいのは。。。。声変わりの前兆だ!!
 
それはショッキングな出来事だった。
 
自分としては漠然と身体は男でも女としてやっていきたいと思っていた。しかしそんな気持ちとは無関係に押し寄せてくる、体質男性化の波・・・・
 
4年生の時にも随分自慰で悩んだ。したくないのについしてしまうその気持ちとの戦いは数ヶ月に及び、様々な工夫で、何とか自慰はほとんどしなくても済むように押さえ込んだ。
 
しかしそれにも関わらず、今自分に声変わりが来ようとしている。
 
嫌だ!
 
男の声になってしまうのなんて・・・・
 

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