広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・変セイの時(6)

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やがて25人の歌唱者が歌い終わり、審査に入る。
 
ここのプールの社長さんという雰囲気の人がステージに立って結果を発表する。
 
「3位、8番。『ミニモニ。ジャンケンぴょん! 』を歌いました、**さん、**さん、**さん」
 
きゃーっと嬉しそうな悲鳴を上げてステージに登り、賞状と金一封をもらっている。そうそう。この3人組は前半の出場者の中では一際良い出来だったのである。
 
「2位、15番。『アヴェマリア』を歌った蘭若アスカさん」
 
ぶすっとした表情でステージに上がり、無表情で賞状と金一封をもらった。
 
「1位、20番。『Automatic』を歌った、町田有咲さん、唐本冬子さん」
 
「よっしゃ」と有咲が言い、奈緒たちのいる方角から凄い歓声と拍手が来て、私たちは笑顔で一位の賞状と賞金をもらった。
 
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私は2位の人に握手を求めた。向こうは一瞬躊躇ったものの、笑顔になって握手してくれた。
 
「あんたすごいね。合唱団か何かに入ってる?」
「いえ。うちの学校は合唱部も無いし」
「どこか入って鍛えなよ。あんた伸びるよ」
「ありがとうございます。蘭若さん、音大に行くんでしょ?」
「行くつもり」
「頑張ってください」
「うん。お互いにね」
 
その後、3位の子たちとも握手した。
 

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奈緒たちの所に戻ると拍手で迎えられる。
 
「いくらもらったの?」
「いくらだろ」
と言って開けてみると1万円である。
 
「わ、すごっ」
「何か食べに行こうよ」
「焼肉!」
「それはさすがに足りない」
 
「あ、そうだ。ケーキバイキングに行かない? 駅前の**ホテルで毎週日曜の午前中やってるんだよ。小学生女子は1人700円」
「ここに今15人いるから10500円か」
「その端数は私が出すよ」と私は言う。
 
「あ、それじゃ明日みんなで行こう」
 
ということで賞金の使い道も決まった。
 
「でも有咲と冬が取った賞金の使い道を勝手に私たちが決めていいんだっけ?」
「あ、私はみんなに水着を買ってもらったから、そのお返しで」
 
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「じゃ、冬はそれでいいとして有咲には超ビキニでもプレゼントを」
「いらん、いらん」
 

その日は16時で上がり、シャワーを浴びて身体を拭き、服を着る。
 
「うーん。水着に着替える時はどうにかなっても、普通の服に着替える時は見られるかと思ったのに、何にも見れなかった」
と奈緒。
「ふふふ。ボクは奈緒たちの前では女の子だからね」
「やっぱり、もう取ってるでしょ?」
 
などと言っていたら、有咲が「あっ」と声を上げる。
「どうしたの?」
「ナプキン入れが空っぽ。補充しておくの忘れた」
「ありゃ。誰か持ってないかな」と奈緒は言ったが
「あ、これで良かったら使って」
と言って、私は有咲に自分のナプキン入れを手渡す。
 
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「ありがとう」
「ちょっと待って。なぜそういうものを持ってる?」と奈緒。
「え?だって、ボク、奈緒たちの前では女の子だから」
 
「いや、私たちの前ででなくても、本当に女の子なのでは?」
 

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翌日は駅前に集合し、全員でケーキバイキングに入った。
 
「冬、今日はちゃんとスカート穿いてきたね」
「スカート穿いてないからと、また水着を着せられたらたまらないし」
「さすがに水着でホテルのラウンジに入ろうとしたら停められるね」
 
「昨日の水着はどうしたの?」
「帰ったら即洗って自分の部屋に干して、朝には乾いてたから、しまってきた」
「タンスの中に女の子水着があったら、お母さん見てびっくりしない?」
 
「お母さんが私のタンスの中を見ることはめったにないみたい。私が洗濯係だから、洗うのも干すのも取り込むのも私の仕事だし」
「あ、その立場を利用しているのか」
「職権乱用?」
 
「ふふ。それにそもそもタンスじゃない所に入れたしね」
「なるほどー。女の子の服を隠す場所があるんだ?」
「えへへ」
 
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入場する時、一瞬迷う。中学生以下は男性1000円・女性700円と書かれている。
 
私が悩んでいたら、隣で有咲が
「小学生・女子15人です」
と言ったので、まあ、いっかと思って、
「10500円です」
と受付の人が言うのに応じて払った。
 
バイキングはプティサイズのケーキが多数出ていて、みんな色々な種類のケーキを1個ずつとっていたが、イチゴショートを5個並べて楽しそうに食べている子もいる。時間は1時間以内で、お茶・コーラ・オレンジジュースも自由に飲める。但し皿の上に多数残したまま終了したら1個100円の罰金なのだが、いきなり20個くらい取って来て
 
「あんた残したら罰金だよ」
などと言われている子がいる。しかし
「大丈夫大丈夫」
などと言って美味しそうに食べていた。
 
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私はイチゴショート、チョコケーキ、モンブラン、と取って奈緒・有咲とおしゃべりしながら食べた。飲み物は紅茶のホットを砂糖無しで飲んでいる。
 
「でも、冬、あの水着で体育の時間の水泳に出たら? 男子の水着になるのが嫌なんでしょ?」と奈緒。
 
「あんな可愛いの着て来たら叱られるよ」
「じゃスクール水着を買えばいいのに。あの水着が破綻無く着れるってことはスクール水着も行けるはず」
「冬はお小遣いわりと余裕あるっぽいから、親にお金出してもらわなくても、自分で買えそう」と有咲。
 
「うん、まあね」
「じゃ買いなよ。買いに行くのに付き合ってあげようか?」
「そのうちねー」
 
「あ、実はスクール水着は既に持ってたりしない?」
「えー? 持ってないよぉ」
「冬のお姉ちゃんってさ、色々自分が着れなくなった服を冬に押しつけるって言ってたじゃん」
「うん」
「小さくなった水着とかももらったりしないの?」
 
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「えっと・・・もらったことはある」
「それサイズ合わない?」
「えっと・・・合うのはある」
「やはり」
「合うのがあるってことは、つまり着てみたのね」
「お姉ちゃんに着せられたんだよぉ」
「じゃ、それを体育の時間に着ようよ」
「恥ずかしいよお」
「冬の恥ずかしさの基準が分からん」
 
その内最初に取って来た分が無くなったので、一緒にまた取りに行き、追加でチーズケーキ、アップルパイ、と取って来た。
 
「でも冬、ソプラノがすごくよく出るね」
「ああ、最近ちょっと鍛えてるんだよ」
「へー、凄い」
「でも冬のあの声も声変わりが来るまでかなあ」
「冬、声変わりの兆しとかは?」
「うーん。まだ大丈夫みたいだよ」
 
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私はドキっとしながら答えた。
 
「なんかもったいないね。あんなきれいな声が出てるのに声変わりしちゃうなんて」と奈緒は言うが
「冬は声変わりしないかもね」
などと有咲は言う。
 
「昔はボーイソプラノの美しい子は、睾丸取っちゃって声変わりが来ないようにしたらしいね」
と奈緒。
「へー。じゃ、冬がその頃生まれてたら、きっと睾丸取られちゃってるね」
と有咲。
「うん、冬はきっと喜んで睾丸取る手術受けてるよね」
「冬はきっとついでに、おちんちんも一緒に取ってもらってるよね」
「そうだなあ・・・取りたいな」
 
「待って。既に睾丸取っているということは?」
「私も思った。昨日の水着姿、何にも付いてないみたいに見えたもん。もしかして、おちんちんも一緒に取ってない?」
 
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「私の睾丸ね、身体の中に入り込む癖があるんだよね。だから昨日は中に押し込んでおいた」
「へー」
「お腹に力を入れたりしない限り出てこない」
「じゃ泳ぐと出てきたりして」
「昨日、奈緒に教えられて平泳ぎしていた範囲では大丈夫だったよ。おちんちんも目立たないようにする隠し方があるんだよ」
 
「つまり、そういう隠し方をよくしているということか」
「やはり、私たちの知らない所で、水着とかになってない?」
「なってない、なってない」
「もしかして、女湯とかにも入ってたりして」
「まさかぁ! さすがに女湯には入れない」
 
そんなことを言っているうちに、そろそろタイムアップかなという感じになった。私たちは皿の上に少し残っているケーキの断片をお腹の中に入れてしまう。飲み物も一口飲む。その時、近くのテーブルで
 
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「あんた、まだ8個も残ってる」
と言われている子がいる。最初に20個くらい取った子だ。
 
「えーん。ごめん。みんな手伝って」
というので、私たちも行って1人一個ずつケーキを取った。私はイチゴのミルフィーユを取って、時間を微妙にオーバーしつつも食べ終わった。
 

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せっかく駅前まで来たし、新宿かどこかに出ない?という話になる。帰る人は帰って行ける人だけでということで8人で新宿に出ることになった。私も奈緒・有咲といっしょに行くことにする。
 
「あ、次は快速だね」
「快速なら向こうの階段近くで待ってたら、女性専用車両にならない?」
「あれは朝だけだよ」
「あ、そうか」
 
「でも女性専用車両って、なんかほっとするよね」
「そうそう。気兼ねない感じ。なんか普通の車両に乗ってるとさ、変な感じでこちらをじろじろ見る男の人が時々いるよね」
「あれ、いやらしいね」
「私、お尻触られたことある」
「えー!? どうした?」
「平手打ちして、警察に行きますか?と言ったよ」
「へー、それで警察に行ったの?」
「勘弁して、見逃してって謝るから、二度としないでくださいねと言って見逃した」
「それ甘いという気がする」
「うん、そいつまた痴漢するよ」
「そうかなあ」
 
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その時、奈緒がチラッとこちらを見て言う。
「冬は女性専用車両に乗ってる時はどんな感じ?」
「うん。なんだかゆったりした気分になるよね。男性の視線があるのと無いのとでは、全然違うじゃん」
と私は答えてしまった。
 
「ああ、やはり冬は女性専用車両に乗ってるな」
「あ、えっと・・・・」
「まあ、冬ちゃんは乗ってもいいんじゃない?」
「うん、構わないと思う」
とみんなから言われた。
 

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10月のある日、民謡教室に行った私は津田さんに特に話したいことがあると言って個室に入った。
 
私は自分がこの半年ほどで勉強した内容をきちんと話した上で「ある計画」に協力してもらえないかということを話した。
 
「それは原理的には可能だと思う。でも、そういうことをして男性化は停められるかも知れないし、ホルモンニュートラルではないから体調や精神状態が不安定になることもないだろう。でもそこまでしても多分女性化は免れないよ。それにいづれは不妊になると思う」
 
「女性化するのはわりと問題ありません。子供を作ることは諦めています」
と私は明言した。
 
「分かった。そこまで考えているのなら、協力しよう。この顕微鏡も調達してあげるよ。よくこんなの見つけたね。でも条件」
「はい」
「毎月とまでは言わないけど、年に4回くらいはお医者さんの診断を受けようか」
「分かりました」
 
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