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■夏の日の想い出・セイシの行方(7)

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晩御飯の買物をするのに、小6の紗緒里が手伝うというので連れていく。
 
「紗緒里もいよいよ4月から中学生だね。勉強頑張らないといけないよ」
「うん。今通信ゼミの入学準備号やってるけど、あらためて小学校の範囲の復習してると、あれ?これ忘れてたなんてのもあるし」
「英語は4月からラジオの英語講座聴くといいよ。今からでも少し聴いておくといい」
 
「うん。ねえ、ママ」
「ん?」
「私は◎◎女子中に行くけど、夏絵たちも一緒になるのかな」
「そのあたりは本人次第だけど、紗緒里が行ってれば、夏絵やあやめも同じ所に行きたがるだろうね」
「大輝は?」
「大輝は男の子だから女子中には入れてもらえないね」
「そっかー。大輝女の子になれば一緒に◎◎に行けるのに」
「あはは」
 
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「そういえば、こないだお母ちゃんが、ママが◎◎女子高の制服着てる写真見せてくれたけど、ママって◎◎女子高出身じゃないよね?」
「うん。私とお母ちゃんは◆◆高校だよ」
「そうそう。◆◆高校の女子制服を着ている写真も見せてくれた」
 
「ちょっと事情があって◎◎女子高の制服も作ったんだよ」
「通ってなくても作れるものなの?」
「若葉おばちゃんが◎◎女子高だったから、若葉おばちゃんが予備の制服を作って貸してくれたの。実際はずっと私が持ってたんだけどね」
「へー」
「その制服でレコーディングに行ってたりしてたし」
 
「ああ!偽装工作用か。でも若葉おばちゃんとママって何かいろいろ秘密持ってるみたい」
「ふふ。いろいろ隠れておイタしたからね」
 
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今日はおでんにしようということで、大根3本、竹輪4パック、薩摩揚げ2パック、ゴボ天3パック、厚揚げ3パック、糸コン3パック、板こんにゃく3個、がんもどき4パック、ハンペン3パックなどと買って行く。餅巾は自作するので、油揚げを2パックに小餅を1kg買った。牛すじ肉3kgなどと買っていたら、売場のおばちゃんが
 
「あら、今日は娘さんと買物?」
などと訊く。
「ええ。手伝ってくれるというので」
「奥さんとこ、下宿屋さんか何か?」
「あ、いいえ。ふつうの家ですよ。でも子供が多いから」
「へー。何人?」
 
「8人」
「ひぇー! よく産んだね」
「ええ。この子がいちばん上で4月から中学ですけど、まだ幼稚園にも行ってない子もいるし」
「テレビの大家族スペシャルに出られるよ」
「あはは、一度テレビ局から出ない?と言われたけど断りました」
「そうだろうね!」
 
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「だけど、お母ちゃんの食べる量って凄いよね」
 
と下ごしらえを手伝いながら紗緒里が言う。私たちは材料を切ってはどんどん巨大な鍋に放り込んで行っていた。すじ肉は別の鍋(圧力鍋)で煮ている。
 
「ひとりで3人分くらい食べてるからね。でも若い頃は今の倍くらい食べてたよ」
「すごーい。でもお母ちゃんの高校生や大学生の頃の写真ってスリムなのに」
「食べてもその分消費するから、お母ちゃんは太らないんだよ。詩を書くのに無茶苦茶エネルギーを使うみたいね」
「へー」
 
「凄くいい詩を書いた時は、それだけで体重が1kg近く減ってることあるから」
「キャー。だったら詩でダイエットできるね」
「うんうん、できるできる」
「私も詩を書こうかなあ」
 
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「紗緒里は特に太ってないよ。ダイエットの必要無いよ」
「そうかなあ」
「でも詩を書くのはいいよ。やはりそれぞれの年齢でしか書けない詩ってあるから」
「ああ、そうだよね」
「小学生の紗緒里にしか書けない詩、中学生の紗緒里にしか書けない詩ってあるよ」
「よし、今度何か書いてみよう」
「うん。頑張って」
 

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「ママ、あのね・・・」
「うん?」
「こないだ、ちょっとお母さん(露子)のこと思い出しちゃって」
「たくさん思い出してあげなよ。紗緒里を産んでくれた人なんだから」
 
「うん。お母さんが死んじゃって、私もまだ小さかったからよく分かってなくて。でも幼稚園に行くと言われていたのに、そうじゃなくて安貴穂と一緒に保育所に預けられるようになって。あの頃、お父ちゃんなんかいつも疲れたような顔してよくお酒飲んでた気がするし。そのあと東京に引っ越すと言われて、お祖母ちゃんちに預けられたけど、なんか居心地が悪くて。躾がなってないとかよく言われたし。あの頃、私も辛かった気がするんだよね」
 
「紗緒里ってデリケートだからね。色々感じてたんだろうね、幼いなりに」
「それがお父ちゃんが今日からここに昼間は居なさいっていってここに連れてこられて、最初に見たのが山のような焼き芋をお母ちゃんが食べてるところで」
「ふふ」
「ああ、なんかこの家はホッとすると思った。お母ちゃんから最初に言われたのが『サホちゃんもアキちゃんも、ほら、お芋食べなさい。美味しいよ』って」
「お母ちゃんらしいね」
 
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「それで食べたお芋がすごく美味しくて」
「良かったね」
「なんか小さい頃のお母ちゃんの記憶って、全部食べ物絡みなの!」
「お母ちゃんはそういう人だから、それでいいと思うよ」
 
「学校から帰ってきたら、お母ちゃんが水まんじゅう食べてて。でも残り1個しか無かったんだよね。そしたらそれ今食べようとしてたのを私にくれて。『もっと食べたいよね?ママに買って来てもらおうね』と言って電話して」
 
「ああ、それは覚えてる。私、スタジオでレコーディングしてる最中だったのに水まんじゅうを買って家まで届けたよ」
「なんか、あの水まんじゅう美味しかったなあ」
「紗緒里の小さい頃の記憶もそうやって食べ物絡みばかりなんだ?」
「そうなの!」
「ふふふ」
 
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「でもあの頃、お母ちゃんとママの関係がよく分からなかった」
「まあ、うちは変な家庭だから」
「世間からすると変かも知れないけど、その分、何でも受け入れてもらえる感じで、私は好きだなあ。ママ、私が○○君とデートすると言ったら、コンちゃん渡してくれたし」
「まあ、小学生にそんなの渡す親は珍しいだろうね。でも大事なことだから」
「うん。さすがに使わなかったけどね」
「ふふ」
 
「でも、あの時・・・・実はキスしちゃったんだ」
「いいんじゃない? 好きだったらキスしていいんだよ」
「うん」
と言って、紗緒里は可愛い感じで頷いた。
 

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「でもママが元男の人だったってのが、未だに信じられないんだよね」
「ふふ」
「ママの昔の写真をお母ちゃんからたくさん見せてもらったけど、男の子の格好した写真って1枚も無い」
「お母ちゃんは特に私が女の子の格好してる写真ばかり集めてたんだよ」
 
「奈緒おばさんには、中学の女子制服を着てるママの写真も見せてもらったことあるけど、ママって中学の頃はもう女子の制服で通ってたの?」
「中3の6月くらいからは、ほとんど女子の制服で通ってるよ。それ以前は男子の制服着てたけど、奈緒も私の男子制服写真は持ってないと言ってたね」
 
「じゃ高校はもうずっと女子として通ってたんだっけ?」
「それがさあ。高校自体には男子制服で行ってたけど、バイト行く時とか、歌手のお仕事とかでは、学校の女子制服を着て出て行ってたんだよ」
「それって何か変!」
「あはは、奈緒からよくそう言われてたよ」
 
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『緑の目の少女』は好評でロングランになりつつあったが、そんな時、ある写真週刊誌が「ルパンとオーレリー密会の現場」というタイトルで、映画主演の桜幸司と、ヒロイン役の新人・秋山怜梨が、夜の新宿で親しそうに歩いている写真、カフェで同じテーブルに座って会話している写真を掲載した。
 
双方の事務所は直ちに見解を発表した。
 
ふたりが交際している事実は無い。その写真はたまたまふたりが遭遇して、そのまま歩きながら会話をして、知り合いのよしみでお茶を飲んだだけでありふたりはその後別れて各々の自宅に戻ったものである、と。
 
しかし噂好きのマスコミは、写真に写っているふたりの雰囲気がとてもいいので実際には恋人になったのでは?などと随分報道した。
 
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たまたまアイドル歌手のアルバム制作で、雨宮先生と私・政子が同席する機会があったので、録音の合間に政子が尋ねた。
 
「雨宮先生は、桜幸司と秋山怜梨の件、何か聞いておられます?」
「ああ、あのふたりは本当に恋人とかじゃないよ」
「あ、そうなんですか? 何かほんとに仲よさそうに見えたから、てっきり実際に交際してるのかと思った」と政子。
 
「だって、あの子たちは兄妹だから。仲良いのは当然だけど交際する訳無いじゃん」
「えーーーー!?」
「静かに」
「あ、ごめん。兄妹って?」
「秋山怜梨は私の娘よ」
「そうだったんですか!」
 
「先生、ほんとに無節操にあちこちに子供作ってますね」
「そんなに無節操じゃないと思うけどなあ。怜梨はまさか相手役が桜幸司になるとは思わずに、あのオーディションに応募したのよ。それで合格してからルパン役が自分の兄ちゃんと知ってびっくりしたみたい」
 
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「兄妹としての交流があったんですか?」
「交流があった訳じゃないけど、子供の頃から何度か会わせたことあるからメールの交換とかはしてたみたいだよ」
「へー」
 
「じゃ本人たちもびっくりだったんだ」
「そうみたい。でも映画制作の時は、ふたりが元々仲がいいから、スムーズに撮影が進んだみたいね」
「わあ」
「ルパンがオーレリーを抱きしめるシーンとかはちょっと照れたけど、なんて言ってたよ。ふたりとも」
「ああ」
 
「あの映画の出演者、もうひとつ問題があってさあ」
「はい?」
「準ヒロインの美濃山淳奈だけどね」
「ええ」
「まさか美濃山淳奈も雨宮先生の娘さんですか?」
「違うわよぉ。私のもうひとりの子供はふつうに会社勤めしてるよ」
「へー」
 
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「あの子の家族情報、今のところはレコード会社が押さえてるんだけどね」
「はい」
「長野支香の娘なんだよね」
「えー!?」
「あ、そう言われたら声質が似てるかも」
「172cmの長身もお母さん譲りだったのか!」
 
「父親は誰なんですか? 上島先生って訳じゃないですよね?」
「上島はもうあの時期は浮気を控えるようになってたよ。父親は海原だよ」
 
「へー! 海原先生と付き合ってたんですか」
「うんうん。不倫だけどね」
「支香さんって、そういう性格なのかな・・・・」
「ああ、不倫ばかりする子っているよね。海原はその不倫が原因で離婚したけど、支香と結婚するつもりは無かったみたいね」
 
「でもそれじゃ、あの映画ってジュニア・ワンティスですね」
「あはは。そうかもね」
 
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「ワンティス自体もあれこれ言われながらも活動が続いてますね」
「うんうん。ライブはしないで音源制作ばかりだけどね」
「だって雨宮先生にしても上島先生にしても三宅先生にしても忙しすぎるから」
「そうそう。とても全員同時には集まれない。でも来年は何と結成30周年だよ」
「わあ、おめでとうございます」
「じゃお祝いにマリ&ケイから何か曲をちょうだい」
「はい。書きます」
「もっとも高岡が死んだ後10年間のブランクがあった訳だけどね」
「そうですね」
「ローズ+リリーのブランクの3年なんて可愛い方かな」
「あんたたちは3年のブランクと言いながら、その間も裏でこそこそ活動してたでしょ?」
「あはは、まあ」
 
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ローズ+リリーの春のツアーが始まった。ローズ+リリーのバックバンドは長い間スターキッズが務めていたのだが、全員50歳前後で全国を駆け巡るだけの体力が無い。そこで、今年は音源製作でも共同作業したフラワーガーデンズが付き合ってくれた。スターキッズとの演奏はゴールデンウィークに福島で1度やることになっている。もっとも、ここ10年ほど、ローズ+リリーの実質的なサウンド・プロデューサーに近い存在になっている七星さんは、ローズ+リリーのPAとして定着している有咲と一緒に全国付き合ってくれる。
 
初日の那覇。会場に着くと、私たちは今ではベテランの発達障害児トレーナーとして活躍している麻美さんと握手する。
 
「私もうすっかり元気になってるのに毎回招待してもらっていいのかなあ」
「いいって。麻美ちゃんがいなかったら『神様お願い』も『夜間飛行』も『言葉は要らない』も生まれてないんだから」
「そうですね。でもあの曲、ほんとにいい曲ですね」
「『神様お願い』なんて発表してからもう20年近くたつのにいまだに毎年1万件くらいダウンロードがあるからね」
「すごいですね」
 
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