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■夏の日の想い出・セイシの行方(3)
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「それなら納得できます。かえでちゃんは自分の姉が確実にこの世に生まれるように行動してたんですよ。それで、あやめちゃんの幻をママに見せたりして積極的にアピールした。そして最後はたぶん去勢手術直前の冬子さんの身体に直接働きかけて、男性能力を超回復させたんじゃないかな」
「はぁ。。。」
「大学1年の時の精液は、活動性のある精子がほとんど無かったって言ってましたよね」
「うん」
「ほとんど無かったってことは、僅かながらあったんですよ。それがあやめちゃんだったんですね」
「ああ。そういえばそんな感じのこと言ってた。顕微鏡で見てあちこち探していちばん元気そうなのを捕まえて受精させたって」
「そういうのが全部かえでちゃんの仕業だったのかもね」
「じゃ、もしかしてかえでって凄い子?」
「あやめちゃんって天才肌ですよね。政子さん似。ぱっと目立つ。でもかえでちゃんはそういうお姉ちゃんを輝かせるのが好き。目立たない所で色々してる。冬子さん似かも」
「あはは」
「きっとその内、このふたり組んで何か始めますよ」
「ああ。面白いコンビになるかも知れないなあ」
「でも姉妹だから結婚できませんけどね」
「ふふふ」
「あとですね」
「うん」
「あやめちゃんで多分重要なのは、ローズ+リリーの活動を経た後で作られた精子だってことですよ」
「ん?」
「精子記憶仮説ってのがあって。精子はそれが生産された時点での父親の経験や記憶を反映しているっての」
「ほほお」
「だから、かえでちゃんにとっては、ローズ+リリーを経験したあやめちゃんが必要だったのかもね」
「ほほぉ!」
富山から戻ってきた私の所に、あやめが何だかまとわりつく。
「どうしたの?」
「ね、ね、ママ。見て欲しいものがあるの」
「ん?」
「1階のピアノ貸して」
「うん、いいよ」
私はあやめと一緒に1階の「仕事部屋」に入ると、グランドピアノのふたを開け、何やら手書きの譜面を立てて、ピアノを弾きながら歌を歌った。
「この曲は?」
「私が書いた」
「よく出来てるじゃん」
「売れる?」
「少し手直しすればあるいは」
「どこ直せばいい?」
私は楽典的な理論を説明し、その上で何ヶ所か和音の誤りを指摘した。
「似た響きの和音だから、理論が分かってないロックミュージシャンなんかにはこちらで代用してしまう人もよくあるけど、正しい和音はこちらなんだ」
「うーん。その辺ちゃんと勉強しないといけないなあ」
「マンションの方にたくさんその手の本は置いてるから、あちらに時々行って読むといいよ。合い鍵1個作って渡そうか?」
「うん」
「それから構成の問題だな。この曲サビが凄く魅力的なメロディーでしょ」
「うん。最初にこれを思いついたんだよ」
「そういう場合は、サビ始まりにすればいいんだ」
「あ。そうか」
「作品を作る時は出し惜しみしちゃいけないの。毎回最高のものを作る気持ちでやらないと、中途半端な作品になる。この作品はサビが絶対注目されるから、それなら最初にそれを聞かせる。人は未知のものを耳にした時、3秒か5秒で善し悪しを判断する。ずっとAメロBメロを聞いてその後でサビまで、という聴き方はしない。Aメロの最初4小節がそれほどでもなかったら、そこまでしか聴いてもらえない。売れる作品は、キャッチーでなきゃいけない」
私は他に歌詞上の問題もいくつか指摘した。文法的な誤りの問題。体言止めで余韻を残す方法、「馬から落馬」的な不要な修飾の問題。それから音韻的な問題。
「詩ってのは韻を踏むと心地良くなって落ち着くの。これ最初のフレーズが『こたえるあなた』で終わってて次のフレーズは『ことばをつづる』で終わる。これは例えば1行目を『あなたはこたえる』にするか逆に2行目を『つづるの、ことば』
にして韻を踏んだ方が美しい」
「韻を踏むって同じ母音で終わるということ?」
「そうそう」
あやめは私から指摘されたことを元に修正するといい、翌日その修正された歌を聴かせてくれた。
「うん、すごく良くなった。ここのメロディーラインは新たに作ったんだね?」
「そこ、実はそのラインを考えてたんだけど、素敵だからこの曲に使うのはもったいないかなあと思って別の曲で使おうと思ってたけど、ママが出し惜しみするなと言ってたから」
「そうそう。それでいい」
「この曲売れる?」
「今度のママとお母ちゃんのアルバムに入れてみようか。作詞作曲者名はペンネームでも使う?」
「じゃ快速紳士で」
「変わったペンネームだね」
「男っぽい名前を使ってみたい気分だったんだよね」
「ふーん。あやめ、男の子になりたい?」
「そうだなあ。おちんちんにちょっと興味はあるけど、男になったらスカート穿けないし」
「ああ、あやめって今時珍しいスカート派だもんね」
「うん。学校でもスカート穿いてる女の子は私とノリちゃんくらい」
「ふーん」
「あと、おちんちんあると毎日オナニーしないといけないんでしょ?なんだか面倒くさそう。女の子の生理も面倒で憂鬱だけど月に1回で済むから」
「いや。別にオナニーしなきゃいけないってことはないんだけどね」
「クラスの男の子たちと話してると、みんな毎日してるみたいだよ」
「まあそんな子が多いかもね」
「ママは私くらいの年の頃はまだ男の子だったんだよね? 毎日オナニーしてた?」
「ああ。ママの場合は特殊だと思うよ。男の子ではいたくなかったから、オナニーもほとんどしてない」
「ふーん。しなくても済むもんなんだ」
「その子次第でしょ」
「大輝は毎日してるみたい」
「見ちゃだめだよ。こっそりやるものなんだから」
「何度か見ちゃった。おちんちん凄く大きくなってた」
「まあ、12cmくらいから16cmくらいまで大きくなるからね」
「ママのおちんちんも大きくなってた?」
「私のは元々小さかったから10cmくらいかなあ」
「ふーん。あれって、どうやったら大きくなったり小さくなったりするの?」
「Hなこと考えると大きくなって、それ以外のこと考えてたら小さくなるんだよ。あと射精した後も小さくなるよ」
「へー。ちょっと試してみたい気分」
「高校生くらいになって彼氏作ったら、やらせてもらいなよ」
「高校生になったらいいの?」
「セックスとかする相手なら、そのくらいさせてくれるでしょ。セックスって分かる?」
「あ。何となく。ママとパパ、お母ちゃんとお父ちゃんでしてるよね」
「してるよ」
「でもママとお母ちゃんも多分セックスしてるよね」
「してるよ」
「おちんちんなくてもできるもの?」
「女の子同士ははまたやり方があるんだよ」
「へー。高校生になったらセックスしてもいい?」
「ちゃんと避妊するなら、してもいいよ」
「避妊って?」
「セックスしても精子がヴァギナに入らないように、おちんちんにコンドームってのをかぶせてセックスするんだよ」
「へー、うちにそのコンドームってある?」
「あるよ」
と言って私は1枚引き出しから取り出して封も開けて見せてあげた。
「きゃー。これをおちんちんにかぶせるのか」
「大輝のにかぶせてみようとかは考えないこと」
「なんでママ、私の考えたこと分かるの?」
「ふふ。まあ、これで試してごらん」
と言って私はマジックインキを渡してやった。
「これどっちをかぶせるのかな・・・あ、分かったこっちだ」
と言って、あやめはコンちゃんをマジックにかぶせる。
「へー。なんか面白い。でも中がスカスカ」
「本物のおちんちんならピタリ収まるよ。もっと太いから」
「そうだよね〜。大輝のずいぶん太い気がしたもん。じゃ、これかぶせたまま射精させるの?」
「そうそう。そうしたら精子はこの内側だけに留まってヴァギナには入らないでしょ?」
「ふーん。私ってママの精子とお母ちゃんの卵子から生まれたんだよね?」
「そうだよ。かえでもだよ」
「じゃ私やかえでが生まれる頃まで、ママはおちんちんあったの?」
「ううん。あやめが生まれるのより8年前にママは手術して女になったよ」
「じゃどうやって私やかえでは生まれたの?」
「精子を冷凍しておいたからね」
「へー。私って冷凍されてたのか!?」
「ふふ。寒くなかった?」
「凍えてたかも」
「ふふ」
「あ」
というと突然あやめは、そのあたりにあったボールペンと紙を取ると何か詩を書き始めた。このあたりの行動パターンは政子に似てるなあと私は思う。
「できた〜。また曲を付けてみよう」
「ふふ。頑張ってね」
「でも女の子になる手術って、おちんちんとか睾丸とか取っちゃうんだよね?」
「女の子にはおちんちんも睾丸も無いからね」
「取ったのは捨てちゃったの?」
「睾丸は捨てちゃったよ。でもおちんちんはヴァギナの材料にしたよ」
「へー。じゃ、ママのヴァギナって元はおちんちんだったんだ!?」
「そうだね」
「あれ? 私、ママから生まれたんだっけ?お母ちゃんから生まれたんだっけ?」
「お母ちゃんだよ。ママには子宮が無いから」
「ふーん。女の子になる手術で子宮は作らないの?」
「そうだね。卵巣も無いよ」
「じゃ、女の子になる手術しても赤ちゃん産めないのか」
「そうだね。ちょっと残念だね」
「じゃお嫁さんにもなれない?」
「お嫁さんにはなれるけど、お母さんにはなれないね。子供が産めないということを承知で結婚してくれる人はいると思うよ」
「そっかー。大輝に女の子になる手術受けさせたら、すごく可愛いお嫁さんになりそうな気がするのになあ」
「大輝は別に女の子にはなりたくないと思うよ」
「そう?こないだからスカート穿かせようとしてるんだけど、嫌だって言われる」
「ふつうの男の子はそんなものじゃない?」
「でも女の子になりたい男の子って結構いるよね?」
「そうだね」
「ママたちのおともだちの手術で女になった人たちとか凄いもん」
「あのメンツはちょっと凄すぎるけどね」
「マイちゃんの高校生のお兄さん、冬休みに女の子になる手術受けるんだって」
「へー」
「女の子になってから卒業したいからだって」
「ああ、そういうのはあるだろうね」
「女の子になったら、制服も女子の制服を着るのかな?」
「そうじゃない?」
「あれ? ママは中学や高校の時、男子の制服着てたの?女子の制服着てたの?」
「どちらも着てたよ」
「ふーん。まだその頃は女の子になってなかったんだよね?」
「身体はね。でも心は女の子だったから」
「心が女の子なら女子の制服着るの?」
「親とか先生が認めてくれたら、そちら着たいんじゃない?」
「ママ、女子の制服着たかった?」
「着たかったけど、恥ずかしいから、こっそり着てた」
「へー。それって恥ずかしいもの?」
「何か言われないだろうかとか不安になるよ」
「でも女の子なんだから、着てもいいんだよね?」
「うん。でも本人がそういう気持ちになれるまで時間が掛かるんだよ」
「ママ、大学の時は?」
「大学に入った後はもう男の子の服は着たことないよ」
「その時、ママは完全に女の子になったのか」
「そうそう。手術を受けたのは大学2年の時だけどね」
「身体より心が大事なのね?」
「そうだよ」
「あ、ママが中学や高校の頃に女子制服着てた時の写真とかある?」
「あるよ」
と言って私はパソコンで家のミラーサーバー(マンションにある親サーバーのミラー)の中の古いフォルダを開いて見せてあげた。
「ママ、可愛い!!」
「ありがとう」
「やはり、こんなに可愛かったら女子制服着て通学して、女の子になるべきだよ」
「ああ、お母ちゃんからもよく言われてたよ」
「よし、大輝もっと唆してみよう」
「あはは」
「だって大輝って可愛いから、男の子のままでいるの、もったいないもん。絶対女の子になるべきだよ。騙して性転換手術受けさせちゃおうかな」
「目が覚めておちんちん無くなってたら泣くと思うよ」
「でもね、何か私、昔夢見たような記憶があって」
「ふーん」
「私、何だか暗い所にいて、凄く不安だったの。近くにたくさん人がいるんだけどみんな座り込むか立っていても全然動かなくて、何だか怖かった」
「ふんふん」
「そしたら、かえでが来てさ。お姉ちゃん、こっちこっちって言って。明るい所に連れて行ってくれたの」
「ほほお」
「それが、何となく自分が生まれる前のことのような気がして」
「ふふ。そういうこともあるかもね」
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