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■夏の日の想い出・セイシの行方(6)

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「そういえば今度のアルバム、『緑の目の少女』とタイアップになったんだね」
「ええ。映画会社からお金もらった訳じゃないから普通のタイアップとは違いますけどね。うちの大輝のお父さんの大林亮平さんが、この映画でルパンを追う日本の探偵役で出ていたんで、その関係でまだ最終エディションが出来る前の試写会の招待状を頂いたんですよ。それでマリが感動しちゃって」
 
「あの映画の主演の桜幸司って・・・あれだよね?」
と上島先生が雨宮先生を見て言う。
 
「うん、私の隠し子のひとり」と雨宮先生はこのメンツなので言っちゃう。今日は私たち4人のほかは上島先生の奥さん・春風アルトさんだけである。
 
「あの映画、橘美晴も主題歌の作詞作曲と伴奏、それにチョイ役での出演をしていたから、何だか面はゆくて」
と上島先生。
 
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「でも桜幸司は、ふだん本人以上に母ちゃんの桜クララさんが目立ってるよね」
「桜クララはテレビのバラエティではとても便利なキャラになってる感じだね」
 
その時、私は前々から疑問に思っていたことを訊いてみた。
「桜クララさんって、桜幸司の産みの親じゃないですよね?」
 
「なぜそう思う?」と雨宮先生。
「いや、勘違いならごめんなさい。クララさんって何となく男の娘のような気がしていて」
と私が言うと
「はあ?」と政子に言われる。
「ケイ、ちょっと目がおかしくない?」
と言ったが、雨宮先生が
 
「正解。よく分かったね」
と言うので一同「えーーーー!?」となる。
 

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「じゃ、どうして桜クララさんは桜幸司の母親ってことになってるんですか?」
 
「桜幸司の産みの親は、クララの姉ちゃんの栄子だよ。結婚してたんだけど私と不倫関係にあってね」
「あれ? ○○貿易の社長夫人って人?」
「そうそう。でも旦那が種無しでさ。旦那から、お前不倫してるなら、その相手から種もらって、自分の跡継ぎを産んでくれないかと言われた」
 
「ちょっと待って。そちらにも息子さんいたよね?」
「だから私の冷凍精液で栄子が妊娠した。ところが妊娠は成功したものの双子だったんだよね。二卵性だけど」
「えっと・・・」
「それでひとりは栄子の子供ということにして、もうひとりは当時既に性転換して完全に女として埋没して生きていたクララが自分の子供として育てたいと言って」
「で、ひとりずつ育てたんですか?」
 
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「そういうこと」
「あ・・・雨宮先生が、去年『男の娘を孕ませたことある』と言ってたのは、その件ですか?」
 
「ふふ。クララって小学生の内に去勢して女性ホルモンもやってて中学生の時には既に女子制服着て通学してたから、あの子が実は男の娘って知ってる人は凄く少ないよ」
「へー!」
「私やケイちゃんみたいな同類でも、なかなか分からないだろうね。戸籍もとっくの昔に女に変更してるから、少々調べても怪しい所は何も出てこない」
 
「じゃ、桜幸司と、従兄ということになってる人は本当は双子の兄弟なんだ!」
「うん」
 
「あれ、でも確か誕生日違ったはず。何かの雑誌のインタビューで、僕たち生まれも2ヶ月違いなんですよとか言ってた」
 
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「出生届をわざと遅れて出した。だから桜幸司の本当の誕生日は8月じゃなくて6月なんだよ。6って数字は8に書き直せるんだよね」
「それって、私文書偽造!でも昭和時代ならいざ知らず今の時代にそんな適当なことがまかり通るんですか?」
 
「まあ通っちゃったからね。当時は桜クララは全然売れてなかったし、やはり幸司が小さい頃はずっと付いてなくちゃいけなくてパートとかにも行けなかったから随分苦労して育ててる。充分幸司の母親を名乗る資格があると思う。まあ生活費は私がかなり援助してたよ。姉ちゃんの方にお手当あげる代りって感じで」
 
「雨宮先生って良い人なのかも」と政子。
「あら、私は良い人よ」
「先生、でも多分クララさんも食ってますよね?」と私。
 
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「あら、それは当然じゃない。当時凄く可愛かったし。姉妹まとめてひとつのベッドで逝かせたこともあるわよ」
「やっぱり雨宮先生ってそんな人だったのか!」
 
春風アルトさんがしかめっ面をしていた。
 

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2月の頭、ローズ+リリーの音源製作も終わり、私は今度は次のKARIONのアルバムの構想を練るのに、郊外を散歩していた。いくつかモチーフが浮かんだものを取り敢えずメモ帳に書き留めたが、少しまとめておこうと思い近くのロッテリア・カフェに入り、コーヒーを頼んで空きテーブルを探していたらセーターにジーンズという軽装でコーヒーを飲んでいる40代の男性と視線が合う。
 
「あら、こんな所で有名人に逢うなんて」
「いや、こちらこそこんな所で有名人に逢うなんて」
 
と言葉を交わして、彼の向かい側に座る。それは大輝の父・大林亮平だった。
 
「来週の月曜に時間が取れそうなんだけど、またそちらの家に行っていい?」
「いつでも来てください。大輝が喜びますから」
「政子が百道と付き合ってた頃は何となくあの家に行きにくかったんだけど、貴昭君と付き合い始めた頃から逆に行きやすくなったよ」
「政子も精神的に落ち着いた感じです。あの子、あまり男っぽすぎる人とは合わないみたいで。貴昭さんも亮平さんも本来のあの子の好みなんです」
 
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「それって僕は褒められてるの?それとも」
「この家では女らしいというのが褒め言葉ですよ、上様(うえさま)」
 
大林亮平はここ5年ほど時代劇の徳川家光役でお茶の間の人気者である。
 
「あはは。僕も10代の頃はテレビの番組で随分女装させられたからね」
「アイドル歌手も大変ですよね。でも亮平さんの女装は可愛かったですよ。同級生の女子でミーハーな子が亮平さんの女装シーン全部ビデオに録ってましたから」
「自分としては黒歴史にしたい気分だけどね。もっとも足の毛を剃られて、すべすべの足になるのは自分でもちょっとドキドキして道を誤りそうだった」
 
「誤ってたら、私みたいなのになってたんですね」
「あはは、そうそう。でもケイちゃんはふつのオカマタレントさんとは別だよ。そもそも女性にしか見えないもん」
「褒めても何も出ませんよ」
 
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しばらく世間話や大輝の成長のことなども話して、亮平がテレビ局に移動するまでまだ30分くらい時間があるということだったので少し一緒に散歩する。カフェを出た後、ポプラ並木を歩いていたら、公園で何かイベントが開かれていた。
 
「へー、こどものど自慢大会か」
「こんな中から将来の大歌手とか出るかも知れないですね」
「うんうん。だから結構スカウトなんかが見に来てたりするんだよ」
「ああ、そうでしょうね」
 
何となく話ながら会場に入っていく。そんなに観客が多くもないので私たちは結構ステージの近くまで来て、出演者の子供たちの歌を聴きながら、小声で会話を続けていた。
 
その時
「次はK市の小学生三姉妹、なっちゃん・あっちゃん・てるちゃんです」
と司会の人が言い、出てきた3人を見て、私はびっくりする。
 
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夏絵とあやめだ! そしてもうひとりは・・・・
 
3人はピーチ&マロンのヒット曲『キスしてみたいな』を歌い出した。あやめが歌が上手いのは知っているが、夏絵も割としっかり歌っている。そして、もうひとりの・・・・も。
 
私は隣の亮平を見た。あっけにとられている雰囲気。
 
「ね、ケイさん。あそこで歌ってるの、まさか・・・・」
「あはは、やはり亮平さんもそう思います?」
 
三人は鐘をたくさん鳴らして金賞のタブレット端末をもらっていた。そしてステージから降りてきて・・・私たちと目が合った。
 
「あ!」
「ママ、私先に帰るね」と言ってあやめが向こうに駆けていく。
「あ、私も先に帰る」と言って夏絵も走って行った。
 
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そしてもうひとりの「女の子」が残される。
 
「あ、えっと・・・・」とその子は恥ずかしそうにしている。
 
「あんた大輝?」
「う、うん」
と言って、女の子の格好をした大輝は真っ赤な顔をして頷いた。
 
「大輝、お前こういう趣味あったの?」と亮平に訊かれて大輝は
「違うよ、父上。ハメられたんだよ」と大輝。
 
亮平は大輝に自分のことを「父上」と呼ばせている。
 
「ステージ衣装に着替えようと言われて服を渡されて、僕、女の子の服とは思いもよらなくて。着てた服を脱いで渡された服を着ようとして気付いたけど、それまで着てた服を紗緒里姉ちゃんが持って逃げてったから、これ着るしかなくて」
 
「夏絵たちの悪戯か!」と言って私はつい笑ってしまった。
「でもお前、様になってるな。可愛いじゃないか」と亮平も笑いが出ている。
 
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「この格好であまりあちこち動きたくないよお。ママ、男の子の服買ってくれない?」
 
「お父上はこれからテレビ局だし、私もこれからレコード会社に行くから服を買ってあげるにしても、その用事が終わってからになるよ。あんた、私と一緒にレコード会社まで来る?」
「いやだあ!」
 
「じゃ、そのまま家に帰ったほうがまだマシだな、多分」と亮平。
「えーん。恥ずかしいよお」
 
「あんた、女の子になりたい訳じゃないんだよね?」と私は念のため訊く。
「そんなのなりたくない」
 
「でも可愛い声で歌ってたなあ。ねえ、今睾丸取っちゃえば声変わりしなくて済むから、今の可愛い声をこのまま維持できるけど。睾丸取っちゃう?」
「そんな取りたくない」
「別におちんちんまで取れとは言わないから。睾丸なんて無くたっていいじゃん。睾丸無くたってちゃんとおちんちん大きくできるしオナニーできるよ」
 
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「ママは睾丸要らなかったかも知れないけど僕は無くしたくない」
「だって蹴られたら苦しい思いするだけのものなのに」
「睾丸無かったらもう男じゃなくなるじゃん」
 
亮平は大笑いしていた。
「大輝、お前が女の子になりたいなら父も応援してやるぞ」と亮平。
「今度から輝姫(てるひめ)と呼ぶことにしようか?」
 
「勘弁してよお」と大輝は本当に泣きそうな顔で答えた。
「この格好じゃトイレにも行けないし」
 
「・・・お前。まさかトイレ我慢してる?」
「スカートって足が冷えるから。でも男子トイレに入りにくい」
 
「女子トイレに入ればいいじゃん」
と亮平も私も言った。
 
「えー!?」
 

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『みどりの目の少女』の映画が公開され、そのサウンドトラックも売れていたが前後して発売されたローズ+リリーの『怪盗の一日』も好調な売れ行きを見せていた。
 
日本はもとよりローズ+リリーのファンがいる、香港・台湾・タイ・ベトナムなどでも多数のダウンロードがなされていた。
 
「初動で50万ダウンロード行きましたからね。その後もどんどん伸びてますよ」
とレコード会社担当の如月さんも笑顔で言う。
 
「個別ダウンロードはどうですか?」
「『怪盗の一日』と『眠れる街』がやはり競ってますが、第三位に付けてるのが『草原を抜けて』なんですよ」
「へー!」
 
「何人かのラジオDJさんに聞いてみたのですが、今までに無かったサウンドだと言うんですよね」
「なるほど」
「感性が若いから、10代のソングライターですかって随分聞かれましたよ。これ、マリさん・ケイさんのお弟子さんか何かですか?」
「ああ、それに近いかもね」
「しっかり育ててあげてください。ほんとに期待の新人ですよ」
 
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「まあそういう訳で、4000円のアルバムが50万件DLされて作詞作曲印税は約1億8000万円。『草原を抜けて』の単独ダウンロードは全体の15%を占めてるから、快速紳士が受け取る印税は約2700万円だね。取り敢えず」
 
と私はあやめに説明した。
「それ・・・私がもらえるの?」とあやめは驚いている。
 
「税金で半分取られることを忘れないように」
「きゃー! ヴァイオリンかフルートか、どちらか買ってもいい?」
「いいけど、忠告。税金で取られる分を除いた中で1割だけ使って残りは貯金しておきなよ」
「うん。それママが口座作ってくれない?」
「分かった。じゃ印税を受け取るのに使う口座に貯蓄預金と定期預金をセットしてそちらに税金として払わないといけない1300万円と、貯金1100万を振り替えよう」
 
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「うん。お願い。それとやはりヴァイオリンにしようかな。買いに行くのにママ付き合って」
「そうだね。小学生が100万円の札束持って楽器店に行ったら親の所に電話掛かってくるから」
「私がお母ちゃんならそれやりかねない」
 
「ふふ。お母ちゃんはその手の伝説が多いよ。またいい作品書いたらアルバムに入れてあげるね」
「よーし!頑張って書こう」
「また添削してあげるからね」
「うん、よろしく、ママ」
 

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