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■夏の日の想い出・あの衝撃の日(7)

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品川で降りて、あまり目立たないビルの中にあるオーガニックな喫茶店でお茶を飲みながらおしゃべりしつつ、政子はまたボクの「銀の大地」を使って詩を書いていた。落ち込みからは回復したようだ。でもエンジンがまだ全開じゃない。
 
ボクはある所に電話した。
「どうもお世話になっております。この1ヶ月間もほんとに色々お世話になりました。それで今日、あの子たちのライブですよね。ちょっと私とマリの分、チケットを融通してもらえたりしません? はい。ありがとうございます」
 
「ライブに行くの?」
「そ。マーサに見せたいものがあるから」
「ふーん」
 
やがて秋月さんから「ボールペン持って来たよ」という連絡があったので、ボクたちは下に降りて、車で拾ってもらう。政子は「赤い旋風」にそっと口付けをしていた。
 
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「どこか行きたいところある?」
「ちょっと赤坂に」
「うん」
「ライブ見てこようかと思って」
「へー。チケットは?」
「さきほど確保しました」
 
車がコンサートホールのそばで停まる。
 
「へー、この子たちか」
「はい。ありがとうございました」
「じゃ帰宅する頃、また電話してね」
「はい」
 
ボクたちは秋月さんによくよく御礼を言って降りる。
 
コンサートホールの周囲には多数の10代・20代の男女がたむろしている。多分この中にはローズ+リリーのファンも結構いる。でも、政子はウィッグを付けているしボクは逆に「ケイ」として活動していた時にいつも付けていたウィッグを外した上に髪を染めている。ふたりとも「マリ」「ケイ」のイメージとはかなり変えているので、簡単にはバレないと踏んだ。
 
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果たして入場の列に並んでいても特に誰からも声を掛けられなかった。
 
「あ。 KARIONのライブだったんだ?」
「そう」
「よく当日にチケット取れたね。結構人気あるよね?」
「即日ソールドアウトしたよ」
「それでもチケット取れるの?」
「コネ」
「すごー」
 
メールで送ってもらったQRコードを携帯に表示させ、それで2名入場する。当日に無理言って取ってもらっただけあり、本来なら見切席になる席だったがかえって端っこでのんびり見ることができた。1階席の観客は公演が始まると全員立ち上がるが2階席だと立たない子も多い(特に2階席の先頭数列は危険なので起立観覧が禁止されている)のでボクたちは座ったまま観覧した。
 

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いづみ・みそら・こかぜの3人が登場し、物凄い歓声が上がる。コーラス隊の3人に、バックバンドの7人も入って演奏が始まる。
 
最初に3日前に発売されたばかりのシングルの中の曲『恋のクッキーハート』
を演奏する。それまでちょっと楽しそうな顔をしていた政子の顔が、歌が8小節も進む内に「ん?」という感じになり、16小節も行くと、ステージの彼女たちを凝視するような目になったのを感じた。
 
いづみがオープニングの挨拶をする。
 
「ね?もしかして今しゃべってる子が森之和泉?」
「そうだよ。よく分かったね」
 
森之和泉の名前は10月に上島先生と会った時に「自分たちのライバルになる」と言われたので、しっかり覚えていたのだろう。そして政子は、おそらく和泉が持っている「詩人のオーラ」のようなものを感じ取ったに違いない。
 
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その後、デビュー曲の『幸せな鐘の調べ』、同じ鐘シリーズの『愛の鐘を鳴らそう』、そしてひとつ前のCDに収録されていた『秋風のサイクリング』『水色のラブレター』
『嘘くらべ』を歌うと、政子は『水色のラブレター』を KARION が歌っている時に明らかに他の曲とは違う反応をしていた。
 
「ねぇ、バックバンドの人って5人?」と政子は訊いた。
「そうだよ。2人はサポート。どの人がサポートか分かる?」
「あの鉄琴みたいなの打ってる人とキーボード弾いてる人」
「さすが、よく分かったね」
「溶け込んでないんだよ。2時間煮たカレーに最後の方で入れるの忘れていたタマネギを入れたみたいな感じ」
「うん。適切な表現だけど、タマネギを入れ忘れる人は少ないね」
「そう? 私よくやるけど」
 
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KARIONはまだデビューして1年なので、シングルの曲だけでライブを構成することができない。夏に出たアルバムの曲や、一部他の歌手のカバー曲なども入れて演奏していた。
 
ライブ後半、休憩明けのトップで彼女たちはローズ+リリーの『遙かな夢』を歌った。
「ちょっとー、誰がこれ歌うの許可したのよ?」
などと政子は言い出す。
「ごめんね。ボクが許可した」
「罰として今夜私を3回逝かせること」
「はいはい」
 
この曲を加えられますか?というのは、入場してすぐ政子がトイレに行っている間にうまい具合にロピーで遭遇した畠山さんにお願いしたものである。狙い通りかなり政子のライバル心を刺激したようであった。
 
「今聴いていただいたのは、ご存じの通り、ローズ+リリーの曲です。同い年のユニットとして、また同じ年にデビューしたユニットとして、私たちは彼女たちのトラブルに心を痛めています。現在、活動停止状態になってしまったようですが、私たちはローズ+リリーが早く復活してくれることを祈っています」
 
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といづみはMCで語った。その言葉に大きな拍手がある。ボクはその拍手をローズ+リリーへの拍手だと感じた。政子もちょっと顔がほころんだが、すぐにまた普段の表情に戻り
 
「同情してもらわなくても復活するけどね」
などと言う。ボクは微笑む。
 
後半は「歌詞コンテスト」の入賞作品で、次のアルバムでリリースする予定の曲を何曲か、それから彼女たちのハーモニーの美しさを活かして、瀧廉太郎の『花』、文部省唱歌『故郷(ふるさと)』、メリーポピンズの『チム・チム・チェリー』、キャンディーズの『アン・ドゥ・トロワ』などといった、合唱などで取り上げても美しい歌をいくつか歌った。
 
そして最後に『広すぎる教室』『優視線』と歌うと、『優視線』でまた政子は臨戦態勢のような目をする。ほんと政子の反応は面白いとボクは思った。
 
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ライブは19時に終わったが、ボクたちは会場を出て、人の流れとは逆向きの方に歩く。夜道に車のライトだけがまぶしい。ボクは尋ねてみた。
 
「どの曲が森之和泉作詞・水沢歌月作曲か分かった?」
「分かった」
「感想は?」
「私、負けない。私、天才だから」
と言う政子の目には再びめらめらと闘争心剥き出しの炎が感じられる。
 
「上等」
 
「でも冬も、うかうかしてられないよ」
「そう?」
 
「水沢歌月は、冬に近いパワーを持ってると思う。末恐ろしい作曲家だよ。まあ冬の方が上だとは思うけどね」
「うん。ボクも油断しないよ」
と言って微笑む。
 
「よし。私、詩書くから、どこかに連れてって」
「どこに?」
「集中して一晩中、詩を書けるようなところ」
「ホテルでいい?」
「超高級ホテルのロイヤルスイートにして」
「いいよ」
 
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ボクは★★レコードの加藤課長のセクションに電話した。秋月さんはいったん自宅に戻っているということだったが、代わりに吾妻さんが応対してくれた。
 
「こちらで料金払いますので、どこか都区内の高級ホテルのロイヤルスイートが取れないか調べてもらえませんか?」
「今どこにいるの?」
「港区です」
「じゃ、そこにできるだけ近い所を探すね」
「はい」
 
吾妻さんが調べてくれた結果、結局、同じ港区内、お台場のホテル日航東京のロイヤルスイートルームが空いていることが分かり、確保してもらった。
 
「じゃ帰宅は明日になる?」
「はい、そうなります。色々お世話になります」
「今は僕たちがいちばん動きやすいから、何でも気にせず使ってね」
「ありがとうございます」
 
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タクシーでホテルまで行き、予約の名前を告げる。クレカを持っていないのでデポジットを要求されるかと思ったが、お支払いは済んでいますと言われた。朝食券まで渡された。
 
「会社で出してくれたのかな?」
「おそらく、町添さんの個人的なおごりだと思う」
「きゃー。じゃ私、町添さんにお返しできる分くらいは働く」
「よしよし」
 
ボーイさんが案内してくれて、ボクたちは、そうそう泊まることは無さそうな、ロイヤルガーデンスイートルームに入った。
 
「これ、部屋というより、おうちだね」
「うん。そう思った方がいい感じ」
 
「でも私、ロイヤルスイートってなんか豪華でバブリーでド派手な所を想像してたけど、ここは何だか落ち着く感じ」
「お金持ちの人が、家でくつろぐような感じで過ごせる所なんじゃない?」
「なるほどー」
 
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まずは各々の自宅に電話を入れる。詩津紅と若葉はそもそも2泊のつもりでいてくれたのだが、ボクたちはそれぞれによくよく御礼を言った。
 
電話が終わった後、政子はスイートルームの中を探訪していたが
 
「ねぇ。ピアノがあるよ。冬、弾かない?」
と言う。
 
「弾いていいの?」
「うん」
 
「じゃ」
と言ってボクは明るいチェリー材の外装のピアノのふたを開けると『遙かな夢』
を弾き始める。
 
「あ・・・・この歌は身体が覚えてる」
と言って、政子は歌い出す。
 
ボクは自分では歌わずに、政子が歌うのに任せておいた。政子は最初はソファに座ったまま歌っていたのだが、やがて歌いながら歩き回る。どうも「自分のポジション」を探しているような雰囲気だったが、やがてボクの左側に立つとそこでボクの肩に右手を掛けたまま歌った。
 
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その目から涙があふれてくる。
 
やがて終曲。ボクはパチパチパチと拍手をした。政子はそれに応えるかのようにお辞儀をする。
 
「でもひとりで歌うのは寂しいよ。今度は一緒に歌おうよ」
「おっけー」
 
ボクは『あの街角で』を弾き始める。ボクがメインメロディーを歌い、政子がそれとハーモニーになるように歌う。本当は春くらいのシングルに入れる予定であった曲だ。この曲を発表できるのは、いつだろうか・・・。
 
歌い終わるとボクらはお互いに拍手した。
 
「ボクたち昨夜(ゆうべ)新たに友だちとして再出発したけど、これでローズ+リリー再結成だよ」
「そっかー。私たちが一緒に歌うとローズ+リリーなのね?」
「そうだよ。12月までは須藤さんが作ったローズ+リリーだったけど、今作ったのはボクとマーサ2人が新たに作ったローズ+リリー。作ったばかりだから今は観客0人だけど、最初だからね。これを1年後には100人、2年後には1000人、3年後には1万人にしようよ」
 
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「私・・・やっぱり、歌手辞めるの、止めようかな」
 
ボクは微笑んでカバンの中から手紙の束を出した。
「なあに?」
「読んでごらん」
 
それはファンから送られてきた激励の手紙だった。政子はそれを読みながら涙を流していた。
 
「よし、決めた」
「ん?」
「私ね。ちょっとだけ休むけど、そうだなあ・・・1000年くらいしたら歌手に復帰する」
「いいんじゃない?」
「1000年待っててくれる?」
「マーサが待てと言うなら1000年待つよ」
「よし。指切り」
ボクたちは指切りをした。
 
「約束破ったら、おちんちん切っちゃうからね」
「ごめん。さすがにおちんちんを1000年後までは付けとかないよ。20歳頃には切る」
「んー。まいっか」
と言って、政子は大きく伸びをする。
 
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「あ、お腹空いた。ごはん食べよう」
と言うので、一緒にホテルのレストランに行こうかと言ったのだが・・・・・
 
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