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■夏の日の想い出・あの衝撃の日(6)
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目次 8
時間索引 #
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車の中では泣きながらいろいろなことを話していた政子も、ここでは少し気分が良くなったのか笑顔で、高1の頃の話や、中学時代の話までする。ボクはそれをずっと相槌を打ちながら聞いていた。
かなり話した所で
「ねえ、おやつ無いの?」
などと言い出す。
ボクは微笑んでバッグの中からポテチやチョコレートを出してあげた。持参してきたおやつは30分ほどできれいに無くなる。
「ああ、でも冬とたくさん話して少しスッキリした」
「毎日電話で話してたのに」
「電話で話すのと、直接会って話すのとでは違うよ」
「ふーん」
「だって直接会って話せば1分で伝えられる気持ちを電話では100時間掛かるよ」
と言った瞬間、政子の口が停まる。
ボクは自分が愛用している銀色のボールペンと、ディズニーのレターパッドを渡した。
政子が詩を書き始める。
そっと横から見ていると、ここ1ヶ月くらい彼女が書いていたような詩とは明らかに違う。恋愛上のトラブルを歌った歌のようだが、絶望とか暗黒とかいったものは含まれておらず、簡単には諦めない、といった意志を感じる歌である。
その後、政子は幾つもの詩を書いたが、どれもこの1ヶ月政子が書いていたような暗いというより絶望に満ちた詩とは明らかに違うものであった。
「ああ。私、《赤い旋風》持ってくれば良かった」
「あの子を使うと明るい詩が書きやすいみたいね」
「そうなんだよねー」
たぶんこの1ヶ月、政子はあの赤いボールペンを取り出す気力も無かったのであろう。
夕方、管理棟に行き、頼んでいたお肉や野菜を持って来てバンガローの中で鍋に入れIHヒーターで煮始める。ボクたちは制服を脱いで、普段着に着替えた。
「今夜泊まっていいの?」と政子。
「そのつもりだよ」
「冬はお父ちゃんは?」
「今週末、九州に出張なんだよね。帰るのは月曜日」
「私・・・お母ちゃんに電話しなきゃ」
「うん。一応詩津紅から話は聞いてるはずだけど、電話してごらん」
政子は自宅に電話し、母とも、そして詩津紅とも話をしていた。10分くらい話して電話を切ると、表情がまた少し明るくなっている。
「えへへ。久しぶりだね。一緒に寝るの」
「福岡のホテル以来だね」
政子は食欲が出てきたようで、用意していたオーストラリア産牛ロース1kgをペロリと食べてしまった。
「何だか久しぶりにお腹いっぱい食べた」
「マーサはそのくらい食べてないと心配しちゃうよ」
「ね」
「ん?」
「私と冬がもし結婚したら、私たくさん食費使うと思うけどいい?」
「頑張って稼ぐから大丈夫」
「何して稼ぐの?」
「マーサが一緒に歌ってくれるなら歌手して」
「ごめーん。私、歌手辞めるってお母ちゃん・お父ちゃんと約束しちゃった」
「マーサが歌わないなら、マーサの詩に曲を付けて」
「売れるかなあ・・・」
「売れるよ。だってマーサ、天才でしょ?」
「うーん。。。。」
普段の政子ならここで「もちろん。私、天才だから」とでも言う所だ。どうもまだまだ万全ではないらしい。
晩御飯のあとは、紅茶を鍋で入れて飲みながら、ここ数ヶ月のことを語り合う。
「でも私たちの活動って、こういうことにならなくても、どうせ破綻してたよね」
と政子は言う。
「よく4ヶ月もバレなかったよな、というのはあるよね」とボク。
「でも私、啓介を許さないよ。呪いを掛けといたから」と政子。
「へ、へー!」
政子は何やら黒魔術の本とか陰陽道の本とかたくさん持っている。政子がここ1ヶ月のあのダークな心理状態で呪いを掛けたら、それはちょっと怖い気もした。
「でも歌手やるのも面白かったけど、さすがに疲れたな」と政子。
「ハードスケジュールだったもんね」とボク。
政子はもう暗くなった窓の外を見ながら聞いた。
「ローズ+リリーって・・・もう無くなるの?」
「ボクとマーサがいれば、それでローズ+リリーはそこに存在するよ」
「私・・・今、誰かから『ローズ+リリーのマリさんですか?』と聞かれても『はい』と言えない気がする」
「マーサの心の中で、いったんローズ+リリーが壊れてしまったのかも知れないね」
「そうそう! そういう感覚なのよ。私、去年の夏以来、自分でもびっくりするくらい明るい詩が書けていたのに、この1ヶ月、全然書けなかった。さっき少しだけ感覚が戻ってきた気はするんだけど、まるでお刺身のパックにラップの外から触っているような感覚なのよ」
食の達人の政子らしい言い方だと思った。
「壊れたんならさ、もう一度作ればいい」
「・・・・」
「マーサ、昔さ、花見さんとのことで、マーサがボタンの掛け違いかもと言った時、ボクはそんな時は全部ボタンを外して、また初めから掛け直せばいいと言ったこと覚えてる?」
「覚えてる」
「あの時、マーサはそれやったら、もう別の服を着たくなるかもと言ったけど、ボクなら、ボクとマーサとの関係をいったん壊したとしても、再度ちゃんと作り直す自信あるよ」
「・・・・じゃ、今から私との関係を壊して。そして作り直して」
と政子は言う。
「いいよ」
と言ってボクは政子にキスし、そのままベッドに押し倒した。
毛布と掛布団を自分たちの上に掛かるようにし、ボクは政子にキスをしたまま服を脱がせていった。激しく吸われる。ボクも吸う。やがてふたりとも裸になる。ボクたちは身体を強く絡めあった。政子はもう充分濡れている。そして恍惚の表情をしていた。ああ・・・愛しい。
ボクは政子に熱いキスをした。でもキスしただけじゃ我慢できなくて、そのまま頬から首筋へ、そして鎖骨から乳首へと口付けを続ける。政子もボクの腕を取って舐めてくれている。ボクたちは唇だけでは物足りなくなってお互いの手でも相手の身体を愛撫し続けた。
ボクたちのプレイはたぶん2時間くらい続いたろうか。
さすがにくたくたになって、ボクたちは仰向けになり身体をくっつけて寝ていた。途中政子は3回くらい逝った。しかし逝った後もずっと昂揚状態が続いているようであった。
「別に入れたりしなくても、こんなに気持ち良くなれるんだね」
と政子は言った。
「入れないと気持ち良くなれないのは男の子だけなんじゃない?ボクたち女の子だし」
とボクは答える。
「これHしたことになるのかなあ」
「ボクはHしたつもりだけど。一線越えたよね?」
「うん。越えた気がする」
「ボクも何度か逝ったし、マーサも逝ったでしょ?」
「うん。。。ねえ、これって壊したの? 作り直したの?」
と訊く政子はまだ放心状態気味だ。
「破壊だよ。だって、こんなことしたらボクたちの友情はもう保てない、なんてボクたち随分言い合ったよ」
「じゃ、私たち友だちではなくなったの?」
「そそ」
「じゃ、私たち、これからは何?」
「関係が壊れちゃったから、今から、また新たにお友だちとしての関係を作って行くんだよ」
「そうだったのか!」
「Hしたのも、壊れる前のボクとマーサ。だからボクたちは今初めて会ったも同然。ボクたちの過去には何も無い」
政子はボクの顔を「へー」という感じで見つめた。
「ボク、唐本冬子というの。よろしく」
「ふーん。私、中田政子。よろしく」
などと言い合う。
「あれ?冬子ちゃん、女の子なの?」
「そうだよ。どうして?」
「おちんちん付いてるから男の子かと思った」
プレイの途中でボクのタックのテープは剥がされてしまっている。でもそれは1度も立たなかった。
「ああ、これはその内手術して取るから、無いものと思って」
「了解〜」
政子はボクに抱きついたまま、まどろむようにして幸せそうな顔をしていた。
「でも、今夜は私たちがこんなことしてるって、お母ちゃんにも詩津紅ちゃんにもバレバレだよね」
「まあ、当然Hしてると思ってるだろうね」
「ふふ。そういえば、詩津紅ちゃんと冬って、よく話してるよね」
「ああ、一緒によく歌を歌ってたから」
「へー」
「特に1年生の時はよく体育館の用具室で一緒に歌ってたんだよ」
「ふーん。。。。用具室か」
「どうかしたの?」
「中学の時にさ。彼氏と体育用具室のかげでHしようとしたことあるんだよね」
「大胆な場所でやるね」
「用具室って陰になる場所がたくさんあるんだよ」
「ああ、そうかもね。飛箱のかげとか、黒板のかげとか、マット重ねたかげとか」
「そうそう。私たちいつもそこでデートしてたのよね。でもその日はお互いに何となくそんな気分になって。服は脱がないけど、私ちょっとショーツ下げて彼はファスナー開いてそこから出して」
「裸になるよりかえって燃えるかもね」
「そうかも。私しっかり触っちゃったよ。きゃー。こんなの私のに入るかなあとか結構ドキドキした」
「でも結局しなかったの?」
「うん。もう彼のが入ってくる!と思った瞬間に人の声がしてさ」
「ああ」
「で、中断したんだよね」
「ふーん」
「その時、入ってなかったと思ってたんだけど、もしかしたら少し入ってたかも知れないなあ、なんて思う時がある」
「自分の意識でいいんじゃない? マーサがあの時入ってたかもねと思うのなら、その彼にバージンを捧げたんだと思えばいいし、入ってなかったかもと思うなら、まだ自分はバージンだと思ってればいいんだよ」
「そだねー」
と言って、政子は遠くを見るような目をする。
「冬は詩津紅ちゃんと、どこまでしたの?」
「は?」
「キスとかした?」
「そんなのしないよー。ボクたちは純粋に歌を歌ってただけだよ。ボクがピアノを弾きながら」
「うそ。そんな密室に女の子とふたりだけでいて、我慢出来るもの?」
「だってボク女の子だもん。女の子同士だから何も起きないよ」
「あ、そーか」
「女の子同士でもマーサとHなことするのは、マーサがボクにとって特別な存在だからだよ」
「特別? どう特別なの?」
「マーサのこと大好きだから」
政子はその言葉を聞いて微笑んで、それから照れるようなそぶりを見せた。ボクは政子の頬を手でつかむと、しっかりと唇にキスをした。
政子は裸のままベッドから出ると、テーブルからレターパッドとボールペンを持って来た。ベッドに再び寝転がり、詩を書き始める。
ボクは政子の肩を抱いて、それを微笑んで見守った。
やがて政子は詩を書き上げ『用具室の秘密』というタイトルを付けた。それは今日政子が書いた詩の中でいちばんの出来だと思った。
「やはりマーサは天才だよ。こんな詩書ける人、そうそういないよ」
「えへへ、そうかな?」
夕方よりは反応が良くなっている。でもまだ本調子では無さそうだ。
夜遅くまで詩を書いたりHなことをしたりというのを続けていたので朝起きたら9時だった。管理棟に行き、予約していた朝ご飯セットを持って来て、暖めてからふたりで食べる。
それから秋月さんに連絡して迎えにきてもらい、東京まで送ってもらった。
帰り道、政子はさかんに運転している秋月さんにも話しかけ、3人での会話になった。新宿や渋谷だとファンの目について騒がれるのが嫌なので比較的そういうことが起きなさそうな品川で降ろしてもらうことにした。
「でも秋月さん、休日なのに付き合っていただいて申し訳ありません」
「うん。この仕事は元々土日関係無いから。休日出勤手当・残業手当はしっかりもらうから気にしないで」
「お世話になったついでに、もうひとつお願いできませんか?」
「うん?」
「私たちを降ろした後で、政子の家まで行って、赤いボールペンを取ってきて欲しいんです」
「ああ、政子ちゃんが詩を書くのにいつも使ってたボールペンだよね?」
「はい。机の2番目の引出に入っていると思います」
「OK。私が政子ちゃんの家を訪問したら、本当に政子ちゃんが中にいるみたいだから、その偽装工作も兼ねて行ってくるよ」
「ありがとうございます」
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