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■夏の日の想い出・小6編(1)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-08-03
 
小学5年生の3学期。ある日何気なく居間にいたら、テレビでマラソンの中継をしていた。
 
「今日は何だかハイペースだよ。凄い記録が出るかも」などと母が言っている。ところが先頭を走っていた選手が20km過ぎたところで突然ペースダウンしてしまう。
「どうしたんだろ?」
「体調不良かな?」
「ペース配分ミスかもね」
 
「こういう展開だと、やっぱり野口みずきかなあ」と母。
「案外千葉真子も行くかもよ」と姉。
 
ボクはふーんと思いながら見ていた。その時、ひとりの選手が断然とスパートを掛けた。
「誰?これ」
「えっと・・・坂本直子だって」
「知らない選手だなあ」
「すぐ潰れるんじゃない?」
 
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などと母と姉は言い合っていたが、その坂本のスパートに野口が付いていき、ふたりで激しいデッドヒートを繰り広げる。
 
「へー、この坂本って選手、マラソン初挑戦だって」
「えー?凄いね」
 
ボクはそのマラソン初挑戦という選手を応援したい気分になった。
 
しかし5kmほどの競り合いの末、とうとう坂本は野口に遅れてしまう。
「あぁぁぁ」とボクたち3人相前後して同じようなため息を付く。
 
「惜しかったね」
「凄い頑張ったけどね」
 
と全員坂本を応援する雰囲気になっていた。結局レースは野口が優勝。坂本は3位に終わった。
 
しかし無名の選手がこんなに頑張ったことに感動し、ボクもあんな選手になれたらいいな、という気持ちが起きてきた。
 
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翌日から、ボクは昼休みに校舎の周りを走り始めた。
 
「突然どうしたの?」と一番仲の良い友人である奈緒に訊かれる。
「うん。昨日のマラソンに感動しちゃって」
「ああ、坂本ね?」
「そうそう。凄いなあ、と思って。ボクもあんな選手になって、あんな大会に出てみたいな、という気分になっちゃって」
 
「ふーん。女子マラソン選手になって、大阪国際女子マラソンに出場したいのね」
「あ、えーっと・・・・」
「うん、でも、頑張るのはいいことだと思うよ」
「ありがとう」
「今100m走るのに50秒掛かっていても、練習してれば15秒くらいで走れるようになるかも知れないしね」
「うん」
「それに女子選手になりたければ、ちょっとお股の改造手術しちゃえばいいし」
「あはは」
 
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奈緒は最初ボクが3日坊主で終わるかな?くらいに思っていたらしいが、ボクの昼休みジョギングは1週間たっても2週間たっても続いていく。その内ボクは放課後も校舎の周りを20週走ってから、帰るなり、まだ他の子がいたら一緒に遊ぶなりするようになった
 
「ねえ、ふつうのズボンで走るのは走りにくいでしょ?汗も掻くし。ランニングパンツ穿くといいよ」
と奈緒はアドバイスしてくれる。
 
そこで母にお願いして一緒にスポーツ用品店に行き、ランニングパンツを買ってもらった。ランニングパンツは予め家で穿いて来ておいて、昼休みと放課後にズボンを脱ぎ、ランニングパンツだけになって走るようにした。ボクが教室で最初ズボンを脱いだ時はギョッとする視線が来たが、ボクがその下にランニングパンツを穿いてるのを見てホッとした視線に変わる。
 
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ところがランニングパンツを使い始めて数日して、ボクは特殊な問題で悩み始めた。
 
「何か悩んでる?」と奈緒。
「え、えっと、ちょっと男の子固有の問題」とボクは恥ずかしそうに言う。
「ああ、ぶらぶらして邪魔なのね?」
ボクは真っ赤になってコクリと頷く。
 
「だったら簡単じゃない。手術してぶらぶらしてるものを取っちゃえばいいのよ」
「えーっと・・・・」
「まあ、サポーターで押さえておくって手もあるけどね」
「サポーター?」
 
ボクは母と一緒にスポーツ用品店に行き、尋ねてみるとランニングパンツ用のサポーターというのがあることが分かる。
「でも、それは男子選手用ですよ。お嬢さんには必要無いと思いますが。青とか黒とかのふつうのショーツを穿いておけばいいですよ」
とスポーツ用品店の店長さん。
 
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ボクは言われ慣れているので、その「お嬢さん」というのが自分のこととすぐ分かったが、母は3秒ほどかかった。
「あ、いえ、この子、男の子なので」
「え?」
 
そもそも先日買ったランニングパンツも女子用であったようだ。男子用というのを試着してみたが、お尻がきつい。
「今穿いてるものの方が穿きやすいです」
ウェストとヒップをメジャーで測ってもらったら、ウェスト56, ヒップ80である。
 
「まだ身体が成長途中だからでしょうけど、このサイズだと女性のSに近いですね。でもこの体型で、男性用のランニングパンツサポーター、サイズが合うかなあ・・・」
と言いながらも、店長さんは男性用のMサイズを出して来た。男性用のSではお尻が入らなそうだった。
 
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試着してみると、何とか使えそうである。そこでそれを2枚買ってもらった。
 
このサポーターを付けてからランニングパンツを穿いて走ると、ぶらぶらしたりせずに、快適だった。それはまるで付いてないかのような感覚で、少し女の子になったような気分を味わうことができたし、またそもそもサポーターは前開きが無いので、それ自体が女の子パンティのような感じで、そういうものを穿いているということ自体、ボクの心をとても快適にしてくれた。
 

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3月。ボクは市の子供絵画コンクールで金賞をもらってしまった。年末にクリスマス・お正月をテーマにした作品が募集されていた。その日、たまたま奈緒の家に遊びに行っていて、奈緒のお姉さんがチラシを持ってきていたので、その場にいたメンツ(奈緒・有咲・由維・ボク)の4人で思い思いの絵を描いた。奈緒のお姉さんが「じゃ、私がまとめて提出しておくね」と言っていたのだが・・・・
 
3月になってうちに『唐本冬子様』で入賞のお知らせが来た時、母は「あら、名前間違ってる」と言っていた。確かに、昔から「冬彦」が「冬子」になっちゃってる間違い郵便はしばしばあったのだが、この場合、間違いなのか(奈緒の)故意なのかは微妙だなとボクは思った。
 
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姉が「私が保護者代わりに付き添ってくよ」と言ったので、一緒に市の図書館に行き、賞状と記念品を受け取ってきた。
 
図書館の職員さんが
「女の子らしい、とっても可愛い絵ですね。ふつうの美術の点の付け方では、そんなに高得点にならない描き方ですが、個性的だし、あまりにも可愛くて魅力的なので、特に金賞にしようということになったんですよ」
とボクに言った。
 
入賞は、金賞5人、銀賞10人、銅賞30人のほか、市長賞・特別賞・村斎賞というのが設定されていた。村斎というのはこの市出身の画家で二科展などで活躍したが10年前に亡くなった人である。その三賞の受賞者と金賞・銀賞の受賞者の作品が、4月いっぱい、図書館の廊下に張り出されるということだった。
 
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「図書館の人、冬が女の子と信じて疑ってなかったね〜」
と姉はボクに缶ジュースを買ってくれて、一緒に図書館の玄関の所で飲みながら言った。
「そんな感じだったねー」
「自分で『冬子』って書いて出したの?」
「奈緒のお姉さんが出してくれたんだけどね。住所氏名は奈緒がアドレス帳見ながら書いたと思うんだよね〜」
「奈緒ちゃんの悪戯か」
「そんな気がする」
「でも最近、冬、あまり女の子の服着てないね」
「女装なんて可愛いのは小学2〜3年生までだと思うけどなあ」
 
「・・・・今日、冬がそういう服装だったのに、学芸員さんが冬を女の子としか思わなかったというのが、全てを語っている気もするんだけどね」
「えーっと・・・」
 
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「私の小さくなったスカートとか、またあげようか?」
「ううん。もらっても着ないし」
「ほんとに〜?」
「な、なんで〜?」
「取り敢えず例の場所に入れておこう。冬が着たくなったらいつでも着れるように」
「うーん・・・・」
 
「そうだ、これあげる」
と言って姉は、バッグから何かの錠剤のシートを1枚取り出してくれた。
「なあに?これ」
「おっぱい大きくするサプリメント」
「え〜!?」
「飲みたくない?」
 
「ボク男の子なのに、おっぱい大きくしても・・・」
「サプリメントだからね〜。効くも八卦、効かぬも八卦、という気がするよ。私、3ヶ月飲んでみたけど、ちっとも大きくならない」
「あはは」
「だから、冬が飲んでも、きっと男の子の機能を落とすことは無いよ」
「男の子の機能って・・・・」
「ああ。もし気に入ったら、あとで残りもあげるよ。1日1錠だって」
「ちょっと飲んでみようかな」
 
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「ふふ。ところで記念品、何だったの?」
「何だろう?」
とボクは箱を開けてみる。
「わ、可愛い」
「へー。これって、女の子用の賞品だよね」
「かもね〜」
 
それはピンク基調のミニーマウスの絵が入ったボールペンであった。端が耳の形になっていて、そこをノックすることでペン先が出たり引っ込んだりする。
「色は何だろ?」
「あ、これに描いてみるといいよ」
と言って、姉がメモ帳を出してくれた。
「わ、このメモ帳も可愛い」
「そう? じゃあげるよ」
 
それはパワーパフガールズのメモ帳であった。
「じゃ、もらっちゃおう」
「冬って、そういう可愛いの好きだもんね」
「うん、まあね」
 
メモ帳の端にちょっと書いて見ると、インクが黒であることが分かる。
 
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「でもボクの服も日用品も何か可愛いのばかり溜まっていく気が」
「それが好きなら構わないんじゃない?」
「そうだねー」
 

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ボクは毎日のランニングを始めたことで、これを理由に珠算塾を辞めさせてもらった。塾に行ってた時間に走りたいからと言って、実際学校から帰ってきてからも、近所の公園で走ったりしていた。これには父も「男の子は身体を鍛えたほうがいい」と言って賛成してくれた。
 
当時、昼休みと放課後、それに夕方の公園とあわせて、1日に10km近く走っていたと思う。その結果、小学6年の5月に体育の時間、100m走のタイムを計られたら、38秒になっていた。前年の秋に1度友人に測ってもらった時のタイム48秒(男子のクラスメイトから「俺が歩いた方が速い」と言われた)からは大幅な進歩であった。それでも女子の友人たちの中で、ボクより遅い子は1人(有咲)しかいなかった。
 
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その有咲は昨年のタイムが42秒、今年は39秒であった。
「くやし〜い。冬に負けた!」と有咲。
「ボクと一緒に毎日ジョギングする?」
「きついから、いい」
 
「冬も男子並みに走れるようになったらいいね」
「それ、絶対無理」とボク。
「ああ、冬は女子陸上選手になるつもりらしいから、男子並みになる必要は無いよ」
 
有咲は一緒に走ったりしなかったが、6年生になってから、ボクの昼休みのジョギングに付き合ってくれる子ができた。それが6年生で同じクラスになった若葉だった。
 
彼女は運動神経は良くて、小学校でもテニス部に入っていたが、足が遅いのが欠点だった。と言っても100mを22秒で走っていた。彼女はそれを15〜16秒くらいまで上げたいと言って、ボクが昼休みに走っているのに刺激され、一緒に走ろうと言ってきたのである。
 
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「遅いボクに付き合わなくても、先に走って行っていいよ」とボクは言ったが「ゆっくり走っていれば、速く走れるようになるんだよ」と若葉は言った。
「えー?ほんとに?」
「浅井えり子ってマラソン選手が言ってたから間違いないよ。名古屋国際女子マラソンで優勝したことのある選手だよ」
「へー、面白いね!」
 
「冬ちゃんも、こういうゆっくりしたペースで走っていて、100mのタイムが10秒縮んだんでしょ?わずか3ヶ月で」
「まあ、元が遅かったからね」
「何より、冬ちゃんの頑張りに刺激されるよ」
 
若葉は6年生の初め頃は「冬ちゃん」とボクのことを呼んでいたが、すぐに「冬」
と呼ぶようになる。この東京の小学校の時代に、ボクのことを「冬」と呼んだのは、奈緒・有咲・若葉の3人である。
 
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