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■夏の日の想い出・小6編(2)

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6年生の5月。その日は近くの山まで徒歩で遠足の予定だったのだが、雨のため中止になってしまう。その代わり映画を上映するといわれ、4年生から6年生までの生徒が体育館に集められた。
 
映画は2本立てで、1本目は日本の小学生の少女合唱団を描いた短編であった。歌の好きな5人の女の子が中心になって友達などを誘い、20人ほどの少女合唱団を結成する。メンバーの中のひとりのお母さんに指導をお願いし、毎日練習を重ねて大会に出場する。
 
「優勝したら学校のクラブ活動にしてもいい」と校長から言われていたので、それを目指したのだが残念ながら優勝はできなかった。しかし特別賞をもらい、これからもまた頑張ろうね、という希望あふれる未来が提示される。
 
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2本目はヨーロッパの伝統ある少年合唱団を舞台にした物語であった。入団して間もない子の戸惑いと成長の記録。練習の日々と公演での発表。仲間との友情と交流。あちこちへの遠征での旅の楽しみやトラブル。そして変声期を迎えた仲間の退団。
 
実際のどこかの少年合唱団が出演しているようで、その美しい歌声が映画の中にたくさん組み込まれていて、きれいにまとめられた感動の映画だった。感動して泣いている子も結構いた。ボクもちょっと涙が出て来た。
 
映画が終わってすぐに有咲に訊かれる。
「ね、冬って変声期が来てないよね? クラスの男子みんな太い声になっているのに、冬ってまだ中性的な声だよね」
「こういう声も出るよ」とボクはふだん使ってない男声で答える。
 
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「えー!?そんな声も持ってたのか」
「そしてこんな声もあるし」と僕は開発中の女性地声(アルトボイス)で言い「更にこういう声もある」と研究中の裏声(ソプラノボイス)で言う。
 
「すごい」
「その声は初めて聞いた」
「低い方の女の子の声は音楽の時間に使ってるよね?」
「そうそう。この声で歌ってる」
「よくそんなに色々な声出るね」
 
「色々試行錯誤してるから。でねそういう訳で変声期は来てるんだよね、悲しいことに。だから自分の声をどうまとめるかは凄く悩みながら、毎日発声練習や喉の筋肉の鍛錬してる」
とボクはふだん有咲たちと話している声(中性的な声)に戻して言う。
 
「こういう少年合唱団では昔は、ボーイソプラノを維持するのに去勢されちゃう子もいたらしいね」と奈緒。
「カストラートってやつだよね」
とボクは答える。さすがにその手の話はボクもよく調べている。
 
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「ハイドンなんかも聖歌隊に入ってて歌がうまかったから、ぜひ去勢しましょうって言われたらしいね。父親が激怒してすぐ飛んでって連れて帰ったので去勢されなくて済んだんだけど」
 
「冬はその時代に生まれてたら確実に去勢されてるよね」
「そうだろうね」とボクは笑って答える。
「でも、『もののけ姫』のテーマ歌った米良美一さんは知ってるでしょ?」
 
「ああ、あの人の声も女の人の声にしか聞こえないよね」
「別に去勢しなくたってちゃんと女の子の声は出るんだよ。ボクだって去勢してないけど、こういう声出てるし」とアルトボイスで言う。
 
「・・・冬、実は去勢済みってことない?」
「とっても去勢されたいけど、残念ながらまだ去勢されてない」
 
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「でも去勢しなくてもそれだけの声が出るなら、昔去勢されたボーイソプラノの人たちって去勢され損?」
「そんなことないと思う。去勢せずに発声法だけで女の子の声を出せる人は多分そう多くない。誰でもできるものじゃないと思うよ」
「ああ、そうかもね。冬はたぶん元々半分女の子なんだろうしね」
「はは」
 
「まあ去勢され損というとさ、男性化って、去勢してすぐ停まる訳じゃないからさ。タイミングが悪いと、去勢したのに声変わりが来ちゃったって人もいたらしいよ」
「なにそれ?」
「あまりにも可哀想すぐる」
 
「あとタマを取ったからってそれでカストラートになれる訳じゃ無い。去勢した後で音楽学校に入って10年くらい発声から音楽理論から鍛えられて初めて一人前のカストラートになれる。その訓練は厳しいから挫折する子も多かったらしい」
 
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「そこで挫折すると辛いね」
「うん。一番多かった時期は毎年4000人くらい去勢されてたらしいけど、そんなに就職先があるとは思えないしね」
「まあ、何の道でも厳しいけどね」
 
「逆に言えば、去勢しなくても、当時去勢した人を対象にやってたような訓練を去勢してない人でも積めば、それなりにかなり広い声域を持てるんじゃないかと、ボクは思うんだよね」
「なるほど、冬はそれを狙っているのか」
 

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ボクたちが去勢の話でちょっと盛り上がっていた間に男の先生たちが映写設備などを片付け、その後に音楽の先生が壇上に立った。
 
「今の映画、みなさん感想はどうでしたか? 合唱って素敵ですよね。それで実はうちの学校にはこれまで合唱部が無かったのですが、ぜひ作ろうという声が多く寄せられていまして、それで今年はその準備段階として『合唱サークル』
を作ろうということになりました。一応女声合唱でいく予定なのですが、興味のある女子生徒は前の方に出て来てもらえませんか? 活動しやすいように、練習は毎日放課後の30分を予定しています。他の部に入っている人も、その練習が終わってから、そちらの練習に行けますよ」
 
あちこちで「へー」とか「わあ」とかいう声が上がる。
質問も出る。
 
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「それ女子だけなんですか?」
「御免なさいね。最初いろいろ試行錯誤が続くと思うので、取り敢えず今年は女声合唱でいきたいんです。来年からは混声にするかもしれません。あ、男子の人でも、女の子の声で歌える人は来ていいですよ」
と先生が答える。
 
「お、それなら冬は行けるじゃん」と有咲。
「そうだね〜」
「行かない? 私も一緒にやるからさ」
「うーん。有咲と一緒なら行こうかな」
「奈緒も来ない?」
「私の音痴は知ってるでしょ?」
 
そういう訳でボクは有咲と手をつないで前の方に出て行った。結局全部で30人ほどの参加者が出た。
 
他の子たちは今日は給食の時間まで自習ということになった。
 

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音楽室に移動して、全員簡単な自己紹介をする。ボクは男の子なのでとがめられるか、あるいは参加者の誰かから何か言われるかなと思っていたのだが何も言われない。
 
「何か言われるかと思ったのに」と小声で有咲に言うと
「みんな冬のことを女の子と思い込んでるからよ」と有咲は笑って答えた。
 
映画の中の少女合唱団の子たちが歌っていた『みどりのそよ風』の楽譜が配られる。一応高音部(ソプラノ)と低音部(アルト)に分けるということになり、先生がピアノを弾きながら、高音部と低音部をそれぞれ歌ってみた。
 
「高音部出な〜い」と有咲。
「ソプラノは裏声でないと歌えないなあ」とボク。
 
結局、ボクも有咲もアルトに入ることになった。ソプラノとアルトで席替えが行われる。その時やっと先生がボクに気付いた。
 
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「あれ。君、男子だよね?」
「はい。でも女声で歌えますから来ました。ソプラノも出ますけど不安定なのでアルトに行きますね」
とソプラノボイスで答える。
 
「まだ変声期来てないんだっけ?」
「来てますよ。この声はあまり使ってないですけど」
と今度は男声(バリトンボイス)で答えてから
「でも、ふだん使ってるのはこの声で」と中性的な声で言った上で、
「そして音楽の時間はこの声で歌ってます。この合唱サークルでもソプラノよりこちらが安定してるのでアルトで歌います」とアルトボイスで付け加える。
 
「おお、すごーい。七色の声だ!」
と先生がマジで感心していた。
 
「先生、冬は実質女の子だから、女子の中に混じってても問題無いですよ。休みの日には女の子の友人たちと一緒によく遊んだりしますし、そういう時、けっこうスカート穿いて出てくるし。去年の夏休みにプールに行った時なんて一緒に女子更衣室で女子水着に着替えてましたから」
と有咲。
 
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「へー、そうなんだ?じゃ普通に女生徒と思ってていいね」
 
スカート穿いて出て行ったの2回だけだけどね〜、と思ったけど、ボクは特にその問題については何も言わなかった。水着も奈緒たちが用意していてそれを無理矢理着せられたんだけどなぁ。
 
「はい。ですからもしユニフォームとか作る場合でもスカートの制服でいけますよ」
「なるほど」
 
先生は実際問題として部員間の恋愛問題を懸念して「取り敢えず女声合唱で」ということにしたようであったが、ボクを見て、その心配は無さそうと思ったようであった。
 
その日は『みどりのそよ風』をたくさん練習した後、最後に『さらら』(ミルモでポン!のエンディング曲)を歌って最初の練習を終わった。
 
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そういう訳で6年生の1年間、ボクは昼休みには若葉と一緒にジョギングをし、放課後は有咲と一緒に「女子合唱サークル」に行くという学校生活を送ることになった。
 
合唱サークルでは基本的にはアルトに属していたのだが、ソプラノ、アルトの両方のパートを練習して、その練習を通して、刻々と声帯の状態が変化していく中で声をできるだけ安定的に出す練習もさせてもらっていた。その声を支えるために、喉の筋肉も首の運動や顔の表情を色々変えたりして鍛えていた。一方で声が潰れたりしないように、日々の喉のメンテもしっかりやっていた。
 

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夏休みに入ってすぐ。
 
早朝から電話で起こされる。電話が鳴っているのに母が出る気配も無いのでボクが起きていって取って「お待たせしました、唐本です」と中性的な声で言ったのだが、「グーテンモルゲン」と突然言われる
 
「グーテンモルゲン、リナ。ヴィーゲーツ?(お早う、リナ。元気?)」
「ダンケ。グート。ウントディア?(元気だよ、そちらは?)」
「ダンケ。グート」
 
「すごーい、冬ってドイツ語できるのね?」
「できないけど、このくらいは分かるよ。でもどうしたの?」
 
「うちのお祖父さんのお兄さんがドイツに住んでたんだけどね」
「うん」
「先月亡くなって」
「それは、大変だったね」
 
「その遺品を整理してて、大叔母さんが困ってしまったのが沢山のレコードとかCDでさ」
「へー」
「廃棄したり売却するのは簡単だけど、せっかくのコレクションを散逸させるのはもったいないでしょ。誰かこんなの聴いてくれる人がいたら、まとめてあげるのに、なんて言っててね」
「うん」
「あ、それなら私の友だちで、たくさんCD持ってる子がいるからって」
「それって・・・・ボクのこと?」
 
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「もちろん。冬の本棚ってCDがあふれてたよね」
「うん。まあ、レベルの高い演奏を聴いた方が良いって言って、お母ちゃんが買ってくれたのが、クラシックやジャズを中心に200枚くらいかな」
「おお、凄い。そのライブラリに少し加えない?」
「うーん。。。じゃ、預からせてもらおうかな」
「預かるとかじゃなくて、あげるから」
「そう? でもそれ枚数があるんなら、金額的にもけっこうな物なんじゃ?」
「こういうのは、聴いてくれる人の所にいくべきものなのよ」
「うん。分かった。もらう」
 
「ドイツから送ってもらったのが昨日こちらに届いたから、そのままそちらに昨日転送したから」
「昨日? じゃもしかして今日着いたりして」
「あ、着くかもね」
 
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