広告:ここはグリーン・ウッド (第4巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・振袖の日(4)

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さて、★★レコードの後は、12:00, 15:00, 17:00に都内のCDショップでキャンペーン・ライブをすることになっていたのだが、美空が頼んだ伴奏者さんは、何かのスポーツ大会に出場するのに来ていて、それで試合が始まる前にこちらに来てくれていたらしかった。
 
それで「ありがとうございました。助かりました」と言って送り出すものの、このあとのライブの伴奏はどうする?ということになる。
 
それで畠山さんがあらためてあちこち連絡していたが、15:00と17:00のライブには、別のキーボード奏者がアサインできるということになった。
 
「じゃ蘭子ちゃん、悪いけど12:00のライブだけは蘭子ちゃんがキーボードを弾いてくれる」
「了解です。じゃ後ろで弾けばいいんですね?」
 
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「キーボードをステージ前面に置くから、蘭子ちゃんは和泉ちゃんたちと並んだままキーボード弾けるようにするね」
 
「あはは、そうですか」
 

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15:00と17:00のライブはCDショップの屋内ステージを使うものの、12:00は屋外ステージになるということであった。屋外はさすがにミニスカでは寒い!ということで、お正月だし振袖を着ようということになる。
 
それで各自ちゃんとトイレに行ってきた上で、振袖の着付けをしてもらった。1人30分掛かるということだったので、おしっこの近い美空が「私を最後にしてください」と言っていた。
 
私が自分で着られるし、他の子に着付けもしてあげられますよと言うと、結局、10:30から小風と和泉の着付けをし、11:00から美空と私の着付けをすることになる。私が小風に、頼んでいた着付け師さんが和泉の着付けをする。その後で、私は自分で振袖を着て、着付け師さんが美空の着付けをする。私も帯だけは着付け師さんに締めてもらった。
 
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この振袖も和泉が赤、私がピンク、小風が黄色、美空が青、という各自のパーソナルカラーを使用している。
 
しかし私今年は2日から3日連続の振袖だなと思った。2日に着たのが300万円くらいの加賀友禅、3日に着たのは3万円で買ったポリエステル、今日のは正絹だがインクジェット印刷のようである。多分15万円くらいか。インクジェットは柄の自由度が高いのはいいが、どうしても手描きや型押しに比べて深みに欠け、平面的な印象になりがちである。
 
私が小風の着付けをしていると眺めていた三島さんが
「なんか手際がいいね」
と言う。
 
「私、小さい頃から民謡をしていたから、もう手が着付けの手順を覚えているんですよ」
と私は答える。
 
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「でも男の子に女の子の着付けをさせてもいいのかと一瞬迷ったんだけどね」
などと三島さんは小声で言う。
 
「あ、大丈夫ですよ。仲良しだし」
と小風。
「うん。12月16-17日の騒動でお互い何のわだかまりも無くなっちゃったしね」
と私。
 
「お風呂にも一緒に入った仲だから今更触られるのは平気」
と小風。
 
私は何となく聞き流したのだが、三島さんがピクリとする。
 
「まさか小風ちゃんと蘭子ちゃん、恋愛関係にあるの?」
「へ?」
「だってお風呂に一緒に入るって・・・・」
 
「銭湯ですよぉ!」
と私は言う。
 
「なんだ!びっくりした!」
と三島さん。
 
しかし三島さんは更に悩むようにして言った。
 
「それって・・・男湯?女湯?」
 
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「私が男湯に入る訳ありません」
と小風。
 
「だったら蘭子ちゃん、女湯に入ったの?」
と三島さん。
 
「私、男湯には入れないですよー」
 
「あんた手術終わってるんだっけ?」
「私、まだ身体にメスを入れられたことはありません」
 
小風は笑っていたが、三島さんはかなり悩んでいた。
 

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KARIONのデビュー記者会見の翌5日、私は関東ドームに出かけた。
 
明日1月6日、ドリームボーイズの初めてのドーム公演がここで行われるのである。蔵田さんはドームみたいな巨大会場でライブをやる自信は無いと言っていたのだが、レコード会社が積極的で、うまく乗せられてしまった。実際、チケットは半日でソールドアウトしている。
 
「すっごく広いですね」
「これ生の声ではとても届きませんね」
「まあPA無いと無理だよな」
「スピーカーはちゃんと遅延付きで流すから」
 
こういう巨大会場の音響は、直接響く音とスピーカーから流れる音の時間差が問題になる。関東ドームでは外野のセンターフェンス近くに設置するステージから、スタンドのいちばん奥の席までは200mほどの距離がある。この距離を音が伝わると0.6秒ほど掛かるので、スピーカーからそのまま音を流すと時間差で音が二重に聞こえてしまう。それで場内各所に設置するサブスピーカーは各々、ステージからの距離に応じた遅延を入れるのである。
 
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もっともそれでも席によっては複数のサブスピーカーとの距離の関係でどうしても二重に聞こえる所も発生する。そのような場所をいかに減らすかが音響技術者の「お仕事」である。
 

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「あ、それで明日のダンサーの衣装だけど、素敵なものを用意したから」
と蔵田さんが言う。
 
ダンサーの私たちはみんな一様に、いや〜な顔をした。ドリームボーイズのダンサー衣装は毎回ひどいのが多い。
 
夏の横浜エリーナでの公演では「大根」であった。以前バナナというのもあったし、携帯電話とか定規とか、おちんちん!というのまであった。但し、このおちんちんの衣装はさすがに社長がダメ出しをして本番前に急遽「毛筆の筆」に改造した。
 
「正月からしけた顔してどうした?今回は振袖だよ」
 
私たちは顔を見合わせた。
 
「フルーツソーダ?」
 
「どうしたらそう聞こえるんだよ?和服の振袖だよ」
 
「これって夢かしら?」
「そんなまともな服で踊れるなんて」
「天変地異の前触れかも」
 
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「何言ってんだ?お正月だし、初ドーム公演だし。まあそれで俺たちもダンスチームも全員振袖を着ようと」
 
「ちょっと待って」
 
「私たちはいいけど、孝治たちも振袖な訳〜?」
と樹梨菜さん。
 
「そうそう。俺たちは青い振袖、おまえたちは赤い振袖な」
「なぜ男が振袖を着る?」
「だって正月だし、めでたいし」
 
「あんたたち変態?」
と樹梨菜さん。私も一瞬思ったが、さすがに言えなかった。樹梨菜さんは容赦無い。
 
「俺は変態と言われることには慣れている」
と蔵田さんは開き直って言っていた。
 

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実際には今回の衣装は「着ると振袖に見える」服で、実際にはファスナー1本締めるだけで着られる服である。
 
「これ楽でいいなあ。これライブの後もらえないかな?それで来週の成人式に着てったりして」
などと竹下ビビが言ってる。
 
「振袖用意してないの?」
と鮎川ゆまが尋ねる。
 
「レンタルするにも高いでしょ? 私貧乏だし。ゆまさんは成人式、何着たんですか?」
「私は行ってない。成人式の日はライブやってた」
「なるほどー」
 
「樹梨菜さんは去年でしたよね。成人式どうしました?」
「行ったよ。背広着てネクタイ締めて行ってきた」
「さすが!」
「そうか。樹梨菜さんは振袖ではないか」
 
「ビビさん、もし私の振袖でも良かったら貸しましょうか? 私は民謡やってるから振袖は何着も持ってるので」
と私は言う。
 
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「ほんと?」
「伴奏の仕事が入ってるから、着付けまではしてあげられないけど」
「わあ。じゃ借りちゃおうかな。着付けは今から頼めば何とかなるかも」
「だったら明日持って来ますよ」
「サンキュ、サンキュ」
 

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それでこの日はこの服を着て1曲だけ踊ったが、汗がしみると洗濯不能な服ということだったので(洗うとパーツの位置がずれてしまい修復には作るのと同様の手間が掛かるらしい)、後は適当なダンス衣装に着替えてリハーサルをした。しかし元々プライベートには女装することもあるという蔵田さんの振袖はまだ良かったのだが、大守さんや滝口さんの振袖姿は笑いをこらえるのが大変だった。本人たちも嫌そうにしていた。
 
翌日の本番の日は私はビビさんに貸す振袖(型押しだがわりときれいな柄のもの)と帯を持って関東ドームに行き、ドリームボーイズの公演をした。観客席からもメンバーの振袖姿に大爆笑が起きていた。
 

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翌日1月7日(月)はもう学校が始まる。
 
私はいつものように男子制服を着て学校に出て行ったが、冬休み期間中は男物を一度も着なかったので、朝男子制服に袖を通すとき、物凄い心理的な抵抗があった。
 
たまらず一度女子制服を着てしまう。それで鏡に映したりして「自分が女であること」を確認したものの、やはりこれで出て行く訳にはいかないよなあと思い、再び男子制服に着替えてため息をついた。
 
それで学校に行き、始業式に出たあと教室に戻り、窓際に立って少しボーっとしていたら同じクラスの仁恵が、いきなり後ろから抱きついてきた。
 
「きゃっ」
と思わず《地声》で悲鳴をあげてから、
「びっくりしたぁ。何よ?何?」
と《学校用の声》で言う。
 
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「今女の子の声で悲鳴あげた」
「え?気のせいじゃないかなあ」
「ふふふ。それにブラジャーしてる」
と小さな声で指摘する。
 
「ちょっと着けてみただけ。変態でごめん」
「冬、女の子がブラジャー着けるのは普通なんだよ」
と仁恵は言う。
 

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「お正月、どこか行った?」
と私は話題を変えて言う。
 
「どこにも。寝正月してたから、今朝制服のスカートがきつかった」
「ああ。スカートのウェストって調整できないから辛いよね」
「男子はベルトである程度の調整がきくのにね」
 
と言ってから仁恵は私のウェストに触る。
「結構ウェストが余ってるのをベルトで締めてるな」
と言う。
「お正月、なんだか忙しかったし」
 
「このズボン、ウェストいくら?」
「64だけど」
「そんなサイズってあるの!? あ、これ凄いタック入ってるね」
「自分で改造した」
「そうか!冬って裁縫得意だもんね」
「うん。家族分のパジャマ、ボクが縫ってるし」
「あ、そんなことも言ってたね!」
「いい奥さんになれると言われる」
「そういう話を自己申告するのはよいことだ」
 
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「でもウェストが細いと、和服着る時は補正が大変なんだよねー」
 
「ああ。私、このお正月、振袖着せてもらったんだけど、あまり補正が要らなくてよいとか言われた」
「伝統的日本人的な体型なんだよ」
「物は言いようだな」
 
と言ってから仁恵は「あれ?」という顔をする。
 
「男の人も和服着る時は補正でタオル入れたりするんだっけ?」
「ウェストの細い人は補正する時もあるみたいだよ」
「へー、そういうものか」
 
と仁恵は言ったものの、また何か考えている。
 
「補正する時もあるみたいだよ、って冬も補正したんだよね?」
「あ、うん。補正用のタオル縫い付けたのをいくつか作ってる。ボク民謡をやるから、しばしば着物着るから」
「ああ、なるほど!」
 
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と仁恵は頷く。
 
「でも民謡の時ってどんなの着るの?」
「民謡やる人はステージではみんな振袖着るんだよねー。未婚既婚関係無し。60歳でも70歳でも振袖着てる。振袖って映えるからね」
 
「男の人も振袖着るの!?」
「え!? あ、男の人はどんなの着るっけ? えっと、羽二重とか夏なら絽とかの長着に袴・・・じゃないかな?」
 
「なんか不確かな感じ」
「いや、男の人の着物ってあまり観察したことがないもんだから」
 
「観察したことが無いって、自分でも着てるんだよね?」
「あ、えっと・・・・」
 
仁恵は顔をしかめて言う。
「ねえ、冬、もしかして冬は振袖とかを着るんだっけ?」
「え〜?まさか」
 
「なんか怪しいな」
 
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しばらく仁恵とふたりで話してたら、紀美香がやってきて言う。
 
「おふたりさん、新春からお熱いところちょっとごめん」
「別に熱くない」
「冬が女の子に恋愛感情持つ訳無いじゃん」
「あ、そうだったね。それでさ、放課後茶道部で初釜やるんだけど、今出席者が5人しか居なくてさ。寂しいからちょっと顔貸してくれない?お菓子代とかは部費で出すから参加費要らないから」
と紀美香。
 
「うん、いいよ」
と仁恵が答える。
 
「冬もいい?」
「まあお茶会くらいなら」
 
「今日はお正月だから、みんな和服を着るのよ。服は用意しているし、先生と部長が着付けできるから」
「了解〜」
 
 
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夏の日の想い出・振袖の日(4)

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