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■寒松(4)

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6月上旬。ひさしぶりに青葉の父が帰宅した。
 
「これで色々溜まってるものを払っておいてくれ」
と言って母に100万円近くありそうな札束を渡す。
 
「父ちゃん、犯罪はしてないよね?」
と母。
「馬鹿。それは土地の取引で儲けたんだよ。高速道路の計画を偶然耳にしたからさ。そこに引っかかる土地を去年買っておいたら、それが倍の価格で売れたんだ。どうせなら、もう少し買っておけば良かったよ」
 
「いや、そういうのは儲けすぎたら警察が怪しいと思って調べると思う」
「そうだな。この程度なら警察も騒がんだろうし。さて、風呂入ってからまた出かけようかな」
 
「ごめん。ガスが止まってるからお風呂無理」
「あ、そうか。すまん。じゃ銭湯行こう」
「それもいいね」
 
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そこで一家4人、父が乗ってきたセドリックに乗って市内の銭湯に出かける。
 
「この車、大きーい」
と未雨がはしゃぐように言う。
 
「仕事上の取引はハッタリが大事だからさ。それでこういう車を乗り回しているんだよ」
と父は言った。
 
母に唐突に100万円(くらい)渡したし、お父さんの商売、うまく行っているのかな、と青葉は思った。
 
父は機嫌がいいようで、銭湯に行く途中、通りかかった公園でいったんみんなを降ろし、青葉と未雨が並んでいる所の写真を撮った。母にも入れと言ったものの母は「私はいい。お化粧してないし」などと言っていた。
 

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やがて銭湯につく。ここで入口が別れている。母と姉は女湯の方に行く。青葉は、自分もそちらに行きたいよぉとは思ったものの、父に連れられて男湯の方の暖簾をくぐった。
 
入口で父が料金を払おうとした時、番台のおばちゃんから言われる。
 
「その子、小学生じゃないの?」
「ええ。小学3年生ですけど」
 
私、5年生なのに!?と青葉は思う。まあ最近ほとんど家に戻らないから子供の学年を覚えてないよね。
 
「小学生は混浴できませんよ。女の子は女湯に入れてください」
 
父は戸惑ったような顔をして
 
「こいつ男ですけど」
と言う。
 
「あれ?そうだった?ごめーん」
 
それで中に入る。脱衣場を見ると男の人ばかり!
 
いやだなあ、と思いながらも青葉は服を脱ぐ。
 
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「なんだ。お前、女みたいな服を着てるな」
と父から言われる。
 
青葉は女物のスリーマーと女の子用のショーツを穿いている。
 
「私、こういうの好きだから」
「まあいいか」
 
しかし青葉が明らかに女の子の風体で、女の子の服を着ているのを見て、周囲の視線が凍り付いているのを青葉は認識していた。
 

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取り敢えずお股の付近はタオルで隠して浴室に移動する。ここでもギョッとする視線が多数。きっとこれ小学生の女の子が男湯に入って来たと思われてるよなあと青葉は思った。
 
身体を洗うが、お風呂に入ったのは2週間ぶり(早紀の家で入れてもらった)だったので、髪は3回洗ってやっとまともになった。
 
湯船に入る。父は筋肉質の身体でむだな贅肉がまるで無い。まあ贅肉がつくほどまで御飯を食べられないのかも知れないけどな、などと青葉は思う。父の話を聞いていると、4−5日御飯が食べられないまま仕事をしていたりすることもあるようだ。
 
父はいきなり青葉のお股を触った。
 
「ふーん」
「どうしたの?」
「付いてるなと思って」
「これ手術して取りたい」
「女になりたいのか?」
「なりたい」
「まあ金は出してやれんけど、大人になったら自分で金貯めて手術すればいい。同意書くらいは書いてやるぞ」
「ありがとう。そうする」
 
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「でも毛とかまだ生えてないみたいだな」
「私、そういう発達遅いのかも」
 
父は頷いていた。
 
「お父さん、左手の肘、どこかにぶつけた?」
「ああ。半月くらい前に倒れて来た鉄骨が当たったんだよ」
「よく無事だったね!」
「一瞬、気を入れたからな」
「気を入れておくと衝撃は小さいよね。でもちょっと貸して」
 
と言って青葉は父の左手のひじを出してもらうとそこに手を当てて《手当て》をした。
 
「ああ、なんだか痛みが少し取れた気がする」
「お風呂入っていれば速く良くなると思うよ」
「なかなか入れん。きょうは2ヶ月ぶりくらいだ」
「大変だね!」
「でもこういう治療は、お前、曾祖母ちゃんゆずりみたいだな」
「うん。曾祖母ちゃんに色々教わったんだよ」
「その体質をお前は引き継いでいるみたいだ」
「でもお父さんのお祖母ちゃんも巫女さんしてたんでしょ?」
 
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「うんうん。俺の母さんの母さん・麻杜鹿さんが神がかりになる巫女だったらしい。俺の父さんの母さん・初子さんは歌手で若い頃はレコード結構吹き込んだらしいけど、霊感が強くてプロじゃないけど他の歌手とか作曲家とかに頼まれて占いをしてたというんだよな。どの曲が当たるかとかどの新人が売れるかとかピタリと当ててたらしい」
 
「すごーい」
 
「お前のお母さんの、母方の祖母ちゃん・賀壽子さんはご存じ凄い拝み屋さんだったし、父方の祖母ちゃん・桃仙さんはイタコをしていたんだよな」
 
「うん。そのあたりはお母さんから聞いた」
 
「青葉はたぶん4人の曾祖母ちゃんから、霊感体質を受け継いでいるんだよ」
 
と父は言った。
 
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「だけど俺は霊感あまり無いし、お前の母ちゃんは全く無いし、未雨も霊感ゼロだよな」
と父は言う。
 
「霊感ってたぶん劣性遺伝なんだよ」
「うんうん。そうかもという気はする」
 
青葉の父に関する記憶というのは、その半分以上が殴られたり、殺され掛けたりという記憶なのだが(父は少なくとも5回以上青葉を殺し掛けている)、このお風呂で30分くらい話したのは、数少ない「優しい父の記憶」だ。おそらくは商売が思いの外うまく行って、とても機嫌が良かったのだろうという気もする。
 
お風呂からあがって服を着ていた時、さっき入って来た時に番台に座っていたおばちゃんが男湯脱衣場の掃除をしていた。そのおぱちゃんが青葉を見て言う。
 
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「あんた、やはり女の子だよね?」
「え?」
「だっておちんちん無いじゃん」
 
青葉はちょうどあのあたりの《始末》をしたところであった。
 
「すみませーん。ごめんなさい」
と青葉は言う。
「あんた、娘さんはちゃんと女湯に入れてあげないといけないじゃん」
とおばちゃんは父にも言う。
 
「あ、済みません」
と父は謝った。言い訳するとよけい揉めそうなので取り敢えず謝った、と父はあとから言っていた。
 
「青葉、やはりお前もうチンコ無いんだっけ?」
と父は青葉に訊いたが
「えへへ。秘密」
と青葉は答えた。
 

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父は翌朝、母と大喧嘩してまた飛び出して行った。
 
「なんかいつものことだねー」
と未雨が言うが青葉も同感である。
 
中旬。青葉たちの学校の将棋部は、将棋の気仙地区大会に参加した。大船渡市・陸前高田市・住田町という「旧気仙郡」から8つの小学校の12の将棋部チームが参加した(2006年までは気仙広域生活圏と呼ばれていた地域。この地域には当時28の小学校があった)。
 
青葉たちの小学校からは2チーム出たが、Aチームは大将宮坂(6)、副将木嶋(6)、三将大村(5)、四将登夜香(5)、五将青葉(5) というメンバーで臨んだ。この代表を決めるのには部内でランダムな組合せで4局ずつ対局し、4勝した宮坂部長と登夜香・青葉を確定として、3勝した6人で早指しのリーグ戦をし、成績上位の木嶋・大村をAチームに入れ、残りの4人と、もうひとりは宮坂君が指名して5人でBチームを編成した。宮坂君は4勝の登夜香と青葉を副将・三将にしようとしたのだが、ふたりが抵抗したので四将・五将にしている。
 
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剣道や卓球の団体戦なら順番に出て行って1人ずつ対決するが、将棋や囲碁の場合は盤を5個並べて置いて同時進行である。登夜香と青葉がチェスクロックの使い方を知らないことが当日判明したので、慌てて宮坂君が使い方を教えていた。
 
Aチームは1回戦が不戦勝で2回戦からであった。1回戦から勝ち上がった住田町のチームと当たったが、宮坂君・木嶋君・登夜香・青葉が勝って勝ち上がる。相手は全員男子だった。更に準決勝で同じ大船渡市内の学校と当たるが、これは5人とも勝った。向こうのチームは四将の登夜香の相手だけが女子で他4人は男子だった。
 
そして決勝戦になる。相手は2回戦で青葉達の学校のBチームを破っている陸前高田市の学校である。副将が女子の他は4人男子だ。
 
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早々に登夜香と青葉が相手の四将・五将を倒す。そのあと三将戦が決着が付き大村君が敗れる。残り2つが接戦になっていた。木嶋君と対戦している女の子が凄く強そうなオーラを持っていた。やがてその子の1手を見て木嶋君が投了する。
 
「もしかして、あの女の子、大将の人より強くないですか?」
と青葉が大村君に小声で訊くと
「俺もそう思う。本当はあの子が大将になるべき所だけど女だから遠慮したんだろ」
と彼も答えた。
 
そして勝負は宮坂君と相手大将の対局次第となる。青葉が見た感じでは宮坂君が劣勢だ。青葉は、あくまで「駒の勢い」で判断しているので具体的な決着への道のりが見えている訳ではない。
 
しかしここで相手大将が明らかに間違った手を指した。青葉は思わず声を出したくなったが、宮坂君は冷静に正しい応手を指し、それを見て相手の大将が「あっ」と声を出す。おそらく将棋の分かる人にはかえって見えにくい筋だったのだろう。
 
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そのあとお互いに1手ずつ指した所で相手が「負けました」と言った。
 
登夜香が「これどうして投了なの?」と小声で聞くが、それは青葉も分からないので「分からなーい」と素直に答えた。でも周囲のギャラリーを見ていると、そこで見ている人の多くは投了の理由が分かっているようだった。
 
別の所で3位決定戦も行われていた。それで1−3位が表彰される。青葉たち5人と顧問の先生も並んで、記念写真もとってもらった。
 
「気仙大会で優勝したから来月盛岡で県大会な」
「えー? 私、交通費無い」
などと青葉が言ったら
「交通費くらい学校から出るよ」
と宮坂君は笑って言った。
 

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7月。学校は夏休みに入る。青葉は今年の夏休みは生きて過ごせるかなあと少し不安になった。夏休みは1ヶ月にわたって学校が無いので、青葉も未雨もその間給食が食べられない。6月に父が母に渡した100万円は溜まっている公共料金や学校の納入金を支払ったら半分近く無くなり、その後一部の借金を返済したら数日で全部無くなってしまった。ただ母は7月からまたパートに出始めたので、とりあえず8月上旬にはお給料が入るはずである。しかしそれまでの生活費は無い! 青葉は「またお父さんの名前でお母さんの口座にお金振り込むかなあ。でも口座に入れると変な物が引き落とされてしまう可能性もあるし」などと悩む。
 
ところが夏休みが始まってすぐの土曜日、祖母(母の母)市子がやってきて、「あんた、パートに出てるなら日中、未雨と青葉をうちで預かろうか?」と言ってくれた。それでふたりは取り敢えず毎日お昼御飯は食べられることが確定した!
 
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青葉は母や姉が居ない時に祖母に尋ねた。
 
「私さあ、やはり霊的な相談事でもらった報酬、お母さんに渡した方がいいのかなあ」
「それはやめときなさい」
と市子は言う。
 
「あんたにそういう収入があると分かったら、あの子はあんたに頼りっきりになる。本当は親が子供たちを育てる義務がある。あの子、無責任すぎるんだよ。だからあんたが収入を得ていることは秘密。あんた自身もよけいな現金は持たないようにしておきなさい」
 
「そうだね。やはり今まで通りにする。お祖母ちゃんには毎月2万渡すね」
「まあそれで私もあの子に毎月4万渡しているんだけどね」
 
祖父が事実上寝たきりになっているので、年金暮らしの祖母の家も決して楽な状態ではない。
 
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「それで私もお姉ちゃんも無理心中させられなくて済んでる」
「危ない親だなあ」
 
「お母さん、彼氏からも毎月いくらかもらってるみたい。彼氏の所に私たち連れて行ってもらって、一緒に御飯食べたこともある」
 
「お前たちのお父さんとはどうなってるの?」
「お父さん、最近は何ヶ月かに1度しか帰ってこないよ」
「離婚はしないのかね?」
「お互いに好きではあるみたいだよ。帰って来たら、ちゃんと一緒に寝てるもん」
 
「あんた、ませたこと言うね」
と祖母。
「私、小1の頃からおとなと話してるみたいだと言われてた」
 
「でもあんた寝るって意味分かってんの?」
「うーん。実はあまりよく分かってないかも。あのあたりとあのあたりで、ああするのかなあ、とかは思うけど」
「まあ、だいたいそういうことだよ」
と祖母は少し苦しそうに笑いながら言った。
 
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「でもあんたはそういうおとなの夫婦のすることの、どちら側になりたい訳?」
「おちんちん使いたくないよ。私、入れられる方になりたいよ」
「そうなれたらいいね」
と祖母は優しく青葉に言った。
 
 
 
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