広告:まりあ†ほりっく 第3巻 [DVD]
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■寒松(3)

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実際には大船渡の市街地近くまで青葉が運転し、そのあと車の量が増えたので天津子に運転を交代して、佐竹家まで行った。
 
「この本なんだよ」
と言って青葉は天津子に本を見せる。
 
「何これ? 何が『性魔術入門』よ。中身は超高等魔術ばかりじゃん」
と天津子。
 
「天津子ちゃん、ヘブライ語が読めるんだ?」
「そのくらい常識でしょ?」
「私、その本読めるようになるまでヘブライ語2ヶ月くらい掛けて勉強したよ」
「2ヶ月もかかるなんて川上さんらしくない。外国語なんて1週間でひとつ覚えられるでしょ」
「そんなにすぐ覚えられるって、海藤さん、外国語の天才だと思う」
 
天津子はその本を熱心に読んでいる。
 
「ね、これ借りていってもいい?」
「いいよ。その本は既にスキャンも終わっているし」
 
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青葉は3年前から人を雇ってこの蔵書の電子化を進めているのである。
 
「じゃ借りていこう。ついでにこの本とこの本も借りていい?」
「うん。それもいいよ」
「よし。ちょっとこういうの覚えちゃおう。この男性器を縮小させる方法というのも面白そうだなあ」
「他人で実験しないように」
「自分じゃ実験できないし」
「確かに」
「川上さんのはもう立たないみたいだし」
「さすがに立たないよ」
 
と青葉は笑って答えた。
 
「でもこれ、ザインを使うとペニスが縮小するみたいだけど、アレフとかギメルを使うのも面白そうね」
と天津子が言うと
 
「え?」
と青葉は驚く。
 
「そんなのどこかに書いてあった?」
「書いてないけど、容易に想像が付くでしょ? ザインは剣を表す。ペニスに対応するのは妥当」
「そういうのは考えなかった」
 
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「おそらく立っているペニスはザインで立っていない時は蛇を表すテットだよ。呪文はただの音の羅列じゃない。ちゃんと意味がある。たぶん睾丸を縮小するのは牡牛を表すアレフ。ギメルは女性を表すから卵巣の縮小。ベートは家を表すから恐らく子宮。門を表すダレトが膣かな。ただ、男性器の縮小に金星を表すネツァクを使っているから女性器の縮小は火星を表すゲブラーかも」
 
「それって逆に増大にも使えるってこと?」
「だと思ったけど」
 
「試してみたーい」
「ね?」
 
「これって病気の治療にも使えるよね?」
「悪化させるのにも使える」
 
「何か悪いことしてみたくなる」
「私も−」
 

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ふたりはしばらく「いけない想像」で盛り上がった。ふたりで人間の色々な臓器、また病変などについて、この場合はこの文字を使うのではとか、この臓器はこの文字とこの文字の組合せだよね、などという話もした。そのうちふたりが元の呪文を変形させていった、ある呪文が「あれ?それって見たことあるよ」という話になり、別の本を見ていたら、確かにそのふたりが変形させた呪文とほぼ同じものが載っていたのである。それでふたりは自分たちの検討の正しさを確信した。
 
ふたりで検討した内容はノートにまとめ、コピーを取って1部ずつ持った。
 
そのあと天津子は青葉を自宅近くのコンビニまで送ってくれて、それで別れた。
 
「気をつけてね。おまわりさんに捕まらないようにね」
「平気。平気。おまわりさんがいる所は2kmくらい手前から分かるからやり過ごす」
「さっすがー」
 
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連休が終わるまで青葉の一家は何とか一家心中をする羽目になることなく生きながらえた(母もお腹が空きすぎて自殺まで考えきれなかったのではないかという気がする)。青葉は取り敢えず溜まっている水道代と電気代だけ払ったので、水道と電気が復活した。未雨は「水が出る!」と喜んでいた。母も電気コンロで肉無し鍋物など作ったりした。
 
学校が再開されるが、青葉と登夜香は将棋の基本的なルールを覚えるとその先はわりとぐいぐい上達していった。5月中旬には矢倉を教えてもらい、それでお互い戦うようになる。振り飛車・居飛車などというのも習うが、ふたりがどこまで理解したかは不明である。
 

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5月下旬。
 
運動会が開かれる。青葉が出るのは、徒競走(100m)、四人五脚、マスゲーム、そして鼓笛隊である。
 
徒競走は男子のグループで出たが、青葉は身体を鍛えているので1着でゴールする。するとゴール近くに居た保護者が
 
「今の競争、女の子がトップだったね」
「うん、凄いね」
 
などと話していた。
 
四人五脚は先生は最初男子と同じ組に入れようとしたのだが、他の男子が嫌がる。
 
「先生、川上は女だから、女子と組ませてくださいよ」
とクレームが付くし、女子の方からも
「川上さん、私たちと一緒でいいですよー」
という声が出たので、めでたく女子と一緒に走ることができた。
 

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昼休みは青葉は当然お弁当など無いのだが、当然青葉は弁当無しと認識している早紀が呼んでくれて、一緒におにぎり・稲荷寿司・唐揚げなど食べた。青葉は無表情なので、他の子の親はしばしば気味悪く思ったりするものの、小さい頃から青葉を知っている早紀の母は、優しく青葉に接してくれた。
 
昼休み直後に行われる鼓笛は、指揮者、カラーガード4名の後、ベルリラ2名、マーチングキーボード6名、大太鼓1名、そして小太鼓・メロディオン・ファイフ・リコーダーが多数という構成である。
 
大太鼓・小太鼓およびリコーダーは男子で、青い衣装(もちろんズボン)を着ており、メロディオンとファイフは女子で白い衣装(膝上のスカート)を着ている。青葉が女子の衣装を着てメロディオンの所にいるのを見て担任は
 
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「川上、そうしてるとほんとに女の子みたいに見える」
と言ってから
「あ、ごめん」
 
と言ったが、クラスメイトたちは
「先生、川上は女に見えるのが当然だから、そこ謝る必要無いです」
と言う。
「いや、女に見えるというより実際女だよな?」
とひとりの男子。
「女子たちの話ではチンコ無いらしいし」
と別の男子。
 
すると早紀が
「青葉におちんちんある訳ないじゃん」
と言った。
 
この時期、青葉はひとりだけ別室で着替えていたので、青葉の最近の下着姿を見たことのある子は咲良・早紀・登夜香などほんの数人に限られていた。
 

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運動会のラストは6年生のフォークダンスなのだが、そのひとつ前に行われた5年生のマスゲームは男子が中央で組み体操をして、女子は周囲で人文字を作るようになっていた。
 
青葉はここでも最初男子の方に入れられそうになったものの、男子・女子双方からの声で、無事女子たちと一緒に人文字の方に参加することができた。
 
「だって女と組んでピラミッドとかできませんよ」
「俺、川上の身体に触ったらチンコ立っちまった」
 
などと男子は言っていた。
 
この時期、青葉はまだ胸は膨らんでいないものの、脂肪の付き方は女子のようになってきていたのである。
 

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6月に入った頃、青葉と登夜香が何とか形になる将棋を指すようになったので、宮坂君は他の男子部員と何度かふたりを指させてみた。
 
すると高確率で青葉や登夜香が勝つのである。
 
「おい、お前ら、手抜きすぎだろ。こないだまで歩の動かし方も知らなかった初心者に負けるなよ」
と宮坂君が言うか
 
「いや、こいつら強いですよ」
と対戦した部員は言う。
 
それで宮坂君が青葉と指してみたのだが・・・・
 
「負けました」
と言って10分後宮坂君は頭を下げた。
 
「え? 勝負ついたんですか?」
と青葉。
 
「どうしてこれが詰みなんですか?」
と登夜香も訊く。
 
「いや、この状態になっていたら、これをこう指して、ここからこう来ると、もう僕の玉は逃げ道が無くなる。だから僕の負けなんだよ」
 
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「えー、そういうのさっぱり分からない」
と青葉は言っているが
 
「将棋では、この展開からは自分の負けは確定と判断できたら、本当に詰みになるまでは指さずに『負けました』とか『ありません』と言って負けを認める。これを投了というんだよ。試合では基本的に負けたと分かった側は投了するのがマナー」
と対局を見ていた別の6年生・木嶋君が説明してくれる。
 
「ボクシングでセコンドがタオルを投げ入れるようなもの?」
と登夜香が訊く。
「そうそう。それに近い」
 
「でも川上、物凄く強いじゃん」
と宮坂君。
 
「いや木村の方も凄く強いですよ」
と木嶋君が言う。
 
「お前ら凄い上達してる。随分勉強したろ? 中盤の展開が凄いもん。定跡の本とかたくさん読んだの?」
 
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「じょうせきって何ですか?」
 
宮坂君は目をぱちくりさせる。
 
「あのさ、中盤の展開で」
と言って宮坂君は今の青葉との対局で結果的に勝敗を決した場面の盤の状態を再現する。
 
「ここでふつうの奴ならこの飛車を飛び込ませて成ると思うんだ。ところが、川上はここでいきなり金を打ち込んだ。なんでここで金を打とうと思ったの?」
 
「それはねー」
と青葉は登夜香を見る。
 
「そっちの方が駒の勢いが強くなるからだよね」
と登夜香は言う。
 
「どういうこと?」
「私も登夜香ちゃんも、特に中盤ではどう指していいのやら全然分からないから駒の配置を見て、こちらの勢いがより強くなる手を選択しているんですよ」
 
「勢いって?」
「それは盤を見れば分かるよね?」
と登夜香。
「うん。目玉焼きを焼いていて色が変わってきたのを見て火の通り加減を判断するのと似た感覚かな」
 
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宮坂君は少し考えると、教室内のパソコンで何かを検索し、それを見て盤上に駒を並べてみた。
 
「ここで先手は次、どういう手を指すのがいいと思う?」
 
青葉は即答で二段目にある馬を六段目まで下げた。
 
「凄い。正解! これは去年の大王戦七番勝負で勝敗の分かれ目になった1手なんだよ」
 
「でもこれ分かるよね?」
と青葉は登夜香に訊く。
「うん。私でもそこはそう指す」
 
「これ普通の奴なら五段目に下げるんだ」
「五段目に下げるのは敗着になると思う」
「うんそれは酷い手」
 
「お前たち天才なんじゃない!?」
 
ところがそこで、ふたりのことを知っている子が言う。
 
「こいつら霊感がハンパ無いから、霊感で指してるんですよ」
「霊感?」
と宮坂君が聞き直す。
 
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「木村のお祖母さん、それから川上の曾祖母さんが、物凄い霊能者なんですよ」
「へー!!」
 
と言ってから、
「あ、そうか。うちの兄ちゃんの祈祷してくれた木村さんって、もしかして君のお祖母さんだったのかな」
と言う。
「木村って名前で祈祷するんなら、そうかも」
と登夜香。
 
「川上の曾叔母さんも凄いの?」
と宮坂君。
 
「凄かったらしいです。もう亡くなったんですけどね」
と登夜香。
 
「へー」
と宮坂君は感心するように言った。
 

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