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■春宮(6)
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さて、住宅情報誌を見て、青葉たちが目を付けた物件は、成増駅から徒歩12分のワンルームマンションで22000円という所、上石神井駅から徒歩15分のワンルームマンションで19000円、そして尾久駅から徒歩8分のやはりワンルームマンションで23000円という所である。
「安い所から見たい!」
という筒石さんの希望で、まず上石神井に行くことにする。渋谷に出て山手線で高田馬場に移動して西武新宿線に乗ればいいかと思ったのだが、筒石さんは
「いや、表参道から高田馬場まで地下鉄で行った方が安い」
と主張した。
「どうやって高田馬場まで行くのよ?」
「九段下経由で行ける」
表参道から半蔵門線で九段下まで行き、そこから東西線に乗り換えて高田馬場に行くのである。
「なんでそんな遠回りを」
「でもそちらが安い」
ということで、表参道→九段下→高田馬場→上石神井
というルートで移動した。
最初青葉たちが発想したルートだと、メトロ・山手線・西武新宿線と3社を経由するので536円になるが、筒石さんが提案したルートだとメトロ・西武新宿線と2社で済むので401円になるのである。(むろん所要時間は長くなる)
青葉は筒石さんって、結構たくましく都会で生きてるじゃんと思った。
駅から徒歩15分と書かれていたのだが、スポーツマンばかりなので実際には12分ほどで到達した(普通の人なら多分20分掛かる)。
「みんな歩くスピード速いな。女に負けられんと思って頑張ったけど、男辞めたくなった」
と言っていたのが、この中で唯一の男性である筒石さんである。
「男辞めるならあそこ切ってあげようか?」
「女の水着の方が水の抵抗少ないけど、おっぱいの分の抵抗が増えそうだ」
「まあ私日本代表だし、千里さんも日本代表だし、青葉ちゃんはこないだの大会で日本代表に次点だったし」
とジャネが言う。
「すげー!日本代表になってないのは俺だけか!」
と筒石。
「私も代表にはなってません」
と青葉。
「青葉ちゃん、次のジャパンオープンでは頑張りなよ。日本選手権で次点だったんだから、次で優勝すれば追加招集されるかもよ。私が出ないからチャンスだよ」
とジャネ。
「忙しいから日本代表とかやりたくないです」
と青葉。
そういう訳で物件を見る。
「うーん・・・・」
と声をあげたのはジャネである。
「ちょっとここは。。。。ちー姉はどう思う?」
と青葉は一応千里姉に声を掛けた。
「次行こうよ」
と千里。
「だよね〜」
とジャネが言う。
「おいおい、みんなどうしたの?」
「まあ死にたくなかったら止めた方がいいね」
とジャネは言った。
ここでジャネが発言した。
「提案。ここから12分歩いて上石神井駅まで戻って、また高田馬場・池袋と経由してから東武東上線に乗って、またまた成増駅から10分歩くのって面倒くさいと思う」
とジャネは言う。
「ここは上石神井駅より北にある。次の目的地は成増駅より南にある。直接移動すれば多分5kmくらいしかない」
「じゃ走る?」
と筒石は言った。
「じゃ君康は走って来てね。私たち3人はタクシーで行くから。あ、タクシー代は私が払うから心配しないで」
とジャネ。
「待って。タクシー使うなら俺も乗せて」
と筒石は言った。
それで電話で近くのタクシーを呼び、それで移動するとほんとに短時間で目的地に着いてしまった。料金も1610円で済んだ。
そして2番目の物件を見る。
「私には分からない」
と言ってジャネがこちらを見る。青葉は腕を組んで考えた。
「今“は”問題無いと思う」
と青葉は言った。
「でも多分ここは良くないことが起きる。ね、姉さん」
と言って、確認するかのように千里姉を見る。
「2年後にここガス爆発が起きるよ」
と千里は言った。
「あぁ・・・」
「じゃ次に行こうか」
とジャネ。彼女もああいう言い方をしたのは何か感じ取ったのだろうが、具体的なことは分からなかったのだろう。
それで地下鉄成増駅まで8分ほど歩いて到達する(東武東上線の成増駅まで行くより近い)。そして地下鉄で池袋まで出てJRで尾久駅に移動した。そこから6分ほど歩いて、今回候補にした最後の物件を見た。
ジャネが頭を抱えている。
青葉は顔をしかめた。
ところが千里が嬉しそうにしている!!
「お姉さんの見立ては?」
と青葉は訊いてみた。
「このワンルームマンションより、隣のマンションの方がいい」
と千里は嬉しそうに言っている。
「ああ、そうかもね」
と青葉も投げ遣りな表情で言った。
何さ、この凄まじいスポットは?
しかしそうか、姫様が『餅は餅屋』と言ったのは、こういうことか!
「使えるの?」
とジャネが心配そうに尋ねた。
「馬鹿とハサミは使いようってやつでしょ?」
と青葉。
「そうそう。そこのマンション方の管理会社を呼ぼうよ」
と千里は言った。
「そちらのマンションですか?でも高いですよ」
と筒石が言う。
そのマンションは9階建てだが《空室あり.8万円〜》という看板が掛かっているのである。しかし千里は言った。
「大丈夫。半額以下で借りられる。それに家賃は私が払うよ」
「へ!?」
不動産会社のスタッフは電話をしてから5分ほどでやってきた。
「こちらのマンションに興味をお持ちですか?」
とニコニコした顔で言っている。
「中を見せてもらえます?」
「はいはい、ただいま。何階がよろしいですか?」
青葉はこの不動産会社のスタッフの訊き方はおかしいと思った。普通なら何階と何階が空いているのですが、どちらがいいですか?とか訊きそうなものである。しかしその前提無しにいきなり「何階がいいか」と訊いた。
つまり、どの階も空いているのだろう!
「1階がいいんですが」
と千里は言う。不動産屋のスタッフは明らかにギクッとした表情を見せた。
ちー姉が居なきゃ私だってそこの1階には近づきたくないよ!
それで敷地内に入り、1階を見て回る。
「あ、この部屋がいいな。空いてます?」
と千里。
「はい。空いてはいますが・・・」
とスタッフはさすがに心配になってきたのだろう。
ここは明らかに「跡」がある。ただ“中心部”には何も居ない。何かが居た気配だけが残っている。ひょっとして一瞬で処分した?
「あのぉ、よかったら上の階もご覧になりませんか?」
とスタッフは言った。
多分こちらを心配して言っている!
「いえ。この部屋が最高に素敵です」
と千里は言った。
「そうですか?では取り敢えず中を」
と言って、スタッフは鍵を開けて、その103号室を見る。このマンションは1つのフロアに4つの住居が設定されている。千里が気に入ったのは、その中の真ん中右側の区画である。方位は・・・北東。鬼門を向いている!
恐る恐る中に入る。千里が「筒石さんを守って」と脳内直信してきたので、笹竹に護衛させる。むろん千里も青葉も多分ジャネも自分の身は自分で守れる。しかし濁流の中に身を置いている気分だ。社員さんが少し心配だが、まあ何とかなるだろう。
部屋は2LDKSであり、実質3部屋+キッチンである。IHが入っており、ガスの使用は禁止であることを説明される。エアコン付きである。
しかし・・・
正直青葉はさっさとここを出たい気分だった。ジャネもかなり緊張しているが、千里は楽しそうだ。
「とっても素敵な部屋ですね。ここを借りたいのですが」
と千里は言った。
「分かりました。では事務所で手続きを」
ということになり、不動産会社の人の車(ハイエース)に乗って事務所に行く。
「失礼ですが、皆さんの関係は?そちらの髪の長い方が借り主さんですか?」
「はい、そうです。あとは髪の短い長身の女性は私の妹、坊主頭で男性に見える子も妹で、バーゲンの売れ残りのような服を着ているのは私の兄です。4人兄弟なんですよ」
と千里が言う。
「え!?え!?」
ジャネは吹き出していたが、青葉は「ひっどーい!」と思った。
「俺、妹だっけ?」
と筒石さん。
「その子、男性ホルモンやってるから男に見えるけど、ちゃんとおっぱいありますから」
「そうですか!まあ最近はそういうのも多いですよね」
と不動産会社の人は納得!?していた。
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