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■春代(6)

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4月3日(金)の夜9時。青葉は東京都内ББ寺で住職をしている瞬法さんと一緒に千里のインプレッサに乗り込み、奈良に向かった。(青葉は春休み中千葉の彪志の所に滞在していた。奈良に行ったあと高岡に戻る予定である)
 
「瞬里ちゃんも瞬葉ちゃんも知ってたけど、ふたりが姉妹というのは全然知らなかった」
などと瞬法さんは言う。
 
「瞬葉は凄いですけど、私はただの気まぐれで名前を頂いただけですから」
と千里は運転しながら言う。
 
「結果的には師匠の最後の外出になった、2011年の私の親族の葬儀の時も姉が師匠を車で奈良までお送りしたので、その時に名前を頂いたそうです」
と青葉。
 
「その時、この車を使ったんでしょ?」
と瞬法さんが言う。
 
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「はい、そうです」
「助手席に乗ったよね?」
「よく分かりますね」
 
「ほんのわずかだけど、師匠の気配がこの車には残っている」
と瞬法さんは言う。
 
おそらくそれは瞬法さんにしか分からないものであろう。青葉にもそれを感じ取ることはできない。
 

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車は東名の美合PA、伊勢湾岸道の湾岸長島PA, 名阪道の針TRSと休憩して朝6時頃、高野山の★★院に到着した。瞬法さんは千里に「君はずっと運転していたから少し寝ていなさい」と言い、瞬法さんと青葉で、瞬嶽師匠の三回忌の準備の手伝いに入った。
 
既に一門の主座である瞬嶺さん、大阪のЛЛ寺で住職をしている瞬高さんなども来ているが、青葉はその人たちにとっても、現在★★院の首席である瞬醒さんにとっても「使いやすい」ので、大忙しであった。
 
朝7時頃菊枝さん(瞬花)が来て、8時頃千里も起きてきたので、その後はそういう細々とした作業はこの3人で分担してやれるようになり、少しは楽になった。
 
しかし全国から多数の弟子たちが来ている。また高野山の他の寺院から顔を出してくれている人もある。中にも超大物の来訪もあるので、瞬醒さん・瞬法さん・瞬高さんの3人で主として応対していた。瞬嶺さんは法事の導師を勤めるので、基本的にはあまり動かないようにしていた。
 
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午後3時から瞬嶽師匠の三回忌法要が始まる。瞬嶺さんが導師を勤め、瞬法さんと瞬高さんが脇を勤める。更に瞬海さん・瞬醒さんがその脇に従い、更にその脇に瞬常さんと瞬大さんが従って7人体制で読経は進められたが、青葉・菊枝も含めた「瞬」の名前を頂いている弟子が前の方に並びそれに唱和したので物凄いボリュームの読経であった。それ以外の参列者もかなりの人数だが、昨年の一周忌の参列者はこの倍ほど居た。
 
「瞬」の名前を持つ弟子の中で唯一読経に参加しなかったのが千里であるが、千里はそもそもお経が読めないのである! 祝詞なら奏上できますけど、などと言っていた。千里は直美や瞬醒の弟子である醒環・醒春とともに裏方を務めてくれて、会場の案内係をしたり、飲み物やカイロあるいは膝掛けなどを欲しがる参列者に対応していた。なにしろ参列者にはお年寄りが多いし、それぞれが結構な地位にある人たちなので、ワガママであったりもするが、千里がそういう対応はとてもソフトで上手いので、彼らも比較的快適に過ごしてくれたようであった。
 
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参列者のひとりで90歳くらいのお坊さんが、持ち物の中から何か薬を取りだした。それを見て千里はさっとそばによると「今お水をお持ちします」と言って部屋を出て、台所に行き、ポットのお湯と水道の水を混ぜてぬるま湯を作り、持っていった。
「どうぞ」
「ありがとう」
と言って老師は薬を飲むが、渡されたのがぬるま湯であったことに驚いたようであった。
 
「あんたよくできてる。◆◆院かどこかの尼さんだっけ?」
「いえ、私は在家のものです、猊下」
「あ。私のこと分かった?」
「∽∽寺の貫首、導覚猊下とお見受けしました」
「よく知ってるね」
と導覚は感心したように言う。
 
「私は人の顔を覚えるのが得意なので。あ、済みません。私は瞬里と申します。瞬嶽のおそらく最後の弟子ではないかと思います」
 
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「あんた瞬の名前持ってるの?だったら何で前の列に座らないの?」
「私、巫女なもので、仏教の方はとんと分かりませんので」
「へー!」
「私が般若心経を唱えると祝詞に聞こえるといいます」
「あはは、それは1度聞いてみたい」
「ではいづれ。名前は何かの気まぐれで頂いたと思うんですけどね」
 
しかし導覚さんは千里をしばらく見つめてから言った。
「あんた面白そうだから、これやる」
などと言って、席の下に置いていた古ぼけた鞄の中から、これまた古そうな独鈷杵を取り出して千里に差し出した。ラピスラズリが填め込まれている美しい独鈷杵である。
 
「とても貴重なもののように思うのですが」
「恐らく100年くらい前に当時のビルマかベンガルで製作されたものだと思う。この金剛杵を今日誰かに渡さねばと思って持って来ていたんだけど、どうもあんたに渡すべきもののようだ」
 
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「多分私は媒介者ではないかと思いますが、お預かりします。最終的に誰に渡したかは後でご報告します」
と千里は言った。
 
「んー。じゃその時、祝詞版般若心経を聞かせてよ」
「分かりました」
 

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4月8日(水)。青葉たちは3年生になった。
 
1〜6組では進学先別にクラス替えが行われたのだが、青葉たちの社文科、空帆たちの理数科は1年生から3年生まで全くクラスが変わらない。美由紀も日香理もずっとクラスメイトである。担任も音頭先生(担当数学)がそのまま持ち上がったが、副担任に昨年も3年生を担当した国本先生(担当英語)が入った。今年は受験体制である。
 
志望校調査が行われた。
 
日香理は親と結構揉めたものの、何とか東京外大・言語文化学部という志望票にハンコをもらって提出することができた。第2志望は金沢大学の人文学類・言語文化学コースにした。
 
「夏の模試でA判定が出たら受けてもいいと言われた」
と日香理は言う。
「良かったね」
「数学や地歴頑張らなきゃ」
「大変だね!」
 
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東京外大を受けるような子は英語・国語はほぼ満点なので、地歴や数学の点数が合否の分かれ目になってしまうのである。
 
美由紀は第1志望を金沢美術工芸大学と書いたが、純美礼が「あんたの頭では絶対無理」などと言っていた。ここは日本国内で5本の指に入る名門美大である。偏差値も無茶苦茶高い。第2志望は富山大学の芸術文化学部にした。富山大学はキャンパスのほとんどが富山市にあるのだが、この芸術文化学部だけは高岡市にキャンパスがあるのである。通学に便利というのもあった。しかし担任はその志望票を見て「第3志望を書け」と言った。それで金沢学院大学の芸術学部というのを欄外に書いて出した。
 
「金美(かなび)や富大(とみだい)なら国公立だから学費が安いんだけどな」
「せめて富山大学に合格できるくらい勉強頑張りなよ」
「勉強はしてるつもりなんだけどなあ」
 
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美由紀はふだんの試験の成績は学年280人中だいたい200番前後である。金沢美大に行きたいのなら、たぶん50番以内程度までは成績を上げる必要がある。むろんそれ以外に絵の勉強もしっかりやる必要がある。この3つの志望先は全て実技がある。金沢美大は実技の配点が全体の7割、富山大学も実技と面接あわせて全体の8割という配点である。
 
「やはり1日5時間は勉強しなきゃ」
 
「え〜?そんなに勉強するの?」
「その半分は絵の勉強をした方がいい」
「無茶苦茶絵のうまい子ばかり来るだろうからね」
「だから結果的に学科試験の点数ってかなり利いてくるはずなんだよ」
 
「でも旧帝大クラスを狙う人とかは無茶苦茶勉強するよね」
「うん。昔から四当五落と言う」
「何それ?」
「睡眠時間4時間なら合格するけど、5時間寝ているようじゃ落ちる」
 
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「やはり素直に諦めようかな」
 

青葉はこれまで「建前」的に第1志望・名古屋大学法学部(偏差値69)、第2志望金沢大学法学類(偏差値61)としていたのだが、ここで初めて本来の志望である金沢大学を第1志望に書き、第2志望には富山大学経営法学科(偏差値54)を書いた。富山大の経営法学科は法律を学ぶ専門コースではないものの、ここから普通の法学部出身者と同様の「既修者」として法科大学院に進学する人もある。もっとも青葉は法律家になるつもりはないので法科大学院には行かずに大学を出たらそのまま一般企業に就職するつもりである。
 
この「名古屋大学・仮志望」問題は1年生の時から音頭先生には話していたのだが、早速副担任の国本先生から呼び出される。
 
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「君の成績なら充分名古屋大学は射程範囲だと思うけど、なぜ志望校を下げるの?」
と訊かれる。
 
2年生の最後に受けた模試では名古屋大学はC判定になっていた。あと少しで合格ラインというレベルである。
 
「済みません。元々この高校を受ける時、志望大学はどーんと大きく書いておけと中学の校長に言われまして、それで名大なんて大それた志望校を書いたのですが、私はできるだけ地元の大学に行きたいので。私が遠くに行っちゃうと母は1人になってしまうので」
 
「うーん。女の子だとそれがあるからなあ。でも名古屋大学に合格できるくらい勉強しなよ。いっそ私立で△△△(偏差値70)か□□(偏差値73)あたりも受けない? 前期で金大の法を受けて、後期で富大の経営法学科受けても、私立とは日程はぶつからないはずだから」
 
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「済みません。東京の大学に行くつもりはないです」
 
しかし先生は「やはり高い所を目標にしておいた方が、最後に下げるのは構わないから」などと言うので、青葉は妥協して△△△大学の法学部の受験についても少し検討してみると返答した。
 

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この4月8日(水)にはバスケ協会からユニバーシアードに出場する女子日本代表のメンバーが発表になった。
 
そのメンバー表を見て「うっそー!?」と叫んだのがキャプテンに指名された鞠原江美子(愛媛Q女子校→大阪・M体育大学修士卒/Wリーグのブリッツ・レインディアに4月から加入)である。
 
江美子は早速千里の携帯に電話をした。
 
千里Bはその時、Jソフトウェアで同期に入った専門学校卒の女性プログラマー・石橋さんに組んでもらいたいプログラムの仕様を説明していたのだが、その石橋さんから「村山さん、携帯のバイブ鳴ってますよ」と言われる。
 
千里Bはそこに表示されている名前を見ると
「ああ、これはいいよ」
と言って、千里Aに念を飛ばした。
 
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その時都内のカラオケ屋さんで集中して編曲作業をしていた千里Aは、千里Bからの念を受けて、サイレントモードにしていた携帯が着信中であることに気づき、電話を取った。
 
「エミちゃん、お疲れ様〜」
「千里、どうかしたの?ユニバ代表のメンバー表にあんたの名前が無い」
「ごめーん。私、辞退した」
「なんで〜?」
「いや、伊香ちゃんと神野ちゃんの2人とも捨てがたい素材じゃん。ここであの2人に世界を経験させておけば、東京オリンピックでは中心選手に育っていると思うんだよね」
 
「それはそうかも知れないけど、私は千里が居ないととても今回のユニバで世界を相手に勝ち進む自信は無いよ」
と江美子。
 
「彰恵もいるし、絵津子も純子もいるし」
「彰恵は何とかするだろうけど、絵津子・純子はU19で世界大会経験してから世界は4年ぶり。前回のユニバでは最終メンバーに残れなかったら圧倒的に経験不足なんだよ。千里は世界相手にこれまで3回も戦っているし、フル代表と一緒にたくさん強いチームとの試合を経験している。格が違いすぎるよ。伊香・神野もだけどね」
 
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「うーん。でも私実際問題として、あまり世界に通用してないよ、これまでの大会では」
「未経験の子とは比べものにならないよ」
 
「それにもうメンバー発表しちゃったしね」
と千里。
 
「せめて昨日私に教えてもらっていたらなあ」
と江美子は言っていた。実を言うと昨夜も篠原さんと1時間電話で話したのだがそれでも辞退すると言ったのである。
 
30分ほど江美子と話してから千里は
「ごめんねー。頑張ってね」
と言って電話を切った。
 

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翌4月9日(木)、午前中また千里は佐藤玲央美と一緒に練習をする。
 
「昨日のユニバ代表の発表のあと、なんか凄まじかったよ」
と玲央美は言う。
 
「そう?」
「(伊香)秋子を推す谷川コーチと 神野(晴鹿)さんを推す菊池コーチとの間にはさまれて、千里を推していた篠原さんが負けたんじゃないかとか。谷川さんと菊池さんが何だか悪者にされてるよ」
 
「それはひどい」
「千里のせいだからね」
 
「うーん。まあ一昨日も篠原さんと電話で随分話したんだけど、済みません、辞退しますからと頑張った」
「変な所で頑張るね」
「そうだなあ」
 
「選手やスタッフにはこの件では絶対ネットとかに何も書くなって伝達が回っているみたいだし、秋子も『そんな馬鹿な』と言っていたよ。昨日だいぶ電話であの子と話したよ」
と玲央美。
 
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「いや、実は私自身も晴鹿から昨夜電話が掛かってきて、この代表ラインナップは納得できないと言われて、なだめるのに苦労した」
と千里。
 
伊香秋子は札幌P高校での玲央美の後輩である。また晴鹿は千里自身が指導してその才能を開花させた「生徒」なのである。ふたりはSGの枠はふたりだろうと考え、千里に続く2人目の座を争っていたつもりであったようだ。
 
「まあ発表しちゃったものは仕方ないけど、これでベスト8に残れなかったら千里のせいだからね」
「え〜!?」
「もしそういうことになったら千里には責任取って頭を坊主にしてもらわないといけないくらいだ」
 
「そんなぁ」
 

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