広告:メイプル戦記 (第1巻) (白泉社文庫)
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■春代(2)

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母はその日の最終の《かがやき》で高岡に帰還した。今回は千里に会えなかったものの、また近いうちに高岡に行けるだろうから、その時にまた、ということにした。
 
千里は28日の夜日本代表の合宿を終えて千葉に戻ってきたので、桃香・青葉・彪志と4人で焼肉屋さんに行き、合宿の打上げ兼卒業祝いということにした。
 
千里は29日は神社に出て行っていた。
 
そして30日。青葉が彪志と一緒に千葉市内のアパートを出て、引越の手伝いのため桃香たちのアパートに行くと、大きな4tトラックが駐まっている。
 
「あれ?運送屋さん、もう来てくれたの?」
と声を掛けると、
 
「運送屋なんて頼んでいない」
と桃香が言う。
 
「あのトラックは?」
「千里が友だちから借りてきた」
「まさか、自分達で引っ越すの?」
「うん。運送屋さんに見積もりしてもらったら20万円だと言うんだよ。信じられん。だから自分たちですることにした。今日引っ越しすることにしたのは、その友だちが今日はお休みでトラックが空いているからなのだよ」
 
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「それで!でも2人だけでできるの〜?」
と青葉が言うと、桃香は彪志の手を握り、
 
「彪志君、君の働きには期待している」
と言った。
 

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最初4人で荷造りしていたのだが、とても手が足りないということになり、彪志が友人の男子学生を3人呼んでくれたら、かなり進捗が良くなって、お昼頃には荷造りを完了した。特にひとり電機関係に強い子がいて、エアコンも手際よく取り外してくれた。
 
「しかし2DKにこんなに荷物が入るもんなんですね〜」
と彪志の友人たちは驚いていた。
 
段ボール箱には「C」「M」のマークが入っている。千里のアパートに持ち込むものと、桃香のアパートに持ち込むものを区分けしているのである。
 
それで荷物をトラックに運び込む。「M」のものを先に積み込んで、そのあと「C」のものを積み込むことにする。それで先に千里のアパートに行って荷物を降ろしたあと、桃香のアパートに行く方針である。
 
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ここで、彪志の友人たちがとっても戦力になった。実際この作業は男手が無いと無理という感じであった。大型の家具などは彪志と千里だけでは大変だったであろう。青葉や桃香も軽めの箱をたくさんトラックまで運んだ。
 
しかし桃香の荷物を積み込んだだけで、既に4tトラックの7−8割のスペースを占有している。
 
「これ絶対千里さんの荷物まで入りませんよ」
と彪志が言うので、結局2往復することにして、桃香の荷物だけを積んで一度世田谷区まで行くことにした。
 
「しかし2DKの荷物が4tトラックに入りきれないなんて信じられない」
などという声もあがっていた。
 
取り敢えずピザの宅配を頼み、千里がお茶のペットボトルやフライドチキンなども買って来て、それをお昼にする。2時頃、千葉のアパートを出発し、まずは桃香のアパートへ向かった。トラックは千里が運転して青葉と彪志が同乗する。別途桃香がミラを運転して、彪志の友人たちに乗ってもらった。(例によって辿り着いた時は運転手は彪志の友人に交代していた)
 
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桃香のアパートで荷物を降ろして、テレビ・本棚・食器棚などの大型家具を概略配置、エアコンも取り付けてもらった。テレビや電気関係の配線は後で桃香が自分ですることにする。
 
なお、冷蔵庫と洗濯機は現在使用しているものは千里のアパートに持っていき、桃香のアパートには新しいものを買う予定で、明日配送を頼んでいる。
 
しかし桃香の部屋は4階でエレベーターが無いので、大きな本棚などを運び上げるのはほんとうに大変だった。一番重たかったエレクターもどきのスティール・ラック(これが3つもある)などは千里と彪志の友人3人の4人で持って階段を上がった。
 

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桃香のアパートに荷物をあげたあと、疲れたという声が多く、いったんラーメン屋さんに寄って人間側の燃料補給をした上で、再度千葉まで行って千里の荷物を積み込む。そしてまた世田谷区に行って千里の荷物を降ろした。
 
この時青葉は
 
え?
 
と思った。このアパートが先日来た時とはまるで違う空間に変質していたのである。
 
彪志も感じたようで青葉に確認する。
「ここ、すごくきれいだよね。まるでよく信心されている神社の境内みたい」
 
「うん」
と青葉も同意した。そしてハッと思った。
 
玉依姫神社もこういう感じであの清浄な空間が作られたのではないかと。
 
こちらは1階なので荷物を運び込むのは楽であった。
 
洗濯機と冷蔵庫を置き、エアコンも取り付ける。千里のアパートに取り付けたエアコンは、実は大学1−2年の時に千里が自分のアパートで使っていた古い物だったのだが、取り敢えずコンセントにつないでスイッチを入れてみたら、ちゃんと動作してくれた。
 
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「お疲れ様でした。ありがとうございました」
 
全員で焼肉屋さんに行き、お疲れ様会をした。
 
トラックは千里と彪志で返しに行ってきて、ふたりは少し遅れて合流した。
 
(まずはトラックとミラに分乗して焼肉屋さんまで行き、桃香・青葉、彪志の友人達を降ろしたあと、千里がトラック、彪志がミラを運転してトラックを貸してくれた千里の知り合いの所に行き、そのあとミラに2人で乗って焼肉屋さんまで戻った)
 

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「いや、エアコンの取り付けとか、私にはできんかった。助かりました」
と桃香が、取り付けてくれた子に御礼を言っている。
 
「桃香がやると『あれ?ネジが余ってる』とか、なりそうだよね」
と千里。
 
桃香はだいたい機械には強いのだが、ややアバウトな面もある。
 
「それどころか、表と裏を間違えて取り付けて、部屋の外が冷えたりして」
と本人。
 
「でも用賀のアパートの方に取り付けたものは、元々パネルを使用していなかったんですね」
「あれは台所と部屋の間に、畳の上に直接置いておいたんです」
「なぜ?」
「居室は雨漏りが酷くて生活不能だったんで、台所で実際寝起きしていたんですよ。だから台所だけ冷やせたら良かったんです」
「なんか壮絶な生活してますね」
 
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「でもおかげでそちらのパネルを使用して経堂の方のアパートに取付けられたんですよ。用賀のアパートは窓が小さいから、今使っていた方のパネルで間に合いました」
「良かった良かった」
 
「でも電機屋さんでバイトしてたんで、あの作業は得意です」
「それは凄い。次もまた頼みたいくらいだ」
「いいですよー。晩御飯で手を打ちます。次はいつですか?」
「いつだろう?」
と桃香が言うと
「あのアパートにはたぶん5年くらい住むことになると思う」
と千里が言った。
 
「じゃまだその頃、僕が関東に居たら」
「うん。よろしくー」
 
「でも5年も経ったら子供が3−4人出来ていたりして」
と本人。
「5年でそんなに作るのは、桃香の子宮が忙しすぎる」
と千里。
「千里も手伝ってくれ」
「うーん。私は産む自信無いなあ」
 
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2015年3月31日。L神社ではこの日転出または退職する、辛島夫妻や千里など数人の職員の送別会をしてもらった。
 
「千里ちゃんの龍笛が聴けなくなるのは寂しいな」
などと言っている神職さんもいる。
 
「そのあたりは友香ちゃんとか、風希ちゃんとかに頑張ってもらって」
「私は龍は呼べませんよ〜」
と友香が言っている。
 
「ここの神社でお祓いをうけていると落雷がある、というのが一部では話題になってたみたいですけどね」
 
「また玉依姫神社の方には時々顔を出しますけどね」
「そのついでにこちらにもちょっと」
「いや、また新しい名物を作っていってください」
 

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送別会の後、辛島夫妻が新たに赴任する神社に行くというので、千里も「ちょっと来てみない?」と言われて同行した。
 
車で1時間ほど走り、越谷市のF神社に到着する。鍵を開けて社務所軒住宅という感じの家に入る。引越は住んでいるようだが、まだ段ボールなどが大量に積まれている。
 
「この荷物を整理するのに数年かかるかも知れない」
「ああ、ありがちです」
 
取り敢えずお茶を頂く。
 
「ここは他に職員さんとかおられないんですか?」
「居ない。もっともお祭りの時とかは地元の女の子たちを臨時の巫女に採用する予定で、氏子さん代表とは話している」
 
「前の宮司が2年前に亡くなって、跡継ぎが居なかったので市内の別の神社の宮司さんが兼任で祭礼などはしていたんですよ。でも日常的に誰か居ないと不便ということで、氏子さんの方からどなたかお願いしますと依頼があっていたので私たちが来ることにしたんですよ」
 
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と広幸さんは言う。
 
ふたりは若い頃から都内の幾つかの神社で神職・巫女をしていたものの、6年前に千葉L神社の禰宜(ねぎ)と巫女長の夫妻が水戸市内の神社に宮司として転出したので、その後任として頼まれて夫婦でL神社に奉仕することになった。栄子さんがL神社宮司の従姪であったことから、その縁での就任だった。この世界の人事は9割が縁故である。
 
「まあ若い頃に奉職した神社に一生勤める人が多いこの世界で私も広幸も随分と多くの神社を渡り歩いたね」
 
「でもまあ今度は死ぬまでここだろうな」
「まあ30-40年は奉仕することになりそうだね」
「小さい神社って氏子さんたちとうまくやっていくのに神経使いそう。きれい事だけでは済まないだろうから良心に反する妥協をしないといけないし」
 
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「うんうん。そのあたりが大変だろうね」
 

3人でおやつなども摘まみながら話していたら、その氏子の人が3人訪れた。福田さんという80歳くらいの少し足が弱っている感じの男性、池上さんという60歳くらいのたくましい体付きの男性、泉堂さんという50歳前後かなという感じのメガネを掛けた女性である。福田さんが氏子総代、池上さんが若者頭、泉堂さんが会計だそうである。
 
「今日いらっしゃると聞いてお刺身持って来ました」
「おお、それはありがとうございます」
 
と言って、要するに酒盛りが始まる! 結局千里も付き合わされることになる。
 
「こちらは娘さんですか?」
「いえ。村山と申しますが、前の神社で辛島さんの下に付いていた巫女です。学校を出て退職したので今日は新しい神社をちょっと見ていかない?と言われてお邪魔したんですよ」
 
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「うちは子供は男の子が2人で長男が國學院、次男は東京の国立大学に行ってて、ふたりとも都内に下宿しているんですよ」
 
「おお、國學院に長男さんが行っているなら跡取りも安泰ですね」
と氏子総代さんはご機嫌である。
 
「そうだ。村山さんがお嫁さんになるというのは?」
「すみませーん。私、婚約者がいるので」
「それは残念!」
「なんか、物凄い霊的な力を持っているみたいなのに」
などと福田さんが言う。へー。この人「少し見える人」みたいねと千里は思った。
 

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酒盛りは続いていたが、30分ほどで刺身は無くなってしまう。
 
「丸魚だったらあるんだけど」
と泉堂さんがいうので
「私おろせますよ」
と千里が言うと、泉堂さんは車でひとっ走りして(飲酒運転だ!)、5kgほどありそうな鰤を持って来てくれた(帰りは泉堂さんの息子さんが運転してきた)。それで千里が3枚におろして身を刺身にし、頭と骨は煮物にして出した。しかし泉堂さんの息子さんも加わって酒盛りは続き、この鰤も1時間ほどできれいに無くなってしまった。
 
「良い気分だ。村山さん、なんか芸して」
などと池上さんが言う。
 
「うーん。じゃパフォーマンスを」
 
と言って千里は自分のバッグから龍笛を取り出すと、自由な旋律で吹き始めた。例によって龍が集まってくるが、千里が酔っているせいか、どうも集まってきた龍もなんか変な感じの龍が多い!?ついでに朱雀まで1羽いる。
 
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「おお、龍が来てる」
と福田さんが喜んでいる。
 
今日の龍たちはどうも少しガラが悪いようで、何だか喧嘩を始めた。それまで晴れていたのが突然曇ってきて落雷がいくつもあり、物凄い雨が降った。あとで気象台はこの季節には珍しい積乱雲が発達したためと発表したようである。
 

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