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■春行(3)

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青葉は少し考えた。
 
「**神社が利くと思います」
「行ってきます!」
 
「あと、これを差し上げますよ」
と言って青葉は成田で千里にもらった身代わり人形をバッグの中から出して渡した。
 
「これは?」
「身代わり人形なんですよ。あなたに降りかかる不幸をこの人形が肩代わりしてくれますから」
 
「それはいい」
「それからですね」
 
と言って青葉はしばらく目をつぶって考えていた。
 
「蜜江さんが住んでいるアパートの部屋の窓が西に向いていると思うんですが、タンスの上に化粧用のスタンドミラーを、その窓に向けて置いておくといいです。それからその窓は部屋の中に居る間は厚いカーテンか何か引いてできるだけ開けないようにするといいです」
 
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「その窓から呪いが来るんですか?」
「そうです」
「やってみます」
 

彼女たちとはメールアドレスを交換して別れた。
 
午後2時半のICE (Inter-City Express)、いわばドイツの新幹線に乗って約3時間の旅でドイツのフランクフルト・アム・マイン(Frankfurt am Main)に到着する。この日はここで泊まりである。
 
「フランクフルトって、フランクフルト・ソーセージの本場かな?」
と美由紀が訊く。
 
「まあこの辺り風のソーセージってことだよね。ドイツ語だとフランクフルター・ヴュルストだっけ?」
と青葉は日香理に確認する。
 
「うん。Frankfurter Wuerstchen」
と日香理はきれいな発音で言う。
 
「一般的には細くて羊の腸を使ったのをヴィエナー(ウィンナー)、太くて豚の腸を使ったのをフランクフルターと言っているよね。どちらも茹でるのが基本。ドイツでは他にチューリンガーとかニュルンベルガーとかミュンヒナーとかも有名」
と日香理。
 
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「羊の腸って言ったらガット?」
「そうそう。ヴァイオリンの弦にも使う。だからソーセージ用に売られている羊の腸を買って来て、手作りでヴァイオリンの弦を作る人もいる」
「あ、それやってみたい」
 
「美由紀はきっと途中でめげる」
「めげた時はウィンナーソーセージに変身させて」
「それも無茶だと思う」
 
夕食にもそのフランクフルト・ソーセージが出ていたので美由紀や純美礼が喜んでいた。
 
「美味しい〜。やっぱり本場のはいいね〜」
「うん。これは本当に美味しい」
と日香理も納得している。
 

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食事をしていたら、唐突に70歳くらいのドイツ人(?)女性が寄ってきて青葉にドイツ語で語りかけた。
 
「あなた凄いね」
「えっと何でしょう?」
と青葉は戸惑いつつもドイツ語で返事する。
 
「ウィッカ(魔女)?ソーサラー(魔術師)?シャーマン?」
「神道の巫女です。日本の宗教です」
 
と言いつつ、私のって仏教が混じってるけどなあとは思う。
 
「ああ、あなたたち日本人!」
「はい。日本の高校生です」
 
「あなた教祖になれるくらいの力量がある」
「あなたもかなりの達人とお見受けしました」
「私、Lucia Bodenschatz」
「私はAoba Kawakamiです」
 
女性が笑顔で握手を求めるので青葉も応じる。ひじょうに力強い握手であった。
 
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結局ボーデンシャッツさんはこちらのテーブルに根を生やしてしまう。彼女の同伴者の50歳くらいの女性も一緒に来て座る。彼女はHeydrichさんといった。ウェイターが向こうの皿や食器を持って移動してきた。
 
彼女はドイツ南部で魔女グループの主宰をしているということだった。
 
「グループといっても20-30人しかいないんですけどね」
「いえ、ハイドリッヒさんもかなりの霊的な力を持っているようですし、きっと凄い集団なんでしょうね」
 
彼女は日本のシャーマニズムにかなりの興味を持っているようで、けっこう専門的なことを青葉に訊いてくる。青葉は丁寧に答えていくが、彼女はかなり感銘を受けているようだ。
 
ドイツ語で会話が飛び交うので美由紀も純美礼もぽかーんとしているが日香理が簡単に内容を日本語に訳して説明していた。もっとも日香理も細かい専門用語はよく分からないようで、何度か青葉に尋ねていた。
 
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「でもあなたもしかして男の子?」
とかなり会話が進んだ所でボーデンシャッツさんは訊いてきた。
 
「生まれた時はそうでしたよ。でも既に性転換手術が終わっています。日本の法律では20歳になるまで法的な性別は変更できないので、まだパスポート上は男性なんですけどね」
 
「すごーい。ほとんど女性なのに。気づく人はめったに居ないでしょ?」
「ええ。同族の人にもなかなか分からないようですね」
 
「精神構造のかなり奥深い所に性別の混乱の痕跡が残っている。それでひょっとしてと思った。でもふたつの性別を生きたことで、あなたの霊感はより深まっている」
と彼女は言う。
 
「透視ができる人なら卵巣や子宮があるかどうかを見て判断できるかも知れないですね」
とハイドリッヒさんは言うが
 
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「いや、この人は物理的には存在しない卵巣や子宮を、霊的に作り上げているんだよ。だから透視のできる人でも初級者なら、この人にはふつうに卵巣や子宮があると思ってしまうかもね。あなた生理があるでしょ?」
とボーデンシャッツさん。
 
「ええあります」
 
と青葉は笑顔で答えたが、その時ふと青葉は、天津子が「千里さんを透視してみたけど卵巣や子宮を持っていた」と言っていたことを思いだした。それってひょっとしてちー姉の力量が大きくて擬似的に作り上げている卵巣や子宮が天津子の目には本物に見えてしまうのではという気がした。青葉は本気で千里の力量が見えない気分だ。
 

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彼女たちとの会話ははずんで、かなり長時間話していたが、あまりにも長いので、21時をすぎたところで、音頭先生が寄ってきて
 
「川上さん、そろそろ引き上げる時間なんだけど」
と遠慮がちに言う。
 
もう他の生徒はみんなレストランから出ている。音頭先生だけが待っていてくれたのである。
 
それで青葉も
「すみません。学校の規則で部屋に戻らなければなりません」
と言い、ボーデンシャッツさんも
「ごめんなさいね。でもとても楽しかった」
と言って会話は終了した。
 
ボーデンシャッツさんは音頭先生にも「あなたの生徒さんを引き留めて申し訳ありませんでした。彼女に罰が与えられないように配慮して頂けませんか」と英語で謝り、音頭先生も英語なら分かるので「大丈夫ですよ」と笑顔で応じていた。
 
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彼女とはtwitterのアカウントと住所のメモを交換して別れた。
 

翌日11日(水)はフランクフルト市内を見学する。
 
「そういえばフランクフルトって2つあるんだっけ?」
と純美礼が訊く。
 
「うん。ここはフランクフルト・アム・マイン。もうひとつフランクフルト・アン・デア・オーデル(Frankfurt an der Oder)というのもある。実は他にもいくつかフランクフルトという名前の町はあるけど、この2つがいちばん大きい」
 
「日本で福岡がいくつもあるようなものか」
「そうそう」
 
福岡といえば全国的には福岡県の福岡が有名だが、実は青葉たちの住む高岡市にも福岡町というのがあり、高速道路の福岡IC, 福岡PA, JRの福岡駅があるのである(福岡県の福岡にあるJRの駅は福岡駅ではなく博多駅)。ちなみに隣の石川県には高松駅もある。
 
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この日は最初に欧州中央銀行を外から見てから、フランクフルト証券取引所に行く。ここの入口でパスポートチェックがあるのだが、ここが凄まじく厳しかった。
 
例によって青葉は「性転換しているので・・・」と説明し、医師の証明書も見せたのだが、係員はその証明書だけでは不十分だと言って証人はいるかという。それで音頭先生が自分は公立学校の教師であると名乗り、確かにこの子はパスポートの人物であると説明して、やっと通してもらった。結果的にはここのセキュリティが一番たいへんだった。後で聞いたら数日前に不審人物が目撃されて警戒が高まっていたらしい。
 
ここはヨーロッパの金融の中核でもある。東京証券取引所などと同様、昔のような手を高く掲げてサインで取引するような「立ち会い」は無いが、多数の証券取引のプロがモニターに囲まれたスペースで操作をしている様は、緊張感たっぷりで見応えのあるものであった。
 
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ここの見学ツアーではフランクフルトの金融の歴史に関してもミニセミナーという感じの説明があった。
 
その後、お昼の列車に乗ってローテンブルクに移動した。ロマンティック街道の中で最も人気のある町で、ロマンティック街道と古城街道の交点でもある。
 
「ローテンブルクの後に何か付いてるね」
「Rothenburg ob der Tauber。ローテンブルクって名前の町もいくつかあるからそれで区別するんだよ。フランクフルト(アムマイン)の近くにはもうひとつローテンブルク・アン・デア・フルダ(Rotenburg an der Fulda)という町もある。だから自分でドイツに来て、電車の切符を買う時には、ちゃんとローテンブルク・オプ・デア・タウバーまで言わないと、変な所に着いちゃう」
 
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と日香理は説明するが
 
「あ、大丈夫。私ドイツ語分からないからひとりで来ることはありえない」
と美由紀は言っている。
 
ローテンブルクには3時前に着いて旧市街地を見学する。日本人観光客も多い町で日本語のできるガイドさんに付いて見て回った。
 
「おお、これぞドイツの街並みだ!」
と美由紀が感動して言う。
「映画とかにも出てきそうだね」
と純美礼も言っている。
 
ガイドさんがこの旧市街地のいわれを説明する。
 
「1631年、三十年戦争の時にプロテスタント側のローテンブルクはカトリック側のティリー将軍の兵に占領されました。ティリー将軍は町を焼き払い、市の幹部も処刑しようとしたのですが、その時、市の酒蔵の娘が、将軍のご機嫌を少しでも良くしようと最高級のワインをバイエルン大公から拝領した大杯に注いで差し出しました。するとそれを味見した将軍はあまりの美味しさに気分をよくし、こう言ったのです」
 
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「この杯のワインを誰か一度に飲み干せる奴がいたら、この町を焼き払うのは許してやろうと。するとそこに市長のゲオルク・ヌッシュ(Georg Nusch)が進み出て私が飲みますと言います。彼はプロテスタントもカトリックも神の前では皆兄弟。憎しみあうのではなく愛し合いましょうと言って、その大きな杯を抱え、3リットルと4分の1ほどもあるお酒を本当に一気に飲んでしまいました。それを見た将軍はその飲みっぷりに感銘し、約束を守って町を焼き払うのも、幹部を処刑するのも中止してくれました。こうして町は救われ、16-17世紀の街並みが今の世まで保存されることになったのです」
 
その説明を聞いて純美礼は
「ドイツにも黒田武士がいたんだね」
などと言って感動しているようである。
 
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「黒田武士の杯ってどのくらいの容量だろう?」
と美由紀が訊く。
 
「確か4Lくらいと聞いたことあるから、たぶんローテンブルクのと似たようなサイズだと思う」
と日香理。
 
「やはりお酒飲みってのも存在価値があるんだね」
と美由紀。
「普段からある程度飲んでいる人でないとさすがに一気飲みは無理だろうね」
と青葉も言った。
 
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