広告:國崎出雲の事情-7-少年サンデーコミックス-ひらかわ-あや
[携帯Top] [文字サイズ]

■春行(2)

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8 
前頁 次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

それで一緒にロビーまで降りて、フランス語のできる青葉と日香理がフロントの人と会話して地図を書いてもらい、お勧めのルートも教えてもらった。海外では特に夜中は通る道を選ばないと危険である。
 
「男装していった方がいいかな?」
「いや、この人数いれば大丈夫と思う」
 
それで7人でぞろぞろとスーパーまで出て行く。青葉・日香理・月影さんが懐中電灯を持っていたので点けて行った。
 
幸いにも、お菓子とかパンとか、ソフトドリンクなども売っていたので、それを店内の買い物カゴに入れていく。
 
「おお、ボルヴィックがある」
「見慣れているブランドのものがあると何となく安心だよね」
 
というのでそれも買っていく。
 
↓ ↑ Bottom Top

それで結局買い物カゴいっぱいに商品を入れてレジに行く。後で適当に精算しようということにして青葉が代表して現金で払っておく。なんと80ユーロ(11,000円)も買っていた!
 

↓ ↑ Bottom Top

結局青葉たちの部屋に7人で入って、おしゃべりしながら食べる。
 
「普通科のほうはこういう研修旅行とか無いし、私は社文科に来て良かったなと思ったけど、親は頭が痛いと言っていた」
 
などと品川さんは言う。
 
「頭が痛いというより、財布の紐が辛いというか」
「すねをかじられて痛いというか」
 
「今回の旅行費用は20万円だからなあ」
「でも一般的なヨーロッパ旅行よりは随分安いみたい」
「うん。観光地とかあまり回らないし」
「公共施設みたいなのが多いみたいね」
「でもロマンティック街道は楽しみにしてるんですよ」
「まあ今回の旅のハイライトだよね」
 
結構話が盛り上がってきた時、美由紀がふと花山さんたち3人の携帯に付いているストラップに気づいた。
 
↓ ↑ Bottom Top

「それ何かきれーい」
「あ?このストラップですか? 私の手作りなんですよ」
と月影さんが言う。
 
「器用だね」
「リボンフラワーでここまで本物っぽく作れるのは器用ですよね」
と花山さんが言う。
 
「何でしたら、石井さんにも1個作って差し上げましょうか?」
「え?ほんと、ちょうだい、ちょうだい」
 
すると月影さんは荷物の中からリボンのリールとハサミを取り出すと、器用に折ったり結んだり切ったりして10分ほどでバラの花を1個作ってしまった。それに紐を取り付ける。
 
「どうぞ」
「わーい。携帯に付けておこう」
と言って美由紀はそのストラップを早速携帯に取り付けていた。
 
「他の方にも作りましょうか?」
などと月影さんは言ったのだが、ちょうどその時、部屋の外でノックがある。
 
↓ ↑ Bottom Top

「あなたたちまだ起きてるの?」
 
音頭先生である。
 
「済みません。寝ます!」
 
と言って、1年生3人は自分たちの部屋に引き上げ(おやつはしっかり持って行った)、その日のおしゃべりは散会となった。
 

↓ ↑ Bottom Top

10日(火)。
 
この日はブリュッセル(Bruxelles)のEU関係の施設を見学する。
 
最初に行ったのはパーラメンタリウム(Parlamentarium)といってEUのことを紹介しているビジターセンターである。ここを見学して簡単にEUの歴史や機能について学ぶ。
 
その次に欧州議会(エスパース・レオポルド Espace Leopold)を見る。欧州議会は規約上はアルザス地域圏のストラズブール(フランスとドイツが何度も領有権を争った地域で現在は一応フランス領になっている)に置かれているのだが、実際にはかなりの会議をこちらブリュッセルの議会場でおこなっている。
 
ここを取り敢えず外から眺めて、今日の訪問の目玉ベルレモン(Le Berlaymont)を訪れる。EU関係の多数の施設が集まっているEUの中枢である。上から見ると十字架の形をした、現代的な建物である。
 
↓ ↑ Bottom Top

見学ツアーに参加して内部も見て回った。ガイドさんは英語で説明しているが、そもそも社文科は英語に強い子が多いし、青葉や日香理など、多少訛っている英語でもそのまま聞き取れる子も結構いる。美由紀はガイドさんの英語が分からないようであったが、別に説明などは聞かずに
 
「なんかすごいねー」
などと言って感動しているようであった。
 
しかしビジターセンターとこことを見て回っただけで、もうこの研修旅行は終了したかな、というくらい頭の中がいっぱいになった。
 
少し早めの食事をした後、近くのサンカントネール公園(Parc du Cinquantenair)を散策する。13時まで自由時間になったので、グループに分かれての行動になる。2年生の徳代たちのグループや1年生の花山さんたちのグループは、美術館を見に行ったようである。青葉・美由紀・日香理・純美礼の4人は庭園をのんびりと見て回る。
 
↓ ↑ Bottom Top

「これがお勉強の旅であったことを思い出した」
などと美由紀は言っている。
 
富山県の公立高校は修学旅行というものが存在しないので、社文科の生徒にとっては今回の研修旅行が半ば修学旅行に近いものである。理数科の生徒はまたこちらとは別の日程で研修旅行が組まれている。シリコンバレーを訪れるコースとか、ヨーロッパの自動車メーカーを巡るコースなどが設定されているようである。
 

↓ ↑ Bottom Top

青葉たちが歩くのも疲れたね〜と言って立ち話をしていたら
 
「すみません、写真をお願いできますか?」
 
と日本語で声を掛けてきた26-27歳くらいの女性3人組がいた。
 
「いいですよ」
と日香理が言って預かったカメラで、公園の入口にある凱旋門を背景に3人の写真を撮ってあげた。
 
「ありがとうございます。通りがかりの人何人かに声掛けたんだけど日本語は分からないみたいで」
などと彼女たちは言っている。
 
「いや、せめて英語で言いましょう」
「英語で写真撮ってもらえませんか?ってどう言えばいいですかね?」
 
「うーん。Excuse me, Could you take our picture? とかかな」
「ピクチャーって絵じゃないんですか?」
「写真のこともpictureといいますよ」
「へー、知らなかった」
 
↓ ↑ Bottom Top

日本の英語教育って実用性が低いからなあ、と思って青葉は会話を聞いていた。
 
その時、青葉は唐突にその中のひとりが左手手首にずいぶんと幅広のリストバンドをしているのに気づいた。
 
するとその青葉の視線に気づいたのか、その子が自分で言う。
 
「あ、これでしょ? 私リスカの常習犯なもんで」
 
「リスカってなんか飲み物だっけ?」
と美由紀。
 
「リストカット、手首を切るということだよ」
と日香理。
 
「なんで?」
と美由紀。
 
「なんで切っちゃうのか自分でもよく分からないんです」
と彼女。
 
「でも痛くないですか?」
「痛いです」
「あんた、その内死ぬよ、と言うんですけどね」
とこちらにカメラを頼んだ子が言う。
 
↓ ↑ Bottom Top

「常習犯って、昔からしてるの?」
 
と美由紀。彼女はこの手の世界のことに本当に無知なようだ。基本的に幸福な育ち方をしてるんだろうなと青葉は時々思う。しかし美由紀の素朴な態度を彼女は心地よく感じているようだ。
 
「高校時代に失恋して自殺しようと思って切ったことはあったんですけど、最近ここ2年くらいは自分でもよく分からないんですよ。目が覚めると手首が血だらけになってるから、きゃー、また私やっちゃったのかと思って」
 
「自分で覚えてないんですか?」
「覚えてないこと多いです」
 
「ね?それ誰かに切られているということは?」
と美由紀は青葉を見て言う。
 
「たぶん辛すぎて、その記憶を自分で消しているんだと思う」
と青葉は答える。
 
↓ ↑ Bottom Top

「何か辛いことがあるの?失恋とか、会社でのいじめとか?」
と美由紀は尋ねる。
 
「仕事場のストレスはあるけど、そんなに辛い気はしないんですけどねー」
「精神科とか通ってます?」
「会社の同僚に言われて言ってお薬もらってます」
「何を処方されました」
「****と****と****」
 
青葉は少し考えた。
 
「通りがかりの素人の戯言ですが、****を抜いた方がいいかも」
「へー」
 
「この子、お薬とかには凄い詳しいんですよ」
と美由紀が言う。
 
「薬学科の学生さんか何かですか?」
「いえ、まだ高校生なんですけどね」
「この子、日本で五指に入る霊能者だから、おまじないとかにも詳しくて特に人間の心に作用する系統の薬にも強いんですよ」
 
↓ ↑ Bottom Top

「わあ、霊能者さんでしたか!」
「ええ。だからこそ、本当は薬関係のことは助言したりしてはいけないんですけどね。薬事法違反になるから」
 
「でも今海外だし」
と美由紀。
「まあそうだけどね」
と青葉は苦笑する。
 

↓ ↑ Bottom Top

話が立て込んできたので、そのあたりに腰掛けてお互いに名前を名乗った。カメラを頼んだ人が恵海さん、リスカの人が蜜江さん、もうひとりの人が広夏さんと言った。
 
「ね、ね、霊能者さんだったら、分かりません? この子、リスカ以外でもここ数年やたらと運が悪いことが続いているんですよ。誰かに呪われているとかないですかね?」
と恵海さんが言う。
 
「どんなことがありましたか?」
「交通事故にも3回くらいあってるよね?」
と広夏さん。
 
「あ、うん。バイクに引っかけられて。これは軽症で済んだんだけど、あと交差点で車と接触して。これは足がちょっと内出血しただけで済んだんだけど、あと高速バスに乗ってたらバスが壁面に激突して」
と蜜江さん。
 
↓ ↑ Bottom Top

「きゃー!」
「死者も出た事故だったんですけど、私は軽症で1ヶ月くらい通院しただけで済みました」
 
「あなた、物凄く運が強い!」
と日香理が言う。
 
「この子って、いろいろ大変なことも経験するけど、けっこうそれを切り抜けていけるタイプなんですよね」
と広夏さんが言っている。
 
「他には会社が今不況でずっと給与カットされているんですよね。残業代も保留になっていて払ってもらえてないし」
 
「もうそこ辞めちゃったらと私は言うんですけどね」
「ええ。それで私もちょっと思考停止になってたかなと思ってた時に、ちょっと気分転換にヨーロッパ旅行でもしようよ、とこの子たちに誘われたから来てみたんです。おかげでこちらに来てから1度も手首切ってません」
 
↓ ↑ Bottom Top

「もしかして頻繁に切ってたの?」
と美由紀。
「ええ。2〜3日に1度は切ってました」
「それマジで痛いですよ」
「ほんと痛いですね」
 
「会社辞めたほうがいいというのに私も賛成です」
と青葉。
 
「私もだいぶそんな気になってきたんです!」
と蜜江さん本人も言っている。
 
「呪いは掛かっているけど、大した呪いじゃないですよ。自分をしっかり持っていたらはねのけられると思うし、たぶんその会社やめたら、その呪いも消えます」
 
「会社関係の人ですか?」
「それはなんとも。ただ今の会社に居ることによって、変な恨みを買っている感じがありますね」
 
「神社とか行ってお祓いしてもらったほうがいいですかね?」
「どちらにお住まいですか?」
「**市なんですが」
 
↓ ↑ Bottom Top

↓ ↑ Bottom Top

前頁 次頁目次

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8 
春行(2)

広告:Back-Street-Girls(12)-ヤングマガジンコミックス-ジャスミン・ギュ-ebook