【娘たちのタイ紀行】(4)

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この日の結果。
 
GrpE AUS 92-65 CZE / LTU 54-42 CAN / BRA 68-66 ARG

GrpF USA 109-68 JPN / ESP 74-62 FRA / RUS 67-62 CHN

 
GrpF暫定順位 1.ESP(5-0) 2.USA(4-1) 3.JPN(3-2) 4.RUS(3-2) 5.FRA(2-3) 6.CHN(1-4)

 
ここでロシアと日本は同じ3勝2敗であるが、直接対決で日本が勝っているので、順位の上では日本が上位ということになる。
 
そして、この時点で中国の脱落と、スペイン・アメリカ・ロシアの決勝リーグ進出が決定した。
 
なぜ暫定3位の日本ではなく、暫定4位のロシアの決勝進出が決まったかというと、順位決定方法の複雑なカラクリがある。
 
勝ち点が並んだ場合は

■2チームが並んだ場合は、直接対決の結果で決める

■3チーム以上が並んだ場合は、そのチーム同士のみで計算した勝ち点で決めるが、それも全チーム同じである場合は、相互得失点率で決める

 
というルールになっている(2014年の改訂で得失点率ではなく得失点差が使用されることになったが2009年時点では得失点率の比較である)。その結果、明日の試合結果による最終順位は次のようになる。
 
ロシア○日本×フランス×→3.ロシア 4.日本 5.フランス

ロシア×日本×フランス×→3.日本 4.ロシア 5.フランス

ロシア○日本○フランス×→3.日本 4.ロシア 5.フランス

ロシア×日本○フランス×→3.日本 4.ロシア 5.フランス

ロシア○日本×フランス○→3.ロシア 4.フランス 5.日本

ロシア×日本×フランス○→3.ロシア 4.日本 5.フランス

ロシア○日本○フランス○→3.日本 4.ロシア 5.フランス

ロシア×日本○フランス○→3.日本 4.ロシア 5.フランス

 
これを見ると全てのケースでロシアは必ず4位以内に入るのである。従ってロシアは暫定4位であるにも関わらず、暫定3位の日本より先に決勝トーナメント進出が確定してしまったのである。
 
逆に言うと、フランスが決勝トーナメント進出して日本が脱落するのは、ロシアとフランスが勝ち、日本が負けた場合のみである。
 

2009年7月29日。
 
二次リーグの最終日である。日本は13:00からの第1試合でスペインと当たる。日本はこの試合に勝てば、文句なしに決勝トーナメント進出が決まる。 
千里たちは今日も朝から分析担当マネージャーの谷浜さんが作ってくれた資料を元に相手チームの分析をした。
 
「まあ圧倒的に強いチームだから、分析してもあまり意味ないんだけどね」
と片平コーチは最初に前置きしてから説明を始めた。
 
「中核選手はフォワードのフェルナンデスとセンターのロペス。フェルナンデスが196cm, ロペスが192cmで、どちらも無茶苦茶背が高い。一応センター、パワーフォワードと登録は別になっているけど、どちらもよくシュートしてよくリバウンドを取る。フェルナンデスは今大会で現時点でリバウンド女王だ」
 
と片平コーチが言うと、サクラと華香の目が燃える。
 
「スモールフォワードのマルティネスはしばしば司令塔を務めている。だから彼女は得点も多いけど、アシストも多い」
 
リストを見ていた彰恵が発言する。
「フェルナンデスってふたり居るんですね?」
 
「そうそう。今言っていたのはパワーフォワードのフェルナンデスで、マリア・サラ・フェルナンデス。背番号は5番、副キャプテン。もうひとりはシューティングガードでマリア・クララ・フェルナンデス。背番号は15。
 
「どちらもマリアさんか!」
「まあマリアという名前は多い」
「フェルナンデスという苗字も多いですね」
「そうそう。渡辺さん、鈴木さん並みに多い」
「5番の方は M.S.Fernandez、15番の方はM.C.Fernandezとユニフォームには印刷されている」
 
「5と15の違い、SとCの違いって凄く紛らわしくないですか?」
「まあ身長が違うけどね。5番のフェルナンデスは196cm、15番のフェルナンデスは174cm」
「もうフェルナンデス・グランデ、フェルナンデス・チコでいいな」
 
「実際チーム内でもグランデ、チコと言っているみたいですよ」
と谷浜さんが言う。
 
「へー!」
「クララとサラって聞き間違いやすいでしょう」
「それも思った!」
 
ビデオを見ていた江美子が言う。
 
「そのグランデですけど、見てるとランニングシュートと、ゴール下からのシュートばかりですね」
「あ、それは私も思いました」
と谷浜さん。
「どうもミドルシュートが苦手っぽいんですよ。フリースローをかなり失敗してますよ」
「ということは、中に入れなければいい?」
 
「この体格の選手の突進を停められるならね」
と片平コーチが言うと、みな「うーん」と言って腕を組んでいた。
 

ところで、性転換手術を受けにバンコクに来ていたジーナさんは、昨日退院したということで、昨日は市内のホテルに泊まり、この日千里たちの試合を見に来るということだった。
 
「ずっと寝てたせいか、歩く時に身体がふわふわする感じで」
などと彼女は電話で言っていた。
「きっとある部分で200-300gほど体重が減ったからですよ」
と千里が言うと
「あ、そうかも!」
と言って、何だか喜んでいた。
 
会場に行くと車椅子に座ったジーナさんが客席から手を振っているのが見えた。千里たちも微笑んで手を振った。
 

今日の試合、両軍のスターターはこのようであった。
 
JPN PG.早苗/SG.千里/SF.玲央美/PF.王子/C.華香

ESP PG.ラーニャ/SG.イグレシアス/SF.マルティネス/PF.フェルナンデス/C.ロペス

 
ロペスと華香でティップオフをする。ロペスが勝ってマルティネスがボールを取ると、自らドリブルで攻め上がってきた。フェルナンデスにパスすると、彼女はそのまま中に突進してくる。
 
王子が停めようとしたものの、吹き飛ばされる。
 
フェルナンデスのシュートが決まる。
 
ファウルの笛は吹かれない。
 
つまりこの試合ではこの程度の衝突はファウルを取らないという意味だろう。 

スペインが先行はしたものの、その後は、結構互角の戦いで進んだ。
 
やはり、日本側は昨日の大敗の後で各自好きなように時間を使ったことで気持ちがふっきれている。それでまるで今日が初戦のような気分で戦っていた。一方でスペインは、日本ごときに負けられるかという気負いが空回りしている感じもあった。
 
今日の審判はあまりファウルを取らないようなので、相手の強力なフィジカルな当たりに対しても、こちらも臆することなくぶつかっていく。途中で桂華・百合絵も投入して、体格的に当たり負けない選手で運用していく。
 
「うーん。。。今日は出番無いかなあ」
などと166cmの江美子がつぶやいている。
 
日本チームで身長が低いのは朋美159<早苗164<渚紗165<江美子166<千里168といったところである。
 
むろん審判も全くファウルを取らない訳ではない。ファウルされてボールを落としボールが転がっていったようなものは取る。それで前半、マルティネスが1つ、フェルナンデスとロペスが2つ、ガルシアとゴメスが1つ、日本も王子とサクラが2つ、華香が1つファウルを取られた。
 
前半は最後に彰恵がブザービーターを決めて、34-34と同点で折り返した。 

第3ピリオド。スペインはどうも気合いを入れ直して出てきた感じである。ロシアにもアメリカにも勝ったのに、こんな所でアジアの弱小国に負けてなるものかという、怒りにも似た気持ちが選手たちに満ちている。
 
最初から激しい攻めを見せる。いきなり8-0にするが、その後、日本はまず千里のスリーで3点返す。
 
向こうはある程度スリーは仕方ないかと考えている雰囲気もあった。スペインの攻撃に移るが、むろんゴール下からのスローインから始まる。
 
この時、控えセンターのゴメスがボールをパワーフォワードのゴンザレスに送ろうとしたのだが、彼女のすぐ近くに自コートに戻りかけの玲央美が居た。 
すると玲央美は後ろ向きであったにも関わらず斜め後ろに手を伸ばすようにしてそのボールをカットしてしまった。
 
そのままシュートに移る。ゴメスがほとんどタックルのようなチェックをする。しかし玲央美はびくともせずにボールをしっかりゴールに放り込む。これがファウルを取られて、バスケットカウント・ワンスローとなる。玲央美は当然フリースローも入れて8-6. あっという間に2点差に詰め寄る。
 
その後も、このピリオドでは相手のプライドを掛けたパワフルな攻めが微妙にうまく行かず、冷静で落ち着いてプレイしている日本にうまくやられてしまう形になった。
 
結局このピリオドでは、攻守の勢いでは明らかにスペインが勝っているのに点数の上では16-21と日本がリードを奪うという結果になった。
 
第3ピリオドを終えて50-55と、何と日本が5点のリードである。会場のざわめきが大きい。
 

第4ピリオド、スペインはあえて中核のセンター・ロペスと、パワーフォワード・フェルナンデス、スモールフォワードのマルティネスという3人をベンチに置き、背は低いものの素早いサンチェス、癖のあるプレイをするロドリゲス、そしてシューターのイグレシアスの3人を中心にした攻撃をしてきた。 
彼らはとても丁寧にプレイし、時間を掛けて着実に点を取る作戦で来た。 
向こうがパワーをかさにきていると、こちらは隙を突けるのだが、相手が丁寧に攻めて来ると、元々の実力に大差があるので、どうにもかなわない。このピリオドは雰囲気では先のピリオドとは逆に、むしろこれまでより互角に戦っているように見えて、実は点差ではスペインが大きくリードする形になった。
 
残り4分半の所で、とうとう日本に追いつき点数は65-65である。
 

日本はここで桂華・玲央美・王子・サクラ・華香と背の高いメンバー中心のラインナップに代え、敢えて荒削りのプレイ、速攻中心の攻めにして相手のペースを乱す作戦で行く。
 
すると、向こうが丁寧にプレイしようとしても、王子やサクラが大雑把なプレイをするので、相手は微妙に歯車が狂ってくる。王子たちとの身体のぶつかり合いで相手選手が感情的に興奮する。
 
それでとうとう残り2分の所で69-75と日本が6点リードする状態になる。 

ここでスペインは「ソフト作戦」を諦め、ベストメンバーを投入した。あとは実力と実力の勝負にしようという態勢である。
 
ここで向こうの中核メンバーが頑張る。それであっという間にスペインが追い上げて、残り1分の所で79-75とスペインが逆に4点リードする状態になる。 
しかし激しい戦いが続いたことから、双方ファウルがかさんだ。王子とサクラも1個ずつファウルを取られてふたりとも4ファウルになってしまったものの、向こうもマルティネス・フェルナンデス・ロペスの中核3人が4ファウルである。
 
玲央美が華麗にレイアップシュートを決めて79-77と2点差に詰め寄った所で残り35秒である。
 
スペインはゆっくりと攻め上がってくる。日本がプレスを掛けるも、向こうも冷静なので、そう簡単には取られない。ただ24秒計は刻一刻と数字を減らして行く。
 
やがて20秒くらいになった所でイグレシアスがスリーを撃った。
 
しかしこれを王子がファウルして停めた。
 

王子は5ファウルで退場になる。江美子が代わって入る。
 
イグレシアスはフリースロー3本である。
 
1本目入れる。80-77.
 
2本目外す!
 
そして3本目。スペイン選手はわざとリングの端に当ててリバウンド勝負にした。
 
しかしボールを確保したのはサクラであった。
 

すぐ、外側に居る朋美にボールを送る。朋美が速攻で攻め上がる。
 
スペイン選手が必死に戻る。
 
朋美の前方に回り込むので朋美は逆サイドにいる千里にボールを送る。 
マルティネスが物凄い勢いで突進してきたものの千里は冷静である。今スペイン側が自分にファウルできないことを知っているからである。
 
千里が冷静に決めて80-80.
 
実際マルティネスは千里の1m程度手前で急停止し、万が一にも審判に千里と衝突したとは思われないようにした。
 
そして日本はギリギリで同点に戻した。
 
残り12秒。
 

スペインが最後の攻撃に移る。日本は当然全力でプレスに行くがスペインは何とか8秒以内にフロントコートにボールを進めた。
 
フェルナンデスがドリブルで、江美子を蹴散らして中に飛び込む。そして玲央美と衝突しながらシュートを撃つ。
 
ボールはリングに飛び込んだように見えたのだが、ネットに反射して!?上に飛び出してしまった。
 
直後試合終了のブザーが鳴った。
 

審判は笛を吹いた。
 
言葉で説明する。
 
「ボールはバスケットを通過しなかったので得点は認められない。しかしその前に青の10番のファウルがあったのでフリースロー2本が与えられる」
 
玲央美はファウルを取られたのは不満そうであったが素直に手を挙げる。 
それでフェルナンデスのフリースローとなる。彼女が1本でも入れたらスペインの勝ち、2本とも外せば延長戦である。しかし日本側が事前に分析していたように実は彼女はミドルシュートがあまり得意ではない。この試合でもフリースローを6本撃って実は1本しか入れていない。それでもスペインとしてはここは彼女に決めてもらうしかない。
 
逆に日本側としては、彼女が2本とも失敗することに掛けるしかない。 
フェルナンデスが審判からボールをもらい、慎重にセットする。
 

シュートする!
 
するとボールは勢いよく飛んで行ってリングの端に当たり、シュートしたフェルナンデス自身の所に直球で飛んできた。
 
「あっ」
と叫んで手で防御しようとしたものの、間に合わなかった。
 
ボールは彼女の顔面にまともにぶつかってしまった。
 
ボールの勢いが強すぎて、反応が間に合わなかったのである。
 

フェルナンデスが倒れる。
 
慌ててチームメイトが駆け寄り、
「サラ!」
と名前を呼んでいるが、彼女は気を失っている!?
 
会場の医師が出てきて診察する。
 
目を開けて瞳孔を確認する。脈拍と血圧を測っている。しかしそうこうする内に彼女は目を開けた。
 
何とか意識を取り戻したようである。
 
しかし医師は、すぐにプレイできる状態ではなく、しばらく安静にした方がいいと主張した。
 
それで担架を持って来て、慎重にそちらに乗せ、コート脇のベンチの所まで運び出した。
 

フェルナンデスはフリースロー2本の内1本撃ったところであった。普通はフリースローは途中での交代は認められない。また、ファウルで得たフリースローは、ファウルされた本人が撃たなければならない。
 
しかし負傷の場合は例外である。
 
審判が代わりの選手にもう1投をさせるよう、スペインの監督に言う。 
スペインはフェルナンデスを出して来た。
 

会場がざわめいた。
 
「あぁ・・・」
と日本側の選手たちが悲鳴に近い声を漏らした。
 
負傷で退いたのは5番を付けたパワーフォワードのマリア・サラ・フェルナンデスである。代わってコートインしたのは、15番を付けたシューティングガードのマリア・クララ・フェルナンデスである。
 
彼女を認めてスペイン応援席が盛り上がった。
 
千里は参った!と思った。
 
同じマリア・フェルナンデスでも、サラの方はミドルシュートが苦手であるものの、クララの方は、シューティングガード登録されている選手だ。この大会ではあまり出番がなく、プレイ映像もわずかしか無かったものの、おそらくフリースローは上手い。
 

マリア・クララ・フェルナンデスは両腕を回して準備運動をしている。この試合でここまで一度もコートインしていなかったものの、最後の最後で大役が回ってきた。緊張もしているだろうが、彼女が緊張に勝てるかどうかか勝負の分かれ目だ。審判からボールをもらう。ひとつ息を吐いてからセットする。
 
撃つ。
 
ゴール!
 

日本選手がみな一様に大きなため息をついたのに対して、スペイン選手は大騒ぎである。シュートを決めたクララがみんなから頭や肩を叩かれていた。最後の最後に1シーンだけ出てきてヒロインになるというのも凄いことである。
 
審判が整列を促す。
 
「81 to 80, Spain won」
と審判が告げた。
 
ガルシアと朋美が握手したのに続き、みんなお互いに握手をして、健闘を称えあった。
 
なお、倒れたマリア・サラ・フェルナンデスだが、そのまま10分くらいベンチ脇の所で医師の診察を受けていたが、その後、担架に乗せたまま医務室に移されたようであった。
 

しかし、こうして日本は惜しい星を落として結局3勝3敗となり、ロシアとフランスの試合の結果待ちとなったのである。
 
試合終了後着替えてから客席に行く。ジーナさんの席は日本選手団の席のそばに確保してある。高田コーチが準備してくれた席であろう。
 
「お疲れ様でした」
「負けちゃいました」
「いえ、あんなに凄い試合を見られて幸せです。私バスケファンになっちゃいました」
「それはぜひ全快したら、国内の試合も見に来てください」
 
「手術の経過はどうですか?」
「痛いですけど幸せです」
「ああ、そうですよね」
「包帯は取れたんですか?」
「まだです」
「じゃ、まだ自分のお股をまだ見てないの?」
 
「それは見ましたよ〜。感激しました。わあ。無くなっている。嬉しいと思った」
「自分は女の子だという意識のある子にとっては凄い邪魔なものなんだろうなあ」
 
「そうなんですよ。あれで20年間悩んできたから。でも表面の傷口が治るまでは包帯してないといけないんですよね。だからトイレが大変なんですよ」
 
「ホースが無くなっちゃったからよけい大変ですよね」
などと王子が言う。
 
「まるで経験者みたいなことを言う」
と百合絵から言われている。
 
「あら?あなたも手術して女性になったんですか?」
とジーナさん。
「私、もうそういうキャラということにしとこうかな」
と王子。
 

フェルナンデスだが、本人は30分ほどで回復して平気平気と言っていたものの、念のため病院に連れて行って精密検査をしたらしい。特に異常は無いということで、決勝トーナメントには問題無く出られるということであった。日本は高居代表の名前でお見舞いの花を贈っておいた。
 
日本−スペイン戦の後、アメリカとロシアの試合が行われた。意外に点差がついて75-56でアメリカが勝った。
 
この結果、次のフランス・中国戦の結果を待たずに、日本は決勝トーナメント進出が決まった。アメリカの勝利が確定した時点で、千里たちはお互いに握手しあって、喜びを分かち合った。
 
ジーナさんも
「皆さん、おめでとうございます!」
と笑顔で言っている。
 
事態を把握していない王子が
 
「これどうなったんですか?」
と訊いたので
「日本が決勝トーナメント進出」
と教えてやると
 
「おぉぉぉ!!!」
と叫んでいた。
 

この日の結果。
 
GrpE CZE 74-73 CAN / ARG 61-57 LTU / AUS 72-51 BRA

GrpF ESP 81-80 JPN / USA 75-56 RUS / FRA 59-45 CHN

 
GrpE順位 1.AUS(5-1) 2.CZE(4-2 h2W) 3.CAN(4-2 h2L) 4.LTU(3-3 h2W) 5.BRA(3-3 h2L) 6.ARG(2-4)

GrpF順位 1.ESP(6-0) 2.USA(5-1) 3.RUS(3-3 1-1/1.0483) 4.JPN(3-3 1-1/1.0062) 5.FRA(3-3 1-1/0.9492) 6.CHN(1-5)

 
※h2W:直接対決で勝利 h2L:直接対決で敗北
 

ジーナさんはこれで帰るということで、会場からそのままタクシーでスワンナプーム国際空港に向かい、23:59の便で関西空港行きで帰国するということであった。
 
千里たちは彼女と別れてホテルに戻り、夜食を取った。夕食はアメリカ−ロシア戦の後半を見ずに会場近くの食堂に行って取っていたのだが、ホテルでの夜食は、決勝トーナメント進出のお祝いという感じになる。
 
「負けたのにお祝いは変だけどね」
「まあ、より小さく負けたということだよね」
 

30日。
 
この日は決勝トーナメントを前にした休養日で全ての試合が休みなのだが、千里はまた天津子に呼び出された。
 
彼女がレンタカーでホテルまで迎えに来てくれるので、彼女の運転するベンツに乗って出かける。しかし彼女に連れてこられた場所を見て困惑する。 
「ここで何するの?」
「あそこに居るカマキリさんの御用事を果たすんです」
「カマキリ?カマキリがどこかに居るの?」
 
「千里さんも冗談がきついなあ。あれが見えない訳ないですよね?いくら何でも」
 
などと言って彼女はさっさと歩いて行くので千里も付いていく。
 

彼女はここのところ毎日千里が試合をしているユースセンター体育館の所まで来た。
 
「先日の呪いを掛けた人物はインドシナ地方特有のテンダッカというカマキリの妖怪を使役して呪いを掛けていたんです」
 
確かにカマキリっぽかったなと千里は思った。
 
「それであそこにおられるのが、そのテンダッカの親分なんですよ。最初はこの親分さんにお願いして、子分さんを召還してもらい、呪いをキャンセルできないかと思ったのですが、そんな下っ端の対処もできない奴とはそもそも話もできんとおっしゃるので、こちらで勝手に処分させてもらいました」
 
なるほどー。あの体育館の屋根の上に、そのカマキリの親分がいるわけか。それであの体育館は重苦しい雰囲気だった訳だ。
 
「そのテンダッカ子分は地獄送りになったんだっけ?」
「呪者の魂と一体化していたので、どうにもなりませんでした」
「ああ」
 
「でもそしたら、このテンダッカ親分からお使いが来ましてね」
「うん」
「何か文句言われるかなあと思ったのですが、お話ししたら、悪いことした奴は罰を受けなければいけないからあれでいいということと、自分が本来の場所にいないために、ああいう困った子を出してしまったと謝っておられましてね。それで自分が本来の場所に帰る手伝いをしてくれとおっしゃるんですよ」
 
「はあ」
 
「何でも戦時中に本来の居場所が演習とかに使われていて居られなくなってここに引っ越してきておられたらしいんですよ。最初はあちらのプールの方におられたらしいんですが、向こうが建て直すことになったらしくて、それでこちらの体育館に方に来られたものの、こちらも屋根の改修工事が始まって、居づらいなあと思われたということで。それで自分の本来のおうちに戻ろうかと。でもこの公園からの出口がないので、それを作ってくれないかと言われたんです」
 
と天津子は説明する。
 
「こういう大きな作業は、私ひとりではできませんけど、私と千里さんと、それから日本にいる友人2人、4人が一緒に力を出せば行けそうな気がするんですよ」
 
その2人というのは実は、彼女の姉弟子の桃源と、青葉である。最初天津子はこんな大きなお仕事は師匠の羽衣を頼ろうと思ったものの、どこに行っているのやら、弟子の誰も所在を知らなかったのである(実は瞬嶽に術を掛けて殺そうとして返り討ちに遭い、瀕死の状態で寝ていたことが後に分かる−これは実は羽衣と瞬嶽の「楽しい命を賭けたお遊び」なのである)。
 
それで桃源とも話し合い、桃源は過去の事件で青葉や千里のパワーを見ているので、この4人でならできるという結論になったらしい。
 
「それを今日やるんだ?」
 
「千里さんがこの日空くということでしたので、それに合わせてもらいました」
 
「ごめんねー」
 

「でもこのカマキリさんが屋根に留まっていたら、中で試合やっていても消耗が激しかったでしょう。ここに居るだけで疲れるはずですよ」
 
「まあそれは思ったけど、自分1人では対処できなさそうだなと思った」
と千里は正直に言う。
 
天津子も頷いている。
 
実は体育館の雰囲気が変だというのは気づいていたので《とうちゃん》に相談したら、自分たちにも手が負えないと言われたのである。有害という訳でもないし、この大会で使うだけだから、我慢しておいた方がよいと思うと言っていたので、千里もそれでいいことにしていた。
 
「ちょっと大きな魔法陣を書きます」
と言って天津子はその体育館の前に素敵な雰囲気の杖を使って直径50mはある巨大な魔法陣を描いた。先日の呪いを封じた時の杖とは別のものである。恐らくは用途によって杖を使い分けているのだろう。
 
そして天津子は携帯2台で別々の人を呼び出していた。
 
「OK。つながりました」
「私は何をすればいいの?」
「良かったら私の後ろに座っていて下さい。これ普通の霊鎧では完全には防御できないので私が特殊なバリアを張ります」
 
「分かった」
 

それで天津子が電話2台を左右の耳に当てたまま呪文を唱え始める。
 
すると、しばらくする内に何か異様な空気になる。
 
千里はえ!?と思い、最強の霊鎧を発動し、《くうちゃん》のアドバイスで、天津子と彼女が両手に持つ携帯電話の先に居る人物までも、その霊鎧で覆ってしまった。
 
強烈な空気の塊のようなものが動く。
 
体育館の屋根を覆っていたブルーシートが吹き飛んで空に舞う。千里の近くで多数の樹木が折れる音を聞いた。何か凄まじい破壊音が聞こえる。道路で事故でも起きたような音が聞こえる。
 
『巨大なもの』は大きな痕跡を残して去って行った。
 
天津子は腰を抜かしたようで座り込んでいる。彼女が手にした携帯電話は2台とも潰れている。
 
天津子は座ったまま身体を半回転させ、『何か』が去って行った向こうの方角を見ていた。どうもチビに様子を見に行かせているような雰囲気だ。本人はまだ立つ元気がないようだ。
 
「あ、無事にご自分の居場所の湖に戻ることができたようです」
と天津子は5分以上経ってから言った。
 
「それは良かった」
と千里。
 
「でもびっくりした。私が千里さんや他の2人も守るつもりが、逆に千里さんのバリアに助けられました。さすがですね。ありがとうございます」
と天津子。
 
「いや、今のはやばいと思ったから」
と千里は言う。
 
「千里さん、携帯はお持ちですか?」
「うん」
「貸して下さい」
「いいよ」
 
それで天津子は千里の携帯でどこか2ヶ所に電話していた。協力してくれた2人なのだろう。
 
まず1人に掛けて話している口調が友達口調だ。向こうも女の子のようなので年の近い姉妹弟子なのかなと思う。
 
「オカマ野郎は無事でした。残念」
などと天津子は電話を切ってから言っている。
 
「オカマ??」
「本当は世界中のオカマを絶滅させたいんですけどね〜。今回はクライアントの次男もオカマだし、こいつもオカマだし」
などと天津子は言っている。
 
天津子がクライアントのことを他人に話すのは珍しいが、恐らく今の大王様の移動によほど驚いたのだろう。
 
もうひとり電話をしているが、こちらは敬語で話している。こちらも相手は女性のようだが、師匠か年の離れた姉弟子なのだろう。
 
「姉弟子も驚いたそうです。やられる!と思った所で千里さんのバリアで助かったと言っていました」
と実際に天津子は電話を切ってから言った。
 
「まあ助かったのなら良かった」
 

「しかし派手な移動だなあ」
と天津子は座り込んだまま言った。
 
このスポーツセンターの樹木が数十本は倒れている。この体育館より道路側にあったプールの建物は派手に壊れている。しかし建て直すという話だったようなので、もしかしたら壊す手間が省けたかも知れない。道路ではどうも大型トラックが潰れたようだが、《りくちゃん》に見てきてもらったら死者は出ていないようである。また道路の向こうの方でも多数の建物に被害が出たようだ。 
「面倒な事に関わらないうちに逃げましょうか」
と天津子。
「そうだね」
と千里は座ったまま言う。
 
「千里さん、大丈夫ですか?」
「ごめん。立てない。なんか凄い疲労感」
と千里。
 
「あぁ・・・あれ?私も立てない」
と天津子。
 
彼女も力を使い切ったのだろう。
 
その時、体育館から西洋人っぽい人が数人出てきた。
 
「ムラヤマ?」
「ペトロヴァ?クジーナ?」
 
それはロシア人選手たちであった。
 
「どうかしました?」
と彼女たちがロシア語で尋ねる。
 
「気分が悪くなってしまって立てないんです」
と千里は正直にロシア語で答える。
 
「車か何かできてる?」
「ええ。そちらの駐車場に」
 
「じゃ運んであげるよ」
「スパシーバ!(ありがとう)」
 
それでクジーナが千里を、コフツノフスカヤが天津子を抱え上げて駐車場まで運んでくれた。
 
「本当にありがとう。助かりました。なんか凄い風が吹いてきて、木とかも折れて、びっくりしてしまって」
と千里がロシア語で言う。
 
「私たちもびっくりした!竜巻か何かだろうね。それで帰ることにしたんだよ。天井から照明が落ちてきたりして悲鳴が上がってた」
とペトロヴァ。
 
「怖いですね。誰かお怪我は?」
「何人かかすり傷負っただけ」
「わあ、お大事に」
 
ちょうど彼女らの練習タイムだったのだろう。日本も夕方に1時間割り当てられている。この『竜巻』で中止にならなければ使えるはずだ。
 
「でもこないだの試合は悔しかった。決勝トーナメントで当たったらまたやりましょう」
とロシア人選手たちは言っていた。
 
「いいですね。当たるとしたら決勝戦ですね」
「うん。頑張ろう」
 
「私もぜひまたタカハシとやりたい」
とクジーナも言っている。彼女も変な所でテクニカルファウルを取られて退場になってしまい、王子との対決が不完全燃焼の思いだろう。
 
「高梁に伝えておきますよ」
と千里は言った。
 
「そうだ。うちとの試合中に倒れたマシェンナさん、大丈夫でした?」
と千里は尋ねる。
 
彼女は翌日のマリ戦は休んだものの、二次リーグの3試合には出ていた。但し精彩を欠いていた。そして今日ここには来ていない。
 
「うん。大丈夫だけど、体調が悪いみたい。何か身体が疲れやすいとか言うんで今日も休んでおくといいと言ってホテルに置いてきたんだよ」
とペトロヴァが言っていた。
 
「でもあの子、ここ1年ほど目つきとかも変で少しおかしかったのが、悪魔払いでもしてもらったかのように凄く雰囲気が良くなったんだよね」
と彼女と同じ高校の生徒でもあるクジーナが言う。
 
「悪魔が去ったのかも知れませんね」
「うん。だからあの子はこれから元気になると思う」
 
「じゃ2年後のU21世界選手権までにはもっと強くなっているかな」
と千里。
「私ももっと強くなっているけどね」
とクジーナは笑顔で言った。
 

千里と天津子は車の座席に座らせてもらったが、ふたりともその場で1時間くらい休んでいた。天津子は自分で運転する自信が無いようである。千里も今回はまさか運転することになるとは思わなかったので国際運転免許証は用意していない。
 
それで天津子はバンコク市内に住むお友達の霊能者さんを呼び出した。 
メーオさんという30代の女性で、運転を頼むということだったからというのでバスでやってきてくれた。
 
「なんか竜巻で凄い被害が出てるみたい。道路渋滞してて時間が掛かった」
などと言っている。
 
「運転はそちらのお姉さんがしてくれてたの?」
とメーオさんは訊く。
 
その瞬間、千里は「あっ」と思った。
 
天津子は確か中学2年生である。運転免許がある訳無い!
 
つまり無免許運転だった訳だ。天津子が《脳間直信》で『ごめん。話を合わせて』と言うので
 
「初めまして。村山と申します。今日は昇陽(天津子の霊名)先生のドライバーと助手だったんですが、相手が物凄くてびっくりして腰が立たなくなってしまい、ご迷惑お掛けしました」
 
と千里は笑顔でメーオさんに言う。
 
「ああ。あんたも少しは霊感あるみたいだね。昇陽ちゃんに付いて修行していれば、簡単な祈祷くらいはできるようになるかもよ」
 
とメーオさんが言うので、天津子は「あっ」と声を出したあと悩んでいた。 
千里の霊力の本当の凄さに初対面で気づいた“人間”は、この時点では存在しない。2年後に出会う菊枝と瞬嶽が初めてである。天津子は眷属のチビを瀕死の状態にさせられる手痛い目に遭って千里のパワーを認識した口である。 
人間以外では、小春と美鳳が千里の力に気づいたが、美鳳は一目で分かったものの、小春は数回千里と会う内に気づいた口である。千里の眷属たちも実は千里の能力はよく分かっていない。《くうちゃん》はさすがに分かっていると思われるが、彼は黙して何も語らない。
 

ともかくもメーオさんの運転で千里はホテルまで送ってもらった。その日は千里は午後の「非公式練習」はパスさせてもらって、ひたすら眠り、夕方からの「公式練習」にだけ参加することにした。
 
もっとも、日青センター体育館は《竜巻》のため、窓ガラスが割れたり、天井の照明が落ちたりしたため、ロシア選手たちが退出した後、業者を入れて緊急の補修作業を行っているということで使えず、代わりに市内の別の体育館が割り当てられていた。
 
「見てきたけど、物凄かったよ。木がたくさん倒れてて、プールの建物は完全に崩壊してた。体育館も屋根を覆ってたブルーシートが飛んで行ったらしいけど、新たにブルーシート掛けるのは台風が接近中で危険だから、それが通過した後でやるらしい。多分この大会が終わったあとになるんじゃないかな」
と高居代表と篠原監督が言っていた。
 
「壊れたのが体育館の方でなくて良かったですね」
「全く全く」
 

この日、大船渡にいた青葉は事前に天津子からの連絡で、大きな作業をするのにパワーを貸してくれと言われ、指定された時間帯に祖母の家に行っていた。自宅では、電話が止められていて、連絡が取れないからである! なお現在は夏休み中である。
 
10時過ぎ。天津子から電話が掛かってくる。青葉は念のため部屋の外に出ていてと祖母に頼んだ。
 
天津子との霊的なコネクションをつなぎ、自分も霊鎧をまとう。そこに天津子がもうひとつかなり強そうな霊鎧を重ねてくれた。
 
「これ凄〜い」
と思わず声を出す。
 
恐らくは天津子の師か誰かのパワーを借りているのではと思った。
 
「じゃ行くよ」
と天津子が声を掛ける。天津子に協力して『道を開ける』お手伝いをする。事前に手法の詳細は教えてもらったが、どうもインドシナ方面特有の呪術のようである。
 
天津子と一緒に呪文を唱和する。
 
道が開いた!と思った瞬間、突然何か物凄く巨大なものが動く気配がする。 
え!?
 
と思う。これ、この霊鎧で守り切れる???
 
と不安になった時、受話器を通して、さっき天津子が掛けてくれたものより遙かに丈夫そうなバリアが流れ込んできて、青葉を守った。
 
わっ。
 
と思った瞬間、青葉のいる部屋で天井の蛍光灯が破裂し、窓ガラスも粉砕する。本棚の本が全部落ちてきて、テレビの画面まで爆発した。
 
それと同時に電話は切れてしまった。
 

「何事!?」
と言って祖母がこちらに来るが
 
「危ないからこの部屋に入らないで」
と青葉は言った。
 
青葉も実は腰を抜かしていたのだが、すぐに天津子から再度電話が掛かってくる。どうも、こちらの電話機自体は無事だったようだ。
 
「ごめーん。凄まじかった」
と天津子。
 
「天津子ちゃん、無事?」
と青葉は彼女を心配して言ったが
 
「大丈夫、大丈夫。青葉を含めて全世界のオカマを殲滅するまでは死ねないから」
などと天津子は言っている。
 
「青葉だけは特別に助けてやってもいいなあ。性転換手術はしない条件で」
「それは嫌だ」
 
普段の調子なので、大丈夫そうである。
 
「でもこちら電話機壊れちゃった。今お友達の電話機から掛けてるのよ」
「わあ」
「そちらは電話機壊れなかった?」
「電話機が壊れていたら、この電話はつながってないよ」
「あっそうか!」
 
そんなことに思いが至らないというのは、天津子も相当動転しているのだろう。天津子は、そちらで壊れたものあったら全部弁償するから被害額をまとめておいてと言っていた。
 

青葉は電話を切った後で、片付けるのに立ち上がろうとしたのだが、自分が立てないことに気づく。
 
「どうした?」
と祖母。
 
「おばあちゃん。お腹が空いた。なんかお肉とかをたくさん食べたい」
「買ってくる!タクシー呼んでくれる?」
と祖母が言うので、青葉は目の前の電話機からいつも利用しているタクシー会社を呼び出した。
 

翌日、2009年7月31日。
 
日本はU19世界選手権の準々決勝に臨む。日本がU19で決勝トーナメントに進出したのは1993年以来、実に16年ぶりである。その時は当時17歳だった三木エレンが大活躍。彼女は高校卒業後フル代表に招集され、それから14年間日本代表として活躍し続けている。藍川真璃子の現役時代を知らない千里にとってエレンこそが自分の目標である。
 
準々決勝は、E組1位-F組4位、E組3位-F組2位、E組2位-F組3位、E組4位-F組1位、という組み合わせになる。つまりこのようなブラケットになる。
 
AUS┓

JPN┻┓

CAN┓┣┓

USA┻┛┃

CZE┓ ┣

RUS┻┓┃

LTU┓┣┛

ESP┻┛

 
日本はグループFの4位だったのでグループE1位のオーストラリアと対戦することになる。
 
「今日勝てたら、カナダとアメリカの勝者か」
「まあ、アメリカが来るだろうね」
「きっとカナダも、もし今日勝てたら明日はオーストラリアだねと言ってるよ」
 
「まあ、頑張りまっしょ」
 

体育館の補修は徹夜で作業して今朝7時頃、何とか終わったらしい。本当にお疲れ様である。
 
この日、日本の試合は13:00からの第1試合であったが、昨日この体育館での練習ができなかったこともあり、午前中30分だけ、本番コートでの練習時間が用意されていた。
 
するとこの練習で
「何か今日は身体が良く動く」
と言っている選手が多い。
 
「あんた昨日は午後の練習サボッて寝てたからじゃない?」
と言われている選手もいる。実は昨日は千里以外にも日昼の練習を休んだ選手が4人もいた。みんな疲れがピークに達しているのだろう。
 
「いや、私も何か調子良い」
と昨日もフルに練習していた渚紗が言っていた。
 
「この体育館、ちょっと換気が悪いような気がしていたんだよね。それがちゃんと新鮮な空気が入ってきているような感じ」
と朋美は言っている。
 
「もしかして竜巻の影響で、空調とかの調子の悪かったのが治ったとか?」
「真空管時代のテレビは殴れば映るようになってたってのと似たようなものかな?」
「この体育館、いつできたんだっけ?」
「1982年」
「それって真空管時代?」
「まさか。もうLSIの時代だよ」
 

やはりカマキリ大親分が屋根に乗っかっていたせいかな、と千里は思った。ただ、この手のものに影響を受けやすい子と受けにくい子がいるはずである。おそらく、玲央美などのように霊感の強い子はパワーアップするのではと思った。
 
『ま、私みたいに霊感ゼロの子は関係無いよね〜』
 
などと千里が心の中でつぶやくと、《こうちゃん》と《いんちゃん》が顔を見合わせていた。何だ?何だ?と千里は思った。
 
 
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