【娘たちのエンブリオ】(8)

前頁次頁目次

1  2  3  4  5  6  7  8 
 
12月31日には福島市でローズ+リリーの公演を行い、これにもアクアが鈴割り役で登場した。今日はプレゼント方針についてホームページにも掲載したし、会場の入口の所にも大きく掲示し、また警備員を増員したので、何とか混乱無く実施することができた。
 
福島公演の後、ケイとマリは福島市内で出演者と年納めをしてから、下記の連絡で明日の公演地である札幌に移動した。
 
福島21:56(新幹線)22:17仙台(泊)仙台空港1.01 7:45-9:00新千歳9:33-10:10札幌
 
アクアとコスモスは寝台列車で移動した(*3).
 
福島22:29(北斗星)11:15札幌
 
実は万一天候などで飛行機が飛びそうに無かった場合に備えて、マリ・ケイ移動用に北斗星のチケットも予備で押さえていたのである。他にもスタッフの一部をこの便で移動させることになっていた。それをコスモスとアクアが使用した。ふたりの分はマリとケイが使うかも知れなかったツインデラックスである。
 

(*3)リアルでは2014年12月28日から2015年1月4日の間は北斗星は運休していますがここでは運行していたことにしています。カシオペア・はまなすも年末年始は運休です。そのためリアルでは、福島公演が終わった後、札幌への移動手段は、航空券の予約を取っていなかった場合は、下記の連絡が唯一の方法でした。
 
福島17:17(やまびこ57)17:37仙台17:54(はやぶさ27)19:37新青森19:47(スーパー白鳥27)21:54函館(泊)1/1 6:22(スーパー北斗1)9:58札幌
 
結構な体力を消費する移動です。
 
加藤課長は航空券は団体券だから後で名義を変えられると言っていましたが、年末年始は航空会社は団体券を発行しません。充分席に余裕がある時なら名義を変えるためにキャンセル後再確保する手がありますが、こういう時期はキャンセルすると即空席待ちの人が先に取得してしまいます。そうなると、他人名義のまま乗せてしまうしかありませんが、23歳のコスモスはいいとして13歳のアクアを乗せるのは困難です。
 
なお、フェリーも年末年始は夜間の便が運休なので、青森に↑より遅い便で到着すると朝まで待つことになり、結局札幌のライブに間に合いません。ライブがあった後セットを解体してトラックで運ぶのでは、札幌の設営に間に合わないので、札幌のセットは福島とは別のものを使うしか無かったと思われます。
 

「広いお部屋ですね〜」
とアクアは言った。
 
「一緒の部屋だけど、私たち女の子同士だから構わないよね」
などとコスモスは言った。
 
「じゃボクも今夜は女の子でいいです」
「まあ龍ちゃんが本当は女の子だというのはこないだの山手線一周で確認したしね」
とコスモスが言うと、龍虎は恥ずかしそうに俯いた。
 
「どちらが上に寝る?」
「ボク、狭い所と高い所が好きだから上でもいいですか?」
「いいよ。可愛いにゃんこちゃん」
 

それで座席をベッドに転換した上でしばらくベッドに並んで座っておしゃべりしていたが、仙台を過ぎて少しして0時頃、寝ようかということになり、一緒にトイレ行ってきてから、龍虎は上段に上がり、コスモスが下に寝た。
 
疲れが溜まっているのか、すぐ眠ってしまったのだが、龍虎は夜中ふと目を覚ました。
 
え?何この感触?
 
「目が覚めちゃった?」
「コスモスさん!?」
 
コスモスが龍虎のベッドの中に居るのである。
 
「宏美でいいよ。寝る前に『今夜は女の子でいいです』と言ってたけど、あらためて確認したら、完全に女の子じゃん」
 
「えーっと・・・」
「おっぱいはこれマジでBカップある」
「少し膨らんでるかな」
「お股もこれ完全な女の子だ。割れ目ちゃんがあって、クリちゃん、女の子のおしっこ出る所、ヴァギナ、完璧にある」
と言って宏美は触っている!
 
「ちょっと事情が・・・」
「おちんちんが縮んでとか言ってたけど、おしっこの出る穴は別にあるもん。これはちんちんじゃなくてクリトリスだ」
「ちんちんがちょっと今行方不明で」
 
「行方不明なんだ?」
「探しているけど見つからなくて困っているんです」
「だったら、ちんちんが見つかるように、おまじないの歌を教えてあげるよ」
「そんなのあるんですか?」
 
それで宏美は歌い出した
「ちーんちーん、ちんちんちん、ちーんちーん、ちんちんちん、・・・・」
龍虎は呆気にとられて宏美の歌を聞いていた。
 
宏美さんって・・・・本当は歌が上手いということは!?
 
「あのチンポコよどこ行った? ほら一緒に歌って」
「はい」
 
それで龍虎は深夜の北斗星の中で、宏美と一緒に「ちーんちーん、ちんちんちん」と歌い「あのチンポコよどこ行った?」という所まで歌った。
 
「覚えた?」
「はい」
「じゃ、2番行ってみよう」
「え〜〜!?」
 
それで宏美は2番、3番、4番と歌って行く。この4番の歌詞が強烈だった。
 
「あの子と二人押入で、見せっこしたよ幼い日、チンチンつまんだあの子がね、私もほしいとつぶやいた」
 
宏美と一緒に歌ってから龍虎は言った。
「この4番、かなりやばくないですか?」
「そうそう。だからカラオケ屋さんとかに行くと、この4番の歌詞が表示されなくて、1番の歌詞が再度表示される」
 
「自主規制って奴ですか?」
「規制したくなる人の気持ちも分かるね。でもこの4番がいちばん強烈な、ちんちん探しのおまじないなんだよ。特に『私も欲しい』という所が大事。龍虎ちゃん、ちんちん欲しいんでしょ?」
「あ、はい」
「私もあるといいな」
「そうなんですか!?」
「さあ、もう一度歌おう」
「はい」
 
それで龍虎は30分くらい宏美とふたりで「オーチンチン」(里吉しげみ作詞・小林亜星作曲)を1番から4番まで何度も歌い続けたのであった。宏美は普段は音痴なのに、なぜかこの歌だけは凄くうまかった。龍虎は一緒に歌っている内に気分が昂揚してきた。
 
「見せっこしたと言っているから、私のも見せてあげるね」
「大丈夫です!」
「そうだね。だったら、彩佳ちゃんに見せてもらうといいね」
「あやかって・・・」
「お友だちの方の彩佳ちゃんね。私のを見るよりいいでしょ?」
「そうですね」
 
《あやか》という名前の人が複数いるので、ややこしいなと龍虎はこないだから思っていた。小学1年生以来の親友・南川彩佳、品川ありさの本名・佐藤絢香、そして先日一緒になったスリファーズの原田彩夏。
 
でもどうやって彩佳にあそこを見せてなんて言えばいいんだろう?
 
「これ毎日3回歌っていたら、ちんちんはきっと一週間以内に見つかるよ」
と宏美は言う。
 
「本当ですか?」
「じゃ彩佳ちゃんと見せっこしてね」
と言って、宏美はベッドを出ると下の段に降りていった。
 
この夜のことは、龍虎は現実だったのか夢だったのか判然としない。でも「オー・チンチン」という歌は、龍虎の愛唱歌(?)になった。
 

桃香は千里が帰った後、旅支度を調えてミラに乗り込み、関越→長岡JCT→北陸道というルートで走った。上信越道を通るとこの時期は一車線区間が渋滞しそうなので関越を選択した。休憩しながら走って高岡に辿り着いたのは12月31日のお昼頃である。
 
「あら1人だけ?」
「千里は就職の保証人の判子もらうのに北海道に行った」
「あら。就職決まったんだ!良かったね。こないだの巫女さんにお願いしたのが効いたのね」
 
と朋子は喜んでいたが、青葉はそれって迷惑だったのでは?という気がした。
 

千里や暢子たちが乗ったフリードスパイクは12/31の朝青森に到着し、10:00-13:40の津軽海峡フェリーに乗った。暢子がちゃんと予約をしていたから乗れたが、年末年始、津軽海峡を渡るフェリーは便が極端に減るので、順番待ちをしている車の数が物凄かった。函館に着いた後は、旭川まで5時間ほどで到達する。実際には雪子が留萌に行くので、深川ICで下道に降りて、彼女を深川駅で降ろし、その後、旭川駅で千里と橘花を降ろして最後は暢子ひとりで名寄まで走った。
 
千里は駅近くのファミレスで津気子・美輪子と落ち合った。
 
「こんばんは〜。これお土産」
と言って、2人にそれぞれお菓子とお酒を渡す。
 
「あんたプログラム苦手って言ってなかったっけ?」
と美輪子から訊かれた。
「うん。私が書いたプログラムが動いたことない」
「すぐクビになるのでは?」
「そうかもねー」
「だいたいあんた就職なんかする必要がない気がするけど」
「まあ浮き世の義理だよ」
 
それで身元保証書に2人の署名捺印をもらった。
 
「いつ帰るの?」
「友だちの車に同乗してきたんだよね。4日のお昼くらいに出発。それまでは札幌の玲羅のアパートに泊まる。玲羅が留萌に帰省している間に」
「なるほどねー」
 
それで「よいお年を」と言って別れ、千里はJRで森林公園駅まで行き、歩いて玲羅のアパートに入ったが、
 
絶句した。
 
「どうやったら、2ヶ月でここまで散らかせるんだ!?ってか私今夜、どうやって寝よう?」
 

札幌で新年を迎えたので1日のローズ+リリーの札幌公演には陣中見舞いに行った。マリには大量のお菓子を差し入れる。少し遅れてやってきたアクアとコスモスには
 
「お疲れ様〜」
と言って2人ともとハグしあった。
 
千里がソフト会社に就職が決まったと言ったら冬子が驚いていた。
 
「だって千里、プログラムは苦手とか言ってなかった?」
「うん。私が書いたプログラムが動いたことない」
「そんなんでいいわけ〜?」
と呆れていたら、ライブの照明システムの操作で同行している★★レコードの雪豊さんが
 
「最近はプログラムを組まないSEもいますよ」
と言った。雪豊さん自身、プログラムは苦手だが、照明をコントロールしているプログラムの調整は東京にいる技術者と電話しながらやっていると言う。
 
「プログラムだけが分かるスペシャリストよりも、システムを構築する段階では業務をきちんと把握出来るジェネラリストが求められるんですよ」
 
「そういうのはあるかも知れないですね。宇宙飛行士なんかもあれはスペシャリストよりジェネラリストの方が向いているというし。千里、囲碁も強かったよね」
 
「初段くらいかな。アクアも囲碁は強いよ」
「へー。それは見てみたい」
と、二段の免状を持つマリが言った。
 

それで突然楽屋で、千里vsアクアの囲碁対決が始まった。千里は初段の免状を持っている。アクアは免状は申請していないものの1級の認定証を持っている。
 
ちなみにいつの間にかアクアはキュロットを穿かされていた!マリからスカートを穿かされそうになったのをキュロットで勘弁してもらったらしい。むろんステージに出る時は、鈴割り用に用意した、王子様のような衣装に着替える。
 
「1段差だから置き石無しでいいよね。龍ちゃん先手でどうぞ」
「はい。ではコミ無しで」
 
「私たち、結構よく一緒に打ってたんだよ」
と千里が言う。
「10回以上やってますよね」
「うんうん」
「アクアは対戦する度に強くなってきている」
「へー。すごーい」
「でもここ半年くらい打ってなかったね」
「何か忙しくて」
 
盤上はかなり凄い戦いになっていた。マリが真剣に見ている。
 
最後はアクアが投了したものの
「これ最後まで打っても3目差だよ」
と千里が言い、マリも頷いていた。
 
「千里は三段、もしかしたら四段の実力がある。アクアちゃんも初段の免状が取れると思うよ。誰かプロに打ってもらって認定してもらうといい」
とマリは言っていた。
 
そういう訳でプログラムなんか組めない千里がソフトハウスの仕事をできるか?という問題はどこかに行ってしまった!
 

マリとケイは1日は札幌に泊まり、2日朝の飛行機で東京に戻った。コスモスとアクアは来る時と同様、飛行機が飛ばなかった時のためにマリ・ケイ用に確保していた1日夕方の北斗星(札幌17:12-1/2 9:38東京 *4)で帰京した。
 
(*4)例によって本当は運休しています。
 
1月2日のお昼頃東京に戻ったケイとマリは明治神宮に初詣した後、あちこち挨拶回りをして、最後に雨宮先生の所に行ったが、雨宮先生は千里が勝手に就職したと言ってご機嫌斜めであった。
 
「罰として毎月100曲書いてもらうからねと言ったら、いつの間にか10曲に減らされた」
などと言っていた。
 
夜8時頃、風花が冬子のカローラ・フィールダーを運転して迎えにきてくれた。更に海原重観と山根次郎も来たので、それを機に雨宮先生の家を出る。そして風花の運転で、いったん政子の実家に行った。これが夕方6時頃である。政子はここで1/3 0:30からの先日の番組の続き『これが性転換だ!』を見ると言っていた。政子を置いたまま、冬子は振袖を脱いで普段着に着替え、風花の運転で21時半頃、上島先生の自宅まで行った。奥の部屋で少し仮眠させてもらう。風花はここから電車で帰る。
 
23時頃、ワンティスの下川圭次と水上信次が来るので、冬子がフィールダーを運転して、上島・下川・水上を乗せて、中央道の初狩PAまで行った。
 

一方、雨宮先生は海原と山根が来た所で「少し寝る」と言って仮眠する。それで0時過ぎに雨宮先生のフェラーリFFを山根が運転して、雨宮・海原・三宅と4人でやはり初狩PAに向かった。
 
★★レコードの加藤課長は1月2日の夕方大宮駅で、新幹線で熊谷から出てきた田代夫妻、仙台から出てきた長野松枝と落ち合った。一緒に夕食を取ってから、駅屋上駐車場に駐めていた自分のブルーバード・シルフィに3人を乗せ、初狩PAに向かう。上尾(あげお)道路を北上し、桶川北本ICから圏央道に入り、中央道方面に走って行く。順調に行けば22時頃までには着くであろう。早く着きすぎかも知れないが老齢の松枝を乗せているので、早く行って休んでいた方がいいと加藤は思った。
 

0:30から先日の『性転の伝説Special』の続き『これが性転換だ!』が放映される。ハルラノの慎也が番組の企画で女装させられている所から0点の評価になる所。そして優勝と告げられて驚いている所。拉致されていく所が映る。そして慎也は病室に連れ込まれ、明日手術すると言われた。「これジョークだよね?」などと言って不安そうな慎也。
 
やがて暗い中、病室に医師たちが入って来て、寝ていた慎也は手術室に運び込まれてしまう。手術中のランプが付いた所で場面転換して、性転換手術を多数手がけている医師が術式の説明をする。また慎也の母と妹に取材して、慎也さんが女になりましたよというと、母は「名前は桜にしよう」と言った。
 
映像は病院に戻る。手術中のランプが消えて慎也が運び出されてくる。やがて目覚めた慎也は「性転換手術は終わりました」と告げられ、実際に胸が大きく膨らんでいる様子、股間に男性器が無くなっているのが映し出される。この辺りは深夜番組だから出せる映像である。
 
「こんなの困る!」
 
と言っている慎也の所に「ドッキリ」の看板を持ったハルラノの鉄也が入ってくる。それでこれがドッキリ企画であったことが明らかにされる。女体化している慎也も実はコスプレ用?の女体ボディスキンを装着されていたことが明らかになる。また医師・看護婦を演じていたのは『ときめき病院物語』で医師と看護婦を演じる共に新人の倉橋礼次郎・沢田峰子であった。ところがそこにもう1人看護婦がいる。
 
「あれ?君は?」
 
「すみません。4月から放送される『ときめき病院物語』で院長の息子を演じさせて頂きますアクアです」
 
看護婦姿のアクアの映像が映った瞬間、凄まじい数のツイートが発生した。
 
「結局あんた女の子役になったの?」
「違います。僕は息子役なんですけど、プロデューサーさんがこれ着ろこれ着ろって言って、ナースの衣装着せられちゃったんです。スカート恥ずかしい」
 
などとアクアは言っていた。この撮影をした時点では、アクアは佐斗志役だけをすることになっていて、友利恵役は高崎ひろかがする方向で検討中だったのである(そのまま進行していればむしろ松梨詩恩が演じていた可能性が高い)。
 

それで話が一段落した所でハルラノの桜(慎也)が言った。
 
「これ脱いでいい? きついよ、これ」
 
それで相棒の鉄也も協力して脱がせる。そして慎也はボディスキンを脱いだ裸の状態でカメラの方を向いた。
 
テレビで見ていた多くの視聴者が衝撃を受けた。
 
「桜、ボディスキンを脱いでも、おっぱいあるんだけど」
と鉄也が言う。
 
「あれ?そうかな」
測ってみるとC75のバストである。
 
「あれ〜、じゃ俺ほんとに豊胸手術されちゃったの?」
と桜は平然とした口調で言った。
 
「お股にもチンコ無くて、割れ目ちゃんがあるんだけど」
 
「やっぱり俺のチンコ取られちゃったのかなあ」
と本人はやはり平気そうな声で言う。
 
「お前、実は元々女だったのでは?」
 

司会の古屋さんが言った。
 
「桜さん、視聴者の方が混乱していると思うので、ご自身から説明して下さい」
 
すると桜は病院用寝間着を羽織って裸体は隠した上で、今までずっと男声でしゃべっていたのを、女声に切り替えて衝撃の告白をした。
 
「みなさん、ごめんなさい。実は私、物心ついたころからずっと女の子になりたいと思っていたんです。それで高校を出てすぐにタイに渡って性転換手術しちゃったんです。それが10年ほど前のことです」
 
「でも私、女として就職できるところが全然無くて。特に私あまり女に見えないし、当時は女の声も出せなかったから、女の格好で面接に行っても『あんた男だろ?』と言われちゃって、バッくれて就職もできなかったんですよね」
 
「それで私、いっそ芸人になれないかなと思って、芸人学校に入って。でも当時はまだ特例法が施行されてなくて戸籍を女に直せなくて、男の戸籍で入学したから、男の格好しなきゃダメと言われて。それで結局男の芸人として訓練を受けて、鉄也と出会ってコンビ組んで。なかなか売れなかったけど、相性がいいからずっと鉄也とは組んでいていいと思いました」
 
「鉄也さんは桜さんが性転換していたことは知ってたの?」
と古屋さんが尋ねる。
 
「それは最初から聞いてたよ。だからプライベートでは俺、桜は素敵な女性だと思っているよ」
と鉄也。
 
「それで男同士のコンビとして8年ほどやってきたけど、私、やはり本来の自分に戻るべきじゃないかと思ったんです。事務所の社長に相談したら、どうせなら盛大なカムアウトやろうよということで、今回の企画を頂いたんです」
と桜は説明した。
 
「じゃ今後は男女ペアの芸人としてあんたらやってくの?」
「はい。それで昨日のお正月番組にも男女ペアで出して頂きました」
 
「ちなみにこいつもう戸籍上も女になってるから」
と鉄也が言う。それで慎也は自分の戸籍謄本も見せた。
 

場面が変わり、桜がちゃんと女の服を着て(男の服を着た)鉄也と並んでいる図になる。桜はOL風のスカートスーツで、お化粧もしている。『性転の伝説』での適当メイクと違ってきちんとメイクしていると、結構このくらいのおばちゃんはいるよな、という感じになっている。
 
「そういう訳で、私が性転換して、今後はハルラノの鉄也と桜ということでやっていきますので、よろしくお願いします」
 
と桜は(女声で)挨拶した。
 
「あんた、そんな格好してたら一応何とか女に見えないこともないな」
と古屋。
 
「その点については私も迷ったんですよ。私、性転換しても不細工だからなあと。高校の同級生に美少年がいて、その子は女装すると可愛い女の子になってたんですよ。でも私は女装しても変態にしか見えなかったんですよね。だから私って最初からオチに使われてたんです。でも、私みたいな不細工な女にしかならない人でも自分の心が女なら、女性として生きていいと思うんです。似たようなことで悩んでいる人って居ると思うので、頑張ってください」
 
と桜は締めくくった。
 

1月1日のローズ+リリー公演で鈴割りをしたアクアは、コスモスと一緒に2日朝、東京に戻った。帰りの北斗星の中では何事も無くアクアもコスモスもぐっすり寝ていた。郡山をすぎたあたりで目を覚まし、車内販売の駅弁を買ってきて食べたが、アクアはコスモスに
 
「変なこと訊きますけど、オーチンチンという歌知ってます?」
と訊いてみた。
 
「ああ。声優の岩田光央さんが歌ってたね。元々は1960年代に何とかいう歌唱グループ(*5)がヒットさせた曲らしいよ。ちょっと面白い歌だね」
などと言っていた。その反応を見て、アクアはあれはやはり夢だったのかなあ、などと思った。だいたいコスモスさんがあんなに歌うまい訳無いし。
 
(*5)ハニーナイツである。
 
「でもあの歌はちんちん持ってる人が歌わないといけない歌だよね。ちんちんの無い私や龍ちゃんが歌ったら男の子たちが怒るかも。あのチンポコよ、どこ行った?と言っても最初から付いてないじゃんと言われて」
 
などとコスモスは笑って言っていた。
 
「最初から無かった訳じゃなくて以前はあったんですけどー」
「でも小1の時に病気の治療で取っちゃったんでしょ?大丈夫だよ。バレないから」
 
なんかボクやはり誤解されている??
 
「それに男か女かなんて、ちんちんの有無とは関係無いよ。ちんちんがあっても自分は女だと確信している人は女だし、ちんちんが無くても自分は男だと思っているなら、その人は男なんだよ。だから龍虎ちゃんも、ちんちん無くたって、気にしなければいい。堂々と自分は男だと思っているといい」
 
とコスモスは言った。アクアはそれを聞いて、それ凄く大事なことなんじゃないかという気がした。
 

11時に、品川ありさ・高崎ひろか・松梨詩恩と待ち合わせ、一緒に明治神宮に初詣に行った。3人が小振袖を着ていたので、龍虎はいいなあと思った。龍虎は黒のボーイズスーツ(オーダーして作ってもらったもの:実はズボンは女児用を転用していて前開きが無い)、コスモスはシックなレディススーツである。
 
その後、予約していた割烹の個室で一緒にお昼を食べてから、4時間ほど掛けて放送局やレコード会社に挨拶に回るが、途中で川崎ゆりことも一緒になり、夕食はゆりこも含めた6人で一緒に食べた。その後、解散になる。
 
「邦江(高崎ひろか)ちゃんは寮に戻るの?」
「いえ。飛鳥(松梨詩恩)と一緒に母の家に行きます。外泊許可は取りました」
「絢香(品川ありさ)ちゃんは自宅に戻る?」
「はい、そうします。電車を間違えないように祈っていて下さい」
「絢香は今朝も電車に乗り間違ったと言ってたね」
「うん。あれで邦江たちとの待ち合わせに30分遅れちゃった」
 
宏美(秋風コスモス)は急に不安になった。
 
「絢香ちゃん、私が付いていくよ。絢香ちゃんのお母さんたちにも挨拶しておきたいし。エルミ(川崎ゆりこ)ちゃん、龍虎ちゃんを川南ちゃんたちとの待ち合わせ場所まで連れて行ってくれない?」
 
「OKOK」
 
それでコスモスは品川ありさと一緒に海老名市まで行くことにし、龍虎は川崎ゆりこと一緒に、川南たちと会う予定の池袋に向かった。ゆりこは言った。
 
「挨拶回りだからそんな男っぽい服を着てたのね。それ疲れるでしょ。もっと楽な服に着替えようよ」
「えっと・・・」
「私が見立ててあげるから」
「そうですか?」
 
龍虎はとっても嫌〜な予感がした。
 

千里は12月31日夕方、車のあいのりで旭川に着き、母と叔母に保証人の印鑑をもらってから札幌に移動し、玲羅のアパートで新年を迎えてから、眷属たちにアパートの荷物の整理!を頼み、ローズ+リリー公演の楽屋に顔を出した。
 
玲羅のアパートに戻ると、眷属たちはかなり分別を進めてくれていた。
 
「こないだのレンタルボックスの荷物整理は大変だったけど、これもまた大変だ」
「ごめんねー」
「でもこれでやっと寝られるようになったよ」
「昨夜は荷物の上に布団敷いて寝たもんね〜」
 
織絵の荷物を分別し、必要かも?と思われるものを箱詰めしてくれていたので、これを《くうちゃん》に頼んで、錦糸町の織絵たちの新しいマンションのドア前に転送してもらった。
 
この日も玲羅のアパートで寝て、2日の夕方近くになって、千葉で神社に奉仕のため残ってくれていた《きーちゃん》と入れ替わる。それでインプレッサを運転して川南たちとの待ち合わせ場所にしているスーパーの駐車場に行った。
 
「龍ちゃん、可愛い喪服着てるね!」
と千里は微笑んで言った。
 
「川崎ゆりこさんが買ってくれたんです」
と本人は言っている。
 
ティアードスカートになったドレッシーなブラックフォーマルである。髪には黒いカチューシャまでつけている。履いている黒いローファーもリボンのような飾りが付いていて可愛い。
 
「さすが川崎ゆりこさん、いいセンスしてるよね〜。こんな可愛いドレスがあるとは思いもよらなかったよ」
と川南は言っていた。
 

長野支香を浦和でピックアップするので、首都高の埼玉大宮線方面に行き、浦和南ICで降りる。中浦和駅で支香を拾った。これが21時半くらいだった。千里が浦和南ICに戻ろうとしているので、川南が
 
「首都高は混むだろうから、上尾道路から圏央道に回った方がよくない?」
と言う。しかし千里は
「今日は何だか圏央道は通りたくない気分なんだよね〜」
と言って、浦和南から乗って首都高方面に戻った。
 
志村PAで一休みしてここで長野支香が用意してきてくれた豪華なお弁当をインプレッサの車内でみんなで食べた。なお、座席だが、志村PAに来るまでは支香を乗せやすいように助手席に川南が乗っていて、後部座席に夏恋と龍虎が乗っていた所に左側に支香が乗ったのだが、ここでトイレに行った後、支香が助手席に行き、後部座席は両側に川南と夏恋、真ん中に龍虎という配列にした。
 
それで首都高の中央環状線から新宿線に行き高井戸ICから中央道に入った。初狩PAに到着したのは0:20頃で、すぐに冬子のカローラ・フィールダーも来た。降りて彼女たちを迎え、一緒にPAの施設に入って休憩した。トイレに行って来てから自販機で飲み物を買っておしゃべりしながら他の人たちが来るのを待つ。0:40頃になって、山根が運転するフェラーリFFが到着した。
 
「ごめん。ごめん。遅くなったかな?」
「いえ。集合時刻は1時ですし」
「加藤さんたちがまだ来ていませんし」
 
今夜はワンティス関係者を中心とする、アクアの両親の慰霊の旅である。
 
その加藤課長が運転するブルーバード・シルフィは0:45頃到着した。
 
「すまーん。遅くなって。しかし参った参った」
と加藤さんは言っている。
 
「何かトラブルありました?」
「圏央道を走ってきたら、途中事故があってさ。身動きできなくなって3時間近くロス。トイレが辛かった」
「ああ。高速で事故があるときついですね」
 

初狩PAを出たのはシルフィ組が身体を休めるのを待ち1:15頃になった。途中、中央道原(ちゅうおうどう・はら)PAで休憩してドライバーを交替。事故現場の先にあるSAに辿り着いたのが1/3 4:40くらいであった。
 
ここから現場まではだいたい14kmくらいである。みんなでそちらの方角を向き、海原が般若心経を暗誦し、松枝、上島、水上がうろ覚えっぽいながらも唱和した。
 
「千里さん、あの曲を吹いてよ」
と龍虎がせがむ。それで千里は龍笛を取り出して『アクア・ウィタエ』を演奏した。
 
みんな静かに聴く。今日は龍が5体集まってきた。その中の1匹が雷を落とす。
 
「事故現場に稲妻を落としてくれたみたい」
と演奏を終えた千里が言った。
 

「だけど龍虎、やはりそういう格好が可愛いよ」
と川南が言う。
 
「こんな格好で良かったのかなあ」
とスカートタイプのブラックフォーマルを着た龍虎は言うが
 
「子供が可愛く育つのは、高岡も夕香ちゃんも喜ぶよ」
と上島は笑って言っていた。
 
「やはり龍虎は女子制服着て学校に行くべきだな。名前も龍虎から龍子に変えちゃいなよ」
 
「女装は楽しいけど、はまりすぎると怖い」
と龍虎が言うと、笑い転げているメンバーが数名居る。
 
「今通学に使っている制服のズボンは実は女子用なんですよね。男子用のズボンでは合う既製服が無いんです。ワイシャツも体型に合わないからブラウス着ているし」
と田代幸恵が言う。
 
「やはり龍虎は制服の下はスカートにしよう」
と川南。
 
「学生服の下がスカートって変だよ」
「だったら上もセーラー服にすればいいな」
「セーラー服は好きだけど、それで人前には出たくないよ」
「テレビであれだけ女の子姿を曝したら今更だろ?」
 
などと日常的(?)な会話をしていたら夏恋が言った。
 
「龍虎、君の学校の女子制服を私がプレゼントしてあげるよ」
 
「えー!?」
 
「だって好きなんでしょ。お母さん、いいですか?」
と夏恋が田代母に訊く。確かに龍虎は“セーラー服は好き”と言った。
 
「持っている分にはいいのでは。じゃ、サイズ測ってそちらにメールしますね」
 
「今度から女性ホルモン剤も送りつけようかな」
「要らない!」
 

朝食を取った後、帰ることにする。冬子がローズ+リリーのライブで名古屋に行かなければならないので、千里のインプにこの4人が乗った。
 
千里(運転)・冬子/加藤・上島
 
龍虎は東京のテレビ局で撮影があるので、加藤のシルフィを田代父が運転して東京に戻ることにする(運転は途中で田代母に替わる)。
 
田代父(運転)・田代母/松枝・龍虎・支香
 
冬子のフィールダーは夏恋と川南が運転し、下川・水上を乗せて東京に戻ることにした。雨宮・三宅・海原・山根はフェラーリでドライブを楽しみ能登半島先端に近い“ランプの宿”まで行ったようである。
 
上島が千里・冬子・加藤の車に乗ったのは、上島が多忙でなかなか話をする機会が無いので、名古屋に向かいながら4人で少し話したいという希望が加藤からあったためである。それで名古屋に着くと上島を名古屋駅で降ろし、冬子と加藤はローズ+リリーの公演会場まで連れて行った。
 
千里はその後インプを自分で運転して大阪に向かった。
 

千里はいつもの千里(せんり)の駐車場にインプを駐め、近くのレストランでまず《びゃくちゃん》と会い“年賀状”を受け取る。実はマンションに送られて来た年賀状の中に「細川貴司様・千里様」になっているものがあるので、それを選り分けてもらっていたのである。この作業は昨年のお正月もしてもらっている。
 
その後貴司をマンションから呼び出して年賀状を見せ、一緒に正月御膳を食べた。阿倍子の状況、そして会社の状況なども話す。
 
「え〜?給料が遅配になったの?」
「うん。25日支払いのはずが29日にずれ込んだんだよ。クレカの支払い抱えている人が青くなってた」
「かなりやばいね」
「でも今月はボーナスの後だから、ほとんどの人が何とかなったみたい」
「その状況なら辞める人も出てくるのでは?」
「リストラの噂もある」
「貴司も会社やめなよ。やめてから次の仕事探してもいいじゃん」
「阿倍子の出産までは無理」
「うーん・・・」
と千里は腕を組んで考え込んだ。
 
「じゃ、もし足りない時は遠慮無く言ってね。貸すから」
「場合によっては頼むかも。ヘルパーさんどうしよう?」
「状況次第では私が全額負担するから続けようよ。ここで流産したら大変だよ」
「うん。そうしよう。じゃ予定通り今月いっぱいは毎日頼んで2月からは週2回で」
 

貴司は「買い物に行く」と言ってマンションを抜け出して来ていたので、千里は食事をしている間に《びゃくちゃん》に買ってきてもらった買物袋を貴司に渡して別れた。その後《くうちゃん》に頼んでインプレッサごと東京に転送してもらい、その後《きーちゃん》と交替で札幌に戻った。
 

田代夫妻が交替で運転したブルーバード・シルフィは東京に着くとまずは龍虎をテレビ局に連れて行く。車から降ろす前に龍虎は挨拶回りで着たボーイズスーツに着換えさせた。龍虎はこっちの車に乗って良かったぁと思った。川南と一緒なら絶対ガールズスーツを着せられている。龍虎を降ろした後は、松枝と田代夫妻が東京駅で降り、最後は支香が運転して加藤課長の自宅へ回送する。
 
龍虎はテレビ局のロビーでコスモス・西湖と落ち合い、そのままドラマの打合せがある会議室に入った。実はまた出演者に変更があったのである。
 
院長役の内海四郎さんが年末に倒れて病院に運ばれ、倒れた原因自体はインフルエンザだったのだが、検査をしていて癌が見つかったのである。そのため治療で長期入院せざるを得なくなり、ドラマは降板させてくれという連絡があって橋元プロデューサーは慌てた。
 
急遽、脚本家や内海さんの事務所などと打ち合わせた所、代役として同じ事務所の藤原重蔵さんが推薦された。ところが彼は3月まで別のドラマの撮影が入っており、それまでは必ずしも全ての撮影には参加出来ない。
 
そこで社長役の鞍持健治さんが院長役に横滑りして、藤原さんは社長役をしてもらうことにした。院長が出演しないのはまずいが、社長の方なら姿を見せなくても何とかなるので脚本が調整可能である。
 
しかしこれで12月22日の第1回目の撮影で撮ったものの一部を撮り直す必要が出たのである。
 
「僕間違って、鞍持さんに『お父さん』と言ってしまいそう」
と(社長の息子役の)岩本卓也君。
 
「僕は間違ってアクアちゃんに『佐斗志君』とか言ってしまいそう。ちゃんと『友利恵』と言わなくちゃ」
と新しく院長役をすることになった鞍持健治。
 
「いや、アクア君は友利恵でもあるけど、佐斗志でもありますから」
 
「あれ?そうだったんだっけ?てっきり女役をするのかと」
「女役もしますが、男役もしますので」
「そうだっけ?なんか僕も混乱してきた」
 
鞍持さんは前回は出番が最初の方で終わってしまい帰っていたので、アクアの出演シーンを見ていなかったのであった。
 

この打合せと撮り直しが夕方まで掛かったが、アクアは名古屋での出演予定があるので、16時すぎに上がらせてもらった。やはり急に集められたし、そもそも仕事の多い年始なので他にも途中で抜けさせてもらった人がいた。撮影側も早く抜けなければいけない人が出るシーンを先に撮影してくれた。
 
それでアクアとコスモスはすぐに駅に向かい、新幹線に飛び乗った。
 
六本木16:25-16:31恵比寿16:38-16:47品川16:57-18:31名古屋
 
移動の際は、コスモス・アクアともにセーラー服を着て!姉妹を装った。コスモスはわりと童顔なのでセーラー服を着るとまだ高校生くらいに見える。アクアは普通に女子中学生に見える。
 
でもその格好で楽屋に飛び込んだら、マリが超興奮していた。
 

4日は大阪公演なので、そのまま名古屋から大阪に移動した。この日は本来は雑誌の取材が入っていたのだが、これは雑誌社の方が大阪支社のスタッフで対応してくれた。
 
5日は福岡公演でこれもそのまま移動した。この日は本来はテレビ局の対談番組(録画)に出ることになっていたのだが、これも福岡の局で福岡のローカルタレントと化している金井伊那佳さんにしてもらうことになった。彼女は10年ほど前までは女性2人組で東京を中心にかなり売れていたコントの人である。9時に入って顔合わせして10分ほど話したが、とても楽しい人だった。それで撮影用の衣装に着替えるため、局のスタイリストさんに衣装を選んでもらうのだが・・・
 
「あのぉ、この衣装変だと思うんですけど」
とアクアは遠慮がちに言った。
 
「そんなこと無いと思うなあ。君すごく可愛いから、こういうシンプルなドレスの方が似合うと思うよ」
とスタイリストさんは言っている。アクアがどう説明しようと思っていた時、局のスタッフと打合せをしていたコスモスが様子を見に来てくれた。
 
「アクアちゃん、着替え終わった?」
「こんなの着せられちゃったんですけど」
「ああ」
と言ってコスモスは頷いている。そしてスタイリストさんに言った。
 
「すみません。この子は男の子なので、男性用の衣装を着せていただけませんか?」
 
「え?嘘?」
と言ってから彼女は言う。
 
「でも女の子の下着つけてたし、おっぱいもありましたよ?」
 
「ドラマの撮影で女装させていたので、偽おっぱいも貼り付けているんですけど、一度貼り付けると簡単には剥がせないもので、しばらく貼りっぱなしなんです」
 
「大変ですね!でもそれだと学校に出て行く時困りません?」
「貼り付けている間は女子用のブラウスを着てもらうということで」
「大変ですね!!」
 

千里は《きーちゃん》と入れ替わりで札幌に戻った3日の日は玲羅のアパートで作曲作業をして、翌日4日の昼に、暢子たちの車に札幌市内で拾ってもらい、函館に向かった。予約していた津軽海峡フェリー(22:05-1/4 1:45)に乗り、青森からまた交替で運転して東京に戻る。
 
東京に着いたのは1/5のお昼前で、千里はそのまま二子玉川のJソフトウェアに顔を出して、身元保証書を提出した。
 
ところがJソフトはパニックになっていた。何でも明日の朝納品しなければならないシステムのソースを納めていたハードディスクが飛んでしまい、社員総出でプログラムを印刷されたリストから再入力しているらしい。それで千里もそれを手伝ってと言われて入力作業に投入されてしまう。
 
結局納品は6日の夕方にずれ込んだが、社内ではそれと並行して7日の朝まで掛けて、“オブジェクトだけが存在してソースが失われている”プログラムのソース入力作業、そしてシステムの全体チェックなどを進めた。
 
但し千里は主要プログラムが復旧出来た6日のお昼過ぎには開放してもらえた(バイト代として3万円現金でもらった)が、精密さを要求する作業での完徹26時間連続作業は、かなりの疲労があった。
 
なお千里は実際には《きーちゃん》や《せいちゃん》に見てもらいながら入力していたのだが、結果的に千里がバグを修正しながら入力したので、先輩の矢島さんや専務などは大いに千里を気に入ってくれたようであった。しかし入力している千里本人は「呪文を入力しているみたいだ!」と思った。
 

それで千里はJソフトを出てから《きーちゃん》に言った。
 
『この会社にはきーちゃんがお勤めしてくれない?』
『はあ?』
 
『入力してて思ったけど、私にはやはりプログラムは無理だよ。内容を理解しながら入力しなきゃと思ったけど、見てても何してるかさっぱり分からなかった。それに私、雨宮先生からは大学院も卒業するしこれからは毎月10曲書いてもらうからなんて言われてるしさ。バスケットしながら10曲書くとほとんどそれだけで時間が無くなるもん』
 
『千里って変数のスコープとかクラスの概念とか全く分かってないし、参照渡しと値渡しもごっちゃだし、更に変数名が適当だから千里が書いたプログラムは凄くデバッグしづらい』
と何度かデバッグを手伝ったことのある《げんちゃん》が言う。
 
『貴人がやった方がいいかもな。BASICやPerl,PHP,Rubyとかなら俺も手伝うぞ』
と《せいちゃん》が言ったが、彼はこう言ったことを後悔するハメになる。
 
千里の代わりに勤務するということは、千里が女なので、彼も女装せざるを得なくなり、千里がこの会社を退職する2018年5月までの3年間、女装生活を送る羽目になるのである。
 
『まあ、千里にはプログラミングの才能は無さそうだしね。じゃ、青龍、一緒にやろうか』
と《きーちゃん》は呆れたように言った。
 

千里がJソフトを出たのが1月6日のお昼すぎであった。
 
「きーちゃん。悪いけど、上島さんや町添さんたちとアクアの件で打合せすることになっているんだよ。私、寝たいから代わりに行ってくれない?」
「まあいいよ。私は少しは寝てたし」
 
それで《きーちゃん》は横浜に出て駅からタクシーに乗って市内の料亭に向かった。
 
二子玉川13:18-13:24自由が丘13:29-13:49横浜
 
そちらの会合には町添部長、上島雷太、冬子、日野ソナタ(霧島鮎子)が出ていた。
 
一方、千里本人はそのまま高岡に向かった。
 
二子玉川13:18-13:28渋谷13:35-13:58東京14:16(とき327)15:31越後湯沢15:39(はくたか16)17:54高岡
 
二子玉川を同じ時刻に出ているが《きーちゃん》が乗ったのは大井町線・大井町行き(3番乗り場)、千里が乗ったのは田園都市線・押上行き(4番乗り場)である。3番線と4番線は2階の島ホームの向かい合った線で、2つの電車はほぼ同時に発車したので、千里は《きーちゃん》に笑顔で手を振った。
 
なお、3月には北陸新幹線が金沢まで開業し、特急はくたかは廃止になるので、上越新幹線+特急はくたか、というパターンは今回の高岡行きが多分最後である。"Snow Rabit Express"の中でまどろみながら、千里は感慨深い思いがあった。
 

1月5日のローズ+リリー福岡公演に出たアクアは6日朝の飛行機でコスモスとと一緒に東京に戻った(キャンセル待ちを掛けていたら取れた)。そのあとテレビ局に入り『ときめき病院物語』の撮影に参加する。この時、コスモスは自分のテレビ出演があったので川崎ゆりこが代わりに付き添ってくれたのだが、撮影終了後、ゆりこはアクアを上手く乗せて花柄のワンピースを着せてしまった。
 
結局そのままの格好で熊谷市の自宅に戻ったが、彩佳が遊びに来ていた。更に母が生徒の保護者から呼ばれて外出してしまい、2人だけになってしまう。しかしお互い遠慮する仲でもないので、おやつを食べながらおしゃべりしていた。ところが龍虎は疲れが出てきたのか船を漕いでしまった。
 
「疲れたんでしょ? 少し寝るといいよ」
「だったら、その前にアヤを送っていくよ」
 
これが18時過ぎのことだった。ところが彩佳は言う。
 
「実は今日はうち、両親居ないんだよ。ひとりじゃ寂しいから、もう少し居させて」
「だったら、ボクがアヤの家に8時くらいまで居ようか?」
「それでもいいかな。じゃ9時まで居てよ。ご飯食べて、お風呂入るまで居てくれると嬉しい」
「いいよ」
 
それで龍虎は母にメールしてから一緒に家を出た。
 

彩佳の家ではふたりで協力して夕食を作り、テレビをつけてバラエティ番組など見ながら、ふたりで一緒に御飯を食べる。その間にお風呂を入れておいた。
 
「茶碗はボクが片付けるから、その間に、アヤお風呂に入るといいよ」
「じゃ、そうさせてもらおう」
 
それで龍虎が茶碗を洗っている間に彩佳はお風呂に入った。ひとりになったので龍虎はお風呂に入っている彩佳に聞かれないよう小さな声で歌った。
 
「ちーんちーん、ちんちんちん、ちーんちーん、ちんちんちん・・・」
 
この歌を4番まで3回歌ってから『彩佳にあそこ見せてなんて言えないよなあ』などと考える。やがて浴室の戸が開く音がする。
 
「あがった?」
と言って振り向くと、彩佳は裸である。
 
「ちゃんと服着ないと風邪引くよ」
「龍って昔から、素っ気ないね」
 
それで結局、彩佳はわざわざ龍虎の目の前で下着を着けた。
 
「龍もお風呂入る?着替え出しておくよ」
「うん、お風呂もらうね」
 
それでお風呂に入ってあがると脱衣場には、真新しいブラとパンティとキャミソール、それに可愛い膝丈スカートとブラウスに女の子仕様のセーターが置かれている。今まで着ていた服は無い。
 
しかしこの程度のことは日常茶飯事なので、平気でブラを着け、パンティを穿く。キャミも着て、ブラウスを着てスカートも穿き、可愛いセーターも着てから彩佳の部屋に行った。
 
「可愛い!」
「アヤも可愛いよ」
 
それでふたりは何事も無かったかのように普通のおしゃべりを続けた。しかし疲れていたところでお風呂に入ったので、物凄い睡魔が襲ってくる。
 
「やはり少し寝た方がいいよ」
「じゃ帰ってから寝るよ」
「ここで寝てもいいじゃん。9時になったら起こしてあげるから」
「じゃ、そうしようかな」
 

それで龍虎は“龍虎専用の布団”で眠ってしまった(龍虎の家にも彩佳専用の布団がある)。龍虎は夢を見ていたが、死んだはずの両親が出てきたり、女装させられたり、女性ホルモン剤を注射されたり、去勢されたり!?、彩佳と結婚式(むろん龍虎が花嫁)をあげたり、混沌とした夢だった。
 
目が覚めた時龍虎はギョッとする。至近距離に彩佳の顔があるのである。
 
「あれ?目が覚めちゃった?キスしちゃおうと思ったのに」
と彩佳が言う。
「ちょっと待って。なんでアヤ、ボクの布団に入っているのよ?」
「なんでって、龍、まさかさっきの忘れたの?」
「さっきのって?」
「龍、凄く素敵だったよ。私もとっても気持ち良かった」
「え?ボク、アヤに何かした?」
「ひどーい。私の処女を奪っておいて、まさか覚えてないと言うの?」
「え〜?ボク、アヤとセックスしちゃった?」
 
と焦って龍虎は尋ねる。だけどボクそういうことはできないはずなのに。
 
「なーんて、演技をしてみようと思ったんだけどね」
と彩佳は笑って言う。
 
「びっくりしたー。さすがにセックスしたら覚えてると思ったし」
「実は龍の寝姿があまりにも可愛いから、私のものにしたくなったのよね」
「えっと・・・」
 
それってレイプじゃん、という気がする。
 
「アヤは友だちだから問題無いと思ってたんだけど」
「そうだね。私たちが30歳になるまでは友だちということでもいいよ」
 
「30歳になったら何かあるの?」
「30歳になった時に聞いて欲しいことがある」
 
龍虎はしばらく考えていた。30歳になったら、って以前も言われたことがある。あの時はちゃんと聞いてあげられなかったけど。ボクは答えるべきだ。それで龍虎は
 
「いいよ」
 
と答えた。
 

「だけどそもそもこれではセックスできないよね」
と言って彩佳は龍虎のそこに触った。
 
「あっ・・・」
「いつおちんちん取っちゃったの?やはりデビュー前に女の子の身体になることにしたの?」
 
「取ってないよ。タックしてるだけだよ」
 
「タックなら過去に見てるけど、これはタックじゃないよ。だって割れ目ちゃんが開けるし、栗ちゃんもヴァギナもあるし。入れてみたら中指が全部入っちゃったし」
 
「入れたの〜!?」
 
ボク彩佳に処女を奪われた?でも彩佳に奪われたのならいいかな。
 
「これ私のと完全に同じ形だよ。ほら見てみて」
と言って彩佳は布団をはねのけるように起き上がると龍虎にそこを見せた。
 
彩佳はそもそも裸で寝ていたのである。
 
彩佳はわざわざ自分のと龍虎のを交互に指差しながら「ここは**」と龍虎に解説した。龍虎はさすがにドキドキする。
 
「私のも龍のも同じ。私たち見せっこしちゃったね。でも女の子同士だからいいよね?」
 
あ。。。宏美さんに言われたように見せっこしちゃった。
 
「でも龍の胸、私のより大きい。シリコンとかでも入れた?多少ホルモンを飲んでもこんな急には大きくならないよ」
 

龍虎は少し考えたものの正直に言う。
 
「実は11月30日の昼にトイレ行った時に、ちんちんが無くなっていて仰天したんだよ。朝まではあったのに」
 
「おちんちんって突然無くなるものなの?」
「それで探しているんだけど(こうちゃんさんに呼びかけているけど)見つからないんだよ」
 
「そんな話、聞いたことない」
「まるで魔法にでも掛かったように無くなっていた。だからボク、ちんちんが付いてない状態で沖縄とか北海道とか行ってきたんだよ」
 
「性別検査したって言ってなかった?」
「千里さんにもらった偽物でごまかした」
「よく誤魔化せたね!」
 

彩佳は言った。
 
「魔法に掛かったのならさ、きっと愛する人のキスで魔法は解けるんだよ」
 
「そういうのはおとぎ話にあるよね。でも愛する人なんて居ないし」
「私、龍のこと好きだよ」
「・・・・」
「だから私が龍にキスしたらきっと魔法が解ける」
 
龍虎は彩佳の顔を見た。彩佳は真剣な顔で自分を見ている。
 
龍虎はコクリと頷いた。
 
彩佳はゆっくりと唇を近づけ龍虎にそっとキスした。彩佳はしっかりと唇を接触させて、舌まで入れてくる。え?キスってこんなこともされるの?と龍虎が焦っていたら、明らかにあの付近の感覚が変わった。
 
「あっ」
とキスされたまま小さな声をあげる。
 
「もしかして魔法が解けた?」
「待って。確認する」
と言って龍虎はその付近を見る。
 
「戻ってるね」
「うん」
 
「ちんちんもタマタマもある」
「あまり触らないで」
 
陰唇が消えて陰嚢がある。もっとも身体に張り付いているので遠目には何も無いように見えるし正中線が一見閉じた割れ目ちゃんにも見える。でもこれは「開けない」。指で触ると中に睾丸もあるようだ。おちんちんは体表から外の部分が3cmくらいありそうである。こんなに長くなっているの久しぶりに見た。
 
「おっぱいも小さくなってる。これはAAAカップくらいだ」
「このくらいの膨らみなら男の子でも普通にあるよね? ほんとに魔法が解けたみたい!」
 
「良かったね」
 
「このまま女の子みたいな形のままだったら、どうしようと思ってた」
「それは女の子になればいいだけの話だと思うけど。私、龍が女の子になっちゃっても結婚してあげるよ」
 
「そう?それは嬉しいけど、彩佳なら分かるよね。マジでボクは女の子になりたい訳ではない」
 
彩佳があまりにもさりげなく「結婚してあげる」と言ったので、龍虎がそれを「嬉しいけど」と言って、承諾してしまったことに龍虎は自分で気付かなかった。
 

「龍のことは分かってるつもりだよ。龍は間違い無く男の子だもん。でもちんちん戻ったから、これでセックスできるね。今からしない?コンちゃんは持ってるよ」
 
と言って彩佳はそれを指で揉んで硬くしてしまっている!
 
気持ちいいじゃん!
 
彩佳がバッグの中からアルミの四角いシート状のものを出すので龍虎はギョッとする。中央が少し膨らんでいて中に何か入っている。それって、もしかして・・・
 
龍虎は言った。
 
「今日はやめようよ」
「じゃいつだったら、セックスできる?」
と彩佳が熱い目で見る。
 
「最低でもボクたちがもう少し大人になってから、というのでいい?」
「うん。いいよ」
 
ふたりは微笑んで、何となく自然にキスしてしまった。
 
「あ、またキスしちゃった」
「なんか今のは流れ的にここはキスだよなと思った」
「でもキスしたことは内緒ね」
「うん」
 
龍虎は時計をふと見た。
 
「きゃあ!もう10時だ」
「このまま泊まっていく?」
「それは叱られるから帰る」
 
「今更だと思うけど。去年も3回一緒に寝たよ」
「人が聞いたら誤解しそう」
「私、コスモスさんにも時々一緒に寝てますと言ったから」
「うっそー。コスモスさんと会ったの!?」
「龍、まるで愛人とのデートがバレたみたいな顔してる」
「えーっと」
 
今のはかなり図星という気がした。
 
「今夜泊まる?」
「帰る」
「うん。じゃおやすみ」
と言って彩佳は再度キスをした。
 

結局彩佳が用意していた女の子下着と女の子の服を着て女の子用のタイツも履いたが、今夜は寒いよと言われて彩佳のピンクのダウンコートも借りた。
 
「じゃ玄関までお見送り」
「うん」
 
それで龍虎は玄関で彩佳と握手して別れた。彩佳は最後まで裸のままだった。
 
自宅に戻ると、母はまだ帰宅していなかった。先生って大変だなあと思う。パジャマに着替えて寝ることにする。寝る前にトイレに行く。むろん龍虎は座っておしっこをするのだが、おしっこの出る感覚がここ1ヶ月ほど体験していたのとまるで違うので、すごーく変な感じがした。
 
あれも悪くなかったけどなあ・・・・
 
布団を敷いて寝る。
 
ボク、その内、本当に女の子になりたいと思うようになったりしないよね?と龍虎は自分自身に不安を感じた。
 
 
前頁次頁目次

1  2  3  4  5  6  7  8 
【娘たちのエンブリオ】(8)