【娘たちのエンブリオ】(6)

前頁次頁目次

1  2  3  4  5  6  7  8 
 
12月12日。那覇マリンセンター(定員3200)で今年のローズ+リリーのツアーは始まった。ローズ+リリーのライブは、マネージャー?の秋乃風花さん総指揮の下、★★レコードの氷川さん他数名、UTPの甲斐窓香さん、そして沖縄のイベンターの人たちが動き回り進行していく。幕間ゲストの小野寺イルザさんはライブが始まって少ししてから楽屋にやってきた。
 
コスモスとハグし、勢いでアクアともハグしてから、コスモスがアクアを彼女に紹介した。
 
「へー。『ハートライダー』の後番組に出演するんだ?」
「あれは3年間お疲れ様でした。小島秋枝がF1を走る姿を見たかったんだけどね〜」
「まあそのあたりは想像してもらうということで」
「イルザちゃん、個人では何に乗っているの?」
「ポルシェ991買っちゃったよ。長期ローンで」
「すごーい!」
「プライベートで富士スピードウェイを結構走っている」
「気持ち良さそう!」
「コスモスちゃんはロードスターだったよね?」
「よく覚えてるね〜!」
「サーキット行かないの?」
「それは未体験だ」
「気持ちいいよ」
「そうそう。このアクアもポルシェ持ち」
「嘘!?あんた何歳?」
「この子のお父さんが996 40th Anniversary Editionに乗っていたのよ。お父さんは亡くなっているんだけど、この子はそれを引き継いで所有だけしている。実は醍醐春海さんに車は預かってもらっているんだよ」
「わぁ!そこに醍醐先生が絡むのか!」
 
「この子のデビュー曲は、ゆきみすず作詞・東郷誠一作曲という名義だけど、実は葵照子・醍醐春海ペアが書いた」
「ああ。あの人たちは仮名(かめい)書きが多い」
とイルザも笑っている。
 
「じゃ18歳になったら免許取ってポルシェ走らせるの?」
「この子は契約書で30歳になるまで運転禁止」
「厳しいね!」
「運転の練習はさせるけどね。壊しても惜しくない車で」
「ああ。それはしておいた方がいい。解禁になっていきなり事故る子多いから」
「ありがち、ありがち」
 
「でもお父さん、亡くなっているんだ?大変だったね」
「いえ。優しい人たちに大事にしてもらえたから」
「それは良かった」
 
「でもこの世界に来る子って、家庭環境に色々あった子も多いよね」
「まあお互いにね」
 
ちなみにコスモスはアクアが男の子であることを説明するのを忘れていた!
 
なお、3人がいるのは女性用控室である!
 

ライブは最初「幕を開けたら観客が誰も居ない」というドッキリ企画から始まり、仕切り直しで観客を入れてから再度オープニングの『サーターアンダギー(沖縄バージョン)』を演奏する。それから『花の里』『花の祈り』と続いて、その次が『雪を割る鈴』である。
 
近藤うさぎが運転するトミーカイラZZ-EVが舞台下手から出てきて、中央付近よりやや左手側に停まる。運転席が近藤うさぎ、助手席が魚みちるなのだが、実はアクアは魚みちるの足元に隠れている!(定員オーバー)
 
近藤うさぎ・魚みちるのペアが車から降りて、ゆっくりとしたテンポの曲に合わせて踊り出す。やがて大きな鈴を持った男性スタッフ3人が鈴をステージ中央まで運んでいく。この曲はまだほとんど知られていないので、観客は何だろうという感じで見ている。
 
「アクアちゃん出て」という風花さんの指示でアクアは車の床に置いていた剣を持ち、車の中から出た。観客のざわめきが心地よい。曲を聞きながら待機するが、下手に居る風花さんの合図で、アクアは大きく剣を振りかぶって「えい!」という声とともに鈴の割れ目の所に剣を当てた。
 
たちまち鈴が割れて、中から多数の鈴が飛び出す。バンドの音楽がアップテンポに変わり、近藤・魚のダンスも激しいものに変わる。アクアは剣を置いて近藤・魚ペアの横に行き、一緒に踊り出した。
 
実は鈴を割った後どうすればいいかというのは指示されていなかったのだが、ここは踊るんじゃないかと瞬間的に判断したのである。アクアがしっかりダンスしているので、近藤うさぎが感心したような顔でアクアを見ていた。
 
終曲。
 
「ダンサー、近藤うさぎ・魚みちる、そして鈴を割ってくれた人は、アクア君です。彼は4月からΛΛテレビで放送される『ときめき病院物語』に出演予定です」
 
とケイが紹介してくれた。しかし観客がざわめくのでケイは追加説明をした。
 
「念のため言っておきますが、アクア君は間違いなく男の子です。女の子ではありません」
 
「えーーー!?」
 
「でも女の子みたいに可愛いですね。多分女の子になりたい男の子ではないと思います。だよね?」
 
「女の子になったら?とかよく言われますけど、僕はその趣味は無いです」
とアクアがまるで女の子のような声で言うと
 
「可愛い!」
という多数の女性観客の声があがった。
 
いきなり1000人くらいアクアのファンが生まれた感じでもあったが、この時点で観客たちはアクアを声変わり前の小学生タレントと思ったような感じはあった。
 

後半のステージを楽屋で聞いていたら、加藤課長から言われた。
 
「トイレ行くのにロビーに出てきた観客の声を聞いてたら、アクアちゃん、凄い話題になってるよ。既にツイッターにもこんなに書かれている」
 
と言って加藤さんは自分のスマホをアクアとコスモスに見せる。
 
「わぁ・・・」
「このツアーの中でどこかもう1回くらい登場しない?」
 
それでコスモスがスケジュールを確認すると、12月21日(日)はローズ+リリーは富山公演なのだが、午前中で雑誌社の取材が終わるので、その後、移動すれば間に合うことが分かる。
 
「じゃ、その日お願い」
「でも誰かその日は既に予定されていたのでは?」
とコスモスは尋ねる。
 
「あ、それは大丈夫です。この鈴割り役って、全部直前に誰かにお願いしてますから」
と氷川が言った。
 
「へー!」
「誰も適当な人が見つからなかったら、観客の中から選ぶという趣向なんです」
「なるほどー」
 
「だったら、やろうか?」
とコスモス。
「はい」
とアクアは答えた。
 
それでコスモスは予定をwikiに入力していた。それでアクアはもう一度ローズ+リリーの公演に付き合うことになった。
 

12日のライブは夕方からだったので、その日もまたLホテルに泊まり、13日(土)の飛行機で東京に戻った。
 
羽田空港でゆみが「トイレ行ってくるね」と言って離れるが、アクアも「ボクも行ってきます」と言って、その後に続いた。コスモスはボーっとして2人が戻って来るのを待っていたのだが、声がする。
 
「君、こっちは男子トイレだよ!」
 
あぁぁ、またアクアったら。女子トイレに入れと言ってたのにと思うが、声のした方を見ると、アクアではない。
 
「すみません!僕よく間違えられるんですけど男です!」
と《変声済み》の声で男の子?が反論している。
 
「あれ?君、確かに男の子の声だね。ごめんごめん」
と男性が言っている。
 
そしてちょうどそこに男子トイレからアクアが出てきた(ゆみが女子トイレに入ったので恥ずかしくて男子トイレに侵入したらしい)。アクアを見た男性は「君、ここは男子トイレ・・・だっけ?」と唐突に不安になったようで、男女のサインを探していた。
 
コスモスは楽しい気分になって、彼らの方に歩み寄った。そして
 
「ふたりとも、女子トイレが混んでいるからって、男子トイレに入っちゃダメじゃん。おいで」
 
と言って、アクアと、やはり性別を間違われた男の子(?)を女子トイレに連行したのである!手を洗っていたゆみがびっくりしていた。
 

その子を含めた4人は女子トイレを出た後、空港内のレストランに入った。
 
少年は「天月西湖(あまぎ・せいこ)」と名乗り、ひとりで九州の祖母に会いに行ってきたのだと言った。
 
「ひとりで飛行機に乗るって偉いね」
「うちの両親も忙しいので」
「お父さんは何してるの?」
 
「舞台俳優なんです。母も。舞台に穴を開けられないから、小学6年生ならひとりで行ってこいと言われて。夏休みにもひとりで行ってきましたし」
 
「へー、舞台俳優か。知っている人かな。芸名は?」
「たぶん、ご存じ無いと思います。うちの劇団、あまりお客さん入ってないみたいだし。父は高牧寛晴、母は柳原恋子というのですが」
 
「あら、黒部(くろぶ)座なんだ?」
とコスモス。
 
「ご存じなんですか!?」
「柳原恋子さんって、上野陸奥子さんのお姉さんでしょ? でも柳原恋子さんにこんな可愛い息子さんが居たって知らなかった」
 
「え〜〜!?叔母のことまでご存じなんですか?」
「だって、私、上野陸奥子さんの後輩だもん」
 
「後輩・・・って?」
 
「私、上野陸奥子さんが所属なさっていたのと同じ事務所に現在所属している歌手で、芸名は秋風コスモスというの」
とコスモスが言うと
 
「うっそー!?」
と言って、西湖は本当に仰天したような顔をした。
 
それを見て、ゆみが吹き出した。西湖はゆみも認識していなかったので、AYAのゆみだと言うと、また仰天していた。
 
「あのぉ、そちらもタレントさんですか?」
と恐る恐るアクアを見ながら尋ねる。
 
「ボクは今月末にテレビデビューする予定なんですよ」
とアクアは説明した。
 
「ところで、君、うちのアクアと背丈といい、体格といい、似てるよね。ちょっと並んで立ってみて」
とコスモスが言うと、ふたりは席を立って並んでみる。
 
「ちょっとだけ、西湖ちゃんのほうが低いかな」
「でもほとんど同じだね」
「体格もほとんど同じ感じ」
「これなら同じ服が着られるよね」
 
「同じ服って何か?」
「ねえ、君、この子のボディダブルやる気無い?」
「え!?」
「ボディダブルってどういうのか知ってる?」
「はい、それは分かります」
 
「取り敢えずボディダブルをしてもらって、将来的には君も俳優デビューという線とかはどうかな?」
 
「やりたいです!」
と西湖は笑顔で言った。
 
「あっ。ただ・・・」
と言ってコスモスは少し考えるようにする。
 
「何か条件とかあるんですか?頭を丸刈りとかくらいは構いませんよ」
と彼は積極的である。
 
「むしろ髪は長いままにしてほしい。それ君が進学する中学校と交渉できるかな?実はアクアは、男の子役と女の子役の1人二役をするんで、西湖君にはアクアが女の子役をする時には男の子の衣装を着て、アクアが男の子役をする時には女の子の衣装を着て、一緒に画面に映って欲しいのよ」
 
「わあ、女の子の服も着るんですか?」
「うん。それをしてもらえるかどうかなんだけど」
 
「僕、女の子の服を着るのは慣れてます。実は父の劇団の舞台でしばしば女の子役をさせられるんですよ」
 
「なるほどー!」
 
コスモスはなぜ自分がこの子にアクアのボディダブルをさせたくなったのか、その理由が分かった気がした。
 

「うっそー!? アクアちゃんって男の子なの?」
と、その話を聞いた品川ありさは仰天して言った。
 
「でもでもでも、私、10月に研修所であの子に会った時、お風呂からあがってきたのを見てるけど、あの子、おちんちんなんか無かったし、おっぱいも少し膨らんでいたよ。どう見ても、女の子の身体だったんだけど、まさか性転換手術済み?」
と品川ありさは言う。
 
コスモスは言った。
「あの子、小さい頃に大きな病気していて、小学1年生の時に生きるか死ぬかの大手術を受けているんだけど、手術の後も、治療のためにかなり強い薬を使っていたらしいのよ。それで一時期は髪も全部抜けてしまっていたし、肌なんかも凄く荒れて爪はボロボロだったらしい。それで男性器も縮んでいたらしい。髪とかは復活したけど、おちんちんはまだ短くなって身体の中に埋もれたままだし、タマタマの入っている袋は身体に張り付いた状態になっているから、一見女の子のお股に見えるんだって」
 
「うっそー!?」
 
「おっぱいが少し膨らんでいるのもその治療薬の副作用らしいよ。一時はBカップのブラジャーが必要なくらい膨らんでいたのが、今はAAカップくらいまで小さくなったらしい。多分あと1〜2年すれば、おっぱいは消えてしまうんじゃないかな」
 
「え〜〜〜!?」
と品川ありさは本当に驚いていた。
 
「私もあの子が男の子だなんて、いまだに信じられない」
と高崎ひろかは言う。
 
「でもあの時脱衣場で遭遇したのなら、絢香ちゃん(品川ありさ)もアクアちゃんに裸を見られたということは?」
 
「えっと・・・」
と考えてからありさは答えた。
 
「あの時は私は脱ぎかけだった。だから下着までしか見られてない」
 
するとコスモスは更に言う。
「あの子、そういう訳で外見上は女の子の身体にしか見えないから、お風呂入る時も男湯に入るの拒否されて」
 
「いや、あの子が男湯の脱衣場にいたら摘まみ出されると思う」
 
「まあそういう訳で、小学校の修学旅行では女湯に入ったらしいよ」
「マジですか?」
「そんなのいいの?」
 
「あの子は性的に未分化なんだよね。だから女の子の裸とか見ても何も感じないらしい」
「へー!」
「昔話の王子様とお姫様のどちらに感情移入するか?と聞いたら分からないと言う」
「うーん・・・」
 
「要するにあの子は戸籍上は男の子だけど、身体的にはほぼ中性なんだな」
「なるほどー」
 
「だからあの子に裸を見られても全然問題無い。小学校にあがる前の男の子がお母さんに連れられて女湯に入っているのと同じだよ」
 
「ああ」
「だったら問題無いか」
 
「でもそれであの子が急いでお風呂からあがった理由が分かった。何だか急いでいたのよね。ゆっくり入っていればいいのにと思ったんだけど」
 
「自分が絢香ちゃんの裸を見ることにならないように、早く上がったんだろうね」
とコスモスは言った。
 

「ところで、邦江ちゃん」
と品川ありさは意味ありげに言った。
 
「あれ勘弁して〜!」
と高崎ひろか。
 
「何?」
とコスモスが尋ねる。
 
「高崎ひろかちゃんはですね、もしアクアが男の子だったら、裸で山手線一周する、とおっしゃったのですが」
と品川ありさ、
 
「何それ〜〜〜?」
「だって、まさかあの子が男の子だなんて、考えられないじゃん」
 
「さて、約束を果たしてもらおうか?」
「そんなことしたら逮捕されるよぉ」
「女に二言は無いよ」
 

コスモスは笑っていたが、ふと思いついたようにして言った。
 
「じゃ、山手線一周すればいいよ」
「本当にするんですか?」
「山手線一周を電車でするとは言ってないんでしょ?だったら山手線に沿って車で一周すればいい」
「車!?」
 
「私が運転してあげるよ。私のロードスターじゃ後部座席が無いから、社長のベンツSクラスを借りようかな。それで、ひろかちゃん、後部座席に乗って、裸になれば、夜中ならまず外側からは見えないから。それで山手線に沿って一周してこよう」
 
「それなら行けるかも」
「12月だけど、エアコン入れていれば風邪は引かないよ」
「仕方ない。やろうかな。コスモスさん、それお願いします」
と高崎ひろかは言ったが、品川ありさが言った。
 
「それ私も付き合うよ」
「え?」
「私も裸で一緒に後部座席に乗る」
「え〜〜〜!?」
「だって邦江ちゃんだけにやらせるの可哀相だもん」
 
「ふーん。だったらアクアも裸にするか」
とコスモスは言った。
 
「え〜〜〜!?」
「ついでに私も裸になってあげよう」
「うっそー!?」
「アクアをあの日、本来は男子禁制の研修所に連れて行ったのは私だからね。その責任取って私も裸になるよ」
 

コスモスは千里に電話した。かいつまんで話をすると、千里は笑って、そのドライバーを引き受けると言った。
 
「これ紅川さんに知られたら大目玉をくらうと思う。だから紅川さんには、ひろかちゃんがありさちゃんにステーキを奢ったことにしておこうよ」
「ああ。それがいいですね」
 
「それで夜中の走行は昼間と違って色々気をつけないといけないことが多いからさ、コスモスちゃんが運転していて事故でもあったらいけないよ。私がやった方がいいと思う。ミニバンか何かを持って行くから」
 
「済みません。お願いします」
 
そういう訳でミッションは12月9日の深夜実行されたのである。
 
なお、この日、千里はレオパルダの練習は休ませてもらった。
 

夕方トヨレンでWISHを借りて、まずは熊谷市まで行き、龍虎を乗せて都内まで戻り、夜食を買い込んでから、夜遅くなるまで江戸川区葛西のマンションで待った(龍虎は中学生なのでこの時間にはファミレスに入れない)。23時頃、コスモスを彼女のマンションに迎えに行く。コスモスは“脱ぎやすい”ようにワンピースを着ていた。コスモスもたくさん食糧を買い込んでいた。2人には3列目に乗ってもらった。そして夜中の0時に足立区の§§プロ研修所まで行った。
 
深夜の外出なので、社長の奥さんには話を通している。新人3人組の親睦を兼ねて深夜に少しドライブをして、夜食を取ってから帰宅するということにしてある。奥さんもコスモスが一緒で、しかも醍醐春海がドライバーということで了承してくれた。深夜になってしまったのは、みんな日中は予定が詰まっているからというので納得してもらっている。
 
なお、高崎ひろかはここに住んでいるのだが、品川ありさは今日、仕事が終わった後、こちらで1泊することにして電車でこちらに入っている。
 

高崎ひろか・品川ありさが出てくる。コスモスは玄関まで出てきている社長の奥さん・知世子さんに挨拶した。コスモスが車に戻り、ひろか・ありさが2列目に乗り込む。千里はすぐに車を出した。
 
「2人ともお疲れ様」
とコスモス。
「済みません。その節は私の性別のこと説明してなくて申し訳ありません」
とアクアは謝っている。
 
「やはり女の子の声だよね?」
「声変わりしてないので」
「お医者さんの見立てではこの子が声変わりするのは多分20歳頃」
とコスモス。
「本当に男の子なの?」
「まあ脱いでみれば分かるね」
とコスモスが言う。
 
千里は近くの公園の駐車場に車を停めた。
 
それでアクアは服を脱いだ。ひろか・ありさは後ろを振り向いてそれを見ている。
 
「ブラジャーしてるじゃん」
「すみません。治療薬の関係で胸が膨らんでいるので」
 
ブラジャーを外す。
 
「その胸、Bカップはある」
「一時はAAカップくらいまで縮んでいたんですが、こないだ薬を変えたらまた膨らんじゃって」
「中1でそんなに胸があるのは女の子でも少数だと思う」
 
パンティを脱ぐ。
 
「ちんちん無いじゃん!」
「というか割れ目ちゃんあるじゃん!」
 
「ちんちんは肌の中に埋もれているんですよ。割れ目ちゃんみたいに見えるのは、陰嚢が縮みすぎて真ん中がくびれてしまったからなんです」
 
「ねえ、それもう男性機能は既に死んでいるのでは?」
「お医者さんは少しずつ睾丸が発達していけば、それにつれておちんちんも大きくなってきて、ふつうの男の子みたいになるだろうと言ってくれました」
と龍虎は言うが
 
「まあちんちんはその内生えてくるかも知れないけど、体型は男の子みたいにはならずに、ずっと女の子みたいな体型のままというのに1票」
と千里が言っている。
 
「まあそういう訳でこの子は暫定的に女の子みたいな体型だけど、その内、ひょっとしたら男の子みたいな身体になるかも、という状態かな」
とコスモスは言った。
 
「でもこの子が男湯に入れなくて、女湯に入れられてしまう理由は分かるでしょ?」
と千里が言った。
 
「うん。この身体なら女湯に入るしかないと思う」
「あんた、女の子の裸見ても何も感じないと言ったね」
「はい。何も意識しません」
 
「試してみよう」
と言ってコスモスが服を脱いでしまう。それを見ても龍虎の表情は変わらない。少し恥ずかしがっている感じなだけである。
 
「コスモスさんが裸になっても、それ男の子が女の裸を見る視線じゃない」
「ふつうに女同士で、スタイルのいい女性の裸を見て見とれている感じ」
「おっぱい大きくていいなと思っちゃった」
と龍虎は言っている。
 
「やはりあんたおっぱい、もっと大きくしたいんだ?」
「そんなことは無いんですけど・・・」
と言って龍虎は恥ずかしそうに俯いた。
 
絢香と邦江は顔を見合わせた。
 
「結局、アクアちゃんが男の子だというのは、戸籍上の話だけのような気がする」
「アクアちゃん、まだ睾丸あるのなら、もうそれ取っちゃったら?」
「え〜〜?」
「もうそのまま女の子の身体になっちゃえばいいじゃん」
「そうそう。ちんちんがクリちゃん並みに小さいのなら、それそのままクリちゃんということでいいし」
「結婚する前にヴァギナを造れば完璧だよね」
 
と言われて龍虎はドキドキしている。ボクまさか男の人と結婚するなんてことにはならないよね?などと思っている。なおダイレーションはこないだ病院の医師(?)に言われたように毎日やっている。こんな大きなもの入れて痛くないだろうか?とも思ったが全く痛くない。
 
「女の子になっちゃった方がいいって、私小さい頃から、何万回言われたか分かりません」
「ああ。何万回も言われるだろうなあ」
 
「でもアクアちゃんがそういう身体なら、私も脱いじゃおう」
と言って、邦江は服を脱いでしまった。
 
「じゃ私も脱ぐ」
と言って絢香も裸になってしまう。
 
むろん座席の陰になるので、ひろか・ありさの裸は龍虎からは見えない。ひろかたちが2列目、龍虎を3列目に乗せたのは、そのためである。龍虎が見てしまうのはコスモスの裸体だけである。
 
「じゃ私も脱ごうかな」
と千里が言ったが、
 
「醍醐先生はヌードで運転していたら、捕まります!」
とコスモスが言ったので、千里は結局下半身だけ脱いだ。
 
「醍醐先生もちんちんは付いてないですね」
とわざわざ覗き込んだ邦江が言っている。
 
「実は付いてたけど、取っちゃったんだよ」
「マジですか?」
 
「醍醐先生はよくそのジョーク言ってますけど、嘘だというのは、お友だち(実はマリと美空)の証言で明らかです」
とコスモスは言っていた。
 

それでともかくも、コスモス・アクア・ありさ・ひろかが全身ヌード、千里も下半身ヌードの状態で千里は車を出した。
 
まずは上野駅まで行く。ここでコスモスが駅の写真をLumixで撮影した。
 
「どっち周りで行く?」
と千里が訊くと
「時計回り。つまり外回りで」
とコスモスは言った。
 
「時間が進んでいくように、この子たちの芸が進化していくように」
「なるほど。実は今日WISHを持って来たのも、ここにいる5人の望みが叶うようにという思いを込めてなんだよ」
「わあ、そうだったんですか!」
「じゃ次は御徒町」
 
それで一行はこのように山手線に沿って時計回りに一周したのであった。
 
上野→御徒町→秋葉原→神田→東京→有楽町→新橋→浜松町→田町→品川→大崎→五反田→目黒→恵比寿→渋谷→原宿→代々木→新宿→新大久保→高田馬場→目白→池袋→大塚→巣鴨→駒込→田端→西日暮里→日暮里→鶯谷→上野
 
コスモスが全ての駅の写真を撮影した。
約2時間の深夜の旅であった。
 

車内では「裸の付き合い」で、みんな龍虎とコスモスがもちこんだおやつを食べながら楽しくおしゃべりして過ごした。
 
「でも裸の付き合いといったらお風呂だよね」
「これもしかして最初からお風呂でやってもよかったかも」
「そうすると、アクアを女湯に入れることになって他の人の目に曝すからやばい」
「あ、そうか、アクアちゃんは建前上男の子ということになってるのね」
「建前でなくても男の子ですー」
「いや。あんたは99%女の子だ」
 
「だいたいこうやっておしゃべりしていても、女の子と話している感じしかしない」
「ボク、友だちが女の子ばかりなんですよぉ」
「まあそうだろうね」
 
おやつは食べるが全員、飲み物は控えていた。この状態でトイレに行きたくなっても、裸で降りられない! 念のため緊急用のトイレ(ジェル状に固まるタイプ)は10枚も積んでいたが、使うハメになることは無かった。
 

上野まで戻ってきた後は、足立区まで戻ってから公園に停め、全員ちゃんと服を着た。そして公園のトイレにみんなで行ってきた!むろんアクアは女子トイレを使用した。「君が男子トイレに入って行ったら確実に襲われる」と絢香が言っていた。
 
「でも楽しかった」
と車に戻ってから言う。全員居るのを確認して車を出す。研修所に向かう。
 
「みんな仲良くなったね」
「裸の付き合いしたもんね」
「アクアちゃんがほぼ女の子であるなどという重大な秘密を知ってしまった」
 
「でもこれは秘密ね。今夜のことも」
とコスモス。
「特に社長には絶対言えないですね」
と絢香。
 
「今度どこかで次は着衣でパーティーでもしましょうよ」
「あ、それ4月になる前にやりたいです」
 
「邦江ちゃん、妹さんも連れておいでよ」
とコスモスが言う。
「いいんですか?」
「あの子もここのルーキーのひとりだし」
「じゃ、あの子の都合のつく日をコスモスさんにお伝えしますから、それで調整できます?」
「OKOK」
 
「また深夜になったら、今度は研修所でやりましょう」
「うん。それでもいいね」
「研修所のお風呂にみんなで入りましょう」
「そうか!その手があった!」
 

2014年12月13日(土).
 
東京都クラブバスケットボール選手権大会の1回戦が吉祥寺の武蔵野総合体育館で開かれた。例によって40 minutesは今年が1年目なので1回戦から出たのだが、今日は快勝であった。2回戦は来週である。
 

12月14日(日).
 
阿倍子の胎内の子供は12週、4ヶ月目に入った。ここからは胎芽ではなく胎児と呼ばれるようになる。この所はわりと順調なようで、つわりも峠を越えたような気もした。
 
家事手伝いのヘルパーさんは安定期になる16週目までは毎日、その後も当面週に2回くらい頼むことにしている。週2回頼み、食材宅配サービスも併用すれば、阿倍子はほぼ外出する必要が無いはずである。
 

2014年12月14日(日).
 
&&エージェンシーの事務所で悠木朝道氏が社長室の豪華な椅子に座り、パソコンで、どこかお金が借りられそうな所が無いか見ていたら、ぞろぞろと人が入ってくる。
 
「何だね?」
「今から臨時株主総会を開きたいんだけど、いい?」
と言ったのは妻・従妹であり副社長の悠木栄美である。
 
「待て。総会を開くには1週間前に予告して・・・」
「株主が全員揃っているなら、予告は必要無い(*1)」
 
(*1)会社法第300条
 
「全員居るんだっけ?」
「私、あなた、麻生杏華さん、麻生道徳さん、麻生二郎さん。これで全員」
「確かに揃っている!」
「じゃ開いていい?」
「それはいいけど」
 
(と朝道氏が言ったので“株主が全員総会開催に同意”したことになり、会社法300条の要件を満たした。栄美の心理的な罠である。これはもちろん録音している)
 
「では動議を出します。私は悠木朝道取締役の解任を提案します」
と栄美は言った。
 
「何だと!?」
「朝道氏に関する議案ですので、朝道氏本人は議長ができません。誰か代わって下さい」
 
「私が議長をしよう」
と麻生二郎氏。彼は悠木朝道・悠木栄美に次ぐ3人目の取締役である。
 
「解任を提案する理由を説明して下さい」
と二郎氏が訊く。
 
「悠木朝道氏は社長に就任して以来、わずか4ヶ月足らずの間に会社の収支を極端に悪化させました。斉藤前社長時代の6月末の四半期決算では経常利益が2億円ありました。しかし途中で社長が交代した9月末四半期では経常赤字が1億円。更に先日の無謀なドームツアーで6億円もの赤字が出ています。充分解任に値すると思います」
と栄美は主張する。
 
「悠木朝道さんの意見は?」
 
「9月末四半期での赤字は、XANFUSの利益上昇を阻害していた桂木織絵を解雇したことによる特別損失に過ぎない。私がXANFUSをちゃんと利益のできる構造に改造しようとしていた。今回のドームツアーは確かに赤字にはなった。しかし6大ドームツアーを実施したアーティストというのは過去に5組しか無い(*2).これはXANFUSにとって大きな箔が付くことになる。これから間違い無くXANFUSは大きな利益をあげるから、長い目で見て頂きたい」
 
(*2)この時点では、Mr.Children, Exile Tribe, BIGBANG, B'z, AKB48のみ。その後、ももクロ、Exile Atsushiが達成している。むろん彼らは6大ドームを満員にした。
 
「毎年5億円の売上を挙げてくれていたユニットの構成メンバーを全員解雇しておいて、利益も何も無いでしょう。あなたがしたことはこの会社を破壊しただけです。当然このあと特別背任で告訴しますので、覚悟して下さい」
 
「経営のイロハも知らない奴が何をほざく?」
「それはあなたのことでしょう?」
 
「それでは決を採ります」
と二郎氏は言った。
 
「悠木朝道氏の取締役解任に賛成の方」
 
朝道以外全員挙手する。
 
「反対の方」
 
朝道のみが挙手する。
 
「賛成の方の株式数が65%です。よって悠木朝道氏は取締役を解任されました」
と麻生二郎は宣言した。
 
「あり得ない!こんな無法な総会なんて認められない。だいたいこんな総会は無効だ」
 
「いえ。成立しています。それでは悠木朝道氏に代わる取締役を選任します。提案はありますか?」
 
「麻生杏華さんを推薦します」
「麻生杏華さんの選任に賛成の人?」
 
また朝道以外の株主が全員挙手する。
 
「賛成の方の株式数が65%です。よって麻生杏華さんは取締役に選任されました」
 
「それではこれで株主総会を終わります。次いで取締役会を開きます。取締役の3名だけが残って、他の方は退出して下さい」
 
それで麻生道徳は退出する。
 
「悠木朝道さん、あなたは取締役ではないので退出して下さい」
と栄美副社長が言う。朝道は栄美を睨み付けて退出した。
 
「代表取締役を選任したいのですが」
と3人だけになった社長室の中で栄美副社長が言う。
 
「悠木栄美さんを推薦します」
と麻生杏華。
 
「賛成します」
と麻生二郎。
 
それで&&エージェンシーの新社長は悠木栄美になったのである。麻生杏華が専務、二郎氏が常務になることになった。
 
なお、栄美はこの日のため予め引越屋さんを手配しておいて、朝道が朝会社に出かけたあと引越屋さんを入れて自分の荷物を全部運び出し、予め借りておいた都内のマンションに引っ越してしまったのである。その引越が終わってから会社に出てきて、クーデターを実行した。
 

栄美新社長にはすぐにも実行しなければならないことがあった。それは朝道前社長が無謀なドームツアーで出してしまった6億円の赤字の補填である。緊急にこれをしないと、会社は今月中に倒産する危険もあった。
 
栄美は織絵に電話した。
 
「え!?社長が交代したんですか?」
「悠木朝道を解任した。そして私、悠木栄美が新社長になった。それで最初にあなたたちに酷いことをしたことを謝罪したい」
 
「奥さんが旦那さんを解任したの!?」
「個人的な関係とビジネスは別よ。まあ離婚になるだろうけどね」
「へー!でも謝罪してくださるのなら、私たちはそれを受け入れます」
 
「それで事態は急を要するので。相談したい」
「はい」
「XANFUSに関する全ての権利をあなたたちで買ってくれない?」
「権利?」
「あなたたちはうちをやめても、契約書の条文に従って3年間は自分たちの曲を歌うことができない。だからその権利を買い取ってもらえないだろうか?XANFUS関係の名義と一緒に」
 
「具体的には?」
「XANFUS、音羽、光帆、神崎美恩、浜名麻梨奈, Purple Cats, mike, kiji, noir, yuki の名前の使用権、過去のXANFUSの楽曲を演奏・収録する権利。それを5億円くらいでどう?」
 
「お言葉ですが、音羽とか光帆とかいう名前の権利は&&エージェンシーには無かったと思います」
 
「まあそのあたりは曖昧だったよね。でもその曖昧な部分を明確にするための解決金という線でどう?」
 
「それ、ちょっと美来とも、それと弁護士とも話し合います」
「うん。それでいい。でもできたら数日中にお返事が欲しいんだけど」
 
「でも私たちがXANFUSの名前を取得したら、震来と離花はどうなりますか?」
「あの子たちには別の名前を考えるよ。あの子たちをXANFUSとして売りだそうとしても、ファンが猛反発するよ」
 
「そういうことを理解して下さる方となら、私たちは話し合える気がします」
「ありがとう。ぜひ建設的なお話をしたい。それと美来ちゃんを契約違反だと言って解雇した件はあらためて謝罪して取り消したい」
 
「取り消したら美来はそちらの籍に残るのでしょうか?」
「ううん。それはあなたたちは新しい活躍の場所を確保したのだから、そちらで再出発した方がスッキリすると思う。だから美来ちゃんとの契約は即解除でいいけど、美来ちゃんがアルバム制作に非協力的だったという発表は誤りであると発表して美来ちゃんの名誉を回復したい」
 
「それは歓迎です」
「それと違約金としてもらった1億円は返済するから。振込先を教えてもらったらすぐ振り込む」
 
「栄美さん、提案ですが、それは私たちが楽曲などの権利を買い取ることにした場合、相殺にしませんか?振込手数料がもったいないですよ」
 
「確かにそうね。じゃその線で。名誉回復に関する作業はすぐ進めるから」
「はい。お願いします」
 
光帆が契約違反をしたというのは前社長の誤認であり、彼女は制作に非協力的であったりはしていない。違約金はすみやかに返却する予定である、というメッセージは1時間後に&&エージェンシーのホームページに掲載され、また各新聞社にもFAXで送られた。
 

権利買い取りの件に関しては、双方の弁護士、そして★★レコードの法務部も交えて話し合った結果、5億円は高すぎるとして3億円を織絵と美来が払うことでふたりはXANFUSの曲に関して&&エージェンシーが持つ全ての権利を取得することになった(なお版権は★★レコードにある)。そして美来が払った1億円の返却、および、&&エージェンシーが美来に払うことにした退職金2000万円と相殺し、織絵と美来が1億8千万円を払うことで、話がまとまった(資金を提供したのは冬子)。
 
それで織絵と美来は1月1日以降、先日作ったΦωνοτονをXANFUSと改名。震来と離花によるデュオの名前は Hanacle となる。Hanacleの楽曲はカトラーズの進藤歩が担当することになった。
 
またこれまでのXANFUSのファンクラブ会員は各自の希望により“XANFUSを改名した”Hanacleのファンクラブ会員に残ることも可能だし、“新”XANFUSのファンクラブ会員に無償移行することもでき、あるいは+2000円で両方のファンクラブにも入れることにした。この結果、新生XANFUSのファンクラブ会員は44,000人、Hanacleファンクラブも12,000人で2015年をスタートすることになった。
 

なお、悠木栄美社長は、朝道前社長が使用していた社長室を廃止。豪華な椅子とデスクもオークション!で売ってしまった。そしてここには柔らかいカーペットを敷き、毛布も置いて、昔の休憩室に戻した。コーヒーサーバーを置き、自由に使ってねと言った。また朝道氏は社用車としてレクサス LS600h を1台買っていたが、これもオークションで売った!机と椅子は5万円にしかならなかったものの、レクサスは800万円で売れて、急ぐ支払いの資金を確保するとともに、社員と契約アーティストに11月分の給料、ボーナス、12月分の給料をまとめて支払うことができた。
 
「みんな、11月のお給料とボーナスの支給が遅れてごめんね」
「いえ。11月分のお給料は美来さんに貸してもらっていたから」
と日野奈美。
「美来さんに御礼言って返さなきゃ!」
と横浜網美。
 
実は11月分の給料が出なかったので、それではみんな生活に困るでしょうと言って、美来が社員4人に20万ずつ、他の所属アーティストにも各人の毎月の平均的な収入額に応じて5-10万程度ずつ渡してくれていたのである。みんな「助かりました」「子供の保育所代が払える」「性転換手術代が払える」などといって感激していた。
 
(多数のアーティストと話していたので「性転換手術代が払える」と言ったのが誰か、美来は覚えていない。10万円で性転換手術は受けられない気がするが!?あと10万足りなかった??)
 
なお社員4人はすぐにこの分を美来に返したが、所属アーティストには生活が苦しい人も多く、美来は返却は「出世払い」でよいと言ったので中には数年後になった人もあった。美来は適当なので実は誰に貸したか覚えていない!
 

政子(ローズ+リリーのマリ)は10月から自動車学校に通って普通免許取得を目指していたのだが、12月9日に自動車学校を卒業。11日に免許センターで運転免許(AT限定無し)を取得した。それで車を買いたいと言って日産のお店に行き、電気自動車のリーフを購入した。政子はついでにと言って最近エンジンの調子がおかしいと言っていた冬子のカローラ・フィールダーの後継の車としてエルグランドも買ってしまった。フィールダーは2010年春に中古で買ったものだが、5年弱で引退することになった。
 
しかしこのエルグランドを、冬子は自分の車なのに、どうしても運転することができない!?ことになってしまうのである。
 

12月16日(火).
 
作曲家の本坂伸輔が急死した。正確には亡くなったのは15日の23時すぎくらいではないかということらしい。本坂さんは元々長風呂なのだが、0時半頃になって、あまりの長さに奥さんの里山美祢子が不安になり様子を見に行ったら、冷たくなっていたということであった。
 
冬子はΦωνοτον(XANFUSと改名予定)の製作に同席している時にそのことを知り、政子に喪服を持って来てもらって、織絵・美来と一緒に通夜の会場に向かった。
 
千里は新島さんのマンションで、雨宮先生・新島鈴世・鮎川ゆま・毛利五郎と5人で打合せをしていた時に情報を得て、新島さんから礼服を借りて“4人”一緒に通夜会場に向かった。毛利はいったん自宅に戻って礼服に着換えてから向かった。
 
「毛利君、女物の喪服ならあるけど」
「俺がそんなの着て行ったら、とんでもないってんで、追い出されますよ」
 
と毛利は言っていたのだが、通夜会場には、もっととんでもない連中が来た。
 
真っ赤な服を着た、不酸卑惨というバンド5人組が読経の最中に乱入。本坂伸輔はニセ作曲家だなどと糾弾した上で、祭壇に向かって消火器を射出してめちゃくちゃにしたのである。制止しようとした進藤歩と★★レコードの南が殴られ、結局警備員に連れ出される騒動となった。その後の祭壇をちゃんと直すのが大変であった。これには冬子や織絵・美来、千里や鮎川・毛利など、出席者も協力した。
 

2014年12月16日(火).
 
日本バスケットボール協会に資格停止処分が課されたことについて、FIBAのパトリック・バウマン事務総長が来日し、FIBAが直接事態収拾に乗り出すことになった。
 
バウマン氏は16-17日の両日、日本バスケットボール協会の幹部と精力的に打合せを行い、改革のための“タスクフォース”を立ち上げることを決定。12月18日にそのことをバウマン事務総長と日本バスケ協会のU副会長との共同記者会見で発表した。
 
ここから日本バスケット界は劇的な復活へと向かって進んでいくことになる。
 

2014年12月20日(土).
 
龍虎はこの日ずっと仕事をしていたのだが、一応20時で仕事が終わった後、自宅には戻らず、電車で足立区の研修所に入った。明日早朝から仕事があるからである。なお駅から研修所までは歩いて5分くらいなのだが、必ずタクシーを使うように言われている。地元のタクシー会社と契約していて、研修所に住んでいる子はパスを渡されていていちいちお金を払わなくても乗れる。アクアもそのパスを渡されている。
 
ちなみにこの研修所は男子禁制なのだが、アクアは特別にここに泊まってもいいことになっており、ほぼ208号室を使用する。実は隣の207号室に柴田邦江(高崎ひろか)が住んでいる。
 
龍虎が入浴していたら邦江が入ってくる!慌てて龍虎は目を瞑ったが、
「別に見てもいいのに」
と彼女は言っていた。
「だけどつくづく、どう見ても女の子の裸にしか見えないなあ」
と言って、あそこに触る!ので
「触るのだけは勘弁」
と言って手でガードした。
 
「じゃ、おっぱいの触りっこ」
「ちょっとぉ」
「いいじゃん。女の子同士なんだから」
 
この子、ひょっとしてレズっ気がないか?と龍虎は焦った。
 
(実際には普通の女子校のノリである。邦江は今女子中学に通っている)
 

翌12月21日は朝御飯を食べてから都内の駅でコスモスと待ち合わせ、女性ファッション誌の出版社に行って取材を受けた。その後、新幹線と《はくたか》で富山に行く。そしてローズ+リリーの富山公演でまた《鈴割り》をした。
 
東京12:16-13:26越後湯沢13:34-15:31富山
 
この日の公演ではオープニングで青葉のサックスをフィーチャーした『こきりこロック』を演奏。また『苗場行進曲』では彼女が所属する高岡T高校合唱軽音部のメンバーが各々の担当楽器を持って行進するというパフォーマンスをした。
 
龍虎は青葉と個人的に話して、自分の身体のホルモンバランス調整を依頼したかったのだが、忙しそうで、うまくキャッチできなかった。やはり、こうちゃんさんに言われたように、ケイさんを経由して頼まないと無理かなあと思った。
 

12月21日(日).
 
貴司たちのMM化学は今期大阪実業団リーグの最終戦を迎えた。相手は今年もAL電機である。例によって厳しい戦いになったが、最後は貴司が決めたゴールが決勝点となり、MM化学が勝った。これでMM化学は全勝で優勝。大阪実業団リーグを2連覇した。
 

同日、12月21日(日).
 
東京の深川スポーツセンターでは、東京都クラブバスケットボール選手権の2回戦が行われた。女子はこれで8チームから4チームに絞られることになる。この日も40 minutesは快勝した。準決勝は23日に行われる。
 
なお千里は12月20日にスペインで試合をしている。これは日本時間では12/20 22:00-24:00くらいの時間帯だった。それでスペインでの試合が終わってから葛西でぐっすり朝まで寝た後、この日の試合に出た。
 

貴司は21日の最終戦の後、チームのみんなと打ち上げをしてから、新幹線で東京方面に出てきた。22日(月)は有休を取っている。
 
新大阪20:00-22:33東京22:44-23:27小山
 
千里は小山駅の近くに車を駐めておき、貴司を迎える。車の中に入ったらまずディープキスをした。そして1時間ほど掛けて常総ラボに移動した。
 
「優勝おめでとう」
「そちらも2回戦突破おめでとう」
 
「今年は綿婚式だからと思ってこれを用意した」
と言って、貴司が綿の靴下30枚セットを出すと
「あ、私も同じもの買った」
と言って、千里も綿の靴下60枚セットを出した。
 
むろん貴司が用意したのはレディスサイズで、千里が用意したのはメンズサイズである。
 
「枚数で負けた」
「貴司は私の倍、練習すればいいね」
「それだけど千里は手合わせする度にどんどん強くなって行っている」
「貴司の練習時間が足りないだけだと思うけど」
「千里だいたい何時間くらいしてるのさ?」
 
「そうだなあ。毎日30時間くらいかなあ」
「それ計算が合わないんだけど」
 

この夜は遅いので夜食を食べてシャワーを浴びたらすぐ寝る。例によって5cm空けてベッドに並んで寝た。そして翌12/22 朝御飯を一緒に食べて一息付いてから2階の体育館に行き、午前中たっぷりと汗を流した。
 
それでお昼を食べて少し休憩していたら織絵から電話がある。
 
「ああ。マンション選びか」
 
先日織絵と光帆のマンション(所有権は&&エージェンシー)の荷物を冬子・和実と一緒に国立市のマンションに移動したのだが、その国立市のマンションも12月いっぱい(あと9日!)で出なければならないので、緊急に新しいマンションを確保する必要があるのである。今、冬子のマンションに来てその相談をしているらしい。
 
「OK。じゃ今からそちらに行くよ」
 
ということで、貴司には
 
「悪いけど午後は1人で練習してて。買物とかはインプを使ってね」
 
と言って、自分は常総ラボに駐めているKawasaki ZZR-1400に乗って出かける。(貴司はインプの鍵を持っている)
 
なお千里が留守の間に、偶然を装って女装ビーツの林(りん:実はこうちゃん)さんに行ってもらい、貴司の練習相手を務めてもらった。
 

千里自身は途中で《くうちゃん》に頼み、恵比寿に転送してもらう。それで冬子に電話して駐車場の扉を開けてもらい、バイクをマンション駐車場の冬子のフィールダーのそばに駐めてから32階まであがり、冬子の部屋に行く。
 
織絵と美来が来ている。織絵はいくつか引越先の候補を挙げていた。千里はそのリストを見たが「酷い」と思った。
 
「ここに住んだら5年以内に死ぬ」
「ここは欠陥工事でピサの斜塔みたいに傾く」
「ここは1年前まで住んでいた女性が赤ちゃんを5人産み殺している」
「ここは寺尾玲子さんが言うところの人間が住めない土地」
「ここは来年ガス爆発に巻き込まれる」
 
などとひとつずつ問題点を挙げていく。織絵たちは10個候補を挙げていたのだが、どれひとつとしてまともな物件が無かった。
 
「占いで当てられる内容を超越している気がする」
「私は占い師というより巫女だから」
と千里は言う。
 
「運の良い人は運の良い転居をするし、運の悪い人は良くない引っ越しをするって昔の知り合いが言ってた」
と織絵が言う。
 
「それ占い師の間では常識。開運できる所に引っ越すから運気が開けるというより、運がいいから開運の場所に引っ越せる」
と千里は言う。
 
「ね、今の状態の私たちが選んでもダメみたいだから、冬選んでくれない?」
と織絵は言ったのだが
 
「だったら私が選んであげる」
と政子が言い出した。
 

政子は最初に地図で羽田から15kmの円弧を描いた。
 
「羽田に到着してから15kmなら帰ろうという気になる。20km離れてたら辿り着く前にお腹空いちゃう」
などと政子らしい論理を展開する。
 
新横浜、武蔵新城駅、二子玉川駅、三軒茶屋、原宿、桜田門、東京駅、両国、などといった所がその15km程度の距離である。政子はその境界線を見ていて、ハッとするように言った。
 
「ここがいいよ」
と言って指さしたのは、錦糸町駅(16.6km)である。
 
「ここ駅の近くに、マクドナルド、ロッテリア、ファーストキッチン、フレッシュネス、松屋、吉野家とあるし。ケンタッキーが無いのが残念なんだけど、隣の亀戸まで行くとあるんだよ。焼肉屋さんとかしゃぶしゃぶ屋さんもあるし」
 
「よく知ってるね!」
 
要するに食べ物屋さんで選んでいるのである!
 
政子はそれで近くのマンションを検索して、3LDK 4600万円、築1年・駅から6分という物件を見つけた。
 
「でもちょっと予算オーバーだけどなあ」
と美来。
 
「いや、この距離がたぶんマリちゃんが言うように羽田に深夜到着して帰る気になる限度という気がするよ。錦糸町は快速が停まるし」
と織絵が言う。
 
羽田からの最終連絡を調べてみると、0:07に羽田空港を出て0:52錦糸町着というのがある。
 
「ここいいかも」
「ねぇ、冬。どうせ3億借りてるし、あと少し借してくれない?」
 
「いいよ、貸すよ」
と冬子は苦笑して言った。
 

それで5人(千里・美来・織絵・冬子・政子)で現地まで見に行った。不動産屋さんで尋ねると、これは中古物件ではなく、新築マンションの売れ残りらしい。
 
「空いているのは何階と何階でしたっけ?」
「4階と10階と12階と23階なんですが」
 
それで千里は「4階以外なら大丈夫だと思う」と言った。しかし10階の部屋に行くと玄関まで来たところで「あ、この玄関は凶方位にあります」と言い、中を見ずに12階に上がる。
 
ここはかなりいい感じであった。しかしスカイツリーを見上げる角度がきつい。千里が計測してみると31度あった。
 
「微妙ですね。30度以上の仰角があると形殺を受けるんですよ。でも12階で31度なら23階ならもっと緩いはずです」
 
それで23階まで上がって仰角を確認すると27度であった。
 
「この部屋はOKですね」
「じゃ、ここを第一候補で」
 
と言って、部屋の中を見ていく。部屋の構造も問題無いようである。
 

「でもここ多分少し高いですよね?」
 
「はい。4階が2900万円なのですが、10階が4600万円、12階は4700万円、23階は5400万円になっております」
 
「すみません。気のせいかその4階は異様に安い気がするのですが」
と冬子が言ったが、千里は
 
「他の階には影響が無いから心配要らないよ。せいぜい上下の3階・5階までだよ」
と言った。
 
「何があるの?」
「妖怪がたくさん集まっているだけ。霊道じゃないよ」
「なーんだ。それなら問題無いね」
 
千里はサービスで(?)その4階に集まっている妖怪を全部“処分”してしまった。それで帰りがけにマンションを見上げると4階の雰囲気がまるで変わっていた。
 
ここの23階の部屋は5400万円、税込みで5832万円だったのだが、みんなで頑張って値切ったところ、妖怪の処分もしてもらったしということで、税込み5200万円にしてくれた。代金は冬子が織絵たちに貸すことにして、代理で即振り込んだ。
 
 
前頁次頁目次

1  2  3  4  5  6  7  8 
【娘たちのエンブリオ】(6)