【夏の日の想い出・アルバムの続き】(4)

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「常滑舞音ファン判別テスト」というものがあるらしい。
 
「常滑舞音マメやね(とこなめ・まね、まめやね)」と3回言えるかというものである。“常滑舞音”の発音しづらさはデビューの頃から言われていた。
「どうしても“とこなめまめ”になっちゃう!」
などと言っていた女性歌手もいた。舞音は逆にその“発音しにくい”名前を武器に知名度を上げてきた。
「あの何とかって発音しづらい子」
などと言ってた人もいる。
 
他に“常滑舞音豆舐めた”とか“常滑舞音まじめに真似した”などというのもあるらしい。
 
テレビ番組でこれについて感想を求められた舞音は
「常滑舞音マメやね、常滑舞音マメやね、常滑舞音マメやね」
と8秒で言い切って
「すごーい!さすが本家!」
とブリックリンに称賛されていた。
 
でも一緒に来ていた水谷妹は1フレーズ目で噛んで
「私言えなーい」
と泣き顔になって笑いを取っていた(この子は天然ボケ)。
 

10月31日(月).
 
この日の朝発売された週刊誌が衝撃的な報道をした。女子高生タレントとして人気のあった仮名Aが、友人数人とマリファナ・パーティーをしていたというのである。週刊誌にはAが恍惚な表情で右手にマリファナ・タバコらしきもの、左手にウィスキーかと思われるグラスを手にしているところが映っていた。
 
Aは◇◇テレビで現在放送中の『進め!乙女隊』に“主演”しており、そして次回の放送は今日の夕方の予定である!!
 
◇◇テレビは緊急役員会を開き、取り敢えず今日の放送の中止、代替番組として、富士川32と利根川32の生番組(司会:丸呑ワンダ・丸呑ジョージア)を放送することを決め、すぐに放送脚本を作らせた。
 

タレントAは弁護士に付き添われて昼前に警視庁新宿署に出頭。事実を認め家庭裁判所に送致されることとなった。同日事務所はAとの契約を解除したことを発表。夕方には◇◇テレビは番組の打ち切りを決めた。
 
この事件ではパーティー出席者が全員特定された。そして18歳以上は送検され、未満は全員家庭裁判所に送致された。芸能契約をしていたものは解除され、高校在学中の者は退学処分にされた。またAと交友のあった者も全員薬物検査を受けたがその中に数名陽性の者があり、それなりの処分を受けた。薬物検査を求められた者には§§ミュージックのタレントもいたが全員陰性であった。
 
11月4日(金).
 
◇◇テレビの山岸編成局長は信濃町の§§ミュージック事務所にやってくると応接室のデスクに頭を付けるまで下げて言った。
 
「伊藤さん、申し訳無い。ラピスラズリを貸してください」
と編成局長は言った。
 

「いったいどういうことでしょう?」
とコスモスは訊く。こうなる可能性は事件の報道があった時から考えていたのでラピスラズリの予定を入れないようにしていた。
 
元々『ザ・天下』の制作が延びた時に備えて11月上旬§§ミュージックのタレントの予定はだいたい空けてある。向こうもその事情を知ってこちらに来たようにも思われた。
 
それともうひとつは薬物事件なので更に摘発者が出た場合に備えてAとはできるだけ関係の薄い事務所を使いたかったというのもあったようである。
 
「乙女隊が突然打ち切りになって、代替番組を企画しなければならない。しかし先週のあの“ガヤガヤ番組”みたいなのは御免だ」
「あれひどかったですねー」
と横から川崎ゆりこが言う。
 
一応最初は利根川32vs富士川32の対決戦として始められたものの、まともな台本が完成しておらず、途中からはもはや何を映しているのか訳の分からない世界となった。司会の丸呑ワンダ・丸呑ジョージアには80人もの女子が勝手に動き回るのをもう制御できなかった。BPOから注意を受けるほどの混乱ぶりだった。視聴者からもかなり苦情が来た。
 

「とにかく企画を考えて、キャスティングして、脚本書いてなどとやっている時間が無いんです。この枠は中高生を使った番組を放送するので撮影は明日か明後日にしなければならない」
「厳しいですね」
 
「それで実は4月から9月まで放送したラピスラズリ主演『占い女子高生・みつる』の未使用台本が1つあるんですよ。これを使えないかという提案がありまして。幸いにもあの番組のセットはまだ解体せずに残っていたんです」
「ああ」
 
「それでこれを使う場合、キャスティングする時に脇役はもうスケジュールが取れる人を入れるしかないけど、主役は変えられない。だからラピスラズリにお願いしたい」
 
「それは1回だけですか」
とコスモスは訊いた。
 
「最低7日放送分から年内まで7回か8回。1月からどうするかは未定」
 
「状況が状況ですし。仕方無いですね」
「そしてできれば主題歌も新しい主題歌を月曜までに一応放送できるレベルで。最悪1番だけでもいいです」
 
「それはできますよ」
「凄い!さすが§§ミュージックさんですね!」
 

それでラピスラズリ、および共演していた直江ヒカル・今川ようこ・甲斐波津子の3人が呼ばれ、急遽日曜日の撮影に参加することになった。ついでに「生徒役が足りないから応援頼む」と言われて、左倉まみ・箱崎マイコ・豊科リエナも一緒に行かせた。
 
そして何とか撮影が終わった後、ラピスの2人はコスモスから
「これ明日の夕方までに完成させてね」
と言われ
『秘密指令EX』(松本葉子作詞・松本花子作曲)
という曲を渡されたのである。
 

「しかしどうも芸能界で薬物汚染が進んでいるみたい」
「コロナでストレスが溜まってるのもあるんでしようけどね」
「あらためて全タレント・信濃町ガールズに『元気が出るお薬あるよ』みたいな話には絶対乗らないことと通達出しましたけどね」
 
「○○プロの丸花さんが言ってたけど芸能界にかなり人脈を持つ大物売人がいるのではというので警察も内偵を進めているらしいよ」
 
Xデーまで1ヶ月半・・・
 

「元気が出るお薬飲んじゃお」
と言って早幡そらは、ドアノブに掛かっていたレジ袋(怪人X(*40) からのプレゼント)に入っていた“栄養剤”を飲んじゃった!この薬がDian35(女性ホルモン)であることは、彼も認識している。こうして彼は男子廃業への道を1歩また1歩確実に歩んでいた(既に手遅れだと思う)。
 

(*40) 怪人Xとは、セキュリティがあって外部の者は入れないはずの男子寮を夜な夜な闊歩し、ドアノブに“ブレゼント”の入ったレジ袋を掛けていく謎の人物。
 
プレゼントには単純なおやつ、可愛いお洋服、女物の下着、女の子っぽい文具やアクセサリー、お化粧品などのほかに自動去勢器などのあやしげな機械、“栄養剤”と書かれた女性ホルモンが入っている。セレンたちは新しく入寮してきた子に『機械類は危険だから捨てろ。悩んだら自分たちに相談しなさい』と言っている。ホルモンについては本人の任意に任せている。ただ
 
「女性ホルモンはいったん飲み始めたら一生飲み続ける必要がある。中断しても男性機能は2度と回復しない。その覚悟ができてない人は飲んではいけない」
 
というのだけ言っている。
 
怪人Xの正体は、何かでイライラしてる時の丸山アイ(虚空)である。女子寮にも時々出張している。他にもムーラン建設の寮などにもよく行っているようだ。あちらでは自動去勢器を使っちゃった人もいるもよう。
 
アイはきっと人体実験で改良に役立ててる。
 
自動去勢器は睾丸を切除した後で麻酔を掛けるという謎仕様、また自動オナニー器で到達したらいきなりペニスを切断するという不思議仕様は千里に言われてやめたようである。これで今井葉月やキャロル前田が犠牲になっている。キャロル前田はいったんペニスを切断されてしまったものの「まだペニスを取る心の準備が出来ない」と言って復活してもらった。ついでにヴァギナも造られた!
 
彼は現在実は生理がある。ナプキンを使っているが同居している他のメンバーは“生理ごっこ”しているのだろうと思っている。アイは「妊娠はしないんじゃないかなあ、多分」と言っていた。
 
キャロル前田の妊娠報道も近い♪
 

11月7日(月)から五反野の女子寮地下のスタジオでは、アクアのミニアルバムの制作が始まったが、私は小平市にある政子の実家の隣!に建てたスタジオでローズ+リリーのアルバムの歌唱録音に入った。
 
ここに以前建っていた家は2019年11月にガス爆発で崩壊し、周囲の住宅も被害を受けて建て直しが必要になった。それで持ち主は土地を売却して周囲の家に補償をし、よそに引っ越していった。その時、土地をポンと1.8億円で買い取ってあげたのが政子である。
 
「だってあのおじさんには小さい頃たくさん遊んでもらったし」
と政子は言っていた。縁日とか花火大会とかによく一緒に行っていたらしい。
 
政子はここにガレージを建てたいと言っていたのだが、
「ガス爆発のあった土地って何かあるかも知れないし」
と言って、たまたま東京に来ていた青葉に見てもらった。
 
青葉は腕を組んで難しい顔をした。そして千里を呼んだ。千里は
「ここは2〜3年は人が住めない」
と言いながらもその土地が次第に浄化されていく仕組みを作ってくれた。
 

今回の制作をするに当たり、最近私が忙しくて恵比寿のマンションではごはんにありつけないことも多いので、実家に居る確率の高いマリのためにこのガレージだけが建っていた土地にスタジオを建築することにしたのである。千里に見てもらったところ
「ここで宿泊しなければ問題無い」
 
ということだった。(千里が作った結界があるので)霊障までは起きないが、ここで寝てると多分悪夢を見るということらしい。
 
それで夏頃から建設を始め、機器を持ち込んで録音・ミキシングなどができるようにした。そういう訳でアルバム『空』の大半の歌唱録音は、政子の実家の隣のスタジオ(仮称:小平スタジオ)でおこなったのである。
 
基本的には午後にはここで自主練習していてもらい、詩津紅と白石マネージャーにお世話を頼んでおく。詩津紅は実は実家がわりと近くである。夜だいたい21時頃に私が佐良さんの運転するHonda ACCORD でスタジオ入りする。それから夜26時くらいまでが録音作業である。夜間のマネージングはだいたい竜木マネージャーがやってくれる。技術者は私の親友・市田有咲(旧姓町田)の会社の若い技術者が午後と夜間、交替で入っていてくれる。ミクシングには20代の若い耳が必要である。
 
伴奏の修正が必要な場合はいったんDTMソフト上で修正しておく。そしてある程度まとまったところで七星さんに連絡すると、七星さんの家にあるスタジオにスターキッズのメンバーが集まって修正してくれる。
 
ちなみにマリの普通の起床時間は昼12時くらいで就寝時間は午前4時頃である。だいたい普通の人と6時間くらいずれている。
 
作業が終わったら私は政子の実家で寝て、朝佐良さんの運転する車で恵比寿のマンションに出掛ける。私は特に重要な案件が無い限り信濃町の事務所には出ない。向こうはコスモスに自由にやってもらうためである。
 
(↑ケイは毎日16時間くらい働いている気がする)
 

11月12日(土)にはΛΛテレビの昔話シリーズ第15弾『三方一両損』がUFO主演で放送された。これも落語ネタである(*45).
 
主な出演者
左官の金太郎:藤沢満奈実(2006)
大工の吉五郎:小倉真弓(2006)
江戸町奉行:上中雅美(2006)
金太郎の妻:稲田レナ(2007)
材木問屋:鈴木ひかり(2001)
大家:谷崎潤子(1990)
語り手:谷崎聡子(1993)
 
谷崎潤子はUFOの所属するζζプロの大先輩だが、最近は主として関東ローカルの番組にばかり出ていて、全国放送に出るのは久しぶりである。しかし実力は充分なので大家(おおや)の役を演じてもらった。語り手の谷崎聡子は実妹。最近はだいたい姉妹でセット売りされている。
 
稲田レナはwindfly20のメンバー。ζζプロに演技の出来る適当な中学生タレントが居ないので○○プロから借りた(*41). この番組の制作時期は9月下旬でいつも“便利に使われている”信濃町ガールズが大型時代劇の準備で使えなかった。鈴木ひかりもwindfly20のメンバーで彼女は創設時からのコアメンバー。
 

(*41) windfly20 は名目上のプロデューサーは作曲家の上島雷太、実態上の制作者はローズクォーツ(主として月羽聡と太田恭史)で、チームのまとめ役はColdFly5(主として田倉友利恵と栗原リア)。ギャラに関しては○○プロが受託処理している。だから○○プロの所属タレントではなく取扱いタレントである。追加オーディションの審査は上島がしている。稲田レナは実はFlyグループ解体後に入った“まともな”オーディションを通ったメンバーなので歌も演技も上手い。
 
営業は・・・・
 
誰がやってんの??
 
でも旧Flyグループの中では最も売れているしテレビへの露出も多い。(楽曲がいいからだと思う)。楽曲はサト・ヤス・上島雷太のほかローザ+リリンのマリナ・寺内雛子(丸山アイ)も提供している。ケイナやマリナが引率していることも多い(メンバーからは「変なおばちゃんと変なおねえちゃん」と言われている)
 

左官の金太郎(フーガ)が町を歩いていると、財布が落ちているのに気付く。あたりを見回すが、誰も人が居ない。財布の落とし物なら、自身番(*42) にでも届ければいいなと思い拾い上げる。
 
一応中を確認しようと思い、開けて見てギョッとする。
 
小判が3枚入っていた(*43).
 
「すごっ」
と声をあげた金太郎は自身番に届けなきゃと思っていたことはすっかり忘れて、近くの飲み屋に入るとお酒を飲み始めた。
 

(*42) 自身番というのは、江戸の治安維持のため、あちこちに作られていた番所で現代の交番に近い存在。当初は町の地主自身が詰めていたので自身番と呼んだ。出入口は常に開放しておく決まりで。人がいつでも駆け込めるようにしていた。町奉行所の見廻り同心も立ち寄った。後には“番太”と呼ばれる若い男を常駐させた。町の様々な寄り合いにも使用された。(寄り合いに使ってはいけないという規則はあったがほぼ無視された)
 
(*43) 当時の1両はだいたい現代の16〜18万円くらい。だから3両は50-60万円。1両小判の重さは約18gである。だから小判が3枚入っていると54g。現代の500円玉が7gだからそれが7-8枚入っている重さ。そんなに重くは感じ無かったと思う。寛永通宝だって3-4gだから、寛永通宝が15枚くらいと同じ重さである(小銭ジャラジャラ)。
 

夜遅く酔っ払った金太郎(フーガ)が長屋に帰宅すると、おかみさん(稲田レナ)は渋い顔です。
 
(酔った雰囲気の演技、フーガちゃんうまいとの声)
 
「あんたまた飲んで帰ってきたの?大してお金も無いのに。あんた今日の工賃、飲んでしまったんじゃないよね?」
「金ならあるぞ。ほれ」
と言って金太郎は財布を見せます。
 
見慣れない財布に首をひねる妻ですが、中を見て青ざめます。
 
「あんたとうとう盗みを働いたの?あんたは学がないし稼ぎは悪いけど、正直でいっさい悪い事はしないのが良いところだと思っていたのに。ね、奉行所に行こう。自ら名乗り出れば少しはお奉行様も情けを掛けてくれるよ。私付いてってあげるからさ」
 
「ばか、盗んだんじゃないやい。道に落ちてたから拾っただけだ」
 
と言って金太郎は当時の状況を語ります。
 

「それにしても拾った物は自身番なりどこなりに届けるものだよ。勝手にもらったらネコババだよ。あんたこの財布から幾ら使った?」
「今日は自分の金で飲み屋の代金は払った。俺の財布は空っぽになったけど」
「ああ、まだこの財布に手を付けてなくて良かった」
と妻はホッとします。
 
金太郎も妻に言われるとやはり勝手にもらうのはまずいかなと思い直しました。
 
「だったら今からでも自身番に届けよう。すぐ届けるつもりがうっかりしていました、と言えば理解してもらえるよ。それにこんな大金落とした人は困ってるよ」
「ああ、困ってるかな」
「当たり前じゃん。3両なんてあんたの半年分の給料じゃん」
「もう少しあるぞ」
「やはり給料の半分くらい飲んでるのね」
 

それで2人は一緒に自身番に出掛けます。ちょうど大家さん(谷崎潤子)が居ました。
 
「大家さん。ちょうどいいところへ」
と妻が主として話します。
「今日の夕方、うちの人が道で財布を拾ったのですが、すぐ自身番に届けるつもりが、うっかり忘れてたらしいんですよ。今から届けますので」
と言って妻は財布を大家に渡す。
 
「ああ、落とし物か。分かった。これは男物の財布だな。中に持ち主の手がかりのようなものは無いかな」
と言って開けて見ますと小判が3枚入っているので驚きます。
 
「これは3両も入ってるではないか」
「え!?そんなに入ってたんですか?」
と妻は驚く。
 
(レナちゃん名演技!と視聴者の声)
 
「他には・・・何か書類が入ってるな。“吉五郎様、杉材50貫確かに納品致しました。材木問屋・桐屋”と書いてある。これは大工の棟梁か何かかも知れんな」
と大家さんは言います。
 
「その桐屋さんという材木問屋さんに聞けば落とし主が分かりますかね」
と妻が言います。
 
「そんな気がする。明日訪ねてみよう。お前たちも一緒に来なさい」
「はい」
 

それで翌日、大家さんに連れられて金太郎と妻が桐屋さんに向かいます。大家さんは羽織袴ですが、金太郎と妻は、いい服とか無いので。できるだけツギハギの少ない服を着て付いて行きました。
 
(このドラマはわりと金太郎の服装が重要)
 
桐屋の旦那(鈴木ひかり)は書き付けを見て
「ああ、若尾町の吉五郎さんだね。若いのに大工の棟梁を務めているんだよ、私が案内してやろう」
と言います。
 
「すみません」
 
それで桐屋さんの案内で、大家と金太郎夫妻が吉五郎のところに向かいます。やがて若尾町に着きました。
 

それほど大きくはなくても一応しっかりした家に住んでいるようです。
 
「おーい、吉五郎さんや」
と桐屋が入っていくので、大家たちも続きます。
 
吉五郎(オク)が出てきます。
 
「あんたが財布落としていたってんで拾った人が持ってきてくれたよ」
と桐屋さんが言うと、金太郎は財布を吉五郎の前に差し出しました。
 
「おお、それは済まねえな。どこで落としたかと思っていたよ」
「正確な場所は覚えていませんが、河井町付近で拾いました」
「ああ、だったら屋根瓦の棟梁と打ち合わせしたあと帰り道に落としたんだろうな」
などと吉五郎は言っています。
 
吉五郎は財布の中を改めます。金太郎はドキドキします。吉五郎は中に3両と材木の仕入れの書き付けがあるのを確認してホッとしました。そして金太郎を見ます。
 
吉五郎は思いました。
 
こいつが届けてくれたのか。何かの職人のようだが、あまり儲かってないように見える。貧乏なら拾った金はネコババしたくなるかも知れんが、それをちゃんと届けて落とし主を調べるとか正直者じゃねぇか。気に入った!そういう正直者にはご褒美があってよいものだ。
 

それで吉五郎は書き付けは取ったものの、残りの財布は金太郎の方に押し返してから言います。
 
「この書き付けは無いと困るが、3両は落としてもう諦めていた金(かね)だ。俺は江戸っ子だ。落とした物はスッキリ諦める主義だ。この金(かね)は受け取れねーから、あんたが持って帰ってくれ」
 
みんな驚きますが金太郎も筋の通らない話は受けられません。
 
「そんなこと言われても、俺が受け取る筋合いは無(ね)ー。俺だって江戸っ子だ。意味なく人の金は受け取れねー。金は落としたあんたがちゃんと受け取ってくれ」
 
大家と桐屋は顔を見合わせました。
 
そのあとしばらく吉五郎と金太郎は3両を相手に押しつけようとしますがお互い受け取ることを拒否。話の結論は出ず、この前代未聞の金の“押し付け合い”は奉行所に持ち込まれてしまったのです。
 

江戸町奉行(ユニ)の前に、金太郎夫婦、吉五郎、それに各々の介添人として、大家、桐屋が並んでいます。
 
奉行は状況をまとめた文書を読み上げた上で
 
「それで、吉五郎は落とした金は諦めたのだから、今更受け取れないと言うのだな」
と問う。
「はい、その通りでございます」
と吉五郎(オク)が答える。
 
「一方で金太郎は他人の金をもらう筋合いは無いから、受け取れないと言うのだな」
と奉行(ユニ)は問う。
「はい。全くでございます」
と金太郎(フーガ)は答える。
 
奉行は言った。
「だったら仕方あるまい。この3両は奉行所が没収する、それでよいか」
 
大家や桐屋は結局それしか無いよなあと思いながら聞いています。
 
「はい、俺が受け取るのでなければ問題ありません」
と金太郎も吉五郎も言う。
 
「それでは3両は奉行所が没収する」
と奉行が言い、目で支持するので、役人がその3両を回収した。この3両は奉行の横に置かれた。
 

「しかし金太郎は正直者だな」
「はい、あっしは金も身分も無いけど、正直だけが取り柄です」
 
「吉五郎もキップが良いなあ」
「はい、あっしは昔のことは考えず先のことだけを見て生きてます」
 
「ふたりともアッパレである。奉行から褒美をやろう」
と奉行が言うので、金太郎も吉五郎も顔を見合わせる。
 
「用意しておいた。これへ」
と奥の方に声を掛けると、小判を回収したのとは別の役人2人が出て来て、三方(さんぼう)に載せたお金を、金太郎と吉五郎の前に置きました。
 
「これを・・・頂けるんで?」
「うむ。お前たちへの褒美だ。奉行からの褒美なら受け取れるだろう」
「はい」
と両者答えた。
 
大家と桐屋は成り行きに驚いています。
 
各々の三方の上に載っていたのは小判2枚、つまり2両である。
 

奉行は笑顔で言った。
 
「吉五郎は拾ってもらったお金を金太郎からそのまま受け取っておけば3両得られたのに褒美の2両しか得られない。だから1両損」
 
「金太郎は吉五郎がお金はあんたがもらってくれと言った時にそのままもらっておけば3両得られたのに褒美の2両しか得られない。だから1両損」
 
「そして奉行は、こんな裁判しなければお金を出すこともなかったのに褒美に2両ずつ支出し、問題の3両を没収しても合計1両の損」
 
「これを三方一両損と申す」(*44)
と奉行が言うと
 
「すごーい!」
と法廷にいる全員が感心して、納得してしまった。
 

(*44) 没収した3両は厳密には幕府の雑収入となり、このお金を町奉行ごときが勝手に使って報奨金に利用することは許されない。だから回収した小判と褒美として渡す小判は厳密に区別しなければならない。この点をちゃんと理解してない人が多いように見受けられる。テレビの『大岡越前』で少なくとも筆者が見た回ではこれをきちんと処理していた。
 
このネタは視聴者に受けが良かったようで、テレビの『大岡越前』では何度も繰り返し取り上げられている。
 

帰り道、金太郎は大家に言った。
「この2両は、大家さん預かっておいて頂けませんか」
 
「なんで?」
と妻も大家も驚く。
 
「俺は財布を見た時にはちゃんと自身番に届けなきゃと思ったのに中に3両もあるのを見たら、ついネコババしたい気分になってしまって。飲み屋に行って酒を飲みました。幸いにも小判には手を付ける前に終わりましたが。そして女房に叱られて、それから自身番に持って行ったんです」
 
「ああ、だから届けが遅くなったのか。でもそのことは誰にも言わないよ、この3人だけの秘密にしよう」
 
「ありがとうございます。でも金は魔物です。正直に届けるつもりだったのに大金を見てしまうと目がくらんで自分の物にしたくなって」
 
「うん。ほんとに金は魔物なんだよ。それで変な道に堕ちてしまう人は大勢居る」
 
「だからこれは大家さんに預かっててもらって、俺はこれから酒も断って一所懸命働きます。それで俺がひとかどの者になれたらその時これを返してください。その時はきっと2両くらい見ても平気なようになってると思います」
 
「きっとその頃は2両なんて大金ではなくなってるかもね」
「そうなれるよう頑張ります」
 
語り手「それで心を入れ替えて本当に酒も断ち頑張った金太郎は、仕事もこれまで以上にまじめにやるようになり、5年後には1人前の左官として1人立ちを許されるようになりました。その時、大家さんは2両を返してやりましたが、その頃は金太郎にとって2両は大した金でもなくなっていました。年収も大きくなり、長屋から1軒家に移り住み、金太郎も妻も少しは良い服を着られるようになっていました」
 
映像は1軒家の前に、羽織袴と小袖で立ち、大家さん・吉五郎さんからも祝福されている、金太郎夫妻。
 
めでたし、めでたし。
 
(最後は少し芝浜が混じった)
 

(*45) 有名な落語の演目だが、繰り返し時代劇でも放送されているのでこの話を知る人は多い(UFOは最後に奉行が『三方一両損』と言うところで「へー」と感心していた)。
 
元々は『大岡政談』にあったものを落語化したものであるが、実は大岡越前守忠相が実際におこなった裁きではないとされる。この話は実は類話が板倉周防守重宗の名裁きを収集した『板倉政要』にも収録されていることが知られている。
 
この板倉裁きでは金3分を落とし主・拾い主ともに受け取らないので、板倉がそれと同額の3分をポケットマネーから出して両者に3分ずつ渡したら納得したというもの。金額が3両の1/4の3分になっているが、両者は満額受け取り板倉はただ出すだけで全然“三方一両損”になっていない。
 
(1両=4分=16朱)
 
この『板倉政要』も実際に板倉周防守が裁いた記録を集めたものではなく中国原典など色々なネタを集めたものと言われるので、元々が誰かの創作である可能性がある。その時、『板倉政要』に収録された物語の作者はいまいちひねりが悪かったもののそれを改作した『大岡政談』収録物語の作者は巧妙な数字操作で思わず皆が感心するようなストーリーに創り上げた。
 

板倉周防守は大岡越前守と並ぶ江戸時代の名裁判官と言われる。大岡が江戸中期の江戸町奉行として活躍したのに対して、板倉は江戸時代初期の京都所司代として活躍した。当時はまだ京都奉行が置かれておらず、所司代が町民の民事裁判も執り行っていた。
 
三方一両損はよく江戸っ子気質を表す話とされるが実は元は京都の町人気質を背景にしていたのかもしれない。
 

※板倉3代
 
板倉勝重(1545-1624) は関ヶ原以前の1590-1600年に第4代江戸町奉行を務め、関ヶ原で家康が豊臣を破った後は1601-1619に第2代京都所司代を務めた。その後を息子の重宗が継いでいるが、京都所司代の親子継承は唯一の例。
 
板倉重宗(周防守)(1586-1657) 勝重の子。第3代京都所司代。在職1619-1654。35年も所司代を務め、京都市民の信頼も幕府の信頼も篤かった。正しい裁きをするのに大事なことは決して賄賂を受け取らないことと言い、清廉を貫いた。
 
裁判の際にしばしば自分の前に障子を立て、本人たちの顔を見なかったという。人相の悪い奴がきっと悪い奴だみたいな予断を作らないためである。彼は罪人を処刑する場合、最後に本人と直接会って弁明を聞き、それをひとつひとつ確認し、全てクリアになるまでは処刑しなかったという。
 
彼の甥の板倉重矩も後に第5代京都所司代になっており、『板倉政要』は板倉3代の裁きが収録されているものの、ほとんどが2代目・板倉重宗のものと思われる。ただ前述のように実際は創作が多い。
 

UFOが歌う『三方一両損』のCDは11月9日(水)に発売された。水森ビーナと同じ日になったもののファンクラブの動きがよく僅差でランキング1位を確保できた。
 

11月16日(水).
 
ラピスラズリの14枚目のシングルが発売された。
 
2022.11.16 ラピスラズリ 14th 『秘密指令EX/敵はB地点にあり』
 
『夜川を渡る』(竹本和恵作詞・阿木結紀作曲)
『敵はB地点にあり』(水野歌絵作詞・上杉光世作曲)
『秘密指令EX』(松本葉子作詞・松本花子作曲)
『占いラララ』(花園光紀作詞作曲)
 
前2本は大型時代劇『ザ・天下』の中で使用される予定の曲である。後ろ2本は11月から12月まで(状況によっては3月まで)放送されることになった◇◇テレビの『占い女子高生・みつる2』主題歌・エンディングである。
 
(11/7の放送ではエンディング曲まで間に合わずラピスラズリの『Que suis je?』が使用された)
 

花ちゃんは「部屋の移動するよ」と発表した。女子寮の大規模な部屋移動は6月におこなって以来である。前回は夏の昇格テスト・ビデオガールコンテストに向けてのものだったが、今回は年末の昇格テストに向けてのものである。主として下層の階が移動対象になった。
 
第1弾は11月19日(土)に行われた。
 
大仙イリヤ A601->C206
石条ぼたん A602->C207
山本コリン A603->C208
 
広瀬みづほ A302->C101
月城たみよ A203->C102
川泉スピン A208->C104
入瀬ホルン A206->C105
麻生ルミナ A201->C106
 
鈴原さくら A606->A706
長浜夢夜 A607->A707
 
あけぼのテレビキャスターの仮免の子たちを正式免許の子たちの隣に移動した。
 
また姉妹組を新館に移動させた。これは2人で住むのに少し広い部屋を使ってもらうためである。
 
(旧館は6畳サイズ洋部屋の1K、新館は8畳サイズ洋部屋の1DK)
 
それでC1階には若い姉妹組が揃うことになる。C103を開けたのは月城姉妹は3人になる可能性があったからである。また姉妹ではないが、入瀬ホルンと仲の良い麻生ルミナを隣にした。最近入瀬姉妹+ルミナという仕事がわりとある。
 
またA6階を空けるため、元男の娘組の鈴原・長浜に1つ上の階に移ってもらった。
 
なお月城すずみは11月22日朝福岡から女子寮に到着し、予定通りC103に入った。
 

女子寮の大移動第2弾は11月23日(祝)に行われた。
 
「世間は勤労感謝の日ですよ」
「世間が休む時が我々の稼ぎ時だよ」
「そうですね!」
 
この日は土曜に空けたA6を構成する。
 
春野わかな A301->A601
酒田レモン A303->A602
豊科リエナ A503->A603
箱崎マイコ A504->A604
花畑バニラ A304->A605
米田ショコラ A305->A606
南里くりこ A306->A607
西浜ももこ A307->A608
 
大きく期待されていたものの今ひとつ伸び悩んでいる酒田レモンはこの位置に置いた。“まろみjunior”仲間の春野わかなと隣にして奮起を促す。
 

そして女子寮の大移動第3弾(最終)は11月26日(土)に行われた。
 
A2に取り残されたメンツをA4に移動した。
 
夏江フローラ A202->A401
筒木サリナ A204->A402
水巻イビザ A205->A403
山口ヨルカ A207->A404
 
彼女らは一時期のCAT SISTERSと同様、サロンの常連である。ももくりもよく居る。ロンド・ひまわりなどとおしゃべりしながら、おやつを食べている。まあ、のんびりタレント活動を楽しむのもよいだろう。
 
今年入団組で頭角を現してきたのは、
 
広瀬みづほ・月城たみよ・川泉姉妹(姉弟だっけ?)
 
で、北陸組(入瀬姉妹+ルミナ)とツイストクリーム(バニショコ)がそれに続いている状況である。
 

しかしこの大移動で次のオーディション合格者を迎える体制は整った。
 
コスモスはひとり悩んでいた。
「またたくさん芸名を考えないといけない・・・・」
 
作者はひとり悩んでいた。
「またたくさん本名を考えないといけない・・・・」
 

本棟 高崎一家 川内峰花
C5 白鳥 薬王 姫路 花咲 −− 品川 坂田 悠木 常滑
C4 三田 恋珠 花貝 斎藤 原町 石川 安原 桜井 甲斐姉妹
C3 七尾 南田 山口 高島 佐藤 立花 太田 中村 水谷姉妹
C2 鈴鹿 夕波 古屋 松島 鹿野 大仙 石条 山本 直江姉妹
C1 広瀬 月城 月城 川泉 入瀬 麻生 城ル 上野
A8 Marine Coat / Flower Sunshine
A7 今川 左倉 大空 −− −− 鈴原 長浜
A6 春野 酒田 豊科 箱崎 花畑 米田 南里 西浜
A5 美崎 宮地 知多
A4 夏江 筒木 水巻 山口
A3 (空)
A2 (空)
男4 夢島 七石 鈴原
男5 西宮 三陸 山鹿
男3 川泉 早幡 花園
男2 三国 立山
 
C1階の空室は3人目のカウンセラーのために空けてある、新館はC506が空いている他は“飽和”状態である(他にC401の三田雪代が退去予定)。次回の移動ではC6階が使われるのは確実である。
 

11月26日(土)、ΛΛテレビ昔話シリーズの第16弾『笠地蔵』が藤原中臣さんの主演!!で放送された。
 
「嘘!?ぼくが主演なの!??」
と指名された藤原さんは超絶驚いていた。中学を出て役者になってから56年、ひたすら、端役・斬られ役・脇役を演じてきた役者人生初の主役である!!
 
しかし彼のような超ベテランが応じてくれたのも、このシリーズがアクアとかケンネルとか高額ギャラの俳優を登場させているからである。
 
「ぼくのギャラは犬次郎(ケンネル)君より低くしてよ」
「いえ、それではケンネルさんからクレームが来ます」
ということでギャラもアクアに次ぐ高額ギャラとなった。
 
「この物語はおじいさんがひとりで映っているところが画面の半分を占めているんですよ。そのひとりだけ映っている状況に耐えられる役者さんというのは物凄く少ないんです」
 
と彼との出演交渉をした 鳥山編成局長(鳥山プロデューサーの叔父)は言った。
 
「確かにひとりで場を持たせるというのは結構難しい」
と藤原さんも言い、出演要請に応じてくれたのである。
 

そして藤原さんが出るというので、おばあさん役には入江光江さんが出てくれることになった。なんと竹取物語のコンビである。藤原さんが主演するということで彼が尊敬する柳原蛍蝶の孫娘!である今井葉月も出演する。
 
また藤原・入江が出てくれることが決まった段階でこのシリーズの第2サブ監督を務めている西島さんが「私には荷が重い」と言ったので第1サブ監督の沢口さんが監督を務めることになった。沢口さんは前回の三方一両損と連続である。
 
なんか凄いドラマになってしまった。
 
笠地蔵なのに!小学1年生の学芸会でやるような演目なのに!!
 
先週次回予告で「次回は藤原中臣さん主演・笠地蔵」と予告された時も「嘘!?」「なんか凄い芸術作品になってるのでは」「いや藤原さんならきっと笑わせてくれる」など様々な反響が起きていた。
 

語り手「昔あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。貧乏でしたが、ふたりで少しばかりの田んぼや畑を耕して暮らしていました」
 
2人が田んぼを耕しているところ、田植えをしている所、また畑に種を撒いている所などが映ります。疲れたような表情を見せるおじいさんをカメラは映す。
 
「今年はあまり天候がよくないなあ」
「無事お米ができてくれればいいんですけどね」
 

そろそろお米ができようかという時、田んぼにカラス(常滑舞音)がやってきます。でもおじいさんが来ると逃げて行きます。おじいさんは田んぼにかかしを立てました。顔がアクアに似ている気がするのはきっと気のせい。するとカラスはそれを怖がって近寄って来ません。
 
しかし、かかしは“動かない”のでやがてカラスはおそるおそる近づいて来るとかかしに、ちょっと触ったりしています。カラスが触ってもかかしは何も反応しません。どうもこいつは大丈夫のようだと思い、お米を食べ始めます。そこにおじいさんが来るとカラスは逃げ出します。
 
挿入歌:常滑舞音『七つの子』
 
おじいさんは田んぼのそばに“ししおどし”を設置しました。すると定期的に音がするので、カラスは近くまで来ていてもその音に驚いて逃げてしまいます。
 
しかしどうも音がするだけで何も起きないようだと思うと、カラスはまたやってきます。おじいさんが来ると逃げます。
 
おじいさんは田んぼにでっかい目玉を設置しました。これを田んぼの中に立てた竹の先に紐で結びつけておきます。
 
大きな目玉は怖そうです。しかも動いています。風に吹かれてビューっとか音がします。カラスもおそるおそる近づいて行ったところで突然目玉がこちらを向いたりするので、それで驚いて逃げて行きます。
 
このおじいさんとカラスの攻防が5分近く続き、なかなか見応えのある展開だったようである。舞音のカラスがいたにも悪戯っぽい雰囲気で藤原さんは真面目な顔なのでその対比が結構子供には受けたようである。
 
この場面最後に常滑舞音のカラスが7匹の子供(ロボット)に餌をあげているシーンが映り「可愛い!」という声。
 

やがて秋が来て、おじいさん・おばあさんは稲刈りをし、また大根などの野菜も収穫しました。たくさん出来たお米も年貢を納めると、ほんの少しになります。
 
年貢を持って行くお侍:坂田由里
 
「残ったお米の中でこの分は来年の稲を育てるために取っておかないといけない」
「私たちが食べられるのは僅かですね」
「まあ野菜を食べてようよ」
「はい」
 
おじいさんは田畑の耕作が終わった後は山に入りたくさん木を切ってきました。冬場の囲炉裏(いろり)の燃料にするためです(*46).
 
「もっとたくさん集めたいが、今年は冬が来るのが早い」
「夏もあまり暑くなくて作物の出来が悪かったですしね」
「節約して使うしか無いかな」
「布団かぶってればいいですよ」
 
一方おばあさんは、おじいさんが山に行っている間に、菅(すげ)を採ってきて菅笠(すげかさ)を編んでいました。
 
(*46) 昔農村では、年寄りだけの家とか、女子供だけの家のみ、薪を取るのに道の傍の木から切ってよいことになっていた。昔はそういう共生社会だった。子供も村のみんなで育てていたし、子供の出来ない夫婦には誰かが代わりに種付けしてあげて(こらこら)。
 

語り手「師走に入って満月頃、つまり12月16日頃、遠くに住んでいる孫娘がたくさん荷物を抱えてやってきました」
 
背中にしょってきた荷物を降ろします。
 
「今年は作物の出来が悪かったところが多いみたいだし、おじいさん・おばあさん困ってんじゃないかと、うちの人が言うから少し持って来た」
と孫娘(今井葉月)は言います。
 
「すまないねぇ。あんたの所は大丈夫なの?」
「うちは旦那も若いし、夏は漁もするし、庄屋さんとこの田畑の手伝いとか炭焼きの手伝いもしてお給金もらってるから何とかなってるよ」
「それは良かった」
 
「私あまり力(ちから)無いから、持てる範囲で持って来た。これ干し魚と昆布と、大豆と麦とそれにお正月のお餅も持って来たよ」
 
「干し魚とか素晴らしい」
「まあ基本旦那は漁師だからね」
 
孫娘は床の間に小さな餅を2個重ねて置きました。
 
「でっかいお餅のほうが正月神様は嬉しがるかも知れないけど、おじいさんたちには始末がおえないだろうと思って」
 
「うん。でかい餅は、わしには切れん」
「だよねー」
 
「じゃまた良いお年を」
「お前も元気で」
 
それで孫娘は帰っていきました。
 

唐突に始まる猫(大内小猫)とネズミ(常滑舞音)の競争!ネズミの後ろからネコがスタートする。水谷姉妹が「用意ドン!」と言ってふたりが走り始める。途中ネズミはネコに捕まりそうになるが何とか逃げて、セレンとクロムが持つゴールテープに先に飛び込んだ。
 
「何かマジで汗掻いた」
「いい運動したね」
 
(このシーンは「真面目な場面が続いてお子様は飽きるから少しブレイク入れよう」と庄屋役の田船智史が提案し、組み込まれた)
 

とうとう大晦日(おおみそか)。おじいさんは言いました。
 
「今日はわりと天気が良いみたいだ。町まで行って笠を売ってくるよ」
「でも夜には雪が降るかも知れませんよ」
「暗くなる前に帰るさ」
 
おじいさんは笠を5つずつ山にまとめると、10山ほどの笠をしょい(*47), 自身もいつも使っている少し破れた菅笠をかぶり、町に出ました。
 
(*47) 笠の重さはサイズにもよるが200-250g程度と思われる。5つまとめて1-1.25kg, 10山で10-13kg程度。若い頃農作業で鍛えていた老人男性が持って遠くの町まで行く場合、そのくらいが適当だろう。
 
藤原さんはこの13kgほどの笠の荷物を持ったものの
「これは50m歩くのが限界」
と言った。それで50m歩いてもらって!それを撮影した!
 
「年寄りをこき使う番組だなあ」
と笑っていたが、スタッフへの信頼感あっての軽口である。
 
でも荷物をしょって歩いているおじいさんが時折疲れた表情を見せて休んだりするのが、またいい絵になっていた。
 

年の瀬の市(いち)では色々な人が色々なものを売っていました。おじいさんも市の参加料を払って笠を売り始めます。
 
挿入歌:常滑舞音『菅原の市(鳥追版)』イギリス古謡・未来居住超訳・若山鶴風編曲(*49)
 
「ええ、笠〜笠はいらんかね?」
 
カメラは市の中の様子を映す。お正月なので餅を売る人、大根や菜っ葉など色々な野菜を売る人、魚を売る人、注連飾りの類いを売る人、クリスマスケーキほ売る人?ガンプラを売る人!?など様々です。(*48)
 
お正月なので笠を新調しようという人もわりと居て笠は結構売れました。1山、2山、と売れていき、夕方近く残り1山になります。
 
市の管理人:山本コリン(2005)
笠を買った人:本田覚(1980), 山本明(1978). 月城たみよ(2008)
市に居る人:解決ゾローズ
 
「あと1山だ。あと少し頑張ろう」
とおじいさんは思いました。おばあさんには暗くなる前に帰ると言ったもののどうせなら全部完売したい気分です。
 

(*48) この市のセットを作るのに1日掛けている。主演が大物だけに予算も豊富。
 
(*49) 若山鶴風先生に和楽器に編曲してもらった。舞音も民謡っぽく唄っている。民謡っぽく唄うとまるで別の歌。『スカーバラ・フェア』であることに気付かない人も最初大勢居た。「なんかいい歌ね〜愛知民謡だっけ?」などと言われていた。(舞音は一部尾張方言(*50)を混ぜている)
 
ちなみに“鳥追い”というのは、鳥追笠とよばれる半分折った傘をかぶり、正月に三味線と胡弓で町を流していた女芸人である。富山八尾(やつお)の風の盆の踊り手たちがこれに近いタイプの笠をかぶっている。
 
伴奏は川泉パフェの三味線、篠崎希の胡弓、花ちゃんの和太鼓、月城たみよの篠笛でしている。若山鶴風はわざわざ東京に出て来てこの子たちの指導をしてくれた。小牧から東京ヘリポートへエキュレイユ2で運んだ。←きっと東京に来たかった。
 
(性別の怪しい人が多い気がするのはきっと気のせい)
 
鶴風先生は希を一目見て「あんた琵琶が弾ける顔をしてる」と言うので(顔で弾くのか?)弾いてみせると物凄く上手い!
 
「あんた名前をあげるよ」
「すみません。もう持ってます」
「そっかー!」
と悔しがっていた。
 
(*50) 舞音の出身地・知多半島の言葉と名古屋言葉は親和性があり、まとめて尾張方言と呼ばれる(ただし知多弁では名古屋弁に特徴的なæの音を使用しない)。大きく見ると岐阜愛知方言の一部。それで実はケイ(江南市出身)と舞音は方言で話が通じる!
 

おじいさんが持って来た笠は結構売れたのですが、最後の1山がどうしても売れませんでした。
 
「仕方無い。帰るか」
 
市(いち)も閉まるのでおじいさんは売れ残りの笠1山(5枚)を持ち、自分の笠をかぶって町を出ました。でも9山(45個)売れて180文の売上です。市の出店料を引いても164文(約4100円)の儲け。おじいさんはこれで春までに食べ物や燃料が足りなくなっても何とかしのげるかなと思いました。
 
おじいさんが帰る内に雪が降ってきます。
 
「ああ、とうとう雪になったか」
などと呟きながらも歩いて行きますが、雪はかなり本降りになって来ます。
 
「こらあかん。早く帰らねば。おばあさんも心配しているだろうし」
 
もちろん昔は携帯電話も無いので連絡などできません!
 

おじいさんは真っ暗な中、星明かりと雪明かりだけを頼りに歩いて行きます。
 
(昔は太陰太陽暦なので元旦が新月(朔)である。その前後は月の出ない闇夜となる)
 
やがておじいさんの行く手に何か白いものがポワッと見えてきます。
 
「何だっけ?」
と思ったらそれは村境のところにあるお地蔵様でした。6体並んでいます(*51).雪をかぶって白く見えていたようです。
 
おじいさんはお地蔵様の前で手を合わせました。
 
「今年も神様仏様のお陰で何とか生き延びられました。来年もよろしくお願いします」
とお祈りします。
 
それで行こうとするのですが。ふと思いました。
 
「お地蔵様もこの雪の降る中、何もかぶらずに寒くないですか?」
「そうだ。売れ残りで申し訳無いですが、この笠でも」
 
それでおじいさんはまず最初のお地蔵さんに積もっている雪を手ぬぐいを使ってはたいてあげました。そしてお地蔵さんに売れ残りの笠を1つ掛けてあげました。その瞬間、お地蔵さんが、石の無表情な地蔵の顔から、常滑舞音の顔に変わります。
 

「なんかムカツク気がするが、お地蔵さんはみんなありがたいもの」
 
挿入歌:常滑舞音『お地蔵さんに笠をあげましょう』
 
それで、おじいさんは2番目のお地蔵さんも、雪を払ってあげてから笠をかぶせました。三陸セレンの顔に変わります。
 
こうしておじいさんは六体のお地蔵さんの雪を払うと笠をかぶせてあげました。でも最後のお地蔵さんはもう売り物の笠が無くなってしまったので
 
「使い古しで申し訳無いが、少し破れた爺の笠でもよければ」
と言って自分の笠をかぶせました。
 
それで笠をかぶせられた地蔵は次の人の顔に変わりました。
 
常滑舞音、三陸セレン、山鹿クロム、水谷康恵、水谷雪花、大内小猫!
 
おじいさんは笠が無くなってしまったので手ぬぐいを頭に掛け、お地蔵さんたちに「よいお年を」と言って村への道を急ぎました。
 

(*51) 一般にお地蔵さんは6体並べて作られることが多い。六道(りくどう)の衆生(しゅうじょう)を救済するからだと言われる。
 
「笠地蔵」の話は全国に類話があり、地蔵の数も5〜8体と色々ある。しかし6体地蔵で売れ残りの5枚の笠+自分の笠をあげたというパターンが主流と思われる。
 

おじいさんが
「ただいま」
と言って帰って来ると、お婆さんは
「お帰りなさい。寒かったでしょう。囲炉裏(いろり)にあたって」
と言います。
 
「ただいま。ごめんね、遅くなって」
「でも笠は全部売れたんですね。あら?おじいさんの笠は?」
「いやそれがね」
と言って、おじいさんは村の境の所のお地蔵さんがいかにも寒そうだからちょうど売れ残っていた5枚の笠をあげて、のこり1体には自分の笠をあげたのだということを説明します。
 
「それはよいことをしましたね」
とおばあさんは、おじいさんの行為を褒めてくれました。
 
「いやほんとうに寒そうだっからね」
「ささ、先日もらった干し魚でも焼きましょう。お正月ですし」
「それもいいな」
と言ってお婆さんは干し魚を持ってくると、1枚囲炉裏の端(はた)に立てました。もちろん1匹を2人で分けて食べるつもりです。
 

お婆さんは、囲炉裏に掛かっている鍋から大根の汁をお椀に盛っておじいさんに勧めます。
 
「ありがとう、ありがとう。これは身体があったまる」
と言っておじいさんは美味しそうに大根汁を食べています。
 
やがて魚が焼けるので2人で分けて食べます。
 
そしておじいさんが一息ついたところで、おばあさんは囲炉裏の燃えている薪木に灰をかぶせて種火の状態にします。それで家の中も暗くなったので、ふたりは布団の中に入ってやすみました。
 
ここに語り手の麻生ルミナが出てフリップボードを提示するとともに読み上げて説明します。
 
「昔の田舎の家には特別に照明などなかったので囲炉裏の火が唯一の明かりでした。囲炉裏の火に灰をかぶせて種火状態にすると家の中は真っ暗になります」
 

明け方、何やら音がするのでおじいさん・おばあさんは起き上がって外に出てみました。するとそこには6人のお地蔵さんがいて、荷車を引いてきて何やら俵をたくさん家の庭に積み上げました。
 
おじいさんもおばあさんも呆気にとられてそれを見ていました。
 
挿入歌:常滑舞音feat.大内小猫『俵をよっこいしょ』
 
「じゃね、良いお年を」
と見覚えのある少し破れた笠をかぶったお地蔵さん(大内小猫)が言うと、お地蔵さんたちは空の荷車を持って帰って行きました。
 
おじいさんたちが積み上げられたものを見ると、米俵が15俵、炭俵が10俵、他に野菜や干し魚などもたくさん置いてありました。更には小判の入った箱までありました。
 
「これはどうしたことか」
「朝になったら庄屋さんに報告しよう」
 

それでおじいさんが朝になってから庄屋さん(田船智史:友情出演)に届けます。
 
「それはまた不思議なことが」
と庄屋さんも戸惑い気味です。
 
庄屋さんはまず何人か手分けして村中の家々に米や炭、また小判などが無くなったりしてないか調べさせました。しかしどこにも盗まれた家はありませんでした。また雪の上の荷車の車輪の跡を追っていくと、村境のお地蔵さんのところまで到達しました。お地蔵さんたちはおじいさんの言うように笠をかぶっていますが、6番目のお地蔵さんは少し破れた笠をかぶっていました。
 
そして何よりもおじいさんもおばあさんも貧乏ではあっても人を騙したりしたこともなく村人から信頼されていました(これ凄く大事)。第1、こんな重い俵をおじいさんたちが運べるとも思えません。
 
それで庄屋さんはこの米俵や炭俵は、お地蔵さんが笠のお礼に、おじいさんにくれたものであると認定してくれました。
 

でもおじいさんは言いました。
「お地蔵さんがくれたものを私たちが独り占めしては申し訳無いです。これは村中で分けましょうよ」
「いいのか?」
 
実際おじいさんとおばあさんだけでは、米1俵(約60kg)食べるのにも1年掛かります。
 
それで庄屋さんが誰に何をいくら分けるかというのを決めて、公平に配りました。この村は今年は作物のできが悪かったので冬を越すのが厳しいぞと覚悟していた家も多数あったのですが、お地蔵さんの贈り物のお陰で、みんな助かりました。
 
主題歌:常滑舞音『幸せ運ぶ笠地蔵』
 
それで村人たちはおじいさん・おばあさんにとっても感謝し、おじいさんたちがあまり働けなくなってからも農作業の間の赤ん坊の世話を頼んだり、笠網みの手伝いなどもしてもらって食べ物をもらうような形で色々支援してくれました。それで2人は安心して老後を暮らせたのです。
 
めでたし、めでたし。
 
また村の境のお地蔵様には毎年新しい笠がかぶせられるようになったそうです。
 

主な出演
 
おじいさん:藤原中臣(1950)
おばあさん:入江光江(1960)
孫娘:今井葉月(2002)
カラス:常滑舞音(2005)
年貢を持って行くお侍:坂田由里(2005)
庄屋さん:田船智史(1981) 友情出演
市の管理人:山本コリン(2005)
笠を買った人:本田覚(1980), 山本明(1978). 月城たみよ(2008)
市に居る人・村人:解決ゾローズ
お地蔵さん:常滑舞音(2005)、三陸セレン(2007)、山鹿クロム(2007)、水谷康恵(2006)、水谷雪花(2007)、大内小猫(2007)
 
語り手:麻生ルミナ(2008)
歌:常滑舞音withスイスイ
 

このドラマの主題歌は常滑舞音が歌って11月23日に発売された。
 
2022.11.23 常滑舞音18th『笠地蔵』
『七つの子』野口雨情作詞・本居長世作曲
『菅原の市(鳥追版)』イギリス古謡・未来居住超訳・若山鶴風編曲
『お地蔵さんに笠をあげましょう』未来居住作詞・福沢聖子作曲
『俵をよっこいしょ』feat.大内小猫 未来居住作詞・福沢聖子作曲
『幸せ運ぶ笠地蔵』琴沢幸穂作詞作曲
『雪の朝』大宮万葉作詞作曲(スクーターCM)
 
 
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【夏の日の想い出・アルバムの続き】(4)