【夏の日の想い出・郷愁】(5)

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12月1日(金)、アクア主演の映画『キャッツアイ−華麗なる賭け』が公開された。政子はアクアが舞台挨拶をする予定の映画館の予約を押さえていて、この日の夕方からその映画館に出かけて行った。
 
(アクアは学生なので舞台挨拶は学校が終わった後、夕方からである。フェイやヒロシ、丸山アイ、大林亮平と本騨真樹、中村監督などは朝から舞台挨拶に回っている。アクアは12月2,3日は朝から夕方まで舞台挨拶に回る)
 
先月の試写会の時とは多少のシーン変更が行われていたようである。どこどこが試写会の時はこうだったけど、公開版ではこうなったとか、試写会の時に少し流れが悪いなと思った所が直されていた(多分撮り直した)と、詳しく私に話してくれた。
 
アクアは今年春から秋にかけて放送された『ときめき病院物語』でも男の子の佐斗志役で男声を使っていたのだが、多くのファンは例によってボイスチェンジャーを使っているのだろうと思っていたようだ。しかしこの映画の舞台挨拶で、アクアはこの映画では内海刑事役は生の声で演じていることを話し、一部観客から悲鳴が上がっていた。
 
「これ発声法なんですよ。こうやって男の子の声を出して・・・こうやって自分の地声で出すと女の子っぽい声になります」
 
とアクアは語った。
 

ネットでは「とうとうアクアは声変わりしたのでは?」という書き込みがあふれていた。
 
「さすがにもう声変わりが来ないのはおかしいと思っていた」
「16歳でまだ声変わりしてないというのはどう考えても変だもん」
 
この問題について、結局アクアは12月4日、夕方のテレビ番組に緊急生出演して実際の声変わり問題について話した。
 
「お医者さんの話では、僕の睾丸は少しずつ大きくなってきているので、恐らく数年以内には声変わりは起きるだろうと言われています」
 
とアクアは女の子のような普段の声で話す。
 
「ではまだ声変わりは起きてないんですか?」
「そうなんです。こちらは発声法で出している男の子っぽい声です」
 
と言って、映画の中で出していた男声っぽい声も出してみせた。
 
「喉の奥の方を強く締めるような感じで出すんですよ」
と普通の声に戻して話す。
 
「だから実は3分程度以上は話せないんですよね。撮影の時も長い場面は分割して撮影してもらったんです」
 
テレビ局はアクアの高校の同級生にも取材していた。顔は映していないがC学園の女子制服が映っている。
 
「うん。龍ちゃんはふだんふつうに女の子っぽい声で話しているよ」
「だからみんな『男の子』として意識してないもんね」
「やはり男の子みたいな声で話されると、私たちも引くかも知れないけど」
「喉仏とかも無いみたいだし、まだ声変わりしてないんだと思いますよ」
 
と同級生たちの声であった。
 
番組ではアクアの同級生である松梨詩恩にまで取材していた。
 
「普段学校では声変わり前のボーイソプラノで話してますよ」
と最初に《声変わり疑惑》を否定する。
 
「男の子っぽい声を出すのは去年だいぶ練習したらしいです。それでも高校に入って来た頃は20-30秒しか維持できなかったんですよね。でもその声で『ときめき病院物語』の声を出して、アクアが男声を出せるようになったので、撮影が随分楽になったらしいですよ」
 
「学校では男の子の声は全然使わないんですか?」
 
「全く使ってないですね。何度か学校から放送局への移動が一緒になったんですけど、その移動の車の中で練習してました。5月頃、何かうまい出し方を見つけたみたいで、それ以降3分くらい維持できるようになったみたいですね。でも男の子の声で話すのは物凄く疲れるみたいです」
 
この詩恩の説明で、アクアの男声が特殊な発声法で出しているものであること、まだ練習途上らしいことが明快になった。
 

ネットの声。
 
「良かったぁ、まだ声変わりしてなくて」
「アクア様が声変わりしたら、世界の損失」
「やはり絶対に声変わりしないように去勢を」
「いっそのこと女の子に改造を」
「女になってくれたら、俺の嫁にしたい」
 
といつもながらネットの意見は暴走していた。
 
やや冷ややかな意見もある。
 
「アクアは夏に出た写真集見ても明らかに女の子のボディライン。脂肪も女の子っぽい付き方してるし。どう考えても女性ホルモンやってる。でも本人の男性的発達がもう女性ホルモンで押さえきれなくなって、声変わりの兆候が出てきたのでは?それで男声も出るようになったんだと思う」
 
「発声法で男声が出るようになった、ということにしておいて実は元の女の子みたいな声の方が発声法だったりして」
 
「しかし結果的に多分20歳くらいまでは女の子の声で通すつもりなのでは?」
「アクアは恐らくは実質両声類になっていく気がする」
「あいつ多分20代の内くらいまでは女装を随分やらされる気がする。その時は女の声を使って、普通の男役の時は男の声と使い分けるつもりなんだろうな」
 
最終的には似たような所に辿り着く。
 
「しかしずっと女の声も出るんなら、男でもいいから嫁に欲しい」
「日常的に女の服を着ていてくれるんなら、付いてても構わないから結婚したい」
 

12月2日(土)の午後、青島リンナと百道大輔は各々の事務所との連名で報道機関にFAXを送り、同日正午ジャストに婚姻届を市役所に提出したことを発表した。青島リンナのブログに、リンナがかなり大粒のダイヤのプラチナリングをつけて大輔と並んで微笑んでいる写真が載っていた。
 
なお挙式・披露宴は行わないらしい。
 
ふたりが交際しているような話は全く聞いていなかったので、私はびっくりした。KARIONのツアーの話でわざわざ郷愁村まで来てくれた畠山社長も
 
「実は僕もびっくりした」
 
などと言っていた。青島リンナの事務所というのはつまり∴∴ミュージックである!
 
「事務所にはいつお話があったんですか?」
「先月の初めくらいだったよ。自分たちで発表したい、結婚式は挙げないということだったから、それは任せると言った」
 
「じゃ、ちゃんと話は通していたんですね」
「うん。それはやはり大輔君はきちんとした性格みたいだから。でも結婚式をあげると、お兄さんが来て荒らしたりしないかというのを懸念したのもあって結婚式は挙げないことにしたみたいだね。まあ元々リンナちゃんもそういう仰々しいことが好きではないみたいだし」
 
「ああ」
と私は嘆き声を上げた。
 
「困ったお兄さんを持つと大変だね」
と鷹野さんが同情するように言う。
 

百道大輔の兄、百道良輔は素行の悪さで知られる。過去に多数の女性タレントと浮き名を流し、そのために仕事を降ろされたり多額の賠償金を課せられた人もいる。典型的な「下げチン」として有名だが、それでも彼と付き合おうとする女性がいるのが、私は不思議でならない。
 
ローズ+リリーがデビューした時にも唐突に自分はマリ・ケイと一緒に寝たとわざわざ記者会見を開いて言ったものの、どうも誰か(*1)に脅されたようで、会見の途中で「ごめん。今の冗談」などと言って会見場から逃亡してしまった。
 
(*1)この時良輔に会見をやめさせたのが良輔の元恋人であった須藤美智子であったことを私は随分後に知った。当時須藤さんは謹慎中で、表には出てこられない身であった。
 
しかしその「ローズ+リリー乱交疑惑」を完全に否定するのには苦労し、政子は「処女証明書」、私は「男性器存在証明書」をお医者さんに書いてもらい、マスコミの人たちに「公開しない」という条件で提示して、やっと納得してもらった。
 
良輔は現在、メジャーどころかインディーズのレコード会社でも彼を相手にしないので、自主制作でCDを作り、通販しているが、それには固定ファンがいるようで年間数千枚売れているという話である。それでも売上げはせいぜい年間100万円程度と思われ、彼がどうやって暮らしているのかは謎である。彼の生活費を弟の大輔が出しているのでは?と随分言われているが、大輔は否定している。
 
「兄のためを思うからこそお金を渡しません」
と彼は言っていた。
 

ローズ+リリーの制作は演奏者のスケジュールの問題で、平日組と休日組に分けて進めたのだが、11月中は平日には『Four Seasons』の制作を進め、休日に『郷愁』をしていた。そして12月に入ると平日組・休日組ともに『郷愁』の制作に入った。
 
11月から12月上旬に休日組で制作したのは下記である。
 
11/03-05,10(祝土日金) 『トースターとラジカセ』(Sweet Vanillas)11/10-12,17(金土日金) 『靴箱のラブレター』(青葉)
11/17-19,23(金土日祝) 『セーラー服の日々』(七星)
11/23-26, 12/2(祝金土日土) 『携帯の無かった頃』(実は七星)
12/2-3,8(土日金)『お嫁さんにしてね』(実は千里)
 
休日組での収録は、金曜日に大まかに演奏して調整した上で、土日の2日間で集中して作り込むものの、一週間の熟成期間を置いて翌週の金曜日に少し調整するというのがだいたいのパターンになっていった。
 
「やはり途中で少し時間を置くのがいいみたい」
「うん。その間に頭の中でこなれていくんだよね」
 
なお若干のアレンジ変更をして、休日組で演奏する曲からは和楽器をほぼ外して、和楽器を本格的に使う曲は平日組の方に集めた。これは演奏者の都合もある。
 

『トースターとラジカセ』はビッグバンド風のアレンジにしており、渡部賢一グランドオーケストラの管楽器セクションのメンバーに協力を求めて収録した。グランドオーケストラの人たちは学校の先生や会社員などで平日は稼働できないのだが、休日なら動けるのでやってきてくれて、演奏をした後、渡した食券で《ムーラン・郷愁村店》で、牛丼なり天丼なり好きな丼物とコーヒーを飲んで帰って行った。
 
丼物もコーヒーや紅茶も美味しい美味しいと評価が高かった。
 
彼らには副業規定に引っかからない人には直接報酬を払い、受け取れない人の分は、オーケストラの運営費に寄付させてもらった。
 
この曲のPVでは実際に昔のトースターやラジカセを「まだ持っているよ」と言っておられた東郷誠一先生のお宅から借りてきて、食パンを実際にトースターで焼いて、焼き上がったら飛び出してくる所、独特の縦の焼き目模様が付いている食パンの様子、それに昔風にバターを塗って、マリと美空が美味しそうに食べている所が映っている。
 
昔風の牛乳瓶に入った牛乳にやはり瓶入りのヤクルト!(これらは小道具係の人が用意してくれた)、それに日東の缶入り紅茶、1960年代風の砂糖入れから角砂糖を取ってティーカップに入れている。
 
ふたりが食べている横で私は昔風の割烹着をつけて、玉子焼きを焼き、ふたりの前にあるお皿に置いている。(だいたい私はこういう役である)
 

『靴箱のラブレター』は木管楽器を多用した。口笛まで入っているが、この口笛は暇そうにしていた小風に入れてもらったものである。
 
今年は和泉がアクアのディレクターとして結構多忙になっており、私はこの状態だし、美空は暇なのでゴールデンシックスに常駐している感じで、結果的に小風が放置されていたのである。何度か旅番組のレポーターなどもしていた。
 
フルートを吹いているのは風花とたまたま来たのを捕まえて徴用したXANFUSの光帆、ピッコロがバレンシアの観来(みるく)、アルトサックスは七星さんと鮎川ゆま、テナーサックスがバレンシアの心亜(ここあ)、クラリネットは詩津紅、篠笛はバレンシアの礼文(れもん)である。これにちょうど東京に出てきた青葉に龍笛を入れてもらった。
 
この曲のPVは『青い恋』のPVを撮った廃校を再度借りて撮影した。靴箱の中にラブレターを見つける役は来年デビュー予定の桜木ワルツ。春頃にはアクアのサブマネージャーをしていた子である。19歳であるが、セーラー服はもちろん充分行ける。
 
「今回は男役だよと言われて学生服を着るのかなと期待してたのに」
などと彼女は言っていた。
「女の子役でごめんね〜」
「でもセーラー服は久々だったし」
 
彼女の想像の中のイメージに出てくる学生服を着た男の子は実は彼女自身の2人の兄である。長兄は会社勤めの傍らアマチュア劇団で活動している。次兄は大学生でアマチュアバンドを組んでいる。ワルツが兄と見つめ合うシーンもあるのだが、照れてしまって、撮影が終わった直後双方とも吹き出した、などと言っていた。
 
周囲に映っている生徒は多くが§§プロの研究生たちであるが、石川ポルカも出ていた。彼女は第4回ロックギャル・コンテストの優勝者である。また先生役で青葉と丸山アイに出演してもらっている。
 

『セーラー服の日々』のPVは『靴箱のラブレター』と同じ学校で続けて撮影したが、こちらでセーラー服姿でメインに映っているのは、現役女子中生の春野キエ・田原花菜・鴨川ルリナの3人である。
 
こちらで先生役として出演したのは30代の男性俳優2人である。『靴箱のラブレター』が女教師だったので、こちらは男教師ということにした。また、他の生徒役で出ているのはこちらはζζプロの練習生たちである。
 
このPVの後半は、東京ディズニーランド、ソニー・エクスプローラサイエンス、スカイツリーで撮影した映像を使用しており、ちょっと修学旅行っぽい雰囲気に仕上げている。
 
音楽としては、『靴箱のラブレター』が木管楽器中心にやったのに対して、こちらは弦楽器を多く使用している。アスカに頼んで、ヴァイオリン4人・ヴィオラ2人・チェロ2人を揃えてもらい、それで演奏してもらっている。その8人の他に鈴木真知子にヴァイオリンソロを弾いてもらった。
 
この2つの作品は世界観が似ているので、違いを出すのに、けっこう気を遣った。
 

『携帯の無かった頃』はマリ&ケイ名義で、実は七星さんの作品を千里が編曲したものであるが、10月に「アレンジを変更したい」という連絡が千里からあり、お願いしたらやや都会ティックな変更がなされていて、電気楽器を前面に押し出したアレンジになっていた。また、制作の負荷をできるだけ軽くしてあげようという意図が見える変更であった。
 
スターキッズの基本構成でほぼ演奏できるようになっている。多重録音も不要である。キーボードが3個指定されていた(以前のアレンジでは生楽器の指定だった)が、これは月丘さん、風花、倫代の3人で演奏してもらった。
 
PVは携帯の無い時代に行われていた習慣の映像を多く取り込んでいる。公園の別々の入口の所でじっと相手を待っているカップル、駅の伝言板(さりげなくXYZという書き込みがある)、電話の伝言メモ、ポケベルで呼び出されて公衆電話で連絡を取る人、ISDNの公衆電話でパソコンをネット接続してメールを送るビジネスマン。
 
このPVに出演しているのは、実は美春佑季(みはるゆうき)さんと言って、○○プロ所属の俳優(女優?)さんである。本人は「法的には男性です」と言っているらしいが、女装(?)が物凄く可愛い。1人でカップルの双方を演じ、電話を受けながら伝言メモを書くOLを演じ、パソコンを使うビジネスマンを演じ、駅の伝言板に書き込む女の子、それを見て「あちゃぁ」という顔をしている男の子、と男女両方をきれいに演じている。
 
「この人、本当に男の子なの?女装すると女の子にしか見えないんだけど?」
とマリが言っていたが、本当にごく自然な女装である。声も男女両声を自由にあやつる。本人のセクシャリティについては
 
「僕はノーマルですよぉ」
と言っていたが、実際にMTXか何かなのではと思いたくなる美事さであった。
 

『お嫁さんにしてね』も軽快なナンバーである。
 
(本当の)作曲者である千里は、『1960年代のグループサウンズのような乗りで』とコメントしていた。
 
それで実際、そんな感じのサウンドに仕上げた。スターキッズの基本構成に宮本さんも入ってもらって、Gt1/Gt2/B/Dr という構成にし、月丘さんのマリンバと七星さんのサックスが加わるアレンジにしている。
 
この曲はノリが良いので、9月に一時的に制作した時も、かなり(本当の意味での)完成に近い所まで仕上がっていた。それでこの曲は11/23-24の2日間で充分満足いくところまで仕上がった。
 
なお、この曲のPVは沖縄で撮影した。夏の花嫁というのをイメージして、高島田の花嫁衣装を着た私が船頭さん(本物)が漕ぐ小舟に乗って、お嫁に行くシーンになっている。両親の役をしてくれたのは、沖縄ローカルの俳優さんである。また新郎役は、ゆまの関わりでレッドブロッサムの鈴木和幸さんにお願いした。ちなみに鈴木さんは既婚である。
 
この撮影をしたのは1月4日で、実はKARIONのツアーの隙間を狙っての撮影だった。1月3日の大阪公演を終えたら、夕方の便で沖縄に飛び、翌日4日の午前中に撮影をして、その日の午後の便で福岡に移動して、5日の福岡公演に備えている。ハードスケジュールではあったが、気合いが入っていたので、割と平気だった。
 
政子は今回のPV撮影には連れて行かなかった。恋愛破局したばかりの政子にこういう撮影は辛いだろうという配慮である。歌は明るく歌っていたが、内心はこの歌を歌うのも辛かったのではないかと私は思った。
 

ところが。。。。。
 
その政子であるが、1月上旬に唐突に恋愛報道が出て私はびっくりすることになる。お相手として報じられたのは20代の俳優Nさんである。
 
結局双方記者会見を開くことになる。両者は同じ日に別のホテルで記者会見をした。
 
「交際の事実はありません」
と双方とも恋愛関係を否定した。
 
「おふたりが一緒にラーメンを食べている所の写真が出ているんですが」
「たまたま一緒になっただけです。顔見知りだからお話はしましたけど、デートとかではないですよ」
 
マリがこういうことを話すと、だいたい信じてもらえる。過去にも似たような話があったので、それで記者たちの多くは「またか」と思って笑っていた。
 
「タクシーに一緒に乗り込もうとしている所の写真は?」
「たまたま2人とも放送局に行く所だったので、知らない人でもないし相乗りしただけです」
 
それで色々質問はされたものの、ふたりとも明るく返事をしていたし、双方の言っていることがほぼ一致していたので(違ったのはラーメンを何杯!食べたかくらい)であった。
 
マリの方の記者会見はそれで平穏無事に終わったのだが、Nさんの方の記者会見では、最後の質疑応答が後で少し問題になった。
 
「でしたらNさんは別にマリさんのことが好きとかではないんですね?」
という質問に対して、Nさんは
 
「素敵な女性だなあとは思っています」
と答えてしまった。
 
しかしすぐにこの答えはやばいと思ったのか
「でもそれは憧れのようなもので、恋愛感情には遙かに及びませんね。高嶺の花のようなものです」
と付け加えた。
 
恋愛関係は否定したものの、憧れていると発言したことで、ふたりの間に恋愛関係が今後成立する可能性があるのでは、と飛躍的解釈をした雑誌社があり、私たちは若干困った。
 
この問題についてNさんは後でツイッターで「本当にマリさんとは何もないですから」と再度ツイートしたものの、余計な憶測は完全には消えず、これがこの年の夏の騒動にもつながっていくのだが、私たちはこの時点ではそこまでは考えきれなかった。
 

私は政子に、実際問題としてNさんとは何かあったの?と訊いてみた。
 
「実は1回だけデートみたいなことした」
「そうなの!?」
 
「偶然会ってさ。お茶でも飲まない?と言われたけど、私お腹空いてたから、ラーメンなら付き合うといって、それで一緒にラーメン屋さんに入った」
 
「たぶん、それラーメン屋さんに入る前から、誰かに付けられていたんだろうね」
「そうかも知れないという気はする。結構楽しくお話ししたよ。彼からはまたデートしてくれないかと言われたけど、私、実は別の人と別れたばかりで、今は恋をする気にはなれないと正直に言った」
 
「そう」
 
「だからNさんとはそれだけで終わったつもりだったんだけどね」
 
「マーサのその言い方は、相手に少し期待を残したかも知れない」
「今思えばそんな気もする。でもわざわざもう一度会って、完全に否定するのも変だし」
「うん。変だと思う」
 
「だからこの件は放置して、自然に余韻が消えるのを待つしか無いかなと」
「まあ仕方ないね」
 

ところで『靴箱のラブレター』のPVに青葉と丸山アイに出てもらうことになった経緯はこんな感じであった。
 
このPVの素材は、11月上旬の連休中日、11月4日に撮影している。
 
青葉はこの時はアクアのプロジェクトの打合せのために2日夜東京に出てきて、3日の午前中に§§プロで会議をしたのだが、その時に千里と丸山アイが同席していたらしい。アイは先日の厄払い旅行にも参加していたが、どうもアクアの制作にしばしば関わっているようである。
 
その後、そちらの会議に出席していた和泉から
「青葉ちゃんたちも一緒に来て」
 
と言われて郷愁村に来ることになり、和泉・青葉・アイが、千里が乗ってきていたオーリスに同乗して郷愁村まで来たのだが、来てみたらムーランの移動店舗が来ているのでびっくりしたという。
 
(千里は春頃オーリスを買ったようだが、今までのアテンザも使っているようなのでどう使い分けているのかは不明)
 
中に入ってみるとマリと美空がいたので、和泉は
 
「今から制作会議だよ」
 
と牛丼を食べている最中のマリに言った。するとマリが
「じゃ、みそりんも参加しよう」
と言って、美空も参加することになった。
 
「でも、美空はなんでここに来てたの?」
と和泉が訊くと
「食べ物がある所には私は出てくるよ」
などと美空は言っていたとか。
 
それで美空まで参加した会議(この会議で『郷愁』には3曲追加して12曲構成にすることを決めた)の後、そのまま青葉は将棋の対局、千里は囲碁の対局をすることになり、結局その日はアイと青葉はそのまま郷愁村に泊まり込むことになる。美空と千里はゴールデンシックスの打合せが夕方から焼肉屋さん!であるとかでオーリスに乗って帰って行った(焼き肉屋さんと聞いてマリも行きたそうにしていた)。
 
それで4日の午前中も青葉とアイはちょうどやっていた『トースターとラジカセ』の制作を見学していたのだが、その時、東京で『靴箱のラブレター』で先生役をしてもらう予定だった女優さんが来られなくなったので、先生役抜きで撮影するか、それとも『セーラー服の日々』の先生役の人にこちらにも出てもらうか、あるいは誰か適当な人を呼び出すかという打診があった。
 
するとそれを聞いたアイが
「じゃ私と万葉さんで先生役しようよ」
と言い、郷愁村に駐めていたマリのリーフを借りて、そちらに移動し、撮影に参加したのであった。
 

撮影は3時間ほどで終了し、青葉はひとりでリーフを運転して夕方、郷愁村に戻って来た。アイとは現地で別れたらしい。
 
青葉は戻って来ると、私と少し内密に話がしたいと言った。それで郷愁村の青葉に割り当てられた部屋で私と青葉は2人だけで話した。
 
「今回のアルバムの構成曲なんですが、現時点でマリ&ケイ名義の曲が7曲、それ以外の人から提供された曲が5曲になる予定ですよね」
と青葉は言う。
 
「うん」
 
「でも実際にはマリ&ケイ名義の曲7つの内、本当にケイさんが書いたものは2曲で、今のままで行くと、千里姉の作品1つ(お嫁さんにしてね)、七星さんとアイさんの作品が1つずつ、私の作品が2つ(硝子の階段+あと1つ)になる予定です」
 
「その問題については、私も罪悪感があるんだけど、やむを得ないと思っている。郷愁などという構想が無かったから。Four Seasonsというのは2年くらい前から漠然とした構想があったから、ある程度曲を考えていたんだけどね。ひとつのテーマを決めてから、曲を揃えるのに実際問題として2〜3年掛かるんだよ」
と私は苦渋の表情で言う。
 
「鷹野さんが、ケイさん今あまりいい曲書けないでしょうと言っていましたが、ここ数ヶ月、実際には『いい曲』どころか、普通の曲もあまり書いておられないですよね?」
 
「うん。作曲依頼はあるんだけど、今とても手が回らないということでかなりお断りさせてもらっている。アクアの『夕暮れ少女』はもう断れないから頑張っているけど。だから今年は5月以降で書いたのは『同窓会』『青い豚の伝説』に『夕暮れ少女』だけなんだよ。他の歌手に提供した曲もストックを調整して渡したものばかり」
 
と私は内情を言う。『刻まれた音』はいつか使おうと思ってストックしていた曲だし『春の詩』は元々『Four Seasons』用に用意していた曲だが、歌詞の内容が『郷愁』にも使えると思ったので転用しようとしていたのである(結局『Four Seasons』のタイトル曲になった)。
 
「それでですね。私、昨日の会議ではもう1曲書くと言ったんですが、それをケイさん書きませんか?」
 
「え?」
 
「ケイさん、先月のアクアの厄払い旅行で見た時からすると物凄く精神的に回復しています。今のケイさんなら、かなりしっかりした曲が書けると思います。その時ですね」
 
「うん」
 
「そのケイさんが書いた作品を私に送ってもらったら、それを私が《ケイ風の作品》に改造しますよ」
 
私は考えた。
 
「それ面白いかも」
 
「それでその作品を私が千里姉に送って《まるでケイが書いたような作品》に調整してもらう」
 
「なるほどー」
 
「つまり、結果的には、ケイさん、私、千里姉の共同作品みたいなものですね」
と青葉は笑顔で言った。
 
「でも表向きには私が書いて千里姉が調整した作品ということにしておく。するとですね。七星さんや鷹野さんが、ケイさんの作品より、遠慮無く調整を掛けてくれると思うんですよ」
 
「あぁ・・・」
 
「やはりケイさんの作品については、どうしてもみんな遠慮が出るんですよね」
 
私は意外な問題を指摘された気がした。
 
「ですからケイさんの作品でないことにしておいた方が、きっと良い仕上がりになります」
と青葉は言う。
 
「分かった。その遠慮される問題は別途解決策を考えないといけないけど、今回はその手法でやってみよう」
と私は言った。
 
それで私は制作作業の合間に『ふるさと』という曲を書き(歌詞も私が書いた)、それを手書き譜面の状態で青葉に送った。それを青葉がCubaseに入力しながら《ケイ風に書いた青葉の作品》であるかのように改造した上で、千里が更に《まるでケイが書いたような作品》にしてくれたのである。
 
私は千里から送られて来た譜面とデータを見て
「ああ、私、昔はこんな感じの作りにしていたよなあ」
「言葉の使い方なども高校生頃はこんな感じにしていた」
 
などと、改めて自分の作品について考え直す機会を得た。
 
そういう訳でこの「逆偽装」作品である『ふるさと』をこのアルバムの最後に制作しようと私は決めたのであった。
 

12月はこんな感じで制作が続けられた。
 
■休日組
12/8-10,15-17(金土日x2) 『フック船長』(琴沢)
 
■平日組
12/5-7,11-12『硝子の階段』(実は青葉)
12/13-14,18-22『同窓会』(ケイ)
 
11月は制作スケジュールを決めた七星さんと和泉が、私の“リハビリ”を兼ねて敢えて簡単な曲優先で制作していたのだが、このあたりから難しい曲の連続になる。
 

『フック船長』は琴沢さんの渾身の作品という感じである。琴沢さんが書いた譜面も見せてもらったが、琴沢さんはエレクトーン+追加キーボードの状態で書いていて、多様な楽器の音が指定されていた。それを編曲した千里は、それをエレクトーンではなく生楽器の編成にした。
 
スターキッズの基本構成に、メトロノーム(チクタク鰐の音)、トランペット・トロンボーン・ホルン・ユーフォニウムといった金管、フルート・ピッコロ・クラリネット・オーボエ・サックスという木管を加えて重厚感のあるアレンジを施していた。
 
この作品の収録にはまた渡部賢一グランドオーケストラの人たちに協力を求めた。彼らは前回参加した時にけっこう郷愁村の居心地が良かったというので「来るの楽しみ〜」などと言って来てくれた。
 
今回来てみると、何やら近くでボーリングをしているので
「何ですか?」
と訊かれた。
 
「いや、ムーランのオーナーがこの付近は温泉が出るかも知れないと言い出して、掘ってみているんですよ」
と説明すると
 
「ここに温泉も出来たらいいね!」
と彼らは言っていた。
 

この曲の収録には12月8-10, 15-16と週末2回分を掛けた。
 
上手な人ばかりなので、最初の金土日だけでも充分良い出来にはなっていたのだが、私は12/10の時点で「演奏がこなれていない」と思った。それで渡部賢一さんと話し合った結果
 
「各自この曲を頭の中でこねておいて欲しい」
と依頼。
 
それで翌週金曜日の夕方、同じメンバーに集まってもらい再度演奏したら、その時点で結構いい感じになっていた。意図と微妙に違う所について多少の指示を出して翌16日は午前中ずっと練習をし、午後から数回録音。その中でいちばん良い出来のもので確定させた。
 

この曲のPVは、映画っぽい雰囲気で制作した。フック船長を演じたのは私である!ピーターパンがマリで、PVのラストでは私はマリの剣に倒れて落下、チクタク鰐に食べられてしまう。ウェンディは白鳥リズム、ティンカーベルは桜木ワルツ、タイガーリリーは品川ありさという配役である。
 
品川ありさは
「わーい!女役だ!!」
 
と喜んで(?)いた。確かに彼女にはしばしば男役をしてもらっている。先日も『青い恋』で男の子役をしてもらった。
 
しかし品川ありさのタイガーリリーは堂々としていて格好良い王女様になった。
 
マリは男装のピーターパンに張り切っていたが、私は男装では無く、女海賊という感じの何か変な衣裳を着せられた。私に制作指揮やらせろと言って割り込んで来た雨宮先生の趣味(?)である。
 
雨宮先生によるとフック船長というのは初期のピーターパンには無かった役柄で、最初に導入された時は、ウェンディの母親役の人が海賊を演じたらしい。それが後で父親役の人が海賊役を務るように変更され、その方式が現在まで踏襲されているのである。この物語をウェンディの自立成長の物語と考えれば確かに倒すのは父ではなく母であるべきで、母親役の女優さんが海賊を演じたのが正しい気もする。
 

私は雨宮先生に相談した。
 
「今回はアクアのマネージャーの山村さんが何とか村上社長を説得してくれたようなんですけど、今後どうしたらいいんでしょう?」
 
「要するに村上さんは自分の手柄を作りたいんだろ?」
「うーん。。。それはあるかも」
「ひとつの手は、村上さんの子飼いの部下で少し話の分かる奴にローズ+リリーに関する話はさせるようにする手、もうひとつは村上さんが手柄をあげられるような若い歌手でもあてがうことだよ」
 
私は考えた。
 
「村上さんとか村上さんに心酔してるっぽい滝口さんとかのやり方で今の時代に売れる人がいるとは思えないんですが」
 
「それは難儀だねぇ」
と言って、雨宮先生は大きく伸びをした。
 

「あれを滝口にやらせるか」
と雨宮先生は言った。
 
「何か企画があるんですか?」
「こないだ銀座で飲んでたらさあ、卍卍プロの三ノ輪会長と一緒になっちゃって」
 
と雨宮先生が言うので私は
「三ノ輪さんですかぁ」
とあからさまに嫌な顔をした。あの人は業界のトラブルメーカーである!
 
「雨宮さん、うちにフローズンヨーグルツって19歳の女の子のトリオがいて、デビューさせたいんだけど、何かいい曲ない?とか言われて」
 
「うーん。。。」
「レコード会社も決まってないというので、まあその日おごってもらったこともあって、じゃ探しておくよと言った」
 
「その子たちの歌唱力は?」
「ひどい」
「うーん。でも可愛いとか?」
「月並み」
「それをどうやって売るんです!?」
 
「でもだから、村上さんに投げてみようかと」
「三ノ輪さんと付き合うと色々よくないことに巻き込まれますよ」
「だから村上さんがよくないことに巻き込まれたら万々歳じゃん」
「気が進まないなあ」
 
「ケイ、何か曲を書いてよ。埋め曲でいいからさ。ケイの名前があるだけで絶対1万枚は売れるんだよ。もう1曲は千里に書かせるからさ」
と雨宮先生は言っている。
 
「雨宮先生は千里の回復状況をどう見ておられます?」
と私は訊いてみた。
 
「埋め曲を書く力にはあまり変化がないから《東郷誠一H》としては問題無い」
「あぁ」
 
東郷誠一先生の「中の人」は、ネット住民の命名によると東郷C:香住零子、東郷D:田辺龍行、東郷E:吉原揚巻、東郷F:樋口花圃、東郷G:三田夏美、東郷H:醍醐春海、東郷J:大宮万葉、東郷K:紅型明美ということになっている。
 
「鴨乃清見は当面琴沢幸穂中心で行く。あの子、とんでもない逸材だよ」
「やはり凄いですか。お会いになりました?」
 
「いや。あの子と実際に会ったのは、どうも秋風コスモスだけのようだ。新島も会ってないんだよ。全て代理人の天野貴子が処理している。でもいい作品を書いてくれるなら、どんな人でも構わない」
「それはそうですけどね」
 
「ひょっとして男の娘だったりしないかと期待したんだけど、コスモスによれば普通の女の子ということだったから、ちょっとがっかりした」
 
「先生、何考えてお仕事なさってるんです!?」
 

12月16日に『フック船長』が仕上がった後、この後は《休日組》はあがりにして、1月に入ってからアイちゃんからもらった曲を休日組で演奏しようかなどと私や七星さんは言っていたのだが、マリから提案があった。
 
「『斜め45度に打て』を再録しませんか?」
「ああ」
 
この曲は8月に集中して『郷愁』の録音をしようと言った時、最初に録音した曲である。あの時はあの時でちゃんと完成まで到達したと思っていたのだが、他の曲を11月から2月に掛けて録音している中で、あれだけが8月の録音ということは、1つだけ録音的に浮いてしまうかも知れない気がした。
 
「じゃ、それ明日やろうよ」
と近藤さんが言う。
 
それでその日はまだ郷愁村から引き上げず、泊まり込んで翌日それを再度録音した。これで年内の《休日組》の活動は終了した。
 

《休日組》が11月頭から12月までずっと『郷愁』の曲をやっていたのに対して《平日組》は11月中は『Four Seasons』の方を作っていて、12月に入ってから『郷愁』に入った。
 
12月前半に収録したのは青葉がケイ名義で書いてくれた『硝子の階段』である。青葉が書いた後、千里が「まるでケイが書いたように」修正してくれたのだが、千里の修正のポイントは、和楽器の使い方である。青葉が書いてくれた時点で、篠笛・箏(琴)・琵琶・胡弓・和太鼓が指定されていたものの、その使われ方があまり邦楽をしたことのない人の使い方という気がした。千里はそれをちゃんと和楽器に熟知したかのような使い方に改めている。
 
私は千里は民謡とかの素養があるのだろうか?と疑問を感じた。
 
この和楽器の演奏には、8月にも演奏してくれた琵琶:風帆、箏:友見、胡弓:美耶といったメンツが毎日新宿のスタジオに来て演奏してくれた。篠笛は槇原愛、和太鼓は篠崎マイが入れてくれている。
 
風帆伯母の感覚では12月7日の段階で充分完成と思ったらしいが、私がそこでまだ妥協せずに翌週の11日になって「だいぶ出来てきたかな」と言い、12日になってやっとOKを出したので、伯母は納得したかのように頷いていた。
 

この曲も江戸川区の例の廃校で半分くらいを撮影しており、ζζプロの練習生の人たちにセーラー服や学生服を着て出演してもらったが(セーラー服を着るか学生服を着るかは本人の性別と関係無く好きな方を着てもらった)、ガラスの階段は、同区内のショッピングセンターにある強化ガラス製の螺旋階段を、営業時間外に借りて撮影に使わせてもらった。
 
普段に使用しているので結構汚れていたのを専門の掃除業者を入れてきれいにして透明感がアップした所で、マリがシンデレラの靴のようなガラスのミュール(ガラス細工を作っている工房に依頼して作ってもらった:実は10月に発注して2ヶ月掛かった)を履いて登っていく所を撮影した。
 
この時、セーラー服、パーティードレス、ウェディングドレス、マタニティ、ビジネススーツと5種類の衣裳を着けて登っており、これが時間の経過を表している。ウェディングドレスを「ゴール」に使うのではなく「途中」に入れたのがマリらしい。
 
マリが階段を登っているそばで、真っ白いドレスを着て長い髪をなびかせ、クリスタルガラス製の横笛(これは市販品)を吹いている所が映っているのはζζプロから2018年夏くらいにデビュー予定の榎村アケミちゃんである(髪はウィッグ)。彼女は実際にフルートが吹けるので、吹いている様子がとても様(さま)になっており、とてもいい映像になっていた。彼女は実はボニアート・アサドの高校の後輩で、“ボニアート・アサドの妹分”として売る予定らしい。
 

12月12日までこの曲の音源制作をして、13日からは本当に私が書いた作品『同窓会』の収録をおこなった。
 
この曲にはストリング・セクションを設定しており、アスカに頼んでヴァイオリニストを手配してもらったのだが、初日に来たのは女子3人と男子1人であった。
 
「あのぉ、蘭若先生から女性ヴァイオリニストの仕事なんで女装して弾いてきてと言われたんですが、本当に女装しないといけないですか?」
と情け無さそうな顔で訊いている。この仕事は普通のスタジオミュージシャンのギャラより高いので飛びついたようである。
 
「他の方の音に溶け込む音であれば、女装の必要性はないですよ」
と私は言ったが
 
「まあ女装したい場合は女装してもいいし」
などとマリは言っている。
「ついでに性転換するならいい病院紹介するけど」
「性転換は勘弁してください!」
 
それで(男装のまま)弾いてもらったが、ちゃんと他の3人の女性ヴァイオリニストと揃った音を出してくれたのでOKとした。彼は結局この曲に最後まで付き合ってくれた。
 
「凄く気持ち良くお仕事できました」
と彼は笑顔であった。
 
「まあ、予算が無いから1時間で完成させてよね、などと要求するような、アイドル歌手とかの制作とは違いますからね〜」
 
と言いつつ、8月にやってた制作はそれに近い状態だったよなと私は思う。
 
「ところで女装してという仕事だったから女装しました、などという言い訳で女装ができるけど、やってみない?」
とマリはしつこい。
 
「すみません。人生を誤るから知れないから遠慮しておきます」
「ああ、それがいいかもね〜」
と鷹野さん。
 
「この仕事で女装したのがきっかけになって、3年後には性転換してお嫁さんになるとか」
と酒向さん。
 
「それマジで自分が怖いです」
 
彼はけっこうな美形なので女装がきれいになりそうであったが、彼の人生のため!?女装は無しとした。
 

この曲の収録が12月22日まで掛かり、これで年内の音源制作は終了となった。
 
同窓会のPVは、○○ミュージックスクールの生徒さんたちに様々な大人っぽい衣裳を着けて参加してもらった。実際にホテルの広間を借りて、パーティーの料理を用意し、本当に同窓会パーティーでもしているかのような映像を作った。
 
マリと美空もちゃっかり“同窓生”に混じって、会場で料理を食べ歩いていてとても楽しそうな所の映像が撮れた。
 

年内、私はローズ+リリー以外では貝瀬日南に『雨だれのデュエット』というちょっと可愛い曲(秋穂夢久名義)、雨宮先生から頼まれたフローズンヨーグルツに『キャロット・ギャロップ』という軽快な曲(マリ&ケイ名義)を提供した。フローズンヨーグルツの曲には「キュロットを穿いて歌って下さい」というコメントをつけておいた。ただのダジャレである!
 
貝瀬日南は前回のシングルが5月に出ており、10月くらいに次の曲を出したいのだけどという打診が秋穂夢久ブランドを管理している丸花社長からあっていたのだが、こちらの手が回らず待たせてしまい申し訳無かった。彼女にはもう秋穂夢久が私たちであることはバレているのだが、郷愁村を見たいと言ったので、年末年始、私がKARIONの方にかなり取られていて、カウントダウン以外ではスターキッズが空くので、スターキッズの伴奏で郷愁村で音源制作をした。
 
彼女は
「古いテレビとか、トースターとかラジカセとか置いてあって面白ーい」
と喜んでいたし
「丼屋さんの御飯も美味しい」
とムーランが気に入ったようである。
 
(トースターや昔風のラジカセはそれを製造しているメーカーを若葉が見つけて各々50個注文し、全部屋に配置した)
 
「ここまた使いたーい」
 
と言っていたので、ローズ+リリーとぶつからない時期はいいよ、と言っておいた。
 

フローズンヨーグルツは、滝口さんが張り切っており、村上社長に
「この子たちは逸材です。将来★★レコードを背負う歌手になりますよ」
などと言っていたらしい。
 
しかし『キャロット・ギャロップ』はひじょうにいい曲だったし(あんな歌手に渡すなんてもったいない、と鷹野さんから言われた)、千里が東郷誠一名義で提供した『時計』もかなり力(りき)の入った作品で、フローズンヨーグルツは2月になって発売されたデビュー曲がいきなりゴールドディスクとなり、滝口さんが主宰する、戦略的新人開発室からの初めての売り出し成功となった。
 
( 三つ葉は佐田副社長直轄のメディアミックス推進室(日吉室長)の管理である)
 

年末の慌ただしいさなか、TKRはこれまで青山の★★レコードに間借りしていたのを、新たに北新宿の高層ビルに1フロア(800平米)を借りて、そちらに移転することになった。
 
今まで★★レコードに払っていた家賃負担金に比べて、ここの家賃は半額でしかも面積も今までの2倍ある。最近TKRはかなり増員していてかなり手狭になっていたのでそれを改善するのと、家賃負担を減らす意味合いもあった。しかし年末の引越はなかなか大変だったようである。
 
同日、私たちの車の運転サービスをメインとしている★★情報サービスも★★レコードに1部屋!間借りしていたのを、世田谷区の小規模な店舗跡地を8000万円で買い、そこに軽量鉄骨構造の小さなオフィスを800万円!で建てて引越した。土地の購入費用は会社で負担するには高額なので、私と千里が2人で共同購入して会社に貸す形にした。この2人で買ったのは後で揉める心配がほぼ無いのと、私と千里にとって4000万は全然負担感が無いからであるが、貸し賃はこれまで★★レコードに払っていた部屋の借り賃の10分の1である!
 
オフィスは2階建てで、1階が事務室、2階にはベッドを並べた個室の仮眠室を]
つ設置した。これまではしばしば事務室の端で仮眠していたので、独身の染宮さんなど「もうここに住みたい」などと言っていた(1号室を彼専用にした)。駐車場もだいたい8台くらい駐められる計算である。
 
この場所のいい所は、首都高の永福出入口が近くにあるし、明大前駅にも近いので、電車ででも車ででも、素早く依頼された場所に移動できることである。これまでの青山という場所はそういう交通の便が微妙であった。
 
出動頻度が高く乗せる人がほぼ固定されている、佐良さん(私とマリ担当)・矢鳴さん(千里と蓮菜担当)・金子さん(後藤先生担当)などは、各自の自宅から直接移動した方が楽だが、それ以外の社員はけっこう待機時間があるし、誰からの呼び出しに応じるかその日によって違うので、ここに来て待機していた方が素早く出動できるのである。
 

そういう訳で青山のオフィスに現時点で残っている★★レコードの関連会社はノンパッケージ(オンライン)の音楽や映画などを販売する★★チャンネル、イベントの主催をする★★クリエイティブなどである。
 

アクアの新年からのドラマ『少年探偵団』の主題歌『夕暮れ時間/BD Fight!』は12月27日(水)に発売されたが、この発売記者会見は、これまで使用していた青山の★★レコードの会見場ではなく、引っ越したばかりの新宿のTKRに新設された会見場で行われた。
 
TKRも引っ越したばかりでかなりの荷物が段ボールに入ったままの状態だったが、何とかこの記者会見を乗り切った。
 
TKRの新しいオフィスには、54人座れる大会議室、24人座れる中会議室、12人座れる小会議室3つがあるのだが、実はこれの間仕切りを全部外すとテーブルと椅子を並べて120人、椅子だけにすると192人入る小ホールが出現するようになっている(椅子無しなら500人入る)。実は防音設計にしているのでここでライブをすることもできる。
 
普通の歌手の記者会見は大会議室か中会議室ですることにしているのだが、アクアの記者会見だけは特別でこの小ホール状態でおこなうことにしていた(実はアクアの記者会見を最初にすることが分かっていたので、まだ間仕切りを設置する前であった)。★★レコードの記者会見場は80人ほど入る広さだったので、一番広い状態にすると向こうよりも広い。
 
実際この日は新しいTKRのオフィスの見学を兼ねた記者も詰めかけて、この120の椅子席が全部埋まりそうな勢いだった。それで途中で後ろ半分のテーブルを撤去し、前半分はテーブルがあるが、後ろ半分は椅子のみの状態で、更に立って取材する人まで出て、そもそもカメラで撮影するのに椅子に座ってない人もいたので、推定180人くらいの記者が入場した。例によってアクアの記者会見には、ファッション雑誌や若者向け雑誌の取材が多い。この日は漫画雑誌やコンピュータ雑誌の記者まで来ていた。
 
アクアはもう冬休みに入っているので、お昼からの記者会見となった。出席したのは、アクアとエレメントガード、三田原部長(12月1日付けで部長に昇格)、事務所の秋風コスモス社長、私と和泉。それに『少年探偵団』で共演する本騨真樹(明智)、大林亮平(二十面相)、元原マミ(マユミ)らも来場していた。青葉はプロデューサーではあるが今回の楽曲には関わっていないので、わざわざ富山から出てこなくてもいいよということで、欠席である。
 

いつものように、エレメントガードの伴奏をバックにアクアが歌唱することになる。夕暮れ時間という曲なので照明を暗くします、というアナウンスがあった。照明をかなり暗くした状態でエレメントガードが前奏をスタートさせる。扉からアクアが登場して拍手。そして歌いだした・・・と思ったら何か様子が変である。
 
この歌っている人物は確かに顔はアクアに見えるものの、妙に背が高い。アクアは身長156cmくらいのはずなのに、歌っている人物は172-3cmある。そもそも声が違う!
 
記者席にざわめきが起きるが、そこに和服にインヴァネスコートを着てパイプをくわえた人物が登場する。そちらにスポットライトが当たる。
 
「君は誰だ?」
と歌っていた人物が言う。
 
「君こそ誰だね?」
とパイプを咥えた人物が言う。
 
「ボクはアクアだ」
「それは嘘だ。アクアはスカート姿が可愛い男の子だ。君はスカートが似合いそうにない」
「ボクだってスカートくらい穿くぞ」
 
このやりとりに記者席から失笑がもれる。
 
「君は怪人二十面相だろう!」
と言って、歌っていた人物に歩み寄ると、フェイスマスクを剥がした!するとそれが怪人二十面相役の本騨真樹であることが分かる。
 
「おまえは明智小五郎か!」
「アクアをどこに隠した?」
 
そこに茶色のスーツを着てシルクハットをかぶった広川大助が数人の警官の衣装を着た役者さんと一緒に入ってくる。
 
「怪人二十面相!おとなしく縛に付け」
と広川さんが言う。
 
「ふふふ。いいのかい?ボクを捕まえると、アクアは二度と帰って来ないよ」
とアクアに変装(?)した本騨君が言う。
 
「逮捕してから吐かせてみせる」
と中村警部役の広川さん。
 
「ボクがそんなの自白すると思うかい?いいのかな。ボクが捕まればアクア君は餓死するかも知れないよ」
と本騨君。
 
その時、学生服姿の当のアクアが走り込んで来る・・・がどうも小林少年役のようである。
 
「明智先生!アクアちゃんの捕らわれている場所が分かりました。あそこの木の箱の中です!」
と彼は言っている。
 
「何?その箱を調べろ!」
と中村係長役の広川さん。
 
それで数人の警官役の俳優さんが箱に走り寄り、上に掛けてあった覆いを取るとそこにアクアが入っていて
 
「先生!ボクは大丈夫です。二十面相を捕まえて下さい」
と言っている。
 
これに記者席がざわめく。小林少年役のアクアは明智役の本騨君のそばにいるのに、箱の中にもアクアがいるのである。
 
「くそ!」
と二十面相役の大林亮平は叫ぶと、近くに居たエレメントガードのメンバーの所に走りより、ギターのヤコを片羽交い締めにして、ピストルを突きつける。
 
「道を空けろ!空けなかったら、この女を撃つぞ」
と叫ぶ。
 
ところが次の瞬間、ヤコは大林亮平の羽交い締めから身体を低くして逃れると、そのまま大林を背負い投げした!
 
「え〜〜!?」
という声があがる。
 
警官役の役者さんたちが駆け寄り、二十面相の手首に手錠を掛けた。
 

 
「小林君、お見事。お手柄だったね」
と明智役の本騨君が、ヤコの所に歩み寄って言う。
 
するとヤコと思われていた人物がフェイスマスク!を外すとそれがアクアである。
 
「うっそー!?」
と記者席から声が上がる。
 
今まで小林少年を演じていた人物もフェイスマスクを外す。こちらは何と花崎マユミ役の元原マミである。
 
照明が点く。
 
中村係長役の広川さんは《アクアが閉じ込められていた箱》を「よいしょ」と持ち上げて退場する。明るい照明の下で、それがただのテレビの入った箱であったことが分かり、記者席に笑いが広がった。
 
「でも小林君、背負い投げうまいね」
と明智役の本騨君が言う。
 
「中学の時に体育の時間の柔道で習いましたから。この技は小さい身体の人が大きな身体の人を投げるのにいい技なんですよ。大林さんは受け身がちゃんとできるから安心して投げてと言われたので投げました。実際には5〜6回練習したから、大林さんも5〜6回投げられたんです」
 
とヤコに変装していた(?)アクアが笑顔で言う。
 
「亮平もお疲れ様。でもその前にエレメントガードと一緒にギターを弾いていたのも君だっけ?」
「はい。ボク、ギターは割と得意です」
「そういえば、昔、ビデオで演奏している所が映っていたね。あれマジで弾いていたのか!」
 
そこに和泉が出てきて言う。
 
「本騨さん、アクアはギター、ヴァイオリン、ピアノがプロ級なんですよ」
「凄いね!ひとりでバンドが組めるじゃん」
「ボクは3人いないから無理です」
 
とアクアが言うので、また記者席から笑いが起きる。
 
「でもアクアちゃん、結局今日は女装なのね」
「そうなんですよ!短いスカート穿かされちゃった」
とヤコの衣装を着けたアクアは困ったような表情で言ったものの、記者席ではクスクスと笑う声が多かった。
 

この突発的寸劇を経て、やっと本来の記者会見となる。仕切り直しで、本物のヤコが登場し、アクアも普通の?男の子の衣装に着替えてきて、ヤコの入ったエレメントガードで伴奏するのをバックに、本物のアクアが『夕暮れ時間』と『BD Fight!』をショートバージョンで歌った。
 
ちなみに複数の民放の情報番組が、この寸劇から記者会見冒頭までを完全放送したので、テレビでこれを見た人はかなりの数に達したようである。
 
「アクアが本当に3人いるのかと思った!」
という声もあがっていた。
「アクアがあまりにも忙しいからアクアは3人くらい居るのではとかよく言われていたもんな」
 
演奏が終わった後、会見用のテーブルと椅子が持ち込まれ、説明用のホワイトボードも置かれる。ここに座ったのは結局、三田原・コスモス・アクア・和泉・私の5人である。
 
コスモスによる今回の楽曲の説明に、時々和泉や私が補足説明する。そして質疑応答に入る。1月1日からのツアーについても訊かれるが、半分くらいが1月からのドラマに関する質問になった。
 
「でもあのフェイスマスクはよくできてますね」
 
「偽装する顔と、本人の元の顔を立体スキャンして、装着した時にその偽装する顔になるように精密にコンピュータで計算して造形したものだそうです。最新のハイテクですね。でも暗い所でないとさすがにバレます」
とコスモスが説明したが、
 
「まあそれで『夕暮れなら大丈夫』ということで」
 
と私がコメントすると、また記者たちから笑いの声があがっていた。
 
 
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【夏の日の想い出・郷愁】(5)