【悪夢の城】回廊(2)

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千秋が浴衣のまま走っていくと、やがて分かれ道に来た。右手は黒いビロード、左手は赤いビロードが敷いてある。千秋は無意識に左に行きかけた。すると突然目の前に光輝く3人の兵士が現れた。
 
中世ヨーロッパ風の鎧を付け、長い槍を持っている。
 
「そこは 不満 でしょう。そこは通ってはいけないのです」
 
兵士はその姿に似合わない優しい声で言った。
 
「ありがとうございます」
 
とお礼を言ってから千秋は気づいた。『この人たち、実体が無い』兵士の姿が透けて向こうが見える。多分触ろうとしても触れないだろう。まるでホログラフィーのようだ。そして、千秋がそう思っている間に3人の兵士は消えた。
 
赤いビロードの上を歩いてはいけないのだろうか。千秋はそう思うと黒いビロードの方に歩いて行った。しばらく行くとまた分かれ道があり、左は青、右は黒。千秋は黒の右に道を取った。
 
ずっと歩いているうち、いつしか広い部屋に出た。
 
どこかの王侯貴族の応接間という感じである。回りに金ぴかの装飾品が並び、立派な古伊万里の皿がいくつも壁に架けられている。立派なマントルピースがあり、その上には金の剣が2本。柄には立派な宝飾が施されている。
 
「おや、そんな格好でこの部屋に来てはいけませんね」
 
誰か女の人がとがめるように言った。
 
「すみません。お風呂に入っていたら洋服が無くなっていて」と千秋が言うと、その人物はパチンと指をならした。すると、どこからか人が出てきて千秋の浴衣を脱がせてしまう。きゃー、と思っていると柔らかなシルクのスリップを着せてくれて、更に黒いドレスも着せてくれた。
 
「その服、あなたにあげます」
 
その女の人は言った。女の人はお茶を点ててくれたが、千秋は今はのどを通る気がしなかった。すると女の人は楽しそうに笑って「大丈夫。あなたの迷いは峠を越しましたよ。これからは段々よくなってきます。そちらのドアから行きなさい」と言ってくれた。千秋はお礼を言って、そのドアから出ていった。
 
(2000.10.09 元は1985年頃に見た夢)
 
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