【悪夢の城】荒野の果てに

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確かに外に出ることはできた。しかし、ここは一体どこだろう?
 
外は夜だった。信じられない。家を出たのがお昼くらいだ。今はせいぜい時間がたっていてもまだ3時ころ。しかしあたりは真っ暗で、空に星が多数輝いていて、不気味な色の満月が東の空に姿を現していた。 
ああいう色の満月は怖い。そういえば昔よく使っていたブランコを「もういらないだろう」と父が言いだして、私も特に反対せずに、いっしょに捨てに行った夜、こんな色の月が出ていた。なにか心にとげがささるような気がする。小さい頃、わたしはいつもあのブランコで昼寝していた。あのブランコでおさななじみの男の子といろんな話をした。その子といけない遊びをしたこともある。よくあのブランコで妹をあやした。ああ、何を考えているんだろう、私は。どうする?どうするって、歩くしかないじゃん。 
千秋はとにかく階段を下に戻る気にはなれなかったので、とりあえず歩き出すことにした。 
とにかくここは何もない。見渡す限りただ広い荒野である。その中に2本だけ道と呼べるようなものが通っていて、千秋はそのうちの一本を、なにか空があかるいような気がする方へと歩いていた。人通りは全くない。 
歩いているうちに、かつて果樹園だっかのようなところを通りかかった。木が全て立ち枯れになっていて、さみしげである。まるで死の世界だ。しかしいったい何の木だろう。りんご?みかん?なし? この林が生きていたころは、ここで生まれたたくさんの果実が都会へ送られていたのだろうか。それを私も食べたことがあるかも知れない。 
かなり歩いて果樹園を抜けた。そこは公園のような感じで、そこで向こう側の道とこちらの道が合流していた。千秋は公園の中を抜けていく。公園の中に噴水があった。そこでひとりの老人が大きな凧のようなものを一所懸命作っていた。千秋はやっと人を見かけたのでほっとして、その老人に声を掛けた。 
「済みません。道に迷ってしまったのですが、ここはどこでしょう?」
 
しかし老人は何も答えない。もくもくと自分の作業をしている。
 
「済みません。ちょっとお尋ねしたいのですが」
 
老人は何も聞こえていないかのようである。
 
「あのー、済みません」
 
3度目で老人がやっとピクリとして作業をとめた。そして顔をあげようとした。 
が、その時千秋は本能的に駆け出していた。
 
その老人の顔を見てはいけないような気がしたのである。
 
公園はすぐ終わっていた。千秋はなおも駆けた。かなり駆けてから、走るのを止め、また歩き出す。さすがに息が荒い。あれは一体何だったのだろう。しかし千秋はそのことについてあまり考えないことにした。考えるということは同調するということであり、それは危険を招くのだ。基本的に関わらないことが重要である。しかし、ほんとにここはどこだろう。 
道はまだまだ続いていた。しかし向こうの方のそらが確実に明るい。そちらに町か何かがある証拠だ。そして、やがてそれは見えてきた。千秋は足を止めてそれを眺めた。ここで千秋にはひとつだけ分かったことがあった。 
それはこれが旅の終わりではなく、単に始まりに過ぎないということであった。 
(1999.5.18)
 
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