【春零】(3)

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7月3日(日).
 
高岡伏木の青葉邸。
 
この日の午前中は UFOと並ぶ人気の女性歌唱ユニット、スパイスミッションのインタビューを行った。彼女たちは昨夜東京での仕事が終わった後!小松にHonda-JetRedで飛んできた。実は、その帰りの便にUFOとコスモスが乗って今朝熊谷に帰還した。UFOとスパイス・ミッションは昨夜同じホテルに泊まっており、偶然ホテル内で遭遇。ハグしあって、しばしおしゃべりしていたらしい。
 
UFO Schedule
7/2
_9:00→10:30(Blue) 能登空港着
13:00 伏木
1330-1530 番組収録
17:00 コスモアイル(閉館後取材)
19:00 金沢ホテル着
7/3
11:00←10:00(Red) 小松空港から帰還
 
Spice Mission Schedule
7/2
17:00→18:00(Red) 小松空港着
19:00 金沢のホテルに到着 UFOと遭遇。
7/3
9;00 伏木
9:30-11:30 番組収録
13:00-14:00 海王丸パークで撮影
17:00←16:00(Orange) 富山空港から帰還
 
今回取材された“4組”の中で結果的にはスパイス・ミッションが最も楽なルートを辿ることになった。
 

スパイス・ミッションはマネージャーの砂糖茶々(*25)、および金沢に泊まったケイと一緒に、明恵が運転するSEAT Alhambra に乗って伏木までやってきた。車に貼られている絵については「なんかエスニック〜」と言って、喜んで?いた。
 
先に来ていたラピスラズリ(かほく市内泊:真珠が運転するCX-5で回収してきた)の案内で青葉邸のサンルームに行く。今日は通路のポスターはアクア、北里ナナ、UFO、スパイス・ミッションとなっており自分たちのポスターを見て騒いでいた。
 
(*25) 砂糖茶々は本名佐藤千秋。マネージャー名はブラウンシュガーに掛けている。最初“砂糖茶”にしてたら“加藤茶”のもじりかと思われたので慌てて“茶々”に改訂して、加藤茶さんの所に上等の和菓子を持って謝罪に行った。
 
実際は中高生時代、友人たちから“茶”とか“ティー”とか呼ばれていた。またシュガーズというバンドを組んでいた。ギターとキーボードはかなりの腕である。スパイス・ミッションのキャンペーンライブで伴奏を務めることもある。
 

青葉が彼女たちを笑顔で迎える。
 
「素敵なおうちですね〜」
と彼女たちは言っている。
 
「去年の10月に家を建て始めたんだけど、建ててる最中に東京に出張して、その後8ヶ月間家に帰れなかったから、ほんの数日前にやっと新居に入れたんですよ。まだ家の中がどうなってるのか見てない状況で」
 
「大変ですね!」
「君たちも土日は家に帰れなかったりするでしょ」
「あります、あります」
「私たちまだ学校があるから、月曜の朝には帰してもらえるけど」
 
「いや、中学生は、学校がある時間帯に仕事をさせてはいけないという法律があるからまだそれで済んでたけど、高校生はしばしば学校を休まさせられる」
と朱美が言うと
 
「きゃー」
と悲鳴をあげていた。
 

「取り敢えず自己紹介を」
と町田朱美が言い、4人はそれそれ名乗りをあげる
 
「タイムこと須鳥泰代(すどり・やすよ)でーす」
「クミンこと鉢村玖美(はちむら・くみ)でーす」
「ミントこと井口民依(いぐち・たみえ)でーす」
「セージこと末田星美(すえだ・ほしみ)でーす」
「4人でスパイス・ミッションでーす」
 
青葉・ケイ・ラピスラズリが拍手する。
 
彼女たちは各々、タイム・クミン・ミント・セージの絵が描かれたTシャツを着ているが、絵を見たたけで何のスパイスか分かる人はかなりの専門家か、かなりのファンである。実際にはタイムはグリーン、クミンはホワイト、ミントはブルー、セージはパープルの色のシャツ・スカートを着ているので多くの人は色で見分けている。
 
昨日ラピスラズリは紫のドレスを着ていたが、セージと色がダブるので、今日はレモンイエローのドレスを着ている。青葉とケイは昨日と同じ服である。
 

「私たち元々は須鳥・鉢村・井口・末田の頭文字を取るとスハイスになるから、それで“スパイス”という名前が提案されたんですよね」
「でもスパイスと言うと、スパイスガールズのお姉様たちがいるから、こちらはスパイスガールズみたいにビッグになれたらいいなということで、そのためのミッションなんです」
 
「スパイスというユニット名が決まると、各々の名前がスパイスの名前にこじつけられるという話が出て来て」
「それで泰代(やすよ)がタイム、玖美(くみ)がクミン、民依(たみえ)はミント、星美(ほしみ)はセージということで」
と4人はフリップボードに自分たちの名前の漢字と当てられたスパイス名の一覧が書かれたものを見せながら説明した。
 
「結構苦しいとこもあるけど」
「だいたいスパイスというよりほぼハーブだし」(*26)
「それはしばしば突っ込まれる」
「一応公式では“明日はスパイスになりたいハーブ”と説明するんですけどね」
 
(*26) クミンはハーブと認識される場合とスパイスに分類される場合がある。
 
スパイスとハーブの線引きには様々な見解がある。元々ヨーロッパで栽培できていたものをハーブ、輸入するしかなかったものをスパイスと呼ぶ立場からは、クミンはヨーロッパでも栽培されていたのでハーブである。
 
しかし“種・果実”を使うものをスパイスといい、“葉・花・枝”を使うのがハーブという立場からは、タイム・セージ・ミントはハーブで、クミンはスパイスということになる。ちなみに“クミンシード”は“シード”(種)とは言うが本当は果実である。
 

彼女たちのメインライターは4人構成である。
 
作詩家:帝王胡桃・三池アンネ
作曲家:樋口花圃・星鷹
 
この4人が全員ケイの関係者で、ケイの人脈の広さが知れる。
 
楽曲の制作の指揮は三池アンネ(篠田その歌)がすることが多く、この段階で歌詞・楽曲を一部手直しする場合もある。他の3人は「自由に直して」と言っている。星鷹(タカ)は一般にMV制作に関わっていて、シナリオを書き、撮影の指揮・編集をしている。スパイス・ミッションが売れているので、彼も現在3割ほどの時間をスパイス・ミッションに割(さ)いているようである。
 

スパイス・ミッションが○○プロからデビューすることが決まった時、同事務所の丸花社長は、ケイに「マリ&ケイ名義でも秋穂夢久名義でもいいから」曲を提供してもらえないかと打診した。しかし当時ケイは、まだ絶不調から充分回復していなかったので、古い知り合いである樋口花圃を紹介した、
 
しかし樋口花圃はわりとおとな向けの歌を書いていたのでアイドルに歌わせる曲の歌詞を書く自信が無かった。それをケイに言うと、丸花とケイは引退して主婦をしていた篠田その歌に
 
「君、アイドル用の歌詞が書けない?」
と打診した。
 
それで、最初、篠田その歌(ペンネーム:三池アンネ)が歌詞を書き、樋口花圃が曲を付けるというパターンで制作することが決まった。
 
ところが、ファーストアルバムを出そうということになった時、2人だけではとても手が足りないということになる。ケイの仲介で松本花子から6曲もらうことができた(美川月花・愛野礼奈・南海妃呂・北沢晶菜・岡原加奈・岡原世奈から1曲ずつ)ものの、人間の作家の作品も入れたいということになる。
 
それで篠田その歌が、後輩の貝瀬日南(ペンネーム:帝王胡桃)を引き込み
 
「あんたなら私より若いし、アイドル歌謡の歌詞が書けるよね?」
 
と言った。作曲家ももうひとりくらい欲しいので、丸花さんが声を掛けて、集団アイドルの楽曲を結構書いていたセミプロ作曲家Aを引き込んだ。
 
それで制作をしていて、一通り録音も終わり、出来上がったマスターを工場に持ち込もうと準備している時に、その作曲家Aが薬物で逮捕されたというニュースが飛び込んでくる。
 
アルバムの発売日程は動かせない。そのためには最悪明後日の朝までには工場にデータを持ち込まないといけない。樋口花圃さんはそんな短時間では曲を書けない。
 

それで困っていた時、偶然スタジオの傍をローズクォーツのタカが通り掛かった。丸花さんに呼ばれて対策を練っていた雨宮三森がタカに声を掛けた。
 
「ちょっと来て」
「何ですか?」
「ご褒美に性転換手術をタダで受けさせてやるから」
「私、性転換するつもりはありません!」
「もう性転換済みだったっけ?」
「私は男ですし、女になるつもりは無いです」
 
「じゃ性転換しなくてもいいから、この3つの歌詞に明日夕方までに曲を付けて」
「え〜〜〜!?1日で3曲なんて無理です」
「その内1曲は朝までに書いてほしい。明後日の朝1番に工場に持ち込まないと間に合わないんだよ」
「分かりました。取り敢えず朝までに1曲書きます。日中にもう1曲は書けると思いますが、そこまでが限界です」
 
「2曲しかできなかったら睾丸1個除去だな」
「なんでそうなるんです?」
「万一1曲しかできなかったら2個除去。0曲ならペニスも除去」
「勘弁してくださいよー」
 
脅迫してるし!
 

結局タカは、ローズクォーツのバンドメイトであるヤス(太田恭史)を呼び出し、彼にも1曲書いてもらって何とか夕方までに3曲揃えた。スパイス・ミッションは翌日の朝8時から1曲歌い、仮眠後、午後4時から1曲、更に仮眠後、夜中の0時に起こされて最後の1曲を歌った。雨宮がOKを出したのは午前5時だった。むろんこんな時でも雨宮は絶対に妥協しない。
 
雨宮は結局2日完徹。タカも付き合わされて2日完徹。伴奏のバンドは2組交替で使った。むろん打ち込みでは間に合わない。
 
歌が完成した所で、録音していた技術者さんとは別の、仮眠していた技術者さんがマスタリング作業をして、レコード会社の若い人がバイクで工場に運び、何とかプレス開始に間に合わせた。
 
スパイスミッションの4人はほぼ徹夜になった。中学生なのに!
 
丸花さんが青森・岩手にある4人の実家まで行き、保護者に謝罪して回ったが作曲家の逮捕という非常事態だったとの説明で理解してもらえた。むしろ社長がわざわざ青物や岩手まで来てくれたことに恐縮していた。
 

プレス開始が間に合ったという報せに、雨宮・タカ・丸花は祝杯を挙げた。
 
「タカちゃん疲れたでしょ、これ疲労回復薬」
と言って雨宮から錠剤をもらう。雨宮が絶対に“覚醒剤”等はしないのは知っているのでタカも「頂きます」と言って飲んで水で流し込む。
 
するとホントに元気が出て来た気がした。
「この薬即効性がありますね。何て薬ですか?」(←先にそれを訊くべき)
 
「ただのダイアン35(*27)だけど」
「え〜〜〜!?」
 
雨宮を信用するほうが悪い!
 
(*27) 女性ホルモン製剤の一種。元々は女性用のピル(避妊薬)で、エストロゲンとプロゲステロンの双方を含有する。本来のピルは21日“本物”を飲んで7日間“偽薬”を飲む(休薬期間)が、Diane-35は偽薬が省略されている。つまり避妊したい女性より、男を廃業したい男性を意識している。タイのニューハーフさんにはこの薬から始める人が多い。男性が飲むと“不可逆的に”生殖機能が消失するので絶対に安易に飲んではいけない。
 
禁忌事項の多い薬なので詳細は専門のサイトを参照のこと。例えば喫煙者、肝機能の弱い人、高血圧の人は死亡の危険がある。
 
しかしダイアン35という名前を聞いただけで、どんな薬か分かるタカも大概である。
 

そういう経緯でタカはこのプロジェクトに強引に引き込まれてしまった。彼としては、この1回限りのつもりだったのが、毎回呼ばれるようになってしまった。
 
「おっぱい大きくする手術受けさせてあげるから。奧さんの許可も取った」
「要りません!」
「喉仏削る手術受けさせてあげるから」
「それ声域が小さくなりそうだら困ります」
「女性ホルモン注射してあげるね」
「夫婦生活できなくなるから嫌です」
 
「足のむだ毛、顔のむだ毛のレーザー脱毛させてあげるから」
「・・・・・」
 

貝瀬日南のペンネーム“ 帝王胡桃”は“カイゼルナッツ”と読む。歌手としての芸名“貝瀬日南”と出生名:平世夏美の変形?“ヘーゼルナッツ”の混成語。
 
篠田その歌は出生名が“三池ムタ子”で、制作者名の苗字“三池”はこの出生姓を使用したものである。アンネというのは、彼女の名前が元々、アンネ・ゾフィー・ムターから採ったものであることに由来する。現役時代、熱心なファンは彼女を“アンネ”と呼んでいた。彼女は2014年に##放送の牟田一彦(2022年現在はプロデューサー)と結婚したので、本名が牟田ムタ子になった!
 
ケイは篠田の初期のバックバンド(初代のボーラスター)でヴァイオリンあるいはキーボードを弾いていた。
 
貝瀬日南・篠田その歌のメインライターは秋穂夢久(あいお・むく)、つまりローズ+リリーだった!
 
ただし秋穂夢久が実はローズ+リリーであることは、その歌には引退するまで伏せていたし、日南にも2016年に至るまで知らせていなかった。
 
秋穂夢久の正体は仲介している丸花さん以外には、その歌・日南のみが知っていたのだが、2017年頃から一部の関係者には知られるようになり、昨年(2021年)12月に和泉がテレビ番組で述べて一般公開してしまった。
 
「そろそろ仮面を外すべきだよ」
と和泉は言っていた。でもまあかなりバレかかっていた!
 
秋穂夢久の正体は、歌詞の内容から1985-1990年くらいに生まれた女性作家と推定され、大西典香、夏風ロビン、谷崎潤子、松原珠妃、青島リンナ、百瀬みゆき、などが候補者として名前を挙げられていたが、ローズ+リリーと分かり(作曲量として)「あり得ない」と多くの人が言った。
 
また秋穂夢久の歌詞にはしばしば文法間違いがあることから、専門家ではなく、恐らくは本業が歌手かタレントさんと言われたのだが、実はこれは秋穂夢久の作品を作る時、ケイがマリの歌詞を敢えて校正せず、歌詞の勢いを優先していたことによるものだったことも、和泉はバラしていた。
 

樋口花圃は若手作曲家のひとり。UFOのメインライター吉原揚巻とわりと似たポジションである。随分長く作曲家として活動していたものの、スパイス・ミッションがブレイクするまでは「名前は通っているがヒット曲が無い」と言われていたのも吉原揚巻と似ている。
 
吉原揚巻同様、実は“東郷誠一”の“中の人”のひとりであった。ボニアート・アサドのデビュー曲『暖かい心』は彼女が東郷誠一の名前で書いた曲で実際の制作指導も彼女がしている。だからスパイス・ミッションは実はボニアート・アサドの妹分にもなっている。それで事務所は違うものの結構な交流がある。
 
樋口花圃とケイの関係は実は、パトロール・ガールズ仲間である。同じステージで踊ったこともある。パトロールガールズは、アイドルグループ“パーキングサービス”のバックダンサーであるが、地方公演の費用節約で、各地区にパトロールガールズが居て、北海道公演なら北海道のパトロールガールズ、福岡公演なら九州のパトロールガールズがバックで踊っていた。ケイの場合はパトロールガールズ関東に所属していたものの、上手いので“パトロールガールズ本部生”と一緒に、結構地方公演にも帯同しており、各地のパトロールガールズと交流があった。
 
樋口花圃はパトロールガールズ北海道の第1期メンバーであるが、コメディアンの内野音子、チェリーツインのヨーコ、などもこのパトロールガールズ北海道の一期生。この北海道一期生は“出世率”が高い。XANFUSの光帆などはパトロールガールズ北陸の出身。あの組織は多数のミュージシャン・タレントの“ゆりかご”になったのである。
 
§§ミュージックの“地方信濃町ガールズ”の制度は、地方パトロールガールズの制度を下敷きにしているのでは?と千里は指摘している。
 

星鷹は“スターホーク”と読む。本名の星居隆明から1文字取った“星”にステージ名“タカ”にちなんで鷹を付けた。MVの制作現場のみでなく、音源の制作現場にもかなりよく姿を現して、三池の良き相談相手になっている。音楽理論的に微妙な部分は彼が判断していることが多い。
 
彼は近年テレビなどにはほぼ女装で現れるし、スパイスミッションの制作現場にも、ワンピースなど着てくるが、本人は「俺は女装趣味は無い」と言っている!?
 
帝王胡桃(カイゼルナッツ)も星鷹(スターホーク)もナレーター泣かせである。知らないと絶対読めない。
 
事実上のプロデューサーである三池アンネは元アイドル歌手という立場から、スパイス・ミッションのメンバーの良き相談相手にもなっており、“あねご”と呼ばれて親しまれている。
 
4人の呼ばれ方:−
 
帝王胡桃(貝瀬日南)カイザー
樋口花圃:カホ先生
三池アンネ(篠田その歌):あねご
星鷹(タカ)おタカさん
 
この呼び方は内々のもので、人前では、カイザー先生、樋口先生、三池先生、星居先生と呼んでいる。
 

インタビューに話を戻す。
 
「伏木って、気象観測所で有名ですよね」
とクミンが言った。
 
「よく知ってるね!」
「富山県の伏木では・・・ってよく聞くから」
 
「ここは元々、越中国の国府が置かれていた場所なんだよ、それで経済活動も盛んで、明治16年に回船問屋・藤井能三によってプライベートな気象観測所が開設された。ところが始めてみると運営に結構な費用が掛かる。それで県に陳情して、施設は提供するから運営は県にしてもらうことにした。名前も県立伏木測候所となる。昭和に入ってから国の管理下になって、中央気象台伏木観測所となり、その後、伏木測候所、伏木特別地域気象観測所と改名されている」
 
と青葉は簡単に説明した。
 
「よく“富山県の伏木で”と聞くから“伏木市”とかあるのかと思ってました」
 
「伏木町(ふしきまち)だった時代もあるね。まあ1500年以上の歴史を持つ古い町だね」
「大伴家持(おおともの・やかもち)とかが住んでたんですよね」
 

「そうそう。令和の元号の件でも話題になったね(*28)。当時は布勢水海(ふせのみずうみ)という大きな湖もあって、そこに船を浮かべて和歌を詠んだりしていた。この湖は長い間に干拓されて小さな池みたいになってしまい、現在は十二町潟と呼ばれている」
 
「私、乙女の歌好きです」
「春の苑(その)、紅匂う桃の花、下照る道に出立つ乙女、だね」
「美しい風景ですねー」
「あれは実際、家持(やかもち)が仕事を終えて帰宅した時、奧さんが表に出て『お帰りなさい』と言ってくれたのを歌に詠んだらしいね」
「奧さん、美人だったんでしょうね〜」
 
(*28) “令和”の出典は万葉集巻五815 の前に置かれた大伴旅人の文章からである。
 
天平二年正月十三日(Greg.730.2.8 土)、師老の宅に萃(あつま)りて、宴会を申べつ。時に初春の“令月”にして、気淑く風“和やか”に、梅は鏡前の粉ひ(よそほひ)を披き、蘭は珮後(はいご)の香を薫しぬ。
 
大伴旅人(おおとものたびと)は桃の歌を詠んだ大伴家持の父である。この梅の宴は九州の太宰府政庁近くにあった旅人の自宅で開かれたものとされる。
 

スパイス・ミッションの4人は盛岡の芸能スクールで知り合った仲で、東北出身ということでも、宮城県栗原市出身のボニアート・アサドとはお互い親近感を感じるようである。しかし青森・岩手の出身ということから、大船渡出身の青葉ともかなりローカル・ネタで話が弾んだ。ラピスラズリの2人も興味深そうに聴いていた。
 
「スパイス・ミッションは、アルファベットのイニシャルを取ってはいけないという話があって」
などと町田朱美が言う。
 
その瞬間青葉が気付いて「あぁ!」と言った。
 
「略すと住友三井さんの商標とかになって使っちゃいけないんでしたよね」
とタイム。
「いや、そういう話じゃねーだろ」
と朱美。
「これ小学生とかも見てますから」
「うん。確かに言ってはいけない」
 
「うちのファンクラブも最初マネージャーさんがムニャムニャ・クラブって付けようとして社長に叱られたらしいです」
「あはは」
 
隅で収録を見ているマネージャーの砂糖茶々も声は出さずに笑っている。
 
「結局ファンクラブの名前はどうなったの?」
と青葉。
「炭焼き小屋だよねー」
と朱美。
「はい。そうなんです。会員は炭焼き人です。入会すると備長炭が1本ブレゼントされます」
「私ももらったよー。あの時は大量に備長炭が売れたな」
「入会ありがとうございます。ブレイクした時たいへんだったみたいです」
 
「ちなみに海外向けサイトでは、SPM という略語を前面に出しています」
「苦しいな」
 

歌に行くことになる。昨日のUFO同様、掃き出し窓から出て、濡れ縁を歩いてピアノルームに行く。
 
「あの右手の建物は?」
「あれはお隣の家なんだけどね」
「お隣さんですか!でも廊下が繋がってますね」
「§§ミュージックさんの施設なんだよ。あそこでたくさんお仕事しないといけないみたい」
「お仕事が家まで追いかけてきたんですね!」
「そんな感じ」
「大変ですね」
 
濡れ縁を抜けていったん屋内に入る。昨日はζζプロの大物アーティストのポスターが貼られていたが、今日は保坂早穂、貝瀬日南、南藤由梨奈、森風夕子といった○○プロのアーティストのポスターである。篠田その歌(三池アンネ)は正式に引退しているからここには出ない。原野妃登美はリストラされちゃったからここには出ない。貝瀬日南は“引退”ではなく“歌手活動休休業中”だからラインナップに入れたようである。
 
「わあ、カイザーだ」
とスパイス・ミッションたちが言っている。カイザーとは帝王胡桃(貝瀬日南)のことである。
 
「この4人を選んだのは“主”(ぬし:保坂早穂のこと)だよ」
「偉大なる先輩です」
 
○○プロの礎(いしづえ)は保坂早穂により作られた。彼女のブレイクで、○○プロは中堅の芸能事務所から大手芸能事務所のひとつに成長したのである。早穂は現在○○プロの筆頭株主であり、次期社長になるのは多くの社員と所属タレントのコンセンサスとなっている。
 

ということでピアノルームに入る。
 
「広ーい」
「天井が高い。ここ2階建てなのかと思った」
 
「響きを確保するために天井を高くして、振動する空気の量を増やした設計だね」
とケイが解説する。
「なるほどー」
 

町田朱美がピアノの前に座り、彼女の伴奏でスパイス・ミッションのヒット曲『カレドニアで彼がカレーを食べてるのカレイドスコープで六面観察だ』を歌った。ダジャレ好きの帝王胡桃(貝瀬日南)さんの曲である。
 
「この歌の歌詞って、ほとんど意味が無いよね」
と朱美が遠慮無く言う。
「はい、カイザー先生もただのダジャレだからと言っておられました」
とタイムも笑って言っていた。
 
「ポワンカレがアンカレッジ大学のカレッジでカレンダーを見るとか」
「カレー港から華麗なる旅に彼のカー、レッツゴーとか」
「枯れ木にカトレア咲かせましょうとか、枯葉が可憐に落ちてくるとか」
「カレントのカレンシーの動きにお疲れさんとか」
「彼氏の名前はカレン・カーレンターとか少し苦しいです」
「それ男なのか女なのかよく分からない」
「全体的にシチュエーションがよく分からない所も多いですよね」
と彼女たちも笑っていた。
 
「でも『僕もスパイス・ミッションに六面観察されたいです』というファンメールたくさん頂きました」
「まあ妄想で我慢してもらうということで」
 
彼女たちも高校生になったのでできる“おとなの会話”だった!
 

スパイス・ミッションの撮影で今回の取材は終わりかと思ったら
「お昼を食べてから午後からラピスラズリの取材をするね」
とケイは言った。
 
「ああ。まあいいですよ」
と青葉は答える。
 
スパイス・ミッションの取材が終わったのが11:00頃で、撮影後、青葉たちはLDKに移動し、そこに千里が明恵と2人で全員に松花堂のようなお弁当と、お吸い物を配った。真珠は夕方からまた稼働してもらうので仮眠中である。
 
「醍醐先生、すみません!」
とスパイス・ミッションが恐縮していた。
 
「立ってる者は社長でも使えと言うしね」
「うちの社長(丸花茂行)を使うのは怖すぎます!」
「あはは。社長や副社長(浦中)の顔を見るとヤクザの親分でもビビるらしいし」
 
「元警視総監なんでしょう?」
「警視総監までは出世してないけど警視正だったんだよ。会社でいえば部長クラス。浦中さんはその時の部下の警視」
とケイが言う。
 
「やはりお偉方だったんですね」
 

丸花は東大出身のキャリア組で順調に行けばいづれ本当に警視総監になっていたかも知れない。しかし1985年に重要事件の被疑者がマスコミなどが大勢いる中で事件の被害者に刺殺される事件があり、その警備や捜査指揮に関する責任を問われて辞職。友人から誘われて芸能プロに入ったのがこの世界との関わり始めである。この時、部下の浦中活秋と津田昭弘(現在の津田アキ。津田民謡教室主宰)も丸花と一緒に辞職した。
 
やがてその芸能プロが倒産した時、契約していたタレントたちの受け皿作りのために○○プロを数人で共同設立。その後幾度かの合併・分裂などを経て、いつの間にか自分が経営者になっていた、と本人は言う。
 
“大分裂”の直後は丸花・浦中・津田が同等の権限を持っていた。しかし津田は性転換手術を受けるために離脱。丸花も病気のためほとんど会社に顔を見せなくなり、かなり長期間、浦中が代表権の無い取締役のまま会社を動かしていた。
 
丸花もかなり怖い顔だが、浦中はヤクザの大親分にしか見えない!この事務所に入った若いタレントが
「ここもしかして“ヤ”の系統の事務所ですか?」
と恐る恐る先輩に尋ねるらしい。
 
しかし過去の経歴から丸花も浦中も警察・自衛隊などに幅広い人脈を持つ。特に浦中は「ヤクザより怖い」と、よく言われる。
 
鈴木社長の∞∞プロ同様、やる気のあるマネージャーを担当タレントと一緒に独立させたり、また経営力に難のあるプロダクションに部下を送り込んで建て直したりして、多数の系列事務所ができている。△△社やUTPもそういう系列事務所である。
 

食事が終わってから、昨日のUFO同様、青葉が(正確には姫様が!)ハンガリーのチョコを出して、それを摘まみながらお茶を飲んでいたら、山村マネージャーが運転する“アクアのアクア”ver3 "Virgo"に乗ったアクアが入ってくる。
 
「アクア!?」
と青葉が驚いていると、町田朱美が説明した。
 
「1月に私たちがアクアを取材した時、ラピスラズリの取材は自分がしようかとアクアが言っていたので、インタビューアーをしに来てくれたんですよ」
「言ってたね!」
 

それでお庭に出て、アルハンブラの前に、アクア、スパイス・ミッション、ラピスラズリ、が並んでいるところの記念撮影をした。
 
ラピスラズリは、さっきのインタビューをする間は2人ともアニエスベーの黄色いカジュアルワンピースを着ていたのだが、今度はインタビューされる側になるので、黒いドレスと白いドレスに着替えた。安芸千紗登さんデザインのものである。
 
なお、来紗の部屋をラピスラズリの控室として使わせてもらっている。ゲストの控室は京平の部屋を使用している。現在子供たちは西側の部屋を使う緩菜と由美だけなので、東側の子供部屋は使われていない。
 
アクアはディオールの紺色キュロットスーツを着ている。放送時に、なぜスカートじゃない?と非難された。
 
ケイが運転するアルハンブラに乗ってラピスラズリが入ってきて、それをアクアが迎えるシーンを撮影する。
 
その上で、スパイス・ミッションとマネージャーは放送局の車で次の撮影地・海王丸パークに向かった。今回、海王丸は人気アイドル・スパイスミッションの来場を歓迎して特別に総帆展帆してくれるらしい。(警備が大変な気がする)
 
その上でアルハンブラは明恵が運転して金沢に回送した。アルハンブラを回送して行ったので、青葉は「ラピスの取材で今日は終わりだから回送したのだろう」と思った(甘い!)。
 

アクアがラビスラズリを案内してサンルームに導く。通路のポスターは北里ナナ!、UFO、スパイス・ミッション、ラピスラズリとなっている。青葉が笑顔で全員を迎える。
 
「アクアを取材した時に、ラピスラズリを取材する時は、アクアがインタビューワーを務めるよという約束をしていたので、今回の聞き手はアクアです」
と青葉がカメラに向かって説明した。
 
「ということで、自己紹介をどうぞ」
とアクアが言い
 
「ラピスラズリの東雲はるこです」
「ラビスラズリの町田朱美です」
と2人は挨拶する。
 
「本名じゃないよね」
「はい。芸名でーす」
 
「これ、ケイ先生・マリ先生と醍醐春海先生とコスモス社長の四者会談でユニット名とともに決まったらしいです」
と町田朱美が言う。
 
本当は“東雲はるこ”“町田朱美”の名前はコスモスが単独で決めて、ラピスラズリというユニット名を決めたのが↑4人だが、この付近は朱美の勘違いか、そもそもこのように教えられたかである。そのことにケイは気付いた(千里は忘れている)が、わざわざ突っ込まないことにした。
 
「枕草子の“春は曙。ようよう白くなり行く山際、少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる”というのが元ネタなんだよね」
とケイは言う。
 
「朝の時間帯の名称が、あかつき(暁)→しののめ(東雲)→あけぼの(曙)→朝ぼらけ、と移行するらしいです。暁はまだ暗い時間帯、少し明るくなり始めたくらいが東雲で、そこから東雲はるこはまだまだ未完成だけどこれから伸びていくという意味、私は東雲ちゃんを導いていく“露払い”ということでひとつ先の時間帯あけぼの、だったんですが“あけぼの”というとお相撲さんの名前にあったし、男らしすぎるので、性転換して“あけみ”になったんですよ」
 

「朱美ちゃんが性転換したというのは名前の話なんですよねー」
とアクア。
 
「そうなんですけどね。世間では私は性転換手術受けて女の子になったと思われてるみたいで」
「実際は生まれながらの女の子だよね」
「そのつもりでーす。自分のお股にちんちん付いてるの見たことないし」
と朱美は言ってから
「アクアも自分のお股にちんちん付いてるの見たことないよね?」
「えーっと」
 
こら、なぜそこで言いよどむ?
 
(ここに居るのはアクアFなので実際、自分のお股にちんちんが付いているのは生まれてこのかた、見たことが無い。Mの方は勾陳や九重のおもちゃにされて自分のペニスが消失している状態を体験している)
 
「アクアもそろそろ『ごめんなさい。ぼく女の子でした』とカムアウトすべきだなあ」
などと町田朱美は言っている。するとケイが
 
「今日はインタビューされるのはラピスラズリだから」
と言って、この話を打ち切ってしまった!
 
これでアクアの性別疑惑は宙ぶらりんになってしまう。
 
どうも千里姉やケイさんは“アクア女の子説”を広めたいような気がする、と青葉は思った。
 

「白鳥リズムちゃんが2人の芸能界入りには大きく関わっているんだよね」
と青葉は話を向けた。
 
「そうなんです。私たち、2019年夏に§§ミュージックのロックギャルコンテスト石川県予選を見学に行ったんです。そしたら審査員で来ていた白鳥リズムちゃんと遭遇したんです。『ファンなんです。サインください』と言ったら、快くサインしてくれたんですが、私たち見て『君たちもオーディションに出ない?』と言われて。それで参加したら、東雲はるこが1位、七尾ロマンちゃんが2位、私が3位で」
 
「白鳥リズムは2人に物凄く光るものを感じたと言っていたよ」
とケイが補足する。
 
「一緒に居たもうひとりの子も誘ったけど、その子は『ぼく男の子なので』と辞退したらしい」
とケイ。
「でもその子、ちんちん切ったんだったっけ?」
と青葉。
「結局切らなかったみたいですよ」
と朱美。
 
ほぼ全ての視聴者がその子って性転換を考えていた男の娘だったのだろうと思ったようで、本人(平野啓太)は朱美が会いに行ったら怒ってたらしい!
 

「この年は結局石川県予選の1−3位がそのまま全国でも1−3位になったんですよね。それで元々仲が良かった私と東雲はるこがデビューして、七尾ロマンちゃんは1年鍛え直すと言って、翌年トップ合格しました」
と町田朱美。
 
「あの年は物凄いハイレベルの年だったね」
とケイ。
 
「この年、石川県で4位になって北陸予選に行けなかったのが鹿野カリナ、北陸予選で4位になって全国大会に行けなかったのが山本コリンです。地域によらず二次予選に進出できる2020年以降の方式ならこの2人も本選で上位になってますよ」
 
とアクアは補足する。
 
「その2人も現在、地上波のレギュラー番組持ってるし、あけぼのテレビでの露出も多い。信濃町ガールズに籍を置いているのは卒業ということにすると、信濃町ガールズが足りなくなるからです。本当にあの年は凄かったです」
 
とケイは言った。
 

「それであの時、本当はデビューするのは東雲はるこだけのはずで、私は3位だから信濃町ガールズ本部生になって数年後のデビューを目指す予定だったのですが、お友だちなら組んでペアでデビューしない?と言われて、ラピスラズリが生まれることになったんですよね」
 
実際は東雲はるこが歌は上手いが、精神的に弱いので、お友だちと一緒なら心強いだろうというので組ませたのである。それで成功したからやはりコスモスは慧眼である。
 
ラピスラズリの成功で、§§ミュージックはそれまで実質“アクアの事務所”だったのが、複数の柱を持つ事務所に変わることになる。そして翌年は常滑真音が出て来たし、“その次”を恋珠ルビー、水森ビーナ、薬王みなみなどが狙っている状況。
 
一方、あけぼのテレビの顔となった鈴花あまめ、ルビーとセットで売れている花貝パール、“3年目のブレイク”を果たした原町カペラ、更には確実にファン層が広がりつつある水谷姉妹、甲斐姉妹、セレン&クロム、また安定して売れている白鳥リズム・姫路スピカなども居て、群雄割拠になってきている。
 
↓2022.6現在の§§ミュージックのプラチナ歌手
 
ミリオン:アクア、常滑真音、ラピスラズリ
ダブルプラチナ:白鳥リズム、品川ありさ、薬王みなみ
プラチナ:姫路スピカ、高崎ひろか、エーヨ、水森ビーナ
 
薬王みなみのデビューシングルは結局80万枚(トリプルプラチナ)で留まったが、2枚目のシングルが現在順調に枚数が伸びており、4人目のミリオン歌手になる可能性もある。
 

歌のコーナーに行く。ピアノルームに移動する。
 
アクアが
「濡れ縁(ぬれえん)に廂(ひさし)とか、和風で素敵ですね」
と言っていた。
 
この家は播磨工務店の南田の設計・建設、アクアの八王子の家は九重の設計建設である。同じユニット工法でも、アクアの家はアメリカンな感じ、ここは和風の雰囲気になっている。ただしアクアの家には平安貴族の家のような池と釣殿などもあり、“四神相応”が作り込まれている!
 

今日のピアノ室前のポスターは、アクア、北里ナナ!、姫路スピカ、白鳥リズムである。
 
「本番前に見た時は、日野ソナタさん、コスモス社長、ゆりこ副社長、桜野みちるさんだったのに」
とアクア。
 
「気のせいです」
と町田朱美。
 
ケイも驚いているようなので、コスモスさんの指令だなと青葉は思った。朱美は知ってたようだし。
 
“エレクトーン”の前にアクア(アクアF)が座り、彼女の伴奏で、ラピスラズリのヒット曲『愛のドテ焼き』を軽快なロックのリズムに乗せて歌った。この曲はケイにとっても思い出深い曲なのでケイが涙を浮かべていた。
 
演奏終了後、この曲についてケイが補足説明した。
 
「今演奏した曲は『愛のドテ焼き』とアナウンスしたのですが『愛のドテ焼き』とは歌詞や曲調が違うのではないかと思われた方もあるかと思います。今演奏したのは実は『ドテ焼きロック』という曲です。この曲は最初私が蔵田孝治さんと一緒に作曲した時は『愛のドテ焼き』の名前でした。これがラピスラズリのシングルに収録されたバージョンです」
 
「この曲はその後、制作途中でロック色が強くなり『ドテ焼きロック』と改名されました。このバージョンを松原珠妃はCD発売前のの2004年12月に、留萌・札幌・スパリゾートハワイアンズつまり昔の常磐ハワイでのライブで演奏しています。更にローカルテレビ局が制作したスタジオライブ、そしてお正月のテレビ番組で披露されましたが、この時期は様々な試行錯誤をしていたので留萌バージョン、札幌バージョン、常磐バージョンが全部違うらしいです。スタジオライブを放送したテレビ局にもお願いして当時のビデオを探してもらったのですが見付かりませんでした」
 

「ところがこの曲を最初に発表した北海道留萌市のイベントが、当時市の関係者によって録画されていたことが判明し、そのビデオデータが松原珠妃に寄贈されました。そのビデオを元に、私が蔵田さんの許可を得て譜面を復元したのが今日ラピスラズリに歌ってもらったバージョンです。ロックのリズムなので、アクアにはエレクトーンで伴奏してもらいました」
 
青葉はケイの話を聞いていて2004年12月に留萌でのイベントを録画していた人って、ちー姉じゃないの?と思った。当時ちー姉は・・・中学2年生だったハズである。
 
一方、ケイはそのイベントの録画の中で、千里がセーラー服を着てコーラス部として出演し、更に剣道の試斬りをし、若い頃の?山村マネージャーと模擬試合まで披露していることなど他人には言わない。そういうの突っ込むと絶対“反撃”されて消去したはずの写真とかを暴露されそうだし!小学2年生の時のヌード写真!?とか絶対ヤバい。
 
でもあの時半日でまとめろと言われて学校休んで書いた『美少女剣士・にしん伝説』はきっと千里のことを歌った曲だ!でも千里があんなに剣道できるとは知らなかった。高校になってバスケットするようになって剣道はやめたのだろうか。ちょっと惜しい気もするけど、などとケイは思っていた。
 

収録後、一同(表の)リビングに移動して、お茶を飲む。真珠と初海が全員にケーキと紅茶を配った。初海はラピスの取材中に来ていた。
 
「おやつね」
「ありがとうございまーす」
 
ここでお茶を飲んだのは、青葉、千里、ケイ、アクア、ラピスラズリの6人である。
 
「でもこの家は建築費いくら掛かったんですか?」
と朱美が尋ねる。
 
自身も家を建てたばかりなので気になるのだろう。ちなみに朱美が江戸川区に建てた家は、土地代4800万円+建設費2600万円で合計7400万円だった。朱美は土地代をキャッシュで払い、建築費はローンにしてもらった。銀行は入れずに播磨工務店と直接24回払いの契約をしたが、たぶん1年で返せるだろう。
 
「ここは土地代2000万円と建築費4600万円合計6600万円だよ」
「嘘!?そんなに安いんですか!私の建てた家より安い」
 
と朱美が驚いている。ここは朱美が買った土地の5倍くらいの広さがある。但し実は床面積はそう違わない。朱美の家は352H2= 290m2だが、この家は415H2= 342m2である。平屋と3フロア(B,1F,2F)構成の違いである。
 
(H2=平方半間=1/2畳=1/4坪)
 

「田舎と東京区部では土地の値段が10倍違うからね〜。それに朱美ちゃんの家は栃木県産の檜(ひのき)を使ってるけど、この家は能登産のアテ(ヒバ)を使っているから材料費が少し安い」
 
「それにしてもかなり広いのに」
 
「何ならこの家と朱美ちゃんの家を交換する?」
「それやると、私がアクアの曲を書かないといけないんでしょ?」
「よく分かるね。朱美ちゃんが大宮万葉の代わりをしてくれたら青葉が休める」
と千里。
 
「その代わり、大宮先生は女装して私の代わりに。はること組んでラピスラズリしないといけませんよ」
と朱美。
 
「女装の自信が無いかも」
と青葉は笑いながら言った。
 
「あるいは朱美ちゃん、かほく市にもう1軒家を建てて、そこから仕事に通う?かほく市なら、土地代こことあまり変わらないと思うよ」
 
「それは通勤が大変すぎます」
「通勤用にF-16買うとか。東京まで30分も掛からないよ」
「売ってくれませんよ!」
「だいたいどこから飛び立ってどこに降りるのさ」
 
私F-16に乗せられたりしないよね?と青葉は一瞬不安を感じた。
 

6人がおしゃべりをしていると、庭に“招き猫”外装のトヨタアクアが入ってくる。
 
「あ、マネちゃんが来た」
とアクアが言う。
 
「え?え?」
と青葉が言うと
 
「今日3人目のゲストですね」
とラピスラズリが言った。
 
「今日は3人もやるの〜?」
「本当は昨日2人、今日2人にしたかったけど、スパイスミッションの仕事が遅くまで掛かったから今朝に回したんだよ」
とケイは言う。
 
「待って。少し休ませて」
と青葉は言う。
 
「うん。休んでて」
と千里は言うと、アクア、ラピスラズリを連れて庭に出る。ケイも一緒に行く。
 

「ヤッホー!呼ばれて飛んできてジャジャジャジャーン!」
「ウェルカム・トゥ・伏木」
と言って、朱美・はること舞音はハグしている。
 
「会長、ちょっとご報告があるのですが」
とマネージャーの悠木恵美が言った。
 
「どうしたの?」
「一応社長にもご報告したのですが」
と前提を置いてから話し始める。
 
「ここに来る途中、少し時間調整したほうが良さそうだったので海王丸パークに行ったんですよ」
「スパイス・ミッションが行ってたでしょ?」
 
「はい。それで総帆展帆してると聞いたので、それを観客に紛れて撮ってこようと思って見に行ったんですよ。イベントが終わると帆はたたんでしまうかも知れないけど、終わった直後ならまだ帆を開いている絵を撮れるかもしれないと思って」
と悠木恵美は言う。
 

「それでイベントの終わり際を狙って行ったのですが、行ったらまだやってたので終わるの待ってたのですが」
「私がクミンに見付かっちゃって」
と舞音が申し訳無さそうに言う。
 
「見付かって当然という気がする。舞音ちゃんパッと目立つもん」
と朱美。
 
「でも目立たないように、今着ている普通のセーラー服着て、ちゃんとマスクもしてたんだよ。もちろん海王丸の撮影はスパイス・ミッションのステージが終わった後にするつもりでカメラも出してなかった。でもクミンと目が合っちゃって」
 
「ああ」
 
「それで結局、ステージに呼ばれて。セーラー服のままスパイスミッションの『そうだ。みんなでセーラー服を着よう』のピアノ伴奏をしてきた」
 
「よく伴奏できるねー」
「UFOやスパイス・ミッションの曲なら大抵弾ける」
「すごい」
「それより彼女たちのイベントを邪魔してしまう形になって申し訳無かった」
と舞音は言う。
 

「取り敢えず私が向こうのマネージャーさんに謝っておきましたけど、すぐコスモス社長にも連絡しました。先程コスモス社長から、浦中副社長に電話して謝っておいたよという連絡がありました」
と悠木恵美はケイに報告する。
 
「問題無いと思うよ。事故みたいなものだし」
とケイは言った。
 
実際、浦中さんは後でコスモスに電話して来て
「現地に電話して確認したけど、お客さんはサプライズ企画と思って喜んでたらしいし、主催者も喜んでたから全く問題無い」
と笑って言っていたらしい。
 
現地の砂糖マネージャーもスパイス・ミッションたちもそもそも“トラブル”とは認識していなかったという。浦中さんは、むしろ舞音がいきなり言われた曲を即伴奏したのが凄いと言い、「さすがコスモスちゃんとこのタレントさんは総合力が高いね」と感心していたらしい。
 
しかし悠木恵美がすみやかにコスモスに報告し、コスモスもすぐ浦中さんに電話したから、それで収まったんだろうなとケイは思った。
 

「でも見付かってしまったから、結局総帆展帆した海王丸をバックにした舞音の撮影は、イベントの警備の人たちが壁を作ってくれて、他の観客無しの状態で撮ることができて助かりましたけど」
 
と悠木恵美は言っていた。せっかくだからというので、セーラー服から、水兵さんのコスプレに着替えて撮影したらしい。
 
「セーラー服とセーラーさんの服の違いか」
と朱美。
「セーラー万年筆を持ってるとよかったね」
と千里。
 
また舞音とスパイス・ミッションはサイン色紙を交換してハグしてきたらしい。
 
この海王丸をバックにした映像は『舞音がセーラーさんの真似をした』という曲のMVに(海王丸側の許可を取って)利用することになる。
 
帝王胡桃(貝瀬日南)は実はこの話を聞いて『精悍な青年が西南にセイルしたら性別が変わっちゃって今セーラー服着てる』という曲を書いたが、(○○プロの)前田制作部長から却下されたらしい!
 
なお新湊でのイベントの後、スパイス・ミッションは富山空港に行き、昨夜舞音が乗ってきたHonda-jetOrangeに乗って熊谷に帰還している。
 

報告が終わった後で“舞音のアクア”(*32)の前に、アクア、舞音、ラピスラズリの4人が並んで記念撮影した。
 
「昨夜来てたんでしょ?」
と朱美が尋ねる。
 
「そそ。昨夜20時半に富山空港に着いた。高岡市内で1泊して、朝2時に起こされた」
「2時は朝なの〜?」
と、はるこ。
 
「舞音を2時に起こすために1時半に起きないといけない私の身になってほしいよ」
とマネージャーの悠木恵美。
 
「県道32号で、舞音が朝日に向かってスクーターで走る映像を撮影したからね。本番は4:37の日出だけど、天文薄明が2:46から始まるから、朝2時半までには現地に行ってないといけないし。撮影スタッフは現地で一晩明かしたらしい」
と恵美。
 
「よくやるなあ」
と朱美。
 
「夏至が来たばかりだからね〜」
と千里。
 
「スクーターの撮影の後は仮眠してた?」
とはるこが訊くが
「まさか」
と恵美・舞音・朱美・アクア。
 

「スクーターのCM撮影の後、早朝のあまり人が居ない内に、氷見市の“まんがロード”・光禅寺・忍者ハットリくんカラクリ時計、と撮影した」(*29)
 
「カラクリ時計がメインか」
「そそ。ロボット掃除機のCM」
 
高山のからくり人形、久留米の弓曳き童子などのシリーズである。
 
「多分それで終わりじゃないよね?」
と朱美。
 
「当然当然」
と舞音。
 
「腕時計のCM撮影用に高岡大仏で撮影して、ついでに“利長くん”(*30) に遭遇したから記念撮影した。それから南砺市の“木彫りの里・井波”(*31)に行って和風照明のCM撮影をした。でもまだ充分時間があるねと言って新湊に行ったら、面倒なことになっちゃって。でもいい絵は撮れた」
 
「ほんとに忙しいなあ」
「1日にバイク、ロボット掃除機、スポーツウォッチ、和風照明、帆船と5つも撮影やって、そのあとインタビューに来たのか」
「土日はだいたいそんなもん」
「恐ろしい」
 

(*29) 氷見市は藤子不二雄A(安孫子素雄)の出身地なので、それを記念して様々なモニュメントが作られている。光禅寺には、ハットリ君、怪物くん、プロゴルファー猿、喪黒福造の石像が立っている。“まんがロード”にも様々な漫画のキャラ像がある。
 
なお、相棒の藤子・F・不二雄(藤本弘)の出身地は高岡市でそちらの旧市街に様々な記念物があるので、遠くから来た人は一緒に訪れるといいと思う。更に余力ある人は輪島市まで行くと永井豪の記念館もあるので、そこまで行くと完璧。
 
(*30) “利長くん”は高岡市のゆるキャラ。前田利長をモデルにしたもの。
 
利長は前田利家の長男で、加賀・能登・越中の三国を支配する北陸の大藩“加賀藩”の初代藩主である。しかしあまりにも偉大な父・利家、32歳年下の弟で加賀藩の礎を築いた聡明な2代藩主・利常の間にはさまれて今一目立たない存在である。
 

(*31) 井波の道の駅に多数の木彫り製品の展示がなされている。この道の駅から歩いて10分ほどの所にある瑞泉寺前には、2011年に「世界一長い木製ベンチ」が作られてギネスに認定されたが、以前にも書いたように現在は既に解体されて消滅し、石川県志賀町のものが取り敢えず日本一に復帰した。、
 
(*32) このアクアは2022年春に発売された“アクアのアクア”ver3 "Virgo"である。アクア自体が2021年7月にモデルチェンジしたので、それをベースにしたアクアのアクアも2022年春に発売され、これに伴いバリエーションとして“舞音のアクア”(限定98台)も発売された。
 
アクアのアクア(2020)
 限定車:花ちゃんのアクア、スピカのアクア、白鳥のアクア
アクアのアクア ver2 "Leo"(2021)
アクアのアクア ver3 "Virgo"(2022)
 限定車:舞音のアクア、シンデレラのアクア
 
初代アクアのアクア(通称ver1)はトヨタ・アクアのクロスオーバータイプをベースにしていたので3ナンバー車であった。「アクアのアクアが欲しいけど3ナンバーは・・・」という声に応え、ver2 "Leo"ではアクアのGグレードをベースに制作して5ナンバーのサイズに収めた。2021年は限定車は出ていない。
 
今回は2021年7月に出た新型アクアのZグレード E-Four(電気式四輪駆動)をベースにしている。
 

今回は2種類の限定車が発売された(一般発売98台+1号車は舞音・ルビーにプレゼント:抽選の倍率が特に舞音版は100倍を超えていた)。
 
“舞音のアクア”はゴールドの塗装で、エンブレムは招き猫である。ステアリングにも招き猫の模様がプレスされているし、シートも黒白金赤青緑の招き猫模様である。ボンネットと側面に貼れる、白招き猫、黒招き猫のシールが付いているがさすがに本当に貼る人は少ないと思われる。貼りたい人で自分で貼る自信の無い人は、購入する時に販売店に頼めば貼ってくれる。常滑焼きの招き猫、舞音のコスプレ写真集もオマケで付いている。この写真集は単体でも買える。
 
“シンデレラのアクア”はルビーとビーナをモチーフにしている。エンブレムはガラスの靴である。座席の模様もガラスの靴とカボチャの馬車である。シンデレラの扮装をしたルビーの絵、シンドルの扮装をしたビーナの絵、カボチャの馬車の絵のシールが付属している。また希望のサイズのガラスの靴(アクリル製)、ルビーとビーナのシンデレラ・シンドルの写真集もおまけで付いている。このガラスの靴・写真集も単体で買える。
 
 
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【春零】(3)