【春零】(2)

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「お母ちゃん、ナプキン買いたいからお金ちょうだい」
とその日、日和は言った。
 
「ナプキンとか何するの?」
「よく分からないけどお股から血が出てて、とりあえず持ってたナプキン当てておいたけど、足りないから」
「あら、あんたもとうとう生理が来たのね」
「生理なのかなあ」
「きっとそうよ。はいこれ。普通の日用と多い日用と買っておくといいよ」
「分かった。ありがとう」
 
「今夜はお赤飯炊こうかね〜」
「お赤飯なの?」
「女の子が初めて生理が来たらお赤飯炊くんだよ」
 
「ぼく女の子じゃないけど」
「生理が来た以上は女の子だよ」
「そうかなあ」
「来週から女子制服で学校に行く?」
「どうしよう?」
 

7月2日、彪志を送っていった後の能登空港から伏木へのマーチニスモにはこのように乗った。
 
運転席:初海
助手席:ケイ
運転席の後ろ:青葉
助手席の後ろ:コスモス
 
青葉からの信頼度が高いコスモスが隣に乗っている。しかしコスモスは言った。
 
「私からもお願いがあるのですが、その件は後からにして、先にケイ先生の御用事を」
 
それで、効率は悪いが斜めに話すことになる。
 
「ミュージシャンアルバムの次の放送が迫っているんだよ。その取材をお願いしたい」
とケイ。
 
「もしかして私の家でやるんですか?」
「私、コスモス、響原常務(◇◇テレビ)、漆野部長(〒〒テレビ)の4者でネット会談をした。青葉の負荷が物凄いことになっているから、何とか少しでも負荷を下げようということで、今後のミュージシャンアルバムは青葉の自宅に各々のミュージシャンを招待する形を取ることにする」
 
「あのぉ、それ私抜きで決まったんですか?」
 
私の家なのに!
 
「事後承諾で申し訳無い。それにここまで取材した6組の中で実際に御自宅を訪問できたのは、長沼さんとアクアだけなんだよ」
「ああ」
 
これまでのミュージシャンアルバムの取材場所↓
 
放送 取材
4.10 1.26 アクア 自宅(代々木)
4.24 1.24 長沼清恵 自宅
5.15 1.25 XETIMA 事務所のスタジオ
5.29 1.25 富士川32 レコード会社のスタジオ
6.12 4.02 三つ葉 熊谷のコテージ
6.26 4.02 ボニアート・アサド 熊谷のコテージ
 
つまり何年か売れてきていて、自宅が買える程度の蓄財ができている人しか無理である。“旬”の人に取材する番組方針とは相性が悪い。自宅を持っていても、若い女性などはなかなか撮せない。アクアの自宅が撮せたのは、厳重なセキュリティのある高級マンションだったからである。
 

「今後のことを考えても、御自宅を訪問できるミュージシャンって、かなり少ないんじゃないかと思う。それに作曲家さんみたいに御自宅の外見などを映すこともできない。だったら『笑っていいとも』みたいな感じで、ゲストをどこかにお招きしてトークするという形のほうがいいかも知れないということになった」
 
「それで私の家を使うんですか」
と青葉はさすがに抗議するように言った。
 
「だから青葉は東京に出て来なくていい。ミュージシャンを富山に呼ぶ」
「あ」
「それで青葉の負荷を下げるんだよ」
「なるほど」
 
青葉はそのことに気付いた。
「だったらラピスとケイさんが大変なのでは?」
「だからまとめ撮りになるね、基本的に」
「・・・・・何日掛けるんです?今回」
「今日明日2日間付き合って」
「そのくらいならいいですよ。やります」
と青葉はやっと“逃避態勢”から“戦闘態勢”になって言った。
 
この時青葉は2日間なら2組だろうと思った。が、それは甘かったのである!
 

やがて伏木の青葉邸に到着する。中に入ると、既にサンルームに撮影のセットが組まれている。サンルームの内側には仏檀があるのだが、そこは衝立を立てて隠している。そもそもこのサンルーム自体が壁ではなく衝立で仕切られているのだが、その衝立には、早月画伯の可愛い絵が描かれていた。しかし放送向きではない!ので、その上に誰かが描いた十二支の動物の絵が磁石シートで貼り付けてあった。
 

 
青葉はその中の虎の絵に見覚えがあった。
「もしかして十二支の絵を描いたのは、川口遙佳ちゃん?」
と初海に尋ねる。
「ああ、そういえば雰囲気似てますね。もしかしたらそうかも」
と初海は答える。初海はどうもこの“作戦”には関わってないようだ。
 
しかしコスモスが
「お名前までは聞いていませんがS市の女子高生が、お友達と2人で描いたらしいです」
と言った。
 
実は遙佳と舞花が手分けして描いたのである。バイト代に1枚1万円(画材費込み)もらい、舞花は「これでたくさん“きつねうどん”食べられる」と言っていたとか。この計画は6月中旬に起動していた。2人は人形退避作戦の時に知り合い、その場で話がまとまったのである。舞花は遙佳の描いた絵を見せてもらい、それと似たような雰囲気で絵を仕上げた。
 
なお絵はAdobeイラストレーターで描かれており、実際に貼ったのはそれを昇華型プリンタでプリントしたものである。
 

青葉たちより30分くらい遅れてラピスとUFOが到着した。UFOとラピスは少し疲れたような表情である。特にUFOが辛そうな顔なので山道で酔ったなと思った。だから休憩を入れたり速度を落として走ったりで遅くなったのだろう。
 
と思ったらドライバーさんまで疲れたような顔をしている!あまり能登の道を走ったこと無いのかな〜?と思った。初海や真珠たちは元々能登の“峠”でたくさん遊んでいたから山道・曲道を走るのも上手いのだが。運転者が慣れてなかったら、よけいUFOは辛かったかも。
 
取り敢えず30分休憩してから撮影をすることにする。
 
青葉は長江ディレクターを捉まえて言った。
「UFOのこの後の予定は?」
「UFOにふさわしい場所ということで、羽咋(はくい)市のコスモアイルに連れていく。その後、金沢で一泊して明日の朝小松から東京に帰還。番組の編集としてはコスモアイルの映像を先に流す予定」。
 
コスモアイルには、宇宙船やUFOの資料が多く展示されている。施設自体がUFOの形をしている。
 
「羽咋に行くの、こちらの竹本(初海)を使ってください。能登の道に慣れてますから」
 
ディレクターは少し考えたが
「そうしようかな」
と言った、
 

待っている間に何やら車が1台入ってくる。派手な絵が描かれている。アラビアンナイト!??
 
降りてきたのは千里姉である!
 
「ケイ、この車にUFOの3人を乗せて、この車から降りて来る所から撮影しよう」
などと言っている。
「いいけど、この車は?」
とケイ。
 
「私のだけど」
「派手な絵が描いてあるね」
 
「シャランですか?」
と長江ディレクターが訊いたが
「あれ?ヘッドマークがフォルクスワーゲンじゃない」
と自分で言っている。
 
「シャランの姉妹車なんですよ。これはセアトのアルハンブラです」
「それでアラビアンな絵が貼ってあるのか」
 
「ボルボのXC90を持ってこようと思ったら、どこに行ったか分からなくて。日本国内のどこかにはあるみたいで、今探させている所だけど。それで代わりにこれ持って来た」
 
「いやUFOにはこの絵はありですよ」
 

それで結局、ケイがこの車を運転し、2列目・3列目にUFOの3人が乗り、青葉邸に入ってきて停まり、車から3人が降りてきた所をラピスラズリが迎えるという絵を撮影した。
 
UFOの3人は移動中はセーラー服っぽい服を着ていたのだが、今は撮影用でアダムスキー型っぽいUFOの小さなイラストが多数ちりばめられたジャケットにやはりUFO柄のスカートを着ている。3人とも地はベージュで、模様の色がユニが青、フーガが赤、オクが緑の色になっている。
 
インタビューするラビスラズリは紫色のワンピース。ゲストよりいい服を着る訳にはいかないが、あまり安い服も着られない、ということでこれはアニエスベーである。
 
ラピスラズリが案内して、UFOの3人を玄関からサンルームまで導く。経路は衝立でルートを作ってあり、生活空間は通らない。ルートの衝立(4枚)には、アクア、北里ナナ!、羽鳥セシル、UFOのポスターが貼られている。青葉が楽曲を提供している3大アーティストと、今日のゲストである。3人は自分たちのポスターを見て喜んでいた。
 
サンルームに入ると、青葉が
「いらっしゃい」
と言って笑顔で全員を迎え入れる。青葉はライトブルーのワンピースを着ている。このワンピースはディオールのカジュアルワンピースで、そんなに高いものではない。
 
ケイがカメラに向かって説明する。
 
「えー。ここは3月21日の放送でも紹介しました、作曲家・大宮万葉さんの御自宅です。今回の収録は大宮さんが世界水泳に出場して帰国した直後に撮影しております。現在大宮さんはまだ休養中なのですが、番組の放送予定が詰まっているので、御自宅に押しかけてきました。このあと4回分はここからお送りします」
 
あくまで現時点では臨時の処置ということにしておく。青葉はケイが“4回分”と言ったのを聞き漏らした!
 
ケイはシックなグレイのワンピースである。これはローズ+リリーの衣裳を手掛けている宮里花奈さんの作品である。
 

「ということで今日のゲストはUFOの3人です」
と町田朱美が笑顔で3人を紹介した。
 
「UFOのユニこと上中雅美でーす」
「UFOのフーガこと藤沢満奈実でーす」
「UFOのオクこと小倉真弓でーす」
と3人は名乗りをあげた。すると青葉が首をひねっているので、町田朱美がこのネタを投げる。
 
「3人は最近ニックネームを改訂したんだよね」
 
「はい、そうなんです。以前は、宇良々(うらら)、房枝(ふさえ)、奥奈(おくな)だったんですけど、『8時のあんた』に出ていた時、山田次郎さんから『その名前はインパクトが無さすぎる』と言われて、改名することになったんです」(*16)
 
とユニが説明する。
 
「私たち元々は上中雅美・藤沢満奈実・小倉真弓の頭文字を取ってUFOだったんです。“まさみ”“まゆみ”“まなみ”の各々真ん中の文字を取って“さゆみ”という案もあったのですが」
 
とフーガ。
 
「ああ3人とも本名が“ま”で始まって“み”で終わるんだ?」
と青葉が感心したように言う。
 
「そーなんですよ」
と3人が同時に言う。この3人、息が合ってるなと青葉は思った。
 

「それでファンクラブで投票して、新しいニックネームとして、音楽関連用語のセットで、ユニゾンとフーガとオクターブというのが決まったんです」
 
「でも長いから略して、ユニ、フーガ、オクということで」
と上中雅美(ウララ→ユニ)。
「私は全然略されてない」
と藤沢満奈実(ふさえ→フーガ)。
「私は前のとあまり変わらない」
と小倉真弓(おくな→オク)。
 
3人がよどみ無く、リズム良く話すので、この3人はほんとによく息があってる。人気が出るわけだと青葉は思った。
 

2018-2019年頃に、トライン・バブル(2001年度生/††オフィス/★★レコード)が結構な人気を博した。そしてそれに影響される感じで、トラインバブルと似た路線で、UFO(2006年度生/ζζプロ/ライミューズ・レコード)とスパイスミッション(2006年度生/○○プロ/パール&ゴールド・レコード)などが出てきた。
 
そしてこの2つのユニットが激しく争っている内に、トライン・バブルを抜き去り、若手女子(非集団)歌唱ユニットとしては、現在UFOとスパイスミッションがトップ争いをしている状況である。むろんこういう話は今回はできない。
 
当時は他にも3〜6人程度の女の子のユニットがいくつか出て来たが(男の娘ユニットまであった)、UFOとスパイスミッション以外の多くが消滅または活動停滞している。
 

(*16) 「宇良々・房枝・奥奈」の命名者は事務所社長の観世さんだが、お笑い界の大御所・山田次郎さんに言われては改名せざるを得ない。山田次郎はその番組で“うん*・ファッ*・オ*ニー”と言い、UFOの3人が「ひっどーい」 と言った。さすがにこの場面は編集でカットされた!
 
カットしていいか若手のテレビ局員が悩んでいたが、社長にお伺いを立てて!カットした。山田次郎への説明は社長が直々にしたが「そんなんカットするのに一々断らんでもええ」と言ってたらしい。
 
観世社長はファンクラブの組織を動かして選定させた。最初に「3つセット」のニックネームを投稿してもらい、マネージャー会議で検討。10個の候補からあらためてファンクラブ投票で決定した。「ユニゾン・フーガ・オクターブ」は全体の60%の票を獲得した。他の候補は全て10%程度以下だった。2位は「うえ・ふじ・おぐ」の11%だったが
 
「2位以下に投票してくれた人たちごめんね。でも1位のを使わせてもらいます」
と3人が述べると、みんな
「それでいいよー」
と言ってくれた。
 

また山田次郎さんも
「おお。いい名前になったな」
と喜んでくれた。
 
「うんと・ふとった・おっさん、でもなくて良かったな」
「それも酷いですが、よくそういうのパッと思い付きますね」
「実は20年前から考えていた」
「私たちまだ生まれてません!」
 
「君たちがUFOを結成することを予感していたのだよ」
「羊羹だったら大好きですけど」
 
とユニが間髪入れずに言うと「お、やるな」という表情。
 
「甘い物食べ過ぎると太るで」
「でも忙しくて太る暇も無いんですよ」
「お前らほんと忙しそうやな」
 
などと言っていたのだが・・・
 
後から羊羹が段ボール1箱事務所に届いた!
 

UFOのインタビューのほうに話を戻す。
 
自己紹介の後、オクが
「この部屋の十二支の絵が可愛いですね」
と言った。
「地元の女子高生が2人で描いてくれたんですよ」
「へー。なんか可愛いなと思った」
「ね、うし、・・・あれ?虎さんは?」
 
(再掲)↓サンルームのセッティング

 
「虎さんはそちらに」
と東雲はるこが反対側を指し示す。
「あ、そちらに居たのか」
「北側には4枚、西側には7枚しか並ばなかったので」
と長江ディレクターが言っている。
 
「虎さんだけ反対側で寂しくないですか?」
とフーガが訊くと
「大丈夫だよ。虎は十二支のリーダーだから」
と青葉は言った。
 
「リーダーはネズミさんじゃないんですか?」
「ネズミは牛の背中に乗ってきてゴール直前で飛び出しただけだし」
と青葉。
 
「1月が寅月だからだよね?」
とケイは青葉に確認する。
 
「そうなんです。十二支って、丑と寅の間に実は微妙な隙間が空いているんです。それで丑と寅の隙間から魑魅魍魎がやってくる」
「ああ、丑寅の方角ってそういうことですか」
「だから節分の夜には鬼がやってくるから、豆を蒔いて退治する」
「西洋で言えばハロウィンとか十二夜だよね」
「ええ。あれも年の境界の所で、お化けが闊歩(かっぽ)するということなんですよね」
 

UFOへのインタビューは、結成のきっかけの話、デビュー初期の頃のこと、ブレイクのきっかけとなった2019年7月20日郷愁リゾートでの、トラインバブル、スパイス・ミッションとのステージなどから話を振っていく。ケイが初期のUFOには結構関わっていたので、これまであまり出ていなかったような話まで出て来て、青葉が感心していた。
 
「トラインバブルには結構マリのほうが関わっていたんだけどね。それで(UFO所属事務所の)兼岩会長から相談があって、でも私は当時とても余裕が無かったから吉原揚巻さん紹介したら、吉原さんとUFOが物凄く相性が良かったみたいだね」
とケイは言っていた。
 
「吉原先生とても優しいです」
「給料安かった頃、美味しいもの色々食べさせてくれたし」
と3人は言っていた。
 
歌手と作曲家というのは win-win でなければならないよなあとケイは思っていた。
 
吉原さんにとっては、奈川サフィー(2016)に続く2組目のブレイク歌手だが、営業成績はUFOが奈川サフィーの100倍はある。UFOのお陰で吉原さんは賃貸から郊外の一戸建てに引越し音楽室も作って生でピアノを弾けるようになったらしい。
 

「でも私、高校時代に“フライング・ソーバー”というバンドやってたんだよ」
と青葉が言う。
 
一瞬考えたユニが
「それ“フライング・ソーサー”(flying saucer:空飛ぶ円盤) のもじりだけど“フライ”が飛ぶのflyじゃなくて揚げるのfryで“焼きそば”ということですね」
と言う。
 
「そうそう。焼きそばのUFOに引っかけている」
「なるほどー」
「おもしろーい」
 
「でも君たち焼きそばのCMにも出たよね」
「はい。出させていただきました。私たちの顔写真のパッケージとかも出て、あれでまた結構ファンが増えたんですよ」
「焼きそばの方の売上も増えたみたいね」
「win-winですね」
「焼きそば1箱頂きました」
「1ヶ月で食べちゃったけど」
 
などという会話をしたのだが、この放映後また1箱頂いたらしい。
 

「君たちのファンクラブの名前はエイリアン連盟だったね」
「はい。なんでもムニャムニャ企画という案もあったらしいですけど、実在の社名とぶつかるのはまずいということで没になったらしいです」
「いやそれは小学生の親が仰天する」
 
「だから会員はエイリアンです。入会すると私たち3人の絵が入ったアンパンがプレゼントされます」
「絵が入ったアンパンで、エイリアンなのね」
と青葉。
「私ももらったよ。時々注文してるよ」
と朱美。
「入会ありがとうございます。あれ結構美味しいと言われるんですよ」
「食べるのがもったいないと保存してたらカビが生えちゃった、なんて話もあるね」
「賞味期限内に食べることをお勧めします。カビが生えたら捨てて下さい。ファンクラブで通販してていつでも買えますから」
 

だいぶお話をしてから、ラピスの演奏でUFOが歌うことになり、ピアノルームに移動する。掃き出し窓を開けて、濡れ縁に出る。
 
「すてきなおうちですねー」
とUFOの3人が言っている。
 
「あれ?」
と青葉が声をふげる。
 
「なんかピアノ室への入り方が変わっている」
 
以前は濡れ縁を歩いた先にピアノ室の防音ドアがあったのだが、そうではなく、濡れ縁の先には普通のドアがあり、そのドアを入ると右手にピアノ室の防音ドアがあった。
 
(before/after)

 
「あの右手にある建物は何ですか?」
とユニが尋ねる。
 
「何だろう?」
と青葉は首をひねっている。
 
「12月に来た時は無かったですよね」
と東雲はるこも言う。
 
「その件は取材が終わってから」
とコスモス!が言っている。
 
なんでコスモスさんがうちの家のこと知ってるの〜?
 
「ちょっとした改造手術をさせてもらった。ピアノ室から出る時、以前は前に出ていたのが、改造手術後は、下に出るようになった」
と後ろから千里が言っている。
 
「それ何か別のことを想像させるんだけど」
「心が汚れてるな」
 

濡れ縁からいったん室内に入り、ピアノ室に入る所に衝立が3.5枚ある。この3枚半には、しまうらら、松原珠妃、谷崎姉妹、リダン♂♀のポスターが貼られている。
 
「わあ、うちの事務所の大先輩たちです」
「この人選はしまうららさんにしてもらった。しまさんが選んだのなら誰も文句無いだろうから」
とケイは言う。
 
「選び方、怖いですね!」
 
しまうららさんは、実際には谷崎姉妹と遠上笑美子のどちらを入れるかかなり悩んでいた。結局先輩の谷崎姉妹を入れた。他の3組は安定である。谷崎姉妹は最近ライブが姉妹セットにされているが、実はコロナ以降、ネットライブが中心になったことでライブ動員数がそれまでの10倍になった。
 
ファン層の年齢が上がり、行動力が衰えていたのが、ネットなら会場まで行く必要が無いのでチケットを買ってくれるようになったのである。それに30代は20代に比べて行動力は無くても経済力がある。更にタイムシフトでも見られると忙しい人は助かる。
 
この手のネットライブによる復活は、30代のアーティストで目立っている。
 

ともかくもピアノルームに入る。伴奏を務める町田朱美がピアノの前に座る。
 
UFOは多数のヒット曲があるのだが、町田朱美が大好きと言っていた初期のヒット曲『第三種接近遭遇』を歌うことにする。冒頭に『未知との遭遇』のUFO交信音“DE | C2 G,2 | G4”というのが入っている。
 
元々“接近遭遇(close encounter)”とは、UFO研究家のJ.アレン・ハイネック (Josef Allen Hynek 1910-1986) が1972年の著書『UFO体験:科学的探究 (The UFO Experience: A Scientific Inquiry)』の中で提唱した、“異星人”との接触レベルを分類した用語である。
 
第1種接近遭遇(Close encounters of the first kind)
UFOを150m以内で見た場合
 
第2種接近遭遇(Close encounters of the second kind)
UFOが何らかの影響を与えたり、UFOが痕跡を残したりした場合。
 
第3種接近遭遇(Close encounters of the third kind)
UFOの搭乗者を見た場合。
 
スティーヴン・スピルバーグ監督の初期の話題作『第三種接近遭遇』は、この用語を背景に製作された1977年の映画で、スピルバーグ自身が脚本を書いている。
 

吉原さんの『第三種接近遭遇』とはこれをヒントに“異性人”との遭遇体験を分類したものである。
 
第一種接近遭遇:異性を15m以内で見た。
第二種接近遭遇:異性を間近に見てドキドキした、あるいは相手が何かした跡が残っていたり遺留物があった。
第三種接近遭遇:異性と話した。
 
要するにこの歌は、気になる彼氏と、とうとう会話を交わした!という歌なのである。中学生の恋愛未満のドキドキ体験を歌ったものである。
 
この日の演奏では、このUFO交信音(レミド↓ソ↑ソー)だけ、東雲はるこがエレクトーンで入れた。
 
UFOの3人ももう高校生なので、
「今歌うには少し恥ずかしい」
などと言っていた。
 
「でもまあこの歌“異性人”とは限らないよね」
と朱美。
「世の中いろんな人がいますからね!」
とユニも言った。
 
やはり高校生の会話である。
 

取材が終わったのは15時すぎだった。スタッフを残して、リビングのほうに青葉、ケイ、ラピスラズリ、UFO、それにコスモスと千里まで入り、ハンガリー土産?のチョコをもらいお茶を飲んで一息する。
 
このチョコは“姫様”が青葉に渡したのでギョッとした。でもUFOもラピスも「美味しい〜」と言って食べていた。
 
「ハンガリーのチョコって有名ですよねー」
とフーガも言っていた。
 
今からUFOがコスモアイルに行ってもすぐ閉館してしまうが、開館中に行くと騒ぎになってまともに取材できないし、大量の警備員が必要になってしまう。それで、こちらも向こうも閉館後のほうが都合が良いらしい。
 
それでUFOの3人はここで時間調整の上で、初海が運転するエスティマで、カメラマン、ディレクター、付き添い役のケイと一緒に国道415号を越え、羽咋市のコスモアイルに向かった。
 

(再掲)能登の道

 
R415は氷見市中部から羽咋市のイオンタウンの近くに到達する山越えの道で、大きなヘアピンカーブもある。初海から
 
「ちょっと山道に入るね」
と言われ、UFOたちは、またここに来た時みたいな凄い道を走るのかと思ったものの、初海の運転が上手いので
 
「今回はあまり辛くなかった」
と言っていた。
 
県境少し手前のトンネル内に交差点がある所とか
「こんなの初めて見た」
と言っていたし、県境のすぐ先にある大ヘアピンも
 
「凄いヘアピンですね〜」
などと言ったりする余裕があった。
 
能越道のハードさを6とすると、R415は本来7レベル程度の道である。能登にはR415よりもっと凄い道がいくらでもある。むしろR415はかなりまともな部類である。能越道開通まで交通量の多かった氷見市北部と中能登町を結ぶ県道18号がレベル8くらい。県道でも番号3桁のものだと最大レベル13-14くらいになる。
 
しかしうまい人が運転するとあまり加速度が掛からず、同乗者の辛さが半減する。下手な人が運転すると加速度以前に生命の危険を感じる!
 

UFOは、コスモアイルでの取材の後、やはり初海の運転で金沢に行ってホテルに泊まり、翌日小松空港から帰還することになる。
 
一方のラピスラズリは、各々の実家(かほく市)に泊まるらしく、UFOを見送った後、テレビ局のスタッフ数人と一緒にテレビ局の車で帰って行った。
 

青葉邸のサンルームは明日も撮影があるので、セッティングはそのままにしておく。テレビ局のスタッフは今日は、いったん撤収し、青葉、千里、コスモスの3人が残る。
 
「それで大宮万葉先生にお願いがあるんです」
とコスモスは言った。
 
「アクアのアルバム制作ですか?」
 
と青葉はさすがに想像が付いたので言った。だいたい超多忙なコスモスがわざわざ高岡まで来ることが異例である。かなり無理なお願いなのだろうというのは推察できた。アクアのアルバムを夏に制作したいというのは昨年から聞いていた話である。しかしアクア自身、時間があるのか?
 
「ご明察ですね。その通りなんです」
「フルアルバム?」
「はい。12曲前後のものを想定しています」
「アクア自身のスケジュールは?」
「映画の撮影がやっと終わったので、今先行して仕上がった曲の練習をしてもらっています」
「彼のスケジュールはいつまで空いてるんです?」
と青葉は尋ねた。
「彼女たちのスケジュールは7月いっぱいまでは大きなものは入れていません」
とコスモスは答える。
 
もはやアクアはほぼ女性タレント扱いだなと青葉は思った。
 
しかし今月中にアルバムはほぼ完成させる必要がある訳だ。
 

「大宮先生にお願いしたいのはアクアへの楽曲4-5曲程度の提供と全体のプロデュースです。細かい歌唱指導は、花咲ロンドにやらせますので」
 
結果的に青葉はこれから半月程度で4-5曲作曲して、残りの7-8曲もアレンジの調整をする必要があることになる。東京のスタジオに居るロンド・アクアと連携しながら。
 
「ロンドちゃんも最近は若い歌手の指導がメインの仕事になりつつあるね」
「アクアとは2つしか違わないんですけどね」
 
「でも大学を卒業したから、かなり時間が取れるようになったみたい」
と千里が言う。
「あ、大学卒業したんだ?すごいね」
と青葉。
「アクア以降では、うちのタレントで芸能活動しながら大学を出た最初のタレントになります」
とコスモス。
 
西宮ネオンは大学には入りはしたが、忙しさに耐えられず途中で退学している。
 
「まあ大学を出る意味があったかどうかは微妙だけどね」
と千里。
 

「それでまた熊谷に籠もって作業するの?」
と青葉は、また自宅を離れることになるのかと諦めの境地になりつつ訊いた。ところがコスモスの返事は意外なものだった。
 
「いえ。大宮先生の家のお隣にスタジオを用意しましたので、そこで作業をしていただければと」
「隣!?」
 
それで青葉はコスモス・千里に連れられて濡れ縁を歩き、“お隣”にあるスタジオに行った。
 
「いったいいつの間にこんなものが」
と青葉は呆れる。
 
中は結構広い。
 

青葉宅の新見取図(2022.7以降)。

 
2021.11 竣工
2022,04 お隣にスタジオを設置。濡れ縁の延長。楽器室と制作室の中身移動。
2022.07 第2リビングを作る。
 
コスモスが説明する。
「ここは熊谷のコテージとほぼ同じ広さを確保しています。向こうは建物が星形なので六角形の部屋でしたが(*20)、こちらは敷地を有効利用できるように四角形の部屋になっています」
 
「四角形のほうが音響はいいよね」
と千里。
 
「中にキッチン・バストイレがあり、また宿泊用の個室が4つ付随しています。熊谷のコテージには5個ありましたが、ここでは大宮先生は御自宅の方でお休み頂けるだろうしと思い4つだけ用意しました」
 
「まあ熊谷では実際は3人でやってたね」
と青葉も言う。
 

「スタジオの周囲を個室が取り囲んでいるから、ここは特に防音の仕組みは作ってない。個室が防音のためのクッションになる」
と千里は説明する。
 
「ちー姉が建てたの?」
「コスモスちゃんから、青葉の自宅近くにスタジオを建てられないかと相談されたんだよ。それで土地を探していたら、ここの土地が売りに出ていることに気付いて。だからここの土地・家屋の所有者はコスモスちゃん個人」
 
「個人名義なんだ!」
「会社名義で土地を買ったり、そこに建物を建てるにはあれこれ手続きが大変なので」
とコスモスは言っている。
 
ここの土地はたぶん700-800万円、建築費も600-700万円程度かな?と青葉は思った。コスモスならポンと払える金額だろう。確かに会社の経理を通すより楽そうだ。
 
「ここは前のオーナーさんがこちらの土地と向こうの土地の所有者と交渉して公道まで2m幅の通路を確保していた。だから再建不可物件ではないんだよね。それで建物を建てられた。建ててから、青葉の家と渡り廊下で結んだ」
と千里。
 
「ああ・・・播磨工務店さん?」
「当然当然。彼らは基礎工事をして1週間おいた後は3-4時間で組み立てた。ここは全て標準ユニットだけで出来ているから工費も安かったし」
「イナバの物置と大差無いですよ、と工務店の人が言ってた」
 
「なるほどー」
 

「エレベータがあるけど、2階か地階に何かあるの?」
「2階は物干し」
「そうなんだ!」
 
「助手として、南田容子と立花紀子を呼んでここに泊まり込みでお手伝いをさせますから」
とコスモスは言っている。
 
「立花紀子ちゃんはテレビのレギュラーが無い?」
「その日は東京まで日帰り往復ですね」
「え〜〜!?」
 

「ここからあまり遠くない氷見市郊外にヘリポートを作ったから、そこから直接東京ヘリポートまで飛ぶ」
と千里。
 
「能登空港・郷愁飛行場を経由するより、よほど早いね!それ」
「氷見から2時間程度で東京ヘリポートまで行けます。前後の車での移動を含めてもTV局まで3時間半程度で辿り着けます」
「凄いね」
 
能登空港・熊谷経由だと、どうしてもここから片道5-6時間掛かる。新幹線を使うのと大差無いのだが、感染の危険を避けるのが大きな目的である。特にタレントは“感染している人からサインを求められる”リスクがあるので、公共交通機関をできるだけ避けたい(*19).
 
「乗り心地はホンダジェットより随分劣りますけど、時間はかかりません」
「確かに。しかしヘリでの長時間移動は体力使うし、若くないとできないなあ」
 
「主としてこの往復用でエキュレイル2(Écureuil2)をもう1機買いましたから」
「お金掛けてるね」
「いえ。いちばん高いのは、大宮先生とアクアの単価です。それに比べたら1億円くらい(*17)大したことないです。ヘリポートは若葉ちゃんが作ってくれたのでこちらは負担無しですし」
 
「若葉ならそのくらい作ってくれそうだ。お金の減ること大好きだもん」
 
青葉は、若葉が§§ミュージックに出資しないのは“お金が増えちゃう”からだろうと想像していた。アクアが好調だから、今たぶんコスモスもアクアも資産が100億を軽く超えているだろう。
 
「氷見にヘリポートができたから津幡と氷見の間をヘリで移動できる」
「わざわざヘリで飛ぶ距離でもないと思うけど」
 
「東京から津幡までヘリで誰か運んだ時、津幡は着陸したヘリがどかない限り、他のヘリが降りられない。だから氷見に回送して津幡を空ける(*18)」
「そうか・・・」
 

(*17) エアバス AS355 Écureuil2 "TwinStar" は2016年で生産終了しているが、最終新品価格は360万ドルだった。コスモスは若葉から“余っている”のを1機1億円で買い取った。それで名義変更だけですぐ使えるようになった。このヘリは、ヘリとは思えない高速性 (224km/h) と長い航続距離 (703km) を持つ。氷見−東京の直線距離は280km程度である。定員1+6名。最高飛行高度4000m.
 
開発したのはフランスのアエロ・スパシアル(Aérospatiale) だが、同社は1992年にドイツのメッサーシュミット・ベルコウ・ブロームと合併して、“ユーロコプター”となり、2014年に“エアバス・ヘリコプターズ”と社名変更した。
 
単発機の AS350エキュレイユ と双発機の AS355エキュレイユ2があり価格も性能も大差無いが、若葉やコスモスがエキュレイユ2“ツインスター”のほうを買うのは、エンジンにトラブルが起きた時の生還率の問題である。
 
(*18) 実はこの問題は3月に明恵を東京から津幡に運んだ時に浮上した。それで若葉は氷見にヘリ専用飛行場を作ることにしたのである。ムーランエアー4つめの飛行場となった。既に3つの空港を運用している航空会社が設置する私的なヘリポートということで自治体と国土交通省の認可はわりと簡単に取れたらしい。若葉は地元と、農薬散布用のヘリ(ドローン)とかの離着陸・駐機、救急患者の搬送などにも自由に使ってくださいと言って話をまとめた。
 
(*19) クリスティ『鏡は横にひび割れて(邦題:クルスタル殺人事件)』では風疹に罹っているファンが他人に感染させるリスクがあるのに、めったに近くで見られないからと妊娠中の女優に接近してサインを求め風疹を移してしまう。結果的に女優も風疹に罹り重い障害のある子を出産する。このような“無邪気な悪意”からタレントを守るためにコスモスとケイは何十億円もの投資をしている。
 
(*20)ホテル昭和のコテージは↓のような形である。

 
単位となる正三角形の1辺を a とすると正三角形の面積はピタゴラスの定理より√3/4・a2になり、正六角形の面積はその6倍で 3√3/2・a2である。コテージは a=3.6m(2間) で作られているので、正三角形の個室がベッドとトイレまで含めて3.4畳、中央のリビングが20.4畳となる。コテージ全体は10.8m×11.2m = 120m2あり、この“伏木スタジオ”の専有面積9.09m×9.09m = 82.6m2に比べて効率が悪い。個室も狭いし。結局星形というのが無駄が多い。
 

青葉が、いくら短時間で移動できるといっても富山−東京の日帰り往復って大変そうと思っていたら、コスモスは、ひとこと言った。
 
「まあ冗談ですけど」
 
青葉は頭を抱えた。コスモスにしても、ちー姉にしてもジョークとマジの区別が付かないよぉ!
 
「作業中、立花紀子は番組お休みです。機転の利く桜井真理子も居るから何とかなるでしょう。頭数が足りなくなるので、ピンチヒッターで花咲鈴美を代役で番組に出します」
 
「花咲鈴美って・・・花咲ロンドちゃんの妹か何かだったっけ?」
「意気投合して姉妹の契を結んでいたようですよ」
「ああ。他人ですか」
 
「上島雷太先生の二女です」
「え〜〜〜!?」
「このことは内密に。大物作曲家の娘と分かるとみんな遠慮して使いにくくなるから。あくまで半人前のミュージシャンということで」
「あ、思い出した。ColdFly5のメンバーだ」
「そうです、そうです」
「あの音楽センスはお父さん譲りか」
 

「お母さんも元歌手の花村かほりさんです」
「ごめんなさい。知りません」
「レコード大賞取った歌手ですが、今はほぼ忘れられていますね」
「へー!」
 
「上島先生の子供は4.5人ですが、全員母親が違うんですよ」
「うーん・・・・・0.5は妊娠中ですか?」
「いえ。母親は上島先生と別れて雨宮先生と付き合い始めた微妙な時期に妊娠したので、母親にもどちらが父親か分からないそうです」
 
「DNA鑑定すれば分かるのでは?」
 
「そういう無粋なことはしないでどちらも父親と思おうと、上島先生と雨宮先生が話し合って決めたそうです。だから本人は上島先生を“お父さん”、雨宮先生を“おたあさん”と呼ぶそうです。養育費は折半して送金しているみたいです」
 
“おたあさん(otaasan)”は“おとうさん(otoosan)”と“おかあさん(okaasan)”の合成語で、一般的には父親が性転換して女性になってしまった家庭の一部で使用される。“女性の父親”という意味である。英語でも daddy, mommy の合成語で maddy というのが同様の家庭の一部で使用されている。
 
「ちなみにヘリポートは本当に建設中ですし(実はもうできて認可発効待ちだけど)、ヘリコフターは既に1機買いましたから」
「あはは」
 
それって“私が”『急ぎの用事があるんです』とか言われて東京日帰りする羽目になったりして?怖いなあ。うちの庭にヘリで乗り付けられたりして!?(*21)
 
(*21) エキュレイユ2はヘリとしては割と大型なので、アクアの家の庭なら問題無く離着陸できるが青葉の家の庭では無理。但し、もっと小型のヘリで氷見ヘリポートまで運ぶ手はあるかも!? Robinson R22 (回転翼直径 7,68m 定員:パイロット+客1名)のような小型ヘリなら、青葉の家の庭にも“物理的には”離着陸可能。
 

青葉は現在できている曲を聴かせてもらった。葉月が仮歌を入れている。彼も自身歌手として売れるくらい上手い(たぶん常滑真音といい勝負)のだが、本格的な歌手活動をしたらアクアをサポートできないからといって、その話は断りずっとアクアの代役に徹している。
 
彼はアクアと背丈・体格も近く、何といっても雰囲気が似ているので代役として最高である。アクアが多忙な仕事をこなしていけるのも葉月あってのことだ。
 
仮題:Angel in High
曲目:−
『お気に召すまま』加糖珈琲作詞・琴沢幸穂作曲(映画主題歌)
『緑の天使たち』森之和泉作詞・水沢歌月作曲(アルバムの実質タイトル曲)
『金色の太陽』翔太&リル子作詞・醍醐春海作曲(太陽光パネルCM曲)
『私を口説いて』阿木結紀作詞作曲(映画挿入歌)
『ごめんね。私女の子だったの』夢倉香緒梨作詞作曲(映画挿入歌)
『夢の余韻』波斯魔琴作詞北沢晶菜作曲(チューハイCM曲)
『沖に娘だ』未来居住作詞・琴沢幸穂作曲(先頭曲のパロディ。舞音がカバー予定)
 
変名が多いな、と青葉は思った。
 

加糖珈琲は、千里姉の長年のソングライト・パートナーである作詩家・葵照子(本名:田代蓮菜)さんのアクア専用ペンネームである。琴沢幸穂も醍醐春海も、ちー姉だ。どのちー姉かは知らないけど!
 
森之和泉はアクア・プロジェクトのリーダーであるKARIONの和泉さんのペンネーム、水沢歌月はケイさん(KARIONでは蘭子)のペンネーム。翔太&リル子はアクア自身のペンネームのひとつ(*22). きっとアクアMとアクアFが2人で一緒に書いたのだろう。阿木結紀はコスモスのお姉さん、秋風メロディー(本名:田船秋好)さんのあまり使わないペンネーム。彼女は大半の作品は上野美由貴の名前で書いている。
 
ちなみに姓名判断で見ると“阿木結紀”はとても良い名前だが“上野美由貴”は、こんな酷い名前を考えるほうが難しいというほど最凶の名前である。実際、上野美由貴名義でヒットした曲は数える程しか無い!でも本人は気に入っている!!
 
阿木 結紀
総32◎幸運的中 天11◎成長大樹 地21◎朝日黎明 人16◎仁心覆幸 外16◎仁心覆幸
 
上野 美由貴
総40△投機失敗 天14△離散徒労 地26△孤独戦士 人20□分裂統合 外20□分裂統合
 
夢倉香緒梨は花ちゃん(山下ルンバ/本名?川内峰花)の多数あるペンネームのひとつ。
 
北沢晶菜は青葉の元同級生・清原空帆が管理している松本花子のサブシステムの名前である。事実上、空帆自身のコピーになっている。波斯魔琴(ぺるしゃ・まきん)も彼女のペンネームである。ペルシャ伝来の琴(琵琶)をテーマにした『宇津保物語』が元ネタである。本名の空帆という名前自体がこの物語から採られたものである。“うつほ”とは“空っぽ”とい意味で、木の樹洞と弦楽器の共鳴胴を掛けている。
 
しかし・・・『ごめんね。私女の子だったの』って、映画の挿入歌のようだが、絶対“わざと”こういうタイトル付けたなと青葉は思った。Mが反発するだろうけど、きっとFが面白がって歌うだろう。和泉さんが怒ったりして。
 

(*22) 翔太&リル子 syota riruko は tasiro ryuko 田代龍虎のアナグラムになっている。
 
アクアのペンネームとしては、水野歌絵(←aqua vitae)、東風(とんぷう)などもある。とくに水野歌絵名義では、常滑舞音に多数の歌詞を提供している。
 
アクア・ウィタエ(aqua vitae)“命の水”とは、青森県の某所(龍虎の祖母・長野松枝の生地)にある秘泉で、アクアは小学生の時に千里と勾陳に連れられていき、この泉の水を飲んだことから、明日死ぬ運命だったのを救われた。
 
龍虎をそこに連れていった千里自身も様々な奇蹟の積み重ねで生きているし、龍虎の存在は奇蹟の連綿である。
 
彼の寿命はその時いったん51歳(6歳+45年)になったが、後に霧島大神が(気まぐれで)もっと長くしてくれた。ついでに“ある操作”をした。
 
東風(とんぷう)というのは、十二支で辰(龍)も寅(虎)も東の方位であることから付けたペンネーム。
 

(7/2) 千里がコスモスを夕食に誘い、青葉邸で、青葉・千里、朋子・緩菜・由美と一緒に夕食を取った。緩菜・由美がコスモスにに懐いていた。コスモスは奈良のお祖父さんの家でも子供たち(従姪・従甥たち)に懐かれたなあと思っていた。
 
この日の御飯は“青葉がスタジオでコスモスと打合せしている間に”千里が作った、お刺し身と、茶碗蒸し・すりみの味噌汁、などといったものである。
 
(千里も一緒に打ち合わせしてたはずだが!? (*23))
 
コスモスが
「お魚が美味しい!」
と言っていた。
 
「田舎はあまりお見せするようなものも遊ぶ所も無いですけど、東京からいらっしゃった方はみんなお魚が美味しいと言いますね」
と朋子が言っていた。
 
「まあ、お魚・水・空気が美味しいのが田舎の利点かな」
などと千里は言っている。
 
子供たちは焼き海苔に御飯を載せ、お刺し身を載せて手巻き寿司にして食べている。緩菜は上手に食べているが、由美は次第に悲惨になっていきつつある。食事が終わったら着替えが必要そうだ。
 
「でもテレビの収録とかしてる間はどこに居たの?」
と青葉が訊くと、朋子も千里もコスモスまで!
 
「第2リビング」
と言った。
 
「何それ?」
と青葉は訊いた。
 
この家の主人だけが知らない!!
 

(*23) コスモス・青葉と打合せしてたのは6番で、御飯を作ったのは4番。3番は合宿直前でチームで練習している。2Aは妊娠中で浦和にいる。2Bはグラナダで“あること”の準備をしている。1番はアメリカでWBDAをしている。
 

「青葉、もう5日もここに居て、まだ家の中、見て回ってないの?」
「ごめん。ひたすら寝てた」
「やはり1年ほど休んだほうがいい」
「今新しい仕事の話をしたのに!」
 
千里が説明した。
「隣の家にスタジオを作ったから、元の制作室と楽器倉庫が不要になった。そこに、ここでテレビ番組の収録をする話が出て来たから、収録をしている間、子供たちの居場所が必要になった。それで家の裏手に家族用のリビングを作ったんだよ」
 
「家を拡張したの?」
「してない。してない。新しい図面は・・・」
と言って、千里はパソコンの中を探している。
 
「あった。これだ」
と言って、千里は新しい家の画面を見せてくれた。
 

(再掲)青葉宅の新見取図(2022.7以降)

 
左側(北側)に広いリビングができている。
 
「こんな広い空間が確保できたんだ!」
「元々結構無駄なスペースもあったしね」
「ああ」
「太陽光パネルのバッテリーだけが入らなかったから、それはピアノ室の裏手に倉庫を増設した。その分だけ拡張した」
「なるほど」
 
「これはヨーロッパで言うところのドローイングルームですね」
とコスモスが言った。
 
「そうそう。昔のヨーロッパの大きな家では、来客があって“パーラー”で男たちが経済や政治の話をしている間に、女たちは内側の“ドローイングルーム”に移動して、ファッションやおやつの話などをしていた。ドローというのは引くとか引きこもるいう意味だね」
 
「昔の上島先生の国分寺のお邸では、応接室で多数の歌手やA&R(*24) が先生の作品ができるのを待っていたから、家族は内側にある居間で過ごしていました。居間まで入れる来客は、本坂先生を含むワンティスのメンバーとか、上島先生の妹さん、アルトさんの親友の丸井ほのかさん、日野ソナタさん、ケイ先生、醍醐先生、アクア、くらいでした」
とコスモスは補足する。
 
(*24) A&R = Artists and repertoire. レコード会社のアーティスト担当のこと
 

「ああ、ちー姉も上島邸の居間まで入ってたんだ?」
「私、アルトさんから“優秀な女子大生占い師”とみなされてたから、何度も相談事に乗っている」
「なるほどねー」
 
もう千里姉の性転換時期は中学か高校の頃ということでいいんだろうな。
 
「占いというより、実際は話し相手が欲しかったんだと思うよ。電話占いにハマる主婦とかも、だいたい話し相手に飢えている。出会い系にハマるよりは健全で安全だしね。アルトさんも、上島先生が忙しすぎてほぼ放置されてたし、姉妹とかも居ないし、中学高校では孤立してたみたいだし、親には早く死なれて、紅川会長、日野ソナタさん、丸井ほのかさんとかくらいしか話し相手は居なかったと思う」
と千里。
 
「アルトさんもほんとに孤独な人生を歩んでこられたんですね」
と青葉は感慨深げに言った。
 
青葉はつい自分の昔の人生をアルトさんに重ねてしまった。
 

「アーティストはたぶん幸せな家庭環境で育った人より悲しい人生を歩んできた人のほうが多い」
とケイが言った。
 
「アクアなどもその典型ですね」
とコスモスは付け加えた。
 
「あの子、いつも自分は感情というものが分からないと言うけど、本当は私なんかと同じで、感情を封印してきたんだと思う。でないと辛すぎたから」
と青葉は言った。
 
「あの子には幸せな結婚をしてほしいね。妊娠している間はMだけで頑張ってもらうとして」
と千里。
「Mのほうまで妊娠しちゃったりして」
とコスモス。
「きっとその時はNが復活しますよ」
と千里。
 
朋子などは会話の内容が分からないようで首を傾げている。
 

「でも工事が終わったの、あんたが帰ってきた前日だったのよ」
と母は言っている。
 
「まあ工事といっても、元々この家には外壁以外の壁がほとんど無くて、パーティションを移動しただけだけどね。ボルト外して新しい所に移動してそこで締めるだけ。だから3日くらいで終了した」
と千里。
 
(バストイレはユニットごと移動して配管を調整している。ピアノ室は1mほど東に移動した。播磨工務店のメンバーは4人で四隅を持ち「よいしょ」と移動した!)
 
「荷物の移動まで工務店の人にしてもらって。散らかってるの恥ずかしかった」
と母。
 
「壁で区切らずに。間仕切り・襖(ふすま)・障子(しょうじ)、屏風や衝立、昔なら御簾(みす)とかで区切るのが元々の日本家屋の考え方だよね。壁で固定的に区切るのは西洋式」
と千里は言っている。
 
「“室礼(しつらえ)”というものですよね。書院造りとかの考え方」
とコスモス。
 

「ちなみに改装費用は私が個人的に出した。これは青葉は払わなくていい」
と千里。
「そういえば、この家の建設費は?」
「確か4600万円くらいだったよ。太陽光パネルの代金入れて」
 
その5倍くらいを考えてた!!よくこの広い家が4000万円で建つなと青葉は思う。
 
「私その建築代金払ってないんだけど」
「私が取り敢えず払っておいたから、都合のいい時に私にちょうだい。正確な数字は、請求書を会計士さんに渡しておいたから問い合わせて」
「じゃ後で確認して振り込む」
 
「なんか4600円取り敢えず払っといた、みたいな話だ」
と朋子。
 
「アクアが代々木のマンション買った時(6500万円)も探してあげた千里さんと似たような会話してましたね」
とコスモス。
 
「ああ。アクアも忙しくて自分で探す暇無いでしょうね」
と青葉も言った。
 

青葉は「やはりコスモスさんって馬鹿な振りをしてただけだよな」と思う。
 
英語だけでなくドイツ語もできるみたいだし。結構な暗算ができるし。PCの仕組みや操作もよく知ってるし。経営用語などもよく理解しているし。本人はアイドルとして売れてたから高校の授業もほとんど出てないはず。でも自力で頑張って勉強したのだろう。凄い努力家だ。歌と字は下手だけど!
 
何より打合せとかしている時に頭の回転が速いのを感じる。
 
テレビでお馬鹿タレントをしていたコスモスしか見てない人は、彼女はただのお飾りで、§§ミュージックを実際に動かしているのは、鈴木一郎(∞∞プロ)社長と玉雪梓紗マネージャーではないかなどと思ってしまうのだろう。
 
実際には、アクアにしても、ラピスラズリにしても、常滑舞音にしても、コスモス以外の制作者には彼女たちを売り出すことはできなかったと思う。
 

食事が終わって一息ついた所で、千里は庭に駐めていた Volvo XC40 (この車は千里6の車。4番がMazda CX-5)にコスモスを乗せて、金沢のホテルまで送っていった。コスモスは翌日小松から UFOと一緒に熊谷に帰還する。
 
羽田が使えたらUFOたちには楽だろうが、羽田は離着陸の枠が全く空いてないので、空くのを待つよりいつでも離着陸できる熊谷のほうが結果的には早い。来年(2023年)くらいにはコロナも少しは落ち着くだろうし、郷愁ライナーも熊谷駅に直結するし、新幹線が使えるようになると、郷愁飛行場の利便性はもっと上がるかもしれない。
 

7月3日(日).
 
昨日の“墓場劇団”公演中継が終わってホッとした泣原死亡・戦死(本名:梨原志望・浅子)、それに助っ人を務めてくれた成仏霊子(本名:城島令子)は入院中の黒衣魔女(本名:黒井マミ)の御見舞いに行ってみた。
 
ところが「黒井さんは金曜日に退院なさいましたよ」と言われる。
 
「じゃ体調回復したのかな」
などと3人とも安心して彼女の自宅を訪問してみた。
 
ところが本人は寝ている。
 
「志望さん、浅子さん、ご迷惑掛けてすみませんでした。令子ちゃん、ありがとね」
 
「まだしばらくは自宅療養?」
と浅子が尋ねると、マミはこう言った。
 
「あの病院の医者、全く藪医者だよ。頭来たから強引に退院してきた。多分疲れが溜まってるんじゃないかなあ。株主総会の前にかなり無理したし」
 
「なんか変なこと言われた?」
「言われた。言われた。あの医者、性転換手術を受けられたのはいつですか?とか訊くんだよ」
「マミちゃん性転換してたんだっけ?」
と令子が訊く。
「まさか」
「マミちゃんは流産してしまったけど妊娠したことがあるから、天然女であることは間違い無い」
と浅子。
 
「あれ流産してなかったら結婚してたけどね」
と本人。
 

「医者がさあ。あなたには卵巣も子宮も無いし前立腺があるから間違い無く元々は男性だったはずとか言うのよ」
 
「それ誰か他の患者さんの透過写真と取り違えられたのでは」
「そうだと思うよ。それで怒って退院してきた」
 
「どんな感じなの?」
 
「なんか身体のバランスが取れない感じなのよ。だから歩くのも辛くて。症状をネットで検索したら更年期障害に似ているんだけどね。私の卵巣が少し不調なのかも。生理遅れてるし。むろん妊娠じゃない、念のため妊娠検査薬で確認したら陰性だった。そもそもセックスなんて2〜3年してないし。取り敢えずドラッグストアで更年期障害のお薬買ってきて飲んでる。それで一週間くらい寝てたら治るんじゃないかなあ」
 
とマミは言う。
 
「何か食べたいものとかある?」
「お肉食べたい!」
「じゃ買ってくるよ。志望のおごりで」
と浅子。
「助かる!私、お金無いし」
 
 
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【春零】(2)