【春春】(6)
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(C) Eriko Kawaguchi 2022-11-12
4月11日(月)の夜。
舞花は晃の部屋にノックもせずに入ってきた。
「勝手に入ってくんなよー」
「大丈夫だよ。オナニーしてたら、写真撮ってあげるから」
「写真撮ってどうするのよ〜」
「内緒。それで明日から練習だけどさ」
「僕、本当に女子たちと一緒に練習するの〜?」
「背の高い選手と対抗する練習相手にとてもいいのよ」
「まあ、そのくらいならいいけど、試合には出なくていいんだよね?」
「ちょっと手術受けてもらえば出られるようになるけど」
「勘弁してよ〜。無茶苦茶痛そうだし」
痛いというだけの問題なのか?
「それでさ。練習着になった時、足が露出するでしょ。その時、無駄毛がたくさん生えてたら変じゃん」
「男は生えててもおかしくないと思うけど」
「でも女子チームの中にそんな子がいたら、性別を疑われるからさ」
「それどう疑われるのさ?」
「だから毛を剃ってよ」
「うーん。毛を剃るくらいは別にいいけど」
「じゃ私が剃ってあげようか?それとも自分で剃る?」
「自分でする!」
「じゃこれあげるね」
と言って、姉は電動シェーパーの箱を出す。水色の箱を開けて中身を出す。水色の本体と2種類の刃(?)が入っている。
「最初はこの櫛刃(くしば)ので剃って、短くなってから、この普通のヒゲ用と同様のヘッドで剃る。いきなりこちらのヘッドで剃ったら地獄の痛みがあるから」
「分かった」
「ドライでもお風呂場でも剃れるけど、お風呂場で櫛刃を使ったら毛の始末しといてね。排水口に詰まるから」
「了解」
「最初は濡らしてやった方が剃りやすいと思う。毎日剃ってたら、櫛刃は使わなくても大丈夫」
「ふーん」
「デリケートゾーンの毛はこちらの赤い細いやつで焼き切る」
「そんな所の毛を剃るの〜?」
「可愛いビキニの水着とか着る時は必要だよ。焼き切る時は窓を開けておいた方がいい。結構臭いするから」
「そんなの着ないよ!でもこんなのいつ買ってたの?」
「日曜日に買っておいたけど」
「つまり僕を最初から女子チームに入れるつもりだったんだ!?」
「当然。性転換手術も予約しておいたけど」
「キャンセルして」
「女の子用ショーツとブラジャーもあげるね」
「要らない!」
でも姉は「スタンダードショーツ3枚組L」と書かれたビニール袋に入ったセットと、ベージュのブラジャー2枚を置いてから出て行った。
4月12日(火)の夕方。
千里は邦生と真珠のマンションを訪れた。
「明日の結婚式の君たちの服装なんだけどね」
と千里は言った。
「はい」
「こういうことにしない?」
それで千里から話を聴いた2人は
「え〜〜!?」
と声を挙げた。
4月12日(火)の放課後、春貴は8人の女子バスケット部員を、千里さんから借りたキャラバンに乗せて、津幡町の火牛アリーナまで連れて行った。8人は制服のまま集まって来た。現地に到着すると、春貴は晃にキーを預けて女子たちと一緒に体育館に入り、そこで着替える。晃は車内で着替えてから体育館に入り、鍵を春貴に返した。
「大きな体育館だなあ」
「こういう施設作るという話になると、真っ先に野球場を作ったりするんだけど、建てたのがバスケット選手と水泳選手の姉妹だから、まず体育館とプールができちゃったんだよね」
「なるほどー」
受付で全員簡易検査キットにより感染検査が行われる。(遅れて館内に入った晃は別途検査を受けた)
「鼻が痛い」
「これだけは仕方ない」
全員陰性だったので入場が許可される。
森本メイが春貴の年間利用者証をH南高校女子バスケットボール部のものに交換してくれた。そして
「今日はポニーをお使い下さい」
と言われて、館内地図を渡された。
体育館は通常は上記のように8つに区切られている(更衣室やトイレも各々専用のものを使用する:コロナ対策のため初期の状態からかなり改造している)。
2月までは中央の“猫帯”は使っていなかったのだが、コロナが少し落ち着き始めたことから、真ん中の空気の逃げ道が少ないトリコロールを除いて、タビーとショコラも開放することになったらしい。但し、タビー・ショコラが使われるのは、ラビット・コアラ・ポニーの“草食動物帯”が埋まっている時のみである。
体育館は全ての窓が開けられており、空気はその窓の外に出て行く。トリコロールの天井から空気を送り出し、廊下で空気を吸引しているので、こういう強制的な空気の流れが作り出されている。おかげで、この体育館では1度もクラスターは発生していない。
春貴はまず自分も一緒にポニー内を10周走ってウォーミングアップし、ラジオ体操をした上で、ストレッチと柔軟運動もした。
春貴は晃が足の毛をきれいに処理して、白い肌の生足を曝しているのを見て「元々女の子になりたい気持ちがあるのかな?」と思った。そしたらできるだけ女子に準じて扱ってあげたほうがいいのかな??
実際女子たちに混じっていても、特に恥ずかしがっているような様子はなく、良い意味で埋没している。なお、彼は柔軟運動は姉の舞花としていた。
その後、ドリブル100回というのをやったが
「木の床の弾み感触だぁ!」
などと2〜3年生は感動していた!(1年生は訳が分からない)
その後、ゴールを4個出してきて、2人ずつ組になってシュート練習をする。1人が返球係になって5球ごとに交替である。しかしボールがバックボードにも当たらず、向こうに飛んでいき、結構な距離を走ってボールを取りに行くケースがかなり多発していた(最初“歩いて”取りに行っていたので“走れ”と指示した)。つまり下手な人と組むとたくさん走る羽目になる。
30分ほどそれをやった後、今度は4人ずつ組になり、
1 シュートする係
2 それを妨害する係
3,4 リバウンドを狙う係(左右)
という役割分担で回していく。春貴は河世のシュートを晃が妨害するような順序にした。春の大会で1勝を挙げることができるかどうかは河世に掛かっていると考えた。
たっぷり1時間ほど汗を流した後、ポニーを5周してラジオ体操をする。ここで舞花からの提案で、終わりの体操は“ラジオ体操第2”をすることにした。それからゴールを片づけ、モップで掃除をする。
「モップ掃除やってみたかったぁ」
と2〜3年生が言っているので、1年生が首をひねっていた(明日には分かる)。
「でも大会の時のモップ係って美しいよね」
「あれはもう芸術だよね」
体操まで終わった所で、晃はモップ掃除免除にした。鍵を渡して先に車に行き、着替えるように言った。そして他の女子と春貴が掃除の後、体育館内で着替えてから車に行った。
「ルミちゃんも一緒に着替えられたらいいのにね」
「やはり早く性転換手術を」
「取り敢えず次回からは女子制服を着てもらおう」
などと女子たちは更衣室で話していた。
春貴は帰りは部員たちを各々の自宅前まで送った(細い道に入る場合はその道の入口まで)。全員を18:10頃までに送り届けた。(一応ルートは前日に確認してカーナビにもセットしておいた)
「18時過ぎてしまって、ごめーん」
と謝ったが、
「普段より早く自宅に到着しました」
とみんな言っていた。
初日はとっても充実した練習になった。
なお、春貴はこの日の夜、邦生と真珠のネット祝賀会にリモート参加した。
余興では、杏梨・蒼生恵と“水泳部女子”3人組で『ギンガム・チェック』を歌った。ダウンロードしたアプリから流れる伴奏にあわせて歌えば、ちゃんとタイミングが合うという仕様で、リモート合唱ができるようになっている。
「でも吉田さん、すごいなぁ。女の子になって女の子と結婚するって。私ももしかしたら、女の子と結婚する道もあるのかも」
などと春貴は思った。
少年は悩んでいた。
「うまくホックが留められない。これ難しー」
2022年4月13日(水・さだん).
吉田邦生と伊勢真珠は結婚式を挙げた。
邦生は水木金は有休をもらっている。真珠は学校に結婚式のため休むと連絡している。公休とかには、ならないものの無断欠席とかよりは印象が違う。
朝から、邦生の両親と弟、真珠の両親と姉兄が来て、吉田一家は瑞穂の部屋、伊勢一家は空いている2番目の部屋で待機する。明恵と初海が“親族お世話係”を引き受けてくれていた。
邦生と真珠は午前中に美容室に行き、髪をきれいにセットしてきた。
「おぉ、可愛い!」
という声が多数あがった。邦生の父は、つい見とれてしまっていた。
(邦生は銀行に入った直後、短く髪を切ったら「短すぎ」と言われて伸びるまでウィッグを着させられていた。それ以来、セミロングの髪にしている)
「邦生(ほうせい)、お前バストがあるように見えるけど、まさかおっぱい大きくしたの?」
「そんなことしてないよ。ウェディングドレス着るから、パッド入れただけだよ(ということにしておこう)」
「なんだ。びっくりした」
婚姻届は、“ひゃくまんさん”の婚姻届に邦生と真珠で記入し、邦生の父・善太郎、真珠の父・大蔵に、先週土曜日に、既に証人欄の署名をしてもらっている。
14時。ふたりとも白いドレスを着る。エンゲージリングを受け取りに行った時に着たドレスである。ふたりともマリッジリングを着け、真珠は更にエンゲージリングも着けた。明恵が2人にお化粧をしてあげた。
明恵がスペーシアにふたりを乗せて市役所まで行き、待機する。
14:37 月出となる。
15時頃、ふたりは市役所の窓口で婚姻届を提出した。
市民課の窓口の人が緊張した顔で
「おふたりとも女性ですか?」
と訊くが
「私は男です」
と邦生は男声で答え、自分の戸籍謄本の性別欄を指さす。窓口の人は2人の運転免許証も確認し、その写真も本人たちと見比べた上で(*39)ホッとしたような表情で
「分かりました。これで受け付けます」
と言った。それで無事受け付けられ、婚姻届受理証明書も発行してもらった。
この婚姻届提出の様子は、明恵がテレビカメラで撮影していた。
(*39) 邦生は下記のように免許を取っている。
2015(高3)自動二輪・普通
2016(大1)大型二輪
2018(大3)大型・牽引
2021(社2)免許更新
昨年夏に更新した時は、かなり女性化が進み、女性にしか見えない状態になっていた。それで免許写真ではお化粧などしていないものの、容貌は現在のものにほぼ等しいので本人確認には全く支障が無い。
(この免許証で運転できないのは大特のみ:どこかで取るつもりでいる。二種はバス会社に転職とかにならない限りは取るつもりは無い)
真珠のほうはこのように取っている
2016(高1)自動二輪
2018(高3)普通
2020(大2)中型
2021(大3)8月牽引, 12月大型二輪
卒業するまでには、四輪の大型免許も取るつもりでいる。免許写真は高1の時以来、女性にしか見えない状態で撮影している。真珠は高校に女子制服で通学していた:と本人は主張している。
火牛ホテルに入り、ふたりともウェディングドレスを着せてもらった。邦生はちゃんと胸がある(ように見える?)ので、こういうドレスを着ても全く問題が無い。再度明恵の手で可愛くメイクされる。
そして17時から、火牛タウン内、辺来の里神社の結婚式場で、斎藤種雄宮司が祭主を務めて結婚式が行われた。
最初2人は人前式の形式で挙式するつもりだったが、話を聞いた宮司さんが
「くにおちゃんと、しんじゅちゃんなら、うちで挙げてあげるよ」
と言って、神前式での挙式になった。
この挙式に出席したのは下記である。
邦生側(4) 両親・瑞穂・山門
真珠側(4) 両親・瑠璃・金剛
この他、真珠の介添え役として明恵、邦生の介添え役として世梨奈が付き添っている。
結婚式の様子は、幸花と初海が2台のカメラで撮影している。むろん、後日、『霊界探訪』で放送するつもりである。
千里が龍笛、宮司の息子・真雄さん(津幡町内・菊姫神社宮司代理)が太鼓を叩いて、辺来の里神社の専属巫女さん3人による巫女舞も奉納された。千里の龍笛を聴いて巫女さんたちが「凄い」と思わず声をあげていた。
三三九度と親戚堅めの式には能登の酒蔵・宗玄酒造の“純米大吟醸 Samurai Queen”が使用された。
宮司さんは婚礼の祝詞では
「富山県高岡市に住まいする吉田善太郎の“長女”吉田邦生(くにお)と、石川県X町に住まいする伊勢大蔵の次女・伊勢真珠(まこと)の婚礼(とつぎのいやわざ)を執り行わん」
と奏上した。
邦生は式の最中、祭壇の傍に座って赤い小袖?を着て、こちらを笑顔で見ている8-9歳の女の子が気になった。宮司さんのお孫さんかな?
結婚式は約30分で終了した。
そして・・・・・
結婚式の後、“邦生は”メイクを落として、ウェディングドレスを脱ぎ、タキシードを着た!
邦生は元々女性体型だし、今日はバストまであるので、男性用のタキシードが着られない。それで着たのは、女性用のタキシードである!バストが大きく作られているし、ズボンには前開きが無い。
明恵が再度真珠のメイクを直して、18時から再度“結婚式”が行われた。
さっきと同様、辺来の里神社の結婚式場で、斎藤種雄宮司が祭主を務めて行われる。これも幸花と初海が2台のテレビカメラで撮影している。
この2度目の挙式に出席したのは下記である。
邦生側(8) 両親・母の両親・父の両親・瑞穂・山門
真珠側(8) 両親・母の両親・父の両親・瑠璃・金剛
真珠の介添え役は再び明恵だが、邦生は男装なので介添え役無しである。
千里が龍笛、巫女衣装を着けた世梨奈が太鼓を叩いて、祝詞が奏上され、辺来の里神社の“バイト”巫女さん(地元の女子高生)3人による巫女舞も奉納された。
宮司さんは婚礼の祝詞で
「富山県高岡市に住まいする吉田善太郎の“長男”吉田邦生(ほうせい)と、石川県X町に住まいする伊勢大蔵の次女・伊勢真珠(しんじゅ)の婚礼(とつぎのいやわざ)を執り行わん」
と奏上した。
邦生は今回は祭壇の所に女の子ではなく、代わりに白猫が座って居るのを見て首をひねっていた。
今回、千里が神楽のメロディーを1ヶ所微妙に間違えたので、巫女さんたちは、
「この節(ふし)には慣れてないから、さすがの名人さんでも間違えたのかな。それでも破綻しないようにまとめたのはさすがだ」などと思った。
三三九度と親戚堅めの式にはノンアルコール日本酒が使用された。
そしてこの“結婚式”の様子は、ふたりの親戚などに、リモート配信された。
結婚式を2度行い、邦生が最初は女装、2度目は男装で臨んだのは、実は、青葉の後ろに常駐している《姫様》主催の会議!で決められたことである。
4月10日夜、千里は《姫様》から呼ばれ、いきなり辺来の里神社の神殿に転送された。そこに居たのは、姫様(玉依姫様)、少女の姿の津幡姫様、そして斎藤種雄宮司である。千里は、斎藤宮司は、毎日津幡姫に本を読んであげたり、お手玉などで遊んだりで、既に半分は人間でなくなっているなぁと思った(←自分のことを棚に上げている)。
玉依姫が言った。
「吉田が『ウェディングドレスで結婚式とか嫌だよぉ』と泣いているのだが」
「何を今更」
と千里は言う。
「当人同士が男と女であれば、別に双方文金高島田だろうとウェディングドレスだろうと構わないと思いますけどね」
と宮司。
「そちは女同士の式はダメか?」
と少女姫様が言う。
「姫様のご許可があれば挙げてもよいです」
「許す。女同士は許してやれ」
と姫様。
「姫様がおっしゃるのでしたら、以降、女同士は受け付けます」
と宮司。
「男同士はどうしますか?」
と千里は尋ねる。
「男は子供を産めないからなあ」
などと姫様は言っている。女同士でも作れない気がするけど!?
もっとも女同士なら、例えば相手の兄弟の精子を借りてきて妊娠する手はある(早月はこれに近い)。男同士だと相手の姉妹の卵子を借りて来て妊娠・・・が出来ない!代理母が必要だが、男同士では特別養子が使えないから、代理母さんとの法的関係を外すことができず、迷惑が掛かる(由美はこれに近い)。
「だから、邦生(くにお)と真珠(まこと)は女同士として式を挙げてやれ」
「分かりました。ではそのように祝詞を書きます」
「しゃ2人は女同士として結婚するというので全く問題無いな」
と玉依姫様。
「何も問題無いですね」
と千里。
「ただ、本人は自分がウェディングドレスを着ること自体より、そのことをどう親戚に説明するかというので悩んでいるようですけどね」
と千里は補足する。
「そんなもの、女に変化したと説明すれば良いだろう。最近そういう奴多いし。真珠(まこと)が『くーにんにヴァギナがあったらいいのに』と言ってたから、わざわざ作ってやったのに」
と少女姫様。
犯人はこの人か!
ゲルショッカーとかレッドキングとか出してきたのは、きっと幼い頃にテレビを見ていた記憶なのだろう。この姫神様はまだ70歳くらい、いやもう少し若いかな?と千里が思ったら
『こら。女の年齢を言うな』
と姫神様からテレパシーが飛んできた!
『ちなみに妾(わらわ)はまだ61歳じゃ』
と姫神様は千里に言った。
へー!!
『お誕生日は6月24日ですか?』
『もちろんだ。だからこの神社の例祭にしている。ちなみに生まれた時刻は12:27だ』
『朔になった瞬間ですか!』
『よく分かるな』
『そのくらいは分かりますよ』
『大したやつだ。気に入った』
『ありがとうございます』
ということで、姫様の誕生日時は 1960.6.24 12:27 ということになる。蟹座である。性格的に蟹座っぽいなという気はしていた。
(後で確認したら、太陽・月・水星・金星が蟹座にあり、その集団がMCの近くにあった。さすがパワフルである)
しかし、どうも真珠はこの姫神様のお気に入りのようだ。あの子、実は結構なパワー持ってるよね?例の御神木伐採事件でも“千里”が到着するまで、8時間くらい封印を持たせた。そして(青葉の指示通りにしただけだが)あの事件の最終処理をしたのも真珠である。
あの子はたぶん自分の力を隠している、と千里は思う。
玉依姫が言った。
「結婚式を2度挙げたらどうだ?」
「へー!」
「男装で1回と女装で1回。どうせ親戚はリアル出席ではなく、ネット中継だろ?男装の結婚式だけ中継すれば良い」
と玉依姫。
「なるほどー」
「その場合、1度目と2度目のどちらが有効なんですか?」
と宮司が質問する。
「それは1度目が有効だ。2度目は既に2人とも既婚だから無効」
と津幡姫は断言する。
「私もそう思う」
と玉依姫も同意見のようである。
ということは、昨年3月の“千里の結婚式”(3/28)は、先に挙げた貴司との結婚式が有効で、桃香との結婚式は無効になるのか、と千里は思った。だいたい桃香も前日(3/27)に季里子と結婚式を挙げているし。
「それで男装の結婚式と女装の結婚式のどちらを先にすればいいんですか?」
と宮司は質問した。
「女装だろ?」
「女装でしょ」
「女装ですよね」
と、津幡姫、玉依姫、千里がほぼ同時に言った。
「だって、邦生はほぼ女で良い。ちゃんとヴァギナも作ってやったし」
「あの子は女にしか見えないから女で良いと思う」
「ま、実際、周囲のほとんどの人から女だと思われているからなあ」
「だったら、祝詞をこう調整していいですかね?」
と宮司は言って、ふたりの名前をこう読むことにしたのである。
1回目(有効)女装:くにお・まこと
2回目(無効)男装:ほうせい・しんじゅ
「名前を読み間違っていたら、無効感が更に強くなる」
「御神酒も水でいきましょう」
「水だと別れの宴だから、ノンアルコール日本酒で」
「あ、それいいですね」
「ついでに、千里、お前が龍笛を吹いて、2度目は間違えろ」
「分かりました」
「太鼓は誰か知り合いに打たせますよ」
「巫女舞もこの3月に雇ったばかりのバイトさんたちに舞わせよう」
ということで、この日の結婚式の次第が固まったのである。その方針を千里は邦生たちに伝えた、
邦生も
「そういうやり方ならウェディングドレスを着てもいいです」
と、邦生はやっとウェディングドレスで式を挙げることに納得した。
「でも、本物の結婚式で“くにお”と読んで、ダミーの結婚式で“ほうせい”と本当の読みを使うんですか?」
「神様が“くにお”の方を本名と判定したから、以降はもうそれで」
「え〜〜〜!?」
と本人は抗議の声を挙げているが
「もう市役所に届けを出して、名前の読みは正式に“くにお”に変更しちゃおうよ」
などと真珠は言っていた。
「じゃ、明日はウェディングドレスを着ないといけないから、おっぱい大きくしてあげるね」
と言って、千里は邦生にタッチしてから帰って行った。
「おっぱい大きくしてあげるって」
「なんか俺気分悪い」
それでほんの30分ほどの間に邦生にはCカップのバストができてしまったのであった。
「わーい!くーにんに、おっぱいができた」
と言って、その夜真珠はたくさん、邦生のバストで遊んでいた!
一戦交えた後、お風呂に入り、自分の“豊かなバスト”を手洗いした邦生は
「俺・・・その内、青山さんみたいに赤ちゃん産むことにならないよね?」
と大いに不安を感じた。
そして結婚式当日。
邦生は、神様たちが決めたように、17時に女装で、18時に男装で結婚式を挙げた。
祝賀会(ネット形式)はみんなが仕事が終わって帰宅できる時間からということで19時から21時までの2時間に設定されている。この様子は〒〒テレビ制作部の2人のカメラマンにより撮影された(幸花・初海は祝賀会自体に出席したため)。
祝賀会の司会は、青葉が(リアルで新郎新婦の傍で)務めた。
ここに青葉が登場したのは、多くの人に驚かれた。青葉は
「吉田君と真珠ちゃんの結婚式なら、私が司会するよ」
と言って、わざわざ“某所”から出て来てくれたのである。
(青葉がここに出て来たことから、青葉は実は4月頭から、北陸のどこか、ひょっとしたら実は高岡の自宅に居たのでは(燈台元暗し!)と思った人が多かったようである:青葉としては絶対に龍虎にだけは迷惑を掛けてはいけないと思っている)
またエレクトーンの演奏は千里が引き受けている。
(エレクトーンは式辞の進行にだけ使用する。余興の伴奏については既述のように専用アプリ(ムーランソフト製)を使用している。会場のエレクトーンの伴奏を聴きながら参加者が歌うとネット中継時差で歌と伴奏が合わなくなる)
参加者は、邦生の人脈が凄いことから200人を越えている。
(会費制でネットなので、御祝儀も不要だし、服装や交通費がかからないのも利いている)
邦生は、中学・高校の友人、大学の友人、水泳部関係、銀行関係のほか、音楽関係でも多数の人が参加してくれた。真珠は主として高校・大学の友人と放送局関係、というより『霊界探訪』関係である。
“男の娘師範”のユウキさんも参加してくれているし、ミステリーハンティング同好会のOB/OGも多数参加した。多くは自分がなりたいと思っている性別の格好、その性別に合わせた名前で参加している。
さて、実際の祝賀会では、最初、千里がエレクトーンで弾く、タラモフティ『結婚しちゃった』の演奏に合わせて、ウェディングドレス姿の真珠と、タキシード姿の邦生が腕を組んで、入場してくる。
その様子をカメラは“遠景で”撮影している。
そして2人がメインテーブルに就いた途端、式場に黒覆面の人物たちが10人ほど乱入してくる。
「何するんだ?」
と“邦生”が声を挙げる。
「我々は大ショッカーだ。君を改造人間にする」
「え〜〜!?」
と“邦生”が言っている内に、黒覆面の人物たちは手品の早変わりに使うような大きなマントを“邦生”にかぶせる。
そしてそのマントを取り外すと、そこに居たのはタキシード姿の“邦生”ではなく、ウェディングドレス姿の(本物の)邦生である。
リアル出席者たちから、思わず拍手と歓声が上がる。
「男から女に改造したから、今夜は花嫁になるように」
と言って、大ショッカー?たちは退場して行った。
「こんな格好になっちゃった」
と邦生。
「別にいいと思うよ。今夜は私の花嫁さんになってね」
と真珠も言って、祝賀会はごく普通に?始まった。
エレクトーンを弾いていた千里まで
「この曲の歌詞がまずかったかなあ。『今僕は燃え尽きる』なんて歌詞だから、男として燃え尽きて女になったのかも」
などと言っていた。
ここで邦生は男だと思っている人たちは、祝賀会の余興として女装させられたのだろうと思っている。
一方で邦生が女だと思っている人たちは、最初ジョークで男装して入場してきたのだろうと思っている。
また一部の人たちは、女同士の結婚だけど、一応男と女の結婚であるかのように装うため、こういう演出をしたのだろうと思っている。
結局様々な解釈の余地を残すような演出をしたのである。
邦生の胸にしても、邦生が男と思っている人は、付け乳のようなものを着けているのだろうと思い、邦生が女だと思っている人は、女だから胸があるのは当然と思っている。
ちなみに最初タキシードを着て、本当に真珠と腕を組んで入場してきたのは真珠の兄・金剛である!彼は妹と腕を組むなんて恥ずかしかったと後で言っていた。大ショッカー?に扮してくれたのは、真珠の友人の“男の娘組”の面々である(ミステリーハンティング同好会のメンツがかなり居る)。彼ら(彼女ら?)はこの後、割り当てられている火牛ホテルの個室で、以降の祝賀会に参加した。
実際の邦生は18:00-18:30のダミー結婚式を終えたあと、服をタキシードからウェディングドレスに着替え、明恵の手でとっても可愛くメイクしてもらっている。それで、ウェディングドレス姿の邦生を見た親戚の人たちも
「花婿さん、お化粧すると凄い美人になっちゃうね」
「こんなに可愛くなるなら、ウェディングドレス着てもいいかもね」
と、わりと好評だったようである。
なお人物の入れ替わりは、背面の黒幕を利用した単純なものである(たぶん)。
結婚式・祝賀会の様子を6月17日放送の『霊界探訪』で見た人たちの意見。
「とうとう結婚したんだ?」
「あのふたり少し怪しいと思ってた」
「そもそもそういう関係だから、まこちゃんが、くにちゃんのちんちん掴んだりしてたのね?」
「でも、くにちゃん性転換してないの?」
「してると思うよ。ウェディングドレス姿見たら、くにちゃん、ちゃんと胸あったし」
「女同士では結婚できないから、くにちゃんが法的には男である内に結婚して、籍を入れて、その後、くにちゃんの性別を女に変更するんじゃないの?」
「ああ、そういう手があるんだ?」
しかし“女同士”の結婚ではあっても、くにちゃん“元男の子”だから、男女の結婚に準じるのでは?ということで、抵抗感は比較的小さめだったようである。
婚姻届受理証明書も放送で映してたし!
だいたいこの番組は、青山が性転換して花嫁になって、赤ちゃんを妊娠したのも既に放送している!
(番組の方向性が変わってきつつあったりして)
その後、祝賀会は、青葉の司会により、このように進行した。
・星衣良(祝賀会実行委員長)による祝辞
・ウェディングケーキ入刀
・友人代表挨拶(邦生:世梨奈、真珠:明恵)
・ゲスト祝辞(H銀行金沢支店長、真珠の指導教官、神谷内、花ちゃん、MH同好会の元顧問、邦生の叔父、真珠の伯母)
・余興(*40)
・祝メール紹介
・本人たちの謝辞
・石崎部長の祝辞と乾杯
・“新婦新婦”退場
星衣良はビジネススーツで決めて、ちゃんと弁護士バッジを付けての登場である。「弁護士様に委員長をしてもらおう」などと美由紀や世梨奈に乗せられ、実行委員長を務めた。
ゲスト祝辞では、邦生の叔父も真珠の伯母も
「なんか凄く可愛くなっててびっくりした」
と言っていた(“可愛くなって”の意味が真珠と邦生では違う!)
※真珠は小さい頃から女の子の服を着ていたし、中高生時代は親戚の集まりに女子制服で顔を出していたので、そもそも最初から女の子だったと認識している親族が多い。瑠璃など、いつも「うちの妹が」と言っていた。
(*40) ホローズ(邦生の元同級生・清原空帆のバンド)やColdFly5(例の製作で共同作業した)の演奏、川内みねか(花ちゃん)の歌唱を含む。
川内みねかについては「名前は知らないけど、可愛いアイドル歌手だね」と言われていた。
またスートラバンドまで演奏して、かなり受けていた。このバンドの演奏は一部放送され、視聴者にも受けていた(やはり番組の趣旨が・・・)。
祝賀会が終わった後、2人はウェディングドレスを脱ぎ、邦生はビジネススーツ(ズボン型)、真珠はドレスで、双方の親族に挨拶した。その後、火牛ホテルのスイートルームに入った。新婚旅行代わりに、ここで日曜までのんびりと過ごすことになっている。
「お姫様抱っこして〜」
「頑張る」
なんとか邦生は入口からベッドまで、真珠を運ぶことができた。
「腰痛くない?大丈夫?」
「まあ何とか」
「ミューチャル・インサートしようよ」
「いいよ」
同時に入れ合うことはできるのだが、やはりその状態で射精までするのは難しい。どうしてもどちらかが外れてしまう。
それで通常の体勢に戻す。
「くーにん。今日からは、ぼくの中で生で出していいよ」
「あと1ヶ月我慢する」
実は今妊娠してしまうと、出産予定日が1月になり、卒業前の大事な時に稼働できなくなる危険があるのである。2月や3月なら何とかなる。
「でも精子あるの〜?」
「あるよー」
「怪しいなあ。最悪留年してもいいのに」
「まこの母ちゃんに叱られる」
ということで、この日はちゃんと避妊具を付けてお互いに入れっこした。
「5日間で100回くらいできるかなあ」
「さすがに腰を痛めると思うし、さすがに俺のは立たなくなる」
「ぼくが付けてるのと同様のを付ければいいよ。買いに行ってくるよ」
真珠は、激しい動きをしても外れない、プラグ式ハーネスを使用しているが、邦生の場合はペニスが存在するので、ハーネス無しで中空型**ルドーを付ければよい。ペニスをプラグ代わりに使用するのである。このタイプのものはEDの男性も使用している。
「腰が持たない」
「じゃ、くーにんが疲れたら、ぼくが入れればいいね」
「お前も腰痛めるぞ」
「でも、くーにんのおっばい、柔らかくて、揉みがいがあっていいなあ。ずっとこのままにしておこうよ」
「いやだよ。この5日間限定」
一応、千里は月曜日(4/18)にバストは小さくしてあげる、と言っている。真珠はこのままでいいと言っているが!
4月13日の朝。
横田先生が春貴に声を掛けた。
「奥村先生、春季大会の選手名簿を今日提出するんですが、女子は数が少ないから、全員参加でいいですかね」
「あ、はい。それで」
「ポジションとかは固まってます?」
「あ、暫定的にですが」
「じゃこれに記入を」
と言われたので、春貴は記入していく。
ここで名簿には背番号と名前までは既に記入されていた。たぶん、部員名簿の登録順!に記入したのだろう。春貴は2-3年生はキャプテンから聞いたもの、1年生については昨日の練習を見て考えていたポジションを、手帳を見ながら記入していく。各々の身長も自己申告してもらったものを書いていく。この時、春貴は“なーんにも”考えずに↓のように全員分記入してしまった。
4 谷口愛佳 153 PG
5 高田舞花 159 C
6 山口夏生 154 SF
7 竹田松夜 155 PF
8 原田河世 165 C
9 鶴野五月 152 PG
10 綾野美奈子 158 PF
11 高田晃168m C
「今年は背の高いセンターが入ってきましたね」
と横田先生は言った。
「ええ。中学時代はバレーしていたとかで、バスケの経験はあまり無いんですけどね」
「へー。彼女がバスケ覚えた秋の大会あたりが楽しみですね」
「はい。まだ総体(5月)には間に合わないと思います」
「じゃ、これで今日午後の代表者会議で提出してきます」
「よろしくお願いします」
むろんここで横田先生の言っている“背の高いセンター”は晃のことなのだが、春貴は、河世のことと思っている!
この日の放課後、女子バスケットボール部員は校舎裏に集められた。
「今日からの練習はここでやるから」
とキャプテンが宣言する。
「え〜〜!?」
と1年生たちから声があがる。
「うちは弱いから体育館もらえないんだよ」
とキャプテン。
「次の大会で優勝して、体育館から男子を追い出して女子がそちらで練習できるようにしよう」
と舞花。
それでまずは校舎の周囲を春貴も一緒に5周走った後、体操をする。その後、土日の間に春貴が(自腹で)ホームセンターで買っておいたウッドカーペット(3畳サイズ×2枚)を出してきて、コンクリートの上に置く。そしてそこでドリプル練習してもらった。
「すごーい。ちゃんと木の板の感触だ!」
と2〜3年生は感動していた。
これまではコンクリートの上でドリブル練習していたから、木のフロアとは感触が違い、それも試合で実力が出せない要因のひとつになっていたらしい。
その後、校舎の壁に取り付けられた3つのゴール(横田先生が増設してくれた)と、1個の古い移動ゴールを使って、シュート練習をした。30分やった後は、また昨日同様、4人ずつにして、妨害される中でシュートをする練習+リバウンドを取る練習をした。その後再度2人ずつに戻してシュート練習をして、この日の部活を終えた。
「パス練習とか、ドリブル走の練習とか、ゲーム練習は無しですか」
「練習できる場所が無いし。当面はひたすらシュート練習をしよう。また今度津幡に行こう」
「先生。今度津幡に行ったらゲーム形式の練習もしましょうよ」
「今度はやってもいいね」
翌日(4/14) 日はお昼頃から雨になったため、女子パスケット部の練習は自動的にお休みとなるところである。明日も天気予報では雨になっている。春貴は火牛アリーナに電話してみた。
が、さすがに前日、しかも雨の予報の時では予約は取れなかった。
春貴は長期予報を見て訊いてみた。
「4月21日は取れますか?」
「残り1枠ですね」
「それお願いします」
「はい。予約を受け付けました」
昼休みにキャプテンの愛佳が春貴の所に来て
「今日は練習は休みでいいですかね」
と尋ねた。
「化学実験室に部員を集めてくれる?まだバスケのルールがよく分かってない子もいるみたいだから、その講習をしよう。明日も雨みたいだから、明日はテーブル・オフィシャルの練習で」
「それもいいですね」
「それと21日に火牛アリーナの予約取ったから、また向こうで練習しよう。大会前にコートの感触を感じておいて欲しいし」
と春貴が言ったら、愛佳は何か考えている。
「どうかした?」
「ふと思ったんですけど、今度津幡に行く時に、うちの母にも来てもらってもいいですか?先生、ずっと練習に付き合って下さっているのに、帰りの運転もして下さって、たいへんだなあと思って」
この子は物事をソフトに言うのがうまいなと春貴は思った。多分前回、自分の運転に不安を感じたのだろう。
「それは助かるかも知れないね。疲れている状態で運転して万一のことがあったらいけないから。お願いしようかな」
「分かりました。母に言っておきます」
と愛佳は言った。
愛佳の母が乗ると、春貴、選手8人と合わせて10人になる。春貴はほんとにあの車を借りられて良かったと思った。
ということで、この日は化学実験室で、ルールの説明をした。
ほんの1ヶ月ほど前に自分が習った内容である。
「みんなトラヴェリングとかダブルドリブルとかは分かるよね?」
と訊くと、頷いているので、そのあたりは大丈夫そうだ。それで○秒ルールといったものから説明する。
24秒ルール:ボールを持ったチームは24秒以内にシュートしなければならない。
3秒ルール(1):制限エリアの中に3秒以上いてはいけない。
5秒ルール(1):スローインは5秒以内
5秒ルール(2):フリースローは5秒以内
5秒ルール(3):近接して防御されたら5秒以内にパスかシュートかドリブルする
8秒ルール:バックコートでボールを持ったチームは、8秒以内にフロントコートにボールを進めなければならない。
バックパスの禁止:フロントコートからバックコートにボールを戻してはいけない。
「まあ、バスケットはスヒーディーにプレイしろということだね。ちんたらちんたらフレイしてはいけないということ」
と春貴は言った。
ジャンプ・ボール・シチュエイションとオルタネイティング・ポゼッションルールについても説明したが、これは中学でもやっていた五月と美奈子はむろん知っていたが、河世と晃は知らなかったようで、驚いていた。
次に、パーソナルファウル、テクニカルファウル、アンスポーツマンライク・ファウル、ディスクォリファイング・ファウルといったものを説明する。
そして退場になる回数についても説明する。
・パーソナルファウル・アンスポファウル・テクニカルファウルを合計5つで退場(ベンチには居てもよい)。
・テクニカルファウルとアンスポファウルは合計2個で退場。
(これらの数え方は過去に何度も変更されている;↑は2022時点のもの)
・ディスクォリファイング・ファウルは一発退場(会場から追放され控室へ)。また、追って協会等から処分が下される(アマチュアの場合は一定期間または回数の出場停止を課されることが多い。プロだとこれに罰金も追加される)。
翌日はテーブルオフィシャルについて説明し、また実際にやってもらった。
「タイムキーパーは試合全体の時間を管理します。スコアラーはひたすらスコアを付けます。アシスタント・スコアラーは、試合をずっと見ていて、スコアに付けなければならないことをスコアラーに伝えます。そして24秒オペレータは24秒計の操作をします」
と春貴が説明すると
「24秒オペレータが何と言ってもいちばん大変」
と舞花が言う。春貴も頷く。
まずは各々の作業の仕方を説明。特にスコアの付け方と24秒オペレータの操作については詳しく説明した。
その上で、試合のビデオを流し、1クォーターの10分間について、2年3年の4人に実際にテーブルオフィシォルの作業をしてもらって、1年生4人にはそれを見学させた。
「アマチュアの大会では、他の競技でもそうだけど、“負けオフィシャル制”といって、負けたチームが次の試合の審判やテーブルオフィシャルをします。だから、決勝戦に進出したチーム以外は、必ず審判かT/Oのどちらかはすることになります」
とキャプテンは言った。
「1回戦はどうするんですか?」
「色々だね。会場校や近隣校の出場しない部員がすることもあるし」
「ルミちゃんは試合には出ないけど、多分テーブルオフィシャルは頻繁に頼まれると思う。特に24秒オペレータとか頼まれると思うからしっかり勉強して」
「分かりました」
実際にやってみる。2チーム編成し、最初はこのようにする。
A-Team AS:河世 S:舞花 TK:五月 24:夏生
B-Team AS:晃 S:愛佳 TK:美奈子 24:松夜
1年生がアシスタント・スコアラーとタイムキーパーである。これでやってみて、両チームのスコアを比較すると、両者は結構食い違う。それで最初に2〜3年で付けたスコアと見比べて、どこで間違ったかを検討する。
次はこのようにする
A-Team AS:舞花 S:河世 TK:夏生 24:五月
B-Team AS:愛佳 S:晃 TK:松夜 24:美奈子
1年生がスコアラーと24秒オペレータを務める。
2組の書いたスコアは大きく違う!
「ごめんなさい!頭が付いていきませんでした」
と、どちらも言っていた。
その後もローテーションして、全ての役割を体験してもらったが、結構頭がパニックになったようである。
テーブルオフィシャルへの道は、まだまだ遠い。
4月12日(火)の夕方、優子と夏樹の家。
ちょうど夏樹が帰宅し、御飯を作ろうとしていた時、ピンポンが鳴るので出てみると、播磨工務店の徳部さんである。
「基礎を作ってから一週間経ちましたので、今夜建設工事をしますが、あまり騒音は建てないようにしますので」
「あ、はい。よろしくお願いします」
この日は優子たちは夜21時には寝た。正確には奏音は20時に寝せ、その後、優子と夏樹はあまり音を建てないように気をつけながら(何しろひとつの部屋である)セックスをして、21時半頃にはふたりとも眠った。
夜中0時過ぎ、優子がトイレに起きると、隣で4〜5人の人が作業している感じの声が聞こえる。ほんとに作業を始めたようだ。
「でも夜中にも作業するのね」
と思った。あるいは夜間に使えるバイトさんとか使うのかも?昨今のコロナの影響で収入が減り、会社が終わってから、副業に出掛けるという人も多い。よく体力があるものだと思うけど。
(“夜間使えるバイト”というのは。ある程度正しい。精霊たちの中には夜間しか稼働できない者たちも多い。夜間に作業する第1の理由は、クレーンも使わずハウスユニットを持って登って填めたりしているから、それを見られないため)
(4/13 wed) 朝8時。夏樹を会社に送り出すのに2人は玄関まで出る。
「行ってきます」
と言って、優子にキスしてから数歩踏み出した夏樹が
「わっ」
と声を出す。
「どうしたの?」
「家ができてる」
「え?」
と言って、優子も外に出てみる。
「嘘」
それで見ると、昨日の夕方までは基礎の白いコンクリートだけがあった所に、既に2階建ての家が完成していた。
「千里ちゃんが言ってた。2階建ての学生さん向けアパートくらいなら、2-3時間で組み上がるんだって」
「これも2階建てだから、7〜8時間で出来たのかもね」
「そういえば昨夜徳都さんは言った。『今夜建設工事をします』って。考えてみたら『今夜から建設工事をします』じゃなかったのよ」
「1晩でできるんだ!」
(12日23:07までボイドだったので、作業はその後、始めて4時間ほどで完成している。EVのトレーラーでユニットを運んできて、その後はメンバーが手に持って組み立てていく。彼らにとっては、レゴでも組み立てているような感覚である。昔は拠点からユニットを抱えて飛んできていたが、目撃されると騒ぎになるのでEVトレーラーを使うようになった)
時間が無いので、夏樹は出勤して行く。優子は家を見てみたが、とても1晩で作った家には見えない。それに、ユニット工法ってプレハブみたいなのを想像していたのに、とっても素敵な雰囲気の家である。おしゃれで、これだけ見たら4000-5000万円くらい掛かってそうに見える。
新しい家の玄関には
《9時に検査班が来ます。検査で問題無ければ、お昼すぎの引き渡しになります。都合のよい時刻を検査に来た者に伝えて頂くか、私宛てご連絡ください》
という紙が貼られていた。
それで、奏音を幼稚園まで送ってから戻って来てみると、数人の作業服を着た人たちが家の検査をしているようであった。
「あ、御主人、今検査をさせて頂いております。多分数時間で終わると思います。引き渡しに都合の良い時間をお聞きするように言われたのですが」
と責任者っぽい40歳くらいの女性が言った。
優子を見て「御主人」と声を掛けるのは凄いなと思った。
男装していればそう呼ばれることもあるが、奏音を幼稚園に送るのに、優子は女装!?していた。スカートも穿いてるし。これが桃香だと、女装しても男に見えるのだが(そもそも桃香はスカートを持っていない)、優子は女装すれば一応女に見えるようだ。男装時と女装時で、心の中の回路が切り替わる感じなので、多分それで“雰囲気”も切り替わっているのだろう。
「あ、はい。14時くらいの引き渡しでもいいですか」
「はい、それでOKです」
15時を過ぎると、振込ができない。
優子は母に連絡し、家が完成したので、例の400万円を持って来るか、振込のできるパソコンを持って来て欲しいと頼んだ。
「お父ちゃんのパソコン持ってく!」
と母は言っていた。400万の現金を持ち歩いていて、万一スリにでも遭ったら悲惨だ。
また夏樹にも連絡した。
「分かった。早引きしてそちらに向かう」
ということである。
優子は、洗濯物が溜まっているから、洗ってから新居に運び込もうと思った。
ところが、洗濯機置き場に行けない。
というか、洗面所から浴室に行くドアが無くなっており、壁になっている!
「嘘!?」
それで外に出てみて、ユニットハウスの状態も変わっていることに気付いた。
昨日まで
現在
ユニットハウス側でもお湯は使えるが、どうも本宅側から管を引っ張ってきているようである。おそるおそる徳部さんに尋ねてみる。
「ああ、本宅側に使用予定のボイラーを一時転用していたので、昨夜本宅を組み上げるのに、そちらに戻しました。浴室と洗濯室も洗濯機ごと本宅に組み込んでいますので」
「分かりました!ありがとうございます」
ということは、奏音のアヒルさんやお魚さんに象さんのジョウロとかもそちらに移動しているのかな。
11時頃
「検査完了です。問題はありませんでした」
という報告がある。
「ありがとうございます!」
それで検査班は引き上げて行った。
徳部さんも
「では引き渡しの時にまた来ますが。何かありましたら、いつでもご連絡ください」
と言って帰って行った。
11時半頃、母が優子のムラーノを運転して、パソコンを持って来た。すぐその後で、夏樹が帰宅する。
夏樹は宮春のパソコンを操作し、振込の操作を確認する。
「お義母さん、ワンタイムパスワードは?」
「忘れた!」
結局金沢から母が取りに行くより、高岡市内にいる父が取りに行ったほうが早いので、父に連絡して(会社を早引きして)持って来てもらうことにした。優子は14時に約束しておいて良かったぁと思った。
12時半、千里が来てくれた。
「ごめーん。返済計画をまだ提示してなかった」
と千里に謝る。
「ゆっくりでいいよ。今日は1万でも2万でも入れてもらえば、それで契約は成立するから。それより、こちらも正確な建築費を出してなくて」
「そういえばそうだった!」
「私もアバウトに考えすぎてたみたいで、費用積算させたら1196万円になったんだけど」
「あ、1000万超えました?」
いや越えて当然だと思うぞ。これ3000万とか4000万とか言われても不思議ではない、と優子は考えた。1200万円というのもかなり抑えた価格という気がする。
「そこから1割出精値引きさせて1076万4千円。これが限界だと播磨工務店さんが頑張るからさ」
「80万オーバーくらい、いいですよ」
「それで私がこの土地を523万6000円で売るから。それで合計1600万円ジャストで」
「すみませーん!」
「だって1600万は越さないようにすると言ってたからね」
「消費税は?」
「(面倒臭いから)税込みで」
「了解」
※実を言うと、千里としては、火牛アリーナにパイプオルガンを建築するには、夏樹の力が必要なので、本当は彼女の住まいくらい、ただで提供しても良いくらいなのである。でもタダにすると贈与税を取られるから、売買の形を取った。
前の支店長さんは他の地区への転出を画策していたのだが、その前に亡くなってしまったのは誤算だった。いくら千里でも全てを見通せる訳では無い。
「1600万円なら、一応こうさせてもらえないかと思って」
と言って、優子は数日前に、優子・夏樹・父・母の4人で考えた返済計画を提示する。
頭金:976万(夏樹550 宮春426)
月割り:
2022.04-2023.03 12月×10万=120万
2023.04-2030.03 84月×6万=504万
「父が退職するまでは月10万、退職したら月6万の線で8年で返済」
「月10万とか大丈夫?」
「うん。これまでは毎月ローンを18万くらい払ってたから、それよりは楽」
「月18万は辛いね」
「だから実は康子さんが送ってくれる養育費頼りで生活してたんだよ」
「なるほどー」
“信次”の名義で送ってくれていた養育費である。
「でも奏音を夏樹の養子にするから、養育費は打ち切りだよね」
「そんなことないと思うよ。康子さんと相談してごらんよ。向こうは奏音ちゃんが20歳になるか大学を卒業するまでは送金してくれると思うよ。それが実の父親としての信次の義務だもん」
「・・・じゃちょっと相談してみる」
この話をした直後、4番は脳間通信で5番に連絡したので、5番はすぐに康子に電話し、奏音の養育費の件は、ちゃんと奏音が大学を卒業するまで千里が養育費を出すからと言った、康子が信次名義で送金している養育費の資金源は実際には千里である。
奏音の養育費は初期の頃は信次の貯金から自動送金されていたが、残高が尽きる直前に康子や千里たちが気付き、その後は、千里が資金提供している。千里はこの送金は信次の元妻としての義務だと考えている。
幸祐についても、母親の水鳥羽留とパートナーシップ宣言をした原野由梨が養子にしたが、同様の処置を既に実施済み。幸祐の養育費は、20歳になるか、大学に進学した場合は卒業まで(但し浪人・留年した場合は最大24歳になる3月まで (*41)、医学部・薬学部の場合は最大26歳になる3月まで)送金する予定である:大学院進学は対象外。
(*41) 幸祐は2019.4.1生まれなので“早生まれ”となり、法的には2043年3月31日24:00に24歳になる。
千里はその後「お守りを作るね」と言って、家の最奥部にあるボイラーの斜め前、敷地ギリギリに立っている道路標識のポールみたいなものの先に、鏡のようなものを取り付けた。
「それは何ですか?」
「八卦鏡というものです。これで風水を改良します。万一壊れたり曲がったりした時は、私か青葉に連絡してください。どちらでも対処できます」
「分かりました!」
「それ光を反射してまぶしかったりは、しませんかね?」
「ほぼ北北東を向いているので大丈夫だと思いますよ」
「ああ、そちらが北北東ですか」
「鬼門封じみたいなものですか」
「実はこの方角に競馬場があるので、そこから流れてくる邪気を反射拡散するんですよ」
「なるほどー。すった人たちの嘆きの念だ」
「そうなんですよ」
と言ってから、千里は尋ねる。
「ふたりはギャンブルは?」
「宝くじを買う程度ですね」
「私は“たヌキのたからくじ”ばかり買ってる」
「ああ、たいてい皆さん、タヌキ製の宝くじみたいですね」
「きっと葉っぱで出来てるんですよ」
1 2 3 4 5 6 7 8
【春春】(6)