【春春】(2)
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(C) Eriko Kawaguchi 2022-11-02
3/29 に熊谷に到着した千里や真珠たちだが、4人が乗るカートは1軒のコテージに到着する。
8023という数字が入っている。
千里さんがQRコードをかざすと、ドアは開いた。
「今夜はここで泊まるよ」
「結構広いですね」
「中央のラウンジの周囲にベッドルームが5つ、バス・トイレがあるから、個室は赤△青◇黄☆緑○菫♪、好きな所を使って」
「はーい」
入口のドアが色分けされているのは宿泊者自身が間違えないようにするためである。“さくら”が出来た当初は間違って開けてしまう事故が多発した。色だけでなく記号も大きく書かれているのは色弱の人への配慮である。実は点字のテープも貼り付けてある。
「自由な意志に基づいてセックスするのは構わないけど、大きな音を立てて他人の安眠を妨害しないようにね」
「この中でビアンの子居る?」
「まこは怪しい」
「浮気はしないから大丈夫」
夕食はデリバリーされてきたが、美味しかった。ここ宿賃、高いんだろうなと真珠は思った。(年間予約制である!食事代は900食(例えば5人で90日間朝夕を頼むと900食になる。5人で3食なら60日間)までは無料。それを越える場合は通常の2割引)
交替でお風呂に入った後、この日は早めに寝る。
そして3月30日(水).
朝御飯後、午前中は待機していたが、お昼は千里さんが時間指定して11時頃持って来てもらった。そして食事が終わった後、千里さんは全員に黒づくめの身体にフィットする衣裳と、首から上を完全に覆う黒いマスクを渡した。これを防弾チョッキの上!に着る。
「防弾チョッキ着けてると、おっぱいの大小が分かりにくくて良い」
「女装しててもバレにくいよ」
「ああそれはいいかも」
「でもなんか仮面ライダーの戦闘員みたい」
「それそれ。私たちはショッカーだよ」
「面白そう」
「このマスク、かぶってもちゃんと前が見える」
「見えなきゃ困るよね」
12:50
「行くよ」
「はい」
千里・明恵・初海の3人でカートに乗り込む。真珠はカートから少し離れた位置から3人を撮影している。カートは8023を出たが、隣の隣のコテージ8021のそばに付けた。3人が降りるが、足音を出来るだけ立てないようにしてコテージの入口まで行く。千里さんがポケットから出したQRコードをかざしてドアを開けた。
が!
千里さんは自分でドアを開けておいて、真珠を手招きして近寄らせてから
「あ、ドアが開いてるよ。好都合」
と発言した。
勝手にドアを開けられたら“つばめ”の信用問題になり、さすがの若葉も激怒するので、不注意でドアが閉まっていなかったことにするためである!だから千里が勝手にドアを開けた所は編集でカットする。放送時には多くの視聴者が、双方でしめし合わせておいた台本だろうと思ったようである。
3人がコテージ内に入る。真珠はそれを外から撮していたが、3人が入ると真珠も入った。
青葉が驚いている。一緒に居る2人の女性の内1人は「きゃっ」と悲鳴を挙げたが、もう一人は呆れたような顔をしている。
「ショッカーだ。お前を拉致して改造人間にする」
と千里さんが青葉さんに言う。
青葉さんは脱力したように
「ちー姉、何の冗談?」
と言った。
ともかくも、千里さんは、青葉さんに目隠しと猿ぐつわ!を付け、拉致していく。初海と明恵が青葉さんの両脇に付く。真珠もその様子を撮影しながら出ようとしたら、さっき呆れたような顔をしていた女性(立花紀子)が、カメラを持っている真珠に
「これ大宮先生のバッグです」
と言って渡してくれた。
「ありがとう」
と真珠は言って受け取り、カメラを持ったままコテージを出た。
誰が撮影したのか分からないが!?紀子が真珠にバッグを渡す映像も放送時には流れた。それで、このやり取りで、いかにも茶番劇であるという雰囲気が出た。バラエティ経験の長い立花紀子が、結果的にとても良い味を出してくれた。
千里・青葉・明恵・初海がカートで移動する。真珠はその横を歩きながら撮影した(カートは6km/h)。ゲートを通り、白雪城のそばを通る。人がたくさん並んでいるが、真珠がテレビカメラで撮影しているので、誰も何も言わない。こちらを見ているだけである。
カートを降りて郷愁ライナーの白雪駅に入る。そして列車が来るのを待ち、ライナーに乗り込む。そして郷愁飛行場まで行き、空港の施設を通って、昨日真珠たちが乗ってきた、黒いホンダジェットに乗った。ライナーの客は何も騒がず、空港関係者も、ごく普通に一行を通した。
そして飛行機が離陸してから、真珠たちは覆面を脱いだ。
「青葉さん、済みません。どうしてもこれ以上は青葉さんが居ないと制作が進まない状況なので」
と真珠が謝る。
「だから私が青葉を拉致しようと言った」
と千里が笑いながら言う。
「全くもう」
と青葉。
「事件が解決したら、すぐ熊谷でも浦和でも八王子でも、どこでも好きな所に連れてってあげるから」
「で、どういう事件なの?」
と青葉は尋ねた。
千里たちが青葉を拉致して行ってから30分ほどして、ケイがコテージに来た。ベルを鳴らして中に入れてもらう。
「青葉はプールに行った?」
とケイが南田容子に訊く。
「ショッカーに扮した醍醐春海先生に拉致されて行きました」
と立花紀子が答える。
「先を越されたか!」
とケイは天を仰いだ。
ケイが来たのは青葉に『ミュージシャンアルバム』の取材依頼をするためである。現在『ミュージシャンアルバム』の放送予定は↓のようになっている。
4.10 アクア
4.24 長沼清恵
5.15 XETIMA
5.29 富士川32
6.12 UFO (未収録)
長沼さんを先頭にする予定だったが、番組制作を支援している◇◇テレビの社長から「先頭はアクアにして」という要求があった。それでケイとコスモス、更には◇◇テレビの響原常務まで一緒に、お師匠さんの吉野鉄心さんと長沼さん本人の所に、レミーマルタンと、ボルドーのシャトーワインを持って謝罪に行った。しかしどちらも
「アクアちゃんなら構わないよ」
と言って笑って快諾してくれた。
ついでに、長沼さんをホステスとする番組を◇◇テレビが制作する話までまとまった!演歌世界では今注目の歌手なので、実はかなり視聴率が期待できるのである。
(しかし各々多忙なケイ・コスモス・響原の3人が揃うのも実はかなりレア。響原もコスモスもかなり無理してこのスケジュールを入れた)
そして、このことを知ってアクアも驚いて、長沼さんの所にコスモスと一緒に再度謝罪に行ったが、長沼さんは
「きゃー、リアルのアクアちゃん!」
と言って、握手してサイン色紙を交換して、大喜びだった!
青葉を千里に先取りされて、ケイは考えた。
青葉は6月18-25日にブダペストで行われる世界水泳に行ってくることになっている(派遣選手として確定済)。恐らくは6月15日くらいには渡航するだろう。その直前には合宿とかもあるかも知れないし、そもそも4月28日〜5月1日には日本選手権がある。
日本選手権直前の4月の中旬〜下旬に青葉の日程を確保するのは無理だろうから、4月前半に捉まえられなかったら、日本選手権の直後くらいに拉致!する必要がある。こういう場合に普段は頼りになる山村マネージャーは、千里が天敵のようだから使えない。場合によっては6月12日放送分は、超多忙なUFOではなく、もっとスケジュール調整のしやすい歌手(*13)に入れ替える必要があるかも知れないとケイは考えた。(6月26日の放送予定は番組入れ換り時期の特別番組のためとかいって飛ばすことが可能)
大宮万葉、ラピスラズリ、UFO と、極めて多忙な3組が顔を合わせるというのは、物凄く大変なことなのである(だから番組として価値があるのだが)。
↑ケイも超多忙な筈である!
(*13) 入れ替える場合、誰にするかもケイとコスモスで検討した、UFO(2019 debut) より後から出て来た歌手を使うとUFO側が怒る。だから常滑舞音(2021 debut) も使えない。2人で色々検討した結果、使えそうなのは三つ葉(2016 debut) かボニアート・アサド(2017 debut) という結論に達した。町添社長お気に入りのトラインバブル(2018 debut) だと最近売れてないし!
ケイは青葉が居ないのでは仕方ないと言って、帰って行った。
それで南田容子と立花紀子は自分たちも退去しようと部屋を片づけ始める。するとそこに千里がまた来るので、びっくりする。今度は覆面とかはしてないし、ちゃんとドアベルを鳴らした。
「何か忘れ物ですか?」
「いや、青葉の着替えを持って行ってあげないとと思って」
「ああ、はいはい」
それで南田容子と立花紀子も手伝ってくれて、青葉の着替えが整理された。千里は持参の旅行バッグ3つに着替えをまとめた。
「ありがとう。じゃ、またね」
「はい、お疲れ様です」
ということで、千里は15時頃出て行った。南田容子と立花紀子は結局早めの夕食を持って来てもらい、それを食べてから、紀子のミライースに乗り、一緒に五反野の女子寮に戻った。
このコテージは§§ミュージック専用なので、楽器は残しておいてよいが、青葉が使用していたパソコンとSSDは、南田容子が持ち帰り花ちゃんに渡した。
むろんここで青葉の着替えを取りにきた千里は、青葉を拉致して行った千里とは別の千里である。ここに出て来たのは、きっと6番。目立たない所での裏工作はこの6番がしていることが多い。
一方、3月30日に青葉を拉致して行った『北陸霊界探訪』取材班は、3/30, 31, 4/1, 2 と4日かけて、美事にS市の“白い虎徘徊事件”を解決した。
結果的には「いしかわ・いこかな」の前担当プロデューサー桜坂さんがお父さんかしていた店を継いで4月中に再開リニューアル・オープンさせる予定の料理店・琥珀(こはく)の看板を直すことで事件は解決する。
↓再掲
結局この看板の文字の左側の王偏が地震で崩落し“琥珀”が“虎白”と読める状態になっていたことから、白い虎が出没していた、というのが金沢ドイル(青葉)の指摘だった。
この件は、何と言ってもこれまでのドイルの数々の実績を見てきた桜坂さんだから、青葉の話を信じてくれたという面も強かった。普通の人なら
「言いがかりだ!」
とか怒ったりして否定する所であったろう。
しかし桜坂さんが信じてくれたお陰で、すみやかにこの事件を解決することができた。
看板の修理が終わった後、神谷内さんは、持参の缶ビールを出して桜坂さんに勧めた。
「頂きます」
と言って、桜坂さんも飲む。井原さんも「頂きます」と言って飲み始めるので、これは井原さんも家族を呼ぶかタクシーで帰さないといけないなと神谷内は思った。
神谷内さんと桜坂さんは同期入社である。ただ国立大出身で品行方正の桜坂さんとあまりレベルの高くない私立大出身の上に好きなことを言って、何度も上層部を怒らせている神谷内さんは出世速度に差が出た。それで桜坂さんが5年前からプロデューサーをしていたのに対して、神谷内さんはこれまでディレクターだった。社内では立場上敬語で話していたものの、元々2人は同期の気安さで、職場を離れるとタメ口だったらしい。
「でも飲食店のリニューアルって大変でしょ。設備も更新しないといけないし、従業員もまた雇わないといけないし」
「そうなんだよね。前のお店で働いていた人で、井原さんの他にあと2人またやってもいいと言ってる人がいるから、その人たちにも頼む予定」
「最初は少人数でやった方がいいだろうね」
「そう思ってる。人を雇うと簡単には解雇できないし、給料は固定費で出ていくから、軌道に乗るまでは、女房や母ちゃんにも手伝ってもらって何とか少人数で回すしかないと思ってる」
「設備の更新も大変でしょ」
「実はコロナ以降、かなり客が減ってたんだよ。やはり店がかなりボロだし。換気とかを改善しようにもできない状態で、それで避けられてしまったみたいで」
「そのあたりは改善できる建物とできない建物があるよな」
「本当はこの建物崩して、新たに建て直したほうがいいんだけど、とてもそこまで予算が取れないから、だましだまし使うしかない」
「建て直せば軽く5000-6000万飛ぶよね」
「1億掛かるかもと思ってる」
「恐ろしい」
「金沢で住んでた家も売ろうと思って買い手を探しているんだけど、なかなか見付からない」
「場所はF町だったっけ?」
「少し入り込んでて、あそこはM町なんだよね」
「車で通勤するならわりと便利な場所だけどなあ」
「でも交通機関に見放されてて。元々あそこは金沢市内でも相場が安い。だから20代でも買えたんだけどね。実はまだローン払ってるから、売れるものなら売ってその代金でローンを少しでも軽減したいくらいなんだけどね」
「売ってもローンが残る物件は売却できないと思う」
「実はそうなんだよ。だから頑張って完済まで払っていくしかない」
「大変ですね」
と明恵が思わず横から口を出した。
明恵たちは隣のテーブルでおやつを食べながら紅茶やコーラを飲んでいる。
「ローンはかなり残ってるの?」
「27歳の時に20年ローンで買ったんだよ。だから実はまだ3分の1残ってる」
「それかなりきついね」
「うん。万一そちらの返済が滞ると、ブラックリストに載せられて、こちらのお店でも融資を受けられなくなる。そもそもこちらまで借金の形(かた)に取られる危険がある」
すると幸花が言った。
「ここは、金沢ドイルさんが、どーんとその金沢の家を残ローン額で買い取ってあげるとか」
「え〜〜〜!?」
「金沢ドイルさんなら1億くらい朝御飯程度でしょ?」
「1億もする朝御飯なんて食べないよ!」
などと言っていたら
「さすがに1億の家には住んでない。ローンを組んだのは3000万円で残ローンが900万円くらいなんですよ」
と桜坂さんが言う。
「だったら、ドイルさんのおやつ程度だ」
「900万円のおやつってどんなのよ!?」
「金箔のミルフィーユとか」
「何それ!?」
「金箔を1000g使えば900万円になりますね」
「お腹壊しそう」
「その家、広さはどのくらいなんですか?」
と真珠が尋ねる。
「建坪32坪の平屋建て、敷地面積は60坪くらいです」
「平屋建てなんですか!」
「将来的には、両親を金沢に呼ぶつもりだったんですよ。それで年寄りを住まわせるなら平屋のほうがいいと思って」
「なるほどー」
「工法は?」
「在来工法です」
と桜坂さんが言うが、何か後ろめたいような顔をしたので、青葉は訊いてみた。
「それもしかしてどこか傷んでたりしません?」
「よく分かりますね!実はそうなんですよ。雨漏りしてる所あって」
「築14年で雨漏りは酷くない?」
と神谷内は言うが
「在来工法は、工務店の技術力で大きな差が出るんですよ。建てて10年経たない内に廊下の床が抜けてしまった家とか、7-8年で雨漏りが酷くなって2階が使用不能になり、1階だけ使って住んでるという家とか、見たことありますよ。しっかりした家も多いんですけどねー」
と真珠が言った。
「ああ」
「僕も後からそういう話聞いたんですよ。どうもうちはハズレの工務店だったみたいで。だいたい材木が節だらけで。曲がってる柱もあるし」
「それ住むのが危険なんじゃないですか!?」
と幸花が思わず言う。
「かなり酷い所に当たったみたいだね」
と神谷内が同情するように言った。
神谷内は、桜坂が家を建てた直後は何度か彼の家を訪問し、泊めてもらったこともあったらしいが、最近は、年頃の娘さんもいることもあり、あまり行ってなかったらしい。
「だから既に建物自体は無価値だと思う。すると土地の価値は600万くらいしかないんだよ」
「それ実際に売るなら、ローンを完済した上で更地にしないと売れないだろうね」
「そうだと思う。雨漏りするボロ家付きの土地より更地の方が高くなる。だから何とかして900万完済して、それから土地を売ると600万くらい回収できる可能性がある」
神谷内さんが考えている。
「退職金いくらもらった?」
「400万もらったけど、取り敢えずカードローンに100万くらいの残高があったのを完済して残り300万くらい」
「それなら計算上、今でも金沢の土地売却ができません?」
と真珠が言う。
「計算上はね。どこかから600万借りて、金沢の住宅ローンを完済する。すると土地売却が可能になるから、それを600万円で売ると、その売却代金で借りたお金が返せる」
「凄い。それで身軽になりましょうよ」
と幸花。
「身軽になりたいけどね。でもこの方法には2つの問題がある。ひとつはあまり便利ではない場所だから、売りに出しても実際に売れるまでにはかなり時間がかかる。もうひとつは、そもそも600万借りられるアテが無い」
「銀行は600万円貸してくれませんかね」
「それに見合う担保が無ければ貸してくれないと思う」
「ここの土地は?」
「実はお店の改装費用をここの土地を担保に2000万円借りたんだよ。ほんとはこの土地の価値は1500万円くらいしか無いんだけどね」
「あぁぁ」
「自宅は40坪くらいだから、120万くらいしか評価額無いし」
「土地って実はあまり高くないですからね」
と千里が言っている。
東京の一等地の土地(深川アリーナの土地)をポンと110億円(*14)、現金で買った人にはどんな土地も安いだろうな、と青葉は思った。青葉も助けてあげたい気分だが、理由無くそのようなことはできない。
(*14) 知事さんは120億と言ったが、議会で「評価額がおかしい」という意見が出て100億に減額された。差額が(今後都との取引を有利にするための)リベートではないかと疑われたのである。それで知事さんは謝って減額されたことを伝え、千里はすぐ消費税を加えた110億円を振り込んだ。
千里は何か考えているようだった。
「ちー姉、どうかしたの?」
と青葉が訊く。
「桜坂さん、その場所を地図で教えて下さい」
と千里は言った。
「はい」
それで真珠のパソコンを千里のスマホでテザリングしてネットに繋ぎ、Google Mapを開いて、桜坂さんにその場所をポイントしてもらった。航空写真に切り替えてその家を見る。
「きれいに家が映っているなあ」
と桜坂さんは言っている。
千里姉は地図上でその土地の広さを測っていた。
「間口14m, 奥行き15mくらいかな。それで面積は210平米で坪に直すと64坪」
「はい、そんなものです」
「坪10万として640万になりますね」
「近隣の土地を売却しした人が坪9.4万円だったので、それで計算すると600万くらいになるんですよ」
「青葉、この土地、航空写真で見て何か問題とか感じる?」
青葉はしばらく見詰めていたが言った。
「磁北から19度の方向に***がある。そこからよくない気が来る。でもこの処理は、ちー姉なら簡単にできるはず」
「そうだね。***を爆破すればいいかな」
「ちょっとぉ!」
「ジョークジョーク。八卦鏡でも置けばいいよね?」
「うん。その程度で充分」
やはりこの姉妹、性格が違うなあと真珠は思った。青葉さんはいつも真面目だけど、千里さんは80%くらい冗談で出来ている。
(残り20%が嘘で出来ていることに、真珠はまだ気付いていない)
「ここ私が700万円で買いましょうか」
と千里は言った。
「700万ですか!」
「家は崩さなくてもいいですよ。私の知り合いの工務店に崩させますから」
「工務店のお知り合いがありますか」
知り合い、というより所有してるよねと取材陣のメンツは思うが特に言わない。
「私が今700万円お支払いしたら、桜坂さん、それでローンを完済できますよね?」
「はい!」
「それで抵当権を消去してもらえません?」
「今700万円を頂けるんですか?」
「その旨の念書を書いて頂けたら、即振り込みますよ」
「本当ですか?」
「ちー姉、金沢の土地を買って何するの?」
「性転換病院でも作ろうかな」
「へ!?」
「流れ作業で1日に10人ずつ男の娘を女の子に生まれ変わらせてあげる」
それマジじゃないよね?と青葉は思う、
「繁盛するかも」
などと真珠が言っている!
「クライアントはベルトコンベヤに乗せられて、まずはヴァギナを作り、割れ目ちゃんを作って、ペニスを切断し、睾丸を除去する。最後におっぱいを作り、退院前に喉仏を削る。6人の外科医が流れ作業で手術する」
「なんか順序がおかしい気がする」
と幸花。
「ま、それはジョークだけど」
と千里。
「それは残念」
と真珠!
「まあマジな話、数日中に何かで必要になる気がするんだよ」
「ちなみにエイプリル・フールじゃないですよね?」
と幸花が確認する。
「エイプリルフールって明日じゃ無かったっけ?」
と千里。
「あれ?そうだっけ?」
と幸花が焦っている。
「今日は間違い無く4月1日です」
と明恵が確認した。
桜坂さんはその場で念書を書いて、署名捺印した。すると本当に千里は桜坂さんの口座に700万円振り込んだ。残高を見てびっくりしている。
「では銀行の手続きが終わったらご連絡下さい」
「分かりました!月曜日(4/4)にも金沢に出てやってきます」
「よろしく」
神谷内さんは、桜坂さんと井原さんに、各々奧さんに連絡してもらい、迎えにきてもらった。桜坂さんの奧さんは、白い虎の件で驚き、金沢の土地を買ってもらった件で更に驚いていた。2人とも、奧さんの運転する車で帰って行った。(結果的に、桜坂さんと井原さんが朝乗ってきた車は置き去り)
それから取材班はホテルに引き上げた。
そして夜にまた出掛け“再現ドラマ”(ほぼ、でっちあげドラマ!)を撮影した。
白い虎はお肉の絵を描いたキャンバスの中に封印された(ことにした!)そしてこの“虎のお世話”は遙佳がすることになり、彼女は「虎さんがごはんに困らないように」その絵を父が経営するレストランに飾っておくと言っていた。
※放送時には「この絵は元々遙佳さんに目撃した虎の記憶を元に描いてもらった絵です、この番組は報道番組ではなく、あくまでバラエティです」というテロップが流れた。でも多くの視聴者は金沢ドイルが何らかの方法で虎を封印したのだろうと思ったようである。この番組はこれまでもしばしば最終的な処理方法はぼかしている。
真珠は遙佳を自宅まで送っていき、他のメンツはホテルに引き上げた。
真珠がホテルに戻ると、明恵から呼ばれる、初海も来ていて、3人でケーキを食べながら打ち上げをする。
「思うに、虎ちゃんは、ずっとレストランに住み着いてて、おかげで食事にも困らなかったんじゃないかなあ。でもそのレストランがオーナーさんが亡くなり閉鎖された。それでお腹空いて夜中に出歩いて、妖怪とか鬼とか食べてたのかも」
と初海は言った。
「あり得るね。だったら虎の絵を遙佳ちゃんが自分のお父さんのレストランに飾ると言ってたから、本当にそれで御飯がゲットできるようになるかも」
と明恵も言う。
「御飯もらえる代わりに遙佳ちゃんのお父さんのお店を守ってくれたりして」
と真珠は言った。
翌日(4/2)は朝御飯を食べてから、ホテルの会議室に集まり、今回の件の最終編集会議を開いた。その上で、まとめの撮影をした。
撮影の冒頭には、番組の制作体制が変わり、神谷内が「いしかわ・いこかな」の全体担当になり、幸花が『北陸霊界探訪』のディレクターになったので、真珠が4月から、この番組のメインキャスターになったことを3人並んで報告した。この映像は明恵が撮影した。
その上で、金沢ドイル、明恵、真珠、初海、遙佳の5人でまとめの座談会をしている所を撮影した。これを撮影したのは神谷内である!
千里が配ったお弁当を食べて13時に解散した。
初海は遙佳、幸花、神谷内をMazda3に乗せて、まずは遙佳を自宅まで送る。幸花と神谷内も遙佳の母に挨拶。その後、初海は幸花と神谷内を乗せて金沢に向かった。
一方、千里は青葉をMazda CX-5の助手席、明恵と真珠を後部座席に乗せて能登空港に向かった。
「ちー姉、あの土地、実際何に使うの?」
「本当に私も分からないんだよ。性転換病院ではないと思うけど。たぶん2-3日中に必要になりそうな気がしたんだよ」
「あぁ。どっかから降りてきたんですね」
「そういう感じ」
「でもなんで、600万じゃなくて700万で買ったの?」
「青葉も分かったくせに」
「つまり退職金は半分くらい使ってしまって、残り200万しか残ってないんだ?」
「一家5人の引越だけで50万飛んだはずだよ」
「そうかもね」
「中学生の娘さんが2人いるから、制服作り直しとかも大変だし」
「それ女子は大変ですよね!」
と明恵が言う。
「でもよくそんなの分かりますね」
と真珠は感心している。
「私も300万は残ってない気がした」
と明恵が言うが
「ぼくはそんなのさっぱり分からない」
と言って、真珠は首を振っていた。
やがて、能登空港に到着し、明恵と真珠が3階の見学者デッキまで上がって見送る中、千里と青葉は、パイロットさんと一緒にホンダジェットを駐機している所まで行った。3人が乗り込む。
それから少しして、パイロットさんだけ降りて空港の建物の方に戻る。
「何だろう?」
と言っていたら、パイロットさんは30歳くらいの女性を連れてホンダジェットに一緒に乗った。
「同乗者がいたのか」
「桃香さんのお友達の優子さんみたい」
「ああ。千葉の彼氏のところに行くのかな」
「千葉に居るのも女性みたいだけど」
「レスビアン婚?」
「そうみたいだよ」
「最近多いね〜」
「まこも、そうじゃん」
「うん。実質そうだという気がする」
「結婚式はウェディングドレス同士?」
「何とか着せようと企んでいる」
「もう今更、くにちゃんにタキシードなんて着せられないよ。だって、ほとんどの人が、くにちゃんは女性である、あるいは女性になったと思ってるから」
「社会的には既に性転換済みだよね〜」
やがて飛行機が動き出す。滑走路に向かうのを手を振って見送り、離陸してから、明恵と真珠はCX-5を運転して金沢に戻った。
Honda-Jet
blackは17時頃、郷愁飛行場に着陸した。
千里と優子が飛行機のタラップを降り、空港の建物に向かう。出入口の所にケイが立っている!千里は笑顔で手を振った。ケイは腕を組み、厳しい顔をしている。千里は冬子って修行が足りないなと思った。コスモスなら絶対ここで笑顔で迎える。
千里は優子に
「私の黒いインプレッサが空港の駐車場に駐めてあるから、それ使って千葉まで行くといいよ。番号は****」
と言って、優子に車の鍵を渡した。
「さんきゅ。借りる」
と言って先に行く。
それを見送ってケイが言った。
「千里、青葉は?」
「知らない、能登空港で別れたから」
「嘘!?」
ケイ(冬子)は恐らく郷愁飛行場の到着予定情報を見てHonda-Jet
blackがこの時刻に到着することを知り、青葉をキャッチするため、ここに来ていたのだろう。それで青葉が捉まえられると思うのは、甘いね〜。
「だから飛行機には私と友人で乗ってきたよ。私、明日は平塚で試合があるし」
と千里は言う。
「“今日も”平塚で試合があったみたいだけど?」
今日あったのはファイナルの準々々決勝で、それに勝ったので明日は準々決勝である。
「そうだっけ?だったら、きっとそこにも私出たんだよ。最近忙しくて記憶が不確かで」
むろん試合に今日出て、明日も出る予定なのは千里3番、ここに居るのは4番である(ケイは2番だと思っている)。
「じゃ青葉は、金沢(放送局)か高岡(自宅)か津幡(練習場)に行ったの?」
「知らない。本人に電話して聞いてみたら?」
「あの子が答える訳無い」
「あはは」
「仕方ない。もう日程が動かせないんだよ。『ミュージシャン・アルバム』の取材に、千里付き合ってよ」
「青葉無しでいいの?」
「大会前でどうしても時間が取れないので、お姉さんの醍醐春海さんに代理をお願いしましたと言うから」
「そんなぁ」
という訳で、ケイは青葉の身代わりで千里を拉致して、郷愁村のコテージ8021でラピスラズリと一緒に待機してもらっている、三つ葉の3人とのところに連れて行ったのであった!
(8022にはボニアート・アサドが待機している)
一方、青葉は飛行機の中で離陸を待っていたはずが、突然周囲の様子が変わって、何だ?何だ?と思い、あたりを見回した。
大きなお屋敷がある。
もしかして、ここ龍虎(アクア)の自宅??八王子にあると千里姉が言っていた?
青葉は玄関のピンポンを押してみた。カメラがこちらに向く。
「大宮万葉先生!今開けますね」
と龍虎の声がして、玄関が開いた。
「どうなさったんですか?」
「ケイさんから逃げて来た。しばらく、かくまって」
「いいですけど」
「それとここプールがあるんでしょ?しばらく練習で使わせて」
「はい、もちろん!だったらしばらく滞在なさいます?」
「できたら4月中旬まで半月くらい。その後は、熊谷の郷愁プールに移動して同じスイミングクラブのメンバーと合流できると思う」
「はい、自由に使って下さい。お部屋をひとつ用意しますね」
と言って、龍虎は青葉を西の対(にしのたい)に案内した。
渡り廊下のような所を通って西の対まで行く。電子キーで開けて中に入ると、長い廊下があり、その両側に部屋が並んでいるようだ。そのいちばん手前、右側の部屋から龍虎の個人マネージャー竜崎由結が出てくる。
「大宮万葉先生、おはようございます!」
「おはようございます。竜崎さんだったね」
「りっちゃん、半月くらい大宮先生を泊めるから、食事の用意をよろしく。あと、雑用とかも可能な範囲で対応して」
「はい、分かりました」
それで由結も一緒に3人で廊下を進む。
「この家、広いね〜」
「播磨工務店の徳都さん(じゅうちゃん)が、好きなように増改築してるんですよ、ぼくの知らない間に何かできてたりするから、びっくりするんですよね」
「ああ、播磨工務店の人たちには驚かされる」
と青葉も言った。
高岡の新居、次行ったらまた形が変わってたりしないか不安だ!
龍虎はこの廊下のいちばん向こうにある右手の部屋を青葉に割り当ててくれた。
「この部屋を自由にお使い下さい」
「ありがとう」
「バストイレは部屋に付属しています。wi-fiのキーは後でこちらに持たせます。そちらの廊下からも母屋に行けます。その廊下の右端にエレベータがあるので、そこから地下のプールに行けます。プールでもwi-fiは使えます」
「ありがとう!じゃしばらく居候させてもらうね」
部屋にバストイレが付いてるってホテルみたい、と思った。
(アメリカの家では各部屋にバストイレが付帯するのが普通なので、その方式を踏襲しているだけ)
青葉が部屋に入ってすぐ、竜崎由結がケーキと紅茶を持って来てくれたので
「ありがとう」
と言っていただく。
「何か用事がありましたら、こちらのボタンを押してください。それとこちらがWi-fiの暗号化キーです」
と言って、キーをプリントしたメモとボタンを渡してくれた。
「ありがとう。預かるね」
と言って受け取り、暗号化キーは自分のスマホとパソコンに入力した。
ケーキを食べてから、少しウトウトしていたら、竜崎由結が
今度は夕食を運んできた。
「足りなかったら呼んで下さい。すぐお代わりをお持ちします」
「いや、これだけあれば充分だよ。ありがとう」
それでwi-fiのキーを書いた紙を返し、食事を頂き、少しニュースなど見ながら休んでいたら、千里姉から電話がある。
「青葉さ、熊谷で2月中旬から3月末まで過ごした間に使ってた着替え、コテージに残されていたのをまとめて持って来たから、今から10分くらいでそちらに行くね」
「分かった」
それで青葉が母屋のパーラー(広間の表側半分)まで出ていると、車が入ってくる音がする。龍虎のスマホが鳴る。
「千里です。開けて」
「はい」
と言って、龍虎がドアを開けると、千里は、Volvo XC40 から、旅行カバン3つの着替え、電子キーボード、ノートパソコン、SSD2台を持ち込んだ。
「このキーボードとパソコンは高岡の家から持ち出してきた」
「ありがとう」
「持つの手伝います」
と龍虎が言い、結局、青葉・千里・龍虎・由結の4人で荷物を運んだ。
「龍ちゃん、由結ちゃん、ありがとね」
「いえいえ」
「じゃね」
と言って、千里は帰って行った。
「竜崎さん、ごめん。もう一度wi-fiキー教えて」
「でしたらこれお渡しします。入力が済んだら破って捨ててください」
「分かった」
龍虎が言った。
「今の千里さん、何番さんですかね」
「私もさっぱり分からない!」
と青葉は答えた。S市で一緒に仕事をしたちー姉とは別みたいな気がするなあ。あのちー姉は、面積を暗算で計算してたから、きっと3番。だったら今のは1番かなあ、オーラが少し弱かったし、などと考えてみたが確信が無かった。(どちらも外れ!)
「ちなみに君はFちゃんだよね?」
「そうですよ。この家に居るのはたいていぼくです。Mはたいてい代々木のマンションにいますから」
「君たちも大変そう」
「自分が7人くらい欲しい気もしますけど、そんなこと考えててほんとに7人になったら収拾が付かない気がします」
「君が7人居たら、きっと7人分の仕事を入れられるというのに1票」
「それありそうで恐いです!!」
それで青葉は部屋に戻った。
眠ってしまってもいいように、布団を敷いて潜り込んだままスマをを見ていたら、車の音がする。龍虎への来客?のようだ。理史君かな?
だけど、龍虎はFが理史君と付き合い、Mが彩佳ちゃんと付き合ってるけど、結婚とか、どう発表するつもりだろう。結果的にはアクアが2人居ることを公開せざるを得ないのでは?千里姉はそのあたりはどう考えているのだろうと青葉は疑問を感じた。
30分くらい眠っていた気がする。
「少し泳ぐか」
北陸に行っていた間、全く泳げなかったのでストレスが溜まっている。
千里姉が持って来てくれた荷物の中に練習用の水着も入っていたので、それとバスタオルに下着の替えを持ち、トイレ(部屋に付いている)を済ませた後、部屋を出て、エレベータに行く。
ボタンを押そうとして迷う。1,B1,B2とボタンが並んでいる。
プールっていちばん下の階に作るだろうからB2かな?と思い、青葉はB2のボタンを押した。やがてエレベータが到着する。青葉がエレベータを出たら灯りが点いた。
「嘘!?」
千里姉からは“25mプール”と聞いていたのに、ここにあるのはどう見ても50mプールである。私、聞き間違ったかなあ。
「まいっか」
青葉は細かいことは気にしないことにして、浄水施設のスイッチを入れた上で、準備体操し、シャワーを浴びてから水に入り、泳ぎ始めた。
ところで・・・郷愁飛行場で千里が青葉の代わりにケイに拉致されて行った直後、“司令室”は少し焦ったのである。
三つ葉のメンバー花山波歌(かやま・しれん)は、桃香の従姪(従姉の娘)で、彼女は2016年4月に高知県土佐清水市でおこなわれた高園和彦(にぎひこ)の葬儀の時に千里と会っている。その時に千里からオーディションに出ることを勧められ、参加したら(実質)合格し、三つ葉の結成(2016.5.7)に参加することになった(実質合格者を決めたのはケイ:決めるはずの人たちが全員離脱し、通りがかり!のケイに託された)。
その葬儀の時に波歌(しれん)と会った千里は2017年4月に3人に分裂する前の千里である。つまり現在の千里1〜3が一時的に合体していた状態であり、その時の波歌との遭遇は千里4は知らないことである。
しかし千里が三つ葉のインタビューをすれば、絶対その話は出る。
話が通じないとヤバいなと、千里たち全員の管理をしている千里5は思った。千里2Bあたりと入れ換えるのが理想だが、2Bは今日、日本時間の27:00からフランスで試合がある。千里4はバスケットなどしないから2Bの代役はできない(身体能力は高いし、フランス語もできるがバスケのルールを知らない!!チームメイトの名前も知らないし)。
千里5は自分がインタビューに出るしかないと判断した。5番は6番に言った。
「ヴィクトリアちゃん、青葉の着替えを龍虎の家に運び込むの頼む」
「分かった。結局そこまで私がやるのね」
「じゃ行ってくる」
と言って5番は4番と入れ替わった。
4番はキョロキョロしてる。
「ロビンちゃん、今晩は。インタビューはグレースがやるから」
と6番が言う。
「助かったぁ」
「私は少し出掛けてくるから、しばらく司令室をお願いね」
「私が司令室を見るの〜〜〜!?」
「よろしく」
と言って、6番はXC40を運転して出掛けてしまう。
「ロビンさん、お疲れ様です。私も手伝いますから」
と、ほしちゃん(花星)は4番に言った。
4月4日(月)、オカマの日!
龍虎Fは龍虎Mに言った。
「ぼくたちの身体って連動してるじゃん」
「うん」
「どっちかが怪我すれば他方も同じ所に傷ができるし、片方がお酒飲めばふたりとも酔うし」
「結構不便だよね」
「ひょっとしてぼくが妊娠したら、Mも一緒に妊娠するってことはないのかな」
「F、妊娠したの?」
「ちゃんと避妊してるから大丈夫だよ」
「ぼくには子宮が無いから妊娠することはないと思うけど」
「腹膜妊娠したりして」
「無茶な。ホルモンの関係で、一時期に胸が膨らんだり、ちんちんが立たなくなる緯度は覚悟してる」
「彩佳とのセックスも普段から、彩佳がMのヴァギナに入れてるから何も変わらないしね」
「ちょっとぉ」
「Mも妊娠しないように気をつけてね」
「それ時々不安になる」
とMは正直な心情を言った。
「俺妊娠しないよな・・・」
邦生は呟いた。
29日から2日まで真珠が取材で出ていたので、その間は寂しかった。2日夜に5日ぶりのセックスをしたら物凄く燃えた。“ミューチャル・インサート”にも挑戦して、相互挿入自体は成功したが、その状態で身体を動かすとすぐ外れるので、結局普通のセックスに切り替えた。
夜中トイレに行ってから、パンティライナーの新しいの着けようとして少なくなっているのに気付く。
「またパンティライナー買って来なくちゃ」
と邦生は呟いた。
千里2(最近出番が少ない:震災イベントで熊のかぶりものして龍笛を吹いて以来)はシャワーを浴びながら、
「だいぶ、おっぱい大きくなってきたな」
と思った。
自分の下腹部に手を当てて“確認”する。
「うん。さすがに私は妊娠しない。いくら身体が連動すると言っても、妊娠するのは2番だけだよね。私までは妊娠しないはず」
などと呟いた。
その日、明恵は真珠に訊いた。
「もしかして、まこたちって、まこの方が男役?」
「そう決めてる訳じゃないけど、結果的にそうなることが多い。くーにんはもう2週間くらい射精してないはず」
相互インサートは成功したけど、身体動かせなかったから、結局いつも通り、私が、くーにんのVに入れたもんね、などと真珠は思う。
「さすがに射精能力は無いでしょ。睾丸は取ってるんでしょ?」
「怪しいと思ってるんだけど、本人はまだあると言ってる」
「触って分からないの?」
「あるようには見える。でもあれきっとシリコン製のダミーだよ。去勢したことがバレないように入れてるんだよ」
「無意味なことを」
「ね?」
「結婚式はまこがタキシードで、くにちゃんがウェディングドレス?」
「それでもいいけど、両方ウェディングドレスになる公算が大きいと思う」
「くにちゃんはタキシードじゃないよね?」
「まさか。そんなの世間が許さん」
「安心した。だったら、まこがくにちゃんのAに入れてるの?」
「まさか。ぼくたちビアンだし。ちゃんとくーにんのVに入れるよ」
「・・・・・」
「どったの?」
「くにちゃんにVがあるわけ?」
「内緒」
貴司は千里に訊いた。
「こんな激しいセックスして、お腹の子に響かない?」
「大丈夫だよ。セックスする時は子宮を金庫に入れてるから」
「金庫に入れられるもん〜!?」
「ささ。もう一回戦行くよ。お嬢ちゃん、お股を広げなさい」
「ひー」
と貴司は悲鳴のような声をあげた。
4月4日(月)のお昼過ぎ、桜坂は千里に連絡し、ローンを完済し、抵当権も解除したことを報告した。千里は、午後3時に法務局前で待ち合わせ、一緒に窓口に行って所有権の移転登記手続きを行った。
千里は夕方、播磨工務店の九重(じゅうちゃん)を呼び出すと言った。
「このボロ家、撤去してさ、この設計図で家建てて」
「へいへい」
「どのくらい掛かる?」
「2週間くらいてすね(アバウト!)」
「だったらそれまでの繋ぎに、ユニットハウスでも庭に置いといてよ」
「仮の家なら小さいのでいいですかね」
「うん。工事の邪魔にならない程度で。住むのは30代の夫婦と幼稚園の女の子だから」
「んじゃ、1DK程度でもいいかな」
「間に合わせにはそんなものでいいと思う。バストイレ付きでね」
「バスとトイレを付けるんですか」
「無いと困るもん」
「了解〜」
それで、じゅうちゃんは仲間を3人呼び出すと、まずはそこに建っている家をその夜の内に撤去、基礎も崩してどこか(どこ?)に持ち去った。
(“茶組”で遊びながらバラバラにし、鉄は“紫微”のコネがあるK製鉄に買い取ってもらう。アルミは紫微のコネのある富山県内のアルミ製造メーカーに引き取ってもらう。木材は千里が栃木県塩谷町に持っている製紙工場のプラントに持ち込む)
そして、じゅうちゃんたちは、翌日4月5日(火)には朝から夕方まで掛けて基礎を作った。そして夜中に1DKのユニットハウスを持って来て、工事の邪魔にならない場所にポンと置いた。
「千里さんは、バストイレ付きと言ってたな・・・」
と呟くと、じゅうちゃんはどこかに飛んで行った。
Timeline
3.08 千里1がアキ・アイを連れて能登空港へ。火牛で春貴を指導。
3.18 人形の移動S市→金沢
3.19 ビスクドール展はじまる
3.19 瑞穂の引越
3.22 春貴卒業式
3.22-23 真珠たちがS市取材。桜坂に会う。
3.29 春貴への指導終了。アキ・アイ、千里、真珠・明恵・初海が能登→熊谷
3.30 青葉編曲作業終了/千里たちが青葉を拉致/ケイは空振り
3.30 夏樹が金沢転勤の辞令
3,31 青葉たち夜間調査で虎の居所を発見
4.01 瑞穂入社式(7日まで火牛で研修)
4.01 看板を直す/遙佳が虎の絵を描く/再現?ビデオ撮影
4.02 S市ホテル内で編集会議
4.02 千里と優子が能登空港→郷愁飛行場。
4.02 青葉は八王子へ
4.02 優子は千里のインプで千葉へ。
4.02 千里・ケイ・ラピスが三つ葉とボニアート・アサドにインタビュー(熊谷)
4.04 千里が金沢の土地を買う。
4.07 夏樹が金沢支店で勤務開始
4.08 瑞穂が小立野支店で勤務開始
4.08 春貴がH南高校で勤務開始
4.08 あちこちで入学式
2022年4月現在の千里や桃香たちの子供の学年は↓である。
2010.04.22 小6 海老珠那(富山) 弥生/桃香
2011.11.07 小5 田宮美甘(熊本) 藍子/桃香
2012.04.15 小4 谷山小空(長崎) 早紀/桃香
2013.02.14 小4 谷山小歌(長崎) 早紀/桃香
2013.06.03 小3 紫尾来紗(千葉) 季里子/桃香
2014.08.10 小2 紫尾伊鈴(千葉) 季里子/桃香
2015.06.28 小1 篠田京平(浦和) 千里/貴司
2016.08.19 年長 府中奏音(金沢) 優子/夏樹
2017.05.10 年中 高園早月(浦和) 桃香/千里
2018.08.23 4歳 細川緩菜(浦和) 千里/貴司
2019.01.04 4歳 川島由美(浦和) 千里/桃香
2019.04.01 4歳 原野幸祐(大宮) 波留/由梨
女の子が多い!(男の子は小歌・京平・幸祐の3人。もっとも小歌はしばしば姉の小空に、ちんちんを取られているし、京平はスカートが好き。純粋な男子は幸祐だけかも!?彼は“男3人”の家なので男らしくワイルドに育っている)
※波留と由梨は2020年末にパトナーシップ宣言をするため大宮に引っ越した。2022年現在では埼玉県の大半の自治体にこの制度があるが、2020年当時は、さいたま市・川越市・坂戸市・北本市・鴻巣市の5市にしか無かった。
※奏音が“金沢”になっている件は後述。
※“4歳”は今年度中に4歳になる学年ということ。つまり来年の4月には、緩菜・由美・幸祐の3人が同時に幼稚園に入る。
※記載した母/父は、遺伝子関係・法的関係を無視して、お互いの意識の上でそう思っているというもの。桃香の子供は自分が産んだ早月を含めて8人になる!よくまあ、あちこちの女に産ませたものである!?やはり桃香には精子があるとしか思えない!?桃香の子供たちは全員母親の苗字を名乗っている。
(もっとも早月も、多くの友人たちは桃香のタネで千里が産んだ子と思っている)
さて、今年浦和では、京平が小学校への入学式、早月が幼稚園への入園式で、それが同日・同時刻から始まる。
千里たち(1〜3)は話し合い、京平の入学式には貴司と千里2、早月の入園式には“桃香”と千里1が行くことを決めた(浦和関係の多くのことはこの3人?の話し合いだけで何とかなる)。なお阿倍子は電話で「私遠慮するね」と言ってきたが、京平が何か言いたそうだったので「“晴子ちゃん”さえよければ来ない?交通費は貴司に出させるから」と言った。すると京平が嬉しそうにしていた。それで、阿倍子は神戸からやってくることになった。
4月7日、阿倍子は千里が貴司名義で送ってあげた新幹線の切符(グリーン席:できるだけ密を避けるため)を使って東京駅まで来たので、すーちゃんに迎えに行ってもらい、浦和のホテルに泊めた。念のため感染検査させてもらったが陰性だった。そして8日朝の入学式に出席した。貴司は話を聞いていなかった!ので驚いていたが、京平が喜んでいた。
「あら?千里さん、妊娠した?」
と阿倍子は訊いた。
「貴司は3人の妻に1人ずつ子供を産ませたことになりますね」
と千里(2A)は答える。
「なんて悪いやつだ」
「ね?予定日は9月26日です」
阿倍子は思った。京平の遺伝子上の母が誰か、結局教えてくれないけど、たぶん千里さんだ。だから、9月に生まれる子は遺伝子的には京平の同父同母の弟か妹になる、と。
「でもなんか色々な色のランドセルの子が居て、京平の赤もそんなに目立ちませんね」
と阿倍子は言っていた。
ランドセルは阿倍子が贈ったのだが、何色がいい?と京平に訊いたら赤がいいというので、阿倍子は赤いランドセル(実際には男の子が使いやすいように“えんじ”)を買って送った。阿倍子は京平がスカートとか穿いて入学式に出て来ないか不安だったのだが、ズボンを穿いていたので安心した。(実際は本人は出掛ける前まで悩んでいたが、彪志が「ズボンにしときなよ」と言ったのでズボンにした)
阿倍子は入学式が終わると、そのまま、すーちゃんの運転する車で東京駅に戻り新幹線で神戸に帰った。
(すーちゃんは3/29でフランスでのミッションが終わったので、アキと交替して日本に戻ってきている)
8日の午前中、千葉に住む桃香(桃香A)は、正直に
「早月の入園式に顔を出してくる」
と言い、紳士用スーツを着て、東野さんが運転する“アクアのアクア”に乗り浦和に向かった。
(東野穂佳さんは、早月が毎週末に浦和と千葉の間を往復するために雇っているドライバー。平日は千里が楽譜の入力を頼んでいる)
車は浦和の家には寄らず、直接幼稚園に付けた(浦和の家に寄らないのが季里子の出した条件)。そして千里(千里1)が早月を連れてきていたのと合流し、入園式に出た。
なお2020年春の来紗の入学式には桃香B、昨年の伊鈴の入学式には桃香Aが出ている(お互いのスケジュールにもとづき調整している)。またランドセルの色は、来紗は青(夏樹の親が贈った)、伊鈴はラベンダー(朋子が贈った)を使用している。
どこかの?千里がケイに拉致されて『ミュージシャン・アルバム』の取材をラビスラズリとしていた4月2日、千里3はWリーグのプレイオフを闘っていた。2日(土)の準々々決勝、3日(日)の準々決勝と勝ち進み、4月9日・10日には、女王・サンドベージュとの、準決勝2連戦を戦う。千里たちレッド・インパルスはこれに2連勝して、決勝に進出した。
サンドベージュには、奈々美が居るが、あまり出してもらえず、彼女にとっては不満の残る日本最終戦となった。でも試合後、千里は彼女に
「フランスで頑張ってね」
と声を掛けた。
「ありがとうございます。また向こうで戦いましょう」
と奈々美は答えたが、向こうで戦うのは私じゃないしね〜と千里3は思った。
1 2 3 4 5 6 7 8
【春春】(2)