【春白】(6)

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その日、§§ミュージックの女子寮の電話が鳴った。電話を取ったのは、この寮の“雑用係”(不法滞在者から昇格:でも部屋がもらえなくて倉庫に住んでいる)海浜ひまわりである。
 
この時、寮母の天羽亜矢子(高崎ひろか・松梨詩恩姉妹の母)は山へ竹刈りに、副寮母の山下ルンバ(花ちゃん)は川に剪定に出ていた・・・ではなくて!天羽亜矢子は雑貨の買物に、花ちゃんは自分の仕事で出ていたのである。
 
「はい、§§ミュージック研修所です」
とひまわりは答える。
 
「あれ?夏津美ちゃん?あのさ、今すぐ新宿に来られる子で、できたら中学1年か2年の女子、誰かいない?」
と尋ねる声は川崎ゆりこ副社長である。
 
「すぐ確認します」
 
と言ってひまわりは、電話の子機を持ったまま寮の2階に駆け上がる。走って階段を昇れるのは、さすが25歳である。廊下で
 
「誰か起きてる子いる?」
と呼びかける。現在女子寮には40人ほどの女子が2〜6階に住んでいる(7-8階は現在は、以前大田区のサテライトに置いていた通販用のグッズなどの物置になっている)が、中学1−2年生は全員このフロア2Fに入っているのである。
 
ひまわりは念のため、各々の部屋のピンポンを鳴らして回った。しかしどの部屋からも反応が無いので「だめか〜ぁ」と思い、ゆりこ副社長をコールバックする。
 
「済みません。誰も居ないようです。全部ピンポンを鳴らして回ったんですが」
「居ないかぁ、残念!」
とゆりこが言った時、ひまわりの目に、階段を“降りてくる”緒方美鶴(飛蝶の妹)の姿が目に入った。彼女は中学1年生だが、中3の姉と一緒に3階に住んでいるのである。
 
「待って下さい。緒方美鶴ちゃんが居ました。“女子”かどうかは怪しいですが」
「ああ、彼女なら問題ない。夏津美ちゃん、その子を1時間以内に新宿のXスタジオまで連れてきて欲しいんだけど、Xスタジオの場所知ってる?」
 
「Xスタジオですね。分かります」
 
それでひまわりは、美鶴に
「今すぐ私と一緒に来て」
と言った。
 
「なんですか?」
と美鶴が訊くが、ひまわりにも用事の内容は分からない。しかし多分、今日中に写真を撮らなければならないタレントさんにトラブルがあったので、その代理とかいう話ではないかと思った。
 
そういうのは、わりとあるのである。
 
それで「私こんな格好」と言っている、体操服姿!の美鶴の手を引いて1階まで階段を駆け下りると、駐車場に駐めている“花ちゃん”のバイク Ninja250 の荷室を開けてヘルメットを2個取り出し、1個を美鶴に渡した。
 
「それ花ちゃんのバイクなのでは?」
「私、自分のバイクや車にタレントを乗せること禁止されてるから」
「へー!?」
 
このあたりの事情はまだここに入って間もない美鶴は知らない。一度実物を見たら、絶対乗りたくないと思うだろう。
 
「乗って、私にしっかり捉まってて」
「はい」
 

実際には30分ほどで新宿のXスタジオに到着した。
 
「体操服!?」
とゆりこが悲鳴にも似た声を挙げる。
 
「すみませーん。休んでいた所だったので」
と美鶴。
「着替えさせてる時間が惜しいかも知れないと思ったので」
とひまわり。
 
「いやいいよ、いいよ。取り敢えずこの歌を5時までに工場に持ち込まないといけないから」
とプロデューサーっぽい野潟四朗さん(シュールロマンティック)が言っている。
 
「君、これ歌える?」
と言って、野潟さんは美鶴に譜面を1枚渡した。
 
「写真撮影じゃなくて楽曲制作でしたか!」
とひまわり。
 
「夏津美ちゃん、この子に着せる可愛い服を買ってきてくれない?」
と言ってゆりこが1万円札を10枚渡す。
 
「分かりました。行ってきます」
と言って、ひまわりが飛び出していく。ひまわりは
「さすが副社長。私はとても財布からポンと10万円出ないわぁ」
などと思いながら走って伊勢丹に向かった。
 

美鶴は
 
「5分下さい」
と言って、譜面を読んでいる。野潟さんはその様子を頷きながら見ていた。
 
「この曲、音域広いですね。上のレまである」
「君の音域は?」
「そのレが限界なんです」
「それは良かった」
 
5分経つ。
 
「美鶴、行きます!」
と右手を挙げて宣言すると
 
「済みません。ドの音下さい」
と言うので、野潟さんは“わざと”長2度上のレの音を出した。
 
すると、美鶴はそれをドの音だと信じて、歌い始めた。
Aメロ、Bメロと無難に歌う。さびに行く。盛り上がっていき、最高音の所に到達する。美鶴はかなり苦しそうだったが何とかその最高音を出した。そしてさびを歌い終わると、2番のAメロを歌い始める。
 
その後Bメロ、サビ、Aメロ、サビ、サビ、コーダと歌って終了。
 
約3分間の曲を歌いきった。
 

野潟さんがパチパチと拍手してくれた。
 
「ありがとうございます」
と美鶴がお辞儀して言う。ゆりこはホッとしている表情だ。美鶴が歌が上手いことは知っていたが、初見でどの程度歌えるか、またあがったりしないかというのは未知数だった。
 
「最高音出たね」
「はい。苦しかったけど何とか出ました」
「ところで僕は実は“間違えて”“うっかり”レの音を出しちゃったんだよね」
「え〜〜〜!?」
 
「つまり君は全部長2度高い音で歌った。だから最高音のミの音まで出た」
「私、その音出たことないのに」
「ちゃんと出たじゃん。この曲はその音でいこう」
と野潟さんは、美鶴に少し休んでおくように言い、バンドの人たちには長2度上での演奏をお願いした。
 
(短2度=半音×1(ミとファの間など),長2度=半音×2(ドとレの間など))
 

美鶴はバンドの人たちが演奏している間、ずっとその音を聴きながら小さな声で一緒に歌っているようである。
 
30分ほどで伴奏音源が確定する。バンドの人たちが休み、スタジオが消毒される。美鶴の番である。
 
伴奏音源を聴きながら歌う。最高音の所は苦しいけど何とか出る感じである。
 
細かい点、特に“表現”的なものを注意された。その部分だけ少し歌ってみる。野潟さんが「こんな感じ」と歌ってくれる。真似して歌ってみる。「もう少し悲しい感じで」「うん。だいぶ良くなった」などというやりとりを続けて10回目くらいの歌唱で
「うん。だいぶ良くなった。10分休憩してから再度録ろう」
ということになり、ここでひまわりが買ってきてくれた服に着替える。そのままコンサートのステージに立ってもいいような、素敵なドレスである。美鶴は以前ピアノの発表会に出た時のことを思い出した。
 
「よし、行こう」
とゆりこが声を掛ける。
 
気合を入れ直して、伴奏音源を聴きながら歌う。
 
「OK」
と野潟さんが言った。
 
「じゃ写真も撮るから、ゆりゆり、お化粧してあげてよ」
「はい」
 
それでゆりこが美鶴にメイクをしてくれて、髪もブラシを入れてくれたのでそれてロッテの新製品っぽいチョコ“ショコエール”を手にして、笑顔で写真を撮った。へ〜。チョコのCMだったのか、とこの時初めて知った。
 
「そうだ。この子の芸名は?」
と野潟さんが訊くのに対して
「甲斐絵代子です」
と川崎ゆりこは答えた。美鶴は「へー」と思った。
 
美鶴はその翌日、その甲斐絵代子の名前で『少年探偵団』で重要な役を演じることになる。
 

(2020年)11-12月に掛けて、紅川相談役の提案で、§§ミュージック男子寮の寮生たちは“精液を取って”冷凍保存したのだが、若干?勘違いした子もいたようであった。
 
その日、寮生の末次一葉(中2)は学校から帰った後、お風呂に入ってきれいに身体を洗い、特にあの付近は念入りに洗った。
 
“面倒を掛けないように”と思い、あの付近の毛をまずハサミであらかた切ってから、シェーバー(ヒゲソリ用とは別に用意しているボディ用)できれいに剃ってしまった。足のむだ毛は普段は月に1度くらい剃れば済むのだが、今日は念のため一通り剃っておく。
 
そしてレース使いのフェミニンなショーツを穿き、ブラジャー・キャミソールも着けると、「やっぱこっちかなあ」と思い、学生っぽいチェックのひだスカートを穿いた。「女子高生みたい」などと思う。そして「ボク、高校は女子高生として通学することになるのかなあ」などと考えてドキドキした。
 
そろそろ時間なので1階に降りてキュアルームに行く。看護師の海老原さんに声を掛ける。彼女は一葉がスカートを穿いているのを見ても特に何も言わない。
 

彼女の運転するアクア(寮の車)に乗り、15分ほど走った所の病院に行った。婦人科のクリニックのようである。こんな所に来るのは初めてだ。でも今後は結構お世話になることになるのかなあ、などと思った。待合室に居るのは女性ばかりである。ボクこの格好で来て良かったぁと思う。こんな所に学生服では来たくなかった気分である。
 
やがて名前を呼ばれたので中に入る。
「あれ?取る人は来てないの?」
と言われる。
「私ですが」
「でも君、女の子だよね?」
「すみません。まだ付いてるんです」
「あ、そうなの。ごめんごめん」
と先生は言った。女の子と間違われるのは日常茶飯事なので、間違われるとむしろ快感である。「女の子らしい」とか言われると凄く嬉しい。
 
「念のため診察するからそこに横になって」
「はい」
と言いながら、ボク、この病院から帰る時はもう男の子ではなくなっているんだよなと思いながら横になる。
 
「スカートめくってパンツ少し下げてくれる?」
「はい」
 
先生はどうもサイズを計っているようである。
 
「オナニーは毎日する?」
「そんなのしません」
「うん。いいよ。だったら夢精する?」
「それは起きたことないです」
「女性ホルモン飲んでる?」
「まだ飲んでません」
「でもバストはあるよね?」
「すみません。これ偽装なんです」
 
「ああ、いいですよ。だったら、できるかな。じゃもう起きていいですよ」
と言われるのでパンティをあげて起き上がる。
 
「そちらの1番の部屋に入って、これに取ってきてください」
と言われて皿のようなものを渡された。
 
「えっと何取るんですか?」
「精液を採取してほしいんだけど」
「あ、はい」
 
それで一葉は、“取る”前に精液を出しておくのかなと思い、1番と書かれた小部屋に入り、数ヶ月ぶりにオナニーをして皿の中に液を出した。普段は触ってもあまり反応しないのだが、“これが男の子としての最後”と思うと、何とか出すことができた。出すと、凄く悪いことをしたような気分になる。こういう気持ちになるから、もうこんなことしなくなったんだよな、などと思う。
 

残液がパンティを汚さないように、パンティライナーをショーツに取り付け、ティッシュまではさんでからパンティを穿く。ベッドから起き上がってスカートの乱れを直した。
 
小部屋を出て「出しました」と言って提出する。先生はそれを顕微鏡で見ていた。
 
「うん。元気な精子がいっぱい取れてるよ」
 
へー、と思う。一応、この睾丸正常に稼働“していた”のかなあ、などと思う。
 
「じゃこれ冷凍しておくね」
「お願いします」
 
いよいよかなと思い、ドキドキする。ところが先生は言った。
 
「じゃ、今日はもう帰っていいですよ」
 
一葉は、キョトンとした。
 
「あのぉ、手術は明日か何かですか?」
 
医師の方が戸惑う。
 
「手術?何か手術受けるの?」
 
「あのぉ、睾丸取るんじゃなかったんですか?」
「へ?僕が聞いていたのは、精液を取りたいということだったんだけど、君、睾丸取るの?」
 
「え?取らないんですか?」
 

医師が付き添いの海老原さんを呼ぶ。
 
「それはかずちゃんの勘違いだよ。睾丸取ってくださいと事務所が言うわけないじゃん」
 
「そうなんですか!男っぽくならないように睾丸は取らないといけないのかと思いました」
 
「君が将来女の子になりたいとかなら、相談に乗るけど、少なくとも事務所が去勢してとか性転換してと言ったりはしないよ」
 
一葉は脱力した。
 
「じゃ睾丸は取らないんですね?」
「精液を取るだけだよ」
「ボク、今日でもう男の子やめるのかと思いました」
 
「いや、唐突に男の子やめちゃう子がしばしばいるから、念のため、精液を保存してあげようよという趣旨なんだよ」
 
「そうだったのか」
「まあ女の子になりたいとか、男の子やめたいということなら、私にでも上野さんにでも、いつでも相談してね」
 
「はい、そのうち相談させてもらうかも」
「まあ取り敢えず今回みたいにして精液の採取をあと2回やるね」
「はい、分かりました」
「精液採取の前1週間はオナニー禁止ね」
「そんなのしないから大丈夫です」
「まあしなければしなくてもいいものだよね」
 

11月8日以降、超多忙状態が続いている羽鳥セシル(浜梨恵真)だが、その日は
「こないだ撮ったCMのテーマ曲も歌ってもらうことになった」
と言われて青山の★★スタジオに連れて来られた。
 
“こないだ撮ったCM”と言われても、CMは何本も撮っているので、どれのことか分からない!いきなり譜面を渡されて
「君なら歌えるよね?」
と言われた。まず音域を確認するが、大丈夫そうである。
「譜読み5分下さい」
と言って譜面を読む。歌いにくそうな所は少し繰り返して“黙唱”する。
 
「はい、いいです」
と恵真が言うので、既にできあがってる伴奏音源(というより、アレンジャーさんが作ったMIDIデータそのものじゃんという気がした)を聞きながら歌う。
 
歌い終わると、プロデューサーさん?が拍手してくれた。
 
「初見でこれだけ歌えるのは大したもんだね」
と言われた。結局そのあと30分くらい練習してと言われたのでキーボードを借りて、自分でそれを弾きながら練習した。
 
「そろそろいいかな」
と言われるので、また伴奏音源に合わせて歌唱した。
 
「うん。合格だけど念のためもう1回録ろうか」
と言われて再度録音した。
 
それでOKになった。
 
セシルは結局、何のCMの歌なのかは(今更聞けないし)分からなかった。
 

その日、§§ミュージック男子寮に兄(姉?)と一緒に住む上田雅水(中1)は、学校から帰った後、トイレで“最後のおしっこ”をしてから、お風呂に入ってきれいに身体を洗った。特にあれは丁寧に洗った。
 
「とうとうこれとサヨナラか」
などと思うと、少しそれが愛しくなった。
 
「ごめんね。今度生まれてくる時は、男らしい男の子にくっついてね」
などと自分の身体についている器官に向かって言う。
 
お風呂から上がると、お気に入りの、グリーンのスペード模様のショーツを穿く。ジュニアブラを着けキャミソールを着ける。普段着の花柄のコットンスカートを穿き、上には厚手のボートネックのカットソーを着た。少しお姉さんっぽくて気に入っている服である。お姉ちゃんからのお下がりだけど。
 
雅水は学校には学生服で通学するものの、寮内ではスカートしか穿いていない。
 
今日はまだ、お姉ちゃん帰ってきてないけど、ひとりても大丈夫だよね?海老原さんも付いてきてくれるしと思う。
 
今日からボクはお姉ちゃんの“妹”になるんだと思うと、少しドキドキした。
 
そろそろ時間なので1階に降りてキュアルームに行く。看護師の海老原さんに声を掛ける。彼女は雅水が可愛い格好をしていても特に何も言わない。いつもの格好という気もするし!
 

彼女の運転するアクアに乗り、15分ほど走った所の病院に行った。
 
婦人科のクリニックのようである。こんな所に来るのは初めてだ。でも今後はいつもお世話になることになるのかなあ、などと思った。待合室に居るのは女性ばかりである。ボクこの格好で来て良かったぁと思う。こんな所に男の格好では来たくなかった気分である。
 
やがて名前を呼ばれたので中に入る。
「あれ?取る人は来てないの?」
と言われる。
 
「私ですが」
「でも君、女の子だよね?」
「すみません。まだ付いてるんです」
「あ、そうなの。ごめんごめん」
と先生は言った。女の子と思われるのは普通だし、女の子と思われることによって自分のアイデンテイティを確認している気もする。
 
「念のため診察するからそこに横になって」
「はい」
と言いながら、ボク、この病院から帰る時はもう女の子になっているんだよなと思いながら横になる。
 
「スカートめくってパンツ少し下げてくれる?」
「はい」
 
「あれ?」
と先生は言った。
 
「君、もう睾丸無いじゃん」
「8月に取りました」
「じゃ取りようがない」
「え?今日はおちんちんを取るんじゃなかったんですか?」
 
医師が付き添いの海老原さんを呼ぶ。
 
「今日は精液を取るという話だったんだけど」
「そうだったんですか!てっきりちんちんを取るんだと思いました」
 
「事務所が、ちんちん取ってとか言うわけないじゃん」
 
「そうなんですか!姉が女子寮に移動してなんて言われてたから、女子寮に行くのなら、ボクもちんちんは取らないといけないのかと思いました」
 
「君は将来女の子になりたいのかも知れないけど、それは個人の問題だから事務所がとやかく言ったりはしないよ」
 
雅水は脱力した。
 
「じゃちんちんは取らないんですね?」
「精液を取るつもりだったんだけど」
「ごめんなさい。ボクもう睾丸無いから、精液は取れません」
「睾丸取る前に精液の保存とかしてない?」
「はい。手術前に射精して冷凍保存しました。1年間は保管料サービスと言われました」
 
「じゃそれを来年以降は保管料払って更新していけばいいね」
「はい」
 
「先生、済みません。今日は空振りになってしまいまして」
と海老原さんが謝る。
 
「すみません。ボクも勘違いしてて、お手数掛けました」
と雅水も謝る。
 
「うん、いいよ。でも睾丸取って、ホルモン・バランス崩れて、どこかに変調とか来てない?」
 
「それは大丈夫みたいです」
「女性ホルモンはちゃんと摂ってる?」
「はい。毎日食後に1錠ずつ、飲んでます」
 
「念のため、飲んでる薬を見せて」
「はい」
 
それで雅水は毎日食後に飲んでいる薬を見せた。
 
「これはエストロモンとDB-10かな」
「はい。そんな名前でした」
「これ入手先は?」
「個人輸入です」
「処方箋書いてあげるから、普通の薬局で買うといいよ」
「済みません!お願いします」
「睾丸を既に取っているのなら、ちゃんとホルモンを補充していないとまずいからね」
 
それでお医者さんが処方箋を書いてくれたので、雅水は以後安価に女性ホルモン剤を入手できることになった。
 
なお、姉の方もとっくの昔に睾丸は無かったので、海老原は彼女(といった方がいいだろう)にも病院を受診させ、そちらも処方箋を書いてもらって、普通の薬局でホルモン剤が入手できるようになった。
 
姉弟(姉妹?)が女子寮に移動することになるのかどうかは、海老原も分からない。海老原は姉の上田信貴に
 
「男子寮に住むか女子寮に住むかは、君自身の性別認識の問題。女子寮の子たちは姉妹まとめて来ていいよと言ってる」
と言っておいた。
 
中3の上田信貴は、高校に女子として入るのか男子として入るのかという問題もある。これは受験目前なので、早急に決める必要がある。
 
ファンの間では、最近上田信貴がバックダンサーとしてテレビなどに出演する時しばしば(いつもではない)スカートを穿いていることが話題になっていた。
 
「のぶちゃん、女の子になっちゃうのかな」
「のぶちゃんなら、女の子でもいいよね」
などとファンたちは言っていた。
 

(2020年)12月13日に旭川で理歌の結婚式に参加(ホテルの部屋からネット参加)するとともに、(桃香が千里と結婚することになったので)朋子が千里の両親に挨拶に行くのに付いて行った青葉であるが、一行はこのような日程で行動している。
 
12/12 8:00 郷愁発(千里が乗ってくる) 8:30 能登着(青葉・朋子が乗る)
 
12/12 9:00 能登発(千里・青葉・朋子) 9:30 郷愁着(桃香たちが乗る)
 
12/12 10:00 郷愁発(9人) 11:30 旭川着 理歌たちと話す
 
12/13 10:00 結婚式 12:00-14:00 ネット祝賀会 16:00 留萌に行き千里の両親に挨拶
 
12/14 9:00 旭川発(11人) 10:30 郷愁着
 
12/14 16:30 郷愁発(千里・青葉・朋子) 17:00 能登空港
 
実は10:30に郷愁に到着してから16:30に出発するまで6時間の間隔が空いている。この時間について千里は青葉に「空港スケジュールの問題」と説明していたのだが、実は別の問題があったのである。
 

12/12には、千里はオーリスを使って早朝郷愁飛行場に入っている。その後、貴司がセレナを運転し、助手席に桃香、2列目・3列目に4人の子供を乗せ、郷愁飛行場に来ている。
 
12/14に旭川から郷愁までG450に乗って飛んできたのはこういうメンツである。
 
千里・青葉・朋子
桃香・貴司・早月・由美・京平・緩菜
坂口栄吾・理歌
 
郷愁飛行場には、12/12に使用したオーリスとセレナが駐まっているほか、彪志がレンタカーのフリードスパイクを借りて運転してきている。彪志はこのレンタカーを坂口夫妻に託し、2人は新婚旅行に出かける(一週間後に郷愁から旭川に送り届ける)。
 
セレナに、貴司・彪志と4人の子供が乗って浦和のマンションに戻る。つまり実は桃香は残った。
 
青葉は千里が“打ち合わせがある”と言って、千里のオーリスでホテル昭和のコテージ“桜”に連れて行き、そこに来てくれていたコスモス・和泉とアクアの制作について打ち合わせをした。
 
桃香と朋子が残る。ここに“琴沢幸穂”事務所の天野貴子が自分の車ホンダ・シャトルで迎えに来る。そして2人を乗せ、実は千葉に連れて行ったのである。
 
G450が郷愁飛行場に到着したのが10:30で、シャトルが飛行場を出たのは11:00である。天野貴子こと《きーちゃん》は《とうちゃん》に頼んで、桃香と朋子を眠らせ、《くうちゃん》に頼んで車をワープさせ、1時間後(本来は2時間半かかる)千葉市の季里子の家に到着。実は(桃香と季里子がパートナーシップ宣言をすることにしたので)朋子が季里子の両親に挨拶に来たのである。
 

季里子が玄関を開けてくれて桃香と朋子が中に入る。取り敢えずあがってから、手土産に旭川で買った千里お勧めのお菓子「たいせつ」(ロバ菓子司)を出し、朋子は手を突いて季里子の両親に挨拶した(留萌で千里の両親には高岡のお菓子「とこなつ」を渡している:今日は北海道の親戚の結婚式に行くのとセットで訪問したのでと言ってある)。
 
「もう長いお付き合いだったようなのに一度も顔を見せに来ずに大変申し訳ありません。この度はお嬢様を頂きたいと思いまして、ご挨拶に参りました」
 
「いえいえ。どちらがどちらをもらうのかよく分からないのですが、紆余曲折あって、結局結婚するのだと言いますので、こちらこそよろしくお願いします」
と季里子の父もよく分からない挨拶をした。
 
今日は季里子が2012年に桃香からもらった婚約指輪(ルビーのプラチナリング)をつけている。また2人ともプラチナの結婚指輪をつけている。指輪にはMO to CH, CH to MO の刻印がある。季里子の名前はジョルジョ・デ・キリコ(Giorgio de Chirico)から採られたものなので、Chirico と綴る。それでイニシャルが CH なのである。
 
しかし挨拶も何も、ふたりは2012年6月から2014年9月までの中断時期を除いて、2012年2月以来夫婦(婦婦?)であった。かなりの期間半同棲しているし、今年の1月以降は完全同棲になっていた。
 
2012.02 桃香と季里子が結婚。婚約指輪(ルビー)と結婚指輪(Pt)を作る。
2012.06 季里子の父の介入で別れさせられる。結婚指輪返却。
2012.09 季里子が夏樹と契約結婚。人工授精。
2012.09 桃香が千里と結婚(新婚生活4日間)結婚指輪(Pt)と婚約指輪(ダイヤ)
2012.09 桃香が千里と離婚。
2013.06 季里子が来紗を出産。
2013.11 2度目の人工授精。
2013.12 季里子と夏樹が円満離婚。
2014.06 季里子が伊鈴を出産。
2014.07 千里が桃香に結婚指輪を返却。
2014.09 季里子が桃香から“サイズ直しした”結婚指輪を再度受け取る。この時期、桃香はほとんど季里子の家、千里はグラナダ(2013.10-)に居て千葉のアバートは友人たちの宿泊所になっていた。
2015.03 千里と桃香が大学院を卒業し同居?を終了。
2015.04 桃香は経堂のアパートに住む?が会社終了後は千葉に帰宅することも、
2016.11 桃香が会社を退職。
2017.05 桃香が早月を出産。
2018.04 千里が結婚したので桃香は早月を連れて季里子と同棲
2018.10 信次の死亡で傷心の千里を慰めるため一時的に千里と同居。千葉と経堂の往復生活。
2020.01 千里との同居を終了?して桃香が季里子と再同棲開始。
 

桃香が手配していた仕出しが届いている。それを膳(銘々膳)に載せ、季里子と桃香、季里子の両親、来紗と伊鈴、朋子の7人で囲む。ソーシャルディスタンスを空けている! 来紗と伊鈴の分にはハンバーグとかプリンとかが載っている。
 
それで「今後は来紗たちのおばあちゃんになってあげて下さいね」などと言われ、人見知りしない来紗が朋子に懐いて、すると伊鈴も来て、朋子は大いに癒されたのであった。
 
14時すぎに「飛行機の時間があるので」と言って退去する。桃香も「送っていく」と言って一緒に出る。天野貴子を呼んで、来てもらい、彼女の車で郷愁飛行場に向かう。
 
「ところであんた子供は全部で何人いるんだっけ?」
と桃香は車内で朋子に訊かれた。
 
「6人だと思う。季里子の子供が来紗と伊鈴、千里の子供が早月と由美、あと2人長崎の方に、小空・小歌という姉妹がいるんだよ」
「優子ちゃんは、桃香の子供はあちこちの女に産ませた子が10人くらい居るはずと言ってたけど」
「それは他人(ひと)のこと言えん話だと思うなあ」
「結局、あんた精子あるのね?」
「自分でも分からなくなって来た」
 
「季里子ちゃんが、早月と由美をこちらに連れてこない?と言ってたけど」
「それは悩んでいるんだよ。千里は京平・緩菜と一緒に育てたいみたいだし。早月と由美はこれまでもしばしば一緒に来紗・伊鈴と遊んでいて仲が良い」
「京平たちとは?」
「そちらとも仲が良い。特に緩菜は女の子同士の気安さで、京平より早月に懐いている」
「もてもてだね〜」
「6人まとめて育てるのは無理だし」
「それはもう保育所だね」
 
《きーちゃん》は、また2人に途中眠ってもらい、15時半頃郷愁飛行場に送り届けた。16時頃青葉と千里も戻ってきて、青葉・千里・朋子がG450で能登空港に向けて出発する。桃香は天野さんに送ってもらい、浦和のマンションに帰宅した。
 
この日、普段千葉にいる方の桃香は、いつもなら月曜日で休みになるところを、受験の時期が近いので、塾に行っていたのである。それでこちらの桃香が季里子の夫役を演じた。千葉の桃香は朝「母を迎えに行ってくる」と言って家を出て実は塾に出勤した。2人は予め同じ服を用意して着ていた。
 
元々、青葉が関東に来るのなら直接話したいとコスモスが言っていたので、郷愁で最大限の時間が取れるように千里は飛行日程を組んだ。すると時間が空いているのを見て、桃香は「千里、ヴィッツ貸してくれない?」と言った。しかし、千里は桃香運転の車に朋子を乗せるなんて、とんでもないと言って、“運転手付き”で貸してくれたのである。
 
朋子が運転するにしても、関東周辺の道路は慣れてない人には結構きつい。そもそも“人間の運転する”車では熊谷から千葉までは2時間半かかるので、季里子の両親に会ってくるのは時間的に無理があった。往復だけで5時間かかるので、玄関先で帰ることになる所だった。
 

千里とあらためて婚約したものの、まだ同棲することができずに、寂しく1人で川口市のマンションで暮らしている貴司であるが、退職願いを会社に提出。バスケ部(元)部長から移籍許可証を書いてもらったので、どこのチームにも円満移籍することができるようになった。退職日は11月30日(月)と決まった。
 
貴司は美映と離婚した(美映から千里に売却された!)11月4日の夜は千里と床を共にし、2018年8月31日以来、2年2ヶ月ぶりに男性器を返してもらい、実に4年ぶりのセックスをした。
 
※千里との婚約からこの日までの長い道のり
 
2012.01,08 婚約指輪を買いに行く
2012.02.25 仕上がった婚約指輪を受け取る。
2012.05.06 結納式。婚約破棄前最後のセックス
2012.07.06 婚約破棄
2012.12.22 結婚式の予定だった→非婚旅行!?
2013.01.19 淑子から“嫁の印”の指輪をもらう。
2013.07.22 千里と貴司の非セックスデート
2013.08.09 貴司が阿倍子と結婚式。婚姻届は翌日。
 
2015.10.04 アジア選手権活躍のご褒美に3年ぷりのセックス「今日のことは忘れることができますか?」
2015.12.22 じゃんけんに負けてセックス。婚約破棄以来2度目のセックス
 
2016.11.13 暢彦の結婚式。エンゲージリングを再度受け取る。
 
2017.04.16 千里が分裂
2018.01.21 貴司が阿倍子と離婚
2018.02.03 貴司と美映が婚姻届を提出
2018.03.18 千里3が貴司に激怒し、男性器を取りあげる
2018.08.18 千里が貴司に男性器を返してあげる
2018.08.31 浮気未遂の罰で男性器を取り上げられる
2019.08.05 貴司が“千里”(実は虚空)とセックス。女の身体に変えられる
2019.10.17 男の身体に戻るが緩菜が睾丸を取り上げる
 

2012年の婚約破棄以降、貴司と千里は毎月のようにデートはしていたものの、その間のセックスはわずか3回しかしていない。通常のデートでは、下着になって添い寝するだけであり、いわゆるABCDIの“B”までであった。
 
“1年ぶり”のセックスに貴司は感動し、たくさん千里を愛撫しながら言った。
「凄く気持ち良かったよぉ」
「良かったね」
 
千里も“4年ぶりの貴司とのセックス”がとても気持ち良かったので、やはり自分は貴司の妻なのだというのを再度認識する(川島信次と2017.11.30に1度だけセックスしたのは無かったことにしておく:この時のセックスで緩菜を妊娠したのだが、このことに、この時点では千里2・千里3も気付いていない)。
 
「去年のセックスも嬉しかったけど、今回は今までのセックスの中でも一番気持ち良かったかも知れない」
と1年ぶりに男性機能を使用することができた貴司は言う。
 
その言葉を千里が聞きとがめた。
 
「待って。何その1年前のセックスって?」
「え?去年の夏、8月頃だったかな?会社で仕事が遅くなって、もう姫路に帰るのは不可能だったから、どこかホテルにでも泊まろうかと思ってたら偶然千里と会って、それで一緒に帝国ホテルに行って1晩泊まったじゃん」
 
今貴司とセックスしているのは“千里2”なのだが、板橋ラボで休んでいた“千里3”とテレパシーで会話する。
 
『貴司が去年の8月に私とセックスしたって言ってるけど、3番、セックスした?』
『ううん。してないけど。ちょっと待って』
 
3番は自分の“中”にいる“千里1”にも問いかけて確認する。
 
『1番は貴司とセックスしたのは(2016.11の)暢彦君の結婚式の時以来だと言っている』
 
そういう“他の自分”との会話を経て千里2は言った。
 
「私は暢彦君の結婚式の時以降、貴司とセックスした覚えはない。そもそも帝国ホテルに行った覚えもない。貴司、一体誰とセックスしたの?」
 
「え〜〜〜!?千里としたじゃん」
「やはり浮気したのね?」
「そんなことしてないよぉ」
「私、怒った。しばらくセックス拒否」
「そんなあ」
「もうちんちんも取り上げる」
 
と言って、貴司はまたもや男性器を取り上げられてしまったのであった。
 

それで千里はすぐにも貴司と同棲するつもりだったのを、
「取り敢えず年内はセックス無し」
と宣言し、貴司はしばらく川口市のマンションで1人で暮らす羽目になった。
 
悪いのは千里を装って貴司とセックスした丸山アイ(虚空)なのだが、貴司は千里としたと思い込んでいるし、理由無く千里が怒るのにも慣れているので、この件は永久に原因不明の事件となるのであった。
 
(アイは2012.05.17にも、千里に変装して貴司とセックスし、小歌を妊娠している。貴司は自分の子供がいつの間にかできていることを知らない)
 
なお、これ以降、12/26に一戸建てに引っ越すまでの間、貴司のマンションには《てんちゃん》に頼んで、朝晩の食事、お弁当を届け、またトイレットペーパーや歯磨き粉などの生活物資も、こちらの買物日に一緒に買い、それも食事の時に一緒に届けさせていた。
 

ところで、昨年まではクリスマスやバレンタインのプレゼント仕分けは大田区のサテライトの大部屋などを使用していたのだが、そこであけぼのテレビを始めてしまったので、部屋が塞がっている。
 
そこで、ケイとコスモスは話し合い、郊外でもいいので広い部屋が取れる物件が無いか探してみた。ところがその話を耳にした若葉が言った。
 
「土地はいっぱい余っているから、郷愁村使ってよ」
「郷愁マンションとかを2フロアくらい借りられる?」
「ビル“1個”建てちゃえばいいよ」
「はあ」
 
それで郷愁村にビルを“1個”建てちゃったのである。面積を広く取りたいので50m×50mで5フロアの仕様とした。建築は播磨工務店に頼んだが、わずか1ヶ月で建ててくれた。
 
「あのぉ、建築費は?」
と(播磨工務店のオーナーである)千里に訊くと
 
「ああ。1億円でいいよ」
なとと言う。
 
「ほんとにそんな安くていいの〜〜?」
 
ということで、土地代タダ(若葉が借賃不要と言った)、建築費わずか1億円(恐らく建材費のみ)で、プレゼント仕分け場ができてしまったのである。実際にはこれにベルトコンベヤ等の施設を組み込むのに1億円掛かっている。
 

1階は駐車場で、仕分け作業をする人を運んで来る車、福祉施設などに寄付する分、また残念ながら廃棄しなければならない分を輸送するトラックなどが駐められる。受け取ったプレゼントは取り敢えず3階に運び、仕分けされたものが2階に降ろされる。実際には2階と3階は、フロアがぶち抜かれていてベルトコンベヤで物が運ばれる箇所が多数ある。4階は予備で5階が仮眠や事務のためのスペース、お礼状の発送システムも設置されている。
 
時節柄、どこの部屋も換気をたっぷり利かせる造りだし、仕分けの作業場所は多数の小部屋にパーティションで分割されている。太陽光パネルを多数屋根に並べており、ここで使用する電気は全てこのパネルでまかなえる。
 
この仕分け場が熊谷市の郷愁村に出来たのが11月(建物自体は“平安村”のオープンセット完成後建築が始まり10月に完成。その後検査や仕分け用の機械を設置するのに1ヶ月)だったのである。
 
そして12月のクリスマスのプレゼント仕分け作業で威力を発揮した。
 
密を発生させないため費用度外視で省力化を図っている。
 

包装を解いて箱の表面をアルコール消毒するまでは自動で行われる。差出人の住所名前は自動的に読み取り、データベースに登録される。
 
伝票が個人発送になっているものは問答無用で廃棄である。これはそもそもルール違反なのである。個人発送のものは受け付けないと何年も前から掲示している。また発送者をブラックリストと照合して過去に危険なものを送ってきている人のものは全て廃棄する。
 
ここ数年の研究から、表面に光を反射させてその散乱状態から微細な穴を発見するシステムが開発されており、これは注射針を通した跡とみなされるので廃棄する。剃刀や針などの入っているもの、髪の毛の入っているものなどは日常茶飯事なので、X線透過映像で発見するとどんどん自動で廃棄に回される。この手のものが混入していた発送元は管理の甘い店と考えられるので、ブラックリストに登録される。
 
これらのシステムを自動で動かすことで、普段の年の半分の人数で処理することができた。
 
換気をしていて寒いので、スタッフは全員しっかり防寒服を着てもらってウォーム手袋もしている。システムのチェックに通ったものを、この道3年以上のベテランのスタッフによる目視で更にチェックして安全性の確認が取れたものだけを福祉施設などへのプレゼントに回す。プレゼント先には「万一少しでもおかしい気がしたら通報してくれ」と言っている。それを承知してくれた所だけがプレゼント対象である。
 
お洋服の中で、高級ブランド品は、プレゼント先で誰がもらうかという揉め事のタネになりやすいので、プレゼントには回さず、§§ミュージック、§§プロ、♪♪ハウスなどのタレント、研修生、(管理しやすい東京・大阪在住の)練習生の子などで分けたり、衣装として使用したりする。
 

今年はオートメーション化により、かえって従来より高速に処理できたので、賞味期限切れがあまり発生せず、福祉施設に多数の洋菓子を届けることができた。
 
今回はかなりの洋菓子・お洋服などを“千里が借りて来た”(どこから?)エアバスA318で郷愁飛行場から小浜のミューズ飛行場、九州の佐賀空港に運び、関西・九州の福祉施設にも届けることができた(コロナのせいで機体が余っているんだと千里は言っていた)。A318の操縦資格はA320ファミリー共通で、これを飛ばしてくれたパイロットはANKでA320-200を運行していた人らしい。
 
A318は離陸距離が1780mなので滑走路2200mの郷愁飛行場・ミューズ飛行場で離着陸ができる。この飛行機は、小さい飛行場でも離着陸できることから“BabyBus”と呼ばれる。ちなみにどちらの飛行場も計器離着陸(ILS) OKである。佐賀空港も2000mあり、ILS可である。
 
ちなみにG450は全長27m×翼幅24mに対してA318は全長31m×翼幅34mだから一回り大きいくらいの感じなのに(実際A318 Eliteといって座席をわずか18席にしたプライベートジェット仕様の機体もある)、G450のペイロード0.9tに対してA318は15tと輸送能力がハンパじゃない(燃料も食うが)。
 

もっともファンクラブの人たちには“菓子”そのものではなく“クーポン”の類いで送って欲しいとしつこく広報している。今年は、頂いたクーポンを菓子メーカー・衣料品メーカーなどに持ち込み、大阪周辺・福岡佐賀周辺以外の全国の多くの福祉施設にもケーキやお洋服などを宅配便で届けることができた。
 
実はクーポンで頂いたものが全体の6割を占めている。頂いたクリスマス・プレゼントはクーポンと実物と合わせると約40万個で、これが全て実物ならトラック100台分相当である。今年はこの中で廃棄したのは約5%であった。
 
プレゼントの宛名はアクア宛が圧倒的に多く、ラピスラズリ、白鳥リズムがそれに続いていた。信濃町ガールズ・ミューズの子にも多少来ており、数の少ない子の場合は本人に全部渡している。まだほとんど名前が知られていない筈の、山鹿クロム・三陸セレン・甲斐絵代子・常滑舞音などにも10個以上来ていて本人たちが驚いていた。この子たちには直筆のお礼状を書かせた。
 
しかしまあ、クリスマスとかバレンタインというのは、事務所に多大な費用と手間を課すイベントである!今年のクリスマス対応は、整理場の建設に掛かった2億を除いても更に1億円ほど掛かっている(内3000万円ほどがお礼状の発送費用)。この手のプレゼントは全て廃棄するという対応を取っている事務所が多いのも無理はないとケイもコスモスも思う。
 

「あのぉ、これ何ですか?」
と目の前に積み上げられた20個くらいの箱を前にして羽鳥セシル(浜梨恵真)は雨宮先生に言った。
 
「君宛にファンの子から送られてきたクリスマス・プレゼント」
 
「だってまだデビューしてないのに」
「正式にはデビューしてないけど、明治ミトラチョコのCMは既にフライングで19日から流れているから。それを見てファンになった人たちがいたみたいね」
「名前も表示されてないのに!」
「いや、メーカーのサイトにはちゃんと「出演:羽鳥セシル」と表示されている」
 
「じゃメーカーさんに送られて来たんですか?」
「♪♪ハウス宛に来た」
「なぜ事務所が分かるんです?」
「きっとメーカーの広報担当とかに聞いたんじゃない?」
「熱心ですね!」
「この22人にはお礼状書いて」
「はい!」
 
それでその日セシルは3時間近くかけて22人にお礼状の葉書を書いた。これはセシルのスナップショットが印刷されていて、下の方に4-5行以内のメッセージが書けるようになっているものである。そこに簡単な文章を書きサインをしたが、22枚に書くのはなかなか大変だった。
 
「まあ直筆のお礼状は今回が最後だろうな。正式デビューした後は、直筆は不可能になる」
「アクアちゃんとか直筆するにはアクアちゃんが1万人必要ですよ」
 
「1万人は居ないにしても10人くらいは居たりしてね」
「凄い忙しさですもんね」
 
「でもアクアを引き合いに出すのは筋がいいと思うよ」
と雨宮先生は言った。
 
「そうですか?」
 

クリスマスイブも夜遅くまで仕事をして0時過ぎてからの帰宅になったアクアは葉月を誘って、一緒に代々木のマンションに入った。
 
それでアクア、葉月、アクアの友人3人の5人でシャンメリーで乾杯するが、アクアがポン!と音を立てて開栓してから“注がずに”空のグラスで乾杯する。その後で彩佳たちが分けていてくれたお料理を入れた紙のボックスを配り「お疲れ様でしたー」と言って別れた。
 
それでアクアと葉月は18階の部屋に移動する。下の部屋で乾杯に参加したのはアクアMと葉月Mだが、上の部屋ではアクアFと葉月Fが待っていたので、4人でダイニングのテーブルを囲んであらためて
「メリークリスマス」
と言って、一緒にクリスマスのごちそうを食べた。
 
コスモスは契約タレント全員に『家族以外で5人以上の会食禁止』という通達を出しているのでそれに従ったものである。彩佳たち3人とアクア・葉月で5人になってしまうので、乾杯だけで別れた。開栓したシャンメリーは彩佳たちの所に置いてきたので彼女たちだけで飲むだろう。
 
「西湖ちゃんはワルツちゃんと一緒にクリスマス過ごしたかったかも知れないけど」
「どっちみち卒業するまではセックス禁止と和紗さん社長から言われているみたいです」
「西湖ちゃん、オナニー頑張って練習しなよ。やってたらきっと立つよ」
と言っているのは龍虎Fである。
 
「だいぶ頑張ったんですけど、全くダメなんですよねー」
「触ると気持ちいい?」
「触っても別に何にも感じないです。イボでも触っている感覚なんですよね」
「重症だなあ」
「和紗さんは立たなくてもいいから気持ち良くしてあげる、とか言ってましたけど」
「まあ、おきばりやす」
 

今夜は眠くなったら適当に寝るというルールである。明日の午前中は空けてもらっているので、少し遅くまで寝ていられる。その後は正月3日くらいまで全く休みなしになる。
 
なお、今日はFの部屋で龍虎Fと聖子F、Mの部屋で龍虎Mと西湖Mが寝て“夜這い禁止!”ということにしている。どちらもキングサイズのダブルベッド(200cm×200cm)なので、2人ゆうゆうと寝ることができる。
 
お料理は「沢山食べるから」と言って龍虎のボックスにも西湖のボックスにも2人前の料理を入れてもらっていたので充分ある。むしろ全部食べる前に眠くなってくる。最初に1時頃西湖Mが離脱。その後、龍虎Mも離脱したが、残った龍虎Fと聖子Fは“女の子のナイショの話”で盛り上がり、下着姿になって、龍虎Fが聖子Fに“指導”していたら、トイレに起きてきた龍虎Mが見て「お前ら何やってんの?」と呆れていた。
 
「俺が許すから、2人でセックスしたかったらNの部屋のベッドを使ってもいいぞ」
「Mも一緒にやらない?」
「パス」
と言って、Mはトイレに行くとすぐ眠ってしまった。
 
 
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【春白】(6)