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■トワイライト・魂を継ぐもの(1)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-02-07
 
「ご主人様、おやめください!」
 
店長室で打ち合わせをしていた和実は、同僚のメイド・マユミの声に
『やれやれ』と思い「ちょっと行ってきます」と店長と来客に断ると、店舗の中に出て、マユミに絡んでいる客のテーブルに行き、彼女と客の間に割り込んだ。見た感じ、かなり泥酔している雰囲気である。
 
「ご主人様、お出かけの時刻です」
「なんだとぉ、俺はまだ帰ってきたばかりだぞ」
「酔いを醒ましてからまたご帰宅下さい」
「ここで酔いを醒ましたらいかんのか?」
「ゲストの方々の迷惑になってますよ」
「何だ?誰が迷惑してるってんだ?迷惑してる奴はここに出てこい」
 
どうもこの客はかなり悪質なようである。和実は毅然とした態度で言う。
 
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「それともセクハラで訴えられるのをお好みですか?」
「へ?訴える?何の法律の第何条で訴えるのか言ってみろよ」
「刑法第176条。強制猥褻罪。十三歳以上の男女に対し暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は六月以上十年以下の懲役に処する」
と和実が条文を暗誦すると、相手はギョッとしたようである。
 
「でも、よく見たら君、凄く可愛いねぇ。ね、君が俺の相手してくれない?」
 
和実はため息を付いた。最後の手段は男性のスタッフの手を借りて<叩き出す>という手もあるのだが、他のお客様の手前、あまり手荒なことはしたくない。会計係の男の子がこちらを伺っているのを和実は目の端で認識した。彼の手を借りる前に、あの手で行くか?今日はたまたま、ああなってるし。
 
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「あらら、私でいいのかしら?」
と言って和実はその客の横に座る。
「お、分かってるじゃんか」
と言って客は和実の胸に触ってきた。
「でもあなた変わってるわね。男の子が好きだなんて。それなら来る場所が違うわよ。ゲイバーにお逝きなさいよ」
「へ?男の子??」
「だって、私これだもの」
と言って、和実は客の手を自分の股間に当てた。
「えー!?」
と客が驚いた顔をしている。
 
「さあ、少し目が覚めた?手荒なまねすることになる前にご出発なさってくださいな。少しは他人の迷惑を考えて下さいよね」
 
会計係の男の子が席の近くまで来てくれた。
「間宮君、ご主人様のお出かけ」
「はい」
と彼は大きな声で言う。身長190cmのがっしりした体型である。
「わ、わかった。帰る!」
 
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と言って、客は会計の所まで歩いて行った。客が代金を払って出て行くと、和実はマユミと顔を見合わせて肩をすぼめた。
 
「チーフ、間宮君、ありがとうございます」とマユミ。
「僕、割と役立ってます?」
と間宮君が照れるように言う。
「とっても役に立ってる。体格いいもんね」
と和実は笑顔で答えた。
 
「いや、身体って財産なんだなって、ここに来て思いました」
と彼は頭を掻きながら言った。彼は高校時代には柔道をしていたらしいが、大学に入ってからは特にスポーツはしていない。性格は穏和で、典型的な『気は優しくて力持ち』のタイプである。
 
「でも、ほんとにチーフは男の子だったんですね!」と間宮君。
「どこをどう見ても女の子にしか見えないよね」
とサブチーフの麻衣も笑って言う。
 
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「確認する?」
と和実は言うと、間宮君の手を自分の股間に当てた。
「わっ」
と言って彼は手を引っ込める。
「確かに付いてる。何だか信じられないです」
 
「それ私にも触らせて」と騒ぎで寄ってきていた若葉が言うが、
「今日は女の子じゃないから、だーめ。女の子の日なら触ってもいいよ。それか、今度一緒に温泉にでも行く?」
と答える。
 
「チーフ、温泉はどちらに入るんですか?」とマユミ。
「今日はちょっとやばいけど、普段の日なら女湯に入るよ」
と和実は笑って言った。
 
「私、和実ちゃんと一緒に温泉行ったことあるけど、何にも付いてなかったんだけどねー」と麻衣。
「ふだんはきっと銀行に預けてるんだよ」と店長室から出て来た店長が言う。「そんなの預かってくれるんですか?」とマユミ。
「預金というからね」と店長。
「きゃー」
 
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和実は大学2年。△△△大学の物理学科に通いながら都内のメイド喫茶「エヴォン」
でチーフ・メイドをしている。メイドは郷里の盛岡にいた高校1年の夏休みにちょっとしたきっかけで始めたものだが、和実はそれがきっかけで女装するようになり、やがて高校でも女子制服を時々着るようになり、卒業する頃は校内ではほとんど女子制服で過ごすようになっていた。そして大学には最初から「女子学生」として入学し、完璧な女子大生生活を送っている。
 
昨年の震災の直前に知り合った、都内のソフトハウスに勤める淳とは震災後急速に仲が進展し、MTF同士の事実上のレスビアン婚をして、一緒に暮らしている。(ふたりの関係は、和実の姉と淳の兄には認めてもらっている)
 
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ふたりは震災直後から、被災地にトラックで救援物資を運ぶボランティアをしており、そのボランティア活動はふたりを中心に協力者が広がって40人ほどの、大きなボランティア組織になっていった。初期の頃は純粋に食料や衛生用品など生命の維持と基本的な生活に必要なものを運んでいたのが、夏頃には生活を立て直していくのに必要なものや衣料・日用品などに重点は移っていった。
 

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「いつもいつも済みませんね」
と仮設住宅の集会所で、和実たちが運んできた荷物を受け取った40代くらいの自治会長さんは笑顔で言った。
 
「いつまで出来るか分かりませんけど、私たちのできる範囲のことをしているだけですから。こんなのお互い様だもん」
と和実も笑顔で返事した。
 
「あなた、お年はお幾つ?」
「19歳です」
「わあ、若いっていいわねえ。私も19歳の時もあったのに」
「その頃はかなりもてたんじゃないですか?奥さん、色白だし」
「色が白いのはむしろコンプレックスだったのよね。私、どうしても日焼けしない体質で」
「ああ、そういう人もいますよね」
「そうだ!あなた、あれもらってくれないかしら?」
 
そう言うと、自治会長さんは自宅まで走って行って、何か小さな小箱を取ってきた。
 
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「これね、友だちがうちの娘にって作ってくれたんだけど、行き先が無くなっちゃって」
それはきれいな桜貝のブレスレットだった。
 
「娘さんって、もしや・・・・」
「うん。大阪で大学生してるんだけど、こないだ帰省してきた時に見せたら、好みじゃないから要らないって、あっさり言われて」
 
和実と淳は顔を見合わせて、そして微笑んだ。
 
「あ・・・娘は生きてますよ」と自治会長さん。
「いえ、すみません。こういう文脈で、しばしば亡くなった人の話をたくさん聞いてきたもんで」
「ほんと、たくさん人が死んだわよね」と自治会長さんも遠くを見つめるような目をした。
 
和実は桜貝のブレスレットをありがたく頂いて、その場で左腕に付けた。
 
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「今日のは遺品じゃなかったけど、和実、たくさん遺品も頂いたよね」
東京に帰るトラックの助手席で淳は運転している和実に言った。このふたりで東北まで往復する時はだいたい行きは淳が主に、帰りは和実が主に運転している。その運転している和実の左腕で、頂いた桜貝のブレスレットがチャラチャラと音を立てて心地よい。
 
「ほんとほんと。今着てるブラウスは気仙沼で亡くなった人のだし、この髪飾りは仙台で亡くなった人のもの、ブローチは陸前高田で亡くなった人のもの」
 
「和実、死んだ人のを身につけるの抵抗感無いみたい」
「あ、私そういうの全然気にしない。むしろ亡くなった人たちから、あなたは頑張ってねと励まされてる気になるんだよね」
「その人達の魂を受け継ぐみたいな感覚?」
 
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「そうそう。そういう感覚持てる人はレアだって、友だちからは言われるけどね。でも、抵抗無いのは、淳の方がむしろそうじゃない?唯物論者だって言ってたし」
 
「うん。でも今回は色々考えさせられた。でも、和実、そういう遺品を1〜2ヶ月身につけてから押し入れにしまってるよね」
「そのくらい身につけてあげるとね、ふわっと何かが上がっていく感覚があるの。あ、亡くなった人の未練が消えたなって思って、そしたらしまうんだよね。最初から何も入ってないのは1度着てあげただけで、しまってる」
 
「まるで霊能者みたいだね。和実そんなに霊感強かったっけ?」
「ひとつは、ほんとにたくさんの霊と接しているから活性化されてるんだと思う。もうひとつは青葉と知り合ったからだろうね。青葉は、私が亡くなった人の遺品を身につけても平気なのは、元々のパワーが大きいからだって言ってた」
 
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「ああ。和実ってパワフルだもん。だけど青葉ちゃんって何か凄いよね。私は、霊とかあの世とか信じてなかったんだけど、今回の震災はほんとに、あちらの世界について考えさせられたし、青葉ちゃんを見ていて、やはり、そういう世界って無視できない気がしてきた」
「まだまだ迷ってる人達多いだろうからね。その人たちが上にあがれるといいね」
 

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8月6日。都心で花火大会が行われたので、和実たちのメイドカフェは臨時に『浴衣カフェ』となり、スタッフが全員浴衣を着て応対をした。
 
浴衣自体は春頃から予約を入れておいて貸衣装屋さんから同じ柄(但し本店は青系統、新宿支店では赤系統で揃えた)のものを一括して借りたのだが、結構自分で浴衣を着れない子も多く、和実・若葉・悠子など、着付けの心得がある子が他の子の分も着付けしてあげた。
 
このカフェは飲食店営業でアルコール類も提供しないので、お店に入ってきてから「えっ、ビール無いの?」などと言う客もいたが、その分、中高生でも入店することができるので、この日はけっこう10代の男女で賑わった感じであった。
 
「やはりこの店って、表に大きく『本日のコーヒー380円・オムレツセット700円』
って料金を表示しているのがいいですよね」と若葉が言う。
「相場の分からない店には入りたくないから、こういう表示は大事だってのは、俺と神田と高畑の一致した意見」と店長。
 
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神田というのは盛岡のショコラの店長、高畑は京都のマベルの店長で、3つのメイド喫茶は、お互いに資本的な関係は無いものの、コンセプトが共通していて、システムも似通っており、コーヒー豆などは共同購入していて、和実が東京の大学に入るのに引っ越してショコラからエヴォンに移籍してきたように、引越に伴って移動したメイドさんも数人いる。
 
「でも今日はコーラL180円を貼ってたのに釣られてきた客も多い感じ」と麻衣。「コーラがよく売れてるね」と和実。
「アイスコーヒーもたくさん売れてる」とマユミ。
 
「しかし浴衣が良い雰囲気だったし、お正月には『振袖カフェ』しようかな」
と店長が言う。
「着付けがたいへんですよー。浴衣みたいに10分じゃ着れないもん」と麻衣。「私も振袖の着付けはできないや。チーフできる?」と若葉。
「できるよ。人にも着せられるし自分でも着れるし。でも1人30分掛かるから1人で全員には着せきれないよ」と和実。
「さすがに着付け師さん、何人かお願いしないといけないだろうな」
と店長も言っている。
 
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「でも今日はみんな遅くまでありがとう」と和実はみんなをねぎらった。「その代わり明日はお休みですからね」と麻衣。
「何か最近日曜日は仕事するのが普通になってたから、休みと言われて何をすればいいのか分からないなあ」と若葉。
「完璧に仕事人間になってるね」と和実は笑って言った。
 
「いっそ、みんなでどこか遊びに行かない?」と瑞恵。
「あ、プール行きましょうよ」とマユミ。
「ああ、いいかもね」
「私、むしろ温泉につかってのんびりしたいなあ」と秋菜。
「あ、じゃ両方あるところに行けばいいじゃん」
「そんな所あったっけ?」
「こないだオープンした東京アクアパークだと両方あるよ。1階がプールで、地下が温泉」と麻衣。
「じゃ、そこ行こう!」
 
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「チーフは明日はボランティア?」と麻衣。
「ううん。明日は休みの予定」と和実。
「じゃ、一緒に行きましょうよ」
「いいよ」
「あ、私、チーフがお風呂入るところ見たい」とマユミ。
「なんか、ほとんど痴漢発言!」と麻衣が呆れたように言った。
 

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