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■トワイライト・魂を継ぐもの(3)

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8月中旬、この時期は大学のキャンパスも人がまばらだが、お昼くらいになると学食に御飯だけ食べに来る学生もいて、食堂は比較的人がいる。
 
お盆も終わった17日。和実が図書館に出て来たついでにカフェテリアに寄り、ランチボールを食べていたら肩をトントンとされた。
 
「ああ、梓、お帰り」
「同窓会来てなかったよね。今年は帰省しなかったの?」
それは高校の同級生で現在同じキャンパスで学んでいる梓であった。
 
「うん、3月に勘当されたからね」
「ああ、あの話か。半年もたてば、そろそろ期限切れじゃない?向こうもきっと忘れてるよ」
「だといいけどね。おうちどうだった?」
 
「ようやく震災の後片付けも落ち着いたかなって感じかな。家のあちこち直してお金もたくさん掛かってるみたいだから、見かねてとりあえず手持ち10万円置いて来たけど、授業料払えなかったらどうしよう」
「梓になら貸しておくよ」
 
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「うん。ほんとに借りるかも。ところで同窓会で成人式の話が出てさ。和実は何着るんだろうって話題で盛り上がったのよ」
「へー」
「やっぱり振袖だよね〜、ということでみんなの意見は一致したんだけど、まさか背広にネクタイして出てかないよね?」
 
「まさか! 今年のお正月に盛岡に帰省した時、お母ちゃんと一緒に見に行って注文したんだよね」
「わあ、偉い! あ、そうか。お母さんにはカムアウトしてたんだもんね」
「うん。ところがさ、その注文した呉服屋さんが震災で潰れてしまったという」
「ありゃぁ! って実は私もなのよ」
 
「あああ。こちらは最初はお店は壊れて店内在庫品はやられたけど、工房は金沢にあるので制作中の服は大丈夫です、と言っていたから、なら問題無いかなと思っていたら、先月、会社自体が潰れてしまったのよね」
「ああ。こちらは震災直後に御免なさいだったけどね」
 
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「梓はそしたら振袖どうすんの?」
「あらためて頼もうかと思ってたんだけど、震災の関係であれこれお金が必要になって、ちょっと余裕無いんだよね。結局レンタルにしようかなと迷ってて」
「梓は盛岡か東京か、どちらかだけ出るの?」
 
「そう。その問題があるのよね。盛岡で日曜日に成人式、東京で翌月曜日の成人の日に成人式だけど、両方出たいのよね。盛岡往復して2つ成人式に出て写真も撮ったりしてたら3泊4日欲しいから、レンタル料金で結局安いのが買えるんじゃないかという気がする」
 
「プリンタ染めのだと凄く安いもんね。でもそもそもレンタルの振袖はプリンタ多いよね。私も普段着の振袖はプリンタ染めとかヤフオクで落とした中古とか」
 
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「そういえば和実、元々振袖何着か持ってたね。ねえ、良かったら1着貸してくれない?」
「いいけど、成人式に使えるようなのは無いよ」
「取り敢えず一度見せて〜」
 

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そういう訳で和実は梓を連れて自宅に戻った。今日は淳も胡桃も出勤していて誰もいなかった。
 
「そういえばここに引っ越してきてから初めてだったね」と和実は言う。「短期間で引越を重ねたね」と梓。
 
「そうなのよね。震災の後、PTSDでひとりで寝られない状態になっちゃって。恋人のうちに転がり込んだんだけど、そこに東京に出て来た姉貴も同居して。しばらく2DKに3人同居状態が続いてたんだけど、さすがに狭かったのよね。それで、一時期荷物置き場と化していた私のアパートもボランティアのほうも落ち着いてきたから6月で解約して、3人でこの3LDKを借りて、引っ越して来たんだよね」
 
「3部屋あったら3人でひとつずつ?」と梓。
「ううん。1部屋をクローゼット兼書庫として使って、1部屋は姉貴、1部屋は私と恋人が使ってる。LDKが共用空間」
「ああ、なるほど。で、その恋人というのも和実と同類なのね」
「うん。お互いMTF同士でレスビアンなのよね」
「そのあたりが私の理解の範囲を超えてる付近だな」
「ふふ」
 
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「振袖の普段着はこのあたりに入ってるんだけどね。リビングに持ってって広げようか」
「うん」
 
和実は梓と一緒に和服の入っている桐の箱を3つかかえてリビングに持って行った。
 
「私のと姉貴のが混ざってるけど、姉貴も貸してくれると思うよ」
「わあ、たくさんある」
「とりあえず出して並べてみるか」
 
和実は押し入れからブルーシートを出して来て広げると、その上に振袖を並べていった。
 
「おお、壮観。まるで呉服屋さんの展示即売会みたい」と梓。
「なんかいいの、あるかな?」
「どれもきれいだなあ・・・・」
「プリンタ染めと型押しと手染め、区別付く?」
「うーんとね。これと、これと、これと、これがプリンタ染め」
「正解」
「単独で見せられたら少し悩むと思うけど、並んでたらさすがに分かるよ。でも、これ今年のお正月に着てたやつだよね。自分で縫ったっていって」
 
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「うん。去年和裁を習いに行ってたから挑戦した。でもその後、全然和裁してないや」
「だって今年は和実、ボランティアで忙しいもん」
 
「型押しと手染めの区別は分かる?」
「うーん。。。。。。よく分からない。でもこの振袖、わりと好きかな」
 
「梓、良い目してるじゃん。この中で唯一の手染めだよ」
「高級品?」
「そうでもないよ。ゴム糸目だからね。元の値段もたぶん60万くらいだったと思うな。それにかなり着倒してあるし。残りの振袖は、みんな型押し。型押しといっても小紋の型押しとは違って、糸目だけ型押しして絵は手で描いてるから、これも手染めと称して売ってる店もあるけど、私としては手染めと認めたくない」
 
「わあ、この手染めの振袖、借りていい?」
「いいよ。ただ、けっこう汚れもついてるから、年末に間に合うように洗い張りに出しとくよ。これ6月にヤフオクで落として、すぐ洗い張りに出すつもりだったんだけど、以前何度か頼んだところが何だか忙しいらしくて。9月になってからまた訊いてみる」
 
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「ありがとう。東京の成人式はこれを借りて出て、盛岡の方はお母ちゃんに頼んでレンタルしてもらおう。たぶん、お母ちゃんの方がこういうの選びたいだろうし」
「成人式って半分は親のためのイベントだよね」
「うんうん。特に娘の場合はね。で、和実は自分の成人式の振袖どうするの?」
 
「うーん。それなんだよね。1月にお母ちゃんと一緒に選んだのがダメになっちゃったからなあ。こちらでひとりで買ってもいいんだけど、梓も言うように半分は親のためのイベントだもんね。でもまだお父ちゃんの勘当宣言のほとぼり冷めてない気がするのよね」
「だったら、お母ちゃんに東京に出て来てもらって、一緒に選んだら?」
「あ、そうか!ナイス、梓」
 
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27日にも花火大会があったので、和実たちのメイドカフェはまた浴衣カフェにしたのだが、この花火大会に合わせて和実の母が上京してきた。
 
和実はその日カフェの方で忙しいので、花火大会自体は胡桃とふたりで見に行った。その後、適当に御飯を食べから和実たちのマンションに戻ったようである。和実はカフェの営業時刻の0時までお店にいて、みんなが脱いだ浴衣をたたんでまとめ、1時すぎに帰宅した。当然母たちは寝ていた。この日淳は休日出勤で夜2時くらいまで仕事して3時近くに帰宅した。和実は寝ていたが、淳が戻って来たのに気付いて起きだし、一緒に夜食を食べてから寝た。
 
翌朝、和実が朝御飯の準備をしていたら、母が起きてきた。
 
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「おはよう、お母ちゃん。花火どうだった?」
「凄いね。盛岡の花火大会だって結構なものと思ってたけど、こちらは凄い華やか。観客の人数も違うし」
「東京は人が多いからね」
 
「・・・でも、お前すっかり女の子が板に付いたね」
「私、女の子だもん」
 
そんなことを言っているうちに淳が起きてくる。今日も休日出勤なので男装である。
 
「おはようございます。御挨拶にもお伺いしてなくて済みません。和実さんの恋人で月山淳平と申します」
「いえいえ、こちらこそ色々お世話になっているようで。震災の時も食料を持って行ったり、盛岡まで和実と胡桃を連れてきたりしてくれたそうで」
「その食料持って来てくれたのが、ボランティア活動の発端になったんだよね」
 
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「その活動のことが新聞にも載ってたから父ちゃんに見せたよ。『ふん』とか言ってたけど、そのあと『偉い奴っちゃな』と言ってたよ」
 
そのうち胡桃も起きてきて朝御飯となった。
 
「そういう訳で、私としてはこのふたりの仲を認めてるし、将来結婚したいと言ってるから、それも認めてあげてるから」と胡桃は言った。
 
「あんたたち、そこまで話が進んでるの?」と母は驚いた様子である。
「でも、淳平さん、この子の性別がこんなんだというのは承知の上なんですよね?」
と心配そうに淳平に尋ねる。
 
「ええ、もちろんです。私も同類ですから」と淳平は答えるが、「え?そうなの!?」と母はそこまでは聞いていなかったようである。
「淳ちゃんもふだんは女の人の格好してるのよ。だからよく女3人で一緒に出かけたりするよ。でも今日は会社に行くから男の人の格好」と胡桃。
「淳は会社に行く時だけ男装なんだよ」と和実。
 
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「いや、お恥ずかしい」と淳は照れている。
「淳は私と会う前から時々女装していたけど、今みたいに頻繁じゃなかったみたいね。私の影響で、女装率が凄く高くなっちゃったみたい」と和実。
「今、私と一緒に病院に性同一性障害の診断にも行ってるんだよ」
「そうだったの・・・」
 
「お互い似た立場だから理解もしあえるみたいね、このふたり」と胡桃は言う。「それは、ある意味、とってもいいパートナーかもね」と母も言った。
「このふたり、凄く仲がいいんだよね。でもお互い、男性は恋愛対象外なんだって」と胡桃。
「へー」
「お互い、相手を女性と認識しているから、この愛は成り立ってるらしい」
和実は微笑んでいる。
 
「たしかに和実が男の子の恋人作ったことはなかったかもね」と母は言った。
「女の子の恋人を作ったのも見たことないけどね。女の子とは友だちになってたもん、和実って」と胡桃は付け加えた。
「確かに!」と母。
 
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「和実さんはしばしば友人などには自分の恋愛対象は男性って言っているんですが、それは女の子の友人たちから変に意識されたりしないための防御壁で実際には女の子の方が好きなんだそうです。ただ男性との恋愛経験もあるにはあるらしいですよ」と淳が言った。
和実は何も言わずに微笑んでいた。
 

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淳が会社に出て行った後、胡桃・母・和実は、和実の手作りクッキーをつまみながらしばらくあれこれ話をした上で10時になってから出かけた。
 
電車で町に出て、目星を付けていた呉服屋さんに向かった。3人で会話しながら店に入ろうとした時、店頭のディスプレイを見ていた女の子と目が合った。
 
「梓!」
「あ、和実!」
「あら、梓ちゃん、こんにちは」と母。
「あ、お母さん、どうも御無沙汰してまして」
「御無沙汰もなにも、そもそも和実がうちに戻って来ないんだもん。梓ちゃんも振袖見に来たの?」
「いえ、近くまで来ただけなんですけど、ちょっと店頭の品に目が留まって」
「じゃ、梓ちゃんも一緒に見ましょうよ」
「あ、はい・・・」
 
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梓は少し迷っていたようだが、和実が傍に寄って手を握ると、笑顔になって一緒に店内に入った。
 
取り敢えず「見るだけ」といって、色々な生地を見せてもらった。パソコンを使った「填め込み写真」で、着た時の雰囲気が分かるようになっていたので、和実と梓の写真を撮ってもらい、各々いろいろな柄の振袖をモニターの中で着せてもらい、感じをチェックした。何枚か気に入ったものをプリントアウトしてもらう。
 
いったん検討してみますと言って店を出て、4人で近くのカフェに入った。
 

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