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男の娘宣言(7)

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「え〜?嘘だろ」
と父がニュースを見ていて言うので
 
「何があったの?」
と母が訊く。
 
「皇太子殿下が性転換して女性になるらしい」
「嘘!?」
 
「殿下は物心ついたころから、自分は女の子だと思っていたらしい。でも、お立場上、そんなこと言えなくて、ずっと男らしくふるまっていたんだって。でも国王陛下がお年で、このままだと数年以内に退位なさる可能性が出て来たから、その場合に自分がこのまま王位を継ぐのはよくないと思って、性転換手術を受けることを決めたということ。本当は2年くらい前に女性になることを決めて、プライベートではずっと女の服を着て、実は女性ホルモンも飲んでいたらしい。睾丸も取りたかったけと、皇太子という立場では取ることもできなかったと」
 
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「大変だね。そういう立場の人も」
 
「それでやっと国王陛下、王室会議、内閣の承認も得られたので性転換することになったんだって」
 
「王位の継承権は?」
「無くなる。だから弟のルミナス王子殿下が皇太子になる」
「へー」
「皇太子は性転換手術を終えたら、マルガリータ王女を名乗るそうだ」
 
「でも10年くらい前にB国でも性転換はあったね」
「うん。あれは国王の孫のヨハン王子殿下が性転換してヨハナ王女殿下になられた。B国は男女ともに王位継承権があるから、継承権の順序も変わらなかったけどね」
 
「性転換した人が国王になった例とかあるんだっけ?」
「最近ではあまり無いけど、古代のローマ帝国ではヘリオガバルスという皇帝が在位中に性転換手術を受けて女帝になった例がある」
 
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「そんな昔から性転換手術ってあったんだ?」
「当時は子供を産めるようにはならず形だけ女の形にしたんだろうけどね。多分、陰茎を切断して、睾丸を除去した上で、陰嚢の中心部を縫って陰唇に見えるようにしたんだろうと思う。多分膣までは作ることはできなかったと思う。膣まで作れるようになったのは恐らく中世電算時代」
 
「性転換が一般化した時代だよね」
「そうそう。当時は世界中で毎年1万人くらい性転換手術を受けていたというから」
「今の時代に比べたら随分少ないね」
「今はだいたい毎年1億人が性転換するというからね」
「もう少し多いかも」
 
「それとローマ帝国の当時は麻酔が無いから、壮絶な痛みに耐える必要があったと思うよ」
 
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「辛そう」
「麻酔無しで陰茎を切断すると9割の男は気絶するらしい」
「その気絶しない1割が凄い」
「多分気を失っても、あまりの痛さに意識が戻る」
「なんて恐ろしい」
 
「だけどそれほどの痛みに耐えても女になりたかったんだろうな」
「ああ、その気持ちは分かる」
とレミは言った。
 

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12月下旬にバレロの発表会がある。
 
当日、レミが演じるクララは最初はまるで王子様のような、りりしい青色の軍服っぽい衣装(ボトムはもちろんパンツ)を着ている。
 
幕が開き、行進曲に乗せて、多数の子供たちが出てくる。みんなまだチュチュを許されていない小学5年生以下の生徒たちで、ショートパンツやキュロットを穿いている。
 
年末のパーティーが開かれており、レミが演じるクララは前半のヒロインであるセリナ姫(小学6年生の女子が演じている)と踊ったりする(パドドゥ)。
 
そこにネズミの軍隊が乱入してきて子供たは逃げて行くが、クララはセリナ姫を守りながら、猫たちを指揮してこれと戦い、撃退する。最後はセリナ姫のソロで第1幕は閉じられる。
 
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第2幕ではネコのクリサベラに案内されてクララは森の中を進んでいく(パノラマ)。多数の動物たちと行き交う。やがて森の奥に置かれたベッドの上にクララは寝せられ、白衣を着けたネコのお医者さんが出て来て、「君は頑張ったから、ご褒美に女の子にしてあげるよ」と言って、手術を始める。手術中は三匹の猫のワルツが演じられる(中学1年女子3人が踊る)。
 
三匹の猫たちで視界が遮られている間にクララを演じるレミは王子様っぽい衣装を脱いでドレスに着替える。医者がナッツを2個と角笛を1本放り投げる(たぶん除去した睾丸とおちんちんを投げ捨てるという意味か?)。更に半球2個と小さなツボを助手役の猫(ナッツ売り)から受けとる(おっぱいと子宮の意味か?)。
 
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クララはクリサベラに手を握られてベッドから起きあがり、「キャー!ぼく女の子になっちゃった」と言い、ドレスの衣装を観客に披露する。この着替えを目立たないように1分以内でおこなうのが大変な所である。
 
第2幕のラストは多数の女の子猫たちをバックにクララが可愛く女の子らしい踊りを見せる。第1幕の男らしい踊りと、この第2幕の可愛い踊りの両方を1人で踊るのが、クララ役の大変な所である。
 
第3幕では手術の助手を務めていたナッツ売りの猫に手を引かれてクララはお菓子の国にやってくる。お菓子の国の女王(中学6年女子のマドラちゃんが演じている)から歓迎され、女王と(女の子になった)クララのデュエットが踊られる。
 
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(通常バレロでは、男女2人の踊りをパドドゥ(Pas de deux)と言い、同性2人の踊りはデュエット(duet)と呼ばれる。クララが女の子になってしまったので、この踊りはパドドゥではなくデュエットである)
 
2人の優美な踊りが見物である。その後、多数のお菓子たちや飲み物たちの踊りが続き、クララは何度かお菓子たちの踊りに加わる。クライマックスで女王がソロを踊った後で、最後は全員が踊る『花のワルツ』でパーティーはお開きになる。
 
クララは実は第3幕では女王とのデュエット以外では余り目立たない!しかしこの物語ではプリマであるはずの女王は第3幕にしか登場しない。それで第1幕のセリエ姫を女王と同じ人(プリマ)が踊る演出もあるのたが、レミたちのバレロ教室の演目では採用しなかった。
 
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「今日の発表会をイリーナ・ヨハネジーンが見ていたんだよ」
とバレロ教室の先生から聞いてレミはびっくりした。J国で最高のプリマと呼ばれている人である。
 
「クララ役やった子、すごくいいねと褒めてた」
「わあ、嬉しい」
「男の子だと聞いたらがっかりしてた」
「えーっと」
 
確かにクララ役は女の子が踊る場合もあるのである。実際問題として小学生男子でバレロの技術が高い子は少ないので、男役なのだけど女の子が踊るというのは、他の男役でも時々あることである。
 
「もし、女の子に性別移行するなら、ぜひ国立バレロ学校に入って欲しいと言ってたけど、あんた女の子になる気はない?」
 
「女の子になるつもりはないですけど、そんなこと言われたら迷っちゃう」
とレミは言った。
 
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国立バレロ学校は1学年の定員が20名という狭き門である。入学者は原則として、この学校の教員か、全国の有力バレロ教室の校長が推薦した女子に限られる(男子の生徒はいない)。基本的には小学校を卒業したあと入学して10年間鍛えられるが、小学5-6年生は予備教育と称して、通常の小学校に在籍したまま週2回のレッスンを受けることができる。この学校を卒業すると国立バレロ団の団員になると同時に、自動的に大学卒業の資格も与えられるが、だいたい半数が途中で脱落するといわれる厳しい学校でもある。
 
「迷うくらいなら考えてみて。ちょっと手術しておちんちん取っちゃうだけじゃん」
 
先生、簡単に言ってるよぉと思ったが、そういうわけでレミはこの返事を保留してもらうことにした。
 
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12月が終わり、性交換月間も終了する。年末年始の休みを経て、1月10日から学校は再開されるが、レミはまた元通り、男の子の服を着て学校に通学した。しかしレミは男の子の服を着ることに軽い抵抗感を感じた。バレロ教室の件もあり、レミは結構自分の性別について迷うようになった。
 
家の中ならいいよね?などと自分に言い聞かせて、しばしば家の中でスカートを穿いていたが、両親も姉も何も言わなかった。妹のアスカだけは
「お兄ちゃん、最近よくスカート穿いてるね。やはり女の子になるの?」
などと言ったが、レミは微笑むだけで返事をしなかった。
 
1月は、スカートだけでなく、実はかなりの頻度で女の子用の下着も着けていた。12月も1月も2月も、母はレミを病院に連れて行き、抗男性ホルモンの注射を打たせた。レミはもうオナニーをしなくなった(無理にしようと思えばちゃんと立つのでM検は合格していた)。1月以降、母は病院に行く時
 
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「スカート穿いて、女の子用のパンティ穿きなよ」
と言い、レミも素直に従った。1月からは母の要請で接種するホルモンが変更されたようだったが、レミは特に尋ねなかった。
 
スカート姿で母と一緒に出歩いている時、何度か警官に会ったが、警官はレミを見ても何も言わなかった。一度は
 
「お嬢ちゃん、お母さんとお出かけ?」
 
などと声を掛けられ、“お嬢ちゃん”なんて言われたのは初めてだったのでドキドキした。スカートを穿いてお出かけしている時は母と一緒に女子トイレにも入った。
 
レミは青い市民登録証なので女子トイレの入口のドアを開けられないのだが、母が自分の市民登録証で入口を開け、一緒に入ったのである。
 
小便器が無く、個室ドアだけが並んでいる女子トイレは、性交換月間の時は学校で使用しているものの、レミは自分は普段でもこちらを使うべきではないかという気がした。
 
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3月上旬、病院でホルモンを打ってきた日の夕方、父はスカート姿で夕食の卓についているレミに言った。
 
「レミ、男の娘宣言しよう」
「そだね。しちゃおうかな」
とレミも同意した。
 
レミはこの時点で既に胸も微かに膨らみ始めていたし乳首も大きくなってきていた。
 
それで翌日は学校を休み、両親と一緒に市の性別審査委員会に行った。スカートを穿いて普通に女の子の格好である(女子服装許可証の初めての行使)。
 
「女の坊宣言ですか?」
「いえ、男の娘宣言です」
「君、男の子なの?」
「はい」
「女の子にしか見えないのに!」
と受付の人は驚いていた。
 
学校の成績表、性交換月間の順応評価表と既にもらっている女子服装許可証、性交性別検査のスコアなどを提示する。
 
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「成績は平均点が3年生の時、90点に88点。4年生の前期も92点ですか。成績は全然問題無いですね」
「性交性別検査のスコアも充分ですね」
と言われる。
 
性別指向検査を受けさせられたが、レミは男性度70点、女性度85点で、女性度の方が高いものの、男として生きるのにも不都合はないと言われる。こういう場合は本人の気持ち次第である。
 
「あなたは女の子になりたいですか?」
「女の子になりたいです」
とレミは答えた。
 
学校に連絡が行き、担任とクラスメイトの男女の委員長が来てくれた。クラスメイトの2人は
 
「レミちゃん、女の子らしい性格だから性別移行すればいいのにと思っていた」
と証言してくれた。担任の先生も
「最初この子を見た時、うっかり女の子と思って、君、パンツ穿くのは校則違反だよ。ちゃんとスカート穿いてねと言ったんですよ」
などと言った。
 
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最終的に11人の審査員の投票が行われる。結果は全員一致で、レミの女の子への性別移行は認可された。この時点で個人名を変更することもできるが、レミは名前は変えませんと言った。レミという名前は男でも女でも通る名前である。
 
J国では子供が性別を変えたいと言い出した場合に備えて、男女どちらでも通用する名前を子供にはつけることが多い。
 
それでレミは赤い「男の娘認定証」をもらい、青い男子としての市民登録証は没収された。(ドミナは審査委員会の審査を受けないまま、取り敢えず届けたけ出したので「男の娘宣言受付証」を発行してもらって使用していたが、レミは宣言と同時に審査委員会の審査を受けたので受付証ではなく、最初から認定証をもらった)
 
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これ以降、レミはこの男の娘認定証があると、女子トイレ・女子更衣室・女性専用車両・女性専用衣料品店・女性専用飲食店・女性専用休憩室などに入ることができるが、男子としての市民登録証が無いので、男子トイレ・男子更衣室などには入ることができなくなる。
 

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■男の娘宣言(7)

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