[*
前頁][0
目次][#
次頁]
これが2級になると、実際の男性のファロスを使い、刺激を与えて5分以内に射精させること、医療用メスで30秒以内に切断し、5分以内に縫合することが求められる。2級以降を取得する時は、ファロスを持つ男性を自分で調達する必要があり、一般には兄弟や父親などがその被験体となってあげる。私の場合、サザンバード島で2級以上の試験を受ける時は、島に居る男性の奉仕者に頼んで被験体になってもらっていた。ミチヒロ君にも初段を取る時にやってもらった。
1級では道具は自由になる。切断は10秒以内、縫合は3分以内と厳しくなるが、更に、ファロスに刺激を与えて射精寸前の状態にした所で切断するという、「絶頂切断」の技術が問われる。一般に会社の受付などになる場合、この絶頂切断ができなければならない。
初段になると、切口の美しさ、出血の少なさなどが問われる。切断は5秒以内、縫合は2分以内である。
二段以降は経験も問われ、二段の場合、最低1年以上、100回以上の切断・縫合の経験が無いと取得できない(サザンバード島では男性たちに私は1回1万サークルの報酬を払って切断・縫合をさせてもらっていた。お金を使いすぎて足りなくなってしまう男性は多いので、彼らはアルバイト感覚であるが、実は私の男性時代の貯金はこの報酬の支払いでほぼ無くなってしまった)。
また二段以降では切断は3秒以内、縫合は1分以内となる(この基準は三段以降も変わらない)。三段以上は切断作業や縫合作業の芸術性、男性に実際に与える痛みの少なさ、パフォーマンス性なども問われるので、実に様々な道具を使う人たちが出てくる。
それでもミツコが使っていた斧などというのは、やはりレアな部類である。というか、ミツコ以外に斧を使う女性を私は知らない。
私の場合は元々男性であったことから、やはり与える痛みのできるだけ少ない道具ということでレーザーカッターを選択した。しかしレーザーカッターは痛みは少ないものの、男性に与える恐怖心はけっこう大きいようである。
さて私がサザンバード島から戻ってから1年が経過した。私は普段の日はサイドヌードルのお店に勤め、お店が休みの日には準娼婦として男とセックスしてお金をもらうという生活を続けていた。そんな私も40歳に手が届く年齢になってしまった。
お店の同僚から「結婚はしないの?」などと訊かれることもあるが、結婚するためには相手に性別を変更していることを告知する必要があるし、告知すればたいていの男性が結婚に二の足を踏むことは想像に難くなかったので、私は結婚というものは諦めていた。私が元男性であったことは、同僚や店長などにも話していない。
そんなある日、私はカフェでコーヒーを飲んでいて、ふと向こう側のテーブルにいる女性と目が合ってしまった。
あ・・・・
とと思った次の瞬間、彼女はこちらのテーブルにやってきた。
「ね、ね、もしかしてハルキじゃないよね?」
「あはは・・・」
「やっぱりハルキなんだ!」
「えへへ。久しぶり、アキコ」
それは大学生時代の恋人、アキコであった。こんな姿になっているのを昔の恋人に見られるのはちょっと恥ずかしい。
「えー!?女の子の声。それにお化粧してるし。あ、フレアースカート穿いてる。ハルキ、女の子になっちゃった?」
「うん」
「へー、ハルキにそういう趣味があるとは知らなかった」
「うーん。色々事情があって」
「でも、ハルキは女の子みたいに可愛かったもんね。こういう生き方もいいかもね」
「そうだね。だいぶ慣れちゃった」
「女の子になってから何年?」
「うーんと、6年かな」
「凄ーい。女の子がもう板に付いてて、違和感無いもん」
「今の職場では、元男だったことをカムアウトしてないよ」
「まあそれは結婚する相手以外には告知する義務は無いから、いいんじゃない?」
「うん」
「わあ、でも何だか懐かしいなあ。ね、仕事は何時まで?」
「サイドヌードルの店に勤めてて、20時に終わる。実際帰れるのは21時かな」
「じゃ、21時にどこかで待ち合わせない?私も今日はピアノのレッスンに行くから、それが終わるの20時過ぎだし」
「うん」
その日、仕事が終わってから駅前で待ち合わせる。一緒に彼女の家に行った。
「わあ、いい所に住んでるなあ」
彼女の家は一戸立てで、素敵な雰囲気だった。
「まあ、私なりに頑張ってきたしね」
「何の仕事してるの?」
「女でこんなに稼げるのは、医者か弁護士か会計士か娼婦くらいだよ」
「え?」
「そもそもそれ以外の女性は不動産所有が認められないからね。そのどれだと思う?」
「うーん・・・・アキコは理学部だったし。医者の資格を取るなら医学部、弁護士なら法学部、会計士なら経済学部、娼婦なら性学部に入り直さないといけないし・・・・どれだろう?」
「へへへ。実はどれでも無い」
「おっと」
「実は1度結婚してさ。旦那がお医者さんだったんだよ。それで離婚する時に慰謝料代わりにこの家をもらった。まあ女は不動産所有できないから名義は彼のままだけどね。永久に無償で賃貸できる契約書を書いてもらった」
「わあ、そうだったのか。大変だったね」
「うん。まあ結婚生活も悪くなかったけど、かなり浮気されたからね」
「浮気って、ファロスはアキコが管理してたんじゃないの?」
「週末はそうだけど、平日は勤務先に置いてるから。病院内の空き病室で看護婦と浮気してたのさ」
「なるほど。子供は作らなかったの?」
「うん。私との間にはできなかった。実は余所の女に生ませた子供が3人いた」
「わあ、嫌だなあ、それ」
「ね、嫌でしょ? ああ、私、ハルキと結婚しておけば良かったな。あ、でもハルキ女の子になりたかったんなら、私との結婚もできなかったか」
「うーん。私はバイだと思う」
「へー。じゃ女の子とセックスしても、特に違和感はない?」
「実はね。サザンバード島に居た」
「えー!? あそこから生きて帰って来たんだ?」
「うん。それで最初の3年間は男として女の子とセックスしまくり、その後の5年間は女に性転換してから女として男とセックスしまくり。自分としては、どちらのセックスも快適だったよ。まあ、女の身体になっちゃったから、もう男として女の子とセックスすることはできないけどね」
「ふーん。あそこで途中で性転換しちゃう人がいるというのは噂に聞いたことあったけどね。でもレスビアンならできる?」
「ああ。島の女の子の友だちと時々やってたよ。レスビアンセックスは」
「ほほお。ね。今夜私とできる?」
そう言って私を見つめたアキコの顔を見て、私はドキっとした。
「できるよ。やってみる?」
と言って、私はしっかりアキコの顔を見て答えた。
その晩、私たちは18年ぶりのセックスをした。
18年前、大学生の頃は、男女型のセックスもよくやったが、それができるのは週末くらいだったから普段の日はレスビアン型のセックスをしていた。
交替でシャワーを浴びてから、裸で彼女とベッドに入り、抱き合い睦み合った。8年間毎日のようにセックスしまくりだったけど、この1年は週に1度男とセックスするだけだった。女の子とするのは1年ぶりだけど、身体が手順を覚えていた。
「ハルコ、凄くうまい。さすがサザンバード島帰り」
「アキコが感度いいから、気持ち良くなるんだよ」
私たちは、まず正常位でトリバディズム(擦陰)をし、それから松葉の形になってお互いの身体を90度ひねった状態でお股を組み合わせて刺激しあい、最後にダブルスプーンの形で、私が後ろ側になり、アキコのクリちゃんを指で刺激して逝かせた。彼女は気持ち良さそうで、何度か大きな声まで出していた。
「私、逝ったの、18年ぶり・・・・」
「そう、良かったね」
「結婚してた頃は1度も逝けなかったんだよ」
「まあ、女性を逝かせられる男って意外に少ないから」
「ね。恋人にならない? セックスフレンドでもいいよ」
「そうだね。じゃ、セフレということで」
私たちは微笑みあってキスした。
それから私たちはしばしば夕方からのデートを楽しんだ。お互い独身という気楽さもあり、私たちのデートはしばしば深夜まで及んだし、ついついセックスに夢中になって、朝までセックスし続けている日もあった。
男女のセックスでは、射精でいったん行為が途切れるが、女同士の場合、終わりが無いのでずっとプレイが続いていき、昂揚状態もずっと継続する場合がある。サザンバード島でも私は何度かユミコとのレスビアンセックスで徹夜したことがあった。(サザンバード島では男は毎日セックスする義務があるが女は週に3回以上セックスすればいいので、男とのセックスを休んで女同士で楽しむことも可能である)
アキコとの交際が続く中、彼女は私が実家と連絡を取っていないことを気にした。
「恥ずかしいかも知れないけど、ちゃんと実家に自分の今の状態を話すべきだと思う」
と彼女は言った。
そこで私は休暇を取り、アキコにも付き添いしてもらって、10年ぶりに実家を訪問した。
突然の私の来訪に、そして「変わり果てた息子の姿」に、父も母も仰天した。
父は「女になったなんて・・・・もうお前とは縁を切る」などと言ったが、母が「女だろうと男だろうと、お前は私の子供だよ」と言ってくれた。そして「何より生きていてくれたことが嬉しい」と母は言った。何しろ私のハルキの戸籍は「死亡」になっていたから、それに気付いた時点でお葬式もしていたらしい。
私は涙した。
私が帰省した、しかも女になっていた、というのを聞いて、全国あちこちに行っていた妹や弟が緊急帰省してくれた。
「実はサザンバード島にいる間に、強制性転換させられちゃったんだよ」
と私が説明すると、みんな納得してくれた。
「あそこでは、女みたいな男は女に性転換させられるし、男らしい男は兵隊にされると聞いたことがある」
と一番下の弟が言う。
「うん。それ事実。でもその事、あまりしゃべったら駄目だよ」
サザンバード島からの帰還率が低いのはみんな知っているので、女になっても帰って来れただけで偉いなどと妹などは言った。弟たちはどちらかというと面白がっている感じだった。
「でもお前、それじゃアキコさんとの関係は?」
「良いお友だちですよ」と私は答えたが、アキコは「恋人です」と言った。「じゃ、事実婚しちゃえば?」などと妹が言うと、アキコは「あ、それもいいね」
などと言った。
「その時は結婚式あげなよ。ふたりともウェディングドレスでいいじゃん」
「あ、いいね。結婚式挙げちゃおうか?」とアキコ。
「えー!?」と私は言ったが、それも悪くないかなという気もした。
そういう訳で、私はアキコと交際を再開してから1年後、私の40歳の誕生日に結婚式を挙げた。初婚になる私は純白のウェディングドレス、2度目の結婚になるアキコはピンクのウェディングドレスを着た。職場の同僚も式に出席して祝福してくれた。アキコの両親は元々私のことを昔から気に入ってくれていたので、女になってしまっても結婚は認めてあげると言ってくれて、うちの両親とともに結婚式に出席してくれた。
「ふたりの関係ではどちらが奥さんなの?」
「あ、それは間違いなく、ハルコが奥さん」とアキコが明言した。
実際、家庭内の掃除とか料理とかは私がすることが多かったし、セックスでもどちらかというと、アキコがリードしていることが多かった。私のセックスはわりと受け身で、相手にさせたいようにさせてあげるのだ。
私が特別奉仕生に選ばれたのも、男性時代のセックスにそういう雰囲気があったからではないかとミズホさんに言われたこともあった。
私たちは結婚式を挙げた後、市役所に「ドメスティックパートナー」の届けを出した。これを出しておけば、結婚した夫婦とは認められないものの、様々な法的な扱いが、夫婦に準じたものとして扱われる。取り敢えず所得税が安くなるし(独身だと給料12万の内6万が税金で取られるが、夫婦だとふたりあわせて30万の給料をもらっている場合、税金は10万で済む)、男女の夫婦と同様に共同で養子・里子を取ることができるようになる。無論遺産相続権も発生する。
家はもちろんアキコの家で暮らすことにし、私は安アパートを引き払った。私はサイドヌードルのお店はそのまま働き続けたが、準娼婦の方は廃業届けを出した。「あら、続けてもいいのに」とアキコは言ったが、私としてはアキコと結婚したのに、娼婦の仕事をすることには罪悪感を感じたのである。幸いにも私の給料とアキコの給料を合わせれば(結婚で税金が安くなることもあり)、何とか生活には困らない金額になった。ふたりとも少食なので、食事代もあまり掛からないし、ふたりとも服にはあまりお金を掛けない主義で、いつも安い服を着ていたし、室内着は私が自分でふたり分縫っていた。縫製技術もサザンバード島で「女性のたしなみ」として教育されたものである。
[*
前頁][0
目次][#
次頁]
■ファロスよさらば-Farewell to Phallus(7)