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■ファロスよさらば-Farewell to Phallus(3)

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実家から戻ってから会社に報告すると、社長が嘆いた。
 
「君ほどの優秀な営業マンを失うのは我が社にとって大きな損失だ」
と社長は言った。
 
その他得意先などにも挨拶をしてまわり、会社では壮行会もしてくれた。
 
最後にミツコが「生きて帰ってくる人もいるから、希望を捨てないでね」
と言って、僕にファロスの保管容器を渡してくれた。退職金はそれまで貯めていた貯金と合わせて全額郷里の母の口座に送金した。
 
そして僕は赤紙が来てから1ヶ月後、サザンバード島に行く飛行機に乗った。母と妹が田舎から出てきてウィングフィルド空港まで見送りに来てくれた。僕は妹とキスしてから搭乗口を通った。乗客はみんな20〜30歳くらいの男ばかりだ。この飛行機に乗っている人のほとんどが僕と同じ所に行く男たちだろう。しかし僕みたいに30歳になってから赤紙をもらう人はまだ良いが、20歳そこらで行く人はちょっと可哀想。人生これからだっていうのに。
 
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案の定、飛行機を降りた人はみんな一様に荷物ひとつを持ってこの島にある生殖センターの門をくぐった。
 

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「生殖センターへようこそ」
と少し太った体形の40代くらいかなという感じの女性所長は笑顔で僕らを迎えた。
 
「ご存じのように現代社会では生殖行為をする人はひじょうに少なくなり、20代の結婚率はだいたいどこの国でも3割以下になっており、わが国でも国民の60%が独身のまま一生を送ると言われています。生殖センターはそれによって不足する次世代人口を補うためにあります。みなさんはここでその貴重なお仕事をしてもらいます」
 
そうなのだ。現代では結婚した夫婦から生まれる子供は少ない。僕は両親の生殖行為によって生まれたが、小中学校・高校のクラスメイトでは生殖センター生まれの子が7割ほどであった。生殖センターで生まれた子供は3歳になった時点で子供を育てる意志のある夫婦や40代の独身女性に引き渡される。実際僕と妹は両親の生殖で生まれたものの、下の3人の弟は生殖センター生まれである。
 
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40歳を超えた女性は結婚できる確率が低くなるので、生殖センター生まれの子供を引き取り育てることを選択する人も多い。何しろそういう子を引き取って育てる場合、毎月20万の子育て資金が支給されるので、働かなくてもやっていけるという事情もある。どこの国でも女性の賃金は低く、我が国の場合、ふつうの仕事に就いている女性は20代で税込み12万くらい、税引後の金額で5〜6万、40歳くらいになっても手取り7〜8万くらいしか無いのが普通であり、子育て資金は魅力的なのである。しかも子供が20歳になるまで、家族全員医療費はタダになる。
 
結婚している夫婦でも概して年齢とともに生殖行為をあまりしなくなる。生殖行為をするにはその度にファロスを縫合接続し、行為後は切断しなければならないので切断の痛みを嫌がってファロスを使用した性行為はしないカップルも多い。世の中のカップルの多くはファロスを使わずにレスビアンセックスをしている。
 
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そういう訳で、しばしばうちと同じように兄弟の下の方は生殖センター生まれという家庭も多いのである。
 
女性所長の説明は続く。
 
「このセンターではみなさんは3年間の生殖奉仕をして頂きます。ここにいる間は、毎日女性とセックスをして頂きます。センターにはたくさんのボランティア女性が滞在しており、声を掛ければよほどの問題が無い限りセックスに応じてくれます。むろん風邪などを引いて体調が悪い時は休むこともできますが、必ず届けを出してください。3日以上無断で休んだ場合、聴聞に掛けられます」
 
何人かから質問が出る。
 
「あのお、相手は本物の女性なのでしょうか? 噂ではブースの中に入れられて、機械で精液を搾り取られるとか、女性がいるように見えるけど実はCGだとかも聞いたのですが」
 
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「根も葉もない噂ですね。ここで働いているのはみんな実体を持った女性です。ただし女性には生活費が支給されていないので、みなさんが洋服を買ってあげたり御飯を食べさせてあげたりしてください。デートで楽しく過ごした後、その女性の家でセックスになります。なお、みなさんには毎月30万サークルの生活資金が支給されますので、それでやりくりしてください。みなさんには住宅は提供されないので万一女性をゲットできなかった場合、ゲットしてもセックスに至る前に喧嘩別れしてしまった場合は、野宿するハメになります。なお、この島の夜の気温は夏は10度くらいですが冬は零下になりますのでご注意を」
 
「あのお、本当に3年で帰られるのでしょうか。噂ではここに来たら一生出られないとも聞くのですが。実際ここから帰って来た人って、めったに聞かないんですよね」
 
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「もちろん帰られますし、帰る人はたくさんいますよ。ただ、ここが気に入った場合、生殖奉仕を男性能力がある限り続けることも可能なので、ここに住み着いてしまう人もいることは確かです。現在、サザンバード島には約10万人の男性が滞在していますが、その中の半数は生殖奉仕の義務期間が終了した後、延長滞在している人たちです」
 
「その人たちは帰りたいと思ったら帰られるんでしょうか?」
「もちろんいつでも退所できます。毎月30万サークルの支給があるので節約して生活すると年間100万サークルくらいの貯金が出来ます。10年奉仕を続けると1000万サークルくらいの貯金を持つ人も結構居ますので、本土に戻ってからも、すぐに就職せず新たに資格を取ったり職業訓練をしたりする間の生活資金にすることもできます」
 
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毎日セックスしていれば月30万もらえるのだったら、確かにここに居着いてしまう人もあるのかも知れない。しかもここにいる限りはファロスを切断する必要は無い。ずっと付けたまま過ごせるのだから、確かにここの生活にハマってしまう人も多いのだろう。
 
他にも様々な説明や質疑応答があった後、僕らは順番に名前を呼ばれてはファロスの接合をしてもらい、この島内で穿くことになるズボンを支給された。この島内ではスカートを穿けるのは女性だけ。男性はズボンになる。
 
その後DNA登録をする。このDNA登録がID代わりであり、DNA認識で支給金をもらうことになる。僕は早速ATMで取り敢えず5万引きだした。残高25万と表示される。僕は優秀な営業マンだったので、これまで毎月50万くらいの給料をもらっていた。30万でやりくりするのだから節約モードで行かなければならない。しかもその30万の中で、女性に御飯を食べさせ、服なども買ってあげなければならないのだ。
 
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早速町に出かける。
 
凄い! ちゃんと女性がいる!
 
僕はバス停の所にいたツインテールの凄く可愛い女性に声を掛けた。
 
「あのぉ、僕とデートしてもらえないでしょうか?」
「あ、ごめんなさい。私もう今日は相手が決まっていて。彼、今トイレに行ってるのを待っているんです」
「あ、そうでしたか、ごめんなさい」
「いえいえ。またの機会に」
「ええ、またの機会にお願いします」
 
このセンターでデートに誘って断られる最大の理由は先約だという話は聞いていたが、確かにそのようである。僕は町のあちこちで女性に声を掛けたもののみんな今夜の相手が既に決まっていた。10万人も男がいるのなら、美女は早々に予約が入ってしまうのだろう。ただ女性も15万人くらいいるはずだから、諦めずに探せばきっと見つかる筈だ。ここに来て早々に野宿はしたくない。
 
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しかし20人くらいに声を掛けてもみんな予約済みでなかなか相手が見つからなかった。他の町に行ってみるか?
 
この島は総面積が62万平方kmあり、約30の町がある。僕が今いるのは入所案内所のあるイストキャピタルという町だが、ゴッドフィルドという町も文化的で良い雰囲気だと聞いていたので、そちらに電車で移動する。電車は毎日よく使いそうなので定期券を買うことにした。定期券は1ヶ月5000サークルする。早速の出費だ。でもこれ必要経費だよなあ。
 
なお駅員も電車の運転手さんもみんな女性ばかりだ。この島では働いているのは全て女性である。男性は働かなくてもセックスさえしていればいい。逆にそういう生活をしていたら、もう仕事をして生活費を稼ぐ生活には戻れなくなるかもな。そんな気もした。なお、駅員さんなど、働いている女性もデートOKだがデートをするのは仕事が終わった後、夕方以降になるらしい。彼女たちが勤務を終える時刻を見計らって、プレゼントを用意して会社の門の外で待つ男性たちがたくさんいるともいう。
 
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そういう働く女性をターゲットにするのは概してこの島に来て2年以上たった男性ともいう。最初の内は昼間からたっぷりデートができる無職の女性を狙うのだが、その内、デートの時間は短時間しか取れなくても、りりしい顔で電車を動かす女性、華麗にタイピングをしている女性、指先でくるくるとピザ生地を回して作る女性、などといったものに関心が移っていくのだともいう。実際職業訓練のためにこの島に来る女性も多いという。ここではセックスさえしていれば、食うには困らない。
 
やがてゴッドフィルドに着く。駅を出ると美事に本屋さんばかりだ。ここは本屋さんの町なのである。しかもそのほとんどが古本屋さんである。過去50年間くらいに出版された本のほとんどがこの古書店街で見つかるという説もある。
 
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僕は手近な本屋さんに入り、面白そうな本を手に取ってつい読み始めた。面白い!それは5000年くらい前の古代SF作家の本であったが、短編ばかりなのだけど各々に皮肉とユーモアが織り込まれていて、とても楽しい本だ。ぐいぐいその世界に引き込まれていった。5000年も昔にこういう素敵な作品を書いた人がいたというのも凄い。著者を見るとアリツネ・トヨダと書かれている。今は亡きジャポン国の作家だ。5000年前のジャポンというのは凄く栄えた国だとは聞いたことがある。しかしその国がどこにあったのかはずっと論争がされているものの定説が無い。今に伝わるジャポン刀とか、ワジマー漆器とかアリッタ磁器とかも、古代ジャポンで発明されたものらしい。その頃のジャポンにはコンビュータもあったという説もあるが、さすがに眉唾であろう。
 
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「そういえば、このサザンバード島が昔のジャポンだという説もあったよな」
などと思わず呟きながらその本を棚に戻そうとした時、僕はその棚の前を通り抜けようとしていた女性とぶつかってしまった。
 
「あ、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそごめんなさい」
 
見ると、年の頃は18歳くらいだろうか? こんなに若くてこの島に来ているというのは珍しい。あるいはこの島のスタッフではなく、何かの用事で訪れた外来女性だろうか?外来女性はセックスに応じてくれない。でも僕は彼女があまりにも魅力的だったので、つい声を掛けてしまった。
 
「あの、済みません。良かったらデートしてもらえないでしょうか?」
「あ、いいですよ」
と彼女は応じてくれた。やった!初女性ゲット!! これで今夜は野宿しなくて済む。
 
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「あ、でもこの本を買ってからでいい?」
「ええ、いいですよ。あ、僕もこの本買っちゃおうかな」
 
僕たちは笑顔で見つめ合うと、一緒にレジに行った。
 
「あ、本代は僕が出すよ」
「ほんと?わあ、助かる。お小遣いあまり持ってないから」
と彼女は言う。
 
この島では女性は働いてもお給料をもらえない。あくまで男性とデートする代償で服や日用品を買ってもらったり、レストラン代を払ってもらったりするだけである。しかし全く現金が無いと不便なので、多くはデートした男性からお小遣いをもらっている。お小遣いとしてもらって良いのは1回のデートで999サークルまでと決められているので、だいたい1回500〜800サークルくらいの現金をもらう場合が多いと聞く。
 
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本を買ってから、近くの喫茶店に入り、少しおしゃべりをした。彼女はユミコと名乗った。
 
「へー。君まだ17歳なの? なんでこの島に来たの?」
「うん。学校でいじめに遭って。母親ともあまりうまく行ってなかったし。飛び出しちゃった。ここで5年くらい働いて技術を身につけてから本土に戻ってもいいかなと思って」
「だけど、ここに来たら毎日セックスしないといけないよ」
「それは別に構わないかな。セックス割と楽しいし」
「そう?それならいいけど」
 
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