広告:ボクの初体験 2 (集英社文庫―コミック版)
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■七点鐘(7)

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女性は私をホテルの奥の方の小部屋に連れて行くと
 
「ちょっと和服を着て下さいね。私が着付けしますから」
と言う。
 
「あ、はい。着物くらいいいですよ」
と私は答えたのだが・・・
 
20分後、私は自分が着ている服に戸惑う。
 
「あのぉ、これもしかして振袖ですか?」
「そうよ。着たことなかった?」
「はい、初めてです」
「あなた成人式はどうなさったの?」
「成人式ですか?出なかったなあ」
 
成人式に出たとしても男が振袖着るわけないじゃんと思う。
 
「あら、最近はそういう子、多いわよね。お化粧もしちゃうね。和装用のお化粧の仕方があるから」
 
「お化粧もするんですか?」
と私は言いながら、そういえば係長は誰か女の子が残ってないかと聞いたんだっけということに思い至る。そうか。私は女の子の代理か。だったらお化粧も仕方ないかと思ったものの、果たして自分の顔にお化粧しても女に見えるものかと私は不安を感じた。
 
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しかし私の顔に色々塗っていた女性は
「私の思った通り。あなた凄く可愛くなった。あなたって日本風の美人だから、洋服より和服の方が映えるわよ」
などと言っている。
 
あはは、そうですか?まあいいや、今日は、と私は開き直った。
 

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それで連れられていくと、私の1年先輩の女子、藤田さんと、今年入った女子でいつもメール交換している萌花が、やはり振袖を着ている。
 
「あ、アキちゃーん」
と言って萌花は手を振っている。私も手を振る。藤田さんの方は
 
「へー。ちょっと最近噂には聞いていたけど、あんたそういう服を着ると様になるね〜。会社にも普段スカート穿いて出ておいでよ」
と言った。
 
「スカートは勘弁してください」
と私は答えた。
 
「照れることないのに」
と彼女は言っている。
 
「あ、そうそう。女の子同士で苗字で呼ぶのも変だから、今日は私のことは里美ちゃんでもサッちゃんでもいいから、名前で呼んで」
 
「分かりました、里美さん」
「先輩ではあっても年齢は私の方が下なんだから里美ちゃんでいいよ」
「じゃ、里美ちゃん」
「私はあんたをアキちゃんって呼ぶね」
「ええ、いいですよ」
 
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その日のお仕事は、様々なスポーツ・芸術などで活躍する県内のシニアの人たちに贈る賞の授与ということで、うちの雑誌社がその協賛になっているということらしかった。
 
賞のプレゼンターを含む《きれい所》が6人必要で、それを主催の新聞社とうちの雑誌社で3人ずつ出す予定になっていた。ところが出る予定だった三輪さんが、腹痛を起こして辛そうだったので返したらしい。それで急遽ピンチヒッターが必要になったということであった。
 
「そんな大事な役で、男の僕の女装ってまずくないですか?」
と私は里美に尋ねたのだが
 
「アキちゃんのレベルなら全く問題無い。女にしか見えないから」
と言われた。
 
「え〜?そうですか」
 
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6人のプレゼンターと、司会者(テレビ局の女性アナウンサー:彼女は豪華な振袖を着ている)とで話し合い、誰がどの賞を渡すかを決めた。私はニャン舞と呼ばれる古典芸能の伝承者の女性に賞状と盾を贈ることになった。
 
受賞者が並んでいる。私たちは各々渡す賞状と盾を持ち立っている。最初に主催の新聞社の社長が長々とメッセージを言う。その後でやっと授与式に移る。
 
司会者が名前を呼ぶ度に一同拍手をする。呼ばれた人が出てくるのでプレゼンターもそちらに行く。プレゼンターから社長に賞状を渡し、社長が受賞者に賞状を授与する。そしてプレゼンターが盾を渡す。
 
私もそれで「ニャン舞第12代家元****さん」と言う声で社長のそばに寄り、賞状を社長に渡して授与してもらい、そのあと盾を直接本人に渡した。
 
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6人の受賞者への授与式が終わった後は、喜びの言葉などを聞くための取材もさせてもらう。これも新聞社と雑誌社で3人ずつインタビューして記事はシェアして双方で同じ日に掲載されるということであった。
 
私はそのままニャン舞を受賞した女性家元に別室で取材した。なお、里美は自分の担当の磁器制作者をインタビューしたが、萌花はまだ経験が浅いので係長と一緒にふたりでの取材になったようである。
 
「功労賞の受賞、あらためておめでとうございます」
と私は言った。
 
こちらは振袖のままなのだが、もうこうなれば開き直りだ。男だとバレたら緊急事態だったのでということを言って謝るしかない。
 
「ありがとうございます。私のようなものにこんな名誉ある賞を頂いて、本当に頂いていいのだろうかと悩むくらいですけど」
 
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「でも女性で、家元を務めておられるのは凄いと思いますよ」
「いえニャン舞は女舞なんです」
「あ、そうでしたか。済みません、門外漢で」
 
「でも物心ついた頃からずっとニャン舞をしてきて、まあ女をやってきただけの甲斐はあったかなというのも思いますし、こういう賞を頂くのは自分が報われる思いです」
 
「家元を継がれたこと自体が評価されるべきですし、家元をえっと何年間でしたっけ?」
「15歳で継承したので70年ですね」
 
「それは凄いですね。70年間家元を続けられたのは、やはりしっかり舞を磨いてこられたからだと思いますよ」
 
「でも家元は一度成れば死ぬか寝込んだりしない限り家元のままですから」
「いえいえ、家元がしっかりしていなかったら、弟子はみんないなくなってしまってその派が消滅するはすです。ですから続けられたことが間違い無く実力の証です」
 
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「そうですね〜。そうかも知れない気もしてきました」
 

「では2歳か3歳くらいから始められたのですか?」
「私自身は記憶無いんですけどね〜。1歳で舞の衣装つけて舞っているかのような写真があるから、1歳の頃からやっていたんでしょうね」
 
「それはもう物心着く前からですね。凄いですね」
 
「本当は姉が家元を継承する予定だったんですよ」
「あら、そうなんですか?」
 
「ところが私が10歳、姉が12歳の時に、母の運転する車に乗っていて事故に遭いまして」
 
「あらぁ・・・」
「それで母も姉も亡くなったのですよ。私も実は半年近く入院していました」
 
「それは大変でしたね」
 
「それで後継者をどうするかというので随分揉めたみたいですよ」
「色々と難しいんでしょうね」
 
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「ニャン舞は直系にしか継がせないことになっているんです。そして、その時点で、当時家元だった祖母の直系は私ひとりで」
 
「あらあ」
「それでおまえが継ぐしかないと言われたのですが、困ったことにニャン舞は女舞なので、当然家元も女でなければなれないのですよ」
 
「え?あなた女性ですよね?」
 
「当時は私、男の子だったんです」
「え!?」
 
「だから女になれと言われました」
「そんな無茶な」
 
「ひとつの手は私が早く結婚して子供を作り、その子が女の子であれば、その子に継がせる手がありました。しかし当時私は10歳だから、早く結婚するにも8年後。ところが当時祖母は癌を患っていて闘病中で、実際問題としてあと何年生きられるか分からないという状況だったんです」
 
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「うーん・・・・」
 
「それで私は女になることに同意しました」
 
「それってまさか性転換手術したんですか?」
「しました。手術が終わった後の自分のお股を見た時はショックでしたよ。女の子になる手術を受けることに同意したことをたっぶり後悔しました」
 
「するでしょうね」
 
「ただこの時点では形だけ女になればいいと言われて、おちんちんは切って、割れ目ちゃんを作って、お股の形は女の子になったのですが、実は当初睾丸を温存していました」
 
「それはまたどうして?」
「私の子供を作らなければならないからです」
「あぁ・・・」
 
「ですから私、おちんちんは取られたけど、何度もオナニーして精子の採取をしたんですよ」
 
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「精子が出るんですか?」
 
「実際には私が女の子になる手術を受けたのは小学4年生の7月で、その時はまだ精通が来ていなかったんです。それで男性ホルモンを投与して早く精通が来るようにして。それで年明けて1月には精子が取れるようになりました」
 
「失礼ですが、それどういう風にして採取するんですか?」
「普通の女の子のオナニーと同じですよ。栗ちゃんをもみもみしている内に気持ちよくなって、その頂点で、尿道口から精子が出てくるんです」
「へー!」
 
「それを容器で受けるんですけど、おちんちんが無いから採取は大変で」
「でしょうね」
「割れ目ちゃんの内部に溜まってしまうのをスプーンでこそぐようにして取っていました」
 
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「なるほど」
 
「それで精子を5回採取したところで、これだけあればもういいだろうということで、再手術して睾丸は取りました」
 
「なるほど」
「それと交換に実は、死んだ姉の卵巣・子宮・膣が保存されていたのをセットで移植したんです」
 
「え〜〜〜!?そんなの定着するんですか?」
「定着しました。だから私は12歳の時から生理が始まって、45歳で閉経するまでずっと生理に付き合ったんですよ」
 
「それ妊娠はできなかったんですか?」
 
「自然のセックス、人工授精とやりましたが、どうしても妊娠しませんでした。お医者さんが言うには、たとえ女性の生殖器があっても、脳が男の脳だから、それをコントロールできないのだろうということでした」
 
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「人間の身体って難しいですね」
「妊娠って子宮でしているようで、実は脳下垂体で妊娠しているんですよ」
 
「ああ、それは何となく分かります」
 

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「でも私から採取した精子があるから、それで私の又従妹にあたる女性に妊娠してもらって、娘を3人作りました。その長女が私が死んだら家元を継ぐ予定です」
 
「戸籍上はどうなっているんですか?」
「私と彼女は法的にも結婚したんです」
「え?じゃ女同士の結婚ですか?」
 
「そうです。白無垢同士の結婚式をあげましたよ。私は身体は女になったけど意識としては男だから、男と結婚しろと言われたらどうしようと思ってました。でも女性と結婚できたからホッとしました。彼女は私が女の身体だけど、男の意識だというのを理解した上でずっと連れ沿ってくれています」
 
「いい奥さんですね」
 
「はい。彼女には感謝しています。ですから、私は性別は男のまま、名前だけ女名前に変えたんですよ。もっとも当時は今みたいに戸籍上の性別を変えることはできませんでしたけどね」
 
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「確かに法的な性別を変えられるようになったのは最近ですもんね」
 
「記者さんは美人さんだけど、性転換なさってますよね。戸籍はもう修正なさったの?」
と彼女は訊いた。
 
あちゃあ、やはり男だとバレたか。しかしここは男から女に変わったということにしておいた方が無難かもと私は思った。それでこう言った。
 
「いえ、実はまだ最終的な手術が終わってないので、戸籍を変更できないんですよ。だからまだ法的には男で」
 
「あら、だったら大変でしょう? 私も名前は女、見た目も女なのに戸籍上の性別は男というので、随分苦労しましたから」
 
「昔は特に大変だったでしょうね」
 
「クレカ使っていると、旦那さんのカードですかと訊かれるし、病院でもこの診察券違いますよと言われるし、選挙に行っても、これ誰の投票券ですかとまるで不正投票でもしにきたかと疑われたり」
 
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「やはり性別が変更できるようになって、本当に良かったんですね」
「ええ。でも私は妻と離婚したくないから、性別も変えませんけどね」
「ああ、結婚していると性別を変えられないんですね」
「日本は同性婚を認めてないから」
「そのあたりも改善して欲しいですね」
 
私は彼女が男の子だったのを家元継承のために女の子になったという話は一切書かずに、姉の急死で急遽跡を継ぐことになり、姉の分までと思って必死に頑張った故に、高い芸術性のある舞の境地に達したのだろう、などといった論調の記事を書いた。
 

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