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■七点鐘(6)

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「だったら少し経過観察してみましょうと言われて。2ヶ月後に再度診察を受けたら、確かに前回の診察の時より、おちんちんが縮んでいると言われて。それで体内に入っている性腺も組織採取して検査されたんです。そしたら性腺の内部は睾丸だけど外側は卵巣だと言われて」
 
「そういうのがあるんですか」
 
「それで更に2ヶ月後に検査されたら、おちんちんが更に縮んで、性腺は睾丸部分が縮んで卵巣部分が大きくなっていると言われて」
 
「それで最終的には完全に卵巣になっちゃったんですか?」
 
「そうなんです。そもそももう2回目に検査された時にはおちんちんは1cmくらいのサイズになっていて、私もう立ってはおしっこできなくなっていたんですよね。3回目の検査の時は皮膚に埋もれてまるで付いてないかのように見えるようになっていました」
 
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「凄い」
 
「そのあとおちんちんは完全に皮膚の中に埋没してしまいましたが、その内、お股の所に縦のくぼみが出来はじめて」
 
「へー」
「そのくぼみがどんどん深くなっていくんです。そしておちんちんはそのくぼみの一番上の部分の所に沈み込んで、女の子のお豆さんのようになってしまいました」
 
「もうそこまで行ったら、完全に女の子ですね」
 
「そう言われました。ただ、その形だと、お豆さんの所からおしっこする形になって、おしっこが前に飛びすぎるんですよ。実際当時私はおしっこを便器に座ってするんだけど、腰の向きをコントロールしてちゃんとこぼれないようにするのが大変だったんです。それでこれだけは手術して、お豆さんの所ではなく普通の女の子の尿道口の位置から出るように変えてもらいました。それで随分楽になりました」
 
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「その方がいいですね」
 
「で結局私は女性半陰陽だったということになって、戸籍上の性別と名前も変更されることになって。小学3年生の春から、私は別の小学校に転校して、女の子として生活し始めたんです」
 
「大変だったでしょ?」
 

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「それまで男の子として生きていたので、女の子の生き方がなかなか分からなくて。だから友達も少なかったし、親しい友人にかなり教えてはもらったものの、空気読むのが下手だと言われてました」
 
「そのあたりは元々の性格もあったかもね」
「そんな気もするんですよ」
 
「生理はあるの?」
「他の人より遅かったですけど、中学1年の時に来ました。結構生理来るのかな、来ないのかなと不安だったんですけど、ちゃんと来たんで、やはり自分は女なんだなと再認識しましたよ」
 
「どうしてもそのあたりの性別認識は揺れるだろうね」
「実際今でも揺れてる気はするんですよね。それと実は私、恋愛対象が女の子なんですよ」
 
「それはいいと思うよ。レスビアンの女の子も多いもん」
「そのレスビアンというのを高校生の時に知って、凄く安心したんです。自分は異常じゃなかったんだと思って」
 
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「そういうの知らないと不安だよね」
 
「それでもう女の子を12年間やってきましたけど、まだ女の子として生きることに慣れてないみたいな部分があります」
 
「それはもう気にしなければいいと思うよ。世の中には男っぽい女の子だって結構いるし、そういうのは個性の範囲だよ」
 
「そうですよね」
「実際問題として、君は、男の子のままで居たかったとかは思うことあるの?」
「あ、それはないです。何か男の子って面倒くさそうだし。女の子になって良かったと思うことの方が多いです」
 
「だったら全然問題無いじゃん」
 
「生まれた時、男の子だったけど、女の子に勝手に身体が変わってしまったというのは、社長さんだけには言ったんですけど、病気なんだから全く問題無いと言われました」
 
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「僕もそう思うよ。だから気にせず頑張りなよ」
「はい、そうします」
と彼女は笑顔で言った。
 
「でも先輩も女の子になっていることカムアウトして、女子社員として勤務できるようになれたらいいですね」
 
「困ったなあ。僕、ほんとに性転換とかしてなくて男なんだけど」
 
「はいはい。そういうことにしておいてもいいですよ。他の人には話しませんから。でも実は今夜は、しまったぁ、他の女性はみんな先に帰っちゃったと思った時に、先輩に気づいて。あ、女の人同士だし、泊めてもらえないかなと思って。実は私、お金も無くて」
 
「なあんだ。お金が無いならそう言えば良かったのに。でもいいよ。僕は何もしないから。取り敢えず今日は寝よう」
 
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と言って、私は敷き布団とマットレスを1枚ずつ横に並べて敷き、その上にシーツを掛ける。そして片方には毛布と夏布団、片方にはタオルケットと冬布団を掛けた。
 
「僕の体臭が残っていて寝にくいかも知れないけど、良かったら寝て」
「ありがとうございます。お布団お借りします」
 
と言って彼女は毛布と夏布団の方に寝た。
 
「でも先輩は体臭も女の人ですよね」
「え?そうだっけ?」
 
「甘い感じの臭いがしますよ。男の人の体臭は酸っぱい感じなんですけど、女性の体臭は甘いんです。入社してすぐの頃にお茶を配っていてそれに気づいて、あれ、この先輩ってもしかして女性?と思って、それから色々観察していて、やはり女性に違いないというのを確信しました。でも男の声で話しているし。MTF,FTMどちらだろうと結構悩んでいたんですけど、立ち振る舞いとかが凄く優しいからきっとMTFだけど仮面男子しておられるんだろうなと思ったんですよ」
 
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「そう?僕体臭が女性的?」
「ええ。このお布団も女性が使っていたような匂いですよ」
「うーん。そういうこともあるのかなあ」
 
と私は頭を掻いた。
 

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その夜は結局2時頃ふたりとも寝た。朝は彼女の方が先に起きて、冷蔵庫の中のあり合わせのもので朝食を作ってくれたので、一緒に食べて、茶碗を洗ってから、一緒に出勤した。
 
「一緒に会社に入ると、変に疑われるから先に入って。僕はコーヒー買ってからオフィスに入るから」
と私が言うと
 
「女同士なんだから気にすることないのに」
と言って彼女は笑っていた。
 
彼女とも携帯のアドレスを交換し、私たちはお互い「明宏さん」「萌花ちゃん」と名前で呼び合うようになった。私たちは会社内でも結構親しくしていたのだが、私たちが恋愛関係にあるのでは、などと気を回す人はなぜか誰も出なかったようである。
 

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なお、自動車学校の方だが、仕事が忙しかったりしてなかなか教習に行けない日などもあったものの、私は4月下旬にやっと自動車学校を卒業した。ちょうどゴールデンウィークで生徒さんが増える時期の前までに卒業できて良かったと思った。卒業した翌日に運転免許センターに行き、学科試験を受けて、私はグリーンの帯の免許証を手にした。
 
しかし免許証って、性別とかは書かれていないんだな、と私はふと思った。
 
由美子は私より半月ほど早く卒業して免許証を手にしていた。彼女は原付を持っていたらしく、免許証の帯はブルーだと言っていた。私たちはその後もしばしばメールの交換をしていた。
 

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私は免許を取ったので、練習用も兼ねて中古車でも買おうと思った。それでゴールデンウィーク中に、けっこう休みが取れたこともあり、中古車屋さん巡りをした。
 
ある中古車屋さんに行った時、私は何かちょっと格好いい車に39万円という値段が書かれているのに気付いた。今貯金が70万くらいあるし、これなら買えるなと思う。それで車の後ろに回って車種名を確認すると、RX-8であった。
 
すごーい。これがあのロータリーエンジンで有名なRX-8かと思う。私は試乗してみたくなった。それで近くに居た男性スタッフに声を掛ける。
 
「すみません。この車、試乗できます?」
と私はRX-8を指さしながら言った。
 
「いいですよ」
とスタッフの男性は言い、キーを持ってくる。
 
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「免許証を拝見できますか?」
「あ、はい」
と言って見せると
 
「ああ、免許取り立て?」
「ダメですか?」
「いや、いいけど、万一壊したら補償してね」
「はい。それはちゃんとします」
 
事務所で念のためと言って、一筆書く。それでスタッフさんが初心者マークを持って、一緒に車の所に行く。そしてRX-8の隣にあったミラココアに初心者マークを貼っちゃう。
 
「いや、そちらじゃなくて、このRX-8の試乗をしたいんですけど」
と私は言ったが
「え?そちら?でもその車はMTだし、初心者の女の子には無理だよ。悪いこと言わないから、最初は軽に乗った方がいい」
 
へ?初心者の女の子??
 
私は初心者ではあるが女の子ではない。私は自分の服装が女に見えるかなと思って再度自分を見直してみたものの、女に見えるような格好とは思えない。しかしスタッフさんは、初心者マークをミラココアに貼ると、さっさと助手席に座ってしまう。
 
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仕方無いので、まあいいかと思い、私はミラココアの運転席に座った。なおこのミラココアには、19万円と書いた紙がフロントグラスに貼られていたが、その紙はスタッフさんが乗り込む前に剥がした。
 

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教習所で習ったことを思い出しながら、エンジンを掛けシートベルトをして、ブレーキを踏んだままセレクトレバーをDにする。ブレーキをゆるめてクリープで発進する。
 
しかしこのミラココアはクリープだけでは遅すぎる感じだ。私はアクセルを軽く踏みながら通路を走り、お店の外に出た。
 
「左手行きましょう」
とスタッフさんが言うので
「はい」
と言って、そちらに進路を取る。
 
「この車、視界がいいような気がします」
と私は運転しながら言った。
 
「教習所では何で練習したんですか?」
「えっと、コンフォートとか言ったかな」
「ああ。だったら、ボンネットがあるから。この車は前が無いから、そのまま視界が開けるんですよ」
「なるほどー」
 
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「それとやはりコンフォートは大きいでしょ?どうしても男性のドライバーを想定した作りになっている。ミラココアは女性のドライバーを想定しているから、あなたの身長ではこちらの方がポジション的にもよく見えるはずです」
 
「へー」
と言いながら、また女性と言われたなと思う。それに私、そんなに身長低いかなというのも考える。私は身長が171cmある。一般的な女性よりは随分視点の位置が高いはずだ。
 

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そんな会話もしながら、私はその付近を一周してお店に戻って来た。
 
「どうです。気に入りました?」
「そうですねぇ」
「この車可愛いから、若い女性には人気なんですよ」
「うーん。。。若い女性か」
「あなた何歳?」
「え?24歳ですが」
「充分若いですよ。その年齢で若くなかったら、私なんか既に化石になってる」
とその40代くらいの男性スタッフさんは言う。
 
「でもRX-8も運転してみたいけど」
「いや、その車はあなたには無理ですって。そのタイプが好きなら、こっちはどうですかね」
と言って、スタッフさんは私をアクセラの所に連れて行ってくれた。この車はCVT車のようである。
 
この車でも周辺を一周してきたが、私はCVT独特の動きに微妙な不快感を感じた。
 
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「なんか運転しづらいです」
「でしょう。やはり、ミラココアの方がお勧めですよ」
「そうだなあ」
 
「あなた美人だから19万円の所を15万円まで負けてもいいですよ」
「そんなに!?」
 
《美人》ということばには、ひっかかりを感じたものの、私は15万なら考えてもいいかと思った。それに車屋さんの言うように、最初は運転しやすい車で慣れて、それで技術があがってから、上位の車を買う手もある。15万の車なら少々ぶつけても惜しくないし。
 
「分かりました。じゃミラココアを買います」
「ありがとうございます。ではこちらで手続きを」
 

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それで私は購入手続きをし、15万円はその場で車屋さんの口座に振り込んだ。それ以外にも任意保険を勧められたが、私はその金額に驚く。
 
「そんなに高いんですか!?」
「若い内はどうしても高いんですよ。でも無事故でいれば年々安くなりますから」
 
私は最近車が若い人に売れていないという訳が分かった思いだった。こんな高額の保険を払えないじゃん!
 
名義変更手続きなどは車屋さんでしてくれて、後日車検証を郵送してくれるということであった。私はそのまま今買ったミラココアを運転してお店を出て、取り敢えず、会社の駐車場に駐めた!
 
ここは来客が多いので、自由に誰でも駐められるのである。ただ長期間駐めておいたら文句を言われそうなので、早急に自宅アパート近くに駐車場を確保しようと思った。
 
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なお、私がミラココアを買ったというのを萌花や由美子に言ったら
 
「さすが女の子らしい車を買ったね」
と言われた。どうも彼女たちには私は誤解されているようだなと私は考えた。
 

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7月上旬の金曜日。私が19時頃、仕事を終えて帰ろうとしていたら電話が掛かってくる。取ると係長からである。
 
「あ。君か。女の子誰か残ってない?」
 
私はオフィスを見回すが誰も残っていないようである。
 
「今日はもう全員帰ったようです」
「ほんと?困ったなあ。。。。そうだ。この際、君でもいいからちょっと来てくれない?」
「何か補助作業か何かですか?いいですよ。行きます。どこですか?」
 
係長は高崎駅近くのホテルに居るということであった。まだ残っている課長にひとこと言ってから私は会社を飛び出した。
 
バスに乗って駆けつけると係長が和服の女性と話している。
 
「係長、参りました」
「助かる。この人の指示に従って」
「あ、はい」
と私が言うと、女性は
 
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「あら、可愛い子ね」
と言った。
 
へ?可愛い??
 

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