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■女たちの羽衣伝説(7)

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2018年7月3日。
 
その日富山県高岡市に住む青葉は朝から物凄い頭痛にみまわれていた。これはきっとかなり良くないことの前兆だと青葉は思った。天変地異だろうか?と考えて自分の「気」のアンテナをずっと天地に広げていくものの、それらしき兆候が感じられない。
 
それで青葉はこれは自分の親しい誰かに重大な事態が起きようとしているのではないかと考え、自分の眷属の《海坊主》を彪志の所に、《笹竹》を桃香の所に、そして《雪娘》を名古屋の千里の所に派遣し、会社に出る朋子には《蜻蛉》をガードに付けた。4人からは「今の所異常は感じられない」という報告があった。
 
この4人を出してしまうと自分のガードにあまり強い子が残らないのだが(ゆう姫は自分の所に居候しているだけで、守護してくれる訳ではない)、千里がずっと巫女の力を失ったままの状態の今、自分が頑張るしかないと青葉は思っていた。菊枝さんもリハビリ明けでまだ本調子ではないようだ。万一の時に助けてくれる人は誰も居ない。
 
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いちばん霊的なパワーのある《雪娘》を千里の所にやったのも、その含みがあったのだが、それはやはり最良の選択だった。
 

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桃香はなんだか嫌な夢を見たことから、以前相談したことのある占い師さんにその夢の話を聞いてもらった。
 
すると占い師さんはタロットを引いていたが
「これはあなたの恋人に重大な危険が迫っている」
と言った。
 
彼女を守るために何か身代わりにできるようなものがないかと訊かれた桃香は自宅の冷蔵庫にずっと冷凍保存していた千里の男性器(去勢手術で取った睾丸と性転換手術で取った陰茎海綿体)を身代わりに使うことを考えた。それを占い師さんの事務所に持参し、占い師さんは祭壇にその千里の男性器を入れた容器を置き、霊的防御の祈祷をしてくれた。
 

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多紀音は何ヶ月も掛けて準備した呪法をその日実行しようとしていた。通販で取り寄せたり、オークションで落としたり、いくつかの道具は古い教会から盗んできてそろえた。
 
その呪法を実行する場所を探すのも大変だった。様々な条件がありそれに合う場所を見つけるのに半月かかった。更にこれは満月から新月に至る陰暦の後半に行わなければならない。その期間は6月28日から7月13日までの間であった。これを逃すとまた1ヶ月待たなければならない。
 
電車やバスに乗り継いでその場所まで行き、日が落ちてから周囲に人がいないことを確認して呪法を開始した。
 
その作業自体は1時間ほどで終わる。多紀音は防寒具にくるまってその場で眠った。この呪法は月が南中する午前4時頃に発動するはずだ。
 
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その夜、青葉は夢を見た。
 
青葉はしばしば夢の中で他人の夢に無断進入する癖がある(青葉が進入できないのは菊枝と桃香くらいである)。その夜の夢には千里が出てきた。つまり自分が千里の夢の中に入り込んでいるのだろう。
 
「ちー姉、何か変わったことない?」
と声を掛けようとした時、青葉は何かの小動物の群れが大量に千里のそばに行こうとしているのに気づいた。
 
青葉は臨戦態勢に入る。
 
青葉がその小動物たちに敵意のある視線を送ったことで一部の小動物たちがこちらに向かってきた。青葉はそいつらを光明真言を唱えて一気に打破した。
 
「おん あぼきゃ べいろしゃのう まかぼだら まにはんどま じんばら はらばりたや うん」
 
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青葉はそこで目が覚めた。
 
やはりちー姉が狙われている!!
 
青葉は名古屋の千里に電話しようとしたのだが、妨害されているようで電話が通じない。そこで青葉は東京の桃香に電話した。
 

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桃香は早朝、昨日頼んだ占い師さんから、こちらの防御が破られてしまった。敵は無茶苦茶強い相手だと連絡を受けた。そこに青葉からも連絡があり、千里に危険が迫っていることを知る。
 
そこで桃香は早月を友人の朱音の家に「この子頼む」と言って押しつけるようにして置くと、急いで東京駅に行き、名古屋に向かう新幹線に飛び乗った。
 

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その日千里の後ろの子たちは千里の周囲で激しい霊的な戦闘が行われるのを冷静に見守っていた。
 
名古屋から100kmほど離れたある場所で、千里に対して呪者自身の生命を犠牲(いけにえ)として捧げる強烈な呪いを掛けたのが確認できた。
 
それは最初桃香が頼んだ占い師が作った霊的な防御壁で1割くらいが跳ね返された。しかし防御壁自体も完璧に破壊された。
 
その後、青葉が介入して、3分の1くらいを消滅させた。
 
つまり千里の所に向かってきた呪いは当初呪者が放った呪いの6割程度である。
 
千里が巫女の力を回復させていたら、青葉は千里の力を使って呪いを打破できたので、その場合全部消滅させていたろうと、《きーちゃん》は考えた。しかし千里が今、力を失っているために青葉のパワーまで落ちているのである。
 
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『さて。迎え撃つか』
と《こうちゃん》がみんなに声を掛ける。
 
『一匹たりとも逃すなよ』
と《とうちゃん》が言う。
 
この呪いは多数の霊獣に分割して送り込まれてきている。1匹でも逃すと、巫女の力が無い千里はそいつにやられる可能性がある。
 
眷属たちは緊張した。千里のそばには青葉が派遣してきた《雪娘》もいるが、彼女にはこちらの12人の姿は見えない。しかし彼女も一緒に戦ってくれるだろう。
 

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ところがここで思わぬ事態が起きてしまう。
 
信次が台所に立っている千里の肩を触り
 
「何か付いているよ」
と言って、《マーカー》を外してしまったのである。
 
そしてその《マーカー》はそのまま信次に付いてしまった。
 

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『どうする?』
と《りくちゃん》が戸惑うように言う。
 
『放置』
と《こうちゃん》。
 
『でもそしたら呪いが信次君に掛かってしまう』
と《せいちゃん》は指摘する。
 
『それで構わん気がする』
と《げんちゃん》は言う。
 
『だってみんな気づいているだろ?信次君はあと10時間くらいでどっちみち死亡するよ』
と《げんちゃん》
 
『信次君は今でも瀕死の状態。それが元気に動けるのは千里のそばにいるからだよ』
 
『千里って基本的に放射型だからなあ』
『うん。千里のそばに居るとみんな活性化する』
『バスケ選手はみんな強くなる』
『貴司君が昨年夏から不調なのも千里が信次君に乗り換えてしまったからだと思う』
 
『霊感人間は霊感が発達する』
『音楽家は感性が研ぎ澄まされる』
『男の娘は女性化が進む』
 
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『本人は無自覚だけどな』
 
『まあ千里と会ってなかったら信次君は8月くらいには倒れて病院に運び込まれ年末くらいに既に死んでいたろうな』
『うん。千里がそばにいたおかげで、信次君は寿命を半年ちょっと伸ばすことができたんだよ』
『千里がそばに居て生命力が活性化されたのプラス食生活が改善されたからな』
 
『いや、そもそも信次君は癌で死ぬ前に昨年7月に電車にはねられて死んでいたはずの所を千里に助けられたんだけどね』
『そういえばそうだった』
『あの時、ふらふらとしてホームから転落したの自体、もう病気がかなり酷くなっていたからだと思う』
 
『あの病気、見つけられる医者はめったに居ないからなあ』
 
しかし《いんちゃん》などは言う。
『どっちみち死ぬかも知れないけど、千里の思い人が素人の呪いにやられて死ぬのを、私たちがそのまま見過ごすのはどうかと思う。あんたたちプライドが傷つかない?』
 
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『確かにあんな素人娘にやられるのは不愉快だな』
 
『仕方ない。助けるか』
『まあ半日寿命を延ばすだけだけどな』
 
実際《雪娘》も守る対象を信次に切り替えて臨戦態勢のままである。
 

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千里が「行ってらっしゃい」と笑顔で言い、キスをして信次を見送った。
 
どっちみち信次は帰宅するまで生きていないので、これがふたりの永久(とわ)の別れとなってしまう。それを見ていて《いんちゃん》や《すーちゃん》など女の眷属たちが一様に涙を流した。
 
そして千里の守りに《いんちゃん》を残して、他の11人は信次の後を追う。《雪娘》も信次を追おうとしたが、《きーちゃん》が彼女に声を掛けた。
 
『信次君は私たちができるだけ守るから、君は千里に付いてて』
 
《雪娘》は唐突に12人もの眷属が現れたのに驚いた。
 
『どこにおられたんです?』
『内緒』
『信次さんを助けてくれます?』
『ああ。君は気づかなかったね。信次君はどっちみちあと半日の命なんだよ。病気がきわめて深刻。でも呪いで死なせることはしないから』
 
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と《きーちゃん》は《雪娘》に言った。
 
それで結局《いんちゃん》と《雪娘》が千里の守護に残った。
 

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呪者が放った小動物たちが信次のそばまで到達したのは、信次がちょうど会社に到着し、門を通った時であった。その時、呪者自身が門の向こう、社内にいるのを見て、《りくちゃん》などは仰天する。
 
『おい、まだ更に何か術を掛けるつもりでは?』
『そこまでやられたら、さすがに手が回らん』
『貴人、あいつを見てろ。この小動物たちは他の者でやる』
『分かった』
 
眷属たちは戦うが、なにしろ数が多い。時々彼らの隙間を抜いて信次に迫る者もあるが、それは信次の傍でガードしている《すーちゃん》が倒した。
 
戦闘は5分近く掛かった。一匹一匹は大したことないものの、数が無茶苦茶多いので手間取ったのである。
 
『倒した〜』
『けっこう神経使った〜』
『これで信次君は夕方まで無事だな』
 
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と眷属たちはホッと胸をなで下ろしていた。
 
『しかし俺らが10人がかりで5分も掛けて倒したのの半分くらいの量の敵を一撃で潰した青葉はすげーな』
『いや、青葉は数を減らす目的でやってる。俺らは1匹たりとも逃す訳にはいかなかったから戦い方が限定された』
『千里のパワー自体がかなり回復してるからな』
『うん。既にふつうの霊能者程度の力はあるから。実際問題として千里自身でもあの程度の霊獣は倒せたかもしれん』
 
その間、多紀音は信次と口論になっていた。
 
多紀音が千里に何かしたようだと察した信次が多紀音を詰問したのである。多紀音は逃げ出した。それを信次が追う。
 
「あ、そこ入っちゃダメ!」
「危ない!」
「きゃー!」
 
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多紀音は上を見上げて悲鳴をあげたが、信次が彼女に飛び付くようにして向こうに押した。
 

『貴人!』
 
と言って眷属たちは「事故」の起きた現場に近寄った。
 
《きーちゃん》は泣いていた。
『ごめーん。両方は助けきれなかった』
 
多紀音をずっと見張っていたため結果的に事故発生ポイントのすぐそばに居ることになった《きーちゃん》は信次が多紀音に飛び付いた時、もうほんの数m上まで迫っている巨大な建材を見て、体勢が崩れている上に建材の真下に居る信次は助けきれないと判断した。それで信次が押して危険領域から出かけていて、一応立ったままであった多紀音の腕をグイと引っ張って助けたのである。
 
『いや、俺も突然のことで反応できなかった。すまん』
と《りくちゃん》が言う。
 
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『いや、俺たちの位置からは遠すぎた。誰も間に合わなかったよ。貴人はよくあの女だけでも助けたと思う』
とリーダーの《とうちゃん》は《きーちゃん》をかばうように言った。
 
『千里を殺そうとした張本人だけどな』
『いや千里がこの場に居て俺たちとコネクト取れてれば絶対助けろと言ったよ』
『なんか俺たちって千里の考え方にけっこう感化されてるもんなあ』
 
『本来はその女が自分の命を犠牲(いけにえ)として千里を殺そうとした。青葉や俺たちがいなかったら、どちらも死んでいた。ところが信次君がまず千里の身代わりになってターゲットを引き受けた上で、恐らく呪い返しで落ちてきた建材から女を守った。つまり信次君は自分の命を使って2人の命を救ってしまったんだ』
と《げんちゃん》が状況を解説するかのように言った。
 
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『しかし信次君が死んで千里悲しむだろうなあ』
と《てんちゃん》が言うと、みんな一様に辛い顔をした。
 
ひとり《くうちゃん》だけは目を瞑って何かを考えているようであった。
 

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女たちの羽衣伝説(7)

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