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■女たちの羽衣伝説(2)

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その日青葉は彪志とデートするために北陸新幹線に乗っていた。
 
いつもは愛車のアクアで東京まで往復するのだが、今朝からずっとパワーが奪われるような感覚が続いていて、長距離の運転をする自信が無かったのである。
 
でも誰が私のパワー使っているのかなあと考える。青葉が「鍵」を預けていて自分のパワーを自由に使える人物というのは、実質的な師である菊枝さん、お互いにライバルと意識している天津子、そして青葉が霊的な指導をしている真穂くらいである。真穂がこんなに大量に使うとは思えないので菊枝さんか天津子のどちらかだとは思うものの、どちらからも事前連絡などは無かった。
 
何かよほど緊急に本人のパワーが不足する事態があったのだろうか。
 
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青葉のパワーが過度に消費されると、青葉がパワーを借りている千里姉までパワーを消費することになる。実際千里姉からは「何かあったの?」と電話がかかってきている。
 
千里−天津子−青葉−菊枝、というのは実は直接的または間接的にパワーを融通しあえる関係にあるのである。
 
そして青葉は11:50、東京駅の新幹線ホームに到着し、新幹線改札口の所で待っていてくれた彪志と合流して、とりあえず山手線に乗り換えようと通路を歩いていた。
 

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菊枝は焦っていた。
 
まさかこんな強い相手とは思わなかった。青葉からパワーを借りることができなかったら死んでいたかも知れないと思いつつ、救急隊員に運ばれて救急車に乗せられた。
 
「意識レベルは明瞭」
「40歳くらいの男性です」
などと救急隊員が言っている。
 
ちょっとぉ!私まだ29歳だし、私そもそも女なんだけど!?
 
菊枝は文句を言いたい気分だったが、それを抗議する気力は無かった。そしてその時、意識の端で、青葉の気配が物凄い速度で近づいて来たのに気づいた。これは・・・新幹線だ。
 
青葉、今ここに着たら、あんたまでやられちゃうよ!!
 

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その日千里(千里A)は日本代表の合宿中だったのだが、やむを得ない用事で一時外出し、そのあと道に迷って!東京駅まできてしまった。総武線のホームで降りてエスカレーターで上にあがっていく内に、何か異様な気配を感じる。
 
何これ?
 
千里はこれはやばいと考え、総武線ホームに戻って、いったん別の駅に待避しようと思った。
 
ところがその時、青葉の気配がずっと上方に出現したのを察知した。このくらいの距離だと、これは新幹線ホームだ。
 
千里はここは青葉を何としても守らなければと決意し、そのままエスカレーターで地上を目指した。
 

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羽衣は興奮していた。
 
なんて素敵なの! これはかなりの上物だ。まあコウちゃんには比ぶべくもないけど、相当の使い手じゃん。
 
羽衣とその外人の距離は300mはある。これ以上近づいたらお互いに激突同然になる。羽衣はワクワクする思いで、その外人と対峙していた。
 
心配そうに傍で見守る天津子に
「危ないから手を出さないでよね」
と言って、じっと敵を見つめる。
 
その時、羽衣は近くでホームから男性が転落するのを見た。危ない!と思い、一瞬そちらに気をとられた。
 
そして「あっ」と思った時は、既に向こうから強烈な念の塊が飛んで来た。
 
羽衣は全力でその念弾から自分の身を守るしか無かった。羽衣が必死で作った霊的防御壁に、敵から放たれた念弾がぶつかる。それは凄まじい衝撃音となって、この音をその時1km四方くらいの人が聞いた。
 
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敵は驚いている。
 
まさかこれを防がれるとは思っていなかったのだろう。
 
しかし羽衣も今防御したので全力を使い果たしてしまっていた。
 
敵は第2弾を放とうと集中を開始している。
 
そしてちょうどそこに、下からのエスカレーターに乗って千里がこのホームに登ってきた。
 
「あ、千里さん」
と天津子が言ったのを聞いて羽衣もそれに気づく。
 
「天津子ちゃんちょっと貸して」
と言って羽衣は愛弟子を自分の傍に引き寄せると、天津子と千里の間のコネクションを利用して千里からエネルギーを思いっきり引き出した。
 
そして得られたエネルギーをそのまま敵にぶつけた。
 

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次の瞬間、敵が一瞬にして蒸発してしまったのを天津子は見た。
 
ひぇー。師匠ったら何つーパワー!!
 
と思ったのだが、その時、エスカレーターから登ってきた千里がフラっとして気を失い倒れるのも見た。
 
「千里さん!」
と叫んで天津子は千里のそばに駆け寄る。
 
え!?
 
そこに横たわっているのは、どう見ても《死体》である。
 
千里さん!嘘!?死んじゃった?
 
天津子が焦っていた時、ちょうどそこに青葉と彪志が寄ってきた。
 
「ちー姉? 天津子ちゃん!?」
「青葉! どうしよう。千里さん死んじゃった」
 
青葉はじっと千里を見ると、いきなり右足を持ち、数回振るように動かした。
 
千里が目をぱちりと開け、むっくりと起き上がる。
 
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天津子は「きゃっ」と言って腰を抜かした。
 
しかしそんな天津子が目に入ったのか入ってなかったのか、千里は少し離れたところでホームの端に人が集まっている所に駆け寄る。
 
千里はホームの下に男性が落ちて倒れ、骨折でもしたのか起き上がれずにいるのと、ここに電車が物凄い速度で迫っているのをほぼ同時に認識した。
 
「どいて」
と言って人混みを掻き分けると、千里は線路に飛び降りる。そして倒れていた男性を抱え上げると、隣の線路に一緒に待避した。
 
その直後、急ブレーキを掛けた電車がそれでも凄い速度で入って来て、千里たちの横をかなり行きすぎてから停止した。
 

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東京駅で凄まじい衝撃音があったことについては、何か爆発物でもあったのではということで警察が捜査したものの、何かが爆発したような跡は見当たらなかった。爆発音のあった場所から300mほど離れた付近で激しい発光現象があったことが当時ホームに居た人たちの証言で分かったものの、この発光現象についても何だったのかは不明であった。
 
レフ・クロガーはその日を境に消息を絶ってしまった。どこかの国の諜報機関が拉致したのではとか、逆に本人がどこかの国に自主的に亡命したのではといった噂が立ったし、警察やインターポールも捜索をしたものの彼の行方はつかめなかった。ただ、彼の部屋からここしばらく行方不明になっていた複数の女性の所持品が見つかり、彼がその失踪事件に関わっていたことが推察された。
 
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そして実はクロガーに関しては女性大量誘拐殺人の疑いでFBIが捜査中であったことを複数の報道機関がすっぱ抜いた。
 
クロガーの一座の団員が日本の警察とFBIに事情聴取された結果、彼が行方不明になった女性たちとデートしていたことが判明した。しかし行方不明になった女性の所在は分からないままであった。
 
ただひとり、クロガー一座の公演に数回出演したエキストラの女性がクロガーに誘われて一緒に外に出たが、襲われそうになったので逃げたということを証言した。彼女は自分をかばってくれた男性があったので助かったと言い、調査の結果、それが重傷を負って静岡県内の病院に入院中の霊能者・山川春玄であることが判明した。
 

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千里が線路に飛び降りて助けた男性は川島信次と名乗った。線路で動けずにいたので千里は骨折でもしたのかと思ったのだが、実際には軽いねんざをしただけであった。あの時はもう気が動転して動けなかったということで、千里に深く感謝していた。
 
「でも村山さん、凄く太い腕ですね。スポーツか何かしてるんですか?」
と信次は訊く。
 
「ええ。趣味程度ですけど、バスケットしているんですよ」
「僕、女性の腕フェチなんですよ」
「へー!」
「こういう太い腕が大好きなんですよ」
 
「変わった趣味をしていますね」
と千里も微笑んで言った。
 

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千里は信次を助けた後、連絡先を教えて欲しいという彼の要請に応じて携帯の番号を交換した上で「用事があるので」と言って立ち去ったものの、この騒動のおかげで合宿の集合時間に遅刻してしまった。更に千里は試合で精彩を欠き、代表落ちを通告される。
 
宿舎の荷物を青葉に手伝ってもらってまとめ、退出する。一緒にアパートに戻るものの、青葉は千里の「雰囲気」が変化していることに気づいた。
 
「ちー姉、私の後ろに居る雪娘が見えるよね?」
「雪娘?何かお菓子の名前?」
「・・・・ゆう姫は見えるよね?」
「何のこと?」
 
千里はとぼけているのではなく、どうも本当に見えないようだと青葉は認識する。
 
青葉はハッと思い、自分の心の中から秘密兵器の《鏡》を取り出す。そしてそれで千里の下腹部をサーチしてみた。
 
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子宮と卵巣がある!?
 
じゃ、ちー姉って男の娘だってのは嘘で、実は天然女性だったのだろうか??そんなことを考えた時《ゆう姫》が青葉に言った。
 
『この子、巫女の力を失っている』
『え〜〜!?』
『青葉、おまえには今、千里の子宮や卵巣が見えるだろ?』
『はい』
『偽装したままの状態で霊的なパワーが消えてしまったから、それで固定されてしまっただけだよ。この子宮や卵巣はMRIにも写るだろうけど、実在はしない』
 
『じゃこれが偽装なんですか?』
『千里が男の娘だってことは知っている癖に』
『でも細川さんにしても、天津子ちゃんにしても、ちー姉が天然女性だと言うから、私も自信が揺らいでいたんですよー』
 
『まあこの子のパワーが凄まじかったから』
『どうも天津子ちゃんに聞くと、天津子ちゃんのお師匠さんが緊急事態でちー姉のパワーを借りたみたいなんですよ。それを取り過ぎたんで一時仮死状態になってしまったみたいで。ちー姉のパワーはどのくらいで回復しますか?』
 
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青葉のその問いに対して《ゆう姫》は答えた。
 
『青葉、ショックかも知れないが良くお聞き。この力の喪失は不可逆だよ。もうこの子は霊的な力を行使することは今後無いだろう。この子は仮死状態じゃなくて本当に死んでいた。青葉が蘇生させられたのだけでも奇跡』
 
青葉はその言葉を聞いて青ざめてしまった。
 

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千里の守護に関して、後ろの子たちの意見が割れた。
 
千里が倒れた時、その余波で?千里と後ろの子たちのコネクションが外れてしまった。それで彼らは今千里と会話ができない状態にあった。
 
『千里は一度死んだ。俺たちは千里が死ぬまで千里の守護をしろと命じられていた。出羽に帰るべきだと思う』
と《こうちゃん》は主張する。
 
『おまえそれでいいの? だっておまえがいちばん千里になついていたじゃないか』
と《りくちゃん》は言い、千里は生き返ったのだから、自分達の守護はそのまま継続すべきであると主張した。
 
いつも冷静な『たいちゃん』がかえって千里の元に残るべきだと主張するのに対して、いつも千里の面倒を見ていた『いんちゃん』は自分達は命令を守るべきだとして出羽への帰参を主張するなど、意見の出方はふだんの千里との関わりの深さとは無関係に出ている感じであった。
 
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『結論が出ません。騰蛇さん決めてください』
と、議長役と化していた《きーちゃん》がリーダーの《とうちゃん》に言う。
 
『おまえら、千里のこと嫌い?』
と《とうちゃん》が全員に尋ねる。
 
『好きです』
とみんな異口同音に言う。
 
『私もたくさんの宿主に付いたけど、こんな面白い宿主は初めて』
などと《びゃくちゃん》が言う。
 
『確かに面白いな』
と帰参を主張していた《こうちゃん》も言う。
 
『千里のパワーは実際問題として俺や六合の力を越えていた。俺が逆に千里に助けられたこともあった』
と《こうちゃん》。
 
『だったら3年待たないか?』
と《とうちゃん》は提案した。
 
『3年の内に千里が自分自身で俺たちや出羽のことを思い出して、美鳳さんのもとに行ったら、たぶん美鳳さんは俺たちを千里の守護として再任すると思う。まあ解任されたらその時だけどな。もし3年以内に千里が出羽に辿り着けなかったら、その時は俺たちは千里から離れて自主的に美鳳さんの所に帰参する。何百年も生きて来た俺たちにとって3年くらい、ほんのちょっとの間だしさ』
 
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『まあ3年くらい適当なメスをナンパしてる内に時間が経つな』
などと《げんちゃん》が言っている。
 
『じゃ取り敢えず3年間は千里の守護継続』
ということで、12名の眷属たちは合意した。
 

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女たちの羽衣伝説(2)

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