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■女たちの羽衣伝説(6)

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それで貴司と美映は一緒に産婦人科に行き、確かに妊娠していることを確認された後、中絶手術を申し込んだ。
 
「ごめんね。僕があれする前にちゃんと付けないといけなかった」
と貴司は謝る。
「いや、私も油断してた。まさかあれで妊娠するとは思いもしなかったし」
と美映。
 
「ね、美映ちゃん、ヴァージンだった?」
「もしヴァージンだったら?」
「そしたら処女のまま子供産むことになっちゃうから」
「うふふ。そしたら私はマリア様で、生まれてくる子供は聖者になったりしてね」
「ほんとにヴァージンだったの?」
「内緒」
「うーん・・・」
 
「でも私も一応バスケット選手だったし、貴司はプロ級のバスケット選手だし。この子産んじゃったら、凄いバスケット選手になるかもね」
と美映は言う。
 
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「うん。ちょっともったいない気もするね」
と貴司も答える。
 
その時、唐突に美映は言ってしまった。
 
「私、この子、産んじゃおうかなあ」
「え〜〜〜!?」
 
「ダメ?」
「でも、僕君と結婚できないよ」
 
そんなことを言われた時、美映はもっと強い思いが込み上げてきた。
 
「奥さんと別れればいいじゃん」
「それは・・・・」
 
「貴司、けっこう奥さんのグチ言ってたじゃん。そんなに不満があるなら別れて私と結婚してくれない?」
「いや、それはさすがに・・・」
 
「私と結婚してくれないのなら、このこと私マスコミに垂れ込もうかなあ。元日本代表バスケット選手のスキャンダルとか、マスコミは飛び付いてくれそう」
「ちょっと待って」
 
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「それで慰謝料1億円と、この子の養育費用で月100万円くらい要求しようかな」
「そんなに払えないよ!」
「だったら結婚してよ」
「う・・・・」
 

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ともかくもその日は結局中絶手術を受けるのはやめて帰宅することになる。ふたりは電話やメールで話し合ったが話はまとまらなかった。むしろ次第にこじれて行った。そして貴司は「そもそもそれ僕の子供だとは認められない。セックスしてないのに子供ができる訳が無い」と言い出す。これで態度を硬化させた美映は貴司を無責任だと非難し、弁護士名で内容証明を送りつけてきた。
 
奥さんと離婚して自分と結婚してくれない場合、この件を公開し、損害賠償の請求を起こす予定であると明記してあった。
 
貴司はほとほと困り、とうとう1月中旬のある日、阿倍子の前で土下座した。
 
「すまない。実は恋人を妊娠させてしまって。その子と結婚したいので離婚してもらえないだろうか?」
 
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阿倍子は最初何を言われたのか分からなかった。
 
「恋人って千里さん?」
 
「いや違う。千里とは阿倍子と婚約して以来、一度もセックスしてない。あの子、奥さんのいる男性とはできないと言って。そもそも千里は前にも言ったと思うけど、元々が男の娘で妊娠能力は無いんだよ」
 
千里が男の娘だという話は何度か聞いた。しかし阿倍子はそれを信用していなかった。男の娘にしては全然男っぽい所が無い。そもそもあの人、バスケットの女子日本代表とかもしてるし。元男ならそんなのになれるわけがない。それに阿倍子は疑っていた。京平を作った時の卵子って実は千里の卵子だったのではないかということを。
 
「じゃ誰なの?」
 
「えっと・・・三善さんといって年齢は僕より2つ上かな。結婚してくれなかったら1億円の慰謝料を請求すると言われて」
 
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「私はどうなるのよ?」
「すまん。本当にすまん」
 
あまりにも唐突に、しかも極めて理不尽な理由で離婚を求められたことで阿倍子は冷めてしまった。
 
もういいや。1億円の慰謝料、私がもらいたいわ。
 
それで阿倍子は貴司との離婚に応じることにした。
 
慰謝料と養育費については、慰謝料1000万円・京平の養育費は彼が20歳になるか大学を卒業するまで月10万円という線で妥協。離婚届を提出した。
 

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それで阿倍子は一時的に空き家になっていた神戸の実家に引き上げることにした。実はこの実家は所有権を巡って親族と揉めていて、それで空き家になっていたのだが、阿倍子は貴司からもらった慰謝料1000万円の内800万円をその親族に支払うことで、相手はこの問題に手を打ってくれた。そもそも道路にも面していない資産価値の怪しいボロ家でもあったし、阿倍子が現金を持っているこの機会に手を打った方がマシと妥協してくれたようである。
 
ただお陰で阿倍子は当面の生活資金がわずか200万円しか残らないことになる。自己名義の家で家賃は要らないし、京平の養育費の分はあるものの経済的な不安のある新生活スタートとなった。
 
それでともかくも引っ越すことにするのだが、引越の作業をしている最中に貴司と喧嘩してしまう。それで貴司は「すまん。でも君ひとりだけでは作業できないだろうし、誰か来させる」と言って出て行った。
 
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ところが数時間後にやってきたのが、千里だったので阿倍子は不快感を露わにする。しかし千里は自分も結婚するので来たくなかったけど「京平の顔を見たいでしょ?」なんて言われたから来たと言う。千里が結婚するというのは初耳だった。それで結果的に千里に対して親近感を持ってしまった。そして千里の目的が京平だと知り、やはりこの子の卵子上の母は千里なのではという疑いをまた深くした。
 
これまで千里とは敵だった。しかし敵ではあっても千里は思えばいつも自分に親切にしてくれていた。貴司が合宿で留守にしている時、妊婦教室に行くのに車で送り迎えしてくれたこともあった(不愉快だったけど)。出産の時も千里が来なかったらやばかった。下手したらお腹の中の京平もろとも死んでいたところだ。
 
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京平が熱を出した時に一緒に看病してくれたこともあった。自分が病気であった時に京平を遊びに連れて行ってくれたりとか。更に貴司の浮気をことごとく潰して、結果的に自分と貴司の結婚生活を守ってくれていた。
 
引越の荷造り作業を彼女としながら、ここ5年ほどのことを考えていた時、阿倍子はハッと気づいた。
 
そうか。千里さん自身が結婚することにしたから、貴司に干渉しなくなった。それで貴司は深みにハマるほどの恋人ができてしまったのか! しかし悔しいなあ。自分は一度も貴司とセックスできなかった。その恋人は貴司の子供を妊娠したのだからセックスしたのだろう。
 
「千里さん、貴司が私と婚約する前は貴司とセックスしてたよね?」
唐突に阿倍子が訊くので千里は「へ?」という顔をするが
「それは普通にしてたけど」
と笑顔で答える。
「緋那さんって貴司とセックスしたのかなあ」
「ああ、それは確か2-3回したはず。すっごく悔しかったけどね」
 
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じゃセックスできなかったの、私だけ〜? やはり私は女として不完全なのだろうか。不妊治療の時染色体検査もされて一応XXだとは言われてたけど。
 
そんなことを考えた時、千里が唐突に阿倍子の下腹部に手を当てた。
 
「阿倍子さん。卵巣が物凄く不調」
と言う。
「うん。私それで妊娠しにくかったんだよ」
「実家、神戸だったよね?」
「うん」
「***稲荷神社にお参りしてみるといい。京平を連れて」
「へー」
「たぶん・・・色々といいことがあるよ」
と千里は笑顔で言った。
 
「そう?行ってみようかな」
 
その時、阿倍子はなんだか素直な気持ちになることができた。
 

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この時期、千里はまだ巫女の力は戻っていなかったものの、以前のように結構霊感が働くことを感じていた。それは実は羽衣が美鳳に「叱られて」頑張って修復作業をしていた千里の「霊的な羽衣」がようやく機能回復し始めていたからであった。
 
千里は巫女の力を失っていた時期もずっと雨宮派の作曲家のひとりとして曲を書いていたのだが、2017年8月から11月頃までは品質が落ちていた。しかし、12月頃から、やや品質が回復してきていた。またバスケの方でも1月頃からまた調子が上向いてきて、監督が「今度の春シーズンから1軍にあげようか」と言った。ただ千里は来年春に結婚するのでそれでいったん引退させて欲しいと申し入れており、監督も主将も残念がっていた。
 
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しかし千里がまだ完全ではなかったことから、千里は信次の体内で進行中であった異変に気づくことができなかったのである。
 
その時期、信次は職場の健康診断でひっかかり、精密検査の結果、腫瘍ができていると言われ、組織検査の結果良性なので少し経過観察してから対処法を考えましょうと言われた。
 
しかし信次の母・康子は不安を感じ「他の病院でも見てもらった方がいい」と主張した。それで東京の、癌治療で定評のある病院の医師に診せたところ、確かに良性ではあるが、悪性化の危険もあるので、早い時期に摘出手術した方がいいと言われた。しかし信次が手がけているビルの建設が進行中であったし、結婚の予定もあったので、4月に手術を受けることを決めた。
 
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また、この時期、千里と信次の間の子供を作る計画が進行中だった。千里は子宮や卵巣を持っていない(建前である)ものの、桃香から卵子を提供してもらい仙台で代理母の斡旋をしている医師のもとで体外受精を行って妊娠出産してもらい、その子供を特別養子縁組によって千里と信次の実子にするという計画である。
 
これは千里と桃香の古い約束にもとづくもので、桃香が子供を産みたくなった時に千里が提供した精子を使用する代わりに、千里が他の男性との間に子供を作りたくなった場合は、桃香の卵子を提供するという話をしていたのである。桃香はこの件をあらためて快諾し、この体外受精を4月4日に実行することにした。
 
そして信次の手術は翌週4月11日に行うことにしていた。
 
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腫瘍の手術後、再発防止のため放射線療法もおこなう。性器には放射線が当たらないように防御するのだが、その治療の結果不妊になる可能性が無いこともないと医者側からは言われていたので、手術の前に体外受精という選択になった。
 

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2018年3月17日、千里と信次は結婚した。
 
直後、信次は名古屋支店への転勤を命じられる。千里はこれに付いていくことにし、2015年春から3年間勤めたJソフトウェアをとうとう退職した。この3年間で千里は実に10回以上退職願を書いていたのだが、なかなか辞めさせてもらえなかった。しかし夫の転勤ということで、とうとう山口社長も退職願を受け取ってくれたのである。
 
実は千里は結婚後も仕事の都合でほとんど用賀のアパートに住んでいるに等しい状態で、新婚なのに別居生活をしていたのだが、名古屋への引越で用賀のアパートも引き払うことにした。このアパートにあったものの内、生活用品は一部は名古屋のアパートへ、一部は桃香のアパートへ。書籍などは桃香のアパートへ。洋服は名古屋に持って行き、和服は千葉の信次の実家におかせてもらうことにした。音楽関係の古いデータや、その他の一部の誰にも見られたくない「秘密の品物」は雨宮先生の家の倉庫に置かせてもらった。
 
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千里はバスケの活動についても悩んだ。
 
「名古屋でしょ? 新幹線で毎日川崎まで来て練習に参加しなよ」
と監督や主将からは言われたものの、いったん引退ということにさせてもらう。それでもチーム側は
「じゃ、籍だけは残させてよ」
というので妥協した。
 
それでこの年も千里(66.村山十里)はレッドインパルスの選手として2軍(実業団)登録されバスケット協会の選手としての籍も残ることになった。
 

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ちなみに名古屋で暮らしていた時期、千里は専業主婦をしていたのだが、身体を動かしていないと「なまる」ので地元のクラブチームの練習に参加させてもらっていた。千里はバスケ関係のコネには困らない。特に名古屋周辺にはバスケ関係の知り合いが大量に居るので、その中のひとりに声を掛けて協力してもらった。
 
「千里、なんか調子悪い」
と彼女からは言われた。
 
「うん。昨年の夏頃からずっと不調なんだよ。それで昨年は日本代表からも落とされたし」
「リオデジャネイロ・オリンピックを花道に引退したという噂は違うよね?」
「引退したつもりはないけど、実質それに近い状態になってる」
 
「いや、今の川島さんの力でも充分Wリーグでなら活躍できる」
と別の選手が言う。
 
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「実はそんなこと言われてレッドインパルスから籍を抜かせてもらえなかったんです」
「そりゃ、こんな選手を手放したくないよ」
 
「つーか、1on1でうちの誰も川島さんに勝てないし」
 
「そちらの籍が抜けてるんなら、うちのチームに正式加入してもらいたかったほどだよね」
 
「すみませーん。今主婦してるから、あまり練習時間取れなくて」
「旦那くらい放っておけばいいよ」
「とりあえず新婚なので」
「夫の教育は新婚期間中が鍵だよ」
「そうそう。最初から甘やかすと後が大変」
「あははは」
 

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女たちの羽衣伝説(6)

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