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■△・男はやめて女になります(7)

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貴司を姫路の家に案内した経緯はこうであった。
 
貴司から豊中市のマンションを出なければならないが、現在の給料で家賃が払えて、通勤が可能な適当な物件が見当たらず、一時的にでも市川ラボに住んではダメかと相談されたのは千里2である。
 
千里2は自分と貴司の“愛の巣”に美映を入れるなんてとんでもないと思ったし、そんなことを言う貴司の無神経さに怒りさえ覚えた。それで代わりに提案したのが、姫路の家を使うことである。ここは元々貴司が美映と離婚した後、貴司と一緒に住もうと思っていた家だが、まだ使用していないので比較的抵抗が少なかった。それで7月24日、オーリスを運転して姫路に行き、貴司をそこに案内した。この時、この家には2階に上がる階段が存在しないことに気づき、播磨工務店の南田に言って作らせた。
 
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貴司と美映は7月29日に千里(せんり)のマンションから姫路の家に引っ越したが、この日、千里3は小浜に行く用事があり、乗せる人数の都合で貴司のランクルを借してと言った。この時3番は貴司が姫路の家に美映と一緒に引越すなんて話は全く聞いていなかったので貴司が戸惑うことになる。
 
『私があそこを貸すって言ったの?』
『そうだけど』
 
『じゃ家賃は30万円くらい払ってね。本当は月100万円取りたい所だけど、貴司だから特別』
『千里が2万円でいいて言ったんだけど』
『私がそんなこと言った?』
『言った』
 
『じゃまあいいや。だったら差額は身体で払って』
 
しかしランクルが無いと引越に困ると貴司が言うので、代わりにキャラバンを貸した。実際にはキャラバンで良かった。荷物が多すぎて、引越屋さんが用意していた4トントラックに荷物が載りきれなかったのである。
 
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なお、この日、千里3がキャラバンを豊中市のマンションに持って行き代わりにランクルを持ち出したのが、千里がこのマンションを訪れた最後になった。
 

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韓国で世界水泳に行っていた青葉から練習場所確保のため、7月27日に日本までピンポイント往復したいと7月26日に相談を受けたのも千里3である。この時期、千里2はアメリカでWBDAのプレイオフをしていた。
 
相談を受けた千里3は、コシネルズのチャン・スヤン(現在まだ韓国国内の慶州(キョンジュ)に住んでいる)に電話して、7/27-28日に、青葉を光州(クァンジュ)の世界選手権会場から、仁川(インチョン)空港まで送り迎えして欲しいと依頼した。
 
「途中で“空輸”するから、青葉には寝ていてくれるよう言って」
「了解です」
 
それで本来は光州と仁川空港の間は5時間くらい掛かるのだが、青葉がお弁当を食べてから眠ってしまったら即《わっちゃん》にワープさせたので、1時間ちょっとで到着している。
 
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なお、青葉が会場を不在にする間、千里はコシネルズのメンバーで現在は宮城県内に住んでいるキム・ソンミを代わりに(普通に飛行機で)光州に行かせ、青葉の代役をさせた。これは選手が大会中に会場を離れるのは様々な問題が生じやすいからである。
 
案の定、27日の夕方には金堂さんが夕食のお誘いに来た。何でも誘うつもりだった同年代の短距離の女子選手に振られてしまって、代わりだったらしいが、青葉が居ないとまずかった。
 
更に28日の午前中には抜き打ちドーピング検査で呼び出された。ソンミも焦ったが、その時点でスヤンが運転する車の中で眠っている青葉の膀胱から尿を採取して、それを転送し、検体のすり替えをやって、何とか誤魔化した。しかし初めてドーピング検査を受けたソンミは
「人前で(ほぼ)裸になっておしっこするなんて、恥ずかしかったぁ!」
と言っていた。
 
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コシネルズのメンバーの中で、キム・ハウンならバスケット選手生活が長いのでドーピング検査も受けたことがあるし、彼女は日本のパスポートを所有していてむろん韓国にも入出国できるが、彼女は人間!なので、青葉に擬態させるのは難しい。そもそも彼女は和実のお店の管理で忙しいので、こういう用事で使うのは申し訳無い。(更に男と誤認されてよけいな面倒が起きそう)
 

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映画『ヒカルの碁』は春先からいくつかのシーンを撮影していたのだが、正式には(2019年)7月20日にクランクインした。アクアや葉月など、多くの撮影参加者が、撮影セットの作られた郷愁村(埼玉県熊谷市)の出演者用マンションに泊まり込んで朝から晩まで撮影に参加した。何人か、マンションではなく、この郷愁村を運営しているムーランが経営しているホテル“昭和”に泊まっている人もある(宿泊料は個人負担だが補助は出る)。主演のアクア、藤原佐為役の城崎綾香、桑原仁役の藤原中臣さん、藤崎あかり役の元原マミなどである。
 
アクアはホテル昭和のコテージ型別館“桜”に泊まっているが、これはアクアが3人いるので、それがバレないようにするためというのが大きい。葉月はマンションに泊まっているが、《わっちゃん》は彼の疲労具合を見て時々ホテル昭和のリーズナブルな別館“富士”に泊めている《かぶちゃん》に代理をさせていた。
 
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葉月はこの映画ではアクアのボディダブルをするとともに、院生の奈瀬明日美役も演じている。それで奈瀬役を主として葉月本人にやらせて、アクアの特に男の子役ボディダブルを《かぶちゃん》にやらせるようにした。アクアの女の子役ボディダブルは葉月の疲労状況に応じて交替でやらせる。
 
例によって葉月は自分は“うっかり眠っていて撮影に行けなかった気がする”のに「さっきの演技よかったね」などと言われるものの、最近いつものことなので気にしないことにしていた。しかし《かぶちゃん》に結果的に3割程度代行させていることから、葉月は本人が出ている時は元気いっぱいの演技を見せ、おかげで“元気な明日美”が撮れて中村監督も満足げだった。
 
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中村さんは『キャッツアイ・華麗なる賭け』(2017)、『八十日間世界一周』(2018), に続いて3度目のアクア映画の監督を務めている。
 

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7月23-29日には学校でのシーンを撮影するため、学校に関わる出演者、生徒役や囲碁部員役のエキストラなどと一緒に加須(かぞ)市の廃校に行って撮影しているが、これは現地に泊まり込むのではなく、毎日郷愁村からバスで、片道30-40分かけて通っている。エキストラさんたちも各自の自宅からの通勤だが、熊谷駅まで来てもらえば駅からバスを運行している。
 
加須市での撮影には学校に無関係の桑原本因坊役・藤原中臣さん、緒方九段役・大林亮平などは参加していない(その間、助監督の高原さんが棋戦の様子などの撮影をしている)。
 
アクアは3人の内2人は“桜”のコテージに居て、適宜撮影場所に行っている1人と交替していた。《かぶちゃん》は《わっちゃん》が加須市内のホテルに連れていき、そこを拠点として適宜葉月と入れ替え、葉月は強制的に眠らせておいて疲労回復を図った。学校シーンには明日美は出ないので、比較的負担は小さかった。
 
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7月26日は、主役のアクアが苗場ロックフェスティバルに出場するため撮影はお休みになった。20日のクランクインから25日まで6日間、朝から晩まで撮影してきていたので、アクアと葉月以外の役者さんにとっては助かる休日である。撮影は27日午後にアクアと葉月が戻ってきてから再開される。そして29日まで加須市で撮影を続け、30日からは郷愁村のオープンセットでまたメインの撮影が再開された。ここからはネット碁で謎の棋士 "sai" が活躍する話や、院生時代のヒカルの話、などの撮影が進む。27,28,29,30,31と連続してまたハードな撮影が続いたし、ここまで順調に撮影が進んでいたので、8月1日は夕方で撮影は終了して8月2日は撮影お休みとなった。
 
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それで佐為役の城崎綾香こと本名・宮田雅希は、1日に撮影が終わった後、恋人の丸山アイこと本名・久保早紀を呼び出してデートすることにした。
 

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恋人といっても2016年の秋以降3年近く同棲しているので、既に事実上夫婦である。ただ、どちらが夫でどちらが妻なのかは判然としない。婚姻届けを出さないのは、ふたりとも法律上は女性であるため提出できないからというのもある。性的な役割でも家庭生活上の役割でもふたりは対等である。料理や掃除などは手が空いているほうがするし、性生活でどちらが男役かも、その日によって違う。
 
実はふたりとも男性器・女性器の双方を持っている“ふたなり夫婦”である。何度か“ミューチャル・インサート”もしているし、同時射精にも1度だけ成功しているが、さすがにこれは体力を使うし、実はあまり気持ち良くない。あくまで性生活のバリエーションのひとつだ。むしろ実は双方女性モードで女性器同士を刺激しあう、いわゆるトリバディズム(貝合せ)の方が気持ちいいと思っている。
 
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貝合せのいい所は、キスしながら乳房を合わせながら性器も合わせられるという“三所責め”ができることで、これは女同士ゆえに得られる最高の快感である。そもそも女性器同士の接触は明確な終わりが無いので長時間楽しむことができる。射精してしまうと急速にテンションが下がるので、貝合せする時は、双方とも男性器は興奮しないように“女性的に昂揚”するように気持ちをコントロールする。男性的興奮と女性的興奮は実は全然違うのである。
 
ふたりはどちらかが法的な性別を男に変更すれば法的婚姻も可能だが、双方とも男になるつもりは無い。丸山アイの“高倉竜”モードもあくまで余技にすぎない。早紀が“ボク”という自称をよく使うのも男の意識があるわけでは無く、ただの《ボク少女》である。
 
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また、どちらも“女性芸能人”ということになっているので性別変更などしたら大騒ぎになる。それで2人はどこか適当な市に引っ越して、パートナーシップ宣言をしようかという話もしていた。
 
もっとも城崎の事務所は、彼女(彼?)のイメージダウンを恐れて25歳になるまでは入籍しないで欲しいと言っている(契約書では27歳になるまで結婚不可とされているが、事務所の社長は25歳になったら構わないよと言っている)。雅希の生年月日は1995.6.20なので、実は来年の6月になれば結婚可能である。(早紀と綾香のどちらかが法的性別を変更しない限り、多分パートナーシップ宣言することになる)
 

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そういう訳で、8月1日の夕方は、熊谷だと映画の他の出演者もたむろしていて見られる可能性があるので、雅希は秩父鉄道に乗って御花畑駅まで行った。ここで早紀と落ち合う。
 
まずは駅近くのラーメン屋さんに入り、軽く腹ごしらえをする。ふたりは普通に女同士の友人にしか見えないだろう。デート中のカップルとはまず思われない。ふたりはこんな感じでデートすることが多いので、噂になったりすることもない。(東京から離れた場所では、早紀が高倉竜になって男女型のデートをすることもあるが、そう多くは無い)
 
「ちょっとドライブでもしようか」
「うん」
 
それで近くの駐車場まで行くが、早紀が「乗って乗って」と言う車を見て、雅希はびっくりした。
 
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「なんか目立つ車だね」
「そうだっけ?」
「でもこの車は初めて見た。かっこいいね」
などと言いながら乗り込む。
 
「でしょ?しばらくデートできなかったからと思って」
と運転席に座りながら早紀も言う。
 
「まあこないだの車よりはマシだけど」
「こないだはごめんねー。動かなくなるとは思わなかった」
「あれ、見るからにボロかったよ。これは何てモデル?」
「フェラーリJ50だよ。限定10台で生産された日本専用モデル」
「高そう!」
「そうでもないよ。300万だったし」
「へー。意外に安いんだね。1桁上だと思った」
 
早紀はお金の単位を言っていない。300万と聞いて、車に詳しくない雅希は300万円と思いこんでしまった。中古でもフェラーリが300万円で買える訳がない。早紀はこのフェラーリJ50(の新品)を300万ユーロ(約3億4千万円)で買っている。
 
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その日は秩父周辺をドライブしてから、結局秩父市内のビジネスホテルに泊まる。この日早紀は女装はしていたものの、身体は男だった。しかし雅希は「男の衝動」を感じてしまったので、早紀に
 
「僕が男役したいから女の子になってよ」
と要求し、雅希=男・早紀=女、の形で5回戦までやった。生でしたかったが、早紀がちゃんと避妊具を付けてと言うので付けてした。それで夜中すぎまでやっていたので、さすがに疲れて寝てしまったが、眠りに落ちていきながら、
 
「男の子になりたいとは思わないけど、男のセックスって気持ちいいよなあ」
と思った。
 

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翌8月2日はホテルをチェックアウトした後、朝から秩父神社にお参りして2人の幸せをお祈りし、ちちぶ銘仙館、羊山公園などを散歩した。3時すぎに
 
「あまり遅くなると明日からの撮影に差し支えるだろうし」
と言って郷愁村に帰ることにする。それで雅希はちょうど近くだった長瀞(ながとろ)駅でおろしてもらい、熊谷方面の電車を待とうと思った。それで切符を買ってから駅舎の中に居たのだが、トイレに行きたくなった。
 
ここはトイレは駅舎の外にあるので、いったん外に出てトイレに入る。雅希はちんちんは付いていても、ずっと女として生きてきたので、男子トイレに入ったことはない。必ず女子トイレに入る。これが早紀の場合は、“アイ”モードの時は女子トイレ、“竜”モードの時は男子トイレに入っている。よく男子トイレ使うなあと感心する。実際彼は高倉竜になっている時は男にしかみえないから凄い。
 
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それで個室(女子トイレには個室しかない)でしてから手を洗って外に出ようとした時、入ってきた女性(女子トイレに入ってくるのはふつう女性)とぶつかる。
 
「あ、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ」
 
それで雅希は駅舎の中に入り、5分ほどで来た熊谷行き急行に乗った。熊谷駅からは郷愁リゾートの送迎バスで郷愁村まで戻ることができる。
 

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