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■△・男はやめて女になります(4)

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千里1は西国三十三ヵ所巡りに信次の遺品となったムラーノを使用したのだが、このムラーノは6月いっぱいで車検が切れることになっていた。信次が2012年に買った車で、距離は5万kmくらいしか走っていないが、年数が経っているし廃車にしようかと言っていた。しかし千里1は優子がこの車に思い入れがあるようなことを言っていたことを思いだし、康子に打診の上、優子に電話してみた。
 
すると優子も譲ってもらえるのなら欲しいと言ったので、千里は車検をしてから渡すことにする。ユーザー車検にしようと検査場にネットで予約を入れ、西国三十三ヵ所が終わって6月26日に東京に戻ると、翌日《こうちゃん》にユーザー車検をさせた。そして28日に検査場に車を持ち込み、無事合格した。
 
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それで29日に信次の一周忌があって優子が千葉にやってきた時、優子に車を引き渡したのである。千葉ナンバーのまま乗ってもいいし、富山ナンバーに変えるなら、手続きの費用も出すよと千里は言ったが、このままの方が信次の想い出にひたれるからと言って、優子は千葉ナンバーのまま乗ることにした。(本当は手続きが面倒だっただけ)
 
それで千葉からの帰りは優子は奏音を後部座席のチャイルドシートに乗せ、自分でムラーノを運転して高岡に帰還した。
 
(千里が乗っているアテンザは元々優子が買って1ヶ月ほど乗っていたのを勤務先の倒産で泣く泣く手放したものだったので、結果的に千里と優子は、お互いの車を交換したようなものである)
 
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なお一周忌が終わった後で、信次の子供をこの4月に出産した水鳥羽留が、その子供(信次の忘れ形見)幸祐を伴って川島家を訪れて仏檀にお線香をあげさせてもらった。本人は信次の恋人であったことを名乗った訳では無かったのだが千里が気づき、康子にも会わせて、康子は3人目の孫と対面することになった。
 
今回は優子と羽留はすれ違いになった。3回忌(2020.7)ではコロナの影響で優子が千葉まで来られなかったので、2人の対面はしばらくお預けになる。
 
ちなみに羽留を唆して川島家に行かせたのは、羽留をずっと支援している《びゃくちゃん》である。結果的に羽留は優子同様、信次名義で毎月20万円の養育費を送金してもらえることになった。その手続きをしたのは例によって太一で、資金を提供するのは千里である。結果的に千里は信次の4人の子供(府中奏音・細川緩菜・川島由美・水鳥幸祐:この4人も苗字がバラバラ!)全員の養育費を負担することになった。
 
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さて、羽留は川島家から帰る時
 
「奥さん(千里)も妹さん(青葉)もお母さん(康子)もいい人だったなあ」
 
などと呟きながら、車(姉の借り物のフィット)を運転していたら急に気分が悪くなった。これはまずいと思い、ちょうど通り掛かった湾岸幕張PAに駐め、運転席と助手席に掛けて横になった。
 
お腹の中が動き回っているような感覚である。胃や腸の痛みではない。生理系の痛みである。まるで妊娠中に幸祐が子宮の中で暴れていた時みたいな苦しさ、と羽留は思った。
 
しかし30分くらいで収まったので「ああ、なんとかなったな。良かった」と思う。幸祐が泣いているので、オッパイをあげよとして服のボタンを外して胸を出したら・・・・
 
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胸が無い!?
 
まるで男のように胸が平らになっているので、ぎょっとする。
 
なんでバストが無いの〜〜〜!?
 

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羽留は取り敢えず水筒のお湯でミルクを作ると幸祐に飲ませる。それで幸祐は落ち着いたので、自分も取り敢えずトイレにでも行って少し落ち着こうと思った。それで幸祐を抱っこひもで抱くと、トイレに行く。
 
女子トイレに入ったところで、掃除のおばちゃんがこちらを見て
「あんた、ここは女子トイレだよ。男トイレは向こう」
という。
 
これは羽留は慣れっこである。
「私、女です」
と答えたが、なぜ自分の声はこんなに低いんだろうと思った。
 
いつものことなので、マイナンバーカードをおばちゃんに見せる。性別確認にはマイナンバーカードが良い。運転免許証では性別が記載されていない。
 
「あら、女だったのね。御免ね」
「私、元宝塚の男役してたんです」
「ああ、それで雰囲気が男っぽいんだ」
 
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元タカラジェンヌであることを言うと、多くの人が納得してくれる。
 
「あんた、声も低いね」
「それで男役してたんですけどね」
「へー。あ、呼び止めてごめんね」
「いえ」
 
それで羽留は幸祐を抱いたままベビーベッド付きの個室に入った。幸祐をベッドに寝かせて、ズボンを下げ、パンティを下げて便器に座ろうとした時、パンティを脱いで目に飛び込んできたものに驚愕する。
 
羽留は危うく悲鳴をあげるところだった。しかし悲鳴をあげていたら警察行きだったろう。
 
「なんでこんなものがあるの〜〜〜?」
 
羽留は困惑したものの、とりあえず便器に座っておしっこをする。
 
しかしそんなものつけたことが無かったので、おしっこが前方、便器の外に飛び出してしまう。
 
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「きゃっ」
と小さな声をあげていったん止める。少し考えてから、その世にもおぞましい物を指で押さえて下に向けた。それでちゃんと便器の中に放出されるようになる。ホッとしたもののの、男の人っていつもこれ指で押さえてしてるのかなぁ。大変そう、などと思った。出終わった所で、トイレットペーパーで汚
してしまったところを拭き、便器内に捨てた。
 
その後、いつものようにトイレットペーパーで自分のお股を拭こうとして悩む。これどこを拭くんだろう? よく分からなかったが、先端の付近を拭いた。
 
立ち上がってパンティを穿くと、先が飛び出してしまう。
 
困る〜。これどうすればいいのよ? 男の人はどうしてるんだろう?と一瞬悩んだが、信次が女装する時、ちんちんは後ろに向けるんだよと言っていたことを思い出す。そうか、ちんちんって後ろ向きに納めないといけないのかと気付き、そうしたらちゃんと収納できた。ズボンも穿き、個室内にある手洗いで手を洗ってから幸祐を抱き、ベッドを戻して水を流し個室を出る。
 
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自販機で午後の紅茶ミルクティーを買い、車に戻って紅茶を一口飲んでから考えた。
 
「これはきっと夢だ。もう一度寝よう」
 
それで羽留はまた眠ってしまった。
 

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トントンという窓をノックする音があり、羽留は目を覚ました。
 
「千里さん!?」
 
慌てて窓を開ける。
 
「これお母さんが羽留さんに渡してって。お土産」
と言って千里は《楽花生パイ》を1箱渡した。
 
「ありがとうございます!」
 
「うっかり渡し忘れたというから、ご実家まで持って行きますよと言って出かけてきたんだけど、ちょうど羽留さんの車を見つけたから」
 
「わあ、済みません。頂きます」
 
それで千里は帰っていった。
 
羽留は眠っていた所を急に起きたので、10分くらいボーっとしていたが、幸祐の泣き声にふと我に返る。午後の紅茶を再度一口飲んでから、おそるおそる自分の胸に触ってみる。
 
バストがある!
 
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それでお股にも触ってみる。
 
「おちんちん無くなってる!よかったぁ」
 
念のため下着の中にも手を入れてみて、おちんちんが無くなり、割れ目ちゃんがあることを確認した。
 
あれはやはり夢だったんだろうな。私、男になっちゃったら、幸祐がオッパイ飲めなくて困るよね、などと思いながら、後部座席に行き、幸祐にオッパイを飲ませた。
 

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バスケット女子日本代表は、7月1-5日に第五次合宿、13-19日に第六次合宿をいづれも東京北区のNTCでおこなった。この第五次には千里3、第六次には千里2が出た。
 
玲央美も疲れがピークに達したのか、1日だけアキを代役に使っていた。千里は彼に声を掛けた。
 
「アキちゃん。何なら女子代表になれるように女の子に変えてあげようか?」
「ボク、おちんちん無くなったら困ります!」
と彼は焦ったように言った。
 
アキは常時女装していて、バストも偽装しているが、女の子になりたい訳ではないようだ。もっとも彼は性転換させても、そもそも人間ではなく“猫”なので人間の女子バスケ代表になれるのかは微妙な気がする。
 

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7月4日、千里1が青葉の彼氏・鈴江彪志から電話を受けた。
 
「実は明日、青葉さんが南米に日食を見にいっていたのが帰国する予定なのですが、何時の飛行機で到着するかとか、あいつ全然教えてくれないんですよ。千里さんは到着予定とか聞いてませんか?」
 
「明日帰ってくるんだ?」
 
千里はそういえば、信次の一周忌法要に青葉が出てくれた後、チリまで日食を見にいってくると言って出かけたなと思った。
 
タロットを引いてみる。
 
聖杯の6(Childfood)が出た。
 
「明日じゃないよ。明後日6日に帰ってくる」
「ほんとですか?」
「私も一緒に行こうか?どこから出てくるかとかも分かると思うし」
「お願いします!」
「指輪でも渡すの?」
「よく分かりますね!そのつもりだったんです」
「結婚式はいつ?」
「それは青葉さんと話し合ってみないと」
「大学卒業前に結婚しちゃったら」
「でもそれだと通学が」
「毎日新幹線で大宮から金沢まで通学すればいいよ」
「それはさすがに辛い気がします」
 
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7月5日、建築中であった板橋区のバスケット練習場(名目上は住宅)が完成し、工務店の橋池さんが立ち会って千里に引き渡してくれたが、この人、契約の時に会った時より凄く女っぽくなってる。恋人でもできたんだろうかと思った。この日はスカート穿いてたし!
 
千里は引き渡しを受けた後で「この程度の家、俺に頼めば3日で建ててやったのに」などと言っていた《こうちゃん》に頼んで、いくつかの改造をしてもらった。
 
(1)1階の東側(道路に面する)の壁の前にもうひとつ別の壁を立て、そこにバスケットのゴールを設置して欲しい(別の壁を作るのは振動が建物に伝わりにくくするため)
 
(2)ゴールはバックボードごと回転して角度をリモコンで自由に変えられるようにしてほしい。
 
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(3)フリースローライン、3Pラインをフローリング上にペイントして欲しい。
 
(3)1階から地階へ降りる階段の所に、跳ね上げ式の床を作り、ボタン操作で跳ね上げたり降ろしたりできるようにする。この部分と1階の部屋との間は、壁ではなくアクリルの透明ボードに変更する。
 
実はこの階段の上に床を置いた1m×4mのスペースで早月と由美を遊ばせておこうという魂胆なのである。むろんここに人がいる時は絶対に床がはねあがらないようにセンサーでチェックする。この仕組みは結局《せいちゃん》がやってくれた。千里も《せいちゃん》に頼んだと聞いて安心した。
 

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7月6日、千里1は「青葉は19時到着の飛行機で帰国する」と予測して彪志に伝えたので、ふたりは17時に成田空港で会い、軽くお茶でも飲んでから青葉が出てくると千里が予測したゲートの前で待った。
 
19:30頃、青葉が出て来て、こちらを見て驚いている。
 
「荷物は私が持って行くね。今夜はホテルでふたりでゆっくり過ごしなよ」
と言って、千里1は青葉の手から荷物を取ると、彪志と青葉を残したまま帰っていった。荷物はもちろん彪志のアパートに持って行った。
 
彪志は青葉に婚約指輪を渡し、青葉も喜んで受けとった。それで2人は交際開始から8年も掛けて婚約者になった。その夜ふたりはホテルに一緒に泊まったのだが、青葉がお腹が痛くなったため、何もせずに寝た。
 
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千里2たちは話し合った。
 
「どうする?」
「放置で」
と千里3。
「青葉は元々女の子なのだから、あらためて肉体も女の子になっても何も問題ないと思う」
 
「本人に訊く必要もないよね」
 
 
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