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■少女たちの卒業(1)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-12-24
 
《きーちゃん》こと、天野貴子(年齢をバラすと叱られるが590歳)は函館戦争が起きた1868年以来、函館に敷地面積300坪・建面積50坪程度の小さな(?)住まいを持っている。30年程東京で暮らしていたのだが、2002年5月に黒木警視が亡くなってから6月に東京のマンションを引き払い、函館に戻っていた。
 
この時期、きーちゃんが関わっていた人物(10人ほど)の大半が、東北・北海道に分布していたので函館はそのサポートをするのに便利な場所だった。
 
きーちゃんと特に関わりが大きかったのはこの4人である。
 
留萌の千里(11)
長万部の佐藤小登愛(22)=佐藤玲央美の姉
大船渡の八島賀壽子(79)=青葉の曾祖母
鶴岡の藤島月華(74)=瀬高美奈子の祖母
 
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千里はまだ小さいし、もうすぐ死亡する見込みだし!賀壽子も2005年くらいに死亡予定だし、月華の寿命は分からないが、そう長くない気がするし(実際には月華は100歳すぎまで生きることになる)、黒木の喪が明けたら恐らく自分は小登愛(おとめ)に付くことになるんじゃないかなあなどと、きーちゃんは漠然と思っていた(正式に発令するのは、遙か雲の上の存在であるT大神)。
 
その小登愛は4人きょうだいの2番目である。
 
佐藤理武 1978
佐藤小登愛 1980
佐藤亜梨恵 1982
佐藤玲央美 1990
 
出生サイン(いわゆる星座)が分かりやすいきょうだいである。(Lib/Vir/Ari/Leo)
 
この4人の内、亜梨恵以外の3人は霊感を持っていた(メンデルの分離の法則!)。この子たちの母(芳子の娘)にはほとんど霊感が無い(優性の法則)。3人とも結構な霊感の持ち主だが、特に小登愛の力は強力で小学生の頃から、友人たちに占いの相談を受け、高い確率で的中させていた。それで
 
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「おとめちゃん、占い師になるといいよ。きっと有名占い師になれるよ」
と多くの友人たちから言われていた。
 

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小登愛は高校を出た後、兄が大学進学を勧めたのを断り札幌で事務職をしながら副業で占い師をしていた。しかし昨年結婚し、彼の実家のある長万部(おしゃまんべ)に移動していた。長万部に移ってからは、主としてメールや電話で、リピーターさんの相談に応じていた。
 
《きーちゃん》は彼女には、ぜひ札幌か函館に移って、再度本格的な占い師活動あるいは霊能者活動をしてほしいと思って、色々“工作”をしている所だった。
 
函館という場所は長万部にいる彼女をサポートするにもわりと良い場所だった。少し足を伸ばせば、千里の所にも行けるし!岩手や山形に移動するのも楽だし。
 
10月の千里の東京行きの時は、千里から連絡があり、都合で自分の眷属たちを地元に置いて東京に行くので、もし都合が付いたらサポートして欲しいと頼まれて、同行したものである。きーちゃんの交通費・宿泊費は千里が出している(報酬は辞退した)。
 
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2002年12月25日の午後、きーちゃんは函館の自宅を愛車 Mazda Tribute Field Break 4WD 4AT V6-2967cc で出ると、札幌に向かった。そして26日早朝、津久美の病室に進入。熟睡している津久美に念のため麻酔を掛けてから、10月の手術の時に取り付けておいた“ダミーのペニス”を取り除いた。
 
これで津久美は完全な女の子になったが、きーちゃんは念のため彼女(もう彼ではない)の様子をしばらく伺っていた。
 
目が覚めて、ペニスが消失しているのに気付くと、最初は驚いたものの「手術しなくて済んでラッキー☆」などと言って喜んでいた。
 
その内、母母が駆け付けてくるが、津久美は興奮気味に話している。あそこも母親に見せている!
 
「これどうなるのかね?」
「今日1日あれこれ検査させてと言われてるけど、多分このまま退院じゃないかなあ。手術のしようがないもん」
「無いちんちんは切れないよね!」
「夕方くらいに退院になるかも」
「お父ちゃんに連絡する!」
 
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と言って、津久美の父親を呼ぶようである。
 
「でも戸籍も既に女の子になったし、これで身体も完全な女の子になったし。私、夢でも見てるみたい」
 
「よかったね」
 
「思えば、千里さんがいたから、今の私があるんだろうな」
「ああ、この病院を紹介してくれた子ね」
「そそ。千里さんは戸籍が男だけど、学籍簿は女なんだよ」
 
「それ戸籍は直せないの?」
 
「なんか今国会で審議してるらしいよ。多分2-3年の内には戸籍の性別を変更できるようになるらしい。その法律ができてから、戸籍を変更するんじゃないのかなあ」
と津久美は言った。
 
「そういえば、そんな話だったね」
 

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きーちゃんは衝撃を受けていた。
 
千里の戸籍が男〜!?
 
嘘でしょ。あの子、女の子にしか見えないのに。
 
きーちゃんは確認したくなり、トリビュートのエンジンを掛けると、病院の駐車場を出た。そして一路、留萌を目指す。
 
千里の母親に変装して、市役所に行き、中学受験に使うという名目で、村山千里の住民票を取得した。
 
村山千里・長男・平成3年3月3日生
 
と書かれている。
 
長男〜〜〜!?
 
あの子、ほんとに男の子なの〜〜〜!???
 
《きーちゃん》は、役場の駐車場に駐めたトリビュートの運転席でたっぷり10分近く、思考停止していた!
 

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12月25日(水)に終業式が終わって学校は長い冬休みに入った。
 
私立中学を受験する玖美子や蓮菜は受験勉強に必死なようである。田代君も彼の成績なら私立を受けてもいいと思うのだが、彼は高校から私立に行くと言っており、中学は地元の公立に行くらしい。
 
受験などしない、千里・恵香・美那・穂花などは神社でのお正月の準備で忙しくしていた。
 
千里の父の船は27日(金)夕方に戻ったが、大漁旗を立てていなかったので、どうもかなりの不漁だったようである。年の最後の漁だから漁獲が少々悪くても大漁旗は立てる。立ててないということは極端に悪かったということだろう。父の機嫌も悪かった。父の仕事も限界に近づきつつあるのかなぁと千里は思った。
 
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父の船は一週間お休みで、次の出港は年明けた1月6日(月)である。父が10日も自宅にいると面倒くさいなあと千里は思った。玲羅などハッキリ「お父ちゃん、どっか行ってればいいのに」などと言うので「そんなこと言うものではない」と千里は、たしなめた。
 

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千里は日中神社に行って、参拝客の応対や縁起物の販売をしたり、あるいは昇殿して舞を舞ったりし、帰宅すると母と一緒におせちを色々作った。作ったおせちは取り敢えず床下の収納庫に入れる。室内は暖房が入っているので、食べ物が悪くなってしまうが、たくさん作るので、冷蔵庫には入らない。外に出しておくと全て冷凍食品になる!
 
ビールなどは面倒なので屋外で保存しているが、適宜持って来て冷蔵庫に入れて“温める”(外に出していると凍結している)。
 
(エチルアルコールの融点はマイナス114℃であるが、お酒は水(融点0℃)とアルコールの混合物なので、一般的にはアルコールの含有率が高いほど、融点は低い。ビールはマイナス3℃、日本酒はマイナス10℃くらいで凍るが、ウィスキーが凍るのはマイナス30℃、ウォッカはマイナス40℃くらいである。ロシアでは冬にウォッカが凍るのは普通の現象だが、北海道ではウィスキーでも凍るのはかなり珍しい現象である。普通は内陸の旭川でもマイナス27-28℃程度までしか下がらない)
 
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12月27日(金).
 
神社で巫女さんの仕事をしていたら、主として頒布や受付の仕事をしていた穂花から
「津久美ちゃん、退院したんだって。それで来年の部長も津久美ちゃんに決まったって」
と聞いた。
 
「随分早い退院だね」
「ちんちん切ろうとしたら、いつの間にか、ちんちん勝手に消滅していたらしい」
「へー。不思議なこともあるもんだね」
「それで手術する前に完全な女の子になっちゃったから、手術無しでそのまま退院」
「良かったじゃん。痛い思いしなくて」
 
「千里は、ちんちん切った時、やはり痛かった?」
「私、ちんちん切ったりしてないけど」
「やはり物心つく前に切ってもらったとか?」
「うーん・・・」
「千里が既に幼稚園の時には、ちんちん無かったというのはリサの話から確実なんだけど」
 
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千里は密かに《きーちゃん》にチャンネルを繋ぐと
『津久美ちゃんの件、ありがとう』
と言った。
『まあ、ちんちん切って短くして作ったクリトリスは感度悪いからね。切らずに縮めてあげたよ』
『へー』
『濃いコーヒーをお湯で5倍に薄めて1杯汲むようなものだから』
『なるほどー!』
 
そうか。ちんちんはコーヒーと同じなのか!そういえば、るみちゃんが、
「ちんちんって短い方が感度はいいらしい。トモのも半分に切ってあげようかな」とか言ってたし。(留実子の話は下ネタが多い!)でも半分に切ったら感度落ちるのでは??
 
一方、きーちゃんは、こうやって千里と通信してても、千里の波動は女だけどなあと疑問を感じた(直接訊いても、正直に答えるとは思えない!きーちゃんは最近、千里が如何にも純情っぽく見えるのは実は演出で、この子実は凄い子なのではと思い始めていた)。
 
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神社に来ているメンツは、最年長の梨花さん(25), 中学生の純代と広海、のほか、主力が千里たちの世代で、この日は千里・恵香・美那・穂花・佳美・沙苗!などといった面々が来ている。ほとんどの子が“お年玉稼ぎ”の感覚である。蓮菜と玖美子は受験で忙しい。手が足りないので沙苗(さなえ)に声を掛けたら「巫女衣装着られるなら」と言って喜んでやってきた。
 
年末には蓮菜の従姉、鈴恵・弓恵も来てくれることになっている。三姉妹の末娘・守恵は大学受験である。P神社巫女の常連のひとり、高校3年の乃愛さんも同じく受験なので今回は終始欠席である。そんなんで手が足りないことから沙苗を呼んだのである。
 
沙苗は、七五三のお手伝いをしてもらった時は、着替え用に1部屋割り当てたらしいが、年末年始は昇殿祈祷を申し込む人がけっこう居て部屋が足りないので、
「他の子と一緒でいいよね?私たちは気にしないから」
と言われて、他の女子と一緒に着替えた。
 
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「沙苗、完璧に女の子下着だ」
 
彼女は、パンティにブラジャー・キャミソールを着けていた。むろんパンティに変な形は見られない。
 

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「巫女さんするから、女の子下着をつけてきたの?」
「ううん。最近ずっとこういうのしか着てない。もう男物は着ない」
「おお、だいぶ女としての自覚が出てきたね」
 
「沙苗(さなえ)もそろそろ男の子は卒業して女の子になろう」
「4月までに、お股の形も手術して直せばセーラー服で通学できるよ」
 
などと言ったら、沙苗は何か考えているふうだったので、恵香たちは顔を見合わせた。
 
「沙苗、疲れてる?」
「ううん。大丈夫。昨夜ちょっと遅くまで勉強してたからかも」
「勉強するなんて、えらーい!」
という声。家でまで勉強する子はこのメンツでは穂花くらいである。
 
「疲れてるなら、取り敢えず、これ飲むといいよ」
と千里が錠剤を渡すので
「強壮剤か何か?」
と言いながら、沙苗はその錠剤を飲み、お茶で流し込んだ。
 
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「エストロゲンだけど」
「え〜〜〜!?」
 
「普段も飲んでるんだろうけど、疲れてる時は少し多めに飲むとパワーが出るよ」
などと千里は言っている。
 
「エストロゲンって何だっけ?」
と恵香が訊く。
「女性ホルモンの中の卵胞ホルモンだよ」
と千里。
 
「ほほぉ」
 
でも年末年始のバイト中、沙苗は毎日千里からエストロゲンをもらって飲んでいた!
 

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12月28日(土)、父は「みんなで温泉に行こう」と言ったが、千里は
「神社が忙しいから行かない」
と言い、玲羅は
「私図書館行ってきたいから行かない」
と言い、母まで
「ごめん。明日は“9の日”だから、今日中に買物しておかないといけないものがあるから」
と言って、全員に振られたので、ぶつぶつ言いながら、結局岸本さんを誘い、岸本さんの奥さんの運転する車で近隣の神居岩温泉に行ったようである(奥さんに運転させたのは本人は飲む気満々)。
 
母は図書館に行きたいという玲羅をポストしてから、ジャスコまで行って買物をしたようである。千里はマジで神社に行き、縁起物を作ったり、頒布所に座ったり、あるいは昇殿祈祷するお客さんを案内したりしていた。
 
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その日の夕方、温泉から戻った父は
「おい、漁協で年末年始に登別(のぼりべつ)温泉に行くツアーの案内が来てなかったか」
と言う。
 
「どうだったっけ?」
「4泊5日のツアー、1人5万円で行ってこれるんだよ。今日中なら申し込み間に合うらしい。みんなで行かないか」
 
母が暗い顔をする。お金が無いというのを、気の弱い母は言えない。
 
申込書は来ていたけどお金が無いから、即捨てていた。それを今日岸本さんから聞いたのだろう。
 
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少女たちの卒業(1)

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