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沙苗は中学の入学式前に髪を切らなきゃと言われて町に出た。一応、少しでも抵抗するような気持ちでレディスのセーターに、ロングスカートを穿いている。
それでいつも行っている美容室に行き、中に入ろうとしたら、千里が出て来た。
千里はセーラー服を着ていて、髪も長いままである。
「髪切ったんじゃないの?」
「毛先を少し切り揃えてもらっただけだよ」
「その髪で中学に行くの」
「もちろん。セーラー服着て通学するよ」
「いいなあ」
「沙苗(さなえ)もセーラー服で通学しなよ」
「私、とてもそんな勇気無い」
「髪切りに来たの?」
「うん。男子は耳が出て、衿につかない長さまで切らないといけないから」
「その髪、切るのもったいなーい。髪じゃなくておちんちん切りなよ」
沙苗はずっと疑問に思っていたことを尋ねた。
「千里はもしかして、ちんちん切っちゃったの?」
「あんなもの3年生の時に切ったよ」
「じゃ4年生になってから、女子トイレ使って、身体測定も女子と一緒に受けて、体育の時の着替えも女子と一緒になったのは、本当に女の子になったからなんだ?」
「女の子でなかったら、剣道の女子の部に出られるわけない」
「あ、そうだよね!」
「沙苗(さなえ)もちょっと手術して、入学式までにちゃんと女の子になっておけば、堂々とセーラー服で通学てきるよ」
「それはそうかも知れないけど」
「セーラー服で通いたいんでしょ?」
「うん」
と言って、沙苗は頷く。
「じゃ、ちんちん切っちゃおう。おいでおいで」
と言って、千里は沙苗をBレディースクリニックという所に連れて行った。
「ここで切ってくれるの?」
「その筋では有名だよ」
「へー」
「“Bレディー”は be ladyで“女になる”、クリニックは“クリに作る”の略で、ちんちんをクリトリスに改造してくれるんだよ」
「そうなんですか!?」
待合室で待つが、やがて名前を呼ばれる。千里も付き添って一緒に診察室に入った。
「この子が、ちんちん切って女の子になりたいと言っているので、手術お願いします」
と千里が言った。
「え?その子、女の子じゃないの?」
と女の先生が言う。
「まだ男の子なんですよ」
「嘘でしょ?見せてみて」
それで沙苗がベッドに横になり、スカートを脱ぎ、パンティも脱ぐ。
「ほんとにちんちん付いてる」
「それを切ってあげてください」
「君、このちんちん取っていいの?」
「はい。私、女の子になりたいです」
「了解。じゃ手術しようね」
と言って沙苗は麻酔を打たれた。
意識を回復すると、病室に寝ていた。付いてくれていた千里がナースコールする。それで先生が来て、傷口を調べる。お股に巻かれた包帯を取ると、そこには12年間、沙苗を苦しめた、ちんちんと玉袋は無く、代わりに美しい割れ目ちゃんができていた。
沙苗は新しい自分のお股を見てドキドキした。
「もう傷は治ってるね。念のため、この薬を毎日新しいクリトリスに塗って、よくモミモミしてね」
「はい。傷を治す薬ですか?」
「ちんちんが生えてこないようにする薬よ」
「生えてくるんですか?」
「ちんちんってしぶといからさ。切っても切ってもまた生えてくるのよ」
「え〜〜〜!?」
「ちんちん生えて来たら嫌でしょ?」
「いやです。せっかく女の子になれたのに」
「これをクリちゃんに塗って、よくモミモミすれば、もう生えてこないから」
「分かりました。ちゃんと塗って毎日モミモミします」
「夕方には退院できるよ。これ君の性転換証明書ね」
と言って、女医さんは沙苗に証明書を渡した。自分の名前と生年月日が書かれたのに続き、このように書かれている。
上記の者は性転換したことを証明する。
旧性別:男
新性別:女
患者には、陰茎・陰嚢・睾丸・精管・精嚢・前立腺は無く、卵巣・卵管・子宮・膣・大陰唇・小陰唇・陰核が存在する。また尿道は通常の女性の尿道口の位置に開口している。よって患者は女性である。
「これを市役所に提出すれば、住民票はちゃんと女に変更されるからね。中学にはセーラー服を着て通えるよ」
と医師は言った。
「嬉しい」
「沙苗(さなえ)、良かったね」
と千里が言った。
「ありがとう」
と沙苗も答えた。
そこで目が覚めた。
沙苗はパンティの中に手を入れて、お股の形を確認する。そして
「はあ」
と溜息をついた。
ちなみにわざわざショーツの“中”に手を入れるのは、ショーツの外から触っても、あるかないか、自分でもよく分からないからである(自然に無くなることはないはずではあるが)。
沙苗のちんちんは最近めったに大きくならないようになったし、小さくなっている時は自分でも摘まめない。陰嚢も肌に貼り付いていて“ぶら下がる”ことは無い。それで女児用ショーツが無理なく穿けたりする。むろんショーツを穿いている所を(恵香たちに)見られても“形”が見えないので
「上手に隠してるね。それとも取っちゃった?」
などと言われる。
「なんか最近、この手の夢ばかり見るなあ」
と沙苗は思う。
実は数日前にも母に連れられて病院に行き、
「この子、女子中学生になりたいと言っているので、女の子に変えてやって下さい」
と言われ、性転換手術をしてもらった夢を見たばかりである。あの時も女の子の形になった、お股が嬉しくてたまらなかった。
その数日前には、こんな夢も見た。
髪を切りに行ったら、美容院のメニューに「ヘアカット 3000円」の下に「ペニスカット 5000円」というのがある。
「ペニスカットって何するんですか?」
「伸びすぎたペニスをカットするのよ。沙苗(さなえ)ちゃんもカットする」
「お願いします!」
するとパンティを下げられて、ペニスにハサミを当てられる。
「結構伸びてるね。4cmくらいあるかな。何cmくらいにする?」
「じゃ0cmで」
「全部切るのね?」
「はい」
「そんなに短くするって運動部にでも入るの?」
「ええ、ちょっと」
「運動部なら長くしてるのはぶらぶらして邪魔よね。じゃ全部切るね」
と言って、美容師さんはペニスを根元からハサミで切ってくれた。
お股が凄くすっきりした。
髪切ってスッキリしたと言う人は多いけど、ペニス切るのもスッキリするよね?
「またペニスが伸びてきたら切りに来てね」
「はい!お願いします」
という所で目が覚めた。
病院(びょういん)じゃなくて美容院(びよういん)でペニスをカットしてくれるなんてシュールだけど、中世ヨーロッパでは床屋さんが去勢手術してたんだっけ!?髪を切るのも玉を切るのも似たようなもの??
「同じことが起きてもさ、歓迎する人と嫌がる人があるよな」
とその日、田代君は珍しく神社に来ていて言った。
この日は神社の一室を借りて勉強会をしていたのだが、田代君が
「札幌行って来たから、お土産」
と言って“美冬”(石屋製菓の洋菓子)を持って来たので、お茶を入れて一緒に食べていた。ついでに彼も入れて小学校の復習をしていた。
「ここは女子専用だから、雅文、ここに居るならスカート穿け」
と蓮菜に言われて、彼は本当にスカートを穿いている。このスカートは田代君のウェスト(81cm)に合うもので、なぜか蓮菜のロッカーに入っていた。でも彼のスカート姿は違和感無い。着こなしている感じで、千里や恵香は彼のセクシャリティに疑問を感じた。
「具体的には?」
と蓮菜が訊く。
「山盛りのごはんを出されたら、お腹が空いてた人は嬉しい。ダイエットしてる人には迷惑」
「まあそういうのはあるよね」
「文庫本は安いから、安く本を読みたい人にはいいけど、視力が悪くて大きな字で読みたい人には辛い」
「その人のニーズとのミスマッチだな」
と蓮菜が言う。
「昔話によく王子様と結婚して幸せになりました、ってのあるけど、王子様と結婚して幸せになれる人は、強い権力欲のある人だけだと思う。ほとんどの女性にとっては、凄まじいストレスで、疲れるだけ。特に庶民出身の王妃は無茶苦茶いじめられるし」
と田代君。
「それはこのグループで過去に話したこともあった」
と蓮菜。
「夏に暑いと南の国の動物であるライオンとかニシキヘビは喜ぶけど、寒い所の動物であるペンギンとかシロクマは辛い。冬に寒いとその逆」
そういえば、そんな話を3月1日のラストデートで晋治としたな、と千里は思い起こしていた。
「俺は男だから、ヒゲが生えて、声変わりして身体が男らしくなっていくのはおとなの男になっていく感じで嬉しい。でも、村山はそういうのが嫌だったから、睾丸を取って男性化が起きないようにした」
うーん。。。まあ、そういう話でもいいかなと千里は思った。
個人的には自分は女だと思っているから、自分が思っている性別に合うように身体を変更してもらってきただけだ。
「沙苗(さなえ)も、せめて睾丸取っちゃえばいいのにね」
などと恵香が言う。
「千里、子供でも手術してくれる病院、教えてあげたら良かったのに」
「あの子は女の子になりたい気持ちも強いけど、男を辞める踏ん切りがつかないでいるのだと思う。あの子、私たちの前では“私(わたし)”という自称使うけど、学校では“ぼく”を使うし“俺”とも言う」
「確かに確かに。無理してるなと思って見てる」
「そういう子はまだ去勢とかしてはいけないと思う。後戻りできないことだから」
と千里は珍しくマジで言った。
(千里の言葉は99%のジョークと1%の嘘でできている!でも丸山アイになると30%のジョークと70%の嘘で出来ている!!いつも100%マジの青葉はとてもこの2人には勝てない(何の勝負!?))
「まあ18歳になったら、すぐ睾丸は取るだろうけどね」
と千里が付け加えると
「ああ、それは間違い無い。あそこ親も沙苗が女の子することを認めてるから、きっと20歳前に性転換手術しちゃうよ」
と玖美子が言う。
「だから沙苗は何とか耐えていくと思う」
「あの子、精神的に脆そうで意外としぶといよ」
「親も協力的だしね」
とみんな言う。
実際、沙苗がまさかあんなことをするとは、この時、誰も思っていなかった
「むしろ私、るみちゃんの方が心配」
と美那が言った。
「私も心配してた。このメンツが女子の中では一番るみちゃんと親しいからさ。あの子が早まったことしたりしないように、みんなで気をつけてようよ」
と蓮菜は言った。
みんなそれに頷いていた。
鞠古知佐(まりこ・ともすけ)はその日トイレに入っていて、排尿時に激痛を覚えた。あまりの痛さに気を失いそうになったが、わずかに残る意識で何とかトイレのドアをアンロックし、そのまま倒れた。
異様な音に驚いた母が来てみると、知佐が倒れている。
「ともちゃん、ともちゃん」
と呼びかけるが反応が無い。
病院に連れて行こうと思ったが、気を失っている50kgの息子を車に乗せるのはとても女の力では無理である。会社にいる夫に電話すると
「救急車を呼べ。俺も行く」
と言うので、119番した。
それで知佐は市立病院に運び込まれた。
救急処置室のベッドに寝かされた所で意識を回復する。
「どうしました?」
と医師が訊く。
「ペニスにできものができてて、激痛で」
「どれどれ」
と言って、医師は知佐のズボンとトランクスを脱がせた。ペニスをチェックする。
「ああ、これは大丈夫。すぐ治りますよ」
「ほんとですか?」
「すぐ手術しましょう」
「手術?」