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(C) Eriko Kawaguchi 2021-12-29
千里は2002年2月2日にセーラー服の採寸だけしてもらったのだが、直後に神崎さんから、娘の美加さんが着ていたセーラー服をもらってしまったので、注文する必要はなくなった。しかし小春は、千里を装ってお店に電話し、この日採寸したサイズで新しいセーラー服を作ってもらった。
小春はこれを3月3日(月)(千里の誕生日!)に受け取った。代金は千里の預金を勝手に引き出して!払っておいた。小春はこのセーラー服を、千里が神崎さんからもらったセーラー服とこっそり入れ替え、神崎さんからもらった制服は自分で着ることにした。実は神崎さんから頂いたセーラー服は、千里には少し大きすぎたのである。
2003年3月20日(木).
N小学校で卒業式が行われた。
この日、千里は自宅でS中学の女子制服(セーラー服)を着ると、寒いのでその上にダウンコートを着て、登校した。
千里が教室でコートを脱ぎセーラー服姿を曝すと、ざわめきがある。
「千里、ほんとにセーラー服、着て来たんだ!」
「当然。私、女の子だもん。中学にはちゃんとこれで通学するから」
「えらーい。勇気あるなあ」
などとみんな言っている。
その千里を羨ましそうに見る視線がある。
セーラー服を着ている留実子である。
「るみちゃんも学生服着ればいいのに」
と千里は言った。
「えーっと・・・」
「中学では何か言われるかも知れないけど、小学校には服装規定は無いよ」
「そうだよね!」
すると他の女子からも
「るみちゃんの学生服姿見たーい」
「学生服、持って来てないの?」
などという声がかかる。それで留実子は
「よし、着替えてこよう」
と言って、紙袋を持って女子?更衣室に行った。
「やはり持って来てたんだ」
「だって、送る会でも着てたもんねー」
もうひとり、千里を羨ましそうに見る視線がある。
「沙苗(さなえ)ちゃんもセーラー服着ればいいのに」
「ぼ、ぼくは・・・・」
「セーラー服持ってないの?」
と恵香が訊くと
「持ってない」
と悲しそうに言う。
「たったら、せめて学生服は脱いで、私服で出たら?」
「私服(しふく)とか持ってきてないし」
「私のでもよければ貸そうか?」
と言って、千里は黒いセーターと黒いレディスパンツ、そして同じく黒のオーバースカートを見せた。
「千里、それ自分が着るつもりで持って来たの?」
と美那が訊く。
「まさか。沙苗がセーラー服持ってないかも知れないと思って代わりになるもの用意した。セーラー服がもう1着あれば貸しても良かったんだけどね」
しかし
「千里のセーラー服が沙苗に入るわけない」
という声もある!
「その私服、借りようかな・・・」
と沙苗が言う。
「うん、着替えなよ。小学校では服装は自由だよ」
「じゃ借りる」
と言って、千里から紙袋を受け取り、更衣室に行こうとしたが、みんなに止められる。
「更衣室は今るみちゃんが使ってるから、ここで着替えなよ」
「るみちゃんは女子更衣室じゃないの?」
「沙苗(さなえ)ちゃんも女子更衣室でしょ?」
「私が女子更衣室に入ったら叱られるよぉ。男子更衣室使うよ」
「叱られることはないと思うけど。それにるみちゃんはひょっとしたら男子更衣室かも知れない」
「えっと・・・」
ということで、沙苗はみんなが見ている所で着替えることになってしまった。要するに女子たちによる性別検査である!
「なんだ。ちゃんと女の子下着をつけてるじゃん」
「ブラジャーまでしてるし」
「これでは男子更衣室使えないよねー」
「あまり見ないで」
沙苗の周囲には女子が集まっており、男子たちからの視線を遮っている。むろん男子たちも、こちらを見たりは、しない。
「パンティに、ちんちんの形が無い」
「もしかして、もうちんちん取っちゃったの?」
「ちんちん取ったのなら、女の子の服着なきゃ」
沙苗は女の子下着の上に千里が渡した袋の中からまずはブラウスを身につける。
「えらーい。ちゃんとブラウスのボタンを留められるんだ」
「それゃ留められるよ」
ブラジャーをしてるので、ブラウス姿では胸が膨らんで見える。彼(彼女?)はその上に元々着ていたトレーナーを着て、千里から借りたレディス仕様のセーターを着る。そして黒いレディスパンツを穿いた。
「千里、そのパンツ、ウェストは何cm?」
「これ、実はうちのお母ちゃんのなんだよ。私の服じゃ入らないと思って。サイズは69cm」
「なんか大きいと思った。でも普通の男子だと、69でも穿けないよね」
「まあ沙苗(さなえ)は3割くらい女の子だし」
「確かに3割かも」
と多くの女子が納得する。
「オーバースカート穿かないの?」
「どうしよう?」
「穿いちゃえ、穿いちゃえ」
「よし。穿いちゃおう」
パチパチと女子たちから拍手があった。
それで沙苗は、セーラー服ではないものの、女子に見える服装になったのである。元々彼(彼女?)は髪型は女の子っぽくしているので、こういう服を着ても違和感がない。
やがて留実子が戻ってくるが、そのりりしい学生服姿に女子たちがきゃっきゃっ言って、並んで記念写真撮る子が相次ぐ。
「花和の人気すげー」
と同じサッカー部の鈴木君が言っていた。
時間になったので、体育館に通じる通路まで行って待機する。我妻先生が留実子を見て
「おお、花和君は格好いいね」
と言うので、留実子は照れていた。先生は沙苗が女性的な服装をしているのには何も言わなかった。
結局私服で参加したのは、札幌の私立A中学(制服が無いらしい)に進学する典子と、黒いセーターに黒いパンツ(+黒いオーバースカート)の沙苗の2人だけだった。典子は黒いビロードのドレスでの参加である。
この付近の記憶は4月上旬の“神様会議”の結果、混乱させられ、典子以外に私服で参加したのは、セーラー服を着られなかった千里と思い込んでいる人がかなりある。正しく、千里はセーラー服で参加し、黒いズボンを穿いていたのは沙苗であることを覚えていたのは、蓮菜と玖美子のみである。
(“記憶操作”の対象にならなかった2組の子たちは全員、千里がセーラー服を着ていたことを覚えていたが、沙苗もセーラー服だったと思っていた)
5年生の鼓笛隊が演奏する『地上の星』に合わせて6年生が入場し、体育館前方の席につく。
鼓笛隊のドラムメジャーは児童会“副会長”の渡部美知花(合唱サークル)である。実は3年ぶりに男子の児童会長となった山本君に最初ドラムメジャーをやらせたら、あまりにもリズム感が悪く、彼のメジャーバトンの動きに合わせて演奏するのは不可能だった。
それで副会長の美知花がドラムメジャーを務めることになり、鼓笛隊の指揮者は、4年連続で女子が務めることになった。児童会長以外がドラムメジャーになるのは、12年ぶりらしい。山本君は校旗を持つ旗手に回った!(これならリズム感はあまり関係無い)
教頭先生の開会の辞のあと、馬原先生がピアノを弾いてそれに合わせて『君が代』を全員で斉唱する。そのあと卒業生が1人ずつ名前を呼ばれて校長先生から卒業証書を受けとった。
留実子は我妻先生から「花和留実子」と呼ばれると「はい」と答えて、学生服姿で壇上にあがり、校長先生から卒業証書を受け取った。校長は学生服の留実子を見て一瞬ギクッとしたが、すぐ笑顔になって「おめでとう。夏の大会でのハットトリック凄かったね」と言って証書を渡した。
沙苗は自分の名前を呼ばれると、女の子のような声で「はい」と答え(みんなには隠していたが実はこういう声も出る)、黒いセーターとズボン(オーバースカートも穿いているが、これは遠目にはよく分からない。上着の裾にも見える)で壇上に登る。校長先生は一瞬首を傾げそうになったが、すぐ普通の顔に戻って「おめでとう。剣道頑張ってるね」と言ってくれた。
会場内で、沙苗のことを「私服を着ている男の子」と思った人と「私服を着ている女の子」と思った人があったようである。保護者たちの多くは「私服の可愛い女の子」と思い「あんな可愛い子いたっけ?」「最近転校してきた子?」などと話していた。沙苗は女子として見ても、かなり美人の部類に入る。
千里は担任の我妻先生から「村山千里」と呼ばれると「はい」と大きな声で返事し、セーラー服姿で壇上に上がる。一部の4〜5年生の間にざわめきがあった。校長は笑顔で「合唱とか剣道とかで頑張ったね。卒業おめでとう」と声を掛けてくれて千里に卒業証書を渡した。
全員に卒業証書が渡された後、校長先生の式辞、市長(の代理人)の告示、PTA会長の祝辞などと続く。そして5年生代表(山本君)の送辞、そして6年代表で典子の答辞があった。
合唱サークルのピアニスト・渡部香織(5年)のピアノ伴奏で校歌を斉唱した。香織はこの役を果たすためドレスを着て来ており、鼓笛隊には今日は参加してない、
その後、教頭先生の閉会の辞があり、5年生の鼓笛隊が演奏する『蛍の光』に合わせて卒業生は退場して、卒業式は終了した。
千里たちは、教室に戻り、あらためて我妻先生から1人ずつ卒業証書を受け取った。留実子はもちろん学生服、沙苗はもちろんセーターとスカート、千里はもちろんセーラー服で受け取った。
その後、先生から15分ほどお話がある。その話が終わった頃、5年生が来て部活の先輩に記念品を渡してくれた。
千里は、剣道部の真南から“赤胴”のキーホルダー、ソフト部の尋代からコーヒーカップ、合唱サークルの津久美から“みどりのそよ風”の楽譜がボディにプリントされた可愛いボールペンをもらった。
「先輩、セーラー服似合ってます。可愛い女子中学生になってくださいね」
「津久美ちゃんも来年セーラー服着られるよ。君もきっと可愛い女子中学生になれるよ」
「はい。頑張ります」
「やはり、ちんちんなんて、さっさと切っちゃうものだよねー」
「たまたまとか、やはり4年生くらいまでに取った方がいいですよねー」
などと千里と津久美が言ってると
「お前ら、安易に切るとか取るとか言うな」
と鞠古君が言っていた!
でも千里がプレゼント品を3つ抱えていると、恵香が
「千里、3つももらってる。豊作」
などと感心していた。
ちなみに、合唱サークルもソフトボール部も女子だけだが、剣道部には男女の部員がいる。基本的には女子の千里・玖美子には女子の在校生(千里には真南、玖美子には如月)が記念品を渡したのに対して男子の佐藤君・工藤君には5年男子の倉岡君、遠藤君が記念品を渡した。
しかし沙苗には、5年生女子の聖乃が記念品を渡した。記念品も千里や玖美子がもらったのと同じ、赤胴のキーホルダーである(男子卒業生への記念品は竹刀のキーホルダー)。
「沙苗先輩、中学では可愛い女性剣士になって下さい」
と聖乃から言われて、沙苗は真っ赤になっていたものの
「なりたーい!」
と笑顔で言っていた。
下級生との交款が終わった後、卒業生は、再度体育館に行き、クラス単位で記念写真を撮った。この時、千里はいつものように蓮菜の隣に並ぶ。千里の反対側の隣には、ちゃっかりセーラー服を着ている小春を入れた。そしてその小春の隣に沙苗を並ばせた。学生服の留実子は仲の良い鈴木君の隣に並んだ。この集合写真は、写真屋さんが撮影したほか、多数の保護者が撮影した。今日は17-18歳の姿になっている小町もデジカメで撮影していた。
この写真は卒業生全員の許に残ることになるので、千里が私服を着ていたと思い込んでいた人たちもこの写真を見ると千里はセーラー服だったことに気付き、だいたいみんな20歳頃までには記憶の誤りを訂正していくことになる。記憶操作の目的は千里の性別に関する“ソフトランディング”なので、記憶訂正されていくのは全く問題無い。
クラス単位の記念写真の後は、思い思い友だち同士で、また親子で並んで記念写真を撮る。小春も小町も“写真係”となって会場を回っていた。
千里は、蓮菜・恵香・美那と並んだ写真、合唱サークルのメンツで撮った写真、また母と2人並んだ写真などを撮ってもらった
沙苗の母は、彼が学生服ではなく、黒いセーターとスカートで参加したことについて
「びっくりしたけど、学生服を着たくなかったのは理解する」
と言ってくれて、そのスカート姿の沙苗と並んで記念写真を撮ってもらっていた。
「髪切るのは入学式の当日にしようか」
とお母さんは言う。
「うん」
と沙苗は辛そうな顔で答えた。
入学式は13:00からなので、午前中に美容室に飛び込んで切ってもらえば、ギリギリ間に合うはずである。
「千里もその髪、女子としても違反」
と美那から指摘される。
「当日の午前中に切るよ」
と千里も答えた。