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■少女たちの星歌(7)

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千里はキョロキョロした。
 
「ここは・・・ハワイの近く?」
と尋ねる。
 
「さすが千里だね。ここはハワイから2500kmくらい北西の場所だよ」
と、きーちゃん。
 
「あまり近くなかったかな」
と言いながら、千里はチキンの箱を、きーちやんと賀壽子に渡した。
 
「ありがとう」
「いいのかしら私まで」
 
「孫からのプレゼントということで」
「そうだね。あんたはうちの曾孫に少し似てるかも」
「曾孫さんがおられるんですか?女の子ですか?」
「うーん。。。たぶん女の子でいいんだろうなあ」
「は?」
 

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千里は太陽を見上げる。
 
「太陽が欠けてるけど、欠け方が違う。ここではまだ日食前?」
「そうそう。これから金環食が起きる。もう一度楽しもう」
「へー。また金環食になるんだ」
「私たちが月の影を追い抜いたからね」
「すごーい」
 
千里はふと思った。
「もしかして私たち実体?」
「うん。実は私たちは最初からここにいたんだよ。パラオには幽体だけを飛ばした」
「へー!」
 
「でも、ここからたぶん一番近い大きな陸地がハワイだと思うよ」
と、きーちゃんは言った。
 
「小さな陸地だったら?」
「うーんっとね。ここから700kmくらいの場所にクレ島というのがあるけど」
「方位角は?」
「・・・・178度55分 683.6km」
 
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「あ、ほんとだ。きれいな丸い輪っか状の島だね。1ヶ所広くなってて、細い三角形の形してる。そこに滑走路みたいなのがあって、小さな設備もあってアンテナみたいなの建ってる。気象観測基地か何か?」
 
「なぜ分かる?」
と、きーちゃんは思わず言った。
 
私、今“環礁”とは言わなかったよね?単に“クレ島”と言ったよね?それなのに丸い島だと分かるの?と、きーちゃんは心の中で自問自答した。
 
「だって見えるじゃん」
「私には見えない」
「方角と距離を教えてもらったら見えるよ」
 
「・・・・・」
「どうしたの?」
 
680kmの先にあるものが見える?680km先の10kmサイズのものって、視角としては6.8m先の10cmサイズのものだから、確かに原理的には見えてもおかしくないかも知れない。いや違う。680km先は水平線の下のはず。自分たちは今高度1000mの所に浮かんでいる。この高さで見える水平線の距離は3.6k×√hで、3.6k×√1000 = 114km にすぎない。だから680km先の様子は水平線より下になり見えるわけない。
 
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きーちゃんはハッとした。賀壽子が微笑んでいる。
 
そうか。この子はたぶん物理的に光学的に“見て”いるのではない。だいたいこの子、私がハンディPCで大圏コースを計算して表示されたの見て伝えても、その方角を向きもしないじゃん。
 

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「じゃ、千里、ここから231度30分の方位、5669kmの所に何が見える?」
「なんか小さな島が4つ並んでる。もしかしてさっき居た場所?」
「よく分かったね」
「あ、さっきチキン売ってた子が男の子の服に戻ってる」
 
「あれ、きっと女の子の方が売れるからとか言われて、女の服を着せられたんだよ。女の服に慣れてない気がしたもん」
と賀壽子が言っている。
 
「そんな気もした。なんか恥ずかしそうにしてたもん。きっと女の服を着て人前に出た経験が少ないんだろうと思った」
と千里も言う。
 
「もっとたくさん女の子の服を着て、人前に出てたらもっと女の子らしくなれるよ」
と千里が言うと
「ああ、それはいいかもね。いつも着てればいいよね」
と賀壽子が言っている。
 
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男の娘製造計画?
 

この子が見えるのは“見える”部分だけだろうかときーちゃんは疑問を感じた、更に質問する。
 
「だったら、ここから208度38.5分の方角、542.4kmの所に何か見える?」
「何も無いよ。海だけだよ。あ、待って。海の下に何かある。大きな山。海の中だけど」
「正解。そこにはハンコック海山がある。頂上の海面からの深さ分かる?」
「うーん。。。どのくらいかなぁ。200-300mあるような気がする」
「正解。あんた凄いね」
「えへへ」
 
「あんたを船に乗せてたら、絶対暗礁とかにぶつかる心配無いね」
と、きーちゃんが言うと、千里はぶるぶるっとした。
 
「私、絶対漁船には乗りたくない」
「女の子を漁船に乗せることはないから心配することはない」
と賀壽子が言う。
 
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(きーちゃんも賀壽子も千里を普通の女の子だと思っている)
 
「そうですよね!」
 
「あんた船酔いでもするの?」
「幼稚園の時に湾内一周する船で船酔いした」
「ああ、それは深刻だ」
 

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ここ (34.5567N 178.6317W) での日食の状況は下記である(国立天文台サイトの計算結果)。
 
日本時刻(現地時刻) 食分
7:07(10:07) 0.000 部分食の始め
(7:00 パラオで金環食終了)
(7:03 留萌で部分食開始)
(8:10 パラオで部分食終了)
8:44:06(11:44:06) 0.997 金環食の始め
8:44:14(11:44:14) 0.998 食の最大
8:44:22(11:44:22) 0.997 金環食の終り
(8:47 朔)
(8:53 留萌で部分食終了)
10:25(13:25) 0.000 部分食終り
 
「あ、始まった」
 
先ほどと同様に、三日月のようになった太陽が、やがてカチューシャのような半円になり、その両端が伸びて、指輪(?)のような細い円になった。
 
「ここの金環食って指輪というよりビーズの首輪みたい」
 
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「あんたするどいね。ここで見る日食はギリギリで金環食になったから、月の表面の凸凹で光の輪が切れたりつながったりする。こういうのをベイリー・ビーズ (Baily's beads) というんだよ。そして全体がベイリービーズになる金環食を“かすり日食”(Grazing Eclipse)と言う」
 
(これがあと少し月が近く=大きくなると“ハイブリッド日食”になる)
 
「へー。珍しいの?」
「凄く珍しい」
などと言っている内に金環食は終わってしまった。
 
「あん。もう終わり?」
 
「この場所は月がいちばん大きく見える場所だったから、継続時間も短い」
「へー。どうして?」
と千里が訊くので、小学生女子に分かるかなあと思いながらもきーちゃんは原理を説明した。
 
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日食は月が太陽を隠す現象である。この時、宇宙空間で、太陽−月−地球上の観測者、が一直線に並んでいる。ここで月は地球の周りを楕円軌道を描いて回っているので、地球との距離も時間によって変動する。月が近くにあれば月は大きく見えるから太陽を大きく隠す。遠いと月は小さく見えるから太陽を小さく隠す。
 
きーちゃんはノートパソコンを取り出して、パラオとこのハワイ北西海域での見え方の違いを数値で説明した。
 
パラオ 月の距離38.4869万km 視角1862″継続時間54s
この地 月の距離38.0375万km 視角1884″継続時間16s
(太陽の視角は1890″)
 
月が小さい方が金環食の継続時間が長くなるというのは、ボール紙にコンパスで円を描き、それを切り抜いてから重ねて動かして説明した。

 
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「なるほどー!」
「だから金環食は中心点から外れた所で長時間見られる。でもこのビーズになるのを見られるのは中心点」
 
「それで両方見せてくれたのね」
「そうそう」
「ありがとう!」
 

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「次の日食はいつあるの?」
「12月4日に皆既食、来年の5月31日に金環食」
「次の金環食も見たいなあ。日本で見られる?」
「日本では見られない。グリーンランドとかアイスランドとかでしか見られない。人がわりと居る地域ならスコットランド北部で見られる」
 
「それって夜中?」
 
地球の裏側で日食が見られるなら日本は夜中かと思うのは筋がいいときーちゃんは思った。
 
「ううん。日本時間ではお昼頃だよ」
 
この金環食は北極圏で太陽の沈まない、つまり白夜になる地域(*5)を中心に見えるのである。スコットランドの例えば Culloden で見えるのは午前4:45くらいであるが、この日この地の日出は4:39なので、日出直後に見ることができる。この時日本は12:45である。
 
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(*5)白夜(midnight sun) になるのは概ね65.73N以北(*6)であり、日暮れが起きない=そのまま夜明けになるのが概ね59.58N以北。上述 Culloden (57.489N) はそのすぐ南である。この緯度の日出・日没の計算は難しく、一部のソフトでは白夜になると計算したり、日没はあるが日出は無い!?という不思議な計算をしてしまう。↑は国立天文台サイトの計算。
 
(*6) 白夜が起きるのは“経験上”65.73N以北だが、北極圏は66.56Nからである。これは日没とは太陽の上辺が地平線に隠れることなので、太陽視半径0.27度分南になるのに加えて、光の屈折作用で太陽が浮いて見える(大気差)ので合計0.83度ほどずれるため。現地の地形や気候にもよるので同じ緯度でも白夜になる所とならない所が生じる。更に年にもよる!つまり微妙な緯度の土地ではその年の気象条件により、白夜になる年とならない年があり、予測は困難である。
 
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「だったら、それも見たーい。きーちゃん、見せてくれない?」
「いいよ」
 
と、きーちゃんは答えたが、賀壽子がきーちゃんを咎めるような視線で見た。ああ、賀壽子さんにも、この子の寿命がもう数ヶ月しか残っていないこと、だから来年5月には生きていないことが分かったんだ?ときーちゃんは思った。
 
実際、きーちゃんが千里にこの金環食を見せたのは、これが千里が見られる最後の金環食になると思ったからである。
 
この約束は果たせない約束だけど、この子に「あんたはその時は生きていない」と言う訳にはいかない。代わりに今年12月の皆既日食も見せてあげよう、ときーちゃんは思うのであった。
 

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「貴子さん、来年5月16日の月食は“私がやります”から」
と賀壽子は言った。
 
「すみません。お願いします」
「まあ最後のご奉仕かな」
 
「来年5月には月食もあるの?」
と千里は訊いた。
 
「そうだよ、5月16日に皆既月食が起きて、5月31日には金環食が起きる」
「すごーい。連続だね」
「食の季節だからね」
「季節?」
 
「太陽の通り道・黄道(こうどう)と月の通り道・白道(はくどう)の交点(昇降点 Dragon Head/Tail)近くに太陽がある時に日食や月食は起きる。173日に1度の35日間。その時期を食の季節 (eclipse season) と言うんだよ」
 
「へー」
 
千里とはふと疑問を感じて尋ねた。
 
「金環食って太陽だけ?月の金環食?銀環食?って無いの?」
 
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確かに月食で起きたら金環食ではなく銀環食かも。
 
「それは無いんだよ。言葉で説明するのは難しいから、あとで絵に描いて説明してあげるよ」
「うん、よろしくー」
 

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千里が留萌に戻ったのは、ハワイ北西海での日食が部分食まで終わった後、10時半(日本時間)で、2時間目と3時間目の間の“中休み”の時間帯だった。
 
「千里、トイレ行こう」
と恵香が誘い、数人の女子でぞろぞろとトイレに行く。千里はどうして女子は連れだってトイレに行くのだろう?と疑問を感じていた。
 
女子トイレ名物の行列に並んでいて、佳美が唐突に言った。
 
「日食が、太陽と地球の間に月が入る現象ならさ、月食って、地球と月の間に太陽が入る現象だっけ?」
 
「地球と月の間に太陽が入ったら、地球も月も太陽に飲み込まれて地球滅亡するよ。月食は、太陽の光でできた地球の影が、月を隠す現象だよ」
と千里は言った。実はさっき同じ事をきーちゃんに訊いて笑われたのである。
 
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「太陽の直径は140万kmだから、地球と月の距離38万kmより遙かに大きいね」
と蓮菜は言いながら、千里を不思議そうに見ていた。
 

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「でも、千里も最近はわりと素直に女子トイレに来るようになったね」
と美那が言う。
 
「あれ?ここ女子トイレ?」
と千里は焦って訊く。実は、日食に感動していたので、なーんにも考えていなかったのである。
 
「私たちが男子トイレに入る訳が無い」
と玖美子。
 
「あ〜れ〜?」
 

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「だいたいスカート穿いてて男子トイレには入れないし」
と美那。
 
「嘘?なんで私スカート穿いてるの?」
と千里。
 
「ああ、今日は朝からスカートだなあと思ってた」
と恵香。
 
「あ〜れ〜?」
 
(実は千里の代理で学校に出ていた月夜(つーちゃん)がスカートを穿いて登校したので、千里は“中身だけ”入れ替わったことによりスカートを穿いている。月夜は千里が普通の女の子だと思っているのでスカートを穿いた。だいたい千里のタンスの中はスカートの方が多い。千里がスカートで登校しても母や玲羅は何も言わない。ちなみに今日は火曜日で父は出港中である)
 

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少女たちの星歌(7)

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