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■少女たちの星歌(6)

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その日、アキオの一家では早朝から、たくさんフライドチキンを作っていた。普段料理とかしないアキオも鶏肉を切ったり、粉をまぶしたり、また揚げ上がったチキンを紙の箱に詰めたりする作業に借り出されていた。
 
「だいぶ出来たな。ユズコ、ランコ、この分、売ってこい」
「はーい」
と言って、妹のユズコ(11)とランコ(9)がチキンの入った箱をお盆に載せ、箱のたくさん入った紙袋も持って、外に出て行く。
 
続けて姉のユリコ(15)、そしていちばん上の姉モモコ(17)まで出て行った。
 
下から順に出て行ったのは、調理にあまり役立たない!からである。
 
「だいぶできたぞ。売りに行ってくれ」
と父が言うが、子供はアキオ以外全員出て行っている。ユズコたちもまだ戻ってきていない。
 
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「娘4人とも出ていってるよ」
「仕方ない。アキオ、お前も売りに行ってこい」
「分かった」
 
「あ、これ着てね」
と言って母が出した服を見て、アキオは絶句する。
 
「これ着るの〜〜〜!?」
 

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2002年6月11日(火)には日食があった。
 
この日食は太平洋上では金環食 (Annular solar eclipse) になるのだが、日本では部分日食になる。留萌ではこのような状況であった。↓国立天文台のサイトより。
 
時刻 食分
7:03 0.000 食の始め
7:56 0.322 食の最大
8:53 0.000 食の終り
 
この日は千里たちの学校では日食を見るのに授業開始を9:00に繰り下げることになった。児童全員に日食観測グラスが配られ(商工会の好意)、太陽を見る時は必ずこのグラスを通して見るように言われた。
 
ところが・・・・
 

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曇である!
 
これでは全然見ることができないので、がっかりである。みんな
「ああ、日食見たかったなあ」
と言っていた。
 
結局、授業の繰り下げもキャンセルされ、通常通り授業が行われることになった。
 

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千里はキョロキョロした。
 
「千里ちゃん、ごぶさたー」
「あ、きーちゃん」
 
それは2年前の10月に千里が“ちょっと死んだ!?”時以来、何度か会っている天女の《きーちゃん》であった。
 
「そちらでは日食が見られないみたいだから、代わりにここで見せてあげようと思って」
ときーちゃんは言っている。
 
千里が東の空を見ると、まだ水平線から昇ったばかりという感じの太陽が少し欠けている。
 
「今回もまた“ふういん”するの?」
「今回は大丈夫だよ。純粋に日食を楽しもう」
「うん。ありがとう」
 
「そちらのおばさんは?」
と千里が訊く。
「あんた?私が見えるの?」
とそこにいた80歳くらいのお婆さんが驚くように言った。
 
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「この子には賀壽子さんが見えるみたいですね」
と、きーちゃんは楽しそうに言った(お互いに見えるというのは、両者の霊的なレベルが近いということ)。
 
「まあ簡単に紹介すると、こちらは留萌の駿馬、こちらは陸奥のおしら様」
と、きーちゃんは分かったような分からないような紹介をした。
 
「おはよう、可愛い巫女さん。おしら様なんて恐れ多いから私は賀壽子(かずこ)で」
「私は千里です。おはようございます。私、神社で時々巫女さんのバイトしてるんですけど、そんなことまで分かるんですか?」
 
「巫女には仕事上の巫女と生まれながらの巫女がいるけど、あなたは生まれながらの巫女だね」
と賀壽子さんは言った。千里は意味が分からなかった。
 
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千里はきーちゃんが黒い四角いリボンのような布を肩に付けていることに気付いた。
 
「その黒い布は何?」
「私が仕えていた黒木警視が亡くなったから、今、喪に服してるの」
「わあ、ご愁傷様です」
 
「2年くらい服喪したら、また誰かに付くことになると思うんだけどね」
「へー」
 
この時、きーちゃんは2年後にまさか千里に付くことになるとは思いも寄らなかった。
 

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「ここは・・・パラオ?」
と千里は訊いた。
 
「さすが千里だね。ここはパラオのカヤンゲル島だよ」
 
「人がいっぱい。大きな島なの?」
「ううん。普段は人口50人の小さな島だよ。面積は・・・千里が通っている小学校の敷地の倍くらいのサイズ」
 
カヤンゲル島(Kayangel islet)はカヤンゲル環礁(Kayangel atoll)の4つの小島(islet)の中で最も大きな島であり、唯一の有人島である。面積は98ha。つまり1km2より僅かに小さい。
 
「そんなに小さいんだ!」
「それがここで日食が見られるというので、日食を見る人が500人くらい押し寄せている」
「きゃー。よくそんなに入(はい)れたね」
「入島制限したけどね」
 
千里は考えた。
 
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「そんな厳しい制限しているのに私たち居ていいの?」
「私たちはここには居ないからいいんだよ」
ときーちゃんが言ったのに対して、千里は少し考えたが
 
「何となく分かった」
と答えた。賀壽子が頷いていた。
 
きーちゃんは千里と賀壽子に日食観察グラスを渡し、3人とも観察グラスで太陽を見ていた。
 

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太陽が少しずつ昇っていくが、食分は少しずつ大きくなっていく。↓はこの地Kayangel Islet (8.0865N 134.7188E) (*3)での日食の見え方である。
(国立天文台のデータ。時刻は日本時刻=パラオ時刻:パラオは日本と同じ時間帯。日出時刻はStargazerの値)
 
(5:47日出)
5:57 0.000 部分食の始め
6:20 0.380
6:40 0.699
6:58:41 0.985 金環食の始め
6:59:08 0.989 食の最大
6:59:35 0.985 金環食の終り
(7:03 留萌で部分食開始)
7:20 0.686
7:40 0.404
8:00 0.134
8:10 0.000 部分食の終り
(8:53 留萌で部分食終了)
 
(*3) islet (アイレット)とは小さな島のことである。英語だとサイズで Island > Islet > Skerry > Rock となる模様。明確な基準があるわけではないが、island:町サイズ以上 islet:工場や学校程度 skerry:邸宅程度 rock:小屋程度以下という感じか。環礁上に出来た島はだいたい islet と呼ばれることが多いようである。但し、珊瑚礁自体ではなく、その上に土や砂が堆積してできた島はキー(cay)と呼ばれる。
 
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なお島が円環状に並んでいるのは、環礁の他に外輪山である場合もある。隠岐の島前などが外輪山である。伊豆諸島(正確には豆南諸島)の須美寿島(すみすじま)とその近くの複数の小島・岩礁も外輪山の島。
 

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きーちゃんがしている腕時計(Baby-G)で6:58 とうとう金環食が始まる。
 
月が太陽を隠し、既に太陽は三日月のような形になっていたのだが、それが物凄く細くなって、半円状の細いカチューシャのようになったかと思ったら、そのカチューシャの端がぐぐぐいっと伸びて、両者がつながり完全な輪っかになってしまう。まるでブレスレットのようである。
 
「きれーい!」
と千里は声を挙げた。
 
周囲でも多数の歓声があがっている(彼らには千里たちの姿は見えない・・・はず)。
 
「これは天の指輪だね」
などと賀壽子が言っている。
 
「指輪かぁ。私もおとなになったら欲しいなあ」
「きっと誰かがプレゼントしてくれるよ」
 
千里はボーイフレンドの青沼晋治のことを考えたが、さすがに2人の関係をおとなになるまで維持するのは無理だろうなとも考えた。
 
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そんことを言ったり考えたりしている内に、天の指輪の一部が途切れ、金環食は終了する。あっという間に輪は短くなり、半円状になり、太陽は細い三日月のような形に戻った。但し三日月の向きはさっきまでと逆である。
 
周囲で溜息が多数漏れる。
 
約1分間の美しい天体ショーだった。
 

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「移動しようか?」
と、きーちゃんが言った時だった。誰かが千里の肩を叩く。
 
「はい?」
と言って振り向く。その瞬間、賀壽子が頭を抱えた。千里も「しまったぁ」と思う。
 
「Get your fried chicken!」
と小学生くらいの女の子(?)が千里に言った。
 
“女の子(?)”と思ったのは、千里が彼女の性別に違和感を覚えたからだが、あらためて観察して、女装の男の子だと分かった。10-11歳くらいかな。まだ女の子の服を着れば女に見えないこともない年齢。千里は急にこの子に親近感を覚えた。
 
「Can I pay by Japanese Yen?」
と訊いてみる。
 
「ニッポン・イェン、ダイジョブ。いちこ Hundred円」
 
たぶん日本語はわりと分かるが数詞が不確かなのだろう。いちこ→いっこ、という音便ができてないし。日本語の音便やフランス語のリエゾンは外国人には結構難しい。
 
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「Give me three」
と言って、千里は指を3本立てて彼女(彼?)に示した。そして財布から100円玉を3枚出して渡した。
 
「コチラニナリマス」
と言って女装の男の子はチキンの箱を3つ渡した。
「メスーラン」
と千里が言うと
「アリガトゴザイマシタ」
と男の娘は笑顔で言った。
 

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チキンを持たされて売りに出たアキオだが、既に妹たち・姉たちが売って回っているのもあり、なかなか売れない。何せ客は全部で500人くらいしかいない。客の人数に対して売り子が多すぎる気もした。アキオたち以外にも、サンドイッチとかフライドフィッシュを売っている子、ポップコーンを売っている子などもいる。みんな近所の子供たちばかりだ。アキオ以外にも女の子の服を着ている男の子がいて、お互い恥ずかしそうに笑った。
 
でも結構
「Oh! Beautiful Girl」
「Fille mignonne!」
などと言われて買ってもらえる。やはり、こういうのは女の子の格好するのが良いようだ。でも恥ずかしいよぉ!
 
それで何とか7割方売れて、あと少しと思った時、アキオは不思議な3人組を見た。妙に現実感が無いというか、幻か何かのようにも感じる。雰囲気は日本人か中国人のように思えた。お婆ちゃん、30歳くらいの女性、女の子。親子孫??取り敢えず、その中にいる女の子の肩をトントンしてみる。
 
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その女の子が振り返った。
「はい(日本語)?」あるいは「アイ(中国語)?」と声を出したように聞こえた。
 
「フライドチキンいかがですか」
と英語で言うと女の子は見透かすような目で自分を見て(ドキッとする。男とバレた?)から
「日本円でもいい?」
 
と英語で訊いた。アキオは日本語で「大丈夫」と答えたものの、日本語の数詞が怪しいので、日本語英語混じりで
「1個100円です」
と言った(ドルの客には1つ1ドル、ユーロの客には1ユーロで売っている)。
 
彼女は指を3本立てて「3つちょうだい」と英語で言い、百円玉を3個渡してくれたので、チキンを3箱渡す。
 
すると彼女はパラオ語で
「メスーラン(ありがとう)」
 
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と言ったので、アキオは
「アリガトゴザイマシタ」
と日本語で答えた(*4).
 
しかし次の瞬間、3人の姿はかき消すように消えた。
 
アキオ(*4)は目をゴシゴシしてから、不安になって、今もらったお金が消えてないか見たが、日本の100円玉3枚は消えてなかったので安心した。
 

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(*4) パラオは現在は独立国(但し防衛などはアメリカが代行)だが、日本が統治していた時代があったこともあり、親日国である(親米・親台湾)。
 
主要2島、コロール島とバベルダオブ島の間に架かる橋が1996年に崩落してしまい、同国経済と生活に大打撃が生じた(新宿区と千代田区が断絶したようなもの)。この時、日本はすぐ同国に支援を表明。まずは仮橋(浮橋形式)を設置して交通を仮復旧させている。更に本格的な橋を再建する資金が無い同国に代わって日本が資金提供。鹿島建設が橋を再建した。この橋は“日本・パラオ友好の橋”と呼ばれている。
 
パラオには日系人も多いし、結構日本語が通じる。日本語を公用語のひとつにしている地域もある。また、パラオでは、日系人でなくても、日本風の名前を子供につける人たちもあり、アキオたちの父はイチロウである。
 
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この日食を見に行った時の大統領はミクロネシア系のトーマス・レメンゲサウ・Jrだが、先代の大統領は日系人のクニオ・ナカムラであった。この国の初代大統領はハルオだし、第3代大統領はエイタロウである。
 

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少女たちの星歌(6)

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