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■少女たちの星歌(4)

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葬儀が終わり、お昼の仕出しも食べた後で、克子さんが言った。
 
「みんな折角根室に来たのなら、東の果てを見ていきなよ」
と言って、子供たちをバスに乗せ、大型免許を持っている春貴さんが運転して30分ほど走り“そこ”にやってきた。
 
「晴れたね。良かった」
と竜子さんが言う、
 
(克子さんは第三子・啓次の息子の妻、竜子さんは第二子・サクラの息子の妻。千里や玲羅は第五子・十四春の孫。今回亡くなった庄造が第四子。克子さんと竜子さんは仲が良い)
 
「わあ。見晴らしがいい」
「ここは“のしゃっぷ・みさき”でしたっけ?」
「それは稚内(わっかない)。根室のは納沙布(のさっぷ)岬」
 
この2つの名前は紛らわしいので、あとでバスに戻ってから春貴さんが紙に書いて説明してくれた。
 
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稚内の北:野寒布(のしゃっぷ)岬
根室の東:納沙布(のさっぷ)岬
 
漢字がまるで逆のようにも感じる。なお、納沙布岬は北海道本土の東端であるが、野寒布岬は北端ではない。北端はその隣の宗谷岬である。
 
「納沙布岬は、民間日本人が自由に到達できる範囲では日本の最東端」
と克子さんが説明する。
 

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「本当の東端は択捉(えとろふ)島の東の先だっけ?」
と冬代(春貴の妹)が尋ねるが
 
「択捉島の先っぽ・カモイワッカ岬は東経148°45′。ところがもっと東があるんだな」
と春貴は言う。
 
「千島列島の先?」
「択捉島の向こうの得撫(うるっぷ)島より先はロシア領だよ」
 
などと言っていたら、千里が
 
「南鳥島(みなみ・とりしま)ですよね」
と言うので、
「千里ちゃん、よく知ってるね!」
と春貴が言った。
 
「ああ、そちらか」
とみんな言う。
 
言われれば確かに東端かも知れないが、そこに考えが及ばないのである。南鳥島は自衛隊や気象庁の職員などのみ駐留していて一般人は立入禁止である。但し、近くに他に島がないことから、ごく希に民間旅客機が天候などにより緊急着陸する場合もある。
 
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こんな所に降りたら一般の人は『こんな所に降りるなんて運が悪い』と言うが、飛行機マニアは『ここに降りられるなんて超ラッキー☆』と思う。なお、日本の南端は沖ノ鳥島(20°25′N)である。南鳥島は24°17′N.
 
「南鳥島は東経154度くらいですよね?」
と千里。
 
「そうそう。正確には、153°59′12″なんだよ」
と春貴。
 
「でもよく知ってたね」
「父がそんな話をしてたから」
 
「さっすが、漁師の娘」
と聖絵などが言うので、千里は得意気だったが、玲羅や顕士郎は“娘”という言葉に少し悩んでいた。
 

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「あそこに見えてるのがエトロフ島ですか?」
と来里朱が尋ねるが
「目の前に大きく見えているのは水晶島。歯舞(はぼまい)群島のひとつ」
と克子さんが説明する。
 
「右側に見えるのが勇留(ゆり)島、秋勇留(あきゆり)島、アキは“弟”という意味。ユリ島の半分くらいだからね」
「そこに見える小さな島は?」
 
「あれは萌茂尻(もえもしり)島。もっとも“もしり”がアイヌ語で“島”という意味だから、本来の名前はモエ島だよね」
「若いヤング、フジヤマ・マウンテン、シティバンク銀行の類いだ」
「歯舞にはハルカリモシリ島という島もあるけど、長いから重語を外してハルカリ島とも言う」
「モエ島は短かったのかも」
 
「モエモシリの左側に傾いた灯台が見える?」
 
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この灯台は千里などには見えたが、見分けきれない子もあった。
 
「あの灯台が建ってるのが貝殻島(かいがらじま)。面積3坪の小さな島」
「狭い!」
 
「納沙布岬からいちばん近い島だよ」
「へー」
 
「戦争が終わった時は、納沙布岬と水晶島の中間線に境界を引いたから、あそこまで日本の領土だったのに、後からアメリカが、やはりここまでソ連のものと言って、ソ連側に組み込まれた」
「えー!?ずるーい!」
 
「いつか沖縄みたいに平和的な交渉で返してもらえるといいね」
と竜子は言っていた。
 
「あの灯台の傾いてるのどうにかならないんですか?」
「日本もロシアに、そちらが管理したいというなら、灯台をちゃんとメンテしてくれと言って、向こうもちゃんとすると返事はしてるんだけど、放置状態。最近は灯りも切れたままで困っている」
 
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「灯りくらいはちゃんと点けてほしいです」
「ね?」
「灯台が消えてたら危ないですよ」
「ぶつかりますよね」
 

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帰りのバスの中で竜子さんが
「納沙布岬と風蓮湖とどちらにしようかなと思ったんだけどね」
などと言っていた。
 
「湖があるんですか?」
「そそ。根室半島の付け根の所に、風蓮湖(ふうれんこ)、それに元は多分つながっていたんだろうけど、温根沼(おんねとう)という湖がある」
 
「あれ?オンネトーって、釧路の近くかと思ってた」
「釧路というか、足寄(あしょろ)町にもオンネトーってあるよね。アイヌの言葉で“大きな湖”という意味だから、実は元々は固有名詞ではない」
 
「大島って島があちこちにあるようなものですね」
 
「そうそう」
 
「北見市には温根湯という所があって、うっかり“おんねとう”と読みそうになるけど、ここは“おんねゆ”と読む」
 
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「読み方が難しい」
「ここは大きな温泉ということで、オンネユなのよね」
「ああ」
 
「でも温根湯(おんねゆ)って、ぼんやりしてると女湯(おんなゆ)と聞き間違えそう」
 
「男の人同士が『温根湯で会いましょう』と言ってたら、痴漢の相談かと」
「あるいはどちらも性転換して女湯に入れるようにしようという意味とか」
「それはユニークな解釈だ」
 

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竜子さんが地図をバスに付いているテレビのモニタに映して説明してくれた。
 
「風蓮湖は、オホーツク海が、砂州で切り取られた海跡湖。南西から突き出た“槍昔(やりむかし)半島、”、北東から延びた砂州の“走古丹(はしりこたん)”、それに対して東から延びた砂州島の春国岱(しゅんくにたい)で囲まれている。オホーツク海とは春国岱の北と南でつながっている」
 
竜子さんは地名をモニターに表示してくれたのだが、みんな
「漢字が読めない!」
と言っている。
 
「アイヌの言葉を強引に当て字したものだからねぇ」
 

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千里たちがホテルに戻ると、男組も少しは酔いが覚めていたものの、倫子さんから
 
「あんたら5月2日まで運転禁止」
 
などと言われていた。誰かがしっかり言っておかないと、その状態で帰りの車を運転しかねない。
 
車で来ている人の中にはその日の内に帰る人たちもあったが、千里たちはもう1泊してから、翌日帰ることになる。
 
父はさすがに飲み過ぎたのか、酔い潰れてホテルの部屋で眠っていた。玲羅が酒臭ーいと文句を言っていた。父が酔い潰れているので、千里は安心してこの夜もゆっくりとお風呂に入り、ぐっすりと眠った。
 
翌日(4月30日平日!)もまた1日掛けて留萌に戻った。
 
4/30 根室600-824釧路840-1031新得1132-1303富良野1308-1418旭川1510-1656留萌
 
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平日だが、この日休むことは、千里と玲羅の学校、母の職場には土曜の段階で連絡済みである。
 
朝御飯は根室のコンビニで買っておき、お昼はまた新得の売店で買った。夕飯は留萌駅近くのお店で買い、タクシーで帰宅した。
 

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この後、父は5月6日まで休みだが、千里・玲羅、それに津気子は明日は学校・仕事があるので、ひとりでビールを飲んでいる父を放置してすぐ寝た。母は
「こっちで寝せて」
と言って、ふだん千里と玲羅が寝ている奥の部屋に布団を敷いて居間との襖を閉め、熟睡していた。
 
いつもは奥の部屋は、千里の領域(窓側・南側)と玲羅の領域(内側・北側)との間にカーテンを引いているのだが、この日はそのカーテンを開けた状態で、千里と玲羅の布団の間に母の布団を敷いて寝ている。
 

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翌日は父がさすがに酔い潰れているのを放置して、朝早く千里が起きて御飯を炊き、朝御飯も作った。母は7時頃「ごめーん」と言って起きてきた。この日は千里が作ったお弁当を持って出かけて行った(ついでに自宅内の全ての酒類を会社に持っていった!)。
 
千里と玲羅も朝御飯を食べてから一緒に学校に出掛けた。寝ている父は当然放置である。武矢は津気子から1週間禁酒を宣告された。キャッシュカードを持たず、ATMの使い方が分からない武矢は津気子がいないと何も買物ができない。一応カップ麺やレトルトカレー、紅茶のペットボトルなどは置いている。
 
今年のゴールデンウィークは、4/27-29が三連休の後、4/30-5/02は平日で、5/3-6が四連休である(葬儀出席のため4/30を休んだが5/1-2の2日間は学校に出ていった)。しかし今回の根室往復でお金を使い果たしたので、この後は、お出かけ無しとなった。父は船の同僚に誘われて、近くの温泉などに行っていたようである(さすがにお酒は我慢したようだ)。玲羅は千里からお小遣いをもらってバスで町に出、図書館などに行っていた。
 
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後半4連休の初日5月3日には、地区の剣道大会があった。
 
千里はもちろん“女子選手として”個人戦のみに出場する予定であった。
 
1月の大会では「人数が足りないから」と言われて団体戦にも出たのだが、今回は新4年生が1人、入ってきているので、千里は
「私、ちょっと性別が不自由だから」
と言って逃げたのである。
 
「千里には男性器は存在せず女性器があるという確かな証拠があるのだけど」
 
と部長の玖美子は言うのだが、女子として出場することに後ろめたい気持ちを持つ千里があくまで逃げるので、玖美子も妥協して、千里抜きのオーダーで臨むつもりだった。
 

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ところが・・・
 
「え〜!?ノランちゃん休み〜?」
 
新4年生のイギリス人の女の子(国籍はイギリスだが、幼稚園の頃から日本に住んでいるので出場資格がある)が体調を崩してお休みらしい。
 
「頭数が足りないから千里出て」
「仕方ないね」
 
女子剣道部員は千里・ノランも入れて6人しか居ない。新4年生は男子は4人入ったのだが、女子は彼女だけだった。
 
「若林君に女装させて出す訳にもいかないし」
「男とバレたら処分くらうよ」
 
ということで、千里は前回同様(いちばん対戦機会が少ない)大将として登録された。
 
「千里の場合は、女とバレることはあっても男とバレることはないし」
などと玖美子は言っていた。
 
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参加校は1月の大会より少し多い10校で、1回戦(4校)→2回戦→準決勝→決勝という流れになる。千里たちの学校は抽籤の結果、1回戦からとなった。
 
初戦の相手は、あまり強くない所で先鋒・次鋒・中堅の5年生・如月・聖乃・真南が各々容易に2本取って勝ち、6年生の出る幕は無かった。
 
2回戦の相手は先鋒がかなり強かったが、最後は引き分けからジャンケン!で勝った。次鋒戦は負けたが、中堅戦・副将戦は楽勝で、千里は出なかった。どうもここは先鋒・次鋒が強く、後はそれほどでも無かったようである。
 
強い子を先に置く編成は多い。N小の場合は、できるだけ多くの子に対戦機会を与えるため5年生を先にしている。
 
準決勝は1月の大会で決勝戦で当たったJ小である。玖美子は
「事実上の決勝戦だ」
と言った。
 
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「私負けてもいい?」
「まあ大将戦までもつれこんだら仕方ない」
 
向こうの大将・木里さんは1月の大会で千里を負かしている。彼女は1月の大会の個人戦・準優勝者である。
 

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向こうも1月の時と編成が変わっている。
 
1月 大島・中原・前田・山田・木里
今回 沢口・大島・田・前田・木里
 
大島さんは前回玖美子に勝った人。前田さんもわりと強かった。木里さんは物凄く強い。
 
今回中堅に入っている田さんはとても背が高い。180cm近くある気がした。名前が「田」と一文字だし、中国人かな〜と思った。
 
如月は相手先鋒にかなり苦戦した。1本取られたが、その後1本取り返し、時間切れギリギリにもう1本取って逆転勝利した。
 
次鋒戦になる。相手の大島さんはカウンターを取るのがうまい人である。1月もそれで玖美子はやられてしまった。しかしこちらの次鋒・聖乃は腕力より気合やタイミングで勝負するタイプなので、こういう相手に強い。うまいフェイントでカウンターを空振りさせて、そこを突いて勝った。
 
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田さんが出てくる。「ティエンさん」と名前を呼ばれたので、やはり中国人っぽい。こちらの中堅の真南は相手の身長を見ただけで最初から気合負けしていて簡単に負けた。ここまでこちらの2勝1敗である。次の副将戦で玖美子が勝てば千里は出なくても済む。
 
玖美子が出ていく。向こうも副将・前田さんが出てくる。1月の大会で千里といい勝負をした人である。玖美子はかなり苦戦し、双方1本ずつ取ったまま時間切れとなる。延長戦でも決着つかず、判定も引き分けでジャンケンとなる。
 
ここで玖美子は負けた!
 
「ごめーん」
と玖美子が手を合わせて謝った。
 
2勝2敗となったので大将戦に決勝進出が掛かる。
 

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大将の木里さんが出てくる。こちらも千里が出ていく。千里は今大会で初めての出番である。木里さんは無茶苦茶気合が入っている。1月の大会でもかなりいい勝負をしているから、闘志満々という感じだ。千里は彼女には敬意を表してこちらも全力勝負をすることにした。
 
千里と木里さんは、最初から激しく打ち込み合いの勝負になった。しかしどちらも1本取れない。ふたりとも闘志あふれる戦い方をするので、とても見応えのある勝負になった。
 
試合は本割で決着が付かず、延長戦となるが、延長戦の終了間際、千里の小手が決まり、1本で千里が勝った。
 
向こうは悔しそうだったが千里に
「またやろう。次は私が勝つから」
と言っていた。
 
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決勝戦だが、やはり玖美子の言った通り、準決勝が事実上の決勝戦だったようである。5年生3人が向こうの先鋒・次鋒・中堅に勝ち、6年生が出る前に決着が付いた。
 
ということで今大会はN小が優勝したが、千里が出たのは準決勝での木里さんとの対戦のみであった。
 
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少女たちの星歌(4)

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