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■少女たちの星歌(5)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-11-13
 
午後から個人戦になるので、控室でお昼を食べる。控室は参加校が多いので、女子と男子に分けられ、各控室内で校名のプラカードを立てた付近に集まり各自用意してきたお弁当を食べていた(千里のは自分で作った)。
 
だいたい食べ終わった頃、運営の腕章を付けた女性が控室に入ってきた。プラカードを見てこちらにやってくる。
 
「N小学校の村山千里さんってどなたですか?」
「私ですが」
と千里が手を挙げて言うと、鈴木という名札を付けた運営の人は意外そうな顔をして
 
「つかぬことをお伺いしますが、あなた女子ですよね?」
と尋ねる。
 
あちゃ〜と思ったものの、ここは開き直るしかない。
「えっと私、男に見えます?」
「いえ、あなたが男子ではという声があったので。登録証見せて頂けます?」
「はい」
と言って、千里は剣道連盟の登録証を見せる。
 
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《村山千里・平成3年3月3日生・女》
 
と確かに書かれている。
「確かに女子よね」
 

その時玖美子が言った。
「疑いがあるなら裸にしてみればいいです」
 
「ああ、裸になりましょうか?」
と言って千里が服を脱ごうとしたので、
 
「待って。だったら医務室で」
 
ということになる。玖美子が付き添い、鈴木さんと一緒に医務室まで行った、
 
プライバシーに配慮して、鈴木さんは自分では千里の裸を見ないことにして、医務室に入っている女性看護師さんに千里の性別確認を依頼した。鈴木さんはカーテンの向こう側で待機する。
 
千里が服を全部脱ぐ。
 
千里がショーツにナプキンをつけているのに看護師さんが気付く。少し汚れている。
「あら、生理中?」
「3日目なんですよ」
と千里が言うとカーテンの向こうで鈴木さんは頷いていた。
 
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そして裸になった千里を見ると、むろん、お股には男のようなぶらさがる物は無く、ほのかな発毛の中に縦の割れ目がある。胸は微かに膨らんでいる。思春期が始まったばかりの女子にしか見えない。ボディラインは完璧に女の子のものである。
 
「女性体型ですね」
と看護師さん。
 
看護師さんは「念のため」と言って、ビニール手袋をして千里の胸とお股に触った。偽装でないことを確認したのだろう。
 
「普通に女性の身体ですよ」
と看護師さんは言った。
 
「分かりました。でもごめんね。裸にまでなってもらって」
と鈴木さんは言った。
 
千里は服を着るが、玖美子は何だか楽しそうにしていた。
 

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「千里(ちさと)は時々“せんり”さんと読まれて、男の子と間違えられることはあったね」
と玖美子は千里のヌードをしげしげと眺めながら言った。
 
「ああ、大江千里(おおえせんり)って男の歌手さんとかいるもんね」
と千里は服を着ながら言う。
 
「でも同じ字を書く大江千里(おおえのちさと)は奈良時代の女性歌人だよね」
と千里が付け加えると
 
「いや、大江千里(おおえのちさと)は男だし、奈良じゃなくて平安だ」
と玖美子が言う。
 
「え〜!?男だったの?」
「そうだけど」
「女の人だとばかり思ってた」
などと千里が言うので、鈴木さんも看護師さんも笑っていた。
 

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「ちなみに大江千里(おおえのちさと)は伊勢物語の主人公として有名な在原業平(ありわらのなりひら)の甥に当たる人だよ」
と玖美子。
 
(大江千里の父・大江音人は、在原行平・業平兄弟の兄であるという“説”がある)
 
「でも百人一首に入っている“月見れば千々に物こそ悲しけれ。わが身一つの秋にはあらねど”って、“我が身ひとつ”ではないというのは、お腹の中に赤ちゃんが居て、身ふたつの状態という意味じゃないの?」
と千里。
 
「そんな解釈は聞いたことない。“わが身一つの秋にはあらねど”というのは、自分だけに秋が来た訳ではない。全ての人に秋は来たのに、という意味だよ」
 
きちんと解釈できてるのがさすが優等生の玖美子である。
 
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「そうだったのか。じゃ用命天皇の女御(にょうご)で、この時妊娠していたのが、後の牟田天皇だというのは?」
 
「用明天皇は飛鳥時代の天皇だし、牟田天皇なんて天皇は聞いたことない」
「あれ〜?」
 

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千里と玖美子の大江千里論議?を楽しそうに聴いてから、鈴木さんは「午後からの個人戦、頑張ってね」と言って本部のほうに戻った。
 
その個人戦では、千里は1回戦不戦勝の後、2回戦・3回戦と勝った。実は相手が弱すぎて負けようが無かった!準々決勝で何とか相手に1本“取らせた”ので、これで負けられるかな?と思ったら、相手が竹刀を落としてしまった。
 
竹刀を落とすのは反則となる(ある意味ラグビーのノックオンに似ている)。剣道では、武士の魂である刀を落とすとは言語道断ということになっている。
 
仕方ないので、千里は相手に打ち込んで1本取る(攻める機会なのに攻めなかったら千里が注意される)。その後は、相手は動揺してしまって、勝負にならない感じだったので“仕方なく”もう1本取って千里が勝った。
 
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それで“不本意”に準決勝に進出したが、ここで当たったS小の井上さん(1月の大会の優勝者)は強かったので“不自然に見えないように”何とか負けることができた。
 
(玖美子が「また手抜きしてる」と言う)
 
もうひとつの準決勝は玖美子と木里さんで、玖美子は木里さんに負ける。決勝戦は木里さんが井上さんに勝って優勝(1月の大会の雪辱)。3位決定戦は玖美子が“手抜いたらお尻叩き100発”などと言うので、仕方なく真剣勝負して勝利。
 
そういう訳で今回千里は“不本意ながら”3位になって賞状をもらった。優勝の木里さんは、個人戦で千里と対戦できなかったのが残念と言っていた。
 
千里は昨年この大会で“うっかり”準優勝している。夏の大会でも3位だった。1月の大会では準々決勝で比較的強い人(最終3位になったM小の吉田さん)に当たったので何とかBEST8に留まれた!? 千里は腕力は無いし、剣道の技術自体もまだまだだが、本気を出すと気合が凄いので“うっかり”勝ってしまいがちである。更に千里自身はあまり意識していないが、ソフトボールの球威を付けるために走り込みをしているので、実は千里は剣道でも1月よりスピードアップしていた。
 
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個人戦が終わってから、表彰式があり、N小は団体優勝で、賞状をもらうとともに優勝盾を渡された。賞状を玖美子が、盾を千里が受け取った。個人戦でも千里は女子の部3位の賞状をもらった(盾を如月に持ってもらっておいて受取りに行った)。
 

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ゴールデンウィークが終わると、運動会に向けての練習がたくさんあった。千里たち6年は鼓笛隊の練習もあるし、千里を含めて女子はチアの練習もある。千里は昼休みに放課後にと、練習に明け暮れていた。
 
千里は留実子に
「運動会当日、お昼は、るみちゃんの分まで用意してるから、一緒に食べようね」
と言っておいた。
 
「ありがとう。助かる」
 
留実子の両親はお仕事の都合で日曜日も休めず、留実子は毎年お弁当代をもらって自分で何か買って食べてと言われていたが、ひとりで食べるのは寂しいよと千里は言い、お昼は一緒に食べようと誘っているのである。それで毎年千里の家で留実子の分までお弁当を作って持って行っていた。それにこちらは“女の子2人”であまり食べないから、食欲が男の子並みの留実子が食べてくれると助かるというのもあるのである。(お昼代はそのまま留実子がもらっておく!)
 
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今年の運動会は5月19日(日)である。
 
例によって父は
「月曜から漁に出るから日曜は寝てる」
と言ってお休みである。
 
海に出る人は、体調管理も仕事の内である。機関長が居眠りでもしたら全員の命に関わる。
 
それで父が来ないのをいいことに、千里は堂々と“女の子”するつりで学校に出て行った。
 

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徒競走(200m)では、千里のことを知らない先生がスタートの管理をしたお陰で千里は女子の組に組み込まれて、他の女子3人と一緒に走って、しっかりビリになる。ビリなので他の子たちから苦情は出ない!
 
なお、クラスが2つしか無いが、各々の組を2分割していて4組対抗になるようにしている。1組→赤組・青組、2組→白組・黄組。ここで“重要”なことは、千里も留実子も同じ青組に入れられているということである!
 
千里は徒競走で青組“女子”で走ってビリであったが、留実子は青組“男子”で走ってトップであった。だからこの2人は合わせてちょうど他の組と有利不利が出ないようになっている。
 
午前中の出し物“スプーン競争”では、男女が同じ人数になるように、一部の男子・女子が2度走るようにして調整している。留実子は“男子”として2度走るようになっていて、それでも留実子の活躍で青組が優勝したので、留実子は男子たちから「花和よくやった」とパンチされていた。
 
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「女の子の顔を殴っていいんだっけ?」
とさすがに恵香が心配していたが、蓮菜は
「男の子同士殴り合うのは普通」
と平然としていた。
 

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千里は、競技に出ない時は、体操服の上にチアのスカートを穿き、ボンボンを持って応援をしていた。正直チアで体力の大半を消費している気もした!?
 

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お昼休みには、留実子が千里一家のところに来て一緒にお弁当を食べる。千里の母は最近になってやっと留実子が女子であることに気付いたのだが、
 
「やはり“男の子”は頼もしいね。うちも1人は男の子が欲しかったわあ」
などと言って、留実子は嬉しそうだった。
 
「男の子欲しいなら、私が男になろうか?」
などと玲羅が言ってる。
 
「ああ、玲羅ちゃんは男でもやっていけそう」
と留実子が言うと
 
「もう私、訳が分からなくなって来る」
と母は嘆いていた。
 
「まあ性別なんて些細なことですよ」
と留実子。
「そうよね。気にしないことにしよう」
と母も言っていた。
 

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お昼休みは13:00までだが、6年生は“鼓笛の衣裳に着替えた上で”12:55までに入場ゲートに集合ということだったのだ、千里と留実子は12:40にはお弁当を食べていた場所を立ち、一緒に“女子の更衣室”に指定されている理科室に行く。
 
そして千里は女子の鼓笛隊の衣裳(飾りの付いた白い上着と膝丈のプリーツスカート)に着替え、留実子は男子の鼓笛隊の衣裳に着替える。留実子の衣裳は、あらかじめ女子の控室であるこの部屋に持って来ている。
 
千里はファイフの担当、留実子は大太鼓の担当である。
 
千里や留実子が着替えている時、他に多数の女子がいたが、誰も2人を気にする人はいなかった。もう慣れっこである!
 
それで入場ゲートに向かった。
 
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各パートごとに点呼して揃っていることを確認し、13:05くらいに鼓笛隊の行進が始まった。
 
『ヤングマン』(Y.M.C.A.)の演奏をしながら入場していく。
 
ドラムメジャーの川崎典子を先頭に、カラーガード、トランペットとメロフォン、シンバル、大太鼓、と続いた所でサブメジャー1。中太鼓、小太鼓、ベルリラの後、サブメジャー2。そしてピアニカ(男女半々)、リコーダー(男子)、ファイフ(女子)と続き、その後、ユーフォニウムとスーザフォンが並んで、最後のサブメジャー3という並びであった。最後のサブメジャー(広川佐奈恵)は隊列をまとめ、また隊列が後を向いた時は事実上のメイン指揮者となるので、ドラムメジャーの次に重要な役割である。
 
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留実子は大太鼓をしっかり打つし、千里は他の女子と一緒にファイフを吹いて行進していた。
 
隊列は校庭を半周して、本部前に整列する。
 
そして今度は『おどるポンポコリン』を演奏しながら、パートごとにいくつにも別れて、校庭に様々な模様を描く。練習がいちばん大変だった部分である。千里たちファイフのグループはここで偶然母が見ている前を通過したが、母はデジカメで写真を撮り。こちらに手を振っていた。
 
ああ。私、女の子でいいよね、と千里はあらためて思った。
 
最後は『明日があるさ』を演奏しながら、退場した。
 

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午後は各学年ごとのパフォーマンスがあった。1年生はよく分からないが、円形の大きな布を各組の児童と先生で持ち、様々な形を作っていた。
 
2年生は全員カラフルな傘を持ったパフォーマンスで様々な文字を校庭に描いていた。3年生はマスゲーム、4年生はフォークダンスと進み、5年生のソーラン節で運動会の興奮はピークに達する。
 
千里たちは鼓笛の衣裳から普通の体操服に戻る(例年適当にその付近で着替えていたが注意されたので、取り敢えず女子は更衣室に行くようになった)と、各組の席の前でチアの衣裳をつけてたくさん声援を送った。
 
ソーラン節の後、各組ごとの応援合戦がある。千里たち青組は赤組の次、2番目にパフォーマンスをした。留実子の大太鼓、上原君のトランペットの演奏も入る中、千里たちチアリーダー組が華麗なパフォーマンスをする。
 
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ボンボンを持って踊り、千里を含む数人が2人(千里の場合は蓮菜と恵香)の肩の上に乗ってそこから飛び降りるパフォーマンス、そして最後は、千里と5年生の美波ちゃんが双方バク転した後、倒立してお互いの足で支え合うというパフォーマンスを披露。これには物凄い拍手が起きていた。
 

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そして最後は学年縦断・組別対抗リレーが行われた。学年毎に距離が伸びていく。1-2年50m, 3-4年100m, 5年女子150m/男子200m, 6年女子200m/男子400m. 男女混合で各学年とも女子→男子とバトンが渡される。
 
この競技では青組アンカーの留実子が先行していた白組の男子走者を抜いて快走しトップでゴールした(留実子は男子として出場している!女子で走ったのは恵香)。
 
これで運動会は終了したが、今年は応援合戦で青組が1位だったこと、組別対抗リレーでも青組が勝ったのもあり、青組の総合優勝であった。
 

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少女たちの星歌(5)

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