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■娘たちの転換ライフ(7)

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その後、ずっと司会をしていた山坂さんが自分のヴァイオリンで『愛の喜び』を演奏する。その後、今度は千里が自分のフルートで通称『バッハのメヌエット』を演奏した(本当の作曲者はクリスティアン・ペツォールト)。その後余興のトリで、市民オーケストラの漆羽団長がヴァイオリンを持ち、団員の菱川さんのピアノ伴奏でチャイコフスキーの『アンダンテ・カンタービレ』を演奏した。
 
そして両親への花束贈呈となる。
 
千里がエレクトーンで瀧廉太郎の『花』を演奏する。美輪子と賢二さんが花束を持ち、双方の両親に花束を渡すと大きな拍手があった。ここは明るくやりたいから明るい曲でという美輪子のリクエストがあったので『花』にしたのである。当初はグノーの『アヴェ・マリア』を使おうかと思っていた。
 
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最後に新郎の会社の社長が音頭を取って締めの乾杯をして祝宴は終了する。
 
新郎新婦が千里の『威風堂々』演奏の中、退場する。新婦が投げた花束は発起人代表でもある菱川さんがキャッチした。彼女は実はこの夏に結婚式を挙げることが決まっている。
 
新郎新婦がドアの外に消えた後は、山坂さんがあらためて祝賀会が終わったことをアナウンスする。千里がパッヘルベルの『カノン』を演奏する中、来場者が退場した。
 

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千里は花嫁のサポートと着替えのため花嫁控室に向かう。愛子は先に花嫁控室に行っている。目の前を「同じ人物が2度通過」したのを見て、目をゴシゴシしたり、めがねを拭いたり、頭に手をやっている人たちがいた。
 
美輪子が脱いだ服は優芽子の手できれいにまとめられている。美輪子は白いゴシック系のワンピースに着替えている。玲羅が小物をまとめる手伝いをしている。
 
ここで千里と愛子はまたまたお揃いの花柄のワンピースに着替えた。
 
「私でも一瞬見間違えるよ」
と美輪子が言っていた。
 
賢二さんが美輪子を迎えに来るので送り出す。ふたりはタクシーで二次会会場のレストランに移動する。
 
千里は優芽子・愛子・玲羅と一緒に4人でホテル玄関に向かうがロビーのところで友人たちにつかまり
 
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「そのツーショット撮らせて〜」
と言われて、愛子と並んで写真に納まった。
 
「最初何度か目をごしごしした」
「2人いることに気づいたのは披露宴半分くらいまで行った頃」
などと言われた。
 
「双子だっけ?」
「従姉妹でーす」
 

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披露宴だけで帰る人で、車を神社に置いて来た人たちをバスで送って行ったのだが、そのバスが戻って来たところで、二次会に行く人が乗り込んで会場のレストランに移動した。このバスは今日1日貸し切りにしていて、二次会が終わった所で迎えにきてもらうことになっている。
 
千里は津気子が1人で座席に座っていたので声を掛けた。
 
「お父ちゃんどうしたの?」
「酔った気がするからホテルの部屋に入って寝てると言ってた」
「お父ちゃん、お酒好きな割に弱いもんね」
 
親戚関係では、津気子や美輪子の両親が高齢なので披露宴のあとそのままホテルの部屋に案内している。清彦一家は二次会は友人中心だし遠慮しておくと言っていた。吉子も赤ちゃん連れなので藤元さんと一緒にホテルに留まったので、二次会まで来た新婦側親族は優芽子・愛子、津気子・千里・玲羅である。
 
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「でもあんたのその格好がバレないかとひやひやしてた」
「大丈夫だよ。お父ちゃんは、過去に何度も私と愛子ちゃんの入れ替わりに気づかなかったもん」
と千里は笑顔で答えた。
 
「あんたたち、普段から一体何やらかしてるの?」
と津気子は顔をしかめて言った。
 

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二次会では父が居ないのをいいことに、千里は左手薬指にアクアマリンの指輪を付けたまま貴司と一緒に、美輪子や賢二の友人に挨拶したりしていた。
 
「そちらの結婚式はいつ?」
「私が大学出てからになるかもですー」
 
また2次会でも千里と愛子のツーショットをせがまれて随分写真に納まった。
 
市民オーケストラのメンバーが多数入っているので、その場で色々な曲が演奏され、即興の合奏なども随分発生していた。千里も何度もフルートを吹いた。
 

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翌3月15日(月)、貴司と一緒に旭川の市街地を散歩していたら、バッタリと天津子に遭遇するが、天津子は小さな女の子を連れている。
 
「こんにちはー」
「どもどもー」
「千里さんの彼氏ですか?」
「そそ。一応フィアンセの類い」
と千里が言うと、「うーん」と言って貴司を見て悩んでいる。
 
「凄いですね。完璧に千里さんが《私物化》してる」
「うふふ」
「千里さん以外とは結婚できない状態」
「だから私が責任取って結婚するのよ」
「なるほどー」
 
貴司は意味が分からず首をひねっている。
 
「そちらは天津子ちゃんの従妹か誰か?」
「私の娘です」
「え?」
「いや、ひょんなことで保護して、取り敢えず今は私が保護者。この子をどうしようかと思っているんですけどね」
 
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「何なら相談に乗ろうか?」
 
それで一緒に近くの和食の店に入るが、天津子は顔なじみのようである。個室に通された。
 

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「まああまり詳しい話は言えないんですけど、住所不定の親から預かったようなものなんですよ」
と天津子は言った。
 
「その両親って生きてるの?」
「生きてます。死ぬ筈はないと思う。けっこうあの人たちしぶといですよ、でもその親を今探し出してこの子を返しても、親たちに生活能力が無いんですよ。その状態で引き渡すのは、その人たちにも負荷になるし、この子も辛い思いするんじゃないかと思って」
 
「だったら、天津子ちゃん、お母さんの教会で預かってもらうとかは?」
「最初そのつもりだったんですよ。でも千里さん、この子、感じません?」
と言って天津子は謎を掛けるように言う。
 
「ああ。この子、かなりの霊感の持ち主だね」
「でしょ?だからあそこに連れて行くと、生き神様みたいにされそうで。私の後釜って感じにされかねない」
 
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「だったら、天津子ちゃんが下宿してる所の叔母さんに頼んでしばらく置いてもらうとか」
「実際、今取り敢えず置かせてもらってるんですけどね。そのまま預かっていていいものか」
 
「警察に届けるとかは?」
「それはしたくないんですよー。ちょっと色々事情があって」
 
千里はじっとその子を見ていた。
 
「この子、女の子だっけ?」
「だと思いますけど。一緒にお風呂入ったけど、ちんちん無かったし」
「君、名前何?」
「おりは」
とその子は答えた。
「何歳?」
 
その子は片手を広げる。5歳ということのようである。
 
「この子、私が知っている人と関わりがある気がする」
「ホントですか?」
 
千里は時計を見た。
 
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10:25である。足すと35だ。五十音で35番目の文字は「も」である。千里は自分の携帯のアドレス帳の「も」で始まる所を見る。
 
毛利五郎・桃川春美・森下誠美・森田雪子・森原光蔵
 
と並んでいる(森原は千葉L神社の禰宜)。千里は少し考えてから“おりは”と名乗る少女(?)の写真を自分の携帯で(天津子に)撮ってもらい、この5人全員!に写真を添付して
 
「この子を知りませんか?」
というメールを送った。
 
すると桃川春美から
 
「その子どこにいるんですか!?」
という電話が掛かってきた。
 
「知り合いですか?」
「私の姪の織羽です!1月以来行方不明だったんです!」
 
千里たちが旭川にいると言うと、桃川はすぐ出てくると言った。
 
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千里たちは美輪子のアパートで桃川と会うことにした。
 
美輪子たちはこの日朝から東京に飛び、既にフランクフルト行きの飛行機の中である。千里は祝賀会・二次会の来訪者名簿や着替え・小物などをアパートに置いて来てと頼まれていたので美輪子たちのアパートの鍵を持っていた。それをいいことに、そこに天津子や桃川たちを連れて行って、話をすることにしたのである。
 
「懐かしいなあ」
と言って貴司がアパートを見ていた。
 
「私たちたくさんここで愛し合ったからね」
と千里が言うと、天津子は不思議そうに言う。
 
「千里さん、バージンじゃないんですね?」
「バージンはこの彼に高校1年の時に捧げたよ」
「バージンじゃないのに、こんなパワーを維持しているって凄い」
「そういうものかなあ?」
「男を知ると同時に能力を失う人、多いですよ」
 
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「もしかしたら私と貴司って半分友達感覚だからかもね」
「ああ、そういうのはあるかも」
「それにこの貴司のお母さんも結構な凄い巫女さん」
「だったら、ふたりの間に生まれる女の子は凄まじいパワーの持ち主になるかも」
と天津子は言う。
 
「そうだね。そうなるかもね」
と千里は笑顔で答えた。
 
天津子は千里を普通の女性だと思っている。
 
「でも私たちの間に女の子が生まれる?」
と千里は天津子に訊き直した。
 
天津子はじっとふたりを見ていた。
「最初の子供は男の子。次の子供は女の子だと思う」
 
「すごーい。1人ずつってちょうどいいね」
と千里は答えるが貴司は首をひねっていた。
 

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祝賀会の引出物のバウムクーヘンを出し、勝手にお茶を入れて飲みながらおしゃべりをしていた。
 
「細川さん、千里さんが見込んだほどの選手なら、プロを目指すべきだと思う」
と天津子は言った。
 
「僕の実力で入れてくれるプロ球団は無いよ」
「実績が無くて売り込めない場合でも、bjなら行けるんじゃないんですか?」
「あちらに行っちゃうと色々面倒でね」
「JBAと近い内に和解しますよ」
と天津子は言った。
「ほんとに?」
「これ内部情報なんで、他人には言わないでください」
「うん」
 
「天津子ちゃんは色々裏情報を持っている」
と千里が笑いながら言う。
「千里さんは、誰も知らないはずの情報を持っている」
と天津子はまじめな顔で言う。
 
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「JBAと和解するならbjも考えられるんじゃない?」
と千里は言う。
「うん。でもどっちみち、もう今からの移籍は考えられない。来年かなあ」
と貴司は言った。
 

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桃川が美幌町から到着したのは15時頃であった。陽子も一緒とのことであった。交代ドライバー含みらしい。
 
旭川駅で落ち合うことにし、千里が美輪子のウィングロードで迎えに行って、千里の車の後を付いてきてと言ってアパートまで誘導した。
 
「この付近は、駐車違反の取締とかやってませんから、そのあたりに駐めておいてください」
「ありがとう」
 
念のためいざという時は車を動かすこともできる《こうちゃん》に車を見ててもらった。
 
桃川は先日大洗で見た女の子を連れていた。その子を連れてアパートに入ると桃川が連れていた子が
 
「おりちゃん!」
と言い、天津子が連れてきた女の子(?)が
 
「しーちゃん!」
と言った。
 
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「この子たち、姉妹なんですよ」
と桃川が説明した。
 

天津子は詳しいことは説明できないものの、訳あって30代の夫婦から織羽を預かったこと、その夫婦は生きてはいると思うが、どこにいるかは分からないと言った。
 
それに対して桃川は1月に網走で唐突に“しずか”を預かることになったこと、しずかは自分を《ママ》といって慕っていることを話した。
 
「しーちゃんのママなら、わたしのママかな」
と織羽が言う。
「うん。おりちゃんのママだよ」
としずかが言う。
 
「うーん。。。また私の子供が増えてしまった」
 
「お父ちゃんが『これが本当のママだよ』と言って写真見せてくれたんだもん」
としずかが初めて核心に触れるようなことを言った。
 
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桃川はドキッとした。しずかが父親のことを話したのは初めてである。しかし桃川は変に追求して口をつぐませてしまうより、しずかの警戒心が薄らぐのに任せた方がいいと判断して、敢えてこの発言には突っ込まなかった。
 
しかし・・・本当のママって何なんだ!?
 

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「でもそういう状況なら、桃川さんがこの子まで預かるのは無理ですよね?」
と天津子は言う。
 
「今でも牧場のみんなに負担を掛けているから2人はさすがにきつい」
「だったら、当面織羽ちゃんの方はうちの神社で預かりますよ」
「すみません!」
 
「姉妹を引き離すのは可哀相だけど、同じ北海道内だもん。会おうと思えばいつでも会えるし」
 
「そう考えることにしましょうか」
 
桃川は函館の美鈴にも連絡を取っていた。美鈴は理香子を連れて旭川まで出てくるということだった。
 
「到着は夕方になると思う」
「貴司は明日会社があるし、大阪に帰った方がいい」
「そうさせてもらう!」
 

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